- 著者
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植村 円香
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
- 巻号頁・発行日
- vol.84, no.3, pp.242-257, 2011-05-01 (Released:2015-09-28)
- 参考文献数
- 12
本稿では,生産者の高齢化が進んでいる東京都利島村のツバキ実生産を事例に,世代による経営形態の違いと,高齢者の生計維持における意義を検討した.ツバキ実生産は,粗放的で長期収穫が可能なので,高齢者でも生産しやすく,年間100万円程度の販売収入を得ることができる.しかし,若年者にとっては,ツバキ実生産のみで生計を維持することは難しく,ツバキ実生産への参入はみられない.このように経営形態が,世代によって異なることに注目し,農業者をコーホートに分けて比較分析を行った.その結果,ツバキ実生産は,高齢者によって長期的に維持されていること,高齢者の中でも上の世代ほど経営規模が大きく,より多くの収入を得て,安定した生計維持ができていることが判明した.しかし,世代間での農業資源の偏在を前提にすると,利島におけるツバキ実生産の維持には,世代間でどのようにツバキ林を受け継ぎ,ツバキ実の生産を調整していくかが課題となる.