著者
佐藤 淑子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.345-358, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
48
被引用文献数
6

本研究はワーク・ライフ・バランス(WLB)という点で対照的な日本とオランダの育児期家庭の生活の実態と心理を比較検討し, WLBが乳幼児を持つ父母の育児に与える影響を考察した。WLBとは「職業役割」と「家庭役割」をバランスよく担うことである。日本は母親の育児不安が高いが, その要因は父親の育児不在と母親が育児を1人で抱え込むことにある。対照的に, オランダは仕事と家事・育児をより男女平等に担い, 最もWLBの達成された国である。本稿では, 父母の生活時間, 育児行動等の生活の実態と, 育児感情, 自尊心, ストレスなど心理のかかわりを検討した。その結果, 次の4点が明らかになった。(1) 育児行動においては日本とオランダともに母親の方が父親より育児を多く行っていた。但し, 日本では父母間の差はオランダより著しい。(2) オランダの父親の労働時間は短く母親の就業率が高く, 父母のWLBがとれ, 育児の協同が顕著である。(3) 日本は父母のWLBが欠けており, ともに「育児への否定感」がオランダより高い。(4) オランダの父母は日本より自尊心が高くストレスも低い。
著者
杉浦 健
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.352-360, 2000-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は, 拒否不安と親和傾向という2つの親和動機と対人的疎外感との関係, 及びそれらの関係の発達差や男女差を調べることであった。中学生366名, 高校生528名, 大学生233名を対象に親和動機, 対人的疎外感及び自我同一性についての質問紙調査を行った。その結果, 拒否不安と親和傾向は高い正の相関を示すにもかかわらず, 拒否不安は対人的疎外感と正の関係を, 親和傾向は負の関係を示した。また, 結果には男女差, 発達的差異があった。(1)女子において, 拒否不安は成長に伴い漸減した。(2)男子では, 拒否不安は中学生で対人的疎外感と負の関係を示したのに対し, 大学生では正の関係を示した。(3)拒否不安と親和傾向の相関は, 中学生の方が, 高校生, 大学生よりも高かった。これらの結果から, 2つの親和動機の変化は, 対人関係を適応的に維持していくための発達課題を示しているのではないかと考えられた。
著者
高橋 麻衣子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.95-111, 2013
被引用文献数
2

書き言葉を読んで理解する能力は活字媒体から情報を取得するために必要な能力であり, これを効果的に育成することは学校教育の大きな目標の一つである。読解活動の形態には大きく分けて音読と黙読が存在するが, 読解指導の場面では最終的に黙読での読解能力を習得させることを目的としている。本論文では, 読解能力の発達段階によって音読が読解過程に及ぼす影響はどのように異なるのか, そして, 黙読での読解能力を習得する上で音読はどのような役割を担うのかを考察することを目的とした。まず, 成人と児童それぞれにおける音読の有用性を検討し, 読み能力によって音読の役割が異なることを示した。特に児童においては, 読解中に利用可能な認知資源の量が少なくても, 構音運動や音声情報のフィードバックによって音韻表象を生成し利用できることが, 音読の利点として挙げられた。そして, 読解中の音韻表象の生成と眼球運動のコントロールに着目して, 音読から黙読への移行についての仮説的モデルとこれに即した指導法を提案し, 今後の課題を述べた。
著者
外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.317-326, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
30
被引用文献数
10

本研究の目的は, 楽観性と悲観性を独立に測定できる“子ども用楽観・悲観性尺度”を新たに作成し, それらの信頼性・妥当性を検討することであった。研究1より, “楽観性”と“悲観性”の下位尺度から構成される子ども用楽観・悲観性尺度10項目が作成された。また, 子ども用楽観・悲観性尺度の信頼性(内的一貫性と時間的安定性)と妥当性の一部(構造的な側面の証拠, 外的な側面の証拠)が確認された。さらに, 研究2より, 何らかのストレスフルな出来事を経験した後に, 楽観性が高い子どもはサポート希求や問題解決といった接近型のコーピング方略を用いる傾向が強く, そうしたコーピング方略を媒介して, 学校適応につながりやすいことが示された。一方で, 悲観性が高い子どもは行動的回避といった回避型のコーピング方略を用いる傾向が強く, そうしたコーピング方略を媒介して, 学校不適応や精神的不健康につながりやすことが示された。本研究の結果より, 楽観性と悲観性とでは独自の役割を担っていることが明らかになった。
著者
山下 倫実 坂田 桐子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.57-71, 2008-03

本研究は,大学生におけるソーシャル・サポートと恋愛関係崩壊からの立ち直りとの関連について検討した。まず,性役割の観点より,恋愛関係崩壊前の情緒的サポート源が恋愛パートナーに限定される者は女性より男性に多いという予測1について検討した。恋愛関係にある大学生146名を対象に友人(同性/異性),恋人,家族(同性/異性)から提供されたサポート(情緒的/道具的)について尋ねた。その結果,予測1は概ね支持された。次に,現在,恋愛関係にない大学生132名を対象に恋愛関係崩壊時の情緒的サポート源が多い者ほど,立ち直り評価が高いという予測2について検討した。各関係からのサポート(予測1の検討と同様),恋愛関係崩壊時のショック度,恋愛関係崩壊からの立ち直り過程の経験及び立ち直り評価などの項目について回答を求めた。サポート形態は,情緒的サポート源が多様である多様型,情緒的サポート源が同性友人に限定される同性友人型,サポート低型に分類された。予測2は概ね支持され,恋愛関係崩壊前の情緒的サポート源を恋愛パートナーに限定することが,立ち直り評価の低さにつながる可能性が論じられた。
著者
石川 満佐育 濱口 佳和
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.526-537, 2007-12-30

本研究では,近年諸外国で研究が盛んに行われているforgivenessの概念に注目し,ゆるし傾向性として実証的に取り上げ,わが国の中学生・高校生を対象に,ゆるし傾向性と外在化問題・内在化問題との関連を検討することを目的とした。研究1では,中高生574名を対象に,ゆるし傾向性尺度の作成を行った。因子分析を行った結果,「他者へのゆるし傾向」,「自己への消極的ゆるし傾向」,「自己への積極的ゆるし傾向」の3因子からなるゆるし傾向性尺度が作成された。研究2では,中高生553名を対象に,ゆるし傾向性尺度の信頼性,妥当性の検討を行った。その結果,十分な値の信頼性,妥当性が確認された。研究3では,中高生556名を対象に,ゆるし傾向性と外在化問題(身体的攻撃・関係性攻撃),内在化問題(抑うつ・不安)との関連を検討した。相関,重回帰分析により検討を行った結果,ゆるし傾向性と外在化問題,内在化問題との間には,負の関連が示された。従って,中高生にとって,ゆるし傾向性は,外在化問題,内在化問題の軽減に有効である可能性が示された。
著者
狩野 武道 津川 律子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.168-178, 2011-06-30 (Released:2011-10-21)
参考文献数
39
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 大学生が示す無気力が, スチューデント・アパシー的無気力と抑うつ的無気力に分類可能かどうかを検討し, それぞれの特徴について考察することであった。大学生155名を分析対象とし, 全3回の縦断的質問紙調査を行った。用いた尺度は, 意欲低下領域尺度, 抑うつ気分を測定する項目, 抑うつの反応スタイル尺度の否定的考え込みと分析的考え込みであった。その結果, 持続的に学業に対して無気力を呈する群は, 持続的に抑うつを伴う群(抑うつ的無気力群)と伴わない群(スチューデント・アパシー的無気力群)に分類できることが示唆された。また, 抑うつ的になったときに否定的に考え込む傾向, 分析的に考え込む傾向において, 抑うつ的無気力群はともに高く, スチューデント・アパシー的無気力群はともに低いことが示された。これらの結果から, 無気力研究においてスチューデント・アパシー的無気力と抑うつ的無気力を区別する必要性が論じられ, また, 大学生の無気力に対する予防, 援助に関して考察された。
著者
卜部 敬康 佐々木 薫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.283-292, 1999-09
被引用文献数
1

本研究の目的は,授業中の私語の発現程度とそこに存在している私語に関するインフォーマルな集団規範の構造との関係を検討することであった。中学校・高校・専門学校の計5校,33クラス,1490名を対象に質問紙調査が実施され,私語に関するクラスの規範,私的見解および生徒によって認知された教師の期待が測定された。私語規範の測定は,リターン・ポテンシャル・モデル(Jackson,1960,1965;佐々木,1982)を用いた。また,調査対象となった33クラスの授業を担当していた教師によって,各教師の担当するクラスの中で私語の多いクラスと少ないクラスとの判別が行われ,多私語群7クラスと少私語群8クラスとに分けられた。結果は次の3点にまとめられた。(1)多私語群においては少私語群よりも相対的に,私語に対して許容的な規範が形成されていたが,(2)生徒に認知された教師の期待は,クラスの規範よりはるかに私語に厳しいものであり,かつ両群間でよく一致していた。また,(3)クラスの私語の多い少ないに拘わらず,「規範の過寛視」(集団規範が私的見解よりも寛容なこと)がみられた。これらの結果から,私語の発生について2つの解釈が試みられた。すなわち結果の(1)および(2)から,教師の期待を甘くみているクラスで私語が発生しやすいのではなく,授業中の私語がクラスの規範と大きく関わっている現象であると考察され,結果の(3)から,生徒個人は「意外に」やや真面目な私的見解をもちながら,彼らの準拠集団の期待に応えて「偽悪的」に行動する結果として私語をする生徒が発生しやすいと考察された。
著者
松本 明生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.38-49, 2014 (Released:2014-07-16)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本研究の目的は, アクセプタンス方略を示す自己教示が体験の回避およびスピーチ不安に与える効果について検討することであった。FNE得点および聴衆不安尺度得点をもとに選ばれた30名のスピーチ不安の高い男女大学生の研究参加者を, アクセプタンス自己教示群, 対処的自己教示群, および統制群のいずれかに振り分けた。研究参加者に対してはスピーチ課題をベースラインとして1回, 介入期間中に3回, さらに介入終了から6か月後に1回実施した。アクセプタンス自己教示群と対処的自己教示群には, 介入期間中にそれぞれの群の自己教示を記憶して, それをリハーサルするという訓練を3回実施した。一方, 統制群には自己教示に関する訓練は行わなかった。その結果, ポストテストとフォローアップにおいて, アクセプタンス自己教示群のみに日本語版AAQ得点の増加が見られた。また, アクセプタンス自己教示群および対処的自己教示群では, スピーチ場面でのSUDと聴衆不安尺度得点がポストテストとフォローアップにおいて低減していた。これらの結果は, アクセプタンス方略を示す自己教示はアクセプタンスの増大とスピーチ不安の低減をもたらす有効な手段となりうることを示すものである。
著者
植木 理恵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.301-310, 2002-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,学習方略との関連から高校生の学習観の構造を明らかにすることである。学習観を測定する尺度はすでに市川(1995)によって提案されているが,本研究ではその尺度の問題点を指摘し,学習観を「学習とはどのようにして起こるのか」という学習成立に関する「信念」に限定するとともに,その内容を高校生の自由記述からボトムアップ的に探索することを,学習観をとらえる上での方策とした。その結果,「方略志向」「学習量志向」という従来から想定されていた学習観の他に,学習方法を学習環境に委ねようとする「環境志向」という学習観が新たに見出された。さらに学習方略との関連を調査した結果,「環境志向」の学習者は,精緻化方略については「方略志向」の学習者と同程度に使用するが,モニタリング方略になると「学習量志向」の学習者と同程度にしか使用しないと回答する傾向が示された。また全体の傾向として,どれか1つの学習観には大いに賛同するが,それ以外の学習観には否定的であるというパターンを示す者が多いことも明らかになった。
著者
笹屋 里絵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.312-319, 1997-09
被引用文献数
5

This study examined how children used facial and situational cues to infer others' emotions. The subjects were 4-year-olds, 5-year-olds, first-graders, third-graders, fifth-graders, seventh-graders, and adults, and each group consisted of 10 males and 10 females. Subjects saw Picture stimuli providing facial cues (Task 1), Videotaped stimuli providing situational cues (Task 2), Videotaped stimuli providing both cues depicting the same emotion (Task 3), and Videotaped stimuli providing both cues depicting different emotions (Task 4). In conflicting condition (Task 4), 4-year-olds relied solely on facial cues to infer emotion, but this preference decreased with age. Having reached the third grade, girls were integrating both facial and situational cues, whereas boys who relied on situational cues in the third- and fifth grades, did not integrate both cues until the seventh grade. The way to use the cues in Task 4 was related somewhat to a development of abilities to understand other's emotions from facial cue (in Task 1) and from situational cue (in Task 2).
著者
西松 秀樹 千原 孝司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.436-444, 1995-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1

The purpose of this research was to consider the effectiveness of intra-individual evaluation (teacher's evaluation) on students' intrinsic motivation, and to compare the relative effectiveness of intra-individual evaluation, absolute evaluation, relative evaluation, and non-evaluation and to reconfirm the effect of the intra-individual evaluation and self-evaluation on intrinsic motivation. Two experiments were conducted in first grade classes of a junior high school. Experiment I demonstrated the effectiveness of the intra-individual evaluation on students' intrinsic motivation when compared with absolute evaluation, relative evaluation, and non-evaluation. Experiment II examined the effect of teacher evaluation, and student self-evaluation on intrinsic motivation. The results yielded significant main effects of teacher evaluation and student self-evaluation on students' intrinsic motivation. The results suggested that it was important to consider both teacher evaluation (intra-individual evaluation) and self-evaluation to enhance students' intrinsic motivation
著者
都筑 学
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.40-48, 1993-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
18 6

The purpose of this study was to clarify how Marcia's four ego identity status groups differed in regard to the affective (cognitive-motivational) aspect of time perspective. Subjects were 150 male and 135 female undergraduates. They were administered the following three questionnaires: 1) Time attitude scale, composed of 20 pairs of adjectives to measure attitude toward personal past, present and future; 2) Circles Test, measuring relation among personal past, present and future; 3) Kato's (1983) identity status questionnaire, made of 12 questions concerning present commitment, past crisis and future pursuit. The main results were as follows: 1) Attainment and Moratorium drew three circles more integrated patterns than on Foreclosure and Diffusion; 2) Diffusion had the most negative attitude toward their personal past, present and future. Foreclosure was found the most positive, while Attainment and Moratorium ranked intermediate. From the above results, it was suggested that Attainment had the most realistic and planned attitude toward the future.
著者
外山 美樹 長峯 聖人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.178-191, 2022-06-30 (Released:2022-07-12)
参考文献数
31
被引用文献数
1 2

本研究の目的は,新型コロナウイルス感染症拡大の状況下において,正常性バイアスが生じているかどうかを検討すること,および新型コロナウイルス感染症に関する認知(自身の感染可能性,感染者増加可能性,終息の予期,感染予防の自覚,自粛の自覚)が非自粛行動,感染者への怒り,ストレスならびに抑うつと関連するのかどうかを検討することであった。調査対象者は,東京都に在住の20歳代から60歳代の710名で,2つの時点でweb調査を実施した。本研究の結果より,新型コロナウイルス感染症拡大の状況のような慢性的,長期的な事象においても正常性バイアスが見られることが確認された。また,新型コロナウイルス感染症に関する認知の内容(自身の感染可能性の認知,外界のリスク認知,安全性に関する認知)によって,どの側面と関連するのかが異なることも明らかとなった。さらに,感染予防の自覚と自粛の自覚においては,2ヶ月後の非自粛行動を予測することが示された。今後は,新型コロナウイルス感染症拡大の状況下における正常性バイアスのより長期的な影響を検討するとともに,正常性バイアスの規定要因を検討することの必要性が議論された。
著者
岡田 涼 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-11, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
25 4

本研究の目的は, 自己決定理論において概念化されている複数の動機づけから個人を動機づけスタイルとして表し, その動機づけスタイルによって, 実際の課題解決場面において課題に対する興味にどのような相違が見られるかを検討することであった。研究1では, 大学生の学習活動に対する動機づけを尋ねる質問紙を作成し, それらの得点から, 4つの動機づけスタイル (高動機づけ, 自律, 取り入れ・外的, 低動機づけ) を見出した。研究2では, 従来の自己決定理論研究において用いられることの少なかった実験的な手法を用いて, 動機づけスタイルが課題への興味に及ぼす影響を検討した。その結果, 非統制的な教示条件下において, 取り入れ・外的スタイルは高動機づけスタイルよりも課題に対する事後の興味得点が低くなっていた。また, 高動機づけスタイルと取り入れ・外的スタイルは, ともに低動機づけスタイルよりも課題遂行中の不安・強制感が高かった。以上のように, 動機づけスタイルによって課題への興味のあり方や課題遂行中の不安が異なるという結果は, 個人の動機づけを動機づけスタイルとして多面的に捉える枠組みの有用性を示すものであると考えられる。
著者
山本 琢俟 河村 茂雄 上淵 寿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.52-63, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
42
被引用文献数
7 6

本研究では,学級の社会的目標構造と子どもの自律的な向社会的行動や自律的ではない向社会的行動との関連について,小学生と中学生の学校段階差を検討した。なお,向社会的行動の対象をクラスメイトに限定し,検討を行った。多母集団同時分析の結果,小中学生共に,学級での思いやりや互恵性の強調された目標を認知することと,自律的な向社会的行動との関連が確認された。一方で,学級での規律や秩序の強調された目標を認知することは自律的ではない向社会的行動と関連していることが確認された。このことから,向社会的行動の生起には学級での思いやりを強調することと規律を強調することが共に有効であろうが,特に学級での思いやりを強調する指導によって子どもの自律的な向社会的行動を予測し得ることが示唆された。また,横断的検討ではあるものの,学級の向社会的目標構造と子どもの自律的な向社会的行動との関連に学校段階差が確認されたことから,学級での向社会的目標を強調する教師の指導が自律性支援としての性質を持つ可能性を指摘した。最後に,本研究の限界と今後の課題についてまとめた。
著者
外山 美樹 長峯 聖人 浅山 慧
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.19-34, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
45
被引用文献数
3

本研究は,大学生を対象にし,努力に対する信念についてその構造を明らかにし,その個人差を測定することができる尺度を作成すること,ならびに努力についての信念が目標追求行動と関連しているのかどうかを検討することを目的とした。研究1ならびに研究2より,努力についての信念は,「重要・必要」,「コスト感」,「才能の低さの象徴」,「効率重視」,「環境依存性」,「義務・当然」そして「外的基準」に分類されることが示され,これら7つの下位尺度から成る努力についての信念尺度を作成した。研究2―研究4より,本研究で作成した「努力についての信念尺度」は,一定の信頼性(内的一貫性と時間的安定性)と妥当性(構造的な側面の証拠,外的な側面の証拠)を備え持っていることが確認された。また,研究4より,個人が持っている努力についての信念によって,目標達成が困難になった時の目標追求の仕方が異なることが示され,努力についての信念は行動を規定する要因であることが明らかとなった。今後は,本研究で作成された「努力についての信念尺度」を用いて,さまざまな行動(e.g., 学習行動)との関連について検討することが望まれる。
著者
岡本 直子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.199-208, 1999-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

本研究の目的は, 1) 親密な他者の存在と成功恐怖との関係, 2) 成功恐怖の性質における性差, 3) 性役割観すなわち, 男女が自分の性別に対する社会の期待をいかに認知しているかという「役割期待の認知」や, 成功者にどの様な性役割像を抱くかという「成功者イメージ」と, 成功恐怖の出現との関係, の3点を検討することである。大学生を対象に, 1) 性・対人関係の違いによる成功恐怖の出現の仕方を調べるための, 刺激文を与えそれに関する質問に自由記述で回答させる投影法的方法の課題, 2) 役割期待尺度, 3) 成功者に対するイメージ尺度, の3つからなる質問紙を配布し, 302名 (男性149名, 女性153名) から有効なデータが得られた。データの分析結果から, 男性は競争場面において, 親友や恋人など, 自分と親密な相手を負かして成功した場合に成功恐怖が高くなること, 一方, 女性は恋人を負かす場合に成功恐怖が高まることがうかがわれた。また, 女性が, 成功は女性としての伝統的なあり方に反するものであると感じる場合に成功恐怖を抱く傾向にあるのに対し, 男性は, 「失敗の恐れ」をもつ場合に成功に対して逃げ腰になる, というような, 男性と女性との成功恐怖の性質の違いが示された。また, 女性は, これまでの研究で男性的であるとされていた活動的な特性をもつことを望ましくないと評価すればするほど, 成功恐怖を抱きやすいことがうかがわれた。一方男性は, 望ましい男性的役割とはかけ離れたイメージを成功者に抱く場合に成功恐怖を抱きやすいことが示唆された。
著者
遠藤 愛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.224-235, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では, 境界領域の知能と年齢に不相応な学力を有する中学生を対象に, 算数文章題の課題解決を目指す学習支援方略を検討した。アセスメントの手続きとして, (a)WISC-IIIによる認知特性と, (b)つまずいている解決過程の分析を実施し, それらを踏まえ案出した2つの学習支援方略(具体物操作条件とキーワード提示条件)を適用した。その結果, 対象生徒の課題への動機づけが具体物操作条件にて向上し, 立式過程におけるつまずきがキーワード提示条件にて解消し, 効果的に課題解決がなされた。しかし, 計算過程でのケアレスミスが残る形となり, プロンプト提示を工夫する必要性が示唆された。以上から, 算数文章題解決のための学習支援方略を組む上で踏まえるべきポイントとして, 生徒が示す中核的なつまずきを解消する方略を選択すること, 学習支援方略を適用したときのエラー内容をさらに分析して別の過程における課題解決状況を確認することの2点が示された。