著者
古籏 安好
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.193-205,252, 1965-12-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27

協同と競争の集団効果は, 教育社会心理学の観点から, 最も関心のある問題である。この集団効果を体系的に検討するためには, 「参加性」仮説の体系化が肝要な問題のひとつである。ここに集団参加性変数は'連帯性・勢力性および親和性の3次元に関するとして, これらの概念的および操作的定義を明らかにし, それらの測度を示した。従来かならずしも明確でなかつた参加性と凝集性を識別した。集団に関する凝集性の測度として集団への魅力と対人的魅力に関する2方法によつて, これらの関連をも検討した。以上の検討はすべて集団レベルでなされた。この実験の結論はTable15に要約される。すなわら,1) 協同集団は, 競争集団よりも連帯性・勢力性・親和性およびそれらの総合としての集団参加性の各得点で有意にまさる。特に勢力性は最も顕著な差を示す。2) 協同集団は, 競争集団よりも集団凝集性 (ATG) の得点が高くなる傾向がある。また一般的にいえば, 協同集団では競争集団におけるよりも集団内ソシオメトリックな選択数を増加する傾向がある。ソシオメトリック・テストによる対人的魅力と集団凝集性 (ATG) との間には, 有意の連関があるといえる (TabLe9, 10) 。3) 課題1とIIの得点によつて測定された集団生産性においても, 協同は競争に有意にまさる。4) 知能水準によつて構成された各類型A・B・C・D1およびD2の間に, 集団参加性とその3つの次元 (S・P・A), 集団凝集性および集団生産性の差があるかないかを, 分散分析の結果によつてみると, 競争条件下の勢力性のほかは, すべての測度の得点において有意の差がある。そして一般的にいつて, 集団としての知能水準の高い集団類型は, その低い類型よりも生産性のみならず参加性および凝集性の各変数でも有意に高い得点を持つている (Table5, 8, 14) 。
著者
石毛 みどり 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.356-367, 2005
被引用文献数
3

レジリエンスは, 困難な出来事を経験しても個人を精神的健康へと導く心理的特性である。本研究の目的は中学3年生の高校受験期の学業場面における精神的健康とレジリエンスおよびソーシャル・サポートの関連について検討することだった。精神的健康の指標はストレス反応と成長感を用いた。受験前は538名を対象に, レジリエンス尺度, ソーシャル・サポート尺度, 学業ストレッサー尺度そしてストレス反応尺度を用いて解析した。受験後は, 受験前と後の同一被験者263名を対象に, 上記の尺度に成長感尺度を加えて解析した。その結果, (1)レジリエンス尺度は「自己志向性」「楽観性」「関係志向性」の3因子構造だった。(2)ストレス反応の抑制には「自己志向性」, 「楽観性」, 母親, 友だち, 先生のサポートが寄与していた。(3)成長感には「自己志向性」が強く寄与していた。(4)女子のストレス反応の抑制にはレジリエンスよりソーシャル・サポートの方が大きな影響を及ぼしていた。(5)「関係志向性」および「自己志向性」には友だちサポートが最も高い相関を示した。最後にストレス状況下での精神的健康に対するレジリエンスとソーシャル・サポートの役割について討論した。
著者
岡安 孝弘 嶋田 洋徳 坂野 雄二
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.302-312, 1993
被引用文献数
13

The purpose of this study was to investigate the effects of the expectancy of social support in junior high school students on school stress. 917 boys and girls, from 1st to 3rd grade, completed the Scale of Expectancy for Social Support (SESS), the School Stressor Scale, and the Stress Response Scale. The results indicated that (a) the SESS had a single-factor structure, (b) social support alleviated school stress more effectively in girls than in boys, (c) the alleviation effects of social support were dependent on the differences of stressful events, support resources, or stress responses, and (d) father support, which was less expected than mother support, was the most effective in alleviating stress responses in girls, but not in boys, Finally, the implication of social support for school stress process was discussed.
著者
及川 晴 及川 昌典 青林 唯
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.192-200, 2009-06-30
被引用文献数
1 5

目標はポジティブな感情を活性化させる行動表象であるという視点に基づき(Bargh,1990;Custers&Aarts,2005a,b),本研究では,感情誤帰属手続き(AMP,Affect Misattribution Procedure;Payne,Cheng,Govorun,&Stewart,2005)が潜在目標の測定に応用できる可能性を検討するために,日本人大学生62名を対象とした実験を行った。勉強目標や遊び目標に関連した画像をプライム刺激として用いたAMPは,高い信頼性と中程度の効果サイズを示した。また,潜在目標(AMP)と顕在目標(自己報告)は,勉強に関しては中程度の相関を示したが,遊びに関しては相関を示さなかった。さらに,冬休み中の遊び行動は潜在指標と相関を示したが,顕在指標とは相関を示さなかった。これらの結果は,1)潜在指標と顕在指標は社会的望ましさが影響する程度に応じて一致・不一致を示し,また2)潜在指標は顕在指標よりも未統制の行動をよりよく予測するという,潜在・顕在指標に関する一般的な仮説と整合していた。本研究では,潜在目標の個人差が顕在目標とは独立して日常行動を予測することが示唆され,また,AMPの潜在目標指標としての妥当性が確認された。
著者
伏見 陽児
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.54-63, 1992-03-30
被引用文献数
2

Two experiments were designed to assess the effects of different order of presented instances on learning of scientific concepts. In Experiment I two kinds of reading materials described as common features of metal were constructed. The text given to Dk group explained those features by referring to instances in order of 'copper → calcium'. For Kd group the arrangement of 'calcium → copper'was used. As a result, Dk group showed better performance than Kd group in the recall-application test for common features. In Experiment II two kinds of reading materials describing a universal property of livestock were constructed. In the text given to Bk group, the property was explained by mentioning instances in order of 'swine → silkworm'. For Kb group the arrangement of ' silkworm → swine' chosen. As a result, Bk group showed higher score than Kb group in the recall-application test for a universal property. The obtained results from the two experiments were discussed on the basis of "heteroformulation theory" proposed by Fushimi, Y. (1990, 1991).
著者
柴橋 祐子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.12-23, 2004-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
1 4

本研究では中学, 高校生の友人関係における「自己表明」および「他者の表明を望む気持ち」の2側面に関わる心理的要因を発達的な観点から検討した。中学, 高校生721名を対象に質問紙調査を実施し, 因子分析により, 2側面に関わる心理的要因として「安心感」「配慮・熟慮」「率直さへの価値感」「スキル不安」「支配欲求」の5つが抽出された。これらの心理的要因が「自己表明」および「他者の表明を望む気持ち」に及ぼす影響を分析した結果,(1) 中学, 高校生の男女共にほぼすべての「自己表明」および「他者の表明を望む気持ち」に「率直さへの価値感」が深く関わる。(2) 全体を通して「意見の表明」および「不満・要求の表明」の低さの背景に「スキル不安」がある。(3) 高校生では, ほぼすべての「自己表明」に「安心感」の影響があり, 高校生の女子では「他者の表明を望む気持ち」にも関連している。 (4) 「不満・要求の表明」の背景に女子では「配慮・熟慮」, 男子では「支配欲求」があることが示された。これらの結果から, 自己肯定感, 自己信頼感が2側面を共に支える重要な要因であること, 2側面のあり方を支える心理面の発達的な違いが明らかになった。
著者
上瀬 由美子 堀野 緑
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.23-31, 1995-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17

This study investigated psychological background for self-recognition need (Kamise, 1992) and actions of seeking information about the self. Two surveys were conducted and 960 young adults participated in total (655 participants for the first survey and 305 for the second). The results of the first survey showed that the confusion of ego-identity gave rise to the instability of self concept and invoked self -recognition need. The results of the second survey showed that the interdependent construal of self preceded the instability of self concept and was related to the arousal of self-recognition need. In addition, after their self-recognition need being raised, the participants initiated actions of seeking self-information. Moreover, both the interdependent construal of self and the tendency of dependence on others in decision making were related to the action of seeking information about self.
著者
内田 照久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.414-423, 1993-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
21
被引用文献数
6

Many learners have difficulty in recognizing long vowels (LVs) and double consonants (DCs) in Japanese language. The purposes of this study are to investigate the characteristics of auditory perception of LVs and DCs in Japanese natives and to compare them with those of Chinese students. In the experiment I, 52 Japanese subjects were asked to judge 712 stimuli (human voices processed by a time expansion technique) whether they included LVs or DCs. The results show the threshold values are proportional to the speech speed and their judgements are the stablest in the range of natural speed. In the experiment II, threshold values were measured by the method of limits for four Japanese natives, four Chinese experts in Japanese language, and four Chinese novices. Threshold values in ascending series are longer than those in descending series for Japanese natives and Chinese novices, while the reverse is true for Chinese experts. This result suggests that Chinese experts use the different strategy in perceiving LVs and DCs to attain the same level of performance as Japanese natives.
著者
池田 進一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.207-216, 1981-09-30

本研究は,多試行自由再生事態で材料文間の接続関係明示の多少と演緯的推理能力との関連を発達的に検討したものである。小学校5年生40名と中学校1年生35名の被験者は接多群(文問に6つの接続関係をあらわす語を含む7文を記銘する群)と接小群(文問に2つの接続関係をあらわす語を含む7文を記銘する群)とにそれぞれ分けられた。物語構造をもった7文は,ランダムな順序で5回提示され,毎回自由再生が求められた。その後,原文章を復元できるかどうかを調べるために文順序配列テストが実施された。ついで,石田(1978.1980)による推理能力テストが施行された。結果は以下のとおりであった。1)(a)文順序配列テストでは各群12名ずつ計48名が正解した。
著者
松沼 光泰
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.454-465, 2009

受け身表現は, 日本語では動詞に助動詞「れる・られる」を付けて表すが, 英語では「主語+be動詞+過去分詞+by~」の形で表される。ここで注意しなければならないのは「英語の場合, 受動文の主語には能動文の目的語がなる」ということである(以下「受動態の前提」)。本研究では, 多くの学習者はこの受動態の前提を理解せず, 日本語の受け身表現(れる・られる)を単純に「be動詞+過去分詞」で表すことができると不十分な知識を持っているとの仮説を立て検証した。この仮説が支持されたことを受け, 学習者の不十分な知識を修正する教授方法を考案し, 一般的教授方法と比較することでこの効果を検討した。実験群の授業は「(1) 手持ちの知識が不十分なことを意識化させる」, 「(2)日本語と英語が構造的に異なる言語であることを意識化させる」, 「(3) 熟達者思考プロセス提示法を用いて学習内容を提示する」という点で統制群の授業と異なっていた。介入の結果, 実験群の成績は統制群を上回った。また, 実験群は, 統制群に比べ, 日本語と英語の違いに注意することや5文型の重要性を認識するようになり, 授業で用いた教材を有効であると認知し, 授業への興味も高かった。
著者
植木 理恵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.277-286, 2004-09-30
被引用文献数
4

本研究は, 「自己モニタリング方略」の重要性および児童生徒への定着の困難さを問題として掲げ, これを解決するための介入方法の提案を目指したものである。一連の実験の結果, (1)方略志向の学習観を促すだけでは自己モニタリング方略の使用には効果がないこと, (2)方略知識を教授することによって, 自己モニタリング方略は一時的に使用されるようにはなるが, 教授後3ヵ月以上経過すると使用されなくなること, そして, (3)方略知識と推論方略を併せて教授すれば, 7ヵ月後の時点においても自己モニタリング方略はよく記憶され使用され続けること, が明らかになった。
著者
高垣 マユミ 中島 朋紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.472-484, 2004-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1 4

本研究は, 小学4年生を対象とした一斉形態の理科授業の協同学習において,「知識の協同的な構成が生じている場面においては, どのような相互作用がみられるのか」また,「そのような相互作用を教室において生じさせる要因は何か」について検討することを目的とした。授業の構成は, ブリッジングアナロジー方略 (Clement, 1993) を教授的枠組みに据え, 学習者の既有知識から出発した「話し合い活動」による協同的探求を中心とし, 解釈上の疑問や問題点を検証する場として実験・観察を位置づけた。理科授業の協同学習における発話事例の解釈的分析から, 以下の結果を得た。1) 知識の協同的な構成には,「個別的」VS.「統合的」の二項対立的な相互作用のスタイル間の揺さぶりによる組織的変化が必要であることが示唆された。2) 科学の基礎概念についての対話者間の解釈上の違い, 及び,「アナロジー」,「可視化」という具体的事象の理解を深める道具立てにより,「操作的トランザクション」の対話が生成され, 相互作用の組織的な変化が生起することが見出された。
著者
下仲 順子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.303-309, 1980-12-30

本研究は,文章完成テストに投映された老年群と青年の自己認知概念を中心にした心理特徴面を比較することにより,老年期の自己概念の諸特徴を世代差,性差の観点から追求することを目的として行われた。 対象者は,青年群は私立大学生男112,女112,計224名である(年齢範囲18∼25才)。老年群は居宅老人男110,女89,計199名である(年齢範囲69∼71才)。社会経済条件は両群共平均かそれ以上に属している。 結果:家庭イメージでは,両群共約半数の者は肯定的表現をしているが否定的反応では青年群の方が多く,中立的客観的反応では老年群の方が多い。友人イメージにおいて,肯定的反応は青年群女に多い。老年群では肯定反応とほぼ同率で客観的反応がなされておりそれは老人女に多い。体イメージでは,青年女子が健康等の肯定反応が多く,老年群では否定的な表明は老人女性に多い。加齢イメージにおいては性差,世代差は示されなかった。 過去および現在の自己イメージでは青年群に否定的自己記述が多く示された。だが未来の自己イメージでは,老年群は肯定および否定反応に集中しているが,青年群は過半数の者が肯定的な未来志向を示していた。 生と死イメージは,老年群のみに性差が示され,とくに女性老人の否定的表明が特徴的であった。次に生きる喜びを老年群は家族との交流や自己の健康面に求めているが青年群は物事の達成による充実感覚に喜びを求めている。また青年群は自分の人生に対して肯定的表明を示しているのに比し老年群は客観的記述が多い。 以上の両群の諸特徴は世代差,性差の観点から考察された。すなわち世代的差違として青年群に示された心理特徴面は,成人として自我を確立してゆく過程の中で,種々の観点からの自己省察の機制が反映していると解釈された。これに対し老年群の肯定した自己の受け入れ等の特徴は,自我の統合性の段階を反映していると推定される反面,自己の未来に対して冷静,否定的であるといった面や家族という縮少した世界の中で安定しているという面は日本の老年期特有の心的特性が表明されていると考察された。 次に両群で示された性差特徴としては,青年群で友人イメージ,自己の体イメージ等においてのみ性差が示され,それは青年女子に肯定的表明が多かった。これらは若さに対する社会的評価および男女の性役割の違いが影響していると推察された。一方老年群の性差は女性老人に特徴的であり,家族という枠組みの中で,内面的には未来への不安感を抱きつつ消極的安定をしているという特徴が示された。
著者
奈田 哲也 堀 憲一郎 丸野 俊一
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.324-334, 2012
被引用文献数
3

本研究の目的は, 奈田・丸野(2007)を基に, 知識獲得過程の一端を知り得る指標としてエラーバイアスを用い, 他者とのコラボレーションによって生起する課題活動に対するポジティブ感情が個の知識獲得過程に与える影響を明らかにすることであった。そのため, 小学3年生に, プレテスト(単独活動), 協同活動セッション, ポストテスト(単独活動)という流れで, 指定された品物を回り道せずに買いながら元の場所に戻る課題を行わせた。その際, 協同活動セッション前半の実験参加者の言動に対する実験者の反応の違いによって, 課題活動に対するポジティブ感情を生起させる条件(協応的肯定条件)とそうでない条件(表面的肯定条件)を設けた。その結果, 協応的肯定条件では, エラーバイアスが多く生起し, より短い距離で地図を回れるようになるとともに, やりとりにおいて, 自分の考えを柔軟に捉え直していた。これらのことから, 課題活動に対するポジティブ感情は, その活動に没頭させ, さらに, 相手の考えに対する柔軟な姿勢を作ることで, 新たな視点から自己の考えを捉え直させるといった認知的営みを促進させる働きを持つことが明らかとなった。
著者
石川 隆行 内山 伊知郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.60-68, 2001-03-30

本研究は,5歳児の罪悪感に共感性と役割取得能力が及ぼす影響を検討した。その際,罪悪感を感じる場面として対人場面と規則場面を設定した。幼稚園5歳児100名を対象として,罪悪感,共感性および役割取得能力について面接法で測定した。罪悪感については,どれくらいあやまりたい気持ちになるかを測度とした。また,共感性はAST(Affective Situation Test),役割取得能力はSelman課題で測定された。その結果,共感性は対人場面での罪悪感に影響し,役割取得能力は規則場面での罪悪感に影響することが明らかになった。したがって,5歳児では対人場面と規則場面では罪悪感の規定因が異なることが示唆された。
著者
早川 貴子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.274-283, 2009-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,幼児期の対人的葛藤場面における謝罪行動の予測に影響を与える要因を検討することであった。特に,(1)加害行為の意図性によって加害者の謝罪行動の予測が異なるかどうか,(2)加害行為の意図性及び加害者の謝罪行動の予測によってその後の関係の見通しが異なるかについて検討を行った。4歳,5歳,6歳児を対象に,仮想の葛藤場面に関する意図的場面と偶発的場面のストーリーを聞かせ,加害者の立場に立って回答させた。その結果,(1)謝罪行動の予測については,4歳児よりも6歳児で多く認められ,葛藤の終結のために謝罪行動が必要と認識している事が示された。加害行為の意図性による影響は,4歳児より5歳児で認められるが,6歳児では認められなくなることが示された。(2)謝罪行動とその後の被害者との関係の見通しに関しては,5歳児で関連が認められるが,6歳児では関連が認められなくなった。つまり,加害行為の意図性と謝罪行動との関連に関する今回の結果から,5歳児で謝罪行動の転換点がある可能性が考えられた。
著者
田中 優子 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.514-525, 2007-12-30
被引用文献数
8

本研究では,大学生を対象とし,目標や文脈という状況要因が批判的思考の使用に関わるメタ認知的判断に及ぼす影響を検討することを目的として,研究1では,批判的思考が「効果的」な文脈と「非効果的」な文脈を収集した。研究2では,収集した文脈の分類を行い,それぞれの特徴を抽出した。2つの文脈にはそれぞれ異なる特徴がみられた。研究3では,「正しい判断をする」「物事を楽しむ」という2つの目標と文脈を独立変数として,批判的思考をどの程度発揮しようとするかというメタ認知的な判断に及ぼす影響を検討した。その結果,「物事を楽しむ」という目標よりも「正しい判断をする」という目標においてより批判的思考を発揮しようと判断すること,同じ目標であっても文脈によって批判的思考の発揮判断が変化することが明らかになった。さらに,批判的思考の発揮判断は,目標や文脈を考慮するものの全体的に批判的思考を発揮しようとするタイプ,効果的な文脈で非常に高く批判的思考を発揮しようとするタイプ,非効果的文脈では目標に関係なくほとんど発揮しようとしないタイプという3タイプによって特徴づけられることが示された。
著者
杉江 修治 梶田 正巳
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.381-385, 1989-12-30

The quality of interactions among small group members constitutes a significant factor that brings about positive effects in school learning. And aspects affecting the quality of the interactions are still more numerous. In this study, we chose one of the important aspects, namely: "the effects of teaching activities", and examined the reasons why the activities would produce good results in small groups. Two types of instructions were given...A: "You must teach another person after learning yourself", B: "Your attainment will be evaluated after you have learned". Two types of activities were directed after a study lasting 25 minutes...a: To teach another person, b: To review the learning tasks. E_1 was the condition of A+a, and E_2: A+b, and C: B+b. Ss were 11-12 year-old children, and the tasks used were arithmetic. Results were as follows. (1) The learning set to teach another person "after one has learned" had positive effects on academic achievement. (2) The activities to teach another person seemed to have a possibility to raise some positive effects.
著者
神野 秀雄
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.89-99, 1984-06-30

The purpose of this study was to classify the developmental change of preschool and school aged autistic children through the application of NAUDS(Nagoya University of Autistic Child's Developmental Scale). The NAUDS consisted of 13 items, each one was to evaluate one aspect of some autistic characteristics ; Language (L_1, L_2), Activity level (A_1.A_2), Emotion (E_1,E_2), Empathy (Em), Human relation (Ad_1, Ad_2, C), Eye contact (Ey), Perseveration of sameness (P.S) and Stereotyped behaviour (St). Each item of NAUDS consisted of 5 rating steps according to the level of improvement of autistic characteristics. 1. Factor analysis of NAUDS : NAUDS was administered to 41 autistic children and 28 mentally retarded children treated with play therapy at a clinic (Reseach center of Remedial Education, Aichi University of Education) and 55 autistic children in a prefectual special school for mentally retarded. The NAUDS data were analysed by the principal factor method and the results were rotated by the varimax method.The factors obtained for autistic children were quite different from that of mentally retarded. The 1st factor loaded on E_1, E_2, Em and Ey items was named E factor and the 2nd factor loaded on L_1, L_2, Ad_1, Ad_2, and C items was named L factor. The remaining 4 items (A_1, A_2, P.S, St) were accounted for A factor (FIG. 1). On the other hand, for the mentally retarded children 11 out of 13 items (other than A_1, P.S) were highly correlated to each other and only one factor was extracted (FIG. 2). 2. Examination oftheimprovementofautistic characteristics and the correspondence of developmental change among 13 items : 18 autistic children having been treated with play therapy for 3 or more years were evaluated by NAUDS every year. In the process of developmental change the high correspondence found were among E_2, Em, Ad_1, Ad_2, and C but the correspondence among A_1, P.S, C and St were rather low (FIG. 3, 4). 3. Index for the improvement of autistic characteristics and the classification of the developmental change : From the results of the previous 2 sections, we proposed E-score and L-score as the appropriate index for the improvement of autistic characteristics. E and L scores were obtained as the average rating score for the items containing 1st or 2nd factor respectively. 23 autistic children treated with play therapy once a week at this research center 3 or more years, were evaluated every year. At the beginning of this study, their mean age was 6.3 years. Longitudinal change of autistic characteristics was analysed from the viewpoint of the locus of E and L scores and four types were identified. D1 Type E score level 1-2 L score level 1 (FIG. 5) D2 Type E score level 2 L score level 2 (FIG. 6) D3 Type E score level 3 L score level 3 (FIG. 7) D4 Type E score level 4 L score level 4 (FIG. 8) In addition to the four types discribed above we set up another type(D5) including intelligent autistic children. D5 Type E Score level low L Score level high (Fig. 9)