著者
水野 将樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.170-185, 2004-06-30
被引用文献数
1

青年の友人関係について扱った先行研究の多くはアイデンティティ理論などの視点に基づくトップダウン的なものであり,主体としての青年の認識が扱われることはなかった。そこで,本研究では既存の理論に基づく仮説検証型研究ではなく,あくまで主体である青年自身から得たデータに基づいて知見を得る質的研究,その中でも方法論が整っているグラウンデッド・セオリー・アプローチを採用して青年が信頼できる友人との関係をどのように捉えているかというリサーチクエスチョンの下,調査・分析を行った。その際,「信頼」を鍵概念に,「友人」は親友などに限定し,実情に合わせて「青年」の範囲を18〜30歳とするなどの工夫をした。学生,フリーター,社会人の男女19名に対し半構造化面接を実施し,得られた発話データをカテゴリーに分類することを通じて分析した。その結果,友人との信頼関係の構造・形成・意味づけについて,6つの仮説的知見を得て,それに基づいて青年の友人との信頼関係認識についての仮説モデルを生成した。研究全体としては,青年は友人との信頼関係を「自分」という存在と不可分に捉えていること,その信頼関係は「安心」を中心とした関係であること,などの示唆が得られた。
著者
岩男 卓実
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.11-20, 2001-03-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,文章の準備書きにおいて,図的な外的表象である階層的概念地図を利用する効果を検討することである。この時,文的な外的表象である箇条書きを利用する群および,準備書きを作成せず,知識語り方略で文章を書く群と比較することで,文章生成のプランニングにおける外的表象の働きについて検討した。更に,準備書きに表現された因果関係が,文章生成に与える影響を調べた。準備書きにおいて外的表象を利用した2つの群の文章は,準備書きを作成しない群のそれよりも,量も多く,質的にも優れていた。準備書きを作成する2つの群を比較したところ,図的な外的表象を準備書きとして利用する概念地図群の被験者は,箇条書き群の被験者に比べ,より分かりやすい文章をより短時間で書くことができていた。
著者
田島 充士
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.318-329, 2008-09-30
被引用文献数
1

本研究では学習者が,科学的概念と日常経験知との関係を,対話を通して解釈できることを「理解」と捉えた。そして,この理解達成を促進する方法として,教師が学習者らの発話を引用しながら,より深い解釈を行う対話へ誘導する「再声化(O'Connor & Michaels,1996)」に基づいて作成した介入法を取り上げ,その効果の検討を行った。大学生26名を対象に,2名1組の実験参加者組に分かれ,対話を通して課題とした科学的概念と日常経験知の関係を解釈するよう求めた。そして,ここで作成された解釈が両者の関係を十分に説明できないものであった場合,さらに対話を続けてもらい,同時に調査者が再声化介入法に基づいた介入を行った。その結果,再声化介入には,1)理解の達成に効果があるトランザクション対話(Berkowitz & Gibbs,1983)を増加させ,2)説明内容における日常経験知のメタファーも増加させる効果があり,最終的に概念理解を達成できる実験参加者を有意に多く生じさせたことが明らかになった。以上の結果から再声化介入法には,理解達成を促進する効果があると考えられ,本介入を活用した新たな授業実践の可能性について考察がなされた。
著者
詫摩 武俊
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.237-240,254, 1968
被引用文献数
5

延べ組数にして543組のMZ, 134組のDZに集団式知能検査を実施した。<BR>どの知能検査の結果においても, またほとんどすべてのサブテストの結果においてもMZ間の相関はDZ間の相関より高く, 知能検査の成績を規定している機能に遺伝性が働いていることは疑い得ない。しかし, 遺伝性の強さは, サブテストの種類によって差があり, 一般に精神作用の速度をとくに必要とする問題, 言語記憶に関する問題, 計算に関する問題, 図形の空間的配置に関する問題では, 遺伝性係数が高く, これに対して過去の経験にてらして判断する問題では低かった。この資料は知能を構成する下位機能の特色について知る一つの手がかりであるが, このデーターの一義的な解決はまだ困難である。
著者
谷 冬彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.265-273, 2001-09-30
被引用文献数
2

本研究の目的は, Erikson理論に基づいて, 第V段階における同一性の感覚を測定する多次元自我同一性尺度(MEIS)を新たに作成し, 青年期における同一性の感覚の構造を検討することである。Eriksonの記述に基づき, 「自己斉一性・連続性」「対自的同一性」「対他的同一性」「心理社会的同一性」の4つの下位概念が設定された。20項目からなるMEISを大学生390名(18-22歳)に施行し, 因子分析を行ったところ, 4つの下位概念に完全に対応する4因子が得られた。α係数, 再検査信頼係数, 2時点での因子分析における因子負荷量の一致性係数などの結果から, 高い信頼性が確認された。また, EPSIとの関連から併存的妥当性が確認され, 自尊心尺度, 充実感尺度, 基本的信頼感尺度との関連から構成概念的妥当性(収束的・弁別的妥当性)が確認された。また, 年齢が高くなるほどMEIS得点が高くなるという結果から, 発達的観点からの構成概念的妥当性も確認された。このように信頼性・妥当性の高い多次元自我同一性尺度(MEIS)が作成され, 青年期における同一性の感覚は4次元からなる構造であることが示唆された。
著者
宇佐美 慧
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.163-175, 2010-06-30
被引用文献数
1 7

小論文試験や面接試験,パフォーマンステストなどに基づく能力評価には,採点者ごとの評価点の甘さ辛さやその散らばりの程度,日間変動といった採点者側のバイアス,および受験者への期待効果,採点の順序効果,文字の美醜効果などの受験者側のバイアス要因の双方が影響することが知られている。本論文ではMuraki(1992)の一般化部分採点モデルを応用して,能力評価データにおけるこれら2種類のバイアス要因の影響を同時に評価するための多値型項目反応モデルを提案した。また,母数の推定については,MCMC法(Markov Chain Monte Carlo method)に基づくアルゴリズムを利用し,その導出も行った。シミュレーション実験における母数の推定値の収束結果から推定方法の妥当性を確認し,さらに高校生が回答した実際の小論文評価データ(受験者303名,採点者4名)を用いて,本論文で提案した多値型項目反応モデルの適用例を示した。
著者
澤田 匡人
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.185-195, 2005-06-30
被引用文献数
1

本研究の目的は, 妬み感情を構成する感情語の分類を通じて, その構造を明らかにすることであった。研究1では, 児童・生徒92名を対象とした面接調査を実施し, 172事例の妬み喚起場面を収集した。事例ごとの12語からなる妬み感情語リストへの評定に基づいた数量化III類を行って解析した結果, 妬み感情は2つの軸によって3群に分かれることが示された。研究2では, 児童・生徒535名に対して質問紙調査を実施し, 8つの領域に関する仮想場面について, 12の感情語を感じる程度を評定させた。因子分析の結果, 妬み感情は「敵対感情」「苦痛感情」「欠乏感情」の3因子構造であることが確認された。また, 分散分析の結果, (1)敵対感情の得点は, 能力に関連した領域に限り, 女子よりも男子の方が高く, (2)苦痛感情と欠乏感情の得点は, 学年が上がるのに伴って増加する傾向にあることが明らかとなった。このことは, 加齢と領域の性質が妬み感情の喚起に寄与していることを示唆するものである。
著者
垣花 真一郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.241-251, 2005-06-30

清音文字の呼称と濁音文字の呼称の間には, 弁別素性[voice]の価が負から正へ変化するという関係がある。濁音文字習得に際し, 子どもがこの有声化の関係を利用しているかが3つの研究により検証された。研究1では, 4-5歳の濁音文字初学者が, 有声化の基底事例として清音文字-濁音文字の呼称(例か(ka)→が(ga))を提示された場合に, 与えられた清音文字の呼称(例た(ta))から, 対応する未知の濁音文字(だ(da))の呼称を推測できるかが検証された。その結果, 半数近くの者にこれが可能であることが示された。研究2では, 4歳児の濁音文字習得の中後期群に対して, 非文字の清音文字-濁音文字対を目標事例とする類推課題(例X(pa)→X゛(ba))を実施し, 9割程度の者に非文字の濁音文字呼称の推測が可能であることが示された。研究3では4-5歳の濁音習得途上の子どもの読字検査データを分析し, [voice]の関係に違反した"ば行"の習得が他の濁音文字に比べて困難であることが示された。3つの研究から, 子どもは濁音文字の呼称を単純な対連合ではなく, 既習の清音文字-濁音文字の関係を基にした類推によって習得していることが示唆された。
著者
庭山 和貴
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.79-93, 2020-03-30 (Released:2020-05-01)
参考文献数
33
被引用文献数
10 6

本研究では,授業中の教師の言語賞賛回数の増加によって,生徒の授業参加行動が促進されることで,相対的に問題行動は減少するのかについて検証した。介入対象は公立中学校2年生の通常学級の教師8名と生徒122名(計4学級)であった。生徒指導上の問題発生率について,他学年を統制群として比較した。介入開始前のベースライン期では,言語賞賛が生徒の授業参加行動を伸ばすのに有効であることを教師に対して教示したが,その他は教室内での行動観察のみを行った。介入期では,教師が授業中に自身の言語賞賛回数を自己記録し,この回数を主幹教諭に報告した。主幹教諭は,言語賞賛回数が増えていれば教師を賞賛し,増えていなければ増やすよう奨励した。介入の結果,教師らの言語賞賛回数が増え,各学級の平均授業参加率が上昇した。さらに,生徒指導上の問題発生率は有意に減少した。介入を行わなかった他学年では,生徒指導上の問題発生率の減少は見られなかった。このような効果は,介入終了後のフォローアップにおいても,維持されていた。今後は,このような組織的な支援を学校規模で導入していく手順について,日本の学校教育システムに合わせたものを検討していく必要があると考えられる。
著者
藤井 義久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.455-463, 1995-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
75
被引用文献数
3 1

The purpose of this paper is to review the advances and issues in test anxiety research from the point of educational psychology. According to Mandler and Sarason (1952), test anxiety considered a very important concept in educational practice is defined as “a task-irrelevant reaction debilitating in a task-oriented focus”. But as some researchers have already suggested, the concept of test anxiety is so ambiguous that it is very difficult to measure. Specially, there are main issues resulting differantly through the method of measurement. In the future, a study of the structure and developmental mechanism of test anxiety is to be emphasized, examining current test environments from the point of test anxiety level.
著者
倉八 順子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.227-239, 1994-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
79

This article is broadly concerned with the individual differences among language learners. In terms of particular content areas of Individual Differences (ID) research, it surveys developments in foreign language aptitude, motivation and affective factors, and interaction of learners' aptitudes and teaching methods which is called Aptitude Treatment Interaction (ATI). A brief review of theory of second language acquisition is presented, followed by discussions of research on aptitude. Motivation research is reviewed partly with regard to Gardner's research, followed by other researches including those in Japan. Finally, the review of ATI research are presented to emphasize attempts to investigate adaptive education to individual differences. The article concludes with a section on future issues in ID research in Japan.
著者
吉田 寿夫 古城 和敬 加来 秀俊
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.120-127, 1982-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
5
被引用文献数
49 52

The purpose of the present study was to investigate the developmental process of self-presentation in children on the basis of its relation to the development of cognition of evaluation (which the target person of the self-presentation (TP) held toward the presenter) and to the development of social approval need.Ss were second, third, and fifth grade elementary school children. In order to investigate the above problem, the following four studies were conducted.In study I, we investigated the development of cognition concerning the way in which the TP evaluated the presenters with different kinds of self-presentation.In study II, from the standpoint of age and sex, the dominance of ability aspects and personality aspects in social approval need were investigated.In study III and IV, we investigated the developmental process of self-presentation on one's actual ability. In study III, TPs were classmates who most frequently made contact with the Ss, and in study IV, TPs were university students who did not know the Ss at all.According to the results from study I-IV, we inferred the following developmental process concerning self-presentation in children.1) Because even second grade children recognized that a self-deprecating presenter's personality was evaluated more highly than a self-enhancing presenter's personality, they could present themselves deprecatingly (modestly).2) With an increase in the number of TPs whom third grade children were conscious of, they would learn to present themselves deprecatingly, not only to known TPs, but also to newly met TPs as well.3) Moreover in the case of fifth grade girls, codnition which influenced self-presentation differentiated depending on the TP. That is, in case the TP knew them well they based their self-presentation on the TP's cognition about them, and in case the TP did not know them at all they presented themselves enhancingly in a way they could conceal their negative points.
著者
松沼 光泰
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.414-425, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

本研究では, 学校現場で指摘される現在完了形の学習の問題点を踏まえ, 教育心理学で得られた知見を生かした授業方法を考案しその効果を検討した。高校1年生の生徒が現在完了について2種類の授業方法で学習した。実験群の授業は,「(1) 現在完了の学習内容を教師の側からあらかじめ体制化して教授する」,「(2) 現在完了の課題を行う際に, 図を用いるという学習方略を教授する」という2点で統制群の授業と異なっていた。また, 補足的に, 教授した学習方略の遂行と学習方略の有効性及びコストの認知の関連性, 介入授業が学習意欲に及ぼす影響, 介入授業に対する生徒の興味という点についても調査した。分析の結果,「(1) 授業直後においても約1ヵ月後においても, 実験群のテスト成績は, 統制群を上回った」「(2) 教授された方略を遂行する生徒は, 遂行しない生徒に比べて, 方略を有効であると認知しており, また, 前者は, 後者に比べて, テスト成績が良かった」「(3) 実験群は統制群に比べ介入後に学習意欲が高まり, 授業に対する興味も高かった」ということが示唆された。
著者
北尾 倫彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.1-5,76, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
1

1 ひらがな文と漢字まじり文の読みやすさを比較するために3つの実験を行なつた。2 実験Iにおいては, 読みの速さが比較されたところ, 漢字まじり文の方がひらがな文より3試行を通じて速く読まれたが, 読みの回数を重ねるにつれてその差は小さくなつた。3 実験IIにおいては, 読書時のeye-voice spanが比較されたところ, 文字数を指標とするとこの両文間に差がなかった。4実験IIIにおいては, この両文にクローズ法を適用したところ, 漢字まじり文の方がひらがな文より高い正答率を示した。5 3実験の結果から, ひらがな文と漢字まじり文の読みやすさの差は言語経験の差によつて意味性がことなるためであることが示唆された。
著者
伊藤 拓 竹中 晃二 上里 一郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.162-171, 2005-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
47
被引用文献数
11 2

多くの抑うつの心理的要因が提唱される中, 抑うつの心理的要因の共通点や抑うつを引き起こす共通要素についての検討はほとんどなされていない。本研究では, この点に着目し, 従来の代表的な抑うっの心理的要因である完全主義, 執着性格, 非機能的態度とネガティブな反すうの関連を明らかにするとともに, 完全主義, 執着性格, 非機能的態度からうつ状態が引き起こされる上で, ネガティブな反すうが重要な共通要素として機能しているかを検討した。大学生 (N=191) を対象とした8ヶ月間の予測的研究を行った。その結果,(1) 完全主義, 執着性格, 非機能的態度という異なる抑うつの心理的要因は, 共通してネガティブな反すう傾向と正の相関があること,(2) これらの心理的要因が高くても, うつ状態が直接的に引き起こされるわけではなく, ネガティブな反すう傾向が高い場合にうつ状態が引き起こされることなどが示された。以上のことから, 完全主義, 執着性格, 非機能的態度という異なる抑うつの心理的要因からうつ状態が引き起こされるメカニズムには, ネガティブな反すう傾向が共通要素として介在していることが示唆された。
著者
内藤 俊史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.60-67, 1977-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
56
被引用文献数
1
著者
深谷 達史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.236-251, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
64
被引用文献数
7 4

学習中のモニタリングについて, 学習した複数のテキストに対し, 各テキストの学習の度合いを評定させ(学習判断), 学習判断値と実際のテスト成績との間の個人内連関を算出することで検討がなされてきた。本研究では, 独立の研究における統計的分析の結果をデータとして統合的分析を行うメタ分析を用いて, 学習したテキストに対してなされる学習判断(メタ理解)の正確さに影響を与える要因を検討した。39編の論文における63研究から収集された161統計値を対象に分析を行ったところ, 中央値.270(四分位偏差.101)という値が示され, 読み手が必ずしも十分なモニタリング能力を保持していない可能性が示唆された。また, テキストの困難度, 表象レベル, 学習判断の指標, 課題の実施順序という4つの要因の影響を調べたところ, テキスト困難度では「困難」よりも「標準」の方が, 学習判断の指標では「理解の容易度」よりも「テキスト理解度」の方が高いという結果が得られた。一方, 課題の実施順序と表象レベルに有意な差は見られなかった。最後に, メタ分析の一般的問題に関する本研究の位置づけを示すとともに, 本研究の限界と今後の研究への示唆を考察した。
著者
岡本 祐子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.295-306, 1985-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
7 1

The purposes of this study were to clarify the characteristics of psychological changes in middle age from the viewpoints of eight stages of ego identity in Erikson's Epigenetic Scheme (1950), and to specify the reconfirmation process of ego identity and identity status. Method: a sentence completion test (SCT) was carried out by 49 subjects between 40 and 56 years old, and an interview was done to 22 of them. Results: (1) There were positive and negative aspects in the psychological changes in middle age.(2) The process of ego identity reconfirmation in middle age had the following four stages: a) The crisis period with the awareness of the changes of somatic sensation; b) The period of the psychological moratorium; c) The period of modification or turnabout of the life track; and d) The period of ego identity reconfirmed.(3) Four Identity Statuses were specified by the analysis from the viewpoint of Marcia (1964)'s identity status. These findings suggested that middle age was one of the transitional period in life cycle playing an important role for identity achievement.
著者
中間 玲子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.374-386, 2013 (Released:2014-05-21)
参考文献数
44
被引用文献数
8 3

本研究は, 恩恵享受的自己感との比較を通して, 自尊感情と心理的健康との関連を再考することを目的とした。恩恵享受的自己感とは自己の周りの環境や関係性に対する肯定的感情から付随的に経験されるであろう自己への肯定的感情である。心理的健康としては幸福感および主体性の側面をとりあげた。大学生306名を対象とした質問紙調査(研究1)において、幸福感・内的統制感は自尊感情・恩恵享受的自己感の両方と有意な関係にあることが示され、自尊感情と共に恩恵享受的自己感も心理的健康に関連する重要な概念であると考えられた。大学生173名を対象としたネット調査(研究2)の結果からもその見解は支持された。また、女性は男性よりも自尊感情の得点が低いが恩恵享受的自己感の得点は男性よりも高いこと(研究1)、相互協調性は自尊感情とは負の関係にあるが恩恵享受的自己感とは正の関係にあること(研究2)から、恩恵享受的自己感は、性役割や文化的価値による抑制を受けない自己への肯定的感情であると考えられた。一方、自律性・人生の目的意識との関連(研究1)から、他者との対立を凌駕するような強い主体性とは自尊感情のみが関連することが明らかとなった。
著者
小高 恵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.333-342, 1998-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
16 1

The purpose of this study was to examine the factorial structure of adolescents' attitudes and behaviors towards their parents, and to suggest a framework for understanding a psychological weaning process. First, 379 male and 422 female undergraduate students were asked to answer questionnaires composed of 105 questions. These questions concerned parent-children relationships. Answers for all questions were analyzed with the factor analysis. Second, primary factor correlations were analyzed through secondary factor analysis. The results showed that the structure of adolescents' attitudes and behaviors towards their parents were composed of five primary factors (1. Favorable influence by their parents; 2. Confrontation with their parents; 3. Obedience to their parents; 4. Affectionate bond with their parents; and 5. Recognition of their parents as an independent single person). Were also found two secondary factors: 1. Affiliation orientation factor; and 2. Objective and independent orientation factors. Third, the author proposed a framework for understanding a psychological weaning process with these secondary factors.