著者
石丸 進 石村 真一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.1-10, 2004-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
25

本研究は,わが国の室内・家具と中国家具文化とのかかわりを,坐臥具を中心に比較・検証した。その結果,次のことが明らかとなった。(1)中国坐臥具の床(牀ともかく)は寝台であり,日本の「床の間」「床几」「床子」などの語源や形態に影響した。(2)「榻」は,日本の縁台や店棚形式の坐具と類似する。(3)中国北方の寝床「?」での起居様式は日本と同じ床坐であった。?で使用する「?卓」は、日本の「座卓」の原型であった。(4)?の起源は,古代中国の俎を原型とし,小?子は,日本の踏台や風呂腰掛けと同一構造・形態であった。(5)条?は,日本の床几と構造・形態で一致し,使用法も類似していた。
著者
松崎 元 大内 一雄 上原 勝 上野 義雪 井村 五郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.69-76, 1999-01-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
13
被引用文献数
4

つまみ・水栓金具・ふた等の操作具を前提とした円柱の回転操作において, 使用する指の状況が円柱の直径の変化によって, どのように推移するかを検討するため, 32名(19〜20歳の男性23名, 女性9名)の被験者で実験を行った。実験の方法は以下のようなものである。直径が7mm〜130mmの間で異なる木製の円柱(高さ50mm)を45本用意し, 無作為に選択された各円柱を, 順に台上の回転軸に差し込み, 右手で時計回りに回転させる。操作の状況は, 下方からビデオカメラで撮影し, 得られた画像から各指と円柱の接触状況を判断した。その結果, 回転操作開始時に使用する指の本数が変化する境界値を, 相対的に図示し把握することができた。また, 円柱の直径が増大するのに伴って, 各指の接触位置がどのように推移するかを二次曲線で近似でき, その傾向が明らかになった。この結果は, 回転操作機器の形状デザインに役立てることができる。
著者
柳橋 達郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_91-5_100, 2017-01-31 (Released:2017-03-10)
参考文献数
25

日本の地方自治制度の枠組みが構築されるとともに,「自治体紋章」という新しいグラフィックデザインのジャンルが誕生したのが明治時代である。本研究では,明治期から昭和期における日本の自治体紋章を,三つの期間に区分し,その変遷を造形的観点から捉え,考察を加えた。特に,仮名や漢字をモチーフに,文字を構成要素とする「文字型」図案をその対象とし,各時代の特徴的な造形方法を抽出した。第Ⅰ期(1889-1914)は自治体紋章の黎明期,第Ⅱ期(1915−1945)は都市における紋章の概念が浸透し,その様式が確立されていく時代であった。第Ⅲ期(1946−1992)では,昭和の大合併と相俟って,全国規模で大量の紋章制定が進められた結果,造形表現が定型化し,画一的なデザインが誕生することとなった。そうした自治体紋章図案の変遷を体系的にまとめた結果,紋章図案の骨格を担う造形モチーフが,時代とともに移り変わってきたことを確認した。各時代の「型」が存在し,自治体紋章は,時代性を備えたシンボルマークであったといえる。
著者
林 孝一 御園 秀一 渡邉 誠
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.2_9-2_16, 2014-09-30 (Released:2014-10-25)
参考文献数
8

戦後、国内の主なセダンの全幅は大きくは拡大の一途を辿り現在に至っている。唯一、道路運送車両法における「小型自動車」枠の寸法の影響が見られる。一方、1975年以降の燃費規制の影響は、全幅の燃費に及ぼす影響が小さいためほとんどなく、特定の車種での全幅と燃費性能の推移の比較もそれを裏付けている。この様に燃費への全幅の影響が少ないため、室内空間の拡大及び外形の安定感あるプロポーションの追及が重視され全幅は拡大し続けている。一方、全高/全幅の正背面でのプロポーションで見ると、サイドの全高/全長の値と同じ推移であった。即ち人がセダンとして受容し得る全高/全幅の値の範囲が0.81から0.87と考えられ、そこを中心に時代により多少上下し推移している。しかし全高/全長の様に高級車、小型車、大衆車と車格毎の固有値は存在しない。また競合上、全幅の拡大が抑止し難いことは原油高騰や環境問題への対応の必要性と相容れない矛盾である。現在のセダンと軽自動車のシェアの大きな差は、この様なセダンの更なる減少を示唆するものと推測する。
著者
田中 みなみ 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.33-40, 1993-07-25 (Released:2017-07-25)

平安時代から江戸時代にかけて描かれた絵画史料,絵巻物と屏風絵に登場する飲食器を対象として,その性状と用いられ方に着目しながら,歴史的変遷過程を観察・考察した。具体的には,絵画史料に登場する総計466件の飲食器について,(1)性状および使用状況による分類を行って量的データとして処理すること,ならびに,(2)個々の使用状況を観察し古文書の記述と合わせてその特性を考察することを行った。その結果多くの知見が得られたが,以下の3点は特筆すべき事項である。(1)高い高台を有する木椀の発生は器を手に保持して食する作法の確立に呼応しており,その時期は,およそ室町時代中期以降であると考えられる。(2)社会的階層の高低を問わず平安時代から江戸時代まで一貫してケとハレの生活の全面で広く利用されていた木椀は,いわば「飲食器を代表する生活のたの器」であったといえる。(3)「一器多用の器」として木椀が社会的身分を問わず長い時代にわたって使用されてきたのは,木椀が多様な用途に対して優れた対応力を有することを,その使用を通じ,人びとが広く認知してきたためと考えられる。
著者
李 志炯 崔 庭瑞 小山 慎一 日比野 治雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_101-5_108, 2017-01-31 (Released:2017-03-10)
参考文献数
18

文字の太さは人間の感情や態度などと関係がある。たとえば,文字を読む際に太さが変化しても文字の意味が伝わるのは同様であるが,受ける印象には差が生じる。そのため,正確なコミュニケーションの実現のためには文字の太さと印象の関係について検討する必要がある。そこで,本研究では明朝体,ゴシック体の2書体それぞれのひらがなとカタカナを対象に文字の太さ(レギュラー,セミ・ボールド,エクストラ・ボールド)による印象の変化についての検討を加えた。その結果,明朝体のひらがなの場合,レギュラーでは柔和性・高級感・女性的な印象などが,他の太さでは柔和性・重厚性・男性的な印象などが抽出された。一方,明朝体のカタカナ・ゴシック体のひらがなおよびカタカナの場合,レギュラーでは先鋭性・高級感・女性的な印象などが,他の太さでは先鋭性・重厚性・男性的な印象などが抽出された。これらの結果により,文字の太さごとの印象の特徴および文字の太さによる印象の変化が明らかになった。
著者
石村 眞一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.4_25-4_34, 2015-11-30 (Released:2016-04-15)
参考文献数
31

鋼管製カンチレバー構造の椅子は,ヨーロッパで1927 年に開発され,日本では1931 年あたりから国産製品が販売されている。ところが,使用実態を示す資料が少ないことから,本論では初期の使用実態を戦前期の映画に求め,その特徴を考察することを目的とした。調査の結果,次のことが明らかになった。①1932年あたりから東京の都心で使用され始めた初期の鋼管製カンチレバーの椅子は,映画には一切登場しない。②映画に初めて鋼管製カンチレバーの椅子が登場するのは1935 年で,1938年まで9作品の中に見られる。③鋼管製カンチレバーの椅子は,自宅で使用する場面と,商品の売り場,ホテルのラウンジ,ダンスホール,医院の待合室といったパブリックスペースで使用する場合とがある。④使用者の階層は特に富裕層とは限らず,ヨーロッパから発信されたモダニズムを,上手に日本社会へ取り込んでいる。鋼管製カンチレバーの椅子の使用を通して,日本の戦前期におけるモダニズムの一端を垣間見ることができる。
著者
河瀬 絢子 崔 庭瑞 泉澤 恵 日比野 治雄 小山 慎一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.6_37-6_46, 2017-03-31 (Released:2017-05-10)
参考文献数
24

近年,OTC医薬品の利用が促進されているが,消費者は外箱記載情報をあまり読んでいないことが指摘されている。本研究では,このような消費者行動に対する文化的影響の有無について検討するため,日本人消費者とアメリカ人消費者のOTC医薬品選択時の視線を比較した。日本人・アメリカ人被験者は,3種類の日本製およびアメリカ製OTC医薬品外箱の中から最も購入したいと思った1品をそれぞれ選択した。課題遂行中,「製品名」,「成分」,「使用上の注意」などの10の外箱記載項目に対する視点の停留時間が計測された。その結果,日本人被験者は「製品名」,「キャッチコピー」を長時間注視し,アメリカ人被験者は「成分」を長時間注視していた。したがって,日本人被験者はアメリカ人被験者よりも「成分」等のリスク情報をあまり読んでいない傾向がみられた。以上の結果から日本人・アメリカ人被験者間で注視方法の違いがみられた背景には文化的な影響があり,OTC医薬品選択時の行動傾向にも現れていることが示唆された。
著者
金 美英 李 志炯 崔 庭瑞 八馬 智 日比野 治雄 小山 慎一
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.79-86, 2012-07-31

景観評価に関する研究は評価される景観の特徴に焦点を当てたものが多く、評価者の心理に焦点を当てた研究はほとんど見られない。本研究では、工場景観愛好者と非愛好者の心理学的評価特性を印象評価および眼球運動実験を通じて比較した。印象評価実験では、工場・橋・歴史的建造物の景観において形容詞対を用いて評価した。眼球運動実験では、これらの景観を評価する際の眼球運動および瞳孔径を測定した。その結果、印象評価実験では、工場景観愛好者は非愛好者よりも多様な評価基準を用いて工場景観を評価していることが示唆された。また、工場景観愛好者では工場景観鑑賞時に垂直方向の眼球運動が活発に見られ、瞳孔径の拡大も認められた。以上の結果から、工場景観愛好者は工場景観鑑賞時に非愛好者よりも活発な情報収集を行い、多様な評価基準を用いて評価していることが明らかになった。工場景観に対する興味や愛着によって活発な情報収集と多様な評価基準による評価が引き起こされるとともに、これらの行為によって工場景観に対する愛着が促進されていると考えられる。
著者
吉岡 徹 市原 茂
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.111-116, 2002-05-31
参考文献数
6

本研究では,江戸時代から使われはじめたという「粋」という言葉の持つイメージが現代の若い女性にどのように受け継がれているのかを探るとともに,九鬼周造の粋理論が彼らにも適用できるのか否かを検討した。粋についての九鬼の考察は,彼自身の注意深い観察と感性から洞察された深い意味を持つものと考えられるが,彼自身の仮説を客観的に検討するということは,あまり行われてこなかった。そこで今回は,粋な柄の代表とされる縦縞模様のワンピースと浴衣を着たモデルに様々なポーズをとらせ、それを写真にしたものをコンピュータ画面上に提示し,SD法を用いて女子学生に評価させることにより,彼の理論を検討してみた。九鬼周造によれば,「粋」は,価値の優劣を表現すると共に,媚態をも表現しているということであったが,実験の結果は彼の理論を概ね支持するものであった。一方,外来語の中では一番「粋」に近い語であると思われた「シックな」は,「粋」よりは,「渋み」に近い意味としてとらえられていることがわかった。
著者
片山 めぐみ 柿山 浩一郎 張 浦華
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.105-112, 2011-11-30
被引用文献数
1

本研究は、動物園における歩行移動時の高揚感に影響を及ぼす経路の物理的要因について実験により検証し、高揚感の上昇に効果的な経路デザインについて考察することを目的とする。実験には、高揚感の上昇・下降に従ってボタンを押すと経過時間と共にデータが保存されるツールを開発した。実験経路には、動物の生息地を探検しているように環境がデザインされている動物園経路を採用し、歩行移動時の動画を被験者に提示した。実験終了後に高揚感が変化した理由について変化地点ごとに聞き取りを行った。実験結果として、視界を遮ったり暗くすることで先の空間に期待を抱かせ、さらにその先に何か発見や驚きがあることが高揚感の上昇に繋がることを読み取ることができた。このことから、展示空間までの経路を効果的にデザインするには、行く手を遮る要素(カーブや暗闇)などによって十分に期待を持たせ、その先に発見や驚きを与える要素(印象的な形態の樹木や岩、滝、光など)の設置をひとつのループとして経路上に配置していくことが効果的と考えられる。
著者
王 淑宜 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.3_41-3_50, 2017-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
46

本研究は,台湾新北市に位置する三峽地域における内発的地域づくりの方向性を導出するための調査・研究の一環である。本稿においては,当該地域における藍染産業の歴史を概観・整理するとともに,藍染産業が三峽地域の社会に及ぼした影響を考察することを目的とした。文献調査ならびに古老らへの聞き取り調査に基づき,以下の各点を明らかにした。(1)当該地域の藍染産業の基礎は,中国福建省などから台湾に移住して来た人びとが故郷から持ち込んだものであった。(2)当該地域の人びとが良質な藍澱や藍染製品を製造する独特の技法を生み出し,台湾全土の他,中国や日本などへ輸出するまでに興隆した。(3)三峽地域の藍染産業が最も盛んになったのは1890年から1920年頃であったが,その後,化学染料の台頭や社会の変容を要因として急速に衰退した。(4)三峽地域の藍染産業の形成には,「互助精神」「結市」などの当該地域の人びとの結束が大きな影響を与えた。今後の地域づくりにあっては,上述した歴史を踏まえ,地域の展開を志向していくことが望まれる。
著者
鈴木 伸英 工藤 芳彰 宮内 [サトシ]
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.31-40, 2001-03-31
参考文献数
14

本研究は、東京都府中市の大國魂神社の御先拂太鼓を対象として、その実体、保持・運搬用具、演奏方法、太鼓の役割等について検討した。その結果、以下の点が明らかとなった。御先拂太鼓が大型化した要因は、明治初期に祭礼の運営組織を府中四ヵ町に分けたことによって生じた、町内間の対抗心であった。その御先拂太鼓の存在意義は、祭礼の到来を知らせる実用的機能に加え、地域のシンボルであるという社会的役割、さらには音で神輿の道筋を払うという象徴的な機能にある。また、今日、御先拂太鼓が人々に受け入れられている理由として、次の諸要因をあげることができる。ソリッドの木材、麻縄といった伝統的な自然素材を用い、造形美を洗練させたこと。時代・社会の要請に応えて大型化・重量化した太鼓に対応するためにブレーキ付き台車、太鼓を台座から台車に載せ替えるためのクレーンの利用といった用具のシステムをそなえたこと。そうした前提の下で、音の大きさと単純さという根元的な太鼓の魅力を引き出す新しい演奏方法を確立させたことであった。
著者
呉 竹雅 青木 宏展 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.4_9-4_18, 2023-03-31 (Released:2023-03-30)
参考文献数
19

本研究は,明治時代における社会通念としての美術の形成過程を明らかにするために,計量テキスト分析を用い,新聞にみられる「美術」に関連した社会的出来事が,明治期の歴史的かつ社会的文脈でいかに当時の人びとに共有されたかについてそのプロセスを検証した。その結果,官製用語として誕生した「美術」に対する社会的認識の形成については,第一段階の明治10 年代までは実態,つまりものに重点を置き,第二段階の明治20~30年代においては価値観ないし価値体系を中心に,また第三段階の明治30 年代以降は概念,いわばジャンルを理解するといったプロセスで定着してきた。それは,エリート層を中心とする上流社会の人びとが概念からジャンルに,さらに価値観ないし価値体系という順序で「美術」を受け入れたのに対して,一般民衆はほぼ相反するプロセスに基づき美術を理解してきたといえる。また,明治政府が「美術」という概念を導入し,既存の絵画が「日本画」に統合されたことによって,日常生活における絵画の機能性・意味性は漸次に低下し,鑑賞対象となっていった。
著者
東南 裕美 安斎 勇樹
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.3_43-3_52, 2022-01-31 (Released:2022-02-05)
参考文献数
24

本研究の目的は, 三浦半島における事例研究を通じて, 観光まちづくりに有効なデザイン・ワークショップのモデルを提案することである. そこで, 一般的なデザインプロセスに基づいて「観光まちづくりにおけるデザイン・ワークショップの仮説モデル」を作成し,ワークショップを実施した. 一般的なデザインプロセスでは, 「ターゲット設定」が最初のステップになることが多い. しかし, 観光まちづくりの場合は,「地域の問題定義と資源の整理」というプロセスがターゲット設定に大きく影響する.観光まちづくりにデザイン・ワークショップを応用する際には, 「ターゲット設定」「地域の問題定義と資源の整理」「観光コンセプトの創造」を繰り返し, 最適な三位一体の関係を考えるという特徴的なプロセスをたどることが明らかになった. この特徴を踏まえて, 仮説モデルを一部修正し, 観光まちづくりに有効だと考えられるデザイン・ワークショップのモデルを提示した.
著者
田中 佐代子 小林 麻己人 三輪 佳宏
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.6_47-6_56, 2017-03-31 (Released:2017-05-10)
参考文献数
21

国内の研究者・技術者によるグラフデザインの実態を明らかにし、ビジュアルデザインの質を高めるための基礎的要件を抽出した。そのためアンケート調査を実施し209件分の回答を得た。その結果、多くがMicrosoft Excelを使用し(85%)、主に棒グラフ(75%)・折れ線グラフ(74%)・散布図(66%)をデザインしていた。グラフの主な利用媒体は、スライド(86%)、論文等の文書類(83%)で、専門性の高いグラフデザインが求められていると考えられた。そしてほとんどの研究者・技術者がグラフデザイン技術の向上は有益だと思っていたが(94%)、自身のグラフデザインに満足していないものも少なくなかった(41%)。また研究者・技術者は、わかりやすさ、学術的な正確さ、センス良く美しさが保証された、グラフデザインを学ぶためのWebサイト(67%)やガイドブック(62%)を望んでいることがわかった。特に大学生・大学院生を対象に向上技術を示すと効果的であることもわかった。
著者
青木 弘行 久保 光徳 鈴木 邁 後藤 忠俊 岡本 敦
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.96, pp.47-54, 1993-03-01
被引用文献数
1

エレクトリックギター用材料に適した新しい材料選択基準を求めるため、音色に強い影響を与えるヤング率、振動損失、密度、そして周波数スペクトル分布に代表される物理特性と、エレクトリックギターの音色としての「ふさわしさ」に対する評価尺度である感覚特性との相関関係について検討した。木材、プラスチック、金属に対する打撃振動、および振動音測定実験を行い、物理特性および音響特性の解析を行った。感覚特性は、これらの振動音の、エレクトリックギターに対する、相対的な「ふさわしさ」であるため、一対比較法を用いた官能評価実験により解析を行った。本研究によって解析された物理特性と感覚特性との関係を明確にするため、典型的な楽器用材料選択基準による評価を行うと同時に、これらの特性の相関式を、重回帰分析法に従って求め、エレクトリックギター用材料選択基準の検討を行った。これらの検討より、選択基準の説明因子である密度、特にその値の対数値とヤング率の影響が重要であることが明らかとなった。さらに、密度やヤング率を操作できる材料である繊維強化複合材料(GFRP、CFRP)の、エレクトリックギター用材料としての有効性について検討し、高剛性、低密度であるCFRPの利用可能性を確認した。
著者
柳橋 達郎
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_91-5_100, 2017

日本の地方自治制度の枠組みが構築されるとともに,「自治体紋章」という新しいグラフィックデザインのジャンルが誕生したのが明治時代である。本研究では,明治期から昭和期における日本の自治体紋章を,三つの期間に区分し,その変遷を造形的観点から捉え,考察を加えた。特に,仮名や漢字をモチーフに,文字を構成要素とする「文字型」図案をその対象とし,各時代の特徴的な造形方法を抽出した。第Ⅰ期(1889-1914)は自治体紋章の黎明期,第Ⅱ期(1915−1945)は都市における紋章の概念が浸透し,その様式が確立されていく時代であった。第Ⅲ期(1946−1992)では,昭和の大合併と相俟って,全国規模で大量の紋章制定が進められた結果,造形表現が定型化し,画一的なデザインが誕生することとなった。そうした自治体紋章図案の変遷を体系的にまとめた結果,紋章図案の骨格を担う造形モチーフが,時代とともに移り変わってきたことを確認した。各時代の「型」が存在し,自治体紋章は,時代性を備えたシンボルマークであったといえる。
著者
岡田 栄造 寺内 文雄 久保 光徳 青木 弘行
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.9-16, 2001-03-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
17
被引用文献数
3

本稿の目的は、明治時代半ばに学校用腰掛けの改善案のなかで提案された座面の昇降機構が、その後どのように展開し、結果、事務用椅子として普及したFK式回転昇降椅子が誕生した過程を明らかにすることにある。そのために、明治時代半ば以降昭和初期までに公示された椅子の昇降機構に関する工業所有権を調査し、FK式が生み出された詳しい経緯を考察した。最初にFK式の原案となった岩岡式以前の昇降機構の展開を調査し、次いで岩岡式の開発過程を、最後に寿商店によるFK式の開発経過を調査した。調査の結果、岩岡式が、それ以前に開発されていた7種類の昇降方式のうち「滑動式-単脚」の方式を参考に改善を進めたなかで生み出されたことが明らかとなった。そして、岩岡式において椅子の構造部材として鋳物が採用されたことが、金属加工業を椅子製造プロセスに介在させる必要を生じさせた点で、重要なポイントとなっていたことを指摘した。さらに、寿商店によるFK式の開発が、実際に金属加工業者の協力を得て進められたことを確認した。
著者
原田 利宣 吉本 富士市
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.77-84, 2004-05-31
被引用文献数
4

日本刀は,日本人における美の原点のひとつであり,デザイナーにとっても曲線美の基準である。しかし,日本刀の曲線の曲率半径を算出し,厳密に日本刀の曲線の性質を分析した研究例はほとんどない。そこで,本研究では,60振り(刀[太刀を含む]を45振り,短刀15振り)を用いて,日本刀の曲線の性質とはいかなるものであるか,またそれらの日本刀においてどのような共通点があるのかを調べた。具体的には,まず日本刀の写真をスキャニングし,その刃先の曲線を表す点列データを画像処理で抽出した。次に,それらの点列データから曲線を創成し,筆者らの提案した曲線の性質の定量化手法によって分析を行った。その分析結果を基に,それら曲線に共通する特徴や相違点の考察を行った。その結果,太刀,刀における曲線を5つのタイプに,短刀を2つのタイプに分類することができた。また,各タイプの曲線における特徴を明らかにすることができた。加えて,それらの曲線の工業デザインヘの応用を提案した。