著者
清水 健司 岡村 寿代
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.23-33, 2010-03-30
被引用文献数
1 4

本研究は,対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデルにおける認知特性の検討を行うことを目的とした。認知特性指標は社会恐怖認知モデル(Clark&Wells,1995)の偏った信念を参考に選定された。調査対象は大学生595名であり,対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデル尺度短縮版(TSNS-S)に加えて,認知特性指標である完全主義尺度・自己肯定感尺度・自己嫌悪感尺度・ネガティブな反すう尺度・不合理な信念尺度・自己関係づけ尺度についての質問紙調査が実施された。その結果,分析1では各類型の特徴的な認知特性が明らかにされ,適応・不適応的側面についての言及がなされた。そして,分析2では2次元モデル全体から見た認知特性の検討を行った。特に森田(1953)が示した対人恐怖に該当すると思われる「誇大-過敏特性両向型」と,DSM診断基準に準じた社会恐怖に該当すると思われる「過敏特性優位型」に焦点を当てながら詳細な比較検討が行われた。
著者
澤田 匡人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.185-195, 2005-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 妬み感情を構成する感情語の分類を通じて, その構造を明らかにすることであった。研究1では, 児童・生徒92名を対象とした面接調査を実施し, 172事例の妬み喚起場面を収集した。事例ごとの12語からなる妬み感情語リストへの評定に基づいた数量化III類を行って解析した結果, 妬み感情は2つの軸によって3群に分かれることが示された。研究2では, 児童・生徒535名に対して質問紙調査を実施し, 8つの領域に関する仮想場面について, 12の感情語を感じる程度を評定させた。因子分析の結果, 妬み感情は「敵対感情」「苦痛感情」「欠乏感情」の3因子構造であることが確認された。また, 分散分析の結果,(1) 敵対感情の得点は, 能力に関連した領域に限り, 女子よりも男子の方が高く,(2) 苦痛感情と欠乏感情の得点は, 学年が上がるのに伴って増加する傾向にあることが明らかとなった。このことは, 加齢と領域の性質が妬み感情の喚起に寄与していることを示唆するものである。
著者
藤井 勉 上淵 寿
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.263-274, 2010-09
被引用文献数
1 10

本研究は,達成目標理論における暗黙の知能観研究において,顕在的測度(質問紙)と,潜在的測度(Implicit Association Test:IAT)を使用し,顕在・潜在の両側面から,参加者の暗黙の知能観を査定し,課題遂行場面で生じる感情や行動パターンとの関連を検証した。実験1では,IATの再検査信頼性を確認した。同時に,IATは顕在的な測度とは関連がみられないことを示した。実験2では,自己報告の他に,課題遂行中の参加者の表情を他者評定し査定した状態不安と,質問紙およびIATで査定した顕在・潜在的な知能観との関連を検討した。結果は,先行研究からの仮説どおり,顕在的測度と潜在的測度は,関連する対象が異なった。顕在的知能観は,自己評定式の尺度の回答に関連していた一方,潜在的知能観は,他者評定による自発的行動に関連していた。従来の研究で扱われてきた,顕在的測度で査定される意識的な領域のみならず,潜在的測度で査定される無意識的な領域への,更なる研究が必要であることと,潜在的な知能観を意識化するアプローチを用いた介入方法も検討する価値があることを示唆した。
著者
谷口 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.427-438, 2005-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
42

本研究の目的は, ひとつの病院内学級における教育実践を詳細に検討することから, 入院児に対してどのような教育的援助が提供されているのかを明らかにし, 教育実践の特徴カテゴリーを抽出することである。先行研究の少ない分野において有効とされる質的研究法を採用し, 参与観察エピソード及び半構造化面接逐語録をグラウンデッド・セオリー法に則って分析した。分析は概念化からカテゴリー生成, さらに現場教師からのコメントや更なるデータ収集を経て最終的な教育の特徴モデルの生成まで5段階で行われた。結果として, 病院内学級における教育実践が, 通常の教育の枠を超えて, 〈特別支援教育/ 普通校/小規模校/保育/家庭/医療/ソーシャルワーク〉という多様な援助実践の特徴を併せ持っていることが見出された。本研究は, ひとつの病院内学級におけるデータに基づく仮説生成型探索的研究ではあるが, 提示された特徴モデルにより, 従来, 他の特別支援教育と比較してとらえどころがないとされていた病院内学級における教育実践の特徴を捉える新たな視点を提供することができた。
著者
田島 充士 森田 和良
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.478-490, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
28
被引用文献数
5 2

本研究では, 日常経験知の意味を取り込まないまま概念を暗記する生徒達の, 「分かったつもり」と呼ばれる学習傾向を改善するための教育実践である「説明活動(森田, 2004)」の効果について検討した。本実践では, 生徒達が教師役を担い, 課題概念について発表会で説明を行うことになっていた。また残りの生徒達は聞き手役として, 日常経験知しか知らない「他者」の立場を想定して, 教師役に質問するよう求められた。この手続きを通し, 日常経験知の観点を取り入れた概念解釈の促進が目指されていた。小学5年生を対象に実施された説明活動に基づく授業を分析した結果, 以下のことが明らかになった。1)本授業の1回目に実施された発表会よりも, 2回目に実施された発表会において, 教師役の生徒達は, 日常経験知を取り入れた概念解釈を行うようになった。2)聞き手役からの質問に対し, 1回目の発表会では拒否的な応答を行っていた生徒達が, 2回目の発表会では, 相手の意見を取り入れた応答を行うようになった。これらの結果に基づき, 本実践における, 日常経験知との関係を考慮に入れながら概念の意味を解釈しようとする, バフチン理論のいう概念理解へ向かう対話傾向を促進する効果について考察がなされた。
著者
馬場 安希 菅原 健介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.267-274, 2000-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
13 8

本論文では現代女性の痩身化の実態に注目し, 痩身願望を「自己の体重を減少させたり, 体型をスリム化しようとする欲求であり, 絶食, 薬物, エステなど様々なダイエット行動を動機づける心理的要因」と定義した。痩身は「幸福獲得の手段」として位置づけられているとする立場から, 痩身願望の強さを測定する尺度を構成するとともに, 痩身願望が体型への損得意識を媒介に規定されるモデルを検討した。青年期女子に質問紙による調査を行い, 痩身願望尺度の一次元構造を確かめ, ダイエット行動や摂食行動との関連について検討し, 尺度の信頼性, 妥当性が確認された。また, 体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と, 痩身願望との関連性を検討した結果, 「賞賛獲得欲求」「女性役割受容」「自尊感情」「ストレス感」などに関連があることが示された。そこで, これらの関連を検討したところ, 痩せれば今より良いことがあるという「痩身のメリット感」が痩身願望に直接影響し, それ以外の変数はこのメリット感を媒介して痩身願望に影響することが明らかになり, 痩身願望は3つのルートによって高められると考えられた。第1は, 肥満から痩身願望に直接至るルートである。第2は, 自己顕示欲求から生じる痩身願望で, 賞賛獲得欲求と女性役割受容が痩身によるメリット感を経由して痩身願望と関連しており, 痩身が顕示性を満足させるための手段となっていることが示唆された。第3は, 自己不全感から発するルートである。自尊感情の低さと空虚感があいまったとき, そうした不全感の原因を体型に帰属し, 今の体型のせいで幸せになれないといった「現体型のデメリット感」を生じ, さらにメリット感を経由して痩身願望に至ることが示された。これらの結果から, 痩身願望が「女性的魅力のアピール」や「自己不全感からの脱却」を日的として高まるのではないかと考えられた。
著者
葛谷 隆正
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.8-17,65, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12

われわれは民族的好悪とその人格性要因に関する問題について男女232名に対して行なつた調査結果を考察してきたが, いまその主要な点を要約し列挙してみることとしよう。(1) 大学生の民族的好悪の状態は5年前の調査結果と比較して0.874という高い相関があり, かなりの一致性がみられるが, 特にシナ人・インド人・朝鮮人に対しては一の方向に, オーストラリヤ人・スイス人・アメリカ人に対しては十の方向にかなりいちじるしい変化をきたしていた。(2) 民族的好悪感と民族的優劣観とは0.760の相関を示し, 相当の一致性のあることがわかつた。しかし, ロシア人・ユダヤ人・シナ人・アメリカ人においては好悪感よりも優劣観においていちじるしく+であり, これに反し日本人・インド人・ビルマ人・フィリピン人・黒人に対してはいちじるしく一であることが注目された。(3) 民族的好悪と人格性要因との関係については,(i) 外国びいきの性格の強もいのはそうでないものよりも優劣点・自己嫌悪点がより高く, 偏見点においてより低いという傾向が顕著にみられた。しかし偏見点が彼等においてより低いということは外国びいき自国ぎらいという人間的罪悪感から逃れるためのかれらのとる自己防衛手段の現われではないかと察せられる。(ii) ・偏見的性格の強いものはそうでないものに比して優劣点がより低く自己嫌悪点がより高いという傾向が明瞭に看取された。(iii) 自己嫌悪の強いものはそうでないものよりも優劣点も偏見点もより高いという傾向がはつきりうかがわれた。(iv) したがつて, 外国びいきの性格の強いものも偏見的性格の強いものも基本的には同一の人格性力学をもつた2つの異なつた姿であると見られる。
著者
秋田 喜代美 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.109-120, 1996-03-30
被引用文献数
1

The purposes of this study were to examine mothers' conceptions of book-reading to their children and relations between those conceptions and their behavior styles of setting home environment on reading. Two hundred and ninety-three mothers in Study 1 and three hundred and thirty-two mothers in Study 2 answered a questionnaire concerning their recognitions on the functions, and their behavior of setting environment. The main findings were as follows : (1)Two functions were identified as "UTILITY" and "ENJOYMENT" ("UTILITY" : read to get children to master letters and acquire knowledge ; "ENJOYMENT" : read to share a fantasy world with their children and communicate them.) Although many mothers attached importance to "ENJOYMENT" function, some mothers did to "UTILITY" ; but differences were shown among mothers. (2)Mothers changed the ways of reading according to their children's age. (3)There were relations between conceptions of functions and ways of reading. Though mothers rated "UTILITY" higher, their reading styles were seen to promote children to become independent readers.
著者
熊谷 蓉子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.11-20, 1958-03-25

最初に本研究の意義において,立体表現活動が描画活動よりも,より容易であり根元的であることを明らかにしたが,この2つの活動が最初に行われ始める時期を考察してみると,紙とクレヨンでする描画活動の方が材料からくる抵抗が少いために,幼児にとってはより容易であり,粘土活動よりは早期に始められる。しかしながらこの期の活動は造形活動でも表現活動でもなく,ただ手のリズミカルな運動を楽しむ一種の遊びなのであって,粘土の場合も2才になると,それを握って操作するに充分な手腕力がつくため,描画活動でいわれる錯画と同じような活動が始められる。すなわち粘土のかたまりを机上にたたきつけたり,ちぎったり,くっつけたり,まるめたりするようなごく単純で無作意,無目的な活動である。ところで描画活動において錯画の中に初めて何か形らしいものが現われ,やがてそれが花や船や人の顔になり始めるころには,粘土活動でも何か形らしいものや,命名された「あめ」だの「リンゴ」だのが作られるのである。この形の現われ始める時期が両活動においてほぼ一致していることは,28名の調査を行った幼児から参考資料として集めた自由画と,その児童の粘土活動とを照合した結果明らかになった。形らしいものの現われ始める時期は,大体2才の終りから3才にかけてであるが,最初に現われる形は描画の場合と同じく,命名されていても作品と命名の結びつき19が客観的には理解しがたい場合が多い。しかしながらこの傾向は4才になると一変する。4才児は興味の持続時間命名,形の構成,活動,作品数等すべての点において3才児との問を大きく引きはなす。すでに6才児の中には形を作らない子どもは1人もいなくなり,どのような点からも明らかに造形活動として認められるのである。故に2才の粘土をただ操作して楽しんでいた遊びの時期から,造形活動へと移るのは3才から4才にかけての時期で,これが立体表現活動の最初の著しい発達をとげる時期であると考えられる。〔A〕,〔B〕2つの調査結果の共通な点,すなわち「興味の持続時間」や「題材」「作品数」などについて,幼児と学童の比較を打ってみると,5才児と1年生ではほとんどその差のないことが削る。作品をみても材料の相違があるだけで,特に著しい差は見当らない。故にこのことから児童は入学という,1つの団体生活=社会生活への本格的な出発である激しい環境の変化を経るにもかかわらず,この期には顕著な発達を示さないことが明らかにできる。従って次に著しい変化の現われるのは,I年生からIII年生にかけて,すなわち6〜8才のころである。この期になると幼児期の「食べ物」に変って「乗り物」,人物などが多くなり,空想的表現が多くなる。何を作っても一生懸命で工夫がなされるし,とかく沢山の附属物や装飾がほどこされて説明が詳しくなる。この期の作品には夢があり楽しさがあふれていて,命名も単純でなく,何か事件のようなものを表現しようとしたりして,ユーモラスな題がつけられ成人の微笑を誘う。一方更にIV年生を中心として見られる大きな変化の時期は,描画活動の写実期に相当すると思う。この期においては表現力(器用さ,立体感,運動感たどに現われている)に特に著しい発達が見られ,これはI年生とIII年生の間における差よりも,一層はなはだしい差を示している。この期の作昂はほとんど写実的表現によって支配され,用いる題材も著しく違ってくる。ここで注意すべきは,IV年生にはIII年生ほど楽しい気分があふれ,のびのびとした作品が多くないということである。幼児は自分の残した作品にはほとんど興味を示さないのに比して,高学年児ほど自分の作ったものに対する批評やその成果を気にする傾向にある。故にその作品には自然と子どもらしいのびのびとした所が失われてくるのである。しかしながらそうだからといって高学年児は粘土工作を楽しんでいないのかというと決してそうではない。参考資料として行った図画と粘土工作に対する興味の比較調査の結果が,これを如実に示している。結果をグラフで示すとFig.6になるが,高学年児ほど絵よりも粘土を好む。これは,この期の児童の知的発達がめざましく,自己の作品に対する批判眼がするどくなるためである。すなわち,二次元の平面で三次元の事物を描写する描画活動では,表現意欲とそれを表現する技術とか即応しなくなるために,絵画的表現活動の行きづまりに直面するものと解釈する。ここにおいて児童の表現活動における立体表現活動が新しい意義をもってくる。すなわち立体表現活動は外界の立体物を実立体で表現するのであるから,この高学年の児童には何の抵抗も制約も感じさせない。従って,児童はこれによって容易に絵画的表現活動の行きづまりを打開することができるのである。

1 0 0 0 OA 正誤表

出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.8, 1966 (Released:2013-02-19)

Vol. 13 No. 1 p. 15修正箇所:本文 右側修正内容:(誤) 43.3(正) 54.4

1 0 0 0 OA ABSTRACTS

出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.60-60, 1966-03-31 (Released:2013-02-19)

1 0 0 0 OA 正誤表

出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.44, 1966 (Released:2013-02-19)

Vol. 13 No. 4 p. 194-254修正箇所:その他
著者
安田 朝子 佐藤 徳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.203-214, 2000-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35
被引用文献数
3 1

Taylor (1989) は, 自己報酬的なバイアスは精神的健康や適応と結びついていると主張している。しかし, それは本当だろうか。自己報告式の尺度のみによって健常者を抽出すると, 「抑圧型」のような過度に肯定的なバイアスを示す群がそこに混入するため, 結果が大きく歪む危険性がある。しかし, 「抑圧型」は身体疾患の罹病率が高く, 必ずしも健康であるとは言い難い。「抑圧型」は, 特性不安尺度の低得点者かつMarlowe-Crowne社会的望ましさ尺度の高得点者と操作的に定義される。他方,「真の低不安群」は両尺度の低得点者である。研究1では, 過度に肯定的な自己評価傾向および非現実的な楽観傾向は「抑圧型」において顕著であり,「真の低不安群」はそれほど楽観的ではないことが示された。また,「抑圧型」では, 当人にとって重要なゴールと現状との不一致が小さく, それゆえ陰性情動の自己報告が低いことが示唆された。研究2の結果から,「抑圧型」において観察された非現実的な楽観傾向は, 実際にゴールと現状との不一致がないことによるのではなく, 現状に関するフィードバック情報が無視されているためであることが示唆された。すなわち,「抑圧型」では, 定期試験前になされた成績予測得点は最も高く, 実際の成績は最も悪かった。また, 予測に比して成績が悪かった場合, 他群では結果のフィードバックを受けて予測が下方修正されたのに対し,「抑圧型」では予測が変わらないか上方修正される場合さえあった。本研究では,「抑圧型」ではそもそも負の結果のフィードバックが適切に評価されないためにこうした楽観傾向が維持されており, それゆえ状況に応じた対処方略の選択と修正が妨げられていることが示唆された。こうした結果から,「真の適応」とは, 状況に応じた適切な対応をなし得る認知構造の柔軟性にあるのではないかと考えられる。
著者
橋本 憲尚 加藤 義信
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.358-368, 1988-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
51

It is well-known that younger children up to the age of about 6 yr. have much difficulty in discrimination between oblique lines in contrast with relative ease in that between horizontal and vertical. This phenomenon is called oblique effect and a large amount of studies were conducted over the past twenty years for determining the causes of such effect. This paper reviewed these experimental studies in terms of the development of the children's strategies in encoding and storing information of oblique orientation in memory. Some recent infant studies revealed that even a baby might have his/her categorical ability of orientation, so, during early childhood, the orientational categories should be much elaborated, and several encoding strategies for non-specific orientation such as oblique should be developed in an appropriate way to each stimulus context. This course of the development seemed to be confirmed on the whole from the present overview of the studies concerned. This confirmation afforded a basis for further discussions on a developmental hierarchy in orientational categories.
著者
葉山 大地 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.523-533, 2008-12

本研究は,冗談に対して親和的意図を知覚せずに,聞き手に怒りを感じさせる冗談を過激な冗談として取り上げ,こうした過激な冗談の話し手が,親和的意図が聞き手に伝わるという期待を形成する過程を関係スキーマの観点から検討した。大学生159名を対象とした予備調査から,過激な冗談として,"倫理的・性的タブーに関する冗談","聞き手の悩みに関する冗談","聞き手の外見や行動に関する冗談","聞き手の好きな人や物に関する冗談"が同定された。次に大学生 251名を対象とした本調査を行い,これらの過激な冗談の親和的な意図が聞き手に伝わるという期待は,冗談関係の認知("冗談に対する肯定的反応に基づく他者理解感"と"冗談に対する被受容感")に基づいていることが明らかとなった。特に,"冗談に対する被受容感"は全ての冗談において親和的意図が伝わるという期待に正のパスが見られた。"冗談に対する肯定的反応に基づく他者理解感"は性的タブーに関する冗談と聞き手の友人や恋人に関する冗談にのみ正のパスが見られた。また,本研究から,冗談関係の認知は,冗談行動に相手が笑った頻度を背景として形成されることが示唆された。The purpose of the present study was to examine the process that speakers follow when forming expectations of communicating to listeners that an extreme joke has benign intentions. "Extreme jokes" are defined as jokes that make a listener angry. A pilot study with university students (87 men, 72 women) indicated that extreme jokes could be classified into 4 categories: jokes about ethical or sexual taboos, jokes about the listener's distress, jokes about the listener's appearance or behavior, and jokes about people or objects that the listener likes. University students (106 men, 145 women) were asked to imagine an actual friend when completing a questionnaire about that friend. In relation to the formation process of the speaker's expectations, structural equation modeling (SEM) revealed that the "sense of being accepted by one's friend about the joke" positively influenced the speaker's expectations of communicating the benign intentions of all extreme jokes. The "sense of understanding one's friend's preference for jokes based on positive reactions" only influenced "jokes about sexual taboos" and "jokes about one's friend's friends or lover." Structural equation modeling also indicated that the cognitions of joking relationships were formed through experience with the listener's laughter following joking behavior.
著者
榊 美知子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.184-196, 2007-06-30

本研究では,手がかりイベント法(event-cueing technique)を利用し,(1)自伝的記憶がどのように構造化されているのか,(2)自伝的記憶の感情情報がどのように保持されているかに関して検討を行った。46名の大学生に手がかり語を8語呈示し,関連する自伝的記憶を1つずつ想起させた後(cueing events;手がかりイベント),各手がかりイベントに関連する自伝的記憶(cued events;想起イベント)を2つずつ想起するよう求めた。その結果,(1)想起イベントと手がかりイベントは高い時間的近接性を持っていること,(2)想起イベントを思い出す際に,手がかりイベントと同じテーマに関する記憶が想起されやすいことが示され,自伝的記憶がテーマごとに領域に分かれた構造を持つことが明らかになった。更に,自伝的記憶の領域と感情の関連について階層線形モデルによる分析を行ったところ,領域ごとに異なる感情状態と関連していることが明らかになった。このことから,自伝的記憶と感情の関連や,自伝的記憶による感情制御を検討する際に,自伝的記憶の領域構造を考慮する必要があることが示唆された。
著者
榊 美知子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.184-196, 2007-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34

本研究では, 手がかりイベント法 (event-cueing technique) を利用し,(1) 自伝的記憶がどのように構造化されているのか,(2) 自伝的記憶の感情情報がどのように保持されているかに関して検討を行った。46名の大学生に手がかり語を8語呈示し, 関連する自伝的記憶を1つずつ想起させた後 (cueing events; 手がかりイベント), 各手がかりイベントに関連する自伝的記憶 (cued events; 想起イベント) を2つずつ想起するよう求めた。その結果,(1) 想起イベントと手がかりイベントは高い時間的近接性を持っていること,(2) 想起イベントを思い出す際に, 手がかりイベントと同じテーマに関する記憶が想起されやすいことが示され, 自伝的記憶がテーマごとに領域に分かれた構造を持つことが明らかになった。更に, 自伝的記憶の領域と感情の関連について階層線形モデルによる分析を行ったところ, 領域ごとに異なる感情状態と関連していることが明らかになった。このことから, 自伝的記憶と感情の関連や, 自伝的記憶による感情制御を検討する際に, 自伝的記憶の領域構造を考慮する必要があることが示唆された。
著者
加藤 弘通 大久保 智生
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.466-477, 2009-12-30

本研究の目的は,学校の荒れが収束する過程で指導および生徒の意識にどのような変化が生じているのかを明らかにすることにある。そこで本研究では,調査期間中に荒れが問題化し収束に向かったB中学校の生徒(のべ1,055名)に対して,学校生活への感情,教師との関係,不良少年へのイメージおよび不公平な指導などをたずねる質問紙調査を3年間行い,その結果を荒れが問題化していない中学校7校の生徒(計738名)と比較した。またB中学校の管理職の教師に対し面接を行い,荒れの収束過程で指導にどのような変化があったのかを探った。その結果,生徒の意識に関しては荒れの収束に伴い不公平な指導の頻度が下がり,学校生活への感情や不良少年へのイメージ,教師との関係が改善していることが明らかになった。また生徒指導に関してはその指導が当該生徒に対してもつ意味だけでなく,他の生徒や保護者に対してもつ意味が考慮された間接的な関わりが多用されるようになっていた。以上のことをふまえ,実践的には指導を教師-当該生徒との関係の中だけで考えるのではなく,それを見ている第三者まで含めた三者関係の中で考える必要性があることを示唆した。