著者
遠藤 孝夫
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.85, pp.185-199, 2001-03-30

シュタイナー教育の原理とも言うべき「人間認識に基づく教育」は,「学校の自律性」を前提に機能するものであるが,この両者の連関はこれまで十分に理解されてきていない。本稿は,「社会三層化運動」に関する最初の本格的研究であるシュメルツアーの成果に学びつつ,社会三層化運動の一つの結晶として創設されたヴァルドルフ学校とその創設理念を検討することで,従来のシュタイナー教育-の認識不足を補完することを意図するものである。
著者
大谷 伸治
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.121, pp.19-28, 2019-03-28

前号にて、佐藤卓己氏らの研究に学び、「8・15 終戦」史観の相対化を図る授業実践を報告した。本稿は、その教材研究で、佐藤氏の研究以後の歴史教科書における「終戦」記述と玉音写真の変化を追跡調査した結果を報告する。佐藤氏の調査当時最新の2002 年版は、玉音写真を掲載したのは2 冊のみであった。それを受けて氏は「教科書での『玉音写真』掲載は例外的」としていた。しかし、2011年以降の改訂から増え始め、現行では9冊に増加した。さらに玉音写真の掲載によって、植民地解放に関する写真・記述が削除されてしまった。
著者
松本 敏治 崎原 秀樹 菊地 一文
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.109, pp.49-55, 2013-03-27

本論文では、松本・崎原(2011) によって報告された「ASD は方言を話さない」という調査結果について理論的検討を行った。彼らの特別支援教育関係者を対象としたアンケート調査は、ASD は定型発達児およびID に比べ、方言の音声的特徴のみならず、語彙の使用も少ないとする結果を示した。この結果について次の5つの解釈の説明可能性を検討した。1)音韻・プロソディ障害説(表出性障害、受容性障害)、2)終助詞意味理解不全説、3)パラ言語理解不全説、4)メディア媒体学習説、5)方言の社会的機能説。1~4の解釈は、ASD でみられた方言の音声的特徴および方言語彙の不使用を十分に説明することができなかった。一方、方言の社会的機能説は、方言の社会的意味として他者との連携意識・集団への帰属意識などに着目したもので、ASD のもつ対人的・社会的障害の側面から方言の不使用を説明できるものであった。この説は、結果を適切に説明できるもので、かつASD の中核症状との関連が推察された。また、この説と関連して、ことばの社会的機能への気づきとASD への言語的はたらきかけについて考察した。
著者
群 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.111, pp.1-6, 2014-03

中学生192名を対象に質問紙調査を実施し、進路成熟態度の高低により群分けして、各群において、時間的信念・時間的展望体験が進路選択自己効力に及ぼす影響を進路選択重回帰分析で検討した。その結果、将来無関心は成熟態度の低い群でのみ有意な影響が見られるなどのいくつかの群間差が見られた。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.121, pp.1-6, 2019-03-28

新潟県立図書館に所蔵されている近世期版本の往来物資料について、出版地域別に分類整理した調査結果を報告する。総数では、72本の近世期版本の往来物資料が確認され、目的別分類では、教訓科往来9本、社会科往来は所蔵なく、語彙科往来5本、消息科往来16本、地理科往来1本、歴史科往来5本、産業科往来11本、理数科往来18本、女子用往来7本という結果であった。出版地域別の分類では、江戸が37本で最も多く、京都7本、大坂14本、名古屋1本、不明が13本という結果であった。 北前船の寄港地である秋田や酒田の往来物資料の調査結果1)では、京都と大坂の出版が多く、関西圏から海路で運ばれたと思われる資料が多数を占めた。一方、今回の調査で、同様の寄港地である新潟においては、江戸出版の資料が多数であったという結果を得た。新潟では、資料が海路よりも陸路で江戸から流入した可能性が高いと考えられた。文化交流の経路という視点から、興味深い示唆を与えてくれる結果であるといえよう。 往来物の分布を通して、地域の教育的背景の格差や文化伝播状況などを解明することを目的としているが、目的別分類の調査結果に加えて、本稿で紹介する出版地域別分類の調査結果は、他地域の状況と比較する上で基盤となる研究成果である。
著者
山本 欣司
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.101, pp.1-9, 2009-03

宮本輝「泥の河」はこれまで、板倉信雄と松本喜一の出会いから別れまでを描いたものであり、信雄が身近に経験し、父親から聞かされもした死の問題や、「舟の家」の人々との交わりの中で目覚めた信雄の性と成長の問題がテーマの主軸をなすと捉えられてきた。しかし拙稿では、小説の構造を丹念にふまえ、そのような解釈の問題点を指摘するとともに、自分なりの把握を示した。さらに拙稿では、小栗康平監督による映画「泥の河」が、どのようにして貧しさを背景とする子ども達の短い交流を主題化したかを論じた。
著者
今井 民子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.72, pp.p21-27, 1994-10

本稿は,B.Marcelloの『当世風劇場(ⅠITeatroallaModa)』を検討し,18世紀のオペラ上演の実態を明らかにしたものである。バロックの初期に成立以来,発展を続けてきたオペラ芸術も,18世紀に入ると矛盾が現われはじめ,凋落の兆しが見えてきた。当時数多く書かれたオペラ批判の中で,B.Marcelloの『当世風劇場』は最も名高い。これは,あらゆるオペラ関係者に対する有益な助言と題し,彼らにオペラ成功の秘訣として無知と強欲をといた詞刺的オペラ論である。B.マルチェッロが厳しく批判するように,バロックオペラを荒廃させた主な原因は,歌手の声の曲芸と舞台の精巧な機械仕掛けへの過度の要求であった。この傾向は,一般の聴衆に公開され,商業的性格の強いヴェネツィア・オペラでは特に顕著だった。B.マルチェッロの記述には,多分に誇張があるにせよ,このオペラ論からは,当時のスターシステムの弊害が生んだ危機的なオペラ状況が理解できる。
著者
森本 洋介
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.120, pp.137-148, 2018-10-12

本稿では教科書会社発行の教材(副読本)を用いた授業と,同テーマにおける自作教材を用いた授業実践の検討を通じて,その編成の在り方,特に教材の選定と発問の設定の方法を明らかにするため,実践を通じて検証作業を行った。その結果,教科書会社発行の教材(副読本)では副読本に記載された発問を扱わなかったにもかかわらず,副読本に記載された発問に対する答えのような記述をしている児童も少なからず見られた。一方で自作教材を用いた授業では教材を発問について考えるための知識や情報を与える資料として位置づけることで,児童は話し合いや「道徳ノート」のなかで綺麗事ではない意見を出すことにつながった。教材のつくり方,さらに言えば教材の内容が子どもの実感に則したものであるかということと,発問がその実感を問うものになっているかどうかが「考え,議論する道徳」を実現するためのポイントになると考えられる。
著者
松本 敏治 安藤 房治 飯田 かおり
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.187-196, 2002-03

弘前市「つがるLDを考える会」および青森市LD親の会「こんぺいとう」の保護者に対して,1.子どもの実体,2.現状,3.教育的ニーズ,4.家族関係を明らかにすることを目的にアンケートを実施した。結果は,1)子どもの約4分の1のみがLD/ADHDとの医学的診断をうけているにすぎない,2)ADHDの医学的診断と教育的判定の間に大きな乗離が見られる,3)多くの子どもが,集中力および対人関係上の問題を抱える,4)保護者の6割が,担任は子どもの問題を理解しているととらえているが,そのうち特別の配慮がなされているとしたものは6割である,5)子どもの対人関係は,非常に狭い範囲に限られている,6)学校への要望としては,教員の理解を求めるものがもっとも多い, 7)保護者は,子どもにとって適切な環境として"通常学級での特別な支援''を考えている,8)地域に不足している支援機関として"LD/ADHDの教育相談機関""LD/ADHDの医療機関"が挙げられた,9)家族の中にも子どもの状態を正確に把握し得ていないものがいるとの回答が約半数で見られた,ことを示した。
著者
朝山 奈津子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.118, pp.55-66, 2017-10-13

H. リーマンの音楽理論の中で、特にフレージング論を総括した『音楽の長短法と軽重法の体系System dermusikalischen Rhythmik und Metrik』(1903)の「第2部 軽重法:楽節構造論」の全訳。第117号掲載の(1)を承けて本稿では、第4章第22節- 第5章第26節を取り扱う。
著者
蒔田 純
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.120, pp.43-56, 2018-10-12

本稿では、政治的リテラシーの向上・政治参加の促進という側面からシティズンシップ教育を捉え、その概念的背景や海外での動向を踏まえた上で、我が国における事例として八幡市・品川区の取り組みを取り上げる。またそれに基づき、両自治体におけるアンケート調査や選挙での投票率を用いて、シティズンシップ教育の効果について検討を行う。そこからは、シティズンシップ教育にも様々な形があり、自治体における大方針や教育枠組みによって内容や手法に相違が生じること、「意識」と「行動」という観点から見た時、シティズンシップ教育の効果は前者においてより顕在化しやすいこと、因果関係までは認められないが、少なくともシティズンシップ教育を受けた世代は同地域他世代・他地域同世代と比して相対的に政治参加が堅調と見られること、等が示される。
著者
山本 逸郎 遠藤 聖奈
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.113, pp.47-56, 2015-03-27

教員免許状更新講習「理科を苦手とする教員のための小学校物理実験」を受講した延べ286名の小学校教員に理科の実験でうまくいかなかったことを具体的に記入してもらったところ,4学年の「水の沸騰の実験」と「水が氷になる実験」に関する記述数が全学年の実験の中で圧倒的に多いことがわかった。それらの記述の内訳は,前者の実験では「水の沸点が100℃にならない」が,後者の実験では「水が過冷却する」が最も多く挙げられていた。本研究では,これら2つの実験について詳しい測定を行い,実験条件を変えたときに測定結果がどう変わるのか議論する。
著者
篠塚 明彦
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.114, pp.43-50, 2015-10

源義経をめぐる様々な伝説の一つに北行伝説がある。荒唐無稽な義経北行伝説ではあるのだが、その伝説形成の背景には熊野信仰の広がりや修験者たちの活動があったことが浮かび上がってくる。熊野の人々や修験者は、北方の交易世界に引き寄せられるように北を目指した。そこから見えてくるものは、現在置かれている位置づけとは異なる北東北の世界である。北東北は、日本の終焉の地と見られていたが、実際には北方ユーラシア世界への入口であった。こうした事実をもとにしながら、日本史・世界史融合の具体像について探ることを目指す。
著者
岡田 敬司
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.69, pp.81-96, 1993-03-30

私達が日頃何気なく目にする風景も,注意して見れば,そこには<もう一つの世界>が隠されていることが感得できる苦である。それは無限の広がりを持った想像の世界であり,目に見える世界の裏側に潜む精神的風景である。私達の目に映ずる世界は,世界の現象的一側面であろに過ぎず,もしかすると,その背後に潜む世界こそ真の世界であるのかも知れない.可視的現象世界は,様々な寓意を信号として私達に送り続けている。これら無数のと言うべき信号を感受できるか否かは,私達の感受性の問題である。意識的に注意を向けてみれば,隠蔽された意味が有意義なものとして浮上して来るかも知れない。それこそ私達が求めて止まない<真実(の風景)>であるのかも知れない。この<もう一つの世界>の実在を検証する為に,ここに「詩的」という意味を篭めて,風景に内在された<もう一つの世界>の探索を試み,世界認識の拡大を試みてみようとするものである。
著者
朝山 奈津子 森田 学 山田 高誌
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.114, pp.59-73, 2015-10

20世紀初頭にイタリアで興隆したピアノ伴奏付独唱歌曲は従来、事典項目や音楽通史においていささか表面的に「ドイツ・リートの影響下で」確立したジャンルとされてきた。しかしその影響関係は、実際の響きや音楽形式からも、このジャンルに取り組んだ作曲家たちや詩人たちの創作活動からも、けっして自明ではない。そこで本論文は、両者の関係性を問い直した上で、このジャンルに対するドイツの影響を指摘しようと試みる。
著者
安達 奈緒子 安達 知郎
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.118, pp.159-168, 2017-10-13

「居場所」という言葉は,それぞれの人がそれぞれに意味を見出しうる重層的な言葉である。居場所の多義性は心理臨床において重要であると考えられる。本研究では,その多義性を保持して実証的研究を行うねらいから,「居場所がある」「居場所がない」という意識(居場所意識)に注目し,居場所意識の基本的性質(性差・時期差,精神的健康・心理的居場所感との関連,時間的安定性)を明らかにすることを目的とした。居場所意識,精神的健康,心理的居場所感を測定する質問紙調査を3回,実施した(協力者は大学生計497名であった)。その結果,第一に,居場所あり意識と居場所なし意識は対極に位置するものではないこと,第二に,居場所あり意識は必ずしも精神的健康と関連するものではなく,女性では精神的な不健康と関連していること,第三に,女性は男性に比べて居場所なし意識が時期を越えて維持されやすいことが明らかにされた。一方で,居場所意識測定項目の時間的安定性については評価基準が明確でなく,この点についてさらに検討が必要と考えられた。 This study investigated the consciousness of‘ I have IBASHO’ or‘ I don't have IBASHO’ and aimed to clarify theproperty of these‘ IBASHO’ consciousness. University student( total n=497) completed questionnaires about‘ IBASHO’consciousness, mental health, and psychological‘ IBASHO’ in three surveys. The results were followings;( a) Theconsciousness of‘ I have IBASHO’ and‘ I don't have IBASHO’ were not opposition.( b) The consciousness of‘ I haveIBASHO’ was not related to mental health in males, and it was related to mental ill health in females.( c) Females kept theconsciousness of‘ I don't have IBASHO’ across time more than males. In addition, the time stability of measurement items about‘ IBASHO’ consciousness didn't become clear.
著者
増田 貴人 石坂 千雪
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.110, pp.117-122, 2013-10

東北地方の中規模都市において、保育所の保育者を対象に、「気になる子」への意識及びその対応に関する質問紙調査を実施した。その結果、以下の点が明らかにされた。第一に、保育者は、クラス内の集団生活を直接的に乱すことにつながる行動をとる子どもを「気になる子」と認識しがちな傾向にあった。その背景にはクラス単位の保育を志向する保育者の集団主義が影響していると示唆された。第二に、コンジョイント分析の結果、「気になる子」への対応の戸惑いを解消するための相談において重視されたのは「相談頻度」であった。保育者同士が気軽に相談し合えるような保育カンファレンス環境を、園内でどのようにつくっていくかが管理職に求められた。
著者
安野 眞幸
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.63-74, 2002-03

中世の富士大宮は次の三者からなっていた。①宗教上の中心「富士浅間神社」,②社会・経済上の中心「駿州中道往還」の宿場町「神田宿」とその市場「神田市場」,③政治・軍事上の中心「大宮城」。「神田市場」や「神田橋開」では今川氏の任命した小領主たちが徴税を請け負っていた。大宮司の富士氏は当時,国人領主としても発展し「大宮城」の城代をも兼ねていた。今川氏の発布した「富士大宮楽市令」は,市場からの小領主の排除と「諸役」の停止を内容としており,富士氏側が今川氏に譲歩を迫り,勝ち取ったものであった。