著者
桜田 恵里 土山 博美 大信田 系裕
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.P-137, 2016

<i>umu</i>テストはDNA修復におけるSOS反応を指標とした遺伝毒性評価法であり、その原理から幅広い遺伝毒性物質の検出に用いられている。Ames試験と比較して所要時間も短く、少量の被験物質で実施可能であり、遺伝毒性の簡便かつ迅速な評価法として有用である。しかしながら、従来の吸光度測定法では反応系内で析出物が生じる場合、析出物によって吸光度測定が妨害され判定が困難となる。<br>この問題を克服するため、SOS反応の評価に蛍光基質フルオレセイン-β-D-ガラクトピラノシド(FDP)を用いることにより、析出物の影響をほとんど受けずにSOS反応を感度良く検出できることが確認された(第41回年会)。<br>今回評価精度向上を目的として、被験物質による菌の生育阻害を評価するため、テスト菌の生菌数の指標を発光強度とし、SOS反応の指標を蛍光強度とする組合せ評価法(発光-蛍光法)を検討した。テスト菌を被験物質存在下で37°C、2時間インキュベートした後、発光試薬(BacTiter-Glo®、Promega社)および蛍光試薬FDG(SensoLyte®、Anaspec社)を添加し、発光強度および蛍光強度を測定した。判定は、蛍光強度測定値(SOS反応)を発光強度測定値(生菌数)で除した値、補正変異原性指標 relative β-galactosidase activity(RGA)を用いて行った。本評価系において複数の化学物質を評価した結果、吸光度に変化を生じる析出物が存在しても発光強度および蛍光強度にはほとんど影響がないことが示された。以上の結果から、本評価系は、析出物の存在下でも精度良く<i>umu</i>テスト評価ができることが確認された。
著者
松本 晴年 安藤 さえこ 深町 勝巳 二口 充 酒々井 眞澄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.P-75, 2017

【背景】これまでに我々は沖縄県産植物のがん細胞への細胞毒性を明らかにした(Asian Pac J Cancer Prev 6: 353-358, 2005, Eur J Cancer Prev 14: 101-105, 2005, Cancer Lett 205: 133-141, 2004)。芭蕉の葉身からの抽出物 (アセトン(A)あるいはメタノール(M)抽出)を用いてヒト大腸がん細胞株に対する細胞毒性とその機序を調べた。【方法】各抽出物をヒト大腸がん細胞株HT29およびHCT116にばく露し、コロニーあるいはMTTアッセイにて細胞毒性を検討した。細胞毒性の程度をIC<sub>50</sub>値(50%増殖抑制率)にて判定した。アポトーシスの有無と細胞周期への影響をフローサイトメトリーおよびウェスタンブロット法で検討した。【結果と考察】コロニーアッセイでのIC<sub>50</sub>値は、HT29株では118 μg/mL(A)、>200 μg/mL(M)、HCT116株では75 μg/mL(A)、141 μg/mL(M)であった。MTTアッセイでのIC<sub>50</sub>値は、HT29株では115 μg/mL(A)、280 μg/mL(M)、HCT116株では73 μg/mL(A)、248 μg/mL(M)であった。アセトン抽出物にはより強い作用を持つ有効成分が含まれると考えられた。HT29株では、アセトン抽出物(100 μg/mL)のばく露によりcontrolと比較してG1期が5.4%有意に上昇し、これに伴ってG2/M期が減少した。つまり、G1 arrestが誘導された。アポトーシスに陥った細胞集団が示すsubG1 populationは見られなかった。HT29およびHCT116株では、アセトン抽出物のばく露によりcyclinD1およびcdk4タンパク発現レベルが濃度依存的に低下した。一方、HCT116株では、p21<sup>CIP1</sup>タンパク発現レベルが濃度依存的に増加した。これらの結果より、芭蕉葉の抽出物には細胞毒性をもつ物質が含まれ、アセトン抽出物はcyclinD1およびcdk4タンパク発現を減少させ、p21<sup>CIP1</sup>タンパク発現を増加させることで細胞周期を負に制御すると考えられる。
著者
下村 和裕
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

製薬企業では新薬の開発にあたり生殖発生毒性試験として,3種類の動物実験を実施し,妊娠と授乳に及ぼす影響を評価している。生殖発生毒性試験のガイドラインは1961年のサリドマイド事件を契機に,1963年に通知されたのが始まりである。1975年には3節試験ガイドラインに改訂が行われ,さらに,1994年には国際協調されたICHガイドラインへと発展した。試験の結果として,母動物の一般毒性学的影響,母動物の生殖に及ぼす影響,次世代の発生に及ぼす影響の3つのカテゴリーごとに無毒性量が評価される。<br>受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験は交配前から交尾,着床に至るまでの被験物質の投与に起因する毒性および障害を検索する試験である。雌では性周期,受精,卵管内輸送,着床および着床前段階の胚発生に及ぼす影響を検索する。雄では生殖器の病理組織学的検査では検出されない機能的影響(例えば性的衝動,精巣上体内の精子成熟)を検索する。<br>出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験は着床から離乳までの間,雌動物に被験物質を投与し,妊娠および授乳期の雌動物,受胎産物(胎盤を含む胚・胎児)および出生児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。この試験で誘発される影響は遅れて発現する可能性があるので,観察は出生児が性成熟期に達するまで継続する。出生前および出生後の児(胚,胎児および出生児)の死亡,成長および発達の変化,行動,成熟(性成熟を含む)および生殖を含む出生児の機能障害を検索する。<br>胚・胎児発生に関する試験は着床から硬口蓋の閉鎖までの期間中雌動物に被験物質を投与し,妊娠動物および胚・胎児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。着床から硬口蓋の閉鎖までの期間は胎児の器官が形成される時期であり,妊娠期間中で最も奇形が起こりやすい期間である。胚・胎児の死亡,成長の変化および形態学的変化を検索する。
著者
成田 正明 江藤 みちる 大河原 剛
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.S13-4, 2014

発達期の化学物質のばく露は子どもの正常な発達に悪影響を及ぼし得る。なかでも妊娠中の化学物質のばく露は様々な外表奇形・内臓奇形を引き起こすことはよく知られているが、情動や認知行動への影響についての詳細はわかっていない。<br> 自閉症は人との関わりを主症状とする、先天的な脳の機能障害に基づく発達障害である。しかし胎生期のどの時期に、どういうことが原因で(遺伝的因子、ウイルス感染、薬剤・化学物質)、どんな機能障害が脳のどの部分におきているか、はわかっていなかった。<br> これまで報告されている自閉症の原因としては、遺伝的因子、胎内感染症、化学物質(薬物・毒物)などがある。遺伝的因子の関与は強く指摘されているが、スペクトラムとしてヘテロな症候を持つ自閉症の病態を、単一の遺伝子異常で説明するのは本来困難である。妊婦の抗てんかん薬バルプロ酸などの薬物、アルコール、その他の化学物質の胎内ばく露も自閉症発症原因になり得るとされている。化学物質の胎内ばく露を巡っては、有機水銀摂取なども懸念事項であり、妊婦の魚介類摂取許容量が見直されるなども関連しているといえる。<br> 私たちはヒトでの疫学的事実、即ち妊娠のある特定の時期にサリドマイドを内服した母親から生まれた児から通常発症するよりもはるかに高率に自閉症を発症したことに着目し、妊娠ラットにサリドマイドやバルプロ酸を投与する方法で自閉症モデル動物を作成してきた。自閉症モデルラットでは、これまでにセロトニン神経系の初期発生の異常、行動異常などがあることを報告してきた。<br> 今回の講演ではサリドマイドによる自閉症モデルラットについての知見のほか、有機水銀ばく露実験なども含め、最近の知見も含めて述べていきたい。
著者
今野 裕太 中浴 静香 吉田 映子 藤原 泰之 山本 千夏 安池 修之 鍜冶 利幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-71, 2015

【背景・目的】有機-無機ハイブリッド分子は合成試薬として広く利用されてきたが,生命科学への貢献は皆無に等しい。当研究室では,有機ビスマス化合物(PMTABiおよびDAPBi)の強い細胞毒性がそのアンチモン置換体(PMTASおよびDAPSb)では消失することを見出した。また, これらの化合物に感受性低下を示す有機ビスマス化合物感受性低下細胞(RPB-1γ,RPB-2,RPB-3およびRDB-1細胞)を樹立した。本研究の目的は,有機ビスマス化合物の毒性発現機構の解明を目指し,有機ビスマス化合物の感受性と細胞内金属蓄積量の関係を明らかにすることである。<br>【方法】チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-GT細胞)および有機ビスマス化合物感受性低下細胞に,<br>PMTABi,PMTAS,DAPBi,DAPSbを曝露し,形態学的観察を行うとともに,それぞれの化合物の細胞内蓄積量をICP-MSで測定し,Bi量またはSb量で評価した。<br>【結果・考察】PMTABiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,20 µMまでは全ての耐性細胞において高かったが,50 µMではRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞への蓄積量はCHO-GTよりも低くなった。DAPBiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,50 µMまでRPB-3およびRDB-1細胞において高かった。しかしながら,RDB-1細胞へのDAPBiの蓄積量は50 µMまで濃度依存的であったが,RPB-3細胞では50 µMで減少した。RPB-2細胞には有機ビスマス化合物が蓄積しなかった。PMTABiを曝露して獲得したRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞がDAPBiに対しても耐性を示すことが確認された。アンチモン置換体は全ての細胞種において細胞内に蓄積せず,形態学的観察による細胞毒性も確認されなかった。以上より,有機ビスマス化合物の細胞毒性は,その細胞内蓄積量だけでなく,細胞種と有機ビスマス化合物の濃度によって異なるメカニズムが存在することが示唆される。
著者
櫻井 治彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.S26-2, 2017

産業の場では、従来利用されたことのない化学物質が今後も次々と導入されることが予想される。特に研究開発、製造等の川上側では、労働者が相対的に高いリスクを負うことが危惧される。<br> 産業衛生の目的は労働者の健康を守ることであり、そのための化学物質管理では、労働者の曝露の特徴をまず念頭に置く必要がある。1日8時間、週5日を基本とする吸入経路の断続曝露が主に起こっており、その場合のトキシコキネティックスに関する定量的な情報が求められる。特に粒子状物質の吸入では、気道と肺での沈着、粘液繊毛輸送系による排出、肺胞領域での生体防御機構による処理、肺間質への蓄積等についての、その物質固有の性質に関する情報が必要である。経皮吸収による発がん等の重大な毒性影響もしばしば発生しており、考慮すべき課題である。<br> 曝露期間からみると災害性の高濃度曝露から、数十年もの長い期間にわたる比較的低い濃度の曝露まで、幅広い曝露状況における毒性発現についての情報が求められる。<br> 毒性影響の種類、強さ等については包括的な情報が必要とされるが、吸入曝露による肺への局所的影響(炎症、繊維症、肺がん等)は産業衛生における特徴的な課題である。<br> リスク評価の基本ツールである曝露限界値は、産業衛生においては人の観察と動物実験による情報を基に設定してきたが、今後は後者への依存度が高くなると考えられる。その際に用いる不確実性係数の妥当な選択について、科学的根拠をより明確にすることは毒性学全体の課題である。特に産業衛生においては、労働者の健康をモニターすることを前提として、小さい不確実性係数を採用してきた経緯があるので、個人曝露の評価及び早期の毒性影響の検出を目的とする方法を確立することが常に求められている。<br> さらに将来に向けては、比較的低い濃度で長期の曝露における毒性とそのメカニズムを解明し、化学構造からの予測を目指すことが期待される。
著者
西谷 春香 水野 洋 円城寺 克也 則武 健一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.47, pp.P-175, 2020

<p>【Introduction】We compared body temperature (BT) in non-rodents between a temperature-sensing microchip (IPTT-300, BMDS) and traditional rectal thermometer (RT) or telemetry devices. We also compared the BT changes in several implantation sites to seek the optimal implantation site for microchips.</p><p>【Methods】Microchips were implanted subcutaneously at 3 sites (chest, thigh, and interscapular region) in telemetered monkeys (4 males), and at 3 sites (chest, neck, and interscapular region) in dogs (2 males and 2 females). Animals were dosed intramuscularly with medetomidine (α2 adrenergic agonist) at 0.15 mg/kg (monkeys) and 0.2 mg/kg (dogs) , and BT was measured predose and at 15 min intervals postdose until recovery using the microchips, RT, and telemetry devices (monkeys only).</p><p>【Results】All three methods recorded decreases in BTs with medetomidine. In monkeys, The interscapular microchips BTs were similar to the rectal and telemetry temperatures, and other 2 sites were lower than them. In dogs, there were no clear differences in BTs in the 3 sites, and degree of changes in BT by microchips was similar to the RT.</p><p>【Conclusion】Microchips are useful tools for BT measurement. The advantage of microchips include that there are quick and less invasive compared to a RT. The best implantation site of microchips was interscapular subcutis in both dogs and monkeys.</p>
著者
二口 充 徐 結苟 井上 義之 高月 峰夫 津田 洋幸 酒々井 真澄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.O-31, 2012

タイヤのゴム補強剤やプリンターのトナーとして使用されているカーボンブラックは、IARCではGroup2Bに分類され、長期に吸入曝露した場合、ヒトに対する発がん性が示唆されている。我々は、 ナノ材料吸入曝露肺発がんリスク短期評価法を開発し、カーボンナノチューブなどの肺内噴霧による肺発がんのリスク評価を行っている。これに関連して本研究では、カーボンブラック(Printex90)の吸入曝露による肺発がん性を検索した。6週齢の雌雄のF344ラットにそれぞれ0.2%DHPNを2週間飲水投与した後、氷砂糖溶液に分散させたカーボンブラックを第4週から第24週まで1週間に1回の割合で肺内に噴霧した。1回の噴霧は500ug/mlの用量で、それぞれ0.5mlをマイクロスプレイヤーを用いて行った。第24週で屠殺剖検し肺を病理組織学的に検索したところ、雌雄いずれも肺内ではリンパ球、好中球など炎症細胞浸潤は軽度であった。カーボンブラックを貪食した肺胞マクロファージの集簇像が多数観察された。マクロファージ周囲の肺胞上皮細胞は腫大し、マクロファージの周囲を取り囲むように肺胞過形成様の病変が観察された。この病変は、DHPNで誘発された肺胞過形成、肺腺腫および肺腺がんとは別の部位に観察された。DHPNで誘発された病変の平均発生個数は、カーボンブラックの肺内噴霧により有意に上昇しなかった。マクロファージ周囲の肺胞過形成様病変の平均発生個数はDHPN誘発肺病変の発生個数よりも多かった。また肺胞過形成様病変の発生個数は、DHPNの処置に関わらずほぼ同数であった。これらの結果から、マクロファージの周囲に発生した肺胞過形成様病変が腫瘍性病変であるかどうかが、カーボンブラックの肺内噴霧による肺発がん性の評価に重要であることが示唆された。
著者
田中 利男 島田 康人 西村 有平
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.S20-1, 2015

ゼブラフィッシュは、発生生物学のモデル動物として長い期間研究されてきましたが、最近15年間は特に創薬のすべてのプロセスに活用されるようになり、2008年以降ヨーロッパではラットを抜いてマウスに次ぐモデル生物になりました。ゼブラフィシュは、ヒトゲノムとの類似性、ゲノム編集の効率性、多産性、in vivoイメージングへの適合性、動物愛護管理法との調和性、ケミカルスクリーニングの最適性などから、創薬のあらゆるプロセスに活用され、欧米ではゼブラフィッシュの早期in vivoフェノタイプスクリーニング戦略により新しい医薬品開発が実現しています。さらに、ゼブラフィシュ創薬は、ターゲットバリデーション、前臨床薬効安全性スクリーニング、臨床個別化医療などにおける新しい脊椎動物モデルとして展開されています。たとえば、TALENやCRISPR/Casによるゲノム編集効率の高さは他の種を圧倒しており、世界的に多数の単一遺伝子疾患モデルが創生されております。さらに多彩な生活習慣病モデルも報告されており、病態機構解析だけではなく薬効スクリーニングがハイスループットで実現しています。我々は、ゼブラフィッシュの持つ薬効/安全性ケミカルスクリーニングや作用機構スクリーニングにおけるスループットをさらに増強するため、96、384、1536ウエルプレートシステムの構築とハイコンテンツフェノタイプイメージングへの統合を試みております。さらに、ヒト病態への外挿性を強化するために、ゲノムレベルにおけるヒト疾患遺伝子ノックインなどやヒト幹細胞移植などによるヒト化ゼブラフィッシュ創成に挑戦しています。さらに、ヒト臨床検体のゼブラフィッシュ移植後の治療薬感受性解析によるフェノミクスを基盤とする個別化医療への応用を試みております。これら最先端の次世代ゼブラフィッシュ創薬の国際的現状について報告し、近未来戦略を提案します。
著者
坂本 雄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.S12-5, 2017

非臨床安全性評価に関する研究成果の蓄積や、非臨床及び臨床安全性に関する種々のガイドラインの策定がなされてもなお、臨床試験の実施中又は製造販売後に、安全性上の問題により開発又は製造販売の中止を余儀なくされる医薬品は依然として存在する。このことは、当該医薬品の投与を受ける被験者/患者に対し忍容できない危害をもたらす可能性がある点で重大な問題であるだけでなく、当該医薬品の開発者にとっての予期せぬ開発又は販売中止のリスクとしても軽視できない。安全性上のシグナルを非臨床試験の段階で検出することができれば、あらかじめヒトでの安全性の確保を考慮した適切な用量の設定、又は開発中止の決断に資することができる可能性がある。<br> 現在、医薬品開発で汎用されている安全性バイオマーカーであっても、感度及び特異性の点で課題を有するものがある。加えて、適当な安全性バイオマーカーがまったく確立していない組織又は臓器も存在する。したがって、新たな安全性バイオマーカーの研究開発は、将来的なヒトへの応用という展望も含めて、医薬品開発の成功確率や公衆衛生の向上へ寄与しうる重要な領域であると考える。本発表では、非臨床試験で認められた所見に関して確立されたバイオマーカーがなく、所見の意義及びヒトへの外挿性が論点となった審査事例を紹介するとともに、バイオマーカーを医薬品開発における意思決定の根拠として使用するに際しての留意点について議論する。さらに、バイオマーカー評価のための医薬品医療機器総合機構(PMDA)の体制を紹介し、新たな安全性バイオマーカーの研究開発に対する期待を述べたい。
著者
金丸 千沙子 竹藤 順子 片桐 龍一 河野 健太 竹本 竜志 三浦 幸仁 池上 仁 千葉 修一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-233, 2015

【背景・目的】近年、イヌをはじめとする社会生活を営む動物は、動物福祉向上の観点から複数頭で群飼育することが求められるようになっており、より生態に近い飼育環境へ改善することで、精度・再現性の高い実験となることが期待されている。一方で、群飼育下での安全性試験の実施は、動物同士の接触、干渉などが毒性評価へ影響を及ぼす懸念があるほか、飼育器材の改良も必要となり、わが国におけるGLP試験での実施例はまだ多くない。今回我々は、群飼育下でイヌにおける13週間反復投与試験を実施し、良好な成績を得ると共に、今後の課題を抽出したので紹介する。【方法】入手時8~9カ月齢のビーグル犬を2~3頭のグループで飼育した。通常の個別飼育ケージ(W 900×D 900×H 1590 mm)の両側面を開閉式に改良し、複数ケージを連結できるものを使用した。単飼育は投与、給餌、尿検査、心電図検査並びに獣医学的ケアの観点から必要と判断された場合に限定し、その他の期間は群飼育とした。群分けでは、馴化期間中のグループは考慮せず、個別の体重値に基づく層別割付を行った。層別割付後に同一投与群内で2~3匹の新たなグループを作成し、相性確認で問題がないことが確認された場合にグループ成立とした。【結果】群分けにおいて、新たなグループは全て成立した。各種検査項目には単飼育時との明らかな差は認められなかった。ケージ症状の観察では、個体の特定の可否を明確に記録することで、単飼育時との検出感度の差を最小限にとどめることができた。なお、雄の1グループで投与9週目に闘争による負傷が発生し、それ以降は単飼育としたが、その他のグループでは問題は認められなかった。【結論】本実験条件下では、既に単飼育で実施した短期間投与の試験成績と大きな齟齬は生じなかった。今後、住環境の改善など更なる動物実験における福祉向上を目指すと共に、リソースの有効活用も追求していく必要があると考えられる。
著者
富永 サラ 金枝 夏紀 市丸 嘉 酒々井 眞澄 前田 徹 中尾 誠 藤井 広久 吉岡 弘毅
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.46, pp.P-48S, 2019

<p>【目的】クマザサ抽出液は健康食品や医薬品等で販売されており、近年関心が高まっている。また、抗炎症作用など様々な作用を有し、特に最近は乳がんに対する抗がん作用が注目されている。しかし、抗がん作用の機序や、その活性成分の存在などは明らかにされていない。そこで本研究では、クマザサ抽出液を用い、ヒト乳がん細胞株MCF-7細胞およびヒト肝がん細胞株HepG2に対する抗がん作用の検討と、クマザサの主要成分の1つとされる銅クロロフィリンナトリウム (SCC:0.25%含有)との関連を検討した。</p><p>【実験方法】本実験ではクマザサ抽出液として株式会社サンクロンのサンクロン (SE) を使用した。(1) MCF-7細胞およびHepG2細胞に対して、SE (0.01-1000 µg/mL) またはSCC (0.25-2500 µg/mL) 処理24時間後の細胞増殖能を<sup>3</sup>H-チミジン取り込み法によって評価した。(2) SE (10-1000 µg/mL) 処理24時間後のMCF-7細胞を用い、蛍光染色によってアポトーシスを観察し、壊死関連タンパク (RIP1) および細胞周期関連タンパク (GSK-3α/β, Cyclin D1, Cdk1/2, Cdk6) 発現をウエスタンブロット法で測定した。</p><p>【結果及び考察】(1) MCF-7細胞およびHepG2細胞に対して、SEには濃度依存的な増殖能の低下が認められたが、各SE濃度で含有されている量のSCCはがん細胞の増殖能を低下させなかった。以上のことより、SCC以外の成分が抗がん作用を示すと考えられた。(2) SE濃度依存的にアポトーシス細胞が増加したが、1000 µg/mLでは、RIP1の増加が認められた。また、Cdk1/2に変化は認められなかったが、GSK-3α/β, Cyclin D1, Cdk6はSE濃度依存的に減少した。このことから、中低濃度 (SE≤100 µg/mL) ではアポトーシスの誘導、高濃度 (SE≥1000 mg/mL) ではネクロトーシスの誘導による細胞死が引き起こされることが示唆された。今回はSEのみでの検討であるが、今後は活性成分の探索を行う。</p>
著者
伊東 昌章
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.46, pp.S24-5, 2019

<p> 無細胞タンパク質合成とは、生細胞を用いず、細胞抽出液に基質や酵素を加えるなどして生物の遺伝情報翻訳系を試験管内に取り揃え、目的のタンパク質をコードするmRNAを用いて、アミノ酸を望みの順番に必要な残基数結合させタンパク質を合成する方法であり、技術自体は古くから利用されてきた。現在、無細胞タンパク質合成には、大腸菌(再構成系も含む)、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、哺乳動物培養細胞、そして発表者らが開発した昆虫培養細胞由来の抽出液を用いた系が知られており、それらについては既に試薬キットとして市販されている。しかしながら、多くのメリットを有するにもかかわらず、未だ主要なタンパク質合成手段の一つとはなっていない。</p><p> そのような状況のもと、発表者らは、合成量が少ないなどの従来の不具合を解消するために、新たな細胞抽出液を用いた無細胞系タンパク質合成系の開発に着手した。そして、カイコ幼虫が繭の主成分であるフィブロイン(タンパク質)の高い生産能を有することに着目し、その生産器官である後部絹糸線を用いて研究開発を進めた。まず、5齢4日のカイコ幼虫より1頭あたり20秒以内と簡便・迅速に後部絹糸腺を摘出する方法を開発した。次に、高いタンパク質合成能を保持できるように温和な条件のもと抽出液を簡便に大量調製する方法を開発した。そして、大量調製した抽出液を用い、安定して約70 μg/ml以上の効率でのタンパク質合成に成功した。これらの技術開発により、カイコという安価な材料を用いて動物由来の抽出液で最高レベルの合成量を有する実用化可能な無細胞タンパク質合成系を構築することができた。</p><p> 本シンポジウムでは、カイコ無細胞タンパク質合成系の開発の経緯とその技術を用いた応用例を紹介する。</p>
著者
青山 道彦 吉岡 靖雄 山下 浩平 平 茉由 角田 慎一 東阪 和馬 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

優れた殺菌/抗菌効果を発揮する銀粒子は,粒子径の微小化に伴い,その抗菌活性を飛躍的に向上させることから,既に直径10~100 nmのナノマテリアル(NM),1~10 nmのサブナノマテリアル(sNM)としての応用が急速に進展している。従って,銀微小粒子の安全性担保に向け,物性-動態-安全性の詳細な連関解析によるナノ安全科学研究が急務となっている。特に近年,NMが生体蛋白質と相互作用し,NMを核とした蛋白質の層構造(プロテインコロナ)が形成されることが報告され,NMの動態・安全性を制御する可能性が示されつつある。しかし,粒子径や表面性状といった物性が,プロテインコロナの形成におよぼす影響は未だ不明な点が多い。特にsNMは,当研究室が昨年の本会で報告したように,分子ともNMとも異なる動態・生体影響を示すことから,粒子径の違いがプロテインコロナの形成に影響を与えた可能性が疑われる。そこで,本検討では,物性-プロテインコロナ形成-生体影響の連関解析の第一歩として,粒子径の異なる銀粒子を用いて,血清存在/非存在下における細胞傷害性を比較解析した。ヒト肺胞癌細胞株(A549細胞)に,直径20 nm未満のナノ銀(nAg),直径1 nm未満のサブナノ銀(snAg)を血清存在/非存在下で添加し,細胞傷害性を比較した。その結果,nAgは血清非存在下で高い細胞傷害性を示すものの,血清の添加によって細胞傷害性の低下が認められた。一方で,snAgは血清の有無に関わらず,ほぼ同等の細胞傷害性を示すことが明らかとなった。以上の結果から,sNMの生体影響に対する血清蛋白質の寄与は少ないことが示唆された。今後は,プロテインコロナの観点から,細胞内取り込み効率を含めた解析を進め,本現象のメカニズム解明を図ると共に,本現象が認められるNM/sNMの粒子径の閾値を探索していく予定である。
著者
Yun-Ru CHEN David TSENG Chieh TING Pei-Shou HSU Tsu-Hsien WU Siling ZHONG En-Cheng YANG
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.46, pp.S7-1, 2019

<p>Multiple factors have been associated with the honey bee colony losses in the past 25 years. Accumulating evidence indicates that at sublethal doses, neonicotinoids cause honey bee brain dysfunction and reduce immunocompetence, leading to impaired navigation and olfactory learning and memory, and susceptibility to pathogens. Moreover, such pesticides disturb the reproductive system of queen bees, i.e., the number of eggs and viability of sperm stored in the spermatheca of queen bees, thereby reducing the numbers of adult bees and broods. Pesticide exposure during the larval development stages prolongs larval development and shortens adult longevity. In addition, the density of synaptic units in the calyces of mushroom bodies in the heads decreases; this effect has been further associated with the abnormal olfactory learning ability of adult honey bees exposed to sublethal doses of imidacloprid during the larval stage. Therefore, numerous physiological aspects of honey bees might be altered after exposure to pesticides at sublethal doses, regardless of the developmental stage. We evaluated the impact of the most widely used neonicotinoids—imidacloprid—on different developmental stages of honey bees by profiling the transcriptomes of worker bees with imidacloprid during only the larval stage. Our results confirm that even intaking 1 ppb imidacloprid during only the larval stage would be enough to severely impact a bee's gene expression. The existence of many differentially expressed genes may reflect or result in honey bee disorder.</p>
著者
近藤 誉充 池中 良徳 中山 翔太 水川 葉月 三谷 曜子 野見山 桂 田辺 信介 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.P-60, 2018

<p>アザラシやネコ科を含む食肉目動物は生態系高次栄養段階に位置し、食物連鎖を介した生物濃縮により残留性の高い有機化合物が高濃度で生体内に蓄積している。化学物質代謝酵素はこれら化学物質の解毒を担う酵素である。その中でも特に第II相抱合酵素はCytochrome P450等の代謝を受けた化学物質をさらに代謝する酵素であり、発がん性物質を含む多くの化学物質がP450の代謝を受けた後に代謝的活性化を示すため、第II相酵素は特に解毒に重要な酵素である。しかし多くの食肉目動物で第II相抱合酵素の情報は皆無であり、特に基本的情報である遺伝的性状や酵素活性の種差の情報が欠如している。そこで本研究は主要な第II相抱合酵素であるグルクロン酸転移酵素(UGT)および硫酸転移酵素(SULT)の遺伝子性状およびin vitro酵素活性の解明を目的とした。遺伝的性状解析では遺伝子データベースやシークエンス解析による遺伝子情報から系統解析、および遺伝子コード領域の種差を解明した。In vitro活性解析ではネコ、イヌ、ラット、および鰭脚類(カスピカイアザラシ、ゼニガタアザラシ、トド、キタオットセイ)の肝ミクロソームおよびサイトゾルを用いて種々の分子種特異的な基質(Lorazepam:UGT2B分子種, Estradiol:SULT1E1等)に対する酵素活性を測定した。UGTに関して、系統解析の結果から食肉目で特に重要と推定される2B31分子種の存在が明らかとなった。また、食肉目の中でもイヌでは3つのUGT2B31を持つのに対して、ネコ科動物では2B分子種が存在せず、鰭脚類でも1つの分子種しか持たないことが明らかとなった。さらにin vitro活性もイヌと比較してネコ及びアザラシ科で非常に低い活性が確認された。SULTに関しては、鰭脚類でエストロゲン代謝に重要なSULT1E1分子種が遺伝的に欠損しており、in vitro活性も低いことが解明された。これらの結果から食肉目動物の中でもとくに鰭脚類やネコ科動物では第II相抱合酵素による解毒能が弱く、種々の化学物質に対して感受性が強い可能性が示唆された。</p>
著者
石塚 智子 藤森 いづみ 吉ヶ江 泰志 久保田 一石 Veronika ROZEHNAL 村山 宣之 泉 高司
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.S20-3, 2014

活性を有する親化合物の化学修飾によりADME特性の改善や毒性の軽減を可能とするプロドラッグ化では、活性体を生成する代謝活性化酵素の理解がプロドラッグの薬効や安全な臨床使用に重要な意味を持つ。代謝活性化酵素の個体差や薬物間相互作用による活性低下は薬効の減弱あるいは欠落を招き、さらにはプロドラッグ体の曝露上昇による予期せぬ毒性発現を引き起こす可能性がある。<br>演者らは、プロドラッグタイプのアンジオテンシン受容体拮抗薬であるオルメサルタンメドキソミル(OM)の代謝活性化酵素として、当時機能未知であったヒト加水分解酵素カルボキシメチレンブテノリダーゼ(CMBL)を同定した(Ishizuka et al., J Biol Chem 285:11892-11902, 2010)。哺乳類細胞に発現させたヒトCMBLは、代表的な加水分解酵素であるカルボキシルエステラーゼやコリンエステラーゼと異なる基質特異性や阻害剤感受性を示した。本発表では、CMBLのヒト肝臓および小腸中の個体差や非臨床試験動物の選択に重要な種差など、基礎的な酵素特性を併せて紹介する(Ishizuka et al., Drug Metab Dispos 41:1156-1162, 2013; 41:1888-1895, 2013)。ヒト小腸サイトソルのin vitro代謝クリアランスから、経口投与されたOMは吸収過程でそのほとんどが小腸CMBLにより活性体に変換されると考えられる。小腸で代謝活性化を受けるプロドラッグには、代謝活性化の副産物であるプロドラッグフラグメント(OMではジアセチル及びその代謝物が生成する)の循環血中での不要な曝露を避けられるという利点がある。加えて、ヒト血漿中の酵素パラオキソナーゼ1も非常に高いOM加水分解活性を有しており、このプロドラッグの完全な代謝活性化に寄与している。複数の酵素の関与により、いずれかの酵素に活性変動があったとしてもOMの代謝活性化は大きく影響を受けないものと考えられた。
著者
登田 美桜
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.JH-5, 2015

食品安全に関する措置は科学的根拠に基づかなければならないというのが国際ルール(WTO-SPS協定)である。当研究所は我が国の食品安全行政を科学的視点から支援すること(レギュラトリーサイエンス)を業務の一つとしている。<br>食品安全上の問題は、食品中に非意図的に存在する汚染物質(重金属、天然毒素、製造副生成物)や病原微生物・ウイルス、意図的な使用により存在する食品添加物・香料、残留農薬・動物用医薬品、遺伝子組換え食品、欺瞞的な行為による混入物等、その範囲は多岐にわたり、取り組む問題も多種多様である。食品安全行政では、それらの問題に優先順位を付け、リスク評価で得られた科学的根拠に基づき有効と考えられる施策を選択する。リスク評価では、危害要因(ハザード)となる化学物質や病原微生物等の特性、体内動態、毒性、疫学、分析・サンプリング法、汚染分布、食品摂取量、並びに国内外の既存のリスク評価結果など、入手できる多様な科学的情報をもとに総合的に検討した上で結論が出される。その際、迅速性、情報の質(信頼性、妥当性等)の判断能力、様々な分野の専門家が互いの情報や知見をわかりやすく説明しあうコミュニケーション能力が要求される。従って、食品安全のレギュラトリーサイエンスで係わる専門分野や求められる能力は非常に幅広いのが特徴である。<br>現在の所属部は、食品安全上の問題の特定、行政施策の選択及びリスク評価に必要な情報の調査や集約を日常業務としており、一つの専門分野に限定せず物事を包括的に捉える広い視野が求められている。また、各種分野の専門家と情報交換を行う一方、専門家ではない行政担当者に分かりやすく説明する能力はもちろんのこと、一般市民に対しても科学的知見を分かりやすく伝えるという能力も必要となる。本発表では食品安全のレギュラトリーサイエンスとは何か、その従事者に求められることは何かを説明したい。
著者
林 宏一 田島 均 元村 淳子 小松 豊 藤江 秀彰 首藤 康文 青山 博昭
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-229, 2015

近年,農薬等の化学物質による複合暴露影響に対する社会的関心が高まっているものの,複合毒性を評価するためには多数の動物と労力を要する。そこで,使用動物数の削減と簡便なスクリーニング法の確立を目指して,安全性薬理試験で用いられている摘出回腸テストによる複合毒性影響試験法を検討した。まず,一般的に使用されるモルモットと神経毒性影響の背景値が多いラットを使用して,代表的なコリンエステラーゼ活性(ChE)阻害剤を中心にして単剤に対する反応を確認した。<br>動物はSD系雄ラットおよびハートレイ系雄モルモット8~12週齢を使用した。動物を吸入麻酔下で放血殺し,回腸を1動物から2~3試料切り出した。試料は35℃,95%O<sub>2</sub>+5%CO<sub>2</sub>混合ガスを通気したタイロード液を満たしたマグヌス管にいれ,等張性トランスデューサに設置した。30分間以上静置した後,試料の反応を確認して実験に供した。検査は有機リン剤のパラチオン,その代謝物のパラオキソン,メタミドホス,カーバメイト剤のMPMC,ネオスチグミンを2×10<sup>-6</sup>~2 mg/mL濃度で,硫酸ニコチンは5×10<sup>-6</sup>~0.5 mg/mLの濃度で,それぞれ10倍段階系列で作成し,低濃度から累積暴露した。観察時間は各用量15分とした。パラチオンではラット,モルモットともに明瞭な反応は認められなかった。パラオキソン,メタミドホス,MPMC,ネオスチグミンではラット,モルモットともに用量相関性の収縮反応が認められ,その反応に種差は認められなかった。硫酸ニコチン暴露群では,ラットでは明瞭な収縮反応が検出できず,高濃度暴露に従って弛緩する傾向が認められた。モルモットでは一過性の明瞭な収縮反応の後,速やかに弛緩する反応が観察された。
著者
鳥塚 尚樹 羽毛田 真弓 橋口 晃一 前川 竜也 渡辺 仁 金子 吉史 新田 浩之 浜田 淳 榊原 雄太 佐藤 玄 佐藤 耕一 諏訪 浩一 高見 清佳
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.P-93, 2018

<p> 2017年8月,FDA Data Standards Catalog v4.6にSEND Implementation Guide ver. 3.1(以下,IG 3.1)が収載され,2019年3月15日以降開始の試験はNDA/BLA申請時にIG 3.1準拠のSENDデータ提出が義務化された。IG 3.1の対象試験には心血管系及び呼吸系安全性薬理試験が含まれるため,それらのSEND対応はCJUG SENDチームの最重要課題の一つと考えられた。そこで,ITベンダー,ソリューションプロバイダ,非臨床試験CRO,製薬企業が所属するCJUG SENDチームの全27施設を対象に,安全性薬理試験のSEND対応状況及び想定される課題等に関するアンケートを実施し,匿名で回答を収集して分析した。</p><p> その結果,ほぼ全ての施設が安全性薬理試験のSEND対応への必要性を認識している一方,IG 3.1の詳細把握から具体的な業務手順の整備等の体制構築を進めている施設は少数のみであった。今後の対応方針を業種別にみると,製薬企業の多くは外注での対応を想定し,受託側のソリューションプロバイダ及びCROは自社対応やパートナリングで積極的にSENDデータ作成受託を進めようとしている傾向が示された。また,機器からの印刷物や手書きの記録を安全性薬理試験の生データとしている施設も依然多く,データの電子化自体が安全性薬理試験SEND対応の大きな課題であることが明らかとなった。さらに,SENDデータセット作成・検証の担当者に安全性薬理研究者の配置を想定している企業は少なく,統制用語の適切な利用など,安全性薬理試験SEND対応のプロセスに専門家がどう関与すべきかという潜在的な課題も見出された。本発表では調査内容を更に精査し,安全性薬理試験SEND対応の課題及び今後のデータセット作成に有用な情報を提供したい。</p>