著者
葉山 大地 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.393-403, 2010-12

本研究の目的は,友人から冗談を言われて怒りを感じる場面での聞き手の反応を規定する要因を,パーソナリティ要因(拒否に対する感受性)と状況要因(話し手との親密さ,冗談に対する周囲の友人の反応)の観点から検討することである。聞き手の反応には「迎合的反応」,「回避的反応」,「感情表出反応」が含まれる。本研究では場面想定法を使用し,大学生417名(男性169名,女性247名,性別不明1名)を4つの状況(たとえば,「親友が話し手であり,周囲の友人は冗談に対して笑っている」)のうちのひとつに割り当て,その状況において冗談に対してどのように反応するかを回答するよう求めた。分散分析の結果,拒否に対する感受性が高い回答者は,親友が話し手で,かつ周囲の友人が笑っていない状況において,迎合的な反応を行わないと評定することが示された。しかしながら,拒否に対する感受性が高い回答者は,周囲の友人が笑っている場合は,迎合的反応をする頻度を高く見積もっている。この結果は,拒否に対する感受性が高い回答者は,状況によって拒否される可能性を考慮し,自己防衛的な反応を選択していることを示唆している。The purpose of the present study was to examine a personality factor (Rejection Sensitivity: RS) and situational factors (e.g., the relation between the speaker and the listener, and reactions of surrounding friends) as determinants of listeners' reactions to aversive jokes. In the present study, listeners' reactions included compliant reactions, avoidant reactions, and emotionally expressive reactions. University students (169 men, 247 women, 1 person gender not reported) were randomly assigned to 1 of 4 specific situations, such as one in which the listener's best friend is the speaker, and surrounding friends laugh at the joke. The participants were then asked to estimate the frequency of their reactions to aversive jokes in the situation to which they had been assigned. A 3-factor ANOVA mainly showed that participants who were high on rejection sensitivity estimated a low frequency of complaint reactions in situations in which their best friend was the speaker and surrounding friends did not laugh at the joke, whereas those participants estimated a high frequency of compliant reactions in situations in which their best friend was the speaker and surrounding friends did laugh. These results indicate that the participants high on rejection sensitivity assessed the possibility of rejection in each situation and selected their reaction in relation to self-protection.
著者
一柳 智紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.361-372, 2009
被引用文献数
1

本研究の目的は, 児童による話し合いを中心とした授業における児童の聴き方の特徴が, 学級や教科の課題構造の違いによりどう異なるか明らかにすることである。小学5年生2学級において, 担任教師による児童の聴く力の評価と, 社会科と国語科の授業を対象に直後再生課題を行い, 児童による再生記述について, 学級(2)×評価群(高・中・低)×教科(社会・国語)の3要因分散分析を行った。結果, 1)授業中の発言の有無にかかわらず, 「よく聴くことができる」と教師から認識されている児童は, 能動的に発言内容と発言者に注目し, つながりを意識しながら, 自分の言葉で発言を捉えていること, 2)学習課題の違う教科により, 発言のソースモニタリングや話し合いの流れを捉えるといった児童の聴き方の特徴が異なること, 3)学級により, 2)の教科による聴くという行為の特徴は異なることが示された。これにより, 学級や課題構造に伴う話し合いの展開の違いが, 児童の聴くという行為に影響を与えていることが示唆され, 今後より両者の関連を考察することが課題として示された。
著者
川井 栄治 吉田 寿夫 宮元 博章 山中 一英
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.112-123, 2006-03-30
被引用文献数
2

ネガティブな事象に対する認知パタンが自己否定的なものに固定化し,それに伴って自己効力感やセルフ・エスティームが低下することを防ぐための授業を考案して,それを小学校高学年の児童に対して学級単位で実施し,その効果について多面的な検討を行った。実験計画はプリポスト・デザインとポストオンリー・デザインを併用した統制群法であり,自己否定的な認知パタンを固定化させないようにすることの必要性について説明したうえで,実際にそのための授業を行う実験群と,前者の説明のみを行う統制群を設けた。得られたデータを分析した結果,実験群の児童の方が統制群の児童よりも,自己否定的な認知パタンを否定する方向の信念を抱くようになっているとともに,自己効力感とセルフ・エスティームが高まっていることが示された。また,このような効果の持続性および日常への般化の存在も示された。
著者
若松 養亮
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.209-218, 2001-06-30
被引用文献数
1

大学生における進路未決定のうち, 一般学生に見られる決定の困難さのメカニズムを解明するために, 教員養成学部において質問紙調査を実施した。分析の対象は3年生233名である。「もう迷わない」と決めた進路の選択肢があるか否かで操作的に決定・未決定を定義づけたところ, 決定者が84名, 未決定者が149名であった。その両群間によって, 未決定者は(A)自分の抱える問題が何なのかを理解できていないのではないか, および(B)意思決定のための行動に結びつきにくい困難さを抱えているであろうという2つの仮説を検討した。その結果, 仮説Aは支持されたが, 仮説Bは支持されなかった。そこで「快適さ」の指標を加えて分析対象者を限定したところ, 未決定者が情報や答が得られにくい問題に悩まされているという結果が見出され, 仮説Bが支持された。さらに未決定者のうち, indecisive傾向の強い者は拡散的に新たな進路の選択肢を求めるという結果が見出され, それは仮説Bを支持するものであった。最後に, 未決定者に対して有効と思われる処遇と, 今後の研究に向けての考察を行った。
著者
針生 悦子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.275-284, 2010
被引用文献数
2

日本語で, 有声音で始まる擬音語と無声音で始まる擬音語がペアになっている場合, 前者は, より大きな対象から発せられるより大きな音を, 後者は, より小さな対象から発せられるより小さな音をあらわす。日本語話者のおとなは, 実在の擬音語ペアだけでなく, 初めて耳にする擬音語ペアにも, このルールを適用し意味を理解しようとする。本研究では, 日本語話者の子どもが, この"感覚"を, いつ, どのようにして備えるようになっていくのかについて, 書記体系であるひらがな——ひらがなでは, 有声音と無声音の対応は濁点の有無によって系統的に標示される——の影響に注目しつつ検討した。その結果, 4歳児は既に, 実在の擬音語だけでなく, 新規な擬音語も, このルールを適用して理解しようとするようになっていることが見いだされた。また, 濁音文字が読める子どもは, 読めない子どもより積極的に, このルールを新規な擬音語ペアに適用していた。このように, ひらがなについての知識は, 子どもが, 有声音と無声音に関する意味づけを, 実在の擬音語だけでなく新規な擬音語にも適用可能なものへと一般化していく過程で, 一定の役割を演じている可能性が示唆された。
著者
竹村 明子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.176-185, 2010-06-30

本研究は,実践教育の効果を検討するため,自己決定理論(Deci&Ryan,1985)を基に,介護福祉士養成課程の学生の介護実習前後における自己決定性(内発調整・同一化調整・取入調整・外的調整)の変化と実習中の心理的欲求満足感(関係性欲求満足感・自律性欲求満足感・有能さ欲求満足感)との関係について,横断的研究方法(調査協力者117名)と縦断的研究方法(調査協力者110名)を用いて検討を行った。その結果,縦断的研究において,内発調整が実習後高くなることが見出され,介護実習は学生の介護への自己決定性を高めている可能性が示唆された。さらに,実習中の心理的欲求満足感が高いほど,特に利用者(高齢者)と良好な関係性を築けたという満足感が高いほど,内発調整および同一化調整が促進されることが見出された。介護のように人と関わることが重要となる分野では,実習中の利用者との関係が実習の効果に大きく影響することが示唆された。
著者
生月 誠 田上 不二夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.425-430, 2003-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
11

本研究では, 視線恐怖を主訴とする被験者の, 視線恐怖軽減のメカニズムを解明することが目的である。実験1では, 言語反復を含むリラクセーションによる脱感作の手続きを, 実験2では, 拮抗動作法による脱感作の手続きを用いた。いずれも, 自己視線恐怖より, 他者視線恐怖の軽減に効果的であり, distractionが視線恐怖軽減の重要な要因となることが示唆された。また, 自己視線恐怖は自己の視線に関する独特の認知を伴っており, 認知変容のための手続きである自己教示訓練が効果的であったと考えられる。
著者
畑野 快
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.404-413, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
24
被引用文献数
4 4

本研究の目的は, コミュニケーションに対する自信がアイデンティティと関連していることを実証することである。研究1では, 大学生254名に質問調査を行い, 「意図伝達への自信」, 「意図抑制への自信」, 「意図理解への自信」(3下位尺度)からなるコミュニケーションに対する自信尺度(Self-confidence in Communication Scale : SCS)を作成した。α係数の値から十分な信頼性が示され, またコミュニケーション・スキル, セルフ・モニタリング, 自尊心との相関分析の結果から妥当性が検討された。研究2では大学生384名に対し質問紙調査を行い, SCSと多次元自我同一性尺度(Multiple Ego Identity Scale : MEIS)との関連を検討した。まずSCSに対し確認的因子分析を行い, 因子構造の安定性を検討した。適合度は十分とは言えなかったが, 概ね因子構造の安定性が確認された。そしてSCSとMEISの相関分析の結果から, SCSが心理社会的自己同一性と特に関連していることが示された。
著者
中道 圭人
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.347-358, 2007-09-30

幼児の条件推論,ワーキングメモリ(WM),抑制制御の関連を検討した。実験1では年長児(N=25)を対象に,経験的あるいは反経験的な事柄での条件推論課題,WM課題(逆唱),抑制制御課題(昼-夜ストループ課題)の関連を検討した。その結果,反経験的な条件推論と抑制制御の間に正の相関が見られたが,条件推論とWMの相関は見られなかった。実験2では年長児(N=26)を対象に,課題手続きを改善した条件推論課題とWM課題,抑制制御課題の関連を検討した。その結果,実験1と同様に抑制制御は反経験的な条件推論のみと正の相関を示し,その一方,WMは条件推論全般と正の相関を示した。本研究の結果から,幼児期における条件推論,WM,抑制制御の関連が明らかとなった。
著者
落合 美貴子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.351-364, 2003-09-30

教師バーンアウトは,ヒューマンサービス従事者のバーンアウトの中でも,とりわけ深刻な問題として研究されてきている。教師バーンアウトは,教育学,心理学,社会学等多領域に跨がるテーマであることから,学際的な視点が必要である。本論は,その点を踏まえて,まず国外の研究を概観し,次いで日本の研究動向を探った。そして,特に要因研究に焦点を当て先行研究のメタ分析を行い,今後の教師バーンアウト研究に必要とされる4つの視点を提示した。それは,(1)バーンアウト研究は,概念やその成立機序からしてストレス研究とは一線を画すべきであること,(2)社会・文化的視点,特に教育制度や教師文化の独自性に関する認識が不可欠であること,(3)時間軸の重要性から,教師のライフヒストリー研究等の縦断的研究が必要であること,(4)これまでの量的研究は,バーンアウトの内実に迫り得ていないことから,質的研究法を導入する必要があること,である。
著者
宇都宮 博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.209-219, 2005-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35

本研究は, 青年期の子どもからみた両親のコミットメントに関する認知尺度を作成し, 両親間の葛藤解決および青年の不安との関連性を検討することを目的として実施された。女子青年136名 (平均20.4歳) を対象に質問紙調査を実施した。分析の結果, 両親の結婚生活に対するコミットメントの認知は, 父母いずれも「存在の全的受容・非代替性」「社会的圧力・無力感」「永続性の観念・集団志向」「物質的依存・効率性」の4因子が抽出された。このうち, 不安と比較的強い相関がみられたのは「存在の全的受容・非代替性」と「社会的圧力・無力感」であり, 両者は異なる関連にあった。すなわち, 「存在の全的受容・非代替性」を高く認知している者ほど不安は低減するのに対し, 「社会的圧力・無力感」が高い者ほど不安は強まることが示された。また両親のコミットメントと女子青年の不安の関連は居住形態によって異なり, 親と同居している場合に顕著であった。さらに両親間の葛藤解決と不安の関連は一様ではなく, コミットメントの性質によって異なる可能性が示唆された。
著者
伊藤 貴昭 垣花 真一郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.86-98, 2009-03-30
被引用文献数
4 5

説明を生成することが理解を促進することはこれまでの研究でも数多く示されてきた。本研究では,他者へ向けた説明生成によって,なぜ理解が促されるかを検討するため,統計学の「散布度」を学習材料として,大学生を対象に,実際に対面で説明する群(対面群:13名),ビデオを通して説明する群(ビデオ群:14名),上記2群の説明準備に相当する学習のみを行わせる群(統制群:14名)を設定し,学習効果を比較した。その結果,事後テストにおいて対面群が他の2群を上回っており,対面で説明することが理解を促すことが示唆された。一方,ビデオ群と統制群には有意差は見られず,単に説明を生成することのみの効果は見られないことが示された。プロトコル分析の結果,「意味付与的説明」,またその「繰り返し」の発話頻度と事後テストの成績との間に有意な相関が見られ,対面群ではビデオ群よりこの種の発話が多く生成されていた。対面群でそれらが生成された箇所に着目すると,これらの少なくとも一部は,聞き手の頷きの有無や返事などの否定的フィードバックを契機に生成されていることが明らかとなった。本研究の結果は,他者に説明すると理解が促されるという現象は,聞き手がいる状況で生じやすい「意味付与的説明」,またそうした発話を繰り返すことに起因することを示唆している。
著者
高橋 あつ子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.103-112, 2002-03-31
被引用文献数
2

本研究の目的は,自己肯定感を高めることをねらった実験授業プログラムを小学校の児童に実施し,その効果を自己意識と行動面から探ることであった。加えて,自己を対象化する体験がネガティブに影響しないかどうかを吟味した。5年児童6学級206名のうち実験群4学級に4回の実験授業を行い,前後と1ヶ月後に「Who am I?」による自己記述と各記述に対する感情評定・重要度評定をとり,その推移を統制群2学級と比較した。その結果,実験授業を受けた児童は,受けなかった児童より,肯定的な記述が増え,否定的な記述が減り,肯定的な自己意識を高めたが,行動面への影響は見いだせなかった。なお,成功を内的に帰属しにくく,失敗を内的に帰属しやすい帰属スタイルを持つ児童は,自己意識を刺激する実験授業で,最も慎重な配慮が必要と考えられるが,そのような帰属スタイルである自己卑下群において,他者を拒否的にとらえる記述が有意に減少するなど,意識面ではポジティブな変化が見られたが,授業のみだと他者共生性が低下するなど行動面でネガティブな変化も見られた。
著者
豊田 秀樹 中村 健太郎 村石 幸正
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.392-401, 2004-12-30

双生児と一般児を統合的に扱う遺伝ACEモデルが新制田中B式知能検査に適用される。データは中学1年時と高校1年時にそれぞれ採られた縦断データである。本研究では構造方程式モデルの下位モデルである遺伝ACEモデルと縦断的解析を融合したモデルによって, 115組の一卵性双生児と32組の二卵性双生児, ならびに881人の一般児の被験者を分析した。知能点と7つの各下位検査についてそれぞれ母数の推定を行い, 加算的遺伝, 共有環境, 非共有環境の各説明割合が明らかとなった。個々の項目に関する特徴に加え, 全体として中学時, 高校時の双方とも非共有環境の説明割合が比較的大きいことが示された。
著者
佐山 公一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.204-212, 1992

The present paper investigated the question of what constitutes an impression of "figurative" speech. Twenty-two subjects read figurative expressions and rated their figurativeness on 50 adjective scales under two conditions. Condition 1 required subjects to rate figurative expressions using simple and direct impressions. Condition 2 required subjects to respond to figurative expressions paying attention to the surface forms of the expressions. Both results were quite similar. Both indicated that the 50 adjective scales were classified into several clusters. Within each cluster, the adjective scale which highly correlated to its own cluster component was selected for further research. Results suggested that impressions of figurative speech included both an intellectual or rational aspect and an affective aspect. Results also showed that both aspects consisted of 3 or 4 components. Ortony, Clore, and Foss (1987) have classified affective related words in terms of the types of situations they refered to in certain verbal contexts. Results from my study were compared with the classifications given by Ortony et al. (1987).
著者
高橋 恵子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.7-16, 60, 1968-03-31

本研究は.依存性がいちおう発達の最終段階に達していると思われる青年後期において,それがどのような様相を呈しているかを,依存構造というモデルをとおして解明しようとするものであった。その結果明らかにされたのは次の3点である。 1)依存構造:依存構造には限られてはいるがかなり多くのさまざまな対象が含まれ,それぞれ異なった機能を与えられ,分化した位置を占めている。そして,この対象間の機能分化は,各個人が相対的に強い依存要求をひきおこす,その個人の存在を支える機能を果たすという意味で中核になっている単数または複数の焦点を中心に,いく人かの対象がそれぞれの役割りを与えられ,それぞれの意味を持ち,さまざまに位置づけちれていることを予想させる。 2)依存構造の類型:依存構造の構造化の様相-対象の数,焦点の有無,焦点の数,焦点と他の対象との機能分化などは各個人において異なるのであるが,焦点が何かによって依存構造を類型化してみると,同じ類型間には対人的依存行動の共通点が認められることが明らかになった。 3)大学生女子における依存性:青年においてもここで問題にする意味での依存性が認みられる。つまり,現象的には自立的であると考えられている大学生においても,少なくとも女子では依存要求が認められる。そして特に顕著なことは次のようなことである。 (1)単一の焦点になる対象としては,母親,愛情の対象,尊敬する人などが多く,同性の親友や父親は少ない。 (2)女子青年と母親との情緒的結合は強い。このことは他の研究(たとえば,久世・大西,1958)でも指摘されていることであるが,本研究でもこれと一致した結果が得られた。母親は単一の焦点となる傾向が大であり,複数焦点型でも焦点のひとりはほとんど母親であり,親密度も高い。 (3)母親を焦点とするものは,他の型に比べ家族中心的傾向がある。またこの型では恋人もないものが多く,親友との結合も弱く,青年期の発達からみて問題を感じさする。 (4)焦点が多いもの,および明確でないものでは,高得点の対象のひとりにほとんど必ず母親が含まれる傾向があり,類型の特徴も母親型の様相を呈し,上記の(3)と考え合わせて,母親以外の単一の焦点の顕在化が発達の方向かもしれない。 (5)大学生女子では父親との結合はそれほど強くはない。父親は情緒的に拒否されているわけではないが,依存構造のなかでは道具的色彩の増した位置づけがなされていると予想される。また,父親は尊敬する人と競合的な立場にあり,尊敬する人を焦点とする依存構造ではほとんど父親はしめだされる傾向がある。 (6)一般に女子青年の依存構述においては同性の親友の占める位置は少ない。
著者
竹村 明子 仲 真紀子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.211-226, 2012

二次的コントロール(Secondary Control : SC)(Rothbaum, Weisz, & Snyder, 1982)とは, 状況に合わせて個人が変わる過程を表す概念であり, 集団主義的文化や高齢者心理の特徴を理解するために重要な概念として期待されている。しかし, SC概念は研究者ごとに捉え方が異なり, 研究結果の比較を妨げる障害となっている。本稿は, このようなSC概念に関する研究者間の一致・不一致を整理することを目的に, 関連研究のレビューを行った。その結果, 1) SCの概念構造に関して, 階層構造を想定する立場と単層構造を想定する立場があること, 2)一次的コントロール(Primary Control : PC)とSCの関係において, PCとSCと諦めの位置づけおよびPCとSCの区分基準, PCに対するSCの機能性に関する考え方に研究者間の違いがあること, などを見出した。さらに, 3)統制感の維持に焦点を当てる立場と状況との調和に焦点を当てる立場, 4)行動と結果の随伴性認知を必然と捉える立場と偶然と捉える立場, 5)SCの統制主体を自分以外と捉える立場と自分自身と捉える立場, などの考え方の違いにより想定されるSCの機能性が異なることを明らかにし, 今後の課題について考察した。
著者
小林 敬一
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.199-210, 2012
被引用文献数
3

本論文では, 大学生による紙上討議(論述文の中に産出された, 複数テキスト間の論駁的関係に対する応答), それとテキスト間関係の理解との関係, そしてこの2つの過程に及ぼす読解目標の効果を検討した。大学1年生95名に, 論争の構図を理解する読解目標(論争理解目標)条件か争点に関する自分の意見を生成する読解目標(意見生成目標)条件かのいずれかの条件で4つの論争的なテキストを読んでもらい, それから争点に関する自分の意見を論述してもらった。主な結果は次の通りである。(a) 論述文の中でどの論駁的関係にも応答していなかった者や論駁された論者の議論をその論駁に対する反論なしに利用した者が半数以上いた。一方, 全ての論駁的関係を踏まえてそれらに応答した者はほとんどいなかった。(b) テキスト間関係の理解は論駁的関係に対する応答を予測した。(c) 論争理解目標群は意見生成目標群よりもテキスト間関係の理解が優れており, この効果は論駁的関係に対する応答にまで及んだ。
著者
弓削 洋子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.186-198, 2012
被引用文献数
1

本研究は, 教師がひきあげる機能と養う機能という, 2つの矛盾した指導性機能をいかに実践して統合するか, 統合のあり方を各機能に対応する指導行動内容から捉えることを目的とした。小学校教師191名を対象に, 指導行動内容, 学級児童の学習意欲と学習理解度, 規律遵守意欲と遵守度, 学級連帯性について質問紙調査を実施した。その結果, 高学年では, ひきあげる機能の指導行動「突きつけ」と養う機能の指導行動「理解」との間に正の相関があり, 教師がいずれの行動も多く実施するとき, 児童の学習意欲, 規律遵守意欲, 規律遵守度, 学級連帯性の評定値が高いことが示された。中学年では養う機能の指導行動「理解」を多く実施するとき, 規律遵守意欲と遵守度, 学級連帯性の評定値が高いことが示された。但し, 担任学級4~6年児童(34学級, 1,037名)による学習・規律遵守意欲, 学級連帯性評定では, 学級連帯性のみ教師評定と一貫した結果となった。高学年において, ひきあげる機能の指導行動「突きつけ」と養う機能の指導行動との相互促進的な実施が機能統合の具体像として示された。児童の資源や課題性にみる学年の違いが影響したと示唆される。
著者
牧 郁子 関口 由香 山田 幸恵 根建 金男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.298-307, 2003-09

本研究は,学習性無力感(Seligman & Maier、1967)における随伴性認知に改めて着目し,新かな無気力感のメカニズムを検討することを目的とした。そこで,近年問題視されている中学生の無気力感の改善を鑑みて,以下の研究を行った。研究1では,随伴性認知の測定尺度「中学生版・主観的随伴経験尺度 (PECS)]の標準化を試みた。その結果,2因子(随伴経験・非随伴経験)からなる尺度が作成され,信頼性・妥当性が実証された。研究2では,まず不登校の中学生の無気力感と随伴性認知との関係を検討するために, PECSを不登群・登校群それぞれに実施したところ,差が認められなかった。このことから,登校生徒も不登校生徒と同程度に,随伴経験の欠如や非随伴経験の多さを有している可能性が示唆された。この結果を受けて,登校している中学生の無気力感と随伴性認知との関連を検討するため,担任教師の行動評定によって群分けされた無気力感傾向高群・低群生徒におけるPECSの得点を分析した。その結果,随伴経験因子において差が認められ,中学生の無気力感は非随伴経験の多さよりも随伴経験の少なさに起因する可能性があることが示された。