著者
松岡 真如 小野寺 栄治 川上 利次 高野 一隆 木村 穣
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.6, pp.193-200, 2018-12-01 (Released:2019-02-01)
参考文献数
15

衛星からの電波を受信して位置を知ることのできる Global Navigation Satellite System (GNSS) 受信機は林業の現場に普及している。GNSS で計測された座標には位置誤差が常に含まれている。したがって,その座標を用いて計算した面積も誤差を持っている。面積誤差の大きさが分かれば,直接的に測量の精度を知ることができ,森林資源の管理に役立つと考えられる。本論文では,位置座標と位置誤差(標準偏差)とから面積の標準偏差を求める方法を説明する。また,誤差を含む座標を用いて計算された「面積の標準偏差の近似値」を面積の精度を示す指標として利用することを提案する。この近似値のあてはまりの良さを評価するため,本論文では GNSS による周囲測量を模した数値実験を行った。その結果,90%以上の実験条件において,近似値は実測値±3%の範囲に収まった。加えて,提案した指標を実際のデータに適用し,利用方法の例を示した。これらにより,提案した指標が GNSS 測量で得られた面積の精度評価に利用できる可能性が示された。
著者
岡崎 千聖 逢沢 峰昭 森嶋 佳織 福沢 朋子 大久保 達弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.4, pp.116-123, 2018-08-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
56

群馬県では県北部のみなかみ町において2010年に初めてナラ枯れが発生した。このような飛び地的被害を起こしたカシノナガキクイムシ個体群の由来について,隣接県から近年自然または人為的に移入した,遠方から人為的に移入した,在来由来の三つの仮説が考えられた。もし,移入個体群であれば遺伝的多様性の低下や遺伝的に遠い系統がみられると予想される。本研究ではこれらの仮説を遺伝解析に基づいて検証した。みなかみ町およびナラ枯れの起きている近隣6県において,カシノナガキクイムシ試料を採集し,核リボソームDNA,ミトコンドリアDNAおよび核マイクロサテライト(SSR)を用いて遺伝解析を行った。核リボソームDNAおよび核SSRの遺伝構造解析の結果,群馬個体群は福島や新潟と同じ日本海型の北東日本タイプに属したことから,南西日本から人為的に移入したものではないと考えられた。また,ミトコンドリアDNAと核SSRを用いて各個体群の遺伝的多様性を調べた結果,群馬個体群の遺伝的多様性は低くはなく,他個体群と違いはなかった。よって,群馬個体群は近年の移入由来ではなく,在来由来と考えられた。
著者
鈴木 和夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.90-102, 2005-02-01
被引用文献数
6

生研機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」として取り組まれた「森林生態系における共生関係の解明と共生機能の高度利用のための基礎研究」(平成8∿12年度)の概要と, とくに学問的に関心の高い外生菌根菌マツタケに焦点をあてて論述した。まず, マツタケTricholoma matsutakeの識別として, rDNAのITS領域を用いて設計されたマツタケ特異的プライマーによって, マツタケ菌糸の有無を数mg以下の試料から確実に同定する方法を確立した。また, わが国のマツタケの多様性は, rDNAのIGS1領域を用いて8タイプに分けられ, Aタイプが広範囲にわたって優占していた。ヨーロッパおよび北アフリカに分布するマツタケの近縁種T. nauseosumは分子生物学的には同種であることが否定できなかったが, 今後, 生物学的種の観点からの検討が必要である。「マツタケは外生菌根菌であるのか?」についての疑念は, 形態的にも生理的にも典型的な外生菌根菌であることが, ハルティッヒネットの構造やATPaseの分布様式から示された。そして, マツタケ菌根の迅速人工合成法が確立され, マツタケ菌糸の親水性を高めて迅速な菌糸体の大量培養が可能となり, マツタケの人工シロの誘導が可能となった。
著者
小池 伸介 正木 隆
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.26-35, 2008 (Released:2008-10-15)
参考文献数
118
被引用文献数
17 24

食肉目による果実食の実態を把握するため,ツキノワグマ,テン,タヌキの3種を対象に,文献情報に基づいて果実の利用を分析した。その結果,ツキノワグマとタヌキは高木・ツル植物の果実をよく利用していたが,テンは低木とツル植物果実をよく利用していた。ツキノワグマは液果だけではなくブナ科の堅果などをよく利用していた。このような種間差は,高木の樹冠部にアクセスできる能力や利用する果実タイプが種によって異なるためと考えられた。また,ツキノワグマは脂肪分に富む果実を利用する傾向を示したが,他2種はそれらをあまり利用していなかった。これは冬季の冬眠の有無を反映していると考えられた。さらに,いずれの種も多くの樹種の液果を利用していることから,森林における種子散布者として重要な機能を果たしている可能性が高いと考えられた。
著者
小塩 海平 山仲 藍子 嶋田 昌彦 椎野 太二朗 鶴岡 邦昭 柴山 俊朗
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.43-47, 2011
被引用文献数
1

オレイン酸およびオレイン酸誘導体非イオン系界面活性剤 (対照区 (水), ジグリセロールトリオレート5%, グリセロールジオレート5%, グリセロールモノオレート5%, ペンタエリスリトールジオレート5%, ソルビタン脂肪酸トリエステル (16, 18, 18: 1, 18: 2, 18: 3) 5%, オレイン酸5%, ソルビタントリオレート5%) をスギに散布処理し, 雄花に対する選択的褐変効果を評価した。供試した界面活性剤はいずれもスギ雄花に対する選択的褐変効果を有しており, ソルビタントリオレートはその高い褐変効果を示した。供試した界面活性剤のHLB値 (親水–親油バランス) が低いほど, スギ雄花の褐変に及ぼす影響が大きく, いずれの界面活性剤処理でも,スギ雄花からのエチレン生成が抑制された。これらのオレイン酸誘導体非イオン系界面活性剤処理は, 今後, スギ花粉飛散防止技術として実用化が期待される。
著者
松本 剛史 佐藤 重穂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.5, pp.238-242, 2015-10-01 (Released:2015-12-23)
参考文献数
20

キバチ共生菌キバチウロコタケを人工的に接種したヒノキ丸太と対照丸太を2013年春期に野外に設置し, キバチ類に産卵させた。すると2014年度春期から夏期にかけてキバチ類が羽化脱出してきた。羽化脱出してきたキバチ類は全てオナガキバチであった。また, 羽化脱出してきたオナガキバチは全てキバチウロコタケ接種丸太からであった。産卵選好性の比較でも接種丸太を好んで産卵していることが明らかとなった。またキバチウロコタケ子実体発生丸太での成虫発生数が多く, 繁殖成功度も高かった。本試験によって野外においてもキバチ共生菌が接種された材を選好して産卵・羽化脱出していることが明らかとなった。
著者
宮下 智弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.369-373, 2007 (Released:2008-08-27)
参考文献数
22
被引用文献数
1

スギ挿し木苗と実生苗の多雪地帯における造林初期の成育特性を比較した。互いに近距離に設定され,環境条件も類似している挿し木検定林と実生検定林の組合せを選択した。挿し木検定林には挿し木苗が,実生検定林には実生苗が植栽されている。選択された挿し木検定林と実生検定林の各組合せにおける同一系統の挿し木クローンと実生後代のデータをデータセットと定義し,三つのデータセットを用いて解析した。挿し木苗と実生苗の5年次生存率は同程度であったが,挿し木苗の10年次生存率は実生苗より明らかに低かった。枯死の原因の多くは,幹折れまたは根元折れであった。実生苗と比べ,挿し木苗の根元曲がりと樹高は小さかった。以上の結果から,挿し木苗は根元曲がりが少ないものの,成長にともなって多発する幹折れのために,生存率は低下することがわかった。挿し木苗の劣った樹高成長は,埋雪期間を長期化する。したがって,多雪地帯における挿し木造林は,雪圧による折損被害のため,生存個体数が少なくなる危険性が高いことが示された。
著者
野口 琢郎 大谷 慶人 服部 力 阿部 恭久 佐橋 憲生
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.225-229, 2007-06-01
被引用文献数
1 3

熊本県阿蘇地方におけるスギ人工林の根株腐朽被害の原因となる菌を明らかにするため40〜83年生の12林分で腐朽伐根から菌株を分離し,主要な分離菌の諸性質について調査した。調査林分では,形態的特徴の異なる8種の担子菌が分離され,そのうち2種の担子菌(担子菌Aと担子菌B)が主要なものであった。担子菌Aは南小国町1の林分で比較的高い頻度で分離された。担子菌Bはすべての調査林分で高い頻度で分離されたことから,阿蘇地方で広範囲に分布しているものと推察された。腐朽力試験の結栄,担子菌A,Bはともに木材腐朽力を有することが明らかとなった。これらのことから,阿蘇地方におけるスギ根株腐朽被害には,少なくとも担子菌Aと担子菌Bが関与していると考えられた。
著者
後藤 秀章
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.479-485, 2009 (Released:2010-03-12)
参考文献数
45
被引用文献数
3 6

日本産キクイムシ類の分類について, これまでの研究史を述べるとともに, キクイムシ類研究の基礎的資料として, 日本産キクイムシ類の学名, および和名のリストを作成し, その中で5種について新たに和名を与えた。その結果日本産のキクイムシ類はキクイムシ科302種, ナガキクイムシ科18種が記録されていることがわかった。
著者
松井 哲哉 飯田 滋生 河原 孝行 並川 寛司 平川 浩文
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.162-166, 2010
被引用文献数
1 1 1

ブナ自生北限域における, 鳥によるブナ種子散布の限界距離を推定する試みの一環として, 北海道黒松内町のブナ林内において, 晩秋期に捕獲したヤマガラ1羽に小型の電波発信機を装着し, ラジオテレメトリ法により5日間追跡した。交角法と最外郭法によりヤマガラの行動圏を推定した結果, 1日の行動圏は2.1 haから6.5 haと推定され, 全体では11.4 haであった。また, 1日の行動圏から推定したヤマガラによる種子散布の限界距離は, 163 mから529 mであった。追跡期間が本研究よりも1カ月以上長いが, 海外のカラ類の行動圏はカナダコガラで平均14.7 ha, コガラで12.6 haであり, 本研究の調査手法はある程度有効であると示唆された。ブナ自生北限域において, ブナの孤立林分は互いに水平距離で約2∼4 km離れているため, 行動範囲の狭いヤマガラが運んだブナの種子起源で成立したとは考えにくい。
著者
北島 博 川島 祐介
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.209-213, 2012-10 (Released:2013-10-08)

菌床シイタケ害虫ナガマドキノコバエ成虫の生存日数,産卵数,および産下卵の孵化率に対する,餌条件(重量比5%の砂糖水または蒸留水)および温度条件(15℃,20℃,または25℃)の影響を調べた。成虫の生存日数は,砂糖水を与えた区(7.0~31.4日)が,蒸留水を与えた区(3.0~6.9日)より長かった。産卵数も,砂糖水を与えた区(131.7~281.8卵)が,蒸留水を与えた区(63.7~152.2卵)より多かった。産卵は,いずれの処理でも羽化後1日目の成虫から行われた。累積相対産卵数が90%以上となったのは,砂糖水を与えた区では5~9日目であったが,蒸留水を与えた区では3~4日目であった。これらより,本種は糖分の摂取により生存日数が延び,産卵数が増えることがわかった。温度条件に着目すると,産卵数は20℃で最も多かった。各処理における産下卵の平均孵化率は29.2~65.4%であり,特に15℃では20℃および25℃に比べて有意に低かった。
著者
平田 令子 大塚 温子 伊藤 哲 髙木 正博
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.1-5, 2014
被引用文献数
5

スギ挿し木コンテナ苗の植栽後2年間の地上部と地下部の成長を裸苗と比較した。植栽時のコンテナ苗の苗高と根量は裸苗よりも小さかった。2生育期間の伸長成長量は苗種間で差はなく, 結果として, コンテナ苗の苗高は裸苗よりも低いままであった。また, 植栽後の根量の増加もコンテナ苗の方が少なく, コンテナ苗の優位性は確認できなかった。T/R比 (地上部/根乾重比) は両苗種とも植栽後に低下したことから, 両苗種ともにプランティング・ショックによる水ストレスを受けたと考えられた。ただし, コンテナ苗のT/R比は裸苗より早く増加したことから, コンテナ苗の方が水ストレスからの回復が早いと推察された。本調査からは, コンテナ苗が水ストレスから早く回復する利点を持つと推察されたが, それは, 裸苗の苗高を上回るほどの伸長成長量にはつながらなかったことが示された。現時点では, 下刈り回数の省略に対して過度の期待を持ってコンテナ苗を導入することは危険であると考えられた。
著者
初 磊 石川 芳治 白木 克繁 若原 妙子 内山 佳美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.5, pp.261-268, 2010 (Released:2010-12-14)
参考文献数
28
被引用文献数
8 14

神奈川県東丹沢堂平地区では, シカの採食により, 林床植生が衰退し, 土壌侵食が広い範囲にわたって進行している。土壌侵食の実態を把握するため, 堂平地区のブナ林の山腹斜面に長さ5 m, 幅2 mの土壌侵食調査プロットを17箇所設置した。これらの土壌侵食調査プロットについて, 2006∼ 2008年の3年間の4∼ 11月の期間, ほぼ毎月1回土壌侵食量を観測するとともに, 同時に撮影した写真を用いて林床合計被覆率 (林床植生被覆率+リター被覆率) を求めた。その結果, 雨量1 mm当たりの土壌侵食量 (E) と林床合計被覆率 (F) には指数関数E=65 exp (−0.0615×F) で表わされる高い負の相関があることが分かった。得られた関係式では林床合計被覆率が小さい範囲では林床合計被覆率が大きい範囲に比べて林床合計被覆率のわずかな変化が土壌侵食量に大きな影響を与えており, 既往の人工降雨実験に基づく研究により得られたリター被覆率と土壌侵食量がほぼ直線的に反比例する関係とは大きく異なる結果が得られた。
著者
水谷 瑞希 中島 春樹 小谷 二郎 野上 達也 多田 雅充
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.76-82, 2013-02-01 (Released:2013-03-30)
参考文献数
31
被引用文献数
3 8

富山県, 石川県および福井県における, 2005年から2011年までの7年間の豊凶モニタリング調査の結果を用いて, 北陸地域におけるブナ科樹木の豊凶とツキノワグマの人里への出没との関係について検討した。北陸3県ではいずれも, 高標高域に分布するブナとミズナラの県全体の結実状況に大きな年変動があり, とくに北陸地域でクマ大量出没が発生した2006年と2010年には, 極端な結実不良となっていた。低標高域に分布するコナラでは県全体の結実状況の年変動は小さく, 極端な結実不良の年はなかった。このことから北陸地域では, ブナとミズナラの結実不良が広域的に同調して発生したことに起因する山地の餌不足が, クマ大量出没の引き金になっていたと推察された。クマ大量出没に影響するこれら「鍵植物」の豊凶は, 県をまたがる広い地域で同調していた。このことから現在各地で実施されている豊凶モニタリング調査を, 相互に比較可能な方法で連携して実施すれば, 効果的な豊凶把握やクマ大量出没の予測精度の向上に役立つと考えられる。
著者
斎藤 真己
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.6, pp.316-323, 2010 (Released:2011-02-16)
参考文献数
60
被引用文献数
5 25

スギ花粉症に対する育種的な対策として, 着花量の少ない少花粉, 花粉中のCry j 1量が少ない低花粉アレルゲン性, 花粉を生産しない雄性不稔性に着目した。着花量の少ないスギ精英樹は全国で135クローン選抜された。この性質は複数箇所の検定林で再現性が確認され, 親子回帰による遺伝率も0.34と比較的高い値であった。花粉中のCry j 1量を全国の精英樹420クローンについて調査した結果, 0.38∼10.23 pg/個と大きな変異を示し, その狭義の遺伝率は, 1.0と高い値であった。このことから次世代での選抜効果が顕著に現れると期待された。無花粉になる雄性不稔性は一対の劣性遺伝子支配であることが明らかになり, その遺伝子をヘテロ型で保有した精英樹が4クローン発見された。優良な無花粉スギの作出に向けて, これら精英樹同士の交配家系が育成されている。スギ花粉症対策品種は, 現在, さし木等によるクローン増殖やミニチュア採種園による種子生産が図られており, これらを上手く活用することによって従来の木材生産性を損なうことなく, 花粉飛散量の軽減に繋がると考えられた。
著者
田村 典子 相京 千香 片岡 友美
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.71-75, 2007-02-01
被引用文献数
1 5

山梨県富士北麓標高約1,050mの溶岩台地に生育するアカマツ林において,2003年6月から2005年8月まで,43haの区域でニホンリスの捕獲を行った。また,同調査地の林床で,リスによって食べられたアカマツ球果の食痕数を毎月数えた。生息個体数と落下食痕数には有意な正の相関が認められ,食痕数によってリスの生息個体数の相対評価が可能であることがわかった。そこで,富士山北麓1,500haの範囲内のアカマツ林において, 30箇所の植生調査用の方形区を設置し,植生と食痕数の調査を行った。その結果,食痕数が多い方形区には,アカマツ林の中層を構成する樹種が多く,特に中層にソヨゴなどの常緑樹が多いことが明らかになった。ニホンリスにとって,中層の発達したアカマツ林がより好適な生息環境であると考えられる。
著者
石井 健 小山 浩正 高橋 教夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.53-60, 2007-02-01
被引用文献数
4 3

ブナ林の組成は日本海側と太平洋側で大きく異なり,椎樹バンクは前者においてより発達しやすい。この理由として,日本海側では積雪が野ネズミによる捕食から堅果を保護していると考えた。そこで,春先に消雪速度の異なる母樹の根元付近と根元から離れた場所において,消雪過程と稚樹の分布,および播種試験による堅果の持ち去り程度を観察した。根元周辺の消雪は他の場所よりも1カ月近く早かった。これに応じて,実生は根元周辺で少なく,離れた場所で多かった。野ネズミによる堅果の持ち去りも,根元周辺で多く発生し,残存数は離れた場所と有意な差が認められた。したがって,根元で雅樹が少ないのは,消雪が早いことで春先に堅果捕食が多くなったためと推察された。このことは,積雪は野ネズミの捕食から堅果を保護することで,ブナの更新に有利に働いていることを示唆している。したがって,日本海側でブナの更新が良好なことも,積雪の保護効果が一因ではないかと考えられる。
著者
奥田 圭 關 義和 小金澤 正昭
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.236-242, 2012-10-01 (Released:2012-11-22)
参考文献数
50
被引用文献数
11 5

シカの高密度化に伴う植生改変による鳥類群集への影響を明らかにするため, 栃木県奥日光のシカ密度の異なる3地域 (各地域8地点) において植生構造と鳥類群集の種組成の関係を調べた。シカ密度と植生条件との関係を調べた結果, シカ密度と生木本数, 胸高断面積合計, 樹種数との間に負の相関がみられ, シカの高密度化により植生構造が改変していることが示唆された。次に, TWINSPANと判別分析を用い, 鳥類群集の種組成の変化要因を調べた。TWINSPANの結果, 調査地点はグループA (シカ高密度地点) とB (シカ低密度地点) に, 鳥類はグループ1∼4に分類された。開放的な環境を選好する鳥種は主にグループ1に属し, グループAに多く出現した。低木層を採食場所とする鳥種は主にグループ4に属し, グループBに多く出現した。樹洞営巣性の鳥種は主にグループ2と3に属し, グループAとBに同程度出現した。また, 判別分析の結果, グループAとBの違いを最もよく判別する植生条件は, 低木層と亜高木層の生木本数と, 低木層の樹種数であった。以上から, 本調査地の鳥類群集の種組成が変化した主要因は, シカの高密度化に伴う植生改変であると結論した。
著者
山原 美奈 河合 昌孝 大場 広輔
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.157-160, 2005-04-01 (Released:2008-05-22)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

コウヤマキのアーバスキュラー菌根の感染形態を明らかにするために,短根の切片を光学顕微鏡で観察した。その結果,宿主の細胞から細胞へと直接伸長する菌糸とコイル状樹枝状体,嚢状体が認められ,Paris-typeの感染形態であることが判明した。比較観察したスギとヒノキの菌根は,それぞれParis-typeとArum-typeであった。
著者
鵜川 信 藤澤 義武 大塚 次郎 近藤 禎二 生方 正俊
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.7, pp.239-244, 2023-07-01 (Released:2023-07-20)
参考文献数
33

ニホンノウサギが主軸を切断できるコウヨウザン植栽苗のサイズを明らかにすることを目的として,様々なサイズ(苗高82~197 cm)のコウヨウザン苗を鹿児島県垂水市のスギ皆伐地に60本植栽し,ノウサギによる主軸の切断を1年間にわたり観察した。実験中に15本の苗木が枯死したが,そのうちの1本は枯死前に主軸の食害を受けていた。生残苗では,25本の苗木で主軸の食害がみられた。苗木のサイズが大きくなるほど主軸の食害がみられなくなり,一般化線形モデルでは,植栽時の苗高が140 cm以上,または,高さ60 cmの幹直径が15 mmを超える苗木であれば主軸食害を受ける確率が10%まで低下することが推定された。したがって,植栽した苗木が成長し,苗高や幹直径がこれらの数値を上回れば,ノウサギによる主軸の切断を受けにくくなると考えられた。