著者
神田 兵庫 磯田 弦 中谷 友樹
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.91-106, 2020
被引用文献数
4

<p> 本稿では,1980年から2015年における市町村別人口および1kmメッシュ人口から,日本の大都市雇用圏がこれまでに経験した都市構造の変遷を把握した。その結果,日本の都市圏の多くは,クラッセンの都市サイクルモデルの想定とは異なり,いわゆる人口が増加した都市化や郊外化の段階を経験した後,都市圏全体として人口が減少する局面を迎えると,中心部の人口の割合が相対的に上昇する集中化(中心化)傾向を示すことが明らかとなった。また,人口減少局面においては,都市構造の遷移は小規模な都市圏の傾向を中規模以上の都市圏が追随する傾向にある。</p>
著者
米地 文夫
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.104-112, 2017 (Released:2017-08-12)
参考文献数
22
著者
堀本 雅章
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-16, 2018 (Released:2018-09-15)
参考文献数
14

沖縄県竹富町鳩間島は,西表島の北へ位置する人口約50人の島である。鳩間島では何度か,過疎化による廃校の危機に陥った。しかし,島外から子どもを受け入れ学校を維持してきた。その後,交通網の整備,民宿の増加,食堂の開業など受け入れ態勢が整い,観光客が急増した。研究目的は,鳩間島の今後の望ましい観光客数や観光客の増加による変化など,観光に対する住民意識を考察することである。調査の結果,ほとんどの住民は観光客の増加または現状維持を望み,その理由は,「活気づく」,「経済効果」などである。一方,ゴミ問題や一部の観光客のマナーなどによる環境の悪化などの回答もみられた。「鳩間島の観光名所,魅力」については,最も多い回答は海で,何もないところ,のんびりできるなどの回答も多い。
著者
大矢 雅彦 松田 明浩
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.139-150, 2002-08-26 (Released:2010-04-30)
参考文献数
6

カガヤン川流域はフィリピン最大の平野であるにもかかわらず, 激しい洪水のため持続的開発が進まず, 国全体からみても経済開発の立ち遅れた地域となっている。筆者らは洪水対策の基礎資料となる, カガヤン川中流部の水害地形分類図を作成した。その結果, 調査地域には, 熱帯特有の環境によって形成されたと考えられる高位沖積面と低位沖積面が分布している事が判明した。主な集落は自然堤防, 高位沖積面上にある。水害地形分類図から, 上流側の地域IIIでは網状流がみられ, 拡散型洪水を繰り返したことがわかる。中核都市ツゲガラオ市付近の地域IIでは, 連続性のよい大規模な自然堤防および高位沖積面がみられ, 下流部ほど蛇行は著しくない。氾濫範囲がほぼ一定の洪水が流下していたと考えられる。北部の狭窄部に近い下流側の地域Iでは河川が蛇行を繰り返し, 大きく湾曲した旧河道や三日月湖が分布する。洪水の型は, 河岸侵食が著しい集中型である。カガヤン川中流部では, 堤防などの治水施設は皆無に等しい。その治水計画は全面的に日本に任されており, 現在ハード面とソフト面の治水案が立てられつつある。本図はその基本図として, 様々な場面で有効に活用できる。
著者
安藤 一男 方違 重治
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.231-246, 1997-12-01 (Released:2010-04-30)
参考文献数
21
被引用文献数
6 8

ボーリングコアの珪藻分析, 14C年代測定および柱状図の解析結果に基づいて, 荒川低地上流域の古環境変遷を復元し, 縄文海進期の内湾最拡大期における海岸線付近の地形環境について検討した。本地域において最終氷期最盛期頃, 埋没立川段丘面を切り込んで谷幅2.5~3.5kmの埋没谷が形成され, その後, BGを基底として淡水成堆積物の形成が進行した。8,600y. B. P. を過ぎる頃から, 当地域は内湾化し海岸線が最も奥部に達したのは8,300y. B. P. 頃である。しぼらくこの状態が続いた後, 徐々に内湾の埋積が進み, 6,300~5,500y. B. P. 頃には当地域の陸化は完了した。珪藻遺骸群集に基づいて求められた内湾最拡大期の海岸線は, 荒川低地左岸の大宮台地側では台地に刻まれた支谷へ深く入り込んで位置していたのに対し, 右岸の武蔵野台地側では, 流入する入間川, 小畔川, 越辺川の影響により淡水域が広く分布することにより海岸線は低地中央付近に位置していた。このことは大宮台地の平方貝塚群がヤマトシジミ, カキ, ハイガイ, ハマグリを産出するのに対し, 武蔵野台地の小仙波貝塚は主淡であることとも調和的である。
著者
横尾 実
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.119-134, 1995-06-15 (Released:2010-04-30)
参考文献数
58
被引用文献数
2

近代工業が発達する以前の八戸における土地利用パターンの形成過程を明らかにし, その要因を考察する。1930年代半ばの時点で, 江戸時代に起源を持つ旧城下八戸, それと隣接する港町の小中野, 湊, 白銀および鮫では, 街道や港を中心に商店街, 商工混合地区と住宅地区が形成され, 細長い連担市街地が出現した。経済的側面では, 19世紀末以後鉄道が開通し, 港の復興と修築が進行するとともに, 1920年代には漁獲量, 魚粕生産量が増大し, セメント生産と鉱石輸送も加わって産業発展の胎動期に入った。後段では漁業, 工業, 駅そして港を取り上げ, それらが八戸の土地利用パターン形成に対して果たした役割を検討する。
著者
田中 健作
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.67-84, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
29
被引用文献数
3 4

本研究では,広島県北広島町大朝地区におけるデマンド型交通(DRT)のサービス供給方式と運営関係者の組織化過程を検討した。国や広島県の地域公共交通政策が変更される中,北広島町は,町村合併に伴う公共交通再編成を進め,DRTを導入した。北広島町大朝地区の場合は,多様なアクターがDRTの運営に関与し,利用特典を独自に設定したり,車両を積極的に利活用したりすることで経営基盤を強化させていた。こうした特徴を持つ大朝地区のDRTの運営関係者の組織化過程を考察すると,町は交通事業者側の経営自由度を高め,その下で大朝地区の交通事業者は,独自の運営方式を可能とする緩やかなネットワークを既往の地域的な諸関係を基にして構築していたことが判明した。そこでは,キーパーソンとなる交通事業者のH氏が,利用者の視点からサービスが向上されるよう,運行を支援する地区内の各事業者を位置付けていた。一方の運行を支援する各事業者も自らの活動のツールとしてDRTを位置付けた。これらの結果,交通経営と各アクターの事業の運営の双方にメリットが生み出されるようなサービス供給体制が構築されていた。
著者
手代木 功基 藤岡 悠一郎 飯田 義彦
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.100-114, 2016 (Released:2016-09-15)
参考文献数
36
被引用文献数
1

トチノミ食文化に関する研究では,これまでトチノミの加工技術やトチノミ加工食品の地域的な差異が明らかにされてきた。一方で,トチノミ加工食品は都市住民も含めた観光客の需要に応えるなかで商品化が進み,自家消費を中心とした利用形態から変容している。本稿では,地域の特産品などを販売し,全国の山間地域に数多く分布する道の駅に注目し,トチノミ食の地域的な分布状況を明らかにした。道の駅販売所への電話調査およびアンケート調査の結果,従来から全国的に利用が知られるトチモチが広範囲で販売されていることが明らかとなった。また,トチノミセンベイやトチノミカリントウ,トチノミアメといった多様な商品が販売されていた。生産者に注目すると,トチモチが個人や組合による生産が多い一方,他の製品は企業による販売が多い傾向がみられた。そして,トチノミ加工食品はトチノミ食文化が根付いていた地域で販売される傾向があったが,食文化が根付いていない地域においても販売されていた。
著者
小木 亜紀子 菊地 真 古谷 尊彦
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.103-113, 1999-06-15 (Released:2010-04-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

北海道のアイヌ語地名について, 自然地理的分類を行い, 地名に表現される自然環境と, アイヌの人々との関わり合いについて考察することを目的とした。地名は, 崖・絶壁・崩壊に関する地名, 河川・澤の地名, 湿地・平地に関する地名, それらの修飾語である。これらの地名は約2,900ほどであり, そのうち河川・澤の地名は約2,300と総数の大半を占める。河川の地名分布は, 知床から室蘭にかけての海岸沿いの地域でpet地名が多く見られ, これは千島からの言葉の影響と考えられる。道北ではnay地名の多い地域があるが, 樺太からの影響として見るまでには至らない。渡島半島では, pet, nay地名があまり見られず, 本州からの大和言葉の影響と思われる。また十勝川, 天塩川における地名分布の事例は, pet, nay地名の多様なあり方を示している。抽出した全ての地名は, 語幹と修飾語に分けられ, 語幹は共通した環境を表し, それに特徴的な修飾語が組み合わされることによって, 地点地名表示となっている。これらは, アイヌの人々の自然と深く関わったライフスタイルを色濃く反映したものと考えられ, 北海道のアイヌ語地名と自然環境の関係について, より一層明らかにする必要がある。
著者
藤木 利之 守田 益宗 三好 教夫
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.189-200, 1998-08-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
19
被引用文献数
3 5

岡山県日生町にある頭島で採取された44mボーリングコアの花粉分析を行った。このコアは粘土・砂質粘土・砂・礫・腐植土・火山灰から成る。2,368-2,360cmで21,100±400yrB. P. という14C年代測定結果が得られ, 1,900-1,890cmでアカホヤ火山灰, 2,540-2,360cmで姶良火山灰が確認されている。分析の結果, 9花粉帯と2無化石帯が認められた。サルスベリ属の花粉が出現する層を温暖期, 化石花粉の出現しない層は寒冷期と考えると, このコアは4回の温暖期 (KS-9, 8, 6, 4-1) と3回の寒冷期 (KS-7, 5, BZ-2, 1) に堆積したものである。KS-4~1は後氷期である。
著者
新沼 星織 宮澤 仁
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.214-226, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2 4

本稿は,2011年の東日本大震災による医療機関への津波被害について,① その地域的特徴を分析し,② 被災患者の内陸部医療機関への搬送状況を検討した。① では,岩手県と宮城県を対象に分析した結果,診療所は中心市街地を沿岸部に形成する岩手県三陸南部地域から宮城県仙台湾地域の北部にかけて浸水率が高く,病院は大規模県立病院の高台立地傾向が強い岩手県より,小規模な市町立病院と民間病院を沿岸部に構える宮城県で浸水率が高いことが明らかとなった。そして ② では,医療機関の浸水率が高かった宮城県南三陸町に注目した調査の結果,隣接する登米市内の医療機関へは,外来診療患者は相当数搬送されていたものの,入院患者の搬送は,病床不足のため限定的であったことがわかった。このことは,平時より縮減体制にある医療システムは,災害時の脆弱性を増大させる可能性を示唆している。
著者
片柳 勉
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.107-125, 1994-07-15 (Released:2010-04-30)
参考文献数
26
被引用文献数
2 2

本稿では, 東京都足立区を対象に, 旧都市計画法の制定時 (1919年) から現在に至るまでの都市化の過程と用途地域の変遷を比較検討した。足立区は, 第2次大戦以前に市街化を完了した地域と, 大戦以後に急速に市街化した地域とに大きく二分できる。大戦前に市街化した地域では, 住工混在地域が広く見られるが, これは当時の用途地域 (特に工業地域) の土地利用規制が極めて寛容であったため, 結果的に住工混在地域を拡大したことによる。また近年, 住工混在地域では工場の移転跡地に住宅団地や公共施設が次々と建設されてきたが,準工業地域に代表される土地利用の用途が明確でない用途地域に変更されてきたため, 新たな土地利用の混在がみられる。一方, 戦後になって市街化した地域では, 急速な都市化の過程において実際の土地利用と用途地域との間で乖離が認められたが, 土地区画整理事業の実施に伴って用途地域が変更され, 土地利用と用途地域の目指す方向とが一致した。しかし, 実際は宅地化の一向に進まない土地が残るなど, 土地利用の混乱もみられる。
著者
中〓 由佳里
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.129-145, 2004-09-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

環境はその地域の文化に直接的, 間接的な影響を及ぼし, 同時に生業の成立を決定する重要な要因となる。単一の生業では生存し得ない環境条件の厳しい地域では, 住民は複数の生業を組み合わせることによって不足分を補い, 独自の複合的な生業を形成させ継承してきた。また, 生業と地域の文化とは相互に影響し合いながら成立している。この生業と文化の関わりを基盤として住民の空聞認識が形成される。住民とは, 生活空間を日常の活動範囲によって理解し, 区分し, 意識的に土地分類を行い, 土地分類に従った空間認識を作り上げるものであると考える。本論文では, 東京都奥多摩町日原を事例として,「ブラク」「ミノト」「サワ」「ウエノヤマ」「ムコウヤマ」という土地分類呼称に表れる住民の空間認識を, 複合化された生業と年中行事や自然崇拝などの地域の文化との関係において模式化した。この模式化の汎用性については, 今後海外を含めた諸地域での認証を必要としよう。
著者
岩鼻 通明
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.46-48, 1995-03-15 (Released:2010-04-30)
参考文献数
2
著者
門村 浩
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.287-295, 1998
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

サハラ南縁地帯をはじめ, 世界の発展途上乾燥地域における人類生存を脅かしてきた「砂漠化」と干ばつ影響に対する, 国際協力による対応活動は, 新たな局面を迎えている。コミュニティ・レベルの, 住民参加とNGOの支援を基調とする, 総合的・持続的発展計画の一環としての「砂漠化」対策の推進を目的とする『国連砂漠化対処条約』が発効 (1996年12月) したからである。この新たな対応戦略に対し, 我が国が実質的な貢献をなすために必要とされる前提条件を示し, 当面, 重点的に取り組むべき課題として, 現場レベルのモニタリングと評価, 社会経済的側面の重視, NGOとCBOの活動支援強化, 地域特性への配慮, プロジェクトの調整と重複の排除, 対処能力の向上と技術移転, 気候変動予測と食糧安全保障, 専門家の養成などの問題を取り上げて議論した。また, これらに対する地理学からの積極的なコミットを期待した。
著者
遠藤 匡俊
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.85-106, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
48

定住性が高い狩猟採集社会である1864∼1869(元治元∼明治2)年の東蝦夷地三石場所のアイヌ集落を対象として,定住性の程度と集落の血縁率の関係を分析した。その結果,「集落の存続期間が長くなると血縁率は低くなる」という傾向はとくに認められなかった。また「家の同一集落内滞在期間が長くなると血縁率は低くなる」という傾向もとくに認められなかった。集団の空間的流動性の程度と集落の血縁率の関係を分析した結果,分裂・結合の流動性の程度と集落の血縁率の間にもとくに関係はなかった。これは集団の空間的流動性が,移動する家のみで形成されるのではなく,集落内に定住する家と移動する家の組み合わせで生じており,集団の空間的流動性には血縁共住機能があり集落の血縁率が維持されているためと考えられる。集落の血縁率の変動率(絶対値)は平均24.9%と大きく,その変動は主に集団の空間的流動性に起因していた。多くの場合に集落の血縁率は50%以上に保たれており,血縁率は平均73.6%である。この結果は,三石場所のアイヌ集落においては,移動性(あるいは定住性)の程度に関わりなく,集団の空間的流動性によって集落の血縁率は低下しない可能性,つまり国家という枠組みのなかに組み込まれながらも「血縁から地縁へ」という変化は生じない可能性があることを示唆する。
著者
林 秀司
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.126-138, 1998-06-15 (Released:2010-04-30)
参考文献数
11
被引用文献数
2

近年育成されたいくつかの水稲うるち米の良食味品種の普及を, GISソフトの Arc/Info を使って作成した作付比率の分布図を用いて, 地域的普及の視点から明らかにした。多くの品種の普及地域は育成道府県に限定されているが, あきたこまち, キヌヒカリ, ヒノヒカリ, ひとめぼれは比較的広範囲に普及した。あきたこまち, ヒノヒカリ, ひとめぼれには育成県とその周辺で高い普及率を示す距離減衰的な普及パターンを示すと同時に, 飛地的な普及パターンが認められた。一方, キヌヒカリは明確な普及の中心がみられず, 分散的に普及した。このような水稲品種の普及には, 奨励品種の指定等の政策的要因が影響していることが考えられる。
著者
杉浦 直 SUGIURA Tadashi
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-23, 2007-01-01 (Released:2016-05-18)

本論文は,カリフォルニア州サンフランシスコのジャパンタウン(日本町)における都市再開発事業の進展を,そこに絡む活動主体(アクター)の動きと相互の関係に焦点をあてて分析し,当該再開発の構造とエスニック都市空間の建造環境の変容におけるその役割を考察したものである。日本町が位置するサンフランシスコのウェスターン・アディッション地区は,第二次世界大戦の後,建造環境が荒廃し都市再開発の対象となった。実際の再開発はA-1プロジェクトとA-2プロジェクトに分かれる。A-1プロジェクトにおいてはサンフランシスコ再開発公社(SFRA)の強い指導の下に経済活性化優先のスラムクリアランス型の再開発が行われ,日本町域では近鉄アメリカなどによる大型商業施設(ジャパンセンター)の開発が行われた。A-2プロジェクトは少し性格を異にし,コミュニティ・グループの参与の下に再開発が企画・実施され,日本町域では日系ビジネス経営者を中心に構成された日本町コミュニティ開発会社(NCDC)による「4ブロック日本町」再開発が行われたほか,日系アメリカ人宗教連盟(JARF)による中低所得者向きの住宅も開発された。なお,プロジェクトの初期において草の根的コミュニティ・グループ(CANE)による立ち退き反対闘争が行われたことも特筆される。このような再開発を経てジャパンタウン域の建造環境は大きく変容したが,その変化はかつての伝統的な総合型エスニック・タウンからツーリスト向けのエスニック・タウンに在来の現地コミュニティ向けエスニック・タウンの要素が混在した複合型のエスニック・タウンへの変化であったと要約されよう。こうした変化は,前述した諸アクターの相互関係によって規定される再開発の構造がもたらした必然的な帰結と言える。
著者
八木 浩司 斉藤 宗勝
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.121-136, 1997
被引用文献数
1 1

ネパールのヒマラヤ前縁帯およびテライ平原において, 天然林 (サラノキ: <i>Shorea robusta</i>) の果実が, カカオ代替油脂 (サルバター) 採取を目的として企業的に利用されている。その利用システムには天然林生産物と地域住民を基層構造とし, 首都カトマンズの企業そして国際市場につながる階層性が存在する。<br>材以外で, サルバターのような国際市場に結びついた天然林生産物利用地域の出現は, <i>S. robusta</i> 林がヒマラヤ前縁帯・ガンジス平原北縁に広大に分布する低価格天然林資源であること, 果実の結実期が乾季でその間農業活動が比較的低調であること, 労働集約型の採取活動が要求されるにも関わらずこの地域の最底辺層に位置する安い労働力が利用できることによって説明される。しかし, サルバター生産地域は, 自然および社会環境の変化に左右される不安定な存在である。さらに <i>S. robusta</i> 林は過度の人為ストレスのため持続可能利用されているとは言いがたい部分も生じている。