著者
倉石 精一 梅本 堯夫 安原 宏 奥野 茂夫 村川 紀子 百名 盛之 添田 信子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.23-31,67, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
4
被引用文献数
1 2

この研究の目的は, 数学学力の発達的な変化を, 知能との関係において分析することにあった。そのためまず小4, 小6, 中1, 中3, 高2の計491名の被験者に, 算数数学学力検査と京大NX知能検査を行なった。算数数学学力検査は学習指導要領に従って, 小中学校では数概念, 量概念, 図形概念, 関係概念, 実務, 問題解決の6下位検査からなり, 高校では数量概念, 図形概念, 関係概念, 問題解決の4下位検査からなるものを作成した。まずこのテストの内部関係を求めたところ, かなり高い相関係数がえられたが, 特に関係概念のテストは内部相関も総点との相関も高かった。また相関の比較的低いテストは低学年では実務, 高学年では図形概念のテストであつた。ついで知能検査の因子分析の結果に従い, 各生徒の因子点を算出し, この因子点と算数数学学力テストとの相関を発達的に検討した。その結果小4, 小6, 中1までは言語因子と数学学力テストの相関関係が密接にみられたが, 中3, 高2ではむしろ, 言語因子以外の因子と数学学力テストとの相関が高かつた。また知能偏差値と言語因子点の差によってGP分析を行なつたが, やはり小4, 小6では言語型群の方が算数学力テストの成績がよかったが, 中3, 高2ではむしろ非言語型群め方が数学学力テストの得点は高い傾向がみられた。これらの事実から知能と数学学力との関係は, 単に知能偏差値または知能指数と数学学力テストの総点との単純な相関では一見して発途的になんら変化しないように見えるが, 両者を分析して質的に考察をすれば, 小学校では知能のうちの言語因子と算数学力との相関が高く, それが中学, 高校となるにつれてしだいに言語因子以外の因子と関係が深くなると結論された。
著者
西川 一二 雨宮 俊彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.412-425, 2015
被引用文献数
15

本研究では, 知的好奇心の2タイプである拡散的好奇心と特殊的好奇心を測定する尺度の開発を行った。拡散的好奇心は新奇な情報を幅広く探し求めることを動機づけ, 特殊的好奇心はズレや矛盾などの認知的な不一致を解消するために特定の情報を探し求めることを動機づける。研究1では, 大学生816名を対象とした予備調査を行い, 50項目の項目プールから12項目を選定し, 知的好奇心尺度とした。次に大学生566名を対象とした本調査を行い, 予備調査で作成した知的好奇心尺度の因子構造の検討を行った。因子分析の結果, 各6項目からなる2つの因子が抽出され, 各因子の項目内容は, 拡散的好奇心および特殊的好奇心の特徴と一致することが確認された。2下位尺度の内的整合性は, 十分な値(α=.81)を示した。研究2では, 知的好奇心尺度の妥当性を, Big Five尺度, BIS/BAS尺度, 認知欲求尺度, 認知的完結欲求尺度と曖昧さへの態度尺度を用いて検討した。相関分析と回帰分析の結果, 拡散的好奇心と特殊的好奇心の共通性と対比について, 理論的予測とほぼ一致する結果が得られた。知的好奇心尺度の含意と今後の研究の展望について議論がなされた。
著者
西村 多久磨 瀬尾 美紀子 植阪 友理 マナロ エマニュエル 田中 瑛津子 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.197-210, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
40
被引用文献数
4 8

本研究では, 中学生を対象に学業場面に対する失敗観の個人差を測定する尺度を作成した。その際, 子どもにとって身近で回答しやすい失敗場面を想定し(問題場面, 発表場面, テスト場面, 入試場面), これらの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定するモデルを提案した。中学生984名から得られたデータに対して探索的因子分析を行った結果, 失敗観は「失敗に対する活用可能性の認知」と「失敗に対する脅威性の認知」の2因子から構成されることが, 各場面に共通して示された。また, これら4つの場面の高次因子として「学業場面の失敗観」を想定したモデルの適合度は十分な値であった。この結果から, 高次因子モデルによって失敗観を測定するアプローチの妥当性が支持された。さらに, 理論的に関連が予想された変数との相関関係も確認され, 尺度の妥当性に関する複数の証拠が提出された。最後に, 作成された尺度を用いた今後の研究の展望について議論がなされた。
著者
河合 輝久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.376-394, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
40
被引用文献数
5

本研究の目的は, 大学在学時に抑うつ症状を呈し始めた友人が身近にいた大学生の視点から, 大学生の抑うつ症状に対する初期対応の意思決定過程と実際の初期対応を明らかにすることである。大学生12名を対象に, 身近な友人が抑うつ症状を呈し始めた時の初期対応について半構造化面接を行った。得られた結果について, グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った結果, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助する利益, 援助しないリスクを意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供する」, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助するリスク, 援助しない利益を意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供せず, 距離を置いたり過度に配慮したりする」, 「専門的治療・援助の必要性を意識し勧めようとしても, 専門的治療・援助の利用勧奨リスクや専門的治療・援助の利用リスクを意識したり, 適切な専門的治療・援助機関を知らなかったりする場合, 専門的治療・援助の利用を勧めない」など8つの仮説的知見が生成された。大学生の抑うつの早期発見・早期対応においてインフォー マルな援助資源を活用する際には, 特に初期対応の実行に伴うリスク予期を軽減させるアプローチが重要であると考えられる。
著者
澁谷 拓巳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.373-387, 2020-12-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
35
被引用文献数
1

項目反応モデルの多くはカテゴリカルな観測変数を対象とするものだが,中には反応時間や回答への確信度といった連続量の観測変数を対象としたモデルも提案されている。本研究では連続した観測変数をベータ分布でモデリングしたNoel & Dauvier (2007) のモデルを拡張し,新たな項目反応モデルを提案する。本研究では,先行研究では示されていなかった,EM法による周辺最尤推定法による項目パラメタ推定方法の定式化と,推定の標準誤差の解析的な導出をおこない,パラメタの等化可能性について議論する。シミュレーションにより,提案手法の真値とのRMSEは0.1程度で推定されることと,EM法による推定が項目数が少ない条件下であっても安定していることが分かった。本来は連続変数として想定されてはいないものの観測カテゴリ数の多い実データに提案手法を適用したところ,比較的小さな標準誤差の推定値が得られることと,能力推定値は段階反応モデルで推定した結果と高く相関していることを示した。
著者
山森 光陽
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.71-82, 2004-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究では, 中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するのか, また持続させている生徒とはどのような生徒なのかについて検討を行った。具体的には, 中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するものであるのかを生存時間分析を用いて検討し, さらに, 学習意欲を持続させている生徒とはどのような生徒なのか, またどのようなことが切っ掛けとなって学習意欲が失われるのかを検討した。その結果, 中学校1年生の英語の学習においては, 初回の授業では9割以上の生徒が英語の学習に対して高い学習意欲を有していることが確認された。しかし, それを持続させることが出来たのは6割程度の生徒であったことが確認された。また, 1年間の中でも, 特に2学期において学習意欲が低くなる生徒が顕著に多いことが, 本研究の結果明らかになった。さらに, 試験で期待通りの成績が得られたかどうかではなく,「もうこれ以上がんばって勉強できない」と感じることの方が, その後の学習意欲の変化に影響を及ぼす可能性のあることが示唆された。さらに, 学習意欲が上昇する生徒についても考察を行った。
著者
山本 寿子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.127-136, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

単語アクセントには, 地域差や世代差によるゆれが見られる。日本人母語話者は, そのようなアクセントのゆれに対しても, 音韻情報に基づいて意味を解釈することで, 支障なくコミュニケーションを進めることができる。本研究は, このようなアクセントのゆれへの耐性が, いつから, どのようにして獲得されるのかを調べるために, 年少児(3~4歳)・年中児(4~5歳)を対象に, 正しいアクセント, あるいは誤ったアクセントで発音された単語を聴取し, 該当するターゲット写真を図版から選択する課題を行った。その結果, 年少児のターゲット選択数は, 誤ったアクセントで発音された場合に, より少なくなることが示された。一方, 年中児はアクセントの正誤にかかわらずターゲットを選択することができた。さらに, かな文字の知識がアクセントのゆれへの耐性を促進させる可能性を検討するために, かな文字を習得している幼児と, 未習得の幼児の間で課題遂行成績を比較したところ, 差は見られなかった。これらの結果より, 年中までにアクセントのゆれへの耐性が獲得されることが示された。考察では, この能力の獲得を促進させる要因について議論を行った。
著者
坪井 裕子 李 明憙
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.335-346, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
1 3

本研究の目的は自己記入式のYouth Self Report (YSR) と職員が評価するChild Behavior Checklist (CBCL) を用いて虐待を受けた子どもたちの行動と情緒の特徴を明らかにするとともに, 臨床的応用可能性を探ることであった。児童養護施設に入所中の子ども142名を対象に, YSRとCBCLを実施した。両方有効だったのは124名 (男子75名, 女子49名) だった。問題行動得点では, CBCLとYSRの間で一定の相関が認められたが, コンピテンスに関しては両者で捉え方が異なる可能性が示された。被虐待体験の有無による比較では, CBCL, YSRいずれにおいても被虐待体験が子どもの行動や情緒の問題に影響を及ぼすことが確認された。職員は子どもが気づきにくい「社会性の問題」や「注意の問題」などを客観的に捉えることが示された。反面, 「身体的訴え」や「思考の問題」など, 子ども側の主観的な問題を捉えにくいことが挙げられた。臨床的応用例の検討からは, 自己評価と他者評価を組み合わせることによって, 虐待を受けた子どもの行動と情緒の問題を, より多面的に理解できることが示唆された。
著者
小野田 亮介 松村 英治
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.407-422, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
26
被引用文献数
3 4

本研究の目的は, 低学年児童の意見文産出活動を対象として (1) マイサイドバイアスの克服におけるつまずきの特徴を解明し, (2) マイサイドバイアスを克服するための指導方法を提案することの2点である。2年生の1学級32名を対象とし, 1単元計5回の実験授業を行った。その結果, マイサイドバイアスの克服におけるつまずきとして, 反論を理由なしに否定する「理由の省略」と, 反論と再反論の理由が対応しないという「対応づけの欠如」が確認された。一方, 他者の意見文を評価する活動においては, 児童は反論想定とそれに対応した再反論を行っている意見文を高く評価していた。そこで, 児童は「良い意見文の型」を理解してはいるが, その産出方法が分からないためにマイサイドバイアスを克服できないのだと想定し, 児童が暗に有している「良い意見文の型」を児童の言葉から可視化する指導を行った。その結果, 児童は教師と協働で「良い意見文の型」を構築・共有することができ, その型を基に独力でマイサイドバイアスを克服した意見文産出ができるようになることが示された。
著者
坪井 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.110-121, 2005-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
5 6

本研究の目的は児童養護施設に入所している虐待を受けた子どもたちの行動と情緒の特徴を明らかにすることであった。児童養護施設に入所中の子ども142人 (男子: 4~11歳40人, 12~18歳45人, 女子: 4~11歳 25人, 12~18歳32人) を対象に, Child Behavior Checklist (CBCL) の記入を職員に依頼した。その結果, 女子は男子に比べて内向尺度得点が高く, 特に高年齢群女子は身体的訴えと社会性の問題の得点が高かった。被虐待体験群 (n=91) と被虐待体験のない群 (n=51) に分けて比較したところ, 社会性の問題, 思考の問題, 注意の問題, 非行的行動, 攻撃的行動の各尺度と外向尺度, 総得点で, 被虐待体験群の得点が有意に高かった。被虐待体験群は, 社会性の問題, 注意の問題, 攻撃的行動, 外向尺度, 総得点で臨床域に入る子どもの割合が多かった。虐待を受けた子どもの行動や情緒の問題が明らかになり, 心理的ケアの必要性が示唆された。
著者
大平 勝馬
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.1-12,59, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
39

本論文は筆者の検討せんとする身体的成熟度と精神発達との相関的研究に関する基礎的研究として, 身体的成熟度の指標とせる手根骨化骨核成長の標準値を求め, 更にその標準から求めた身体的成熟度の妥当性を検討したものである。(1) 標準成績はまず自0才至15才間1022名の手腕関節化骨核X線像に基づき, 核出現率, 出現化骨核X線像の平面測定による面積によつて作成した。(2) 化骨核面積は身長との間に高い相関を有することを認めた。(3) 次に体格の条件を考慮して, Gaussの最小自乗法に基づき「手根骨化骨核面積個人別標準及び骨格年令算出公式」を作成し, それから成熟指数を算定することにした。(4) 本公式より算出せる成熟指数と, 核出現率あるいは年令別面積標準値から求めた成熟指数との間に億高い一致度がある。(5) 更に公式より算定せる成熟指数と, 成歯状態, 初潮年令, 身長体重の増加, 体質係数より求めた発育指数との相関を検討せる結果, 体質係数との間以外は一般的に高い相関を示し, 筆者の定めた身体的成熟度に可成りの妥当性を認めた。(6) なお成熟指数によつて示される身体的成熟度には, 遺伝的要因が著しく多いことを認めた。
著者
阿部 晋吾 太田 仁
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.294-304, 2014-12-30 (Released:2015-03-30)
参考文献数
51
被引用文献数
4 1

本研究では中学生を対象に, 自己愛傾向の程度によって, 教師からの叱りの動機推測が援助要請態度に及ぼす影響に差異がみられるかどうかを検討する質問紙調査を行った。その結果, 教師からの叱りに対して向社会的動機を推測するほど, 援助適合性認知は高くなる一方, 自己中心的動機を推測するほど, 援助適合性認知は低くなることが示された。自己中心的動機の推測はスティグマ認知にも影響を及ぼしていた。また, 自己愛傾向の高い生徒は, 向社会的動機の推測の影響が弱く, 自己中心的動機の推測の影響が強いことも明らかとなった。
著者
佐藤 寛 今城 知子 戸ヶ崎 泰子 石川 信一 佐藤 容子 佐藤 正二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.111-123, 2009-03-30
被引用文献数
1 11

本研究の目的は,学級単位で担任教師が実施することのできる,児童の抑うつに対する認知行動療法プログラムの有効性について検討を行うことであった。小学5〜6年生の児童310名を対象とし,150名が介入群に,160名が統制群に割り付けられた。介入群の児童に対して,心理教育,社会的スキル訓練,および認知再構成法を中心的な構成要素とする,9セッション(1セッション45分)からなる学級規模の集団認知行動療法プログラムが実施された。その結果,介入群の児童は統制群の児童に比べて抑うつ症状が大きく低減していた。さらに,介入群の児童は抑うつ尺度のカットポイントを超える割合が低くなっていたが,統制群ではカットポイントを超える児童の割合に変化は認められなかった。介入群の児童は,介入目標とされた社会的スキルと認知の誤りにも介入前後で改善が見られ,全般的な主観的学校不適応感も軽減され,抑うつや認知行動的対処に関する一般的な理解度が高まるといった効果が認められた。最後に,子どもの抑うつに対する心理学的介入プログラムの有効性や実用性を向上させるために必要とされる点について議論された。
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.338-347, 2010 (Released:2012-03-07)
参考文献数
28
被引用文献数
9 3

本研究の目的は, 青年の友人関係における“異質な存在にみられることに対する不安”(被異質視不安)と“異質な存在を拒否する傾向”(異質拒否傾向)について, 青年期における変化と, 友人関係満足度との関連を明らかにすることであった。中学生260名, 高校生212名, 大学生196名を対象に, 被異質視不安項目, 異質拒否傾向項目, 友人関係満足度項目について回答を求めた。被異質視不安項目と異質拒否傾向項目をあわせて因子分析を行ったところ, 「被異質視不安」と「異質拒否傾向」に相当する因子が抽出された。友人関係満足度を含めて, 青年期における変化を検討したところ, 異質拒否傾向は変化せず, 被異質視不安は減少し, 友人関係満足度は高校生女子が低いことが明らかとなった。さらに, 異質拒否傾向, 被異質視不安, 友人関係満足度の関連をパス解析にて検討した結果, 女子及び高校生男子において, 異質拒否傾向が友人関係満足度を低め, 大学生男子以外で, 異質拒否傾向が被異質視不安を高め, さらに, 高校生女子と大学生男子において, 被異質視不安が友人関係満足度を低めていることが明らかとなった。
著者
酒井 厚 菅原 ますみ 眞榮城 和美 菅原 健介 北村 俊則
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.12-22, 2002-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
42
被引用文献数
9 9

本研究では, 中学生の学校適応の諸側面について, 親および親友との信頼関係との関連から検討した。学校適応は, 教室にいるときの気分 (反抗的・不安・リラックス) と学校での不適応傾向 (孤立傾向・反社会的傾向) について測定した。縦断研究に登録されている中学生270名 (13.7歳) とその両親 (母279名; 父241名) を対象に解析を行い以下の結果を得た。1) 親子相互の信頼感において, 子どもの学校適応に影響を与えているのは子が親に抱く信頼感の方であり, 親が子に抱く信頼感は関連が認められなかった。また, 子が親に抱く信頼感に関しては, 母親に対するものばかりではなく父親に対する信頼感も学校適応に重要な役割を担うことが示唆された。2) 親子間相互の信頼感得点の高低から分類した親子の信頼関係タイプによる結果では, 総じて親子相互信頼群の子どもの学校適応がほぼ良好であるのに対し, 親子相互不信群の子どもは学校に不適応な傾向が示された。3) 親友との信頼関係が学校適応に与える影響に関しては, 学校で不適応な傾向にある親子相互不信群において特徴が見られ,「孤立傾向」や「リラックスした気分」の変数では学校への適応を良くする防御要因として働く一方で,「反社会的傾向」の得点はより高めてしまうという促進要因ともなりうることが示された。
著者
後藤 由佳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-12, 2014-03-30 (Released:2014-07-16)
参考文献数
14
被引用文献数
1

英単語のclimbは手足を使って自力で登ることを意味するが, 日本語訳の「のぼる」にはそのような限定はない。本研究は大学生を対象として, 英単語のこのような意味範囲の理解を扱った。実験1ではまずテスト群の大学生(n=44)のデータから, 基本動詞climb, memorize, borrow, teach, put onの意味範囲の理解が不十分であることを示し, 次に, 辞書の「語法」の記述を読む辞書群(n=101)では意味範囲の把握がある程度促進されることを示した。実験2では, 誤文指摘練習をする練習群(n=39), 意味範囲を間違って使用し現実にはあり得ないような意味になるエピソードを読むエピソード群(n=45)を設定し, 実験1の辞書群と比較して効果を検討した。その結果, 練習群とエピソード群では事後テストの正答率は約90%となり, 実験1の辞書群の75%を上回った。またエピソード群では学習者の動機づけも高めることができた。さらに, 英単語の学習方略と教授・学習方法の組み合わせによって動機づけに交互作用(ATI)が生じることが示唆された。
著者
数井 みゆき 遠藤 利彦 田中 亜希子 坂上 裕子 菅沼 真樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.323-332, 2000-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
5 20

本研究では現在の親の愛着とそれが子の愛着にどのように影響を及ぼしているのかという愛着の世代間伝達を日本人母子において検討することが目的である。50組の母親と幼児に対して, 母親には成人愛着面接 (AAI) から愛着表象を, 子どもには愛着Qセット法 (AQS) により愛着行動を測定した。その結果, 自律・安定型の母親の子どもは, その他の不安定型の母親の子どもよりも, 愛着安定性が高いことと, 相互作用や情動制御において, ポジティブな傾向が高いことがわかった。また特に, 未解決型の母親の子は, 他のどのタイプの母親の子よりも安定性得点が低いだけでなく, 相互作用上でも情動制御上でも, 行動の整合性や組織化の程度が低く混乱した様子が, 家庭における日常的状況において観察された。ただし, 愛着軽視型ととらわれ型の母親の子どもは, 安定型と未解決型の母親の子どもらの中間に位置する以外, この両者間での差異は認められなかった。愛着の世代間伝達が非欧米圏において, 実証的に検証されたことは初めてであり本研究の意義は大きいだろう。しかし, さらなる問題点として, AAIやAQSの測定法としての課題と母子関係以外における社会文化的文脈の愛着形成への影響という課題の検討も今後必要であろう。
著者
芝崎 美和 山崎 晃
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.256-267, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

本研究の目的は, 児童の謝罪が幼児と同様に罪悪感によって規定されるか否かを明らかにし, 違反発覚の有無という点で異なる約束違反場面と欺き場面での加害児の謝罪についての児童の予測が罪悪感認識の程度と関連するか否かについて明らかにすることであった。調査対象者は小学2年生87名, 4年生86名, 6年生79名であった。分析の結果, 以下の3点が明らかになった。第1に, 所有物の持ち去り場面で加害児の行動として謝罪を推測した者は罪悪感低群よりも高群で多く, 反対に自己中心的方略を推測した者は罪悪感高群よりも低群で多かった。第2に, 約束違反場面では加害児の行動予測に罪悪感認識の高低による違いはみられず, 加害児の罪悪感の程度にかかわらず謝罪が多く予測された。第3に, 欺き場面では, 罪悪感認識の高低によって謝罪を推測する程度には違いがみられなかったが, 罪悪感低群では自己中心的方略を推測した者が多く,他方,罪悪感高群では, 向社会的方略を推測した者が多かった。以上のことから, 児童の謝罪が罪悪感に規定される程度は違反の種類によって異なり, 所有物の持ち去り場面での児童の謝罪は罪悪感と関連するが, 約束違反場面での謝罪は罪悪感と関係しておらず, 違反が発覚しない欺き場面では, 罪悪感は謝罪ではなく向社会的方略を促すことが示された。
著者
一柳 智紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.373-384, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
21
被引用文献数
4 2

本研究の目的は, 児童の聴くという行為および学習に対する教師のリヴォイシングの影響を明らかにすることである。小学5年生2学級の社会科を対象に, 直後再生課題と異なるタイプの問題からなる内容理解テストを行った。結果, 話し言葉ならびに板書を伴う教師のリヴォイシングが, 児童に発言を自分自身と結びつけて聴く機会を与え, 聴くという行為を支援していることが明らかとなった。さらに教師のリヴォイシングの違いが, 話し合いの中で1)何を, 2)どのように聴くかという, 聴くという行為の2つの側面に影響を与え, 児童の内容理解の仕方にも影響することが明らかとなった。リヴォイシングにより発言児が主題に沿って位置づけられる学級では, 児童が話し合いの流れを捉えて聴いており, 授業内容を授業の文脈に沿って統合的に理解していた。一方教師のリヴォイシングが位置づけの機能を持たないもう一方の学級では, リヴォイシングにより個々の発言内容が明確化されており, 児童は発言の「著者性」を維持したまま自らの言葉で捉えて発言を聴いていた。テストにおいても後者の学級の児童は授業内容を自らの言葉で積極的に捉え直せるように理解していた。
著者
藤田 尚文 福留 広大 古口 高志 小林 渚
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.12-25, 2017 (Released:2017-04-21)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究の目的は自尊感情などのストレス防御因子と心理的ストレス反応の関係を説明することであった。ストレスの窓モデルと命名されたモデルは4つの仮定をもっている。(a)ひとはストレスを受け取る窓を1個以上もっており, ストレスはその窓を通して個人内に侵入してくる。(b)個々の窓の受け取るストレスの強度分布は, 認知的評価をした結果, 値が基準化され, 平均を0, 分散を1とする正規分布の右側半分である。(c)個々の窓は, それぞれ独立に機能し, 侵入してきたストレスを受け取り, ストレスの強度を2乗したものがストレス反応となり, 最終的に個人のストレス反応は各窓から受け取った総和となる。(d)ストレスの窓の個数は防御因子と密接に関連し, 防御因子が強ければストレスの窓が少なく, これが弱くなるにつれてストレスの窓が多くなる。これらの仮定の数学的帰結として, 防御因子の強弱によって層化された各群のストレス反応が, 窓の個数分の自由度をもつχ2分布となる。本モデルは防御因子として消極的自尊感情や楽観性を用いたときストレス反応の分布をよく近似できた。さらに素因ストレスモデルにおける交互作用は本モデルから数学的に導かれることが本論文で議論された。