著者
織田 揮準
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.166-176, 1970-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8
被引用文献数
37 13

評定尺度研究の一環として程度量表現用語の意味づけに関する実態調査を, 一対比較法を用いて行なった。選ばれた程度量表現用語は,(1) 実現の程度量 (確信) 表現用語 (16語),(2) 現実の程度量表現用語 (18語),(3) 時間的程度量 (頻度) 表現用語 (16語), および,(4) 心理的時間表現用語 (18語) であり, 調査対象は小学4年生 (延べ2,588名), 小学6年生 (延べ2,379名), 中学2年生 (延べ2,617名) と大学生 (延べ2,084名) であった。程度量表現用語の程度量に関する一対比較判断の結果にもとづき, 判断の比率行列が作られ, また, 尺度値が算出された。その結果, 低学年の理解と大学生群の理解には大きなずれのみられる程度量表現用語のあることが明らかにされ, 評定尺度の作成にあたり, 判断カテゴリー用語の決定は研究者側の理解のみでなく, 同時に被験者群の理解をも配慮しなければならないことが示唆された。
著者
坂上 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.411-420, 1999-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
6 4

本研究では, 人格特性と認知との関連を検討するため, 大学生169名を対象に, 個人の感情特性と図版刺激における感情情報の解釈との関連について調べた。感情特性の指標として, 5つの個別感情(喜び, 興味, 悲しみ, 怒り, 恐れ) の日常の経験頻度を尋ねた。また, 感情解釈の実験を行う直前に, 被験者の感情状態を測定した。感情解釈の課題としては, 被験者に, 人物の描かれた曖昧な図版を複数枚呈示し, 各図版について, 状況の解釈を求めた上で登場人物の感情状態を評定するよう求めた。両者の関連を調べたところ, 喜びを除く全ての感情特性と, それぞれに対応した感情の解釈との間に, 正の相関が認められた。すなわち, 被験者は, 自分が日頃多く経験する感情を図版の中にも読みとっていた。また, 特定の感情 (悲しみと怒り, 恐れと悲しみ, 恐れと怒り) については, 感情特性と感情解釈との間に相互に関連が認められた。感情特性と感情解釈の相関は, 感情状態の影響を取り除いてもなお認められたことより, 感情特性は, 感情状態とは独立に個別の感情に関する認知と関連を持っていることが示唆された。
著者
金田 茂裕
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.333-346, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
46

教授者は日々の教育実践の中で,具体的に扱う「問題」に加え,それに対する「学習者の取り組み」とも対峙する。本研究では,教授者の知識に関する既存の概念をふまえ「課題知識」と「学習過程知識」の2つを定義し,教授者が各知識を獲得したとき,教授者主導,学習者主体の教授学習法の望ましさ判断をどう変化させるかを検討した。実験の参加者は大学生とし,問題として「答えが複数ある文章題」を設定し,公立小学校5年生を学習者として想定してもらい,課題知識付与群(問題の解法と正解を提示:N=147),学習過程知識付与群(学習者の解答例と出現率を提示:N=136)で,事前事後デザインにより判断の変化を調べた。その結果,問題の難易度が学習者にとりどの程度かの判断の平均評定値は,事前から事後にかけ,2群で同じように上昇したが,教授学習法の望ましさ判断の平均評定値は,2群で異なる方向に変化した。課題知識付与群では,教授者主導を望ましいと判断する傾向が強くなり,学習者主体の傾向は弱くなった。一方,学習過程知識付与群では,教授者主導の傾向が弱くなり,学習者主体の傾向は強くなった。以上の結果は,教授者が課題知識,学習過程知識のいずれを基礎とするかにより,教授学習法の望ましさ判断を異なる方向に変化させることを示唆する。
著者
川岸 弘枝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.170-178, 1972-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
2 3

自己受容及び他者受容は, 対人関係における自己意識 (自己に対する知覚, 感情など) の影響を明らかにするための重要な指標であり, 肯定的態度として測定される。これまでの研究には, 測定スケール, 測定方法, 他者との関係の中に大きな問題点が残されたままになっていた。本研究では, この問題を解決し, 受容について総合的に検討することを目的とし, 主に測度の検討を中心に研究をおこなった。I測定スケールの作製と測度間の関係(1) 多面的に性格を記述する形容詞を選択し, 最終的に141項目からなる受容尺度を作製した。(2) 測定方法としては, 各語について, 社会的に望ましいと思われる語がどのくらいあてはまるか-「社会的受容得点」自己にどのくらい満足しているか-「満足度得点」・個人的に望ましいと思っている枠組みにどのくらいあてはまるか-「個人的受容得点」の3種類の測度について作製した同一の尺度を用いて検討した。その結果, 3測度間に密接な関係が見出されたが, 肯定的態度の基礎としては,「社会的受容得点」がもっとも重要な役割をもつことが明らかにされた。II他者受容との関係と適応についてII-1自己受容と他者受容の関係他者として, 実際に被験者にとって初対面の男女2名に登場してもらい, Iで作製した項目に対して評定を求めた。自己受容各測度との関係を求めたところ, 同性の他者を見る時には, 自己受容得点と関係があるが, 異性の他者を見る時には, 有意な関係がみられず, 性によってちがいが見出された。特に女性の場合, 他者を評定する時, 男性よりも自己に対する態度を反映させる傾向が強いことが示された。II-2適応との関連について自己受容得点の高低と, 他者受容得点の高低とをくみあわせた4つのグループを作り, YGテストの結果から, 特徴を見出そうとした結果, 他者受容の高低とは拘りなく, 自己受容の高い者が適応的, 低い者が不適応の傾向を示し, 防衛的態度を示すと考えられたグループの特徴を明らかにすることはできなかった。将来の課題として, 各個人の評定内容を分析し, 適応理解の手がかりとする研究をすすめる必要があると思われる。
著者
則武 良英 湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.290-302, 2022-09-30 (Released:2022-10-20)
参考文献数
51

高テスト不安者は,試験中に心配思考が生起して成績低下が生じる。テスト不安が最も高まるのは中学2年生ごろの生徒であるが,中学生のテスト不安を緩和するための介入方法はない。本研究の目的は,短期構造化筆記を作成し,中学生のテスト不安と数学期末試験成績に及ぼす影響を調べることであった。研究1では,短期構造化筆記を作成し,予備調査として35名の中学生の日常不安を対象にした介入実験を行なった。その結果,中学生に対する高い適用可能性が示された。そこで研究2では,141名の中学生を対象に,実際の期末試験に対するテスト不安を対象に介入実験を行なった。その結果,本介入により中学生の多様な感情制御が促進され,テスト不安が緩和されたことが示された。さらに,数学期末試験成績に対する効果を調べた結果,高テスト不安中学生において不安減少量が大きい者ほど成績が高かったことが示された。本研究の結果をまとめると,本介入により中学生の感情制御が促進され,テスト不安が緩和されることで,数学期末試験成績の低下が緩和されたことが示された。今後は,介入によって生起する感情制御プロセスの更なる解明が望まれる。
著者
鎌原 雅彦 樋口 一辰
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.177-183, 1987 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
5 5

In study I, Locus of Control Scale developed by Kambara et al.(1982) was administered to 4310 junior high school students, 1416 senior high school students and 1837 college students. By regression analysis, it was found that older students had more external scores than did younger students. In detail, perceived effectiveness of effort showed a relatively great decrease. On the other hand perceived self-determination did not show significance decrease with age. In study II, additional questionnaires concerning attitudes and behaviors in school were administerd to both junior and senior high school students. Older students reported more depressive feelings correlating with internal external locus of control scores.
著者
深谷 達史 植阪 友理 田中 瑛津子 篠ヶ谷 圭太 西尾 信一 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.88-104, 2016-03-30 (Released:2016-04-11)
参考文献数
24
被引用文献数
16 11

学習者同士の教えあいは, 内容の理解だけでなく, 日常的な学習場面における効果的な学習方略の使用をも促す可能性がある。本研究では, 学習法の改善を企図した2つの教えあい講座の実践を報告した。2010年度の予備実践では, 理解することの重要性や教えあいのスキルを教授したにもかかわらず, 生徒の問いが表面的である, 教え手が聴き手の理解状態に配慮しないという問題が確認された。これらの問題は, 生徒が「断片的知識/解法手続きを一方的に教える」という教授-学習スキーマを保持するために生起したものと考えられた。そこで, 2012年度の本実践では, こうしたスキーマに働きかける指導の工夫を取り入れ, 「関連づけられた知識を相互的に教えあう」行動へと変容させることを目指した。高校1年生320名に対し, 講演を中心とした前半と2回の教えあいを中心とした後半(計6時間)の教えあい講座を行った。教えあいの発話と内容理解テストの分析から, 理解を目指したやり取りがなされ, 教えあった内容の理解が促進されたことが示された。また, 説明することで理解状態を確認する方略や友人と教えあいを行う方略の使用が講座により増加したことが明らかとなった。
著者
新原 将義
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.120-131, 2017 (Released:2017-04-21)
参考文献数
22
被引用文献数
7 5

小学校をはじめとする教育現場において, 外部の専門家による授業の機会が増加しており, 特に音楽家が招かれて行われる「音楽アウトリーチ」が活発化している。こうした実践は「ワークショップ型」の形式で行われることが多いが, 教育的意義が不明確なまま同様の実践が乱発されており, 教育現場・専門家の双方で混乱が生じている。この問題に取り組むため, 本研究ではワークショップ型の音楽アウトリーチ実践における音楽家の能動的・即興的な教授行為を, 音楽家・児童間の対話のなかに位置づけて捉えることを目的とし, 小学校において行われた音楽アウトリーチを対象とした相互行為分析を行った。分析の結果, 音楽家の教授行為は(a)課題の単純化(b)集束的プロセスとしての対話の組織化, という2種のスキャフォールディング, 及び(c)拡散的プロセスとしての対話の組織化(d)児童の声の「読み替え」, という4種の形態として整理された。以上の結果を基に, 事前に設定したプログラムによって, そこでどのような対話を行い, 音楽家がどのような働きかけを行うのかが限定されていたことを指摘し, 音楽家・児童双方の即興性を阻害しないプログラムの可能性について考察した。
著者
原岡 一馬
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.29-40,63, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

以上の結果を要約すれば, 〔-〕から,1知能以上の成績を上げた子も, 知能以下の成績しか上げ得なかった子も, 家庭環境を一定とすれば知能と学業成績とは相当高い相関関係を示す (7~8) し, 学業成績は知能と環境との重相関では, ほとんど完全に近い相関係数を示す (88~99)。又どちらも, 知能と環境との相関はほとんど0であった (018~039)。2知能以上の学業成績を上げた生徒は, 知能以下の成績を上げた生徒よりも, 家庭環境得点において有意に高く (田中研究所・家庭環境診断テスト使用), 中でも「子供のための施設」「文化的状態」「両親の教育的関心」が特に大きな差を表わし, 次に「家庭の一般的雰囲気」が重要だと云える。3オーバー・アチーバーのグループでの知能, 学業成績及び家庭環境の関係と, アンダー・アチーバーのグループでのそれらの関係とでは, オーバー・アチーバー内では学業成績を上げるに環境の影響が少なく, アンダー・アチーバー内での学業成績に対する環境の影響は高かった。4又各項目について, オーバー・アチーバーとアンダー・アチーバーとの有意な差を示すもの16を取り上げてみると,(1) 同胞数について, 1人子と6人以上の兄弟を持っているものは, アンダー・アチーバーの方が多かった。(2) 家を引越した数はオーバー・アチーバーの方が多かった。(3) 教科書以外の本が6冊以上ある家は, オーバー・アチーバーの方が多い。(4) 一人当りの部屋数では. 60以上がオーバー・アチーバーの方に多かった。(5) 家に字引が二種類以上あるのは, オーバー・アチーバーの方が多かった。(6) 家で決って子どものために雑誌を取ってもらったことのないのは, アンダー・アチーバーの方が多かった。(7) 新聞を取っていない家庭は, アンダー・アチーバーが多かった。(8) 両親が月に一回以上教会やお寺, お宮に参るかということについて, 「時にはすることがある」というのにオーバー・アチーバーが多く, 「お参りする」「全然しない」の両端は, アンダー・アチーパーの方が多かった。(9) 家庭のお客様の頻度では「普通」がアンダー・アチーバーに多く, 「比較的に少ない」と「比較的に多い」との両端が (8) の場合とは丁度逆にオーバー・アチーバーに多かった。(10) 家庭がいつもほがらかだと感ずるのは, オーバー・アチーバーであった。(11) お母さんの叱り方では, 「全然叱らない」のが多いのはアンダーアチーバーであった。(12) 子どもが家でじゃまもの扱いにされていると全然思わないのは, オーバー・アチーバーが多かった。(13) 両親とも働きに外に出ているのは, アンダー・アチーバーが多かった。(14) 両親が服装や言葉遣い等に全然注意しないのはアンダー・アチーバーが多かった。(15) 子どものことについて, 両親が口げんかをほとんどしないのはオーバー・アチーバーが多かった。(16) 又誕生日に何か送りものやお祝を「たいていする」めはアンダー・アチーバーに多く, 「全然しない」「時にはすることがある」にはオーバー・アチーバーが多かった。5以上のことから考えられることは, 知能以上の学業成績を上げるには文化社会的家庭環境の影響が大であることが多くの研究結果と同様に示された。6次に推論出来ることは全体としてオーバー・アチーバーがアンダー・アチーバーより家庭環箋はよいが, 成就指数が高くなるに従って学業成績に及ぼす環境の影響度は少なくなって行くと云うことであり, 連続的に見れば成就指数と環境との関係グラフは成就指数を横軸に, 環境を縦軸に取れば, 指数曲線状を描きその変化率が次第に減少すると仮定することが出来よう。7ここではオーバー・アチーバーとアンダー・アチーバーの両端を取つて調べたため, その連続的傾向を見ることが出来なかったので, 次に全体調査を行って上の推論を検証することとした。次に〔二〕から1努力係数 (FQ) と家庭環境得点とは正の相関 (γFQ. En=. 302) を有すること,(但しこの場合, その関係グラフは指数曲線状であり, 相関係数は直線を仮定する故低い値となったであろう)。これに比して, 学業成績はFQと高い相関 (γFQA=. 71) を有し, 知能はそれとほとんど無関係である。(γFQI=. 111)2オーバー・アチーバーがアンダー・アチーバーより一般に高い環境得点を有しているが, その関係の程度は努力係数が高くなればなる程低くなる。即ち努力係数と環境との関係は指数曲線状を描く。3努力係数の変動の大部分は学業成績・環境・及び学業成績と知能との交互作用にあり, 知能にはほとんどないのである。しかしながら, 環境が努力係数の変動の中で無視されないほどの変動を有し, 又努力係数と 302の相関を有するということから, 努力係数を構成するには, FQやAQのように知能と学業成績だけから作成されたインデックスだけでは不充分ではなかろうか。そこには当然環境という要素をその重要度に応じて入れることが必要であり, 知能, 環境以外の要素も学業成績に及ぼすものとして学業成績を予測し, 努力を評定した方が合理的の様である。4又これらの結果を更に検証するものとして広範囲の被験者に適用してその普遍性を見出し, 更に学年を広げて, 小学校及び高等学校迄も適用出来るかどうかを試みたいし, 又中学校においては臨床的な事例と対比さしてその問題点を見出し, 環境の変化に基く変化を実験的に考察してみたい。
著者
堤 亜美
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.323-337, 2015
被引用文献数
6

本研究では, 一般の中学・高校生を対象とした, 認知行動療法的アプローチに基づく抑うつ予防心理教育プログラムの実践を行い, その効果を検討した。プログラムは全4セッション(1セッション50分)からなり, 主な介入要素は1)心理教育, 2)感情と思考の関連, 3)認知の再構成, 4)対反芻, であった。中学3年生および高校2・3年生を対象に本プログラムを実施したところ, 分散分析の結果, 中学生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に有意に抑うつの程度と反芻の程度が低減したこと, 高校生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に反芻の程度が有意に低減し, 抑うつの程度が有意に低減した傾向が示された。また, 中学生では実施6ヶ月後, 高校生では実施3ヶ月後の時点において, プログラム実施後の抑うつ・反芻の程度を維持していることも示された。そして感想データの分析の結果, 自分自身や周囲の人たちの抑うつ予防に対する積極性の獲得など, 一次予防や二次予防につながる様々な変化が見出された。これらのことから, 本プログラムは抑うつ予防に対し継続的な有効性を保持するものであることが示唆された。
著者
及川 恵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.185-192, 2002-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
15 11

気晴らし方略は, 失敗すればさらに気分が悪くなり, 非効果的な気晴らしの持続, つまり気晴らしへの依存が生じる可能性もある。本研究では, 適応的な対処方略の使用を促進する介入の示唆を得るために,「どのように気晴らしを行うか」という視点に注目した。はじめに, 先行研究の知見からは不明瞭であった気晴らしの意図と結果の多様性に焦点を当て, 実際の気晴らしのプロセスについて情報収集を行った上で, 質問紙を作成, 実施した。次に, 仮説と尺度構成の結果に基づき, 気晴らしのプロセスに関するモデルを構成し, 共分散構造分析による検討を行った。分析の結果,(a) 気晴らしに集中できないほど気分悪化が強まり, 気分悪化が強まるほど気晴らしへの依存が強まること,(b) 気分調節の自信は気晴らしへの集中を高め, 気分悪化を弱めること,(c)気晴らしの意図には目標明確化志向, 気分緩和志向, 無目標という多様性があり, どのような意図で気晴らしを行うかが集中の程度や結果に影響を及ぼすことが示唆された。プロセスの視点から検討することにより, 気晴らしの依存に至らずに効果的な気晴らしを行うためには, 気分調節の自信と集中, 目標明確化志向に注目した介入が有効であることが示唆された。
著者
岡田 謙介 星野 崇宏 繁桝 算男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.382-392, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
3 3

構造方程式モデリング (SEM) では柔軟なモデル構成が可能であるために, モデルの評価・選択が重要になる。統計的モデル選択において基本となる統計量に尤度比検定統計量Tがあり, SEMでもこれが漸近的にx2分布にしたがう性質を利用した検定が可能である。しかし, 標本サイズが小さいとき検定統計量Tの標本分布はx2分布から正方向に逸脱する。逸脱の度合いは1因子あたりの観測変数数が大きいとき, とくに大きくなる。通常得られる教育心理学データの標本数程度では, この逸脱のため, 適切なモデル選択が行えなくなってしまう。また, 適合度指標の大部分はx2分布にしたがうTの関数として構成されるので, Tの分布のゆがみが直接的に波及する。そこで, 我々は今回TにBartlett補正を適用し, そのx2分布への近似精度を向上させる方法を提案する。モンテカルロ実験により, 提案した方法がTの標本分布のx2分布に対する近似精度を大幅に改善していることを確認する。
著者
清河,幸子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, 2007-06-30

本研究では,他者との協同の中で頻繁に生じると考えられる,自分自身での課題への取り組み(試行)と他者の取り組みの観察(他者観察)の交替が,洞察問題解決に及ぼす影響を実験的に検討した。具体的には,Tパズルを使用し,(1)1人で課題に取り組む条件(個人条件),(2)20秒ごとに試行と他者観察の交替を行いながら2人で課題に取り組む条件(試行・他者観察ペア条件),(3)1人で課題に取り組むが,20秒ごとに試行と自らの直前の試行の観察を交互に行う条件(試行・自己観察条件)の3条件を設定し,遂行成績を比較した。また,制約の動的緩和理論(開・鈴木,1998)に基づいて,解決プロセスへの影響も検討した。その結果,試行と他者の取り組みの観察を交互に行うことによって,言語的なやりとりがなくても,解決を阻害する不適切な制約の緩和が促進され,結果として,洞察問題解決が促進されることが示された。その一方で,試行と観察の交替という手続きは同一であっても,観察対象が自分の直前の試行である場合には,制約の緩和を促進せず,ひいては洞察問題解決を促進することにはならないことが明らかとなった。
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.88-99, 2011-03-30 (Released:2011-09-07)
参考文献数
31
被引用文献数
7 1

本研究の目的は, 共同体感覚を測定するための尺度を作成し, 信頼性と妥当性を検討すること, 及び自己愛傾向との関連を明らかにすることであった。大学生329名, 中学生149名を対象に, 共同体感覚尺度, 学校適応感尺度または大学生活不安尺度, 劣等感項目, 心理的ストレス反応尺度, 自己愛傾向尺度への回答を求めた。共同体感覚に関する項目の因子分析の結果, 「所属感・信頼感」, 「自己受容」, 「貢献感」の3因子が抽出され, またそれらを総合した「共同体感覚尺度」を構成した。内的一貫性及び安定性の観点から, 共同体感覚尺度の信頼性が確認された。学校適応, 劣等感, 心理的ストレス反応との関連から, 共同体感覚尺度の中学生及び大学生で実施する際の妥当性が確認された。さらに, 共同体感覚と自己愛傾向は全体的に正の相関があるが, 臨床像と関連する「注目—主張」成分とは関連があまりみられないことが明らかとなった。
著者
鈴木 雅之 西村 多久磨 孫 媛
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.372-385, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
54
被引用文献数
7 7

本研究では, 中学生の学習動機づけの変化を規定する要因として, 「テストの実施目的・役割に対する学習者の認識」であるテスト観に着目して研究を行った。中学1—3年生2730名を対象に, 定期テストが実施される度に調査を行い(2013年6月, 9月, 12月, 2014年2月の計4回), マルチレベル分析によって学習動機づけとテスト観の個人内での共変関係を検討するとともに, 構造方程式モデリングによって, テスト観が学習動機づけに与える影響について検討を行った。これらの分析の結果, テストの学習改善としての役割を強く認識することによって, 内的調整や同一化的調整といった自律的な学習動機づけが高まることが示された。その一方で, 学習を強制するためにテストが実施されていると認識することによって, 内的調整が低下し, 統制的な学習動機づけとされる取り入れ的調整と外的調整は高まることが示された。以上のことから, 中学生のテスト観に介入することによって, 自律的な学習動機づけを維持・向上させることが可能であることが示唆された。
著者
土肥 伊都子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.187-194, 1996-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

The purpose of this study was to construct a scale to measure the “Gender Identity”, and examine its reliability and validity. First, fifty-six items were rated by 184 male students, and fifty-seven items by 454 female students. Exploratory factor analysis yielded three factors. Three subscales were constructed for both male and female. These subscales were “accepting one's sex or gender”, and “identification with parents”, and “intimacy with the opposite sex”. Each subscale contained ten items. Second, Cronbach's coefficient alpha provided some supports of reliability for each subscale. Third, confirmatory factor analysis provided some supports of validity to create three subscales.
著者
岡田 涼
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.575-588, 2008-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
100
被引用文献数
4 5

近年, 友人関係の形成や維持を動機づけの観点から捉えた研究が増えてきている。しかし, これまでの友人関係研究との理論的な統合がなされていないため, 友人関係に対する動機づけという視点の独自性が明確ではない。本論文では, 友人関係研究と近年の動機づけ研究の知見とを統合し, 適応の支えとなる親密な友人関係が形成, 維持される過程を動機づけの観点から捉えるモデルを構築することを目的とした。最初に, 友人関係と適応や精神的健康との関連を示した知見を概観し, これまでの友人関係研究では, 親密な友人関係を築いているか否かの個人差が説明されていないことを指摘した。次に, 友人関係に対する動機づけを捉える概念を, 達成目標理論, 社会的目標研究, 社会的認知理論, 自己決定理論の観点から検討した。その後, 友人関係に対する動機づけを起点として, 適応の支えとなる親密な友人関係が形成, 維持されるプロセスを捉えるモデルを提唱した。このモデルから, 友人関係に対する動機づけ研究の独自性は, 適応の支えとなる親密な友人関係を築いているか否かの個人差を説明し得る点であることが示唆された。
著者
高井 範子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.317-327, 1999-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33
被引用文献数
4 1

本研究の目的は, 対人関係性の視点から人々の生き方態度の発達変化を検討することにある。調査対象者は男女1695名 (年齢は18歳から88歳) である。結果は次の通りである。(1) 閉鎖性. 防衛性や, 他者依拠的, 自己優先的姿勢は加齢に伴い弱まっていく傾向にあった。逆に, ありのままの自己を生きる姿勢や他者を受容しようとする姿勢は加齢に伴って強くなっていくことが示された。他者受容は女性の方が男性よりも強い傾向にあった。(2) 閉鎖性・防衛性の強い人は, 自己を受容する度合いが低く, 自尊感情や自己の存在価値意識も余り持つことができていず, さらに人生に目標や意味を見出している度合いも低いことが示された。(3) 他者を受容する姿勢を持っている人は, 意味志向的態度で生き, 常に何かの課題に取り組む姿勢を持ち, 自己の存在価値意識をも持つことができていた。また人生に目標や意味を見出している度合いも強いことが示された。(4) ありのままの自己を生きる姿勢を持っている人は, 人生を主体的に生きることができており, そのような生き方態度は中年期以降の女性において著しく強まっていくことが示された。(5) 社会的活動等に積極的に関わっている人は, 閉鎖的・防衛的でも他者依拠的でもなく, 自己優先の姿勢も弱く, 逆にありのままの自己を生きる姿勢や他者を受容する姿勢を強く持っていることが示された。
著者
宮本 美沙子 国枝 加代子 山梨 益代 東 洋
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.206-212, 1965-12-31

この研究は子どものひとりごとについて,1.課題解決中の子どものひとりごとの発言数は,発達的にいかに変化するか。2.課題解決中そこに障害を導入すると,子どもがそれに気づいたあとひとりごとに変化が生じるか,という点を実験的に検証することを目的とした。課題としては,子どもがなじみやすく,遂行中の発言が自由でかつ実験者が困難度を統御しやすいという意味で,ピクチャーパズルおよび自由画を選んだ。子どもが課題遂行中,ピクチャーパズルでは途中で残り数片のうち3片を他のパズルの3片ととりかえ,自由画では子どもの必要としているクレパスを数本ぬく,という障害を導入した。2人を1組とし,そのうち1人を被験者として注目し,4・5・6才児計53名を被験者として実験を行なった。結果を要約すると次のようになる。1.子どもがピクチャーパズルおよび自由画という課題解決時において発した言語では,自己中心性言語が社会性言語をうわまわった。2.課題解決中の発言数は,自己中心性言語数では,5才が最も多く,4才がそれにつぎ,6才が最も少なかった。社会性言語数では年令が増すとともに減少した。3.課題解決中にそこに障害をいれると,子どもが障害に気づく前よりも気づいたあとでは,自己中心性言語が有意差をもって増加した。4.課題解決中子どもが障害に気づくと,気づく前にくらべて,自己中心性言語のうち問題解決的独語が有意差をもって増加した。問題解決的独語と非問題解決的独語との差には有意差があった。以上の結果結論を述べる。1.ひとりごとは,内言の発達における過渡的段階に生じるものとして,発言教は5才まで増大し,その後減少することが見出された。2.課題解決中そこに障害を導入すると,ひとりごとの頻度が増し,かつより問題解決指向的になることが見出された。したがって,本研究に関するかぎりでは,ひとりごとは,自分の行動を統制し,障害に対して問題解決指向的に働く機能をもつ,と結論づけることができる。