著者
小野 雄大 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.438-452, 2015-12-30 (Released:2016-01-28)
参考文献数
30
被引用文献数
6 5

本研究の目的は, 中学校と高校の部活動における先輩後輩関係の構造を明らかにし, また学年や性別, 部活動のタイプやレベルによって先輩後輩関係にどのような違いが生じているのか, さらに先輩後輩関係が, 部活動の活動内容や特徴によってどの程度予測されるのか明らかにすることであった。そのため, 全国の中学生と高校生711名を対象に質問紙調査を実施した。その結果, 中学生・高校生ともに1年生が最も先輩後輩関係を感じやすい立場にあり, 中学生では男子よりも女子の方が先輩後輩関係を厳しく捉える傾向にあることが明らかになった。また, 部活動のレベルやタイプ別の検討では, 競技・コンクール等で高いレベルで活躍する部活動や, 文化部よりも運動部において, 先輩後輩関係が明確になることが明らかになった。さらに, 部活動の方針や性格等が, 先輩後輩関係の各側面を高く予測することが明らかになった。
著者
郡司 菜津美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.67-86, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
35
被引用文献数
3

本研究では,ジグソー法を用いた性教育指導観の理解を目指した授業の学習効果を検討することを目的とし,2018年,2019年の7月,首都圏A私立大学の2ヶ年分の受講者282名を対象に,授業の前後で質問紙調査を実施した。性教育指導観の変化を検討するため,(1)「性」に対するイメージ,(2)性教育をする理由,(3)性教育による児童生徒の具体的な変化についてKH Coderを用いて分析した。その結果,授業の前後で質問紙に記述された語(恥ずかしい,違い,知識,大人,性など)の共起関係が変わった,つまり同じ単語が異なる文脈の中で用いられるようになった。このことから,学生らに性や性教育に対する捉え方に変化が起こり,学習者から指導者へと認識の変化があったと推察された。また,ジグソー法で課題に取り組む協働の過程の中で,学生は主体的に他者と対話することで学習したと推測できた。つまり,文献の内容をグループのメンバーが個々に理解したというより,対話によってグループでの共同理解に努めたということになる。ジグソー法によって性に関しての学びを頭の中に主知的に構築するのではなく,他者との対話の中でパフォーマティブに意味を構築していたことが推測された。
著者
加藤 司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.295-304, 2001-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
57
被引用文献数
30 12

本研究の目的は, Lazarusらの心理的ストレス理論に基づいた対人ストレスモデルを提唱し, その妥当性を検証することである。本モデルではパーソナリティ→媒介過程 (認知的評価→コーピング)→精神的健康といった因果関係が仮定されている。大学生227名を対象に, パーソナリティ (統制の所在, 楽観性, 自尊心), 認知的評価 (重要性, 対処効力感脅威), 対人ストレスコーピング (ポジティブ関係コーピング, ネガティブ関係コーピング, 解決先送りコーピング), 精神的健康 (友人関係の満足度, 心理的ストレス反応) を測定した。パス解析の結果から, 対人ストレスモデルの妥当性が検証された。部分的に, パーソナリティからコーピングへ有意な影響が確認されたが, パーソナリティは認知的評価を媒介としてコーピングに影響を及ぼしていることが実証された。ポジティブ関係コーピングと解決先送りコーピングから友人関係に関する満足感に対して有意な正の影響が確認された。ネガティブ関係コーピングから友人関係満足感に対しては, 有意な負の影響が確認された。また, 解決先送りコーピングは心理的ストレス反応を減少させ, ネガティブ関係コーピングは心理的ストレス反応を増加させることが実証された。
著者
益子 洋人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.133-145, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
32
被引用文献数
8 1

本研究では, 過剰適応を「関係維持・対立回避的行動」と「本来感」から捉えた。本研究の目的は, 自他双方が満足できる葛藤解決を目指す「統合的葛藤解決スキル」をとる程度と, 関係維持・対立回避的行動, 本来感との関連を検討することであった。予備調査では, 大学生429名の回答を分析し, 「丁寧な自己表現」「粘り強さ」「受容・共感」「統合的志向」からなる統合的葛藤解決スキル尺度(Integrating Conflict Resolution Skills Scale ; ICRS-S)を開発した。α係数や再検査信頼性の値から, 一定の信頼性が確認された。また, 社会的スキル, 友人満足感, 対人葛藤方略スタイルとの相関分析から, 一定の妥当性が確認された。本調査では, 大学生197名の回答を分析し, 統合的葛藤解決スキルと関係維持・対立回避的行動, 本来感の関連を検討した。共分散構造分析の結果, 統合的葛藤解決スキルは本来感を向上させ, 過剰適応者の適応を促進する可能性が示唆された。
著者
竹澤 みどり 小玉 正博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.310-319, 2004-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
4 3

本研究では, 不適応的・病的な現象として問題視されやすい依存を, 一般的な対人関係においてより積極的で適応的なものとして捉え, そのような依存を測定するための, 情緒的依存・道具的依存からなる対人依存欲求尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検討することを第1の目的とした。さらに, 対人依存欲求尺度と, 肯定的特徴として他者への信頼感がどのように関連するか, これまで依存的であることの特徴として考えられてきた自分への自信のなさや意思決定に対する自己評価の低さとの関連も含めて検討することによって, 依存のより肯定的, 適応的特徴を示すことを第2の目的とした。447名の大学生を対象とし, 調査を実施した。因子分析の結果, 情緒的依存・道具的依存の2つの下位尺度からなる20項目の尺度が開発された。この尺度の信頼性と妥当性の検討を行ったところ, 両下位尺度において十分な信頼性と妥当性が確認された。さらに, 概ね対人依存欲求尺度と自己信頼感との間に有意な関連がみられなかったが, 女性においてはむしろ情緒的依存欲求が高いほど自己信頼感が高く, 依存欲求が高い人は他者信頼感が高いという依存の肯定的・適応的特徴が見出された。意思決定に関する自己評価においては, 情緒的・道具的依存欲求どちらにおいても高い人は, 自己評価が低かった。
著者
小浜 駿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.392-401, 2012 (Released:2013-06-04)
参考文献数
14
被引用文献数
5 2

本研究の目的は, 第1に先延ばし意識特性尺度を用いて3パターンの先延ばしを行いやすい者を特定することであり, 第2に3パターンの先延ばしを行いやすい者の適応性について検討を行うことであった。大学生235名を分析対象とした。主成分分析の個人得点を用いて調査対象者を群分けし, 精神的健康および気晴らし尺度の平均差の検討を行った。分散分析の結果, 以下の3点が明らかになった。第1に, 否定的感情が一貫して生じるパターンの先延ばしは, ストレスコーピングとして機能しない非機能的な気晴らしを繰り返し行い, 日々の精神的適応を悪化させる不適応的な先延ばしであることが明らかになった。第2に, 状況の楽観視を伴うパターンの先延ばしは, 気分緩和を意図して先延ばしを行い, 先延ばし中には課題を忘れて気晴らしを楽しむことができるパターンであるが, 気晴らしへの依存を起こしやすいことが明らかになった。第3に, 計画性と気分の切り替えが生じやすいパターンの先延ばしは, 課題のために考えをまとめようと意図して一時的に先延ばしをした結果, 目標明確化が進み, 気分悪化が生じない適応的な先延ばしであることが明らかになった。
著者
佐藤 寛 今城 知子 戸ヶ崎 泰子 石川 信一 佐藤 容子 佐藤 正二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.111-123, 2009-03-30 (Released:2012-02-22)
参考文献数
32
被引用文献数
27 11

本研究の目的は, 学級単位で担任教師が実施することのできる, 児童の抑うつに対する認知行動療法プログラムの有効性について検討を行うことであった。小学5~6年生の児童310名を対象とし, 150名が介入群に, 160名が統制群に割り付けられた。介入群の児童に対して, 心理教育, 社会的スキル訓練, および認知再構成法を中心的な構成要素とする, 9セッション(1セッション45分)からなる学級規模の集団認知行動療法プログラムが実施された。その結果, 介入群の児童は統制群の児童に比べて抑うつ症状が大きく低減していた。さらに, 介入群の児童は抑うつ尺度のカットポイントを超える割合が低くなっていたが, 統制群ではカットポイントを超える児童の割合に変化は認められなかった。介入群の児童は, 介入目標とされた社会的スキルと認知の誤りにも介入前後で改善が見られ, 全般的な主観的学校不適応感も軽減され, 抑うつや認知行動的対処に関する一般的な理解度が高まるといった効果が認められた。最後に, 子どもの抑うつに対する心理学的介入プログラムの有効性や実用性を向上させるために必要とされる点について議論された。
著者
尾之上 高哉 井口 豊
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.122-133, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
26
被引用文献数
2 3

本研究では,学習法としてのブロック練習と交互練習に注目し,それぞれの単独効果,及び,それらを組み合わせた時の複合効果を比較検討する実験を行った。大学生66名が,学習を1週間の間隔をあけて2回行い,2回目の学習の1週間後にテストを受けた。66名は,2回の学習の方法が異なる次の4つの条件,つまり,条件1(2回ともブロック練習で学習する),条件2(1回目をブロック練習で2回目は交互練習で学習する),条件3(1回目を交互練習で2回目はブロック練習で学習する),条件4(2回とも交互練習で学習する),のいずれかに割り当てられた。条件間でテストの正答率に差があるかを分析した結果,正答率は,条件4,条件2及び3,条件1,の順で高く(条件4>2=3>1),この3者の間には有意差が確認された。つまり,交互練習の機会が増えるに従って,学習内容の定着が進むことが示された。また,実験参加者には,テスト時に自身が想起した解答がどの程度正しいと思うかについての確信度判断を,多段階評定を用いて行ってもらった。その確信度判断と実際のテストの得点の関連を条件毎に分析した結果,学習者は,定着に効果を持つ学習法で学習した時の方が,確信度判断を正確に行える可能性があることが示唆された。
著者
宇佐美 慧
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.385-401, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
41
被引用文献数
3 5

社会科学の分野においては, サンプリングされた個人(e.g., 生徒, 患者, 市民)の測定データが, 上位の抽出単位である集団(e.g., 学校, 病院, 地域)にネストされた構造を持つことが多い。このような階層データにおいては, 一般に階層線形モデル(Hierarchical Linear Model : HLM)のような, 同一集団内に所属する個人間の相関情報を考慮した解析手法が有用である。本研究では, 階層データにおいて, 2群間の平均値差に関心がある場合に着目し, 検定力および効果量の信頼区間幅の観点から必要なサンプルサイズを決定するための決定方法を, 群の割り当てが個人単位で決定される場合(Multisite Randomized Trials : MRT)と集団単位で決定される場合(Cluster Randomized Trials : CRT)のそれぞれについて, ランダム切片モデルを用いて解析した状況を想定して統一的に導出する。さらに, 実用上の観点から, 一定の検定力および信頼区間幅を得るために必要なサンプルサイズをまとめた数表の作成も試みた。 MRT型の収集デザインのための数表は, 個人内の反復測定デザインや, ランダムブロックデザインなどの, いわゆる対応のあるデザインから得られるデータにおいても利用可能である。
著者
山岡 明奈 湯川 進太郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.73-86, 2019-06-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
78
被引用文献数
3 2

創造性を増進することは社会にとって有用であると考えられるが,しばしば創造性の高い人は精神的に不健康であると指摘されてきた。一方で,近年では創造性が高くても精神的に健康な人の存在も示唆されている。そこで本研究では,創造性と精神的健康の両方と関連深い概念として知られているマインドワンダリングという現象に着目し,創造性の高さや精神的健康さの違いによって,マインドワンダリングの特徴に違いかあるのかを実験的に検討した。まず,62名の参加者の創造性と抑うつ傾向およびワーキングメモリ容量を測定した。その後,思考プローブ法を用いて,映像視聴中のマインドワンダリングの思考内容,自覚の有無,話題数を測定した。分析の結果,創造性が高く精神的に健康な人は,マインドワンダリング中に過去のことを考える頻度が少ないことが示された。本研究の結果は,マインドワンダリングを用いて,精神的健康を維持しつつ創造性を増進するための基礎的知見を示したといえる。
著者
島村 直己 三神 廣子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.70-76, 1994-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12
被引用文献数
17 14

Since the National Language Research Institute's (NLRI) investigation “Hiragana letters read and written by pre-school children,” in 1967, investigations of pre-school children's reading and writing ability conducted among regions have been nearly non -existent. Accordingly, the authors investigated the actual ability of 1, 202 pre-school children in Tokyo and Aichi Prefecture to read and write Hiragana letters. Results show that children's reading and writing ability has improved since the 1967 NLRI investigation. However, according to the Ministry of Education, only 10% of the kindergartens teach reading and writing. So we conclude that there has been intentional early education in institutions outside nursery schools, kindergartens and the home.
著者
小泉 令三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.289-296, 1986-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

The adaptation process of transferred children (New-TC) in grades three to six in new schools was investigated four times in the three-month period following their transference by means of questionnaires which covered physical, interpersonal and socio-cultural environments of the school. Subjects were 40 New-TC, 65 children transferred the previous year (Ex-TC) and 120 children who had been in the schools before Ex-TC (Host-C). The main findings were as follows: (1) New-TC had lower score than Ex-TC and Host-TC in interpersonal transaction with classmates and teachers during their first two periods,(2) New-TC with lower social difficulty, such as feeling of anxiety or difficulty in social situations, showed a tendency for higher score in interpersonal transaction with classmates and teachers,(3) New-TC had lower score than Ex-TC and Host-C in cognition of school facilities and equipments (physical environment) during their first three periods,(4) No difference was found in three groups concerning reception of class (interpersonal environment) and interest of learning (socio-cultural environment). These results were discussed from a microgenetic developmental view-point.
著者
下山 晴彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.145-155, 1995-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
9 11

It is often said that university students in Japan are comparatively passive and enervated. However both the peculiarity of Japanese adolescent process and the diversity of enervation must be taken into consideration. The primary purpose of this research was to investigate the meaning of the variety of enervation in relation to such adolescent aspects as pycho-social moratorium, mentality of student apathy and identity development. Passivity Area Scale, Moratorium Scale, Apathy Mentality Scale, Identity scale were administered to 522 male freshmen. The data were analyzed using multiple regression analysis. It was shown that the passivity in the area of campus was more serious than in the area of class and study. From the analysis using covariance structure analysis it was found that the structure of passivity in the area of campus was different from that in the area of class and study in so far as it was related to anhedonia seriously considered an apathetic mentality and a basic identity confusion.
著者
柏木 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.193-202,253, 1967-12-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
6 3

パースナリティーの発達, ないし社会的適応のひとつの重要な側面である性役割学習過程が, 男・女の性に対してそれぞれどのような役割特性を認知しているかの面から問題とされた。ことにとれが自我に目覚めて外的権威に反発する時期を経て社会的人間へと転じてゆく青年期にどのような変化をたどるか, また自身の性によって認知のしかたにどんな相違があるかが検討された。性役割特性を示す形容詞群から成る質問紙を用い, 男・女両性についてそれぞれの特性がどの程度望ましいかの比較・評定を求めた。そこから男.女両役割得点および両得点差が求められ, 男女をどのような差で役割分化させているかが検討された。その結果, 次の諸点が指摘された。(1) 全34項目中10項目については, 全被験者群によって同様な結果が得られ, 被験者の性・年令の差を問わず認知のしかたにある共通する面の存在することが示された。(2) 一方, 他のいずれの群とも共通性をもたず特定の1群だけが性役割の分化にあたって有効とする特徴的な点もいくつかみられた。(3) 一般に, 男性に対しては役割特性が明瞭であり, 多くの特性が付与されている。これに比べて女性役割特性はより少なく, ことに年少段階では明瞭に認知されがたい傾向がある。(4) 被験者の性によって, 中学生から大学生にいたる問の年令による変動のしかたには相違がみられた。すなわち,(a) 男子では, 男・女両役割の分化の程度に著しい年令差があり, 年少段階ではわずかな特性でしか性役割は区別されておらず未分化である。年長になるにつれて男・女役両割はこまかく明瞭な差をもって分化してゆく。(b) 女子では, 男・女両役割を識別するのに有効な項目特性数に関しては年令差はみられない。しかし内容的にみると, 何が基準となって識別されているか, 女性役割特性が明瞭に積極的に捉えられているか, などの点で, 年長段階と年少段階との問には相違がある。(5) 低年令段階では男子と女子との間に認知のしかたに差があるが, 年長段階になると性差は小さくなり, 男・女群間の相違は小さくなる傾向がみとめられた。(6) 男・女両役割得点差と評定の絶対値との関係から各群の特徴が吟味され, 今後とるべきいくつかの分析方向が示唆された。
著者
吉良 悠吾 尾形 明子 上手 由香
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.11-22, 2020-03-30 (Released:2020-05-01)
参考文献数
41
被引用文献数
7

本研究は,ソーシャルスキルの階層性を考慮し,認知や情動面のスキルも測定できる「成人用ソーシャルスキル自己評定尺度」が青年に適用可能であることを確認した上で,項目反応理論を用いて短縮版尺度を作成し,その短縮版尺度を用いて,具体的な対人場面におけるスキルである対人スキルと,それらを発揮する基となる,汎状況的な認知・情動・行動スキルであるコミュニケーション・スキルとの関連性を検討することが目的であった。多母集団因子分析によって,青年のソーシャルスキルを同様の因子構造で測定できることを確認した上で,項目反応理論を用いて35項目であった項目数が20項目となる短縮版尺度を作成した。また,階層的重回帰分析の結果,対人スキルの発揮のためには,自分の意思を相手に伝えるための行動スキルだけでなく,認知や情動面のスキルも重要であること,その関連性は対人スキルの種類によって異なることが示された。したがって,青年のソーシャルスキルを高めるためには,対人スキルの種類に合わせて,認知や情動面のスキルを含めた訓練が有効であることが示唆された。
著者
成田 健一 下仲 順子 中里 克治 河合 千恵子 佐藤 眞一 長田 由紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.306-314, 1995-09-30
被引用文献数
22

The purpose of this study was to examine the reliability and validity of a self-efficacy scale (SES : Sherer et al., 1982) using a Japanese community sample. The SES comprised 23 items measuring generalized self-efficacy. The SES and other measures were administered to a total of 1524 males and females whose ages ranged from 13 to 92. Exploratory factor analyses were conducted separately for sex and age groups and the factor structures obtained from these were compared. The results revealed a clear one-factor solution for the sample as a whole. A similar one-factor structure was obtained across sex and age groups. The SES was found to have satisfactory test-retest reliability and internal consistency. The correlations of the scores on the SES with other measures, such as depression, self-esteem, masculinity, and perceived health, provided some supports of construct validity. Some evidences of the construct and factorial validity of the SES in the Japanese community sample were found.
著者
則武 良英 武井 祐子 寺崎 正治 門田 昌子 竹内 いつ子 湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.134-146, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
36
被引用文献数
4

本研究の目的は,ハイプレッシャー状況がワーキングメモリに及ぼす影響を明らかにすることと,ハイプレッシャー状況が引き起こす負の影響に対する短期筆記開示介入の効果を明らかにすることであった。研究1では,大学生を対象としてハイプレッシャー状況下でワーキングメモリ課題の遂行を求めた。研究1の結果から,ハイプレッシャー状況下ではワーキングメモリ課題成績が低下することが示された。研究2では,ハイプレッシャー状況でワーキングメモリ課題を遂行する直前に,参加者に短期筆記開示の実施を求めた。また,ネガティブな感情を扱う短期筆記開示に対して,研究2ではポジティブ感情を扱う短期利益筆記介入を開発し,2つの介入の効果を比較した。研究2の結果から,短期筆記開示はプレッシャーの負の影響を緩和して,ワーキングメモリ課題成績低下を一部緩和することが示唆された。特に,短期利益筆記は短期筆記開示と比較して,介入効果が安定することが示された。従来の短期筆記開示と比較して,本研究の短期利益筆記は子どもへの適用可能性が高いため,今後は教育現場における本介入の有効性を明らかにしていく必要があると考えられる。
著者
竹村 和久 高木 修
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.57-62, 1988-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
3

“Ijime” (in Japanese, a rough equivalent of bullying) is a serious social phenomenon in which some school children are frequently and systematically harassed and attacked by their peers. In this study, differences of negative attitude toward a deviator and conformity to majority were investigated in connection with various roles (victims, assailants, bystanders, spectators, mediators, and unconcerned persons) in the “ijime” situation. The subjects, 195 junior high school students, were asked to respond to a questionnaire which measured (a) negative attitude toward a deviator and (b) conformity to the group in various situations. Major findings obtained were as follows: (1) Regarding attitude: there were no significant differences among the above six roles.(2) Regarding conformity: several significant differences were found in every role. In general, the conformity level of assailants was higher than that of mediators.(3) The result of multivariate analysis suggested that the victims were more deviant in both attitude and conformity than in any other roles.
著者
縣 拓充 岡田 猛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.438-451, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
45
被引用文献数
8 2

本研究では, 創造性神話に代表される美術の創作活動に対するイメージが, どのように表現や鑑賞への動機づけに影響するかを検討した。その際, 表現に対する効力感, 及び, アートに対するイメージを媒介変数として仮定し, 創作活動に対するイメージは両者を介して表現・鑑賞への動機づけに効果を及ぼすという仮説モデルを構築した。まず予備調査として, 人々が美術創作やアートに対して持つイメージを, 自由記述式の質問紙によって抽出した。続いて首都圏の大学生・専門学校生306名に対して, 上述の仮説モデルを検証する本調査を行った。構造方程式モデリングを用いた主な分析結果は以下の通りである。1)創作・表現に対するステレオタイプは, 表現に対する低い効力感, 及び, アートに対するネガティヴなイメージを予測した。2)表現に対する効力感やアートに対するイメージは, どちらも表現・鑑賞への動機づけに影響していた。以上の結果から, 表現のみならず, 鑑賞を促す上でも表現に対する効力感を高めるような実践が有用である可能性や, その一つの方法としての, 創作・表現に対するステレオタイプを緩和するというアプローチの有効性が示唆された。
著者
佐藤 有耕
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.347-358, 2001-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35
被引用文献数
3 3

本研究では, 大学生の自己嫌悪感と自己肯定の間の関連を検討した。目的は, どのような自己肯定のあり方が, 大学生の自己嫌悪感を高めているのかを明らかにすることである。自己嫌悪感49項目, 自尊心48項目, 自愛心56項目から構成された質問紙が, 18才から24才までの大学生ら535名に実施された。その結果明らかにされたことは, 以下の通りである。(1) 自己嫌悪感は, 自分を受容的に肯定できるかどうかと関連が強い。(2) 自己に対する評価も低く, 自己に対する受容も低いというどちらの次元から見ても自己肯定が低い場合には, 自己嫌悪感が感じられることが多い。(3) しかし, 最も自己嫌悪感を感じることが多くなるのは, 自分を高く評価するという点では自己を肯定している一方で, 受容的な自己肯定ができていない場合である。本研究では, 自己嫌悪感をより多く感じている青年とは, 自分はすばらしいと高く評価していながら, しかし現在の自分に満足できず, まだこのままではたりないと思っている青年であると結論した。