著者
木俣 博之 馬場 正三
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.226-234, 1998-04

大腸癌の発生予防を目的として,ヒトのAPC遺伝子codon 1309と相同の部位に変異を持つマウスに,非ステロイド消炎鎮痛薬剤であるpiroxycamを投与し,その腺腫増殖抑制効果にっき検討した.その結果,piroxycam投与群はcontrol群に比し,ポリープ数および大きさで有意に抑制効果が認められた.また臨床例において,家族性大腸腺腫症患者で予防的結腸全摘術を行い,残存直腸の腺腫のサーベイランス中の3症例に対し,piroxycam坐剤の実験的投与を行った.10週間の投与で,3例ともに残存直腸内の腺腫の縮小,消失が認められ,piroxycamの腺腫発生に対する予防効果が認められた.従来FAPの予防的切除として行われてきた結腸切除術,回腸直腸吻合術式での,術後残存直腸からの腺腫発生の予防的投与に有用であると考えられた.
著者
角田 明良 安井 昭 西田 佳昭 熊谷 一秀 渡辺 敢仁 増尾 光樹
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.14-18, 1988

過去4年6カ月間に当施設において,大腸多発癌症例を5例経験したので,臨床病理学的に検討し,文献的考察を加えた.<BR>癌巣数は,癌巣を2個有するものは2例,3個以上有するものが3例に認められ,占居部位は大腸全域に分布していた.全例に腺腫性ポリープの合併を認め,全ポリープ数13個のうち6個に癌巣の併存を認めた.壁深達度は第1癌はpm以上の進行癌であり,第3癌以後は早期癌の頻度が高く,とくにm癌が多かった,他臓器重複癌の合併は2例にみられ,重複癌臓器は共に胃癌である.同・異時性大腸多発癌例には癌家族歴が認められた.<BR>大腸多発癌は,進行癌の口側に存在する早期癌の場合,術前検査での診断は困難となるため,手術に際しての術中内視鏡が有用であり,ポリペクトミーによる迅速診断が術式の決定に有効であった.
著者
岡崎 啓介
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.339-345, 2010 (Released:2010-05-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

放射線不透過マーカーを用いて大腸通過時間を測定し,便秘の質的診断を試みた.健常成人ボランティア43名を対象とし,1,2,3日目に放射線不透過マーカー(Sitzmarks)を服用,4,7日目に腹部単純写真を撮影,Metcalfらの方法で全大腸通過時間,大腸各区域(右側,左側,S状結腸直腸)通過時間を測定した.質問アンケートと排便状況(回数,ブリストルスケール)について自記させた.通過時間は中央値で示した.男性(n=13)はすべて便秘(-)で,全大腸通過時間は7.2h,右側2.4h,左側3.6h,S状結腸直腸2.4h.女性で便秘(-)(n=24)は全大腸31.8h,右側4.2h,左側9.0h,S状結腸直腸11.4h.女性で便秘(+)(n=6)は全大腸110.4h,右側30.6h,左側36.6h,S状結腸直腸30.0hであった.大腸通過時間が40h超の延長例を類型化すると,左側通過時間を最長とするcolonic inertia型とS状結腸直腸通過時間を最長とするoutlet obstruction型に分類できた.この分類は排便回数やブリストルスケールでは判別できず,放射線不透過マーカーによる質的診断の有効性が示唆された.
著者
万井 真理子 辻仲 利政 西庄 勇 三嶋 秀行 吉川 宣輝
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.335-341, 2001-05
被引用文献数
13 7

症例は58歳男性. 右下腹部痛と下痢を訴え受診. 7年前胃癌にて胃全摘術施行. 注腸で横行, 下行, S状結腸と直腸に壁の辺縁硬化や鋸歯状不整を伴う全周性狭窄と粘膜の顆粒状小隆起を認めた. 内視鏡で同部の粘膜が浮腫状に肥厚し, 浅い潰瘍や半球状の顆粒集族も認めた. 生検上低分化腺癌・印鑑細胞癌を認め原発性びまん浸潤型大腸癌または胃癌による転移性びまん浸潤型大腸癌を疑い手術施行. 腹膜播種なく左半結腸切除および直腸切断術を施行. 病理組織で初回手術の胃癌同様, 粘膜下層中心に漿膜下までの癌浸潤と間質結合組織増生を認め, 胃癌による4領域を越える転移性大腸癌と診断した. 転移性大腸癌は原発巣術後5年以上でも発症し, 臨床的所見に乏しいことがあるため注腸等による定期的な画像診断が有用だが原発性びまん浸潤型大腸癌との鑑別が必要である. 転移巣切除後の予後は良好でないが, 治癒切除可能ならば原発性大腸癌に準じた手術を行うべきである.
著者
岡部 聡 中島 和美 金子 慶虎 竹村 克二 五関 謹秀 遠藤 光夫 大橋 健一 神山 隆一 春日 孟
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.401-407, 1987
被引用文献数
16 14

直腸肛門部原発悪性黒色腫の1例を経験したので本邦報告137例を加え,診断と治療上の問題点を中心に検討した.症例は47歳女性,肛門部腫瘤の擦過細胞診により悪性黒色腫と診断し,腹会陰式直腸切断術(以下,APRと略す)さらに免疫化学内分泌療法を施行したが術後22カ月目に脳転移により死亡した.報告例を加えて検討した結果,診断については,(1)肛門出血を訴えるものが最も多く病悩期間は平均11カ月であった.(2)好発年齢は男女とも60歳台であり,男女比は1:1.83と女性に多かった.(3)本症の半数以上が直腸肛門移行部から発生しており,多発病変がみられたのは全体の23%であった,また(1)腫瘍最大径が5cm以上(2)壁深達度がss(a1)以上(3)肉眼的には潰瘍形成を伴う2または3型が1型よりも予後不良であった.早期診断,両側鼠径リンパ節郭清を伴うAPRと適切な抗癌剤等の投与による補助療法を行うことが本症の治療成績を向上させる上で必要であろう.
著者
望月 能成 石原 伸一 山崎 安信 渡部 克也 森脇 義弘 坂本 和裕 南出 純二 須田 嵩 竹村 浩
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.98-102, 1998-02
被引用文献数
9 6

症例は67歳,男性,肛門部腫瘤と肛門出血を主訴に当院を受診された.肛門管癌と診断し,1995年9月11日経肛門的腫瘍摘出術を施行,術中所見で腫瘍の肛門側に白色に肥厚しだ粘膜が認あられ一部同時に切除した.病理組織学的所見では,腫瘍は高分化腺癌,mp,ly0,V0,ew(―)であった.同時に切除した肥厚した粘膜には腫瘍と連続してPaget細胞の上皮内進展を認めた.肛門周囲Paget病変を伴う肛門管癌と診断し1995年9月25日仙骨腹式直腸切断術を施行した.切除標本ではPaget病変は肉眼的皮膚病変を越え肛門管上皮内にほぼ全周性に認められ,一部肛門縁を越え肛門周囲皮膚に浸潤していた.術後経過は良好で,現在外来経過観察中である.Paget病変を伴う直腸肛門癌は非常に稀であり本邦報告18例を含め検討した.
著者
小田 秀也 渕上 忠彦 平川 雅彦 堺 勇二 八尾 恒良
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.554-566, 1996-08
被引用文献数
21 4

当院で虚血性大腸炎と診断した130例を対象に, 狭窄型や再発例を中心に臨床的分析を行った. 発症年齢は平均59.3歳で, 男性は62.0歳, 女性は56.0歳と女性の方が若く, 男女比は45 : 85と女性に多かった. 病型は一過性型は109例, 狭窄型は9例, 不明12例であった. 狭窄型では白血球数, 赤沈値, CRPの炎症所見が一過性型に比し有意に増加し, またその正常化までの期間も遅延していた. 内視鏡所見では狭窄型は縦走潰瘍を有し, 全周性炎症を伴ったものが多く, 治癒までの期間は有意に延長していた. 狭窄型のうち経過観察した5例の狭窄は徐々に改善した. 再発の有無は面接とアンケート調査で115例について調査できた. 再発例は検査にて確認されたもの8例, アンケート回答5例の計13例にみられた.累積再発率は1年後3.8%, 2年後8.5%, 5年後12.1%であった. 再発例は非再発例に比べ, 基礎疾患をもつものが多く, 4例は狭窄型となり, 同部位再発が多かった.
著者
石原 雅巳 寺本 龍生 松井 孝至 千葉 洋平 山本 聖一郎 安井 信隆 石井 良幸 奈良井 慎 立松 秀樹 小林 直之 徳原 秀典 渡邊 昌彦 北島 政樹 倉持 茂
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.440-445, 1990-06
被引用文献数
6

症例は22歳の男性.1995年5月,排便困難,血便を主訴に近医を受診した.直腸癌の疑いで当院を紹介され1995年5月29日,入院となった.注腸造影,大腸内視鏡検査では肛門縁より約7cmの直腸左壁を中心とし半周性の隆起を主体とした腫瘤の集蔟を認め,感染性腸炎を疑わせる所見であった.生検の病理組織像は形質細胞の多い非特異的炎症のみであった.梅毒血清反応が陽性であったことから,梅毒性の直腸炎と診断し,駆梅療法を開始した.開始後,梅毒血清抗体価の低下にともない病変の縮小を認め,治療後約4カ月で梅毒血清抗体価の陰性化と病変の消失を認あた.さらにTreponema pallidum(以下T.p.)に対する抗体を用いた酵素抗体法によりT.p.が生検部の病理組織より証明され,梅毒性直腸炎の確定診断がされた.
著者
澤井 照光 佐々野 修 辻 孝 中村 司朗 七島 篤志 内川 徹也 山口 広之 安武 亨 草野 裕幸 田川 泰 中越 享 綾部 公懿 福田 豊
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471081)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.323-326, 1996-05
被引用文献数
4 1

症例は68歳, 男性.1992年4月6日, S状結腸癌のためS状結腸切除術を受け, 以後半年毎に大腸内視鏡検査によってfollow upされていた.1994年5月27日の大腸内視鏡検査で上行結腸に皺集中を伴う軽度隆起した発赤が認められ, 易出血性であった.生検の結果はgroup IIIであったが内視鏡所見よりsm massiveの腺癌と考えられ開腹術が行われた.手術所見はH<SUB>0</SUB>P<SUB>0</SUB>S<SUB>1</SUB>N (-), stage IIで, 第3群リンパ節郭清を含む右半結腸切除術が施行された.切除標本をみると皺集中を伴う5×8mmの平坦な病変であるが, その周囲は軽度隆起しており, 粘膜下へのmassiveな腫瘍細胞の増殖が示唆された.病理組織学的には深達度ssの高分化腺癌で, ly<SUB>1</SUB>, v<SUB>0</SUB>, リンパ節転移は陰性であった.Ki-67/AgNOR二重染色を施行した結果, Ki-67陽性細胞の平均Ag-NOR数は9.98と高く, このことが垂直方向への浸潤と関連しているのではないかと考えられた.
著者
西村 顕正 森田 隆幸 村田 暁彦 馬場 俊明 池永 照史郎一期 木村 憲央 佐々木 睦男
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.346-350, 2003-07-01
被引用文献数
1

抗リン脂質抗体症候群(APS)に全身性エリテマトーデス(SLE)を合併し上腸間膜静脈血栓症を発症した1例を経験した.症例は63歳女性.平成7年APS,平成9年SLEと診断され当院内科で加療中であった.平成13年5月21日より腹部不快感を自覚した.5月26日より腹痛が増強したため救急外来を受診した.腹部造影CTで上腸間膜静脈血栓症を疑い,同日緊急手術を施行した.トライツ靱帯から約190cm肛門側の小腸に約50cmにわたり虚血性病変を認め,これを切除した.術後は抗凝固療法を行い,17日目に退院となった.上腸間膜静脈血栓症は稀な疾患であり,早期診断が困難なことが多い.凝固能亢進状態にある患者では同疾患も念頭に入れ,早期診断と治療にあたることが必要と考えられた.
著者
斉藤 英一 渡部 英 国井 康弘 土谷 昇ニ 山崎 忠光 榊原 宣
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.189-194, 1998-03
被引用文献数
7 4

症例は79歳の女性で,1996年4月26日,下痢と腹痛を主訴に当院を受診腹部は膨満しており,腹部単純X線写真で多発性の鏡面像を認めた.腸閉塞の診断で同日入院.入院後直ちにイレウスチューブを挿入,3日後大量の排便を認め,腹部単純X線写真でも鏡面像は消失していた.イレウスチューブの先端はS状結腸に達しており,抜去しながらの造影で横行結腸肝弯曲部に蟹爪状陰影を認めた.大腸内視鏡検査で腸重積を整復,盲腸に2'型大腸癌を認めた.生検結果はGroup Vで,盲腸癌を先進部とした横行結腸の腸重積と診断した,5月8日右半結腸切除術を施行した.上行結腸は後腹膜より遊離し,小腸と共通の腸間膜を有していた.病理組織学的には中分化腺癌で,深達度はss,リンパ節転移は認あられなかった.大腸癌による成人大腸腸重積は,回盲部とS状結腸が好発部位とされ,総腸間膜症を伴った横行結腸の腸重積は検索しえた範囲ではこれまで2例が報告されているのみである.
著者
永田 浩一 伊山 篤
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.133-139, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
27
被引用文献数
2

目的:大腸3D-CT検査の炭酸ガス手動注入時に直腸内圧をモニターすることは,腸管拡張程度の改善に寄与するか比較検討した. 方法:大腸3D-CT検査を施行した合計140例を対象として圧力計未使用群70例,炭酸ガス手動注入時に圧力計で直腸内圧をモニターした圧力計併用群70例の2群に分けた.大腸を6区分に分類し,2体位分で合計1,680の大腸区分の腸管拡張程度を評価者2名が4段階の腸管拡張スコアで評価した.圧力計併用群では,ガス注入中止時の直腸内圧を記録した. 結果:圧力計併用群では圧力計未使用群に比較し,両体位でガス注入量が増加し,2体位目の腸管拡張程度では下行結腸を除いた大腸5区分で有意な改善がみられた.ガス注入中止時の平均直腸内圧は,1体位目が32.6mmHg,2体位目は31.2mmHgであった. 結論:大腸3D-CT検査の送気時に直腸内圧をモニターすることは,腸管拡張程度の改善に有用である.
著者
亀井 秀策 寺本 龍生 渡邊 昌彦 石井 良幸 遠藤 高志 橋本 修 北島 政樹 向井 万起男
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.725-729, 1999-08
被引用文献数
6 5

症例は37歳女性で, 1997年より強迫神経症にて他院入院中であった.1998年2月中旬より間欠的に腹痛を認めていたが, 3月5日疼痛著明となり腹部CT検査を施行され, 内ヘルニアまたは腸軸捻転症の疑いで翌6日当院を紹介され受診した.右回盲部に有痛性で弾性軟の手拳大の腫瘤を触知し, 腹部CTにて境界明瞭で数層の壁構造よりなる腫瘤を認め, 腸重積の診断にて緊急手術を施行した.開腹すると重積のため著明に肥厚した上行結腸を認め, 整復不能と判断し結腸右半切除術を施行した.切除標本では潰瘍形成を伴う盲腸腫瘍を認め重積の先進部となっていた.病理組織学的診断はneuroendocrine carcinomaであった.
著者
姫野 秀一 菊池 隆一 内田 雄三
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.26-30, 1999-01
被引用文献数
7 3

腺腫内に早期印環細胞癌を含む,大腸同時性4多発癌の1例を経験した.症例は60歳,女性.平成8年3月26日,他院にて横行結腸癌に対し横行結腸切除術(高分化型腺癌,stage II)を施行した.その10カ月後,同院にて全大腸精査を行ったところ,上行結腸に直径5cm大の腫瘤型腫瘍を認め,手術目的にて当院に紹介された.平成9年2月17日,右半結腸切除術を施行(stage II).切除標本には,(a)上行結腸中央部に腫瘤型病変,(b)上行結腸下端にIIa病変,および(c)結節集簇様病変,を認めた.各々の病理組織学的診断は,(a)中分化型腺癌,深達度ss,(b)tubular adenomaの一部に印環細胞癌を認める腺腫内癌,深達度m,(c)高分化型腺癌,深達度m,であった.本症例はきわめて稀な印環細胞癌の腺腫内癌を含む多発癌であり,発癌の機序を考えるうえでも非常に興味深いと考えられた.
著者
上地 一平 北村 宗生 三沢 篤志 中山 宏文
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.485-489, 1998-07
被引用文献数
6 3

直腸にadenocarcinoma, multiple carcinoid, neurofibromatosis, ganglioneuromatosisを合併したvon Recklinghausen病(以下VRD)の1例を経験した.症例は39歳男性,主訴は下血.1996年11月中旬より排便時に下血するようになり,12月19日当科を紹介受診した.初診時,全身に多発する大小不同の柔らかい小結節と褐色の色素斑を認めた.大腸内視鏡検査で肛門縁より約3cmから20cmにわたり連続性・全周性に多発するポリープ様病変を認めた.ポリペクトミーを施行し,adenocarcinoma,carcinoidの病理組織診断を得た.1997年2月6日腹会陰式直腸切断術を施行した.VRDは消化管に神経原性腫瘍が比較的多く合併することが知られているが,自験例のように直腸に癌やカルチノイドのほか多彩な組織像を合併した症例は他に報告例をみない.今回著者らは,自験例の概要とともに若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
神奈木 玲児
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.445-446, 2003-09-01

癌の転移には数多くの接着分子が関与するが,ここでは臨床的に最も問題となる遠隔血行性転移に関与するセレクチン系の細胞接着分子について最近の研究を紹介したい.<BR>1.癌転移におけるセレクチンの関与と癌細胞における糖鎖リガンドの発現誘導機構<BR>血行性転移において流血中の癌細胞が血管内皮と接着する際にセレクチンとその糖鎖リガンドが重要な役割を演じる.血管内皮側ではE-セレクチンが,癌細胞側にはシアリルルイスa・シアリルルイスXなどの糖鎖リガンドが発現する.これらの糖鎖リガンドは以前からCA19-9,SLX,NCC-ST-439などの名称のもとに腫瘍マーカーとして臨床応用されてきた.癌細胞ではこれらの糖鎖の発現が正常上皮細胞に比べて有意に亢進している.最近になり癌におけるこれら糖鎖の発現亢進機構がようやく判明してきた.<BR>最近,大腸の正常上皮細胞がシアリルルイスa・シアリルルイスXよりも一段と複雑な構造の糖鎖を構成的に発現することが知られるようになった.おそらく発癌の最も初期に起こるのはこれらの複雑な糖鎖の合成不全であると考えられる.正常上皮細胞に発現する複雑な糖鎖としては,シアリルルイスX系糖鎖では硫酸基の付加した硫酸化シアリルルイスXが典型例であり,シアリルルイスa系糖鎖ではシアル酸がさらに付加したジシアリルルイスaが代表的である.癌化の初期に硫酸化やシアル酸化反応が低下してこれらの複雑な糖鎖の合成不全がおこり,これらの修飾のないシアリルルイスa・シアリルルイスXの発現が亢進する.この合成不全の背景には,これらの修飾に関与する転移酵素遺伝子のDNAのメチル化やピストンの脱アセチル化が推定されている.<BR>2.上皮細胞と免疫系細胞との相互作用と発癌<BR>正常上皮細胞に発現する硫酸化シアリルルイスXはL一セレクチンの特異的リガンドとして日常的にホーミングするリンパ球の粘膜内での挙動を制御し,ジシアリルルイスaはNK細胞や一部のT細胞の抑制性リセプターSiglec-7/p75/AIRM1の特異的リガンドとなっている.<BR>正常上皮細胞に発現するこれら複雑な糖鎖がいずれも免疫系細胞との相互作用を媒介する機能を持つことは注目される.腸管ホーミング性のリンパ球はα4β7インテグリン,L-セレクチンをもち,腸管上皮細胞が産生するケモカインTECKのリセプターCCR9を発現する.このリンパ球は腸管関連リンパ組織ヘホーミングしたのち,さらに粘膜固有層へ出て硫酸化シアリルルイスXやジシアリルルイスaを発現する腸管上皮細胞とL-セレクチンやSiglec-7を介して接着する.この接着によってリンパ球側にCCR10の発現が誘導される.CCR10はより分化した腸管上皮細胞が分泌するケモカインMECのリセプターであり,これによってリンパ球は粘膜固有層内をさらに遊走する.こうした細胞接着分子とケモカインの継時的なはたらきが正常粘膜のLPLやIELの成立に関与すると思われる.<BR>細胞の癌化に伴ってこれら複雑な構造の機能性糖鎖が消失すると粘膜内の免疫学的ホメオスタシスが障害されると考えられる.大腸癌の血行性転移を促進するシアリルルイスX・シアリルルイスaの発現亢進の背景には,こうした機能性糖鎖の消失がある.腸癌発生におけるCOX2の関与や,IL-10ノックアウトマウスにおける発癌は,粘膜中の免疫学的ホメオスタシスの乱れが大腸癌の発生に深く関連することを示す.正常大腸においては硫酸化シァリルルイスXやジシアリルルイスaなどの糖鎖は主にMUC2ムチンに担われるが,最近MUC2ノックアウトマウスで大腸癌の発生が報告されたことは,これら糖鎖を介する正常の細胞接着の消失が癌の発生に関与する可能性をさらに示唆する.<BR>3.三種のセレクチンのリガンド特異性と治療応用の展望<BR>セレクチンにはE-,P-,L-セレクチンの三種類があるが,癌細胞と血管内皮との接着で主役を演じるのはE-セレクチンであり,P-およびL-セレクチンの関与は少ない.しかし最近P-セレクチンやL-セレクチンのノックアウトマウスを用いたモデルでも転移の減少が認められ,P-,L-セレクチンも癌の血行性転移に有意に関与すると考えられるようになった.このため三つのセレクチンのすべてを阻害する治療法の樹立が課題である.この点についても紹介したい.
著者
木村 聖路 工藤 育男 鈴木 秀和 福士 道夫 坂田 優 菅 三知雄 相沢 中
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.422-427, 1995-06
被引用文献数
3 3

症例は49歳,男性.平成4年8.月15日,突然の左下腹部痛が出現し,当科入院.諸検査にて腸間膜腫瘍と診断した,血中CEA値が高値を示し,CT像は左側骨盤内に隔壁を有する嚢胞性腫瘍を示した.11月9日に手術を施行.S状結腸間膜に原発腫瘍があり,ダグラス窩から左下横隔膜腔にかけて粟粒大の粘液様分泌物が散在していた.摘出した腫瘍は内腔に粘液を多量に含んだ鶏卵大の嚢胞で,嚢胞壁の組織学的所見は隣接する大腸と同一の粘膜層,粘膜下層,筋層を有しており,重複腸管と診断された.さらに嚢胞内壁に配列する高円柱状細胞が低悪性度の粘液嚢胞腺癌に変化しており,重複腸管の腫瘍化と考えられた.粘液は嚢胞壁を破壊して壁外へ進展しており,腹腔内粘液にも同様の腫瘍細胞を確認した.S状結腸に隣接する重複腸管を原発巣とする腹膜偽粘液腫のきわめて稀な1例と考えられた.
著者
宮崎 道彦
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.251-255, 2007-05-12
参考文献数
20

2003年6月1日から2005年4月30日の期間に手術治療を施行した全身性疾患を有する肛門疾患24例, 年齢は26~92歳 (中央値67.5歳), 男性16例, 女性8例をretrospectiveに検討した. 併存疾患のうちわけは透析中慢性腎不全5例, 中枢神経, 筋疾患5例, 脳, 心筋梗塞後抗血栓療法併用症例6例, 膠原病2例, 糖尿病2例, その他4例 (播種性血管内凝固症候群1例, 肺結核1例, 甲状腺腫1例, アルコール性肝炎1例) であった. 肛門疾患のうちわけは痔核, 粘膜脱18例, 痔瘻 (肛門周囲膿瘍) 3例, 出血性直腸潰瘍3例であった. 再手術は初回予定手術21例中1例, 緊急手術3例中2例 (再緊急手術), 計3例 (9.1%) に必要であった (内外痔核1例, 出血性直腸潰瘍2例). 全身疾患を有する患者への肛門待機手術は慎重な態度で臨めば安全に行うことが可能である.
著者
根塚 秀昭 芳炭 哲也 齊藤 光和 藤井 久丈
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.467-470, 2007-08-10
被引用文献数
3 3

症例は90歳女性. 3日前から持続する腹痛と発熱を主訴に当院へ搬送された. 腹部CTにて回盲部から右腸腰筋部におよぶ径5cm大のlow density massを認め, 周囲に少量の腹水を認めたため, 急性虫垂炎および右腸腰筋膿瘍の疑いにて緊急手術を施行した. 回盲部は一塊となり臓器の判別は困難で, 近接する右腸腰筋部を剥離すると内部から透明粘調なゼリー状物質が流出した. 虫垂癌の右腸腰筋浸潤, 穿孔性腹膜炎と術中診断し, 回盲部切除術と腹腔内ドレナージを施行した. 術後の病理組織学的検査では, 細胞内に粘液を豊富に貯留した腫瘍細胞の増殖が認められ, mucinous cystadenocarcinomaと診断された.<br>虫垂癌は術前診断が困難である. 画像所見にて右腸腰筋膿瘍などの後腹膜膿瘍が疑われる場合には, 原発性虫垂癌も念頭におく精査加療の必要があると考えられた.
著者
河村 卓二 趙 栄済 宮田 正年 酒田 宗博 河端 秀明 郡 靖裕 小川 真実 森川 宗一郎 芦原 亨
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.142-145, 2007-03-01

1988年8月から2004年8月までの16年間に, 当科において15歳以下の小児32症例に全大腸内視鏡検査47回を含む計143回の大腸内視鏡検査を施行した. 30例は鎮静剤の静脈投与を用いて内視鏡室で, 2例は全身麻酔を用いて手術室でそれぞれ施行した. 挿入および観察は無透視一人法で行った. 血便症例は22例で, 内視鏡施行により15例 (68.2%) で出血源の同定が可能であった. 全大腸内視鏡検査は試行した47回においてすべて可能であり, 回盲部までの平均到達時間は10分22秒であった. 成人と同様に腸管洗浄液を用いた場合は前処置の効果は良好となったが, 小児での腸管洗浄液に対する受容性は低かった. 塩酸ペチジンにミダゾラムを併用した前投薬の鎮静効果はおおむね良好であり, 3例の治療を含む全検査で偶発症を認めなかった. 小児に対する大腸内視鏡検査は適正な前投薬の使用で安全に施行可能であり, 診断および治療に有用である.