著者
COHEN Mitchell D.
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.S19-6, 2014

The Immunotoxicology Specialty Section of the Society of Toxicology (SOT) celebrated its 50<sup>th</sup> Anniversary in 2011. At the time the IMTOX SS - as well as the field of Immunotoxicology - was established by its pioneers Drs. Jack Dean, Al Munson, Mike Luster, and Jeff Vos, research focused primarily on gaining an understanding of which occupational/envi- ronmental agents might impact on the immune system and establishing guidelines (i.e., the Tier I/II system) to standardize analyses of these effects. Soon thereafter, with growing numbers of investigators entering the field, the focus of much immunotoxicology research shifted to defining mechanisms of toxicity for these agents. With time and increasing innovations in technology, research into induced alterations of immune cell-cell interactions and changes in immune cell signaling pathways/molecular integrity moved to the forefront. As with many strong research fields, immunotoxicology became a tree with many roots reaching into other areas of scientific study. In part, this was because changes in immune function/components impact on many other organ systems/bio-processes apart from altering host immunocompetence. Novel studies being performed by up-and-coming immunotoxicologists around the world now cross into areas including Developmental, Neurologic, Reproductive, Ocular, and Cardiovascular Toxicology. Indeed, immunotoxicology is also an important aspect of research in the novel fields of Nanotoxicology, Stem Cell Biology, Drug Discovery, and Biotech- nology. Following up on the previous presentations in this forum, this talk will introduce JSOT attendees to some of the investigations being performed by the next generation of Immunotoxicology researchers in the US/Europe.
著者
坂本 峰至
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.S8-1, 2016

メチル水銀は中枢神経毒性を有し、特にヒトでは胎児の発達期脳の感受性が高いことが知られている。一方、セレンは必須微量元素であり水銀との結合性が高く、海洋哺乳類の組織には共に高濃度で存在することから、その役割が注目されてきた。加えて、1970年代にセレンが水銀化合物の毒性発現抑制効果を持つことも知られるようになり多くの研究が行われてきた。しかし、無機水銀と異なり、メチル水銀の毒性に対するセレンの防御効果とそのメカニズムについては諸説あり十分には解明さていない。今回は、セレンは本当にメチル水銀の脳での神経細胞傷害作用を防御することが出来るのか? 鯨肉を食べる風習を持つ住民の血液中水銀とセレンの関連は? 歯クジラはどうしてメチル水銀中毒にならないのか? また、歯クジラ肉を食べることのヒトへのリスクは? というメチル水銀とセレンに関するいくつかの疑問について、最近の研究成果を紹介し検討を加える。<br>【ラット発達期大脳における神経細胞変性メカニズム並びにセレノメチオニンによる防御】 ヒトの脳発達のピークは出産前の3ヶ月間で、脳のメチル水銀に対する感受性もその時期が最も高いとされている。一方、ラットの脳の発達ピークは出生後であり、胎児期ではなく新生仔期のラットにメチル水銀を投与することによって、ヒト胎児性水俣病で見られたような影響が観察できると期待される。そこで、我々はラット新生仔を用い、メチル水銀による特異的神経症状と大脳皮質における神経細胞死のメカニズムの検討を行なった。更に、メチル水銀によって引き起こされる発達期の大脳皮質での神経変性を、自然界に存在するセレノメチオニンが防御した成果について紹介する。<br>【ヒトにおけるメチル水銀とセレンの共存について】 ヒトはメチル水銀とセレンを主に魚介類摂取によって取り込み、ヒト血液における水銀とセレンの共存が注目されている。一般住民及び歯クジラ類を摂食する集団における血液中の水銀とセレンの関係を紹介する。<br>【歯クジラにおける水銀の化学形態別分析とセレンの共存について】 海洋ほ乳類や一部鳥類はメチル水銀を無機化し、臓器、特に肝臓に高い濃度で不活性なセレン化水銀を蓄積し、メチル水銀の解毒能を有しているのではないかと考えられている。一方、筋肉や脳ではメチル水銀化はそれほど起こらないと考えられている。今回は、多数例の歯クジラ筋肉を用い、筋肉中の水銀の化学形態別分析とセレンとのモル比に関する検討を行った。更に、X線吸収微細構造分析、電子プローブ・マイクロ分析による水銀・セレン化合物の構造分析を行った結果を紹介する。
著者
門田 利人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.S4-1, 2018

<p> 1960~80年代(昭和の後半)、日本は薬害・公害の時代であった。ペニシリン/ショック、サリドマイド禍、コラルジル/リン脂質症、キノホルム/スモン病、有機水銀/水俣病、カドミウム/イタイイタイ病、ヒ素/ミルク事件、PCB/カネミ油症など枚挙にいとまがない。これらの痛ましい事故・事件の教訓から薬物安全性評価の充実が希求された。医薬品分野では、1984年「薬審第118号、医薬品の製造(輸入)申請に必要な毒性試験のガイドライン」が策定され、Minimum Requirementとして準拠が求められた。臨床適用以外の経路でも単回投与試験を実施し、LD50値や無影響量を算出する目的で数多くの動物が犠牲となった。ヒトへの外挿性が乏しいと知りつつも試験を実施した。これらへの反省は、国際調和という形で促された。1991年(平成3年)の効率的な新医薬品開発を目指した規制の国際調和会議(ICH)の設立である。日本は、ICHからの勧告を受け入れ、無影響量から無毒性量へと改めた。ICHでは、日本は欧州と共に非げっ歯類の長期反復投与試験の投与期間を最長6か月と主張したが、9か月で妥協・合意せざるを得ないという苦い経験もした。今日まで、S1(がん原性試験)からS11(小児用医薬品の毒性試験)まで、改訂を重ね、また、新たなトピックについて議論されてきた。このように、平成の30年間は、国際調和した規制・ガイドラインが策定・施行された時代であったが、平成時代の終わりとともに、ガイドラインに依存した画一的試験の時代から医薬品毎に熟考された多様な試験の時代となることを期待したい。</p><p> 核酸医薬品、遺伝子治療、再生医療などの革新的医療技術において、本当に従来型の毒性評価方法は通用するのか。50年間も医薬品の毒性評価に関わった経験から、新たな時代に毒性評価に携わる若い毒性研究者にとって参考になる情報を提供できたら幸いである。</p>
著者
杉田 学
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

【はじめに】薬剤の使用は現代医学では不可欠なものであり,その有効性と毒性・副作用については治験結果をもとに強く認識されている。一方で,治験結果から危険性を認識するように警告するようになっていても,使用する患者や医師の認識不足によって重篤な病状をおこしたり,稀と言われている副作用に遭遇したりすることもある。本発表では実際に経験した症例を2例提示し,非臨床/臨床治験を行う側と臨床で使用する医師側,それぞれの問題を考察する。【症例1】29歳男性,4年前から統合失調症で某病院精神科通院中。某日,心肺停止として当院へ救急搬送。来院時心肺停止状態,心電図は心静止,瞳孔は両側散大。直ちに心肺蘇生術を開始し,病着後10分で心拍再開しICU入室。来院直後の血糖値は854 mg/dL,血漿浸透圧は373 mOsm/L,血液/ガス分析ではpH6.558, HCO<SUB>3</SUB>-7.8 mmol/L, BE-35.4と高血糖,高浸透圧血症,代謝性アシドーシスを認めた。心停止に至る原因が他にすべて否定され,糖尿病性ケトアシドーシスによって心停止に至ったと考えた。患者に糖尿病の既往はなく,前医に問い合わせたところ1ヶ月前にOlanzapineが開始され,薬剤開始後2週間,1ヶ月後(今回の来院3日前)の採血で既に高血糖,多飲・体重減少の高血糖を示唆する所見があったにも関わらず主治医は認識していなかった。本症例を含め同薬と因果関係が否定できない重篤な高血糖,糖尿病性ケトアシドーシス,糖尿病性昏睡が9例(死亡例2例)報告されたため注意喚起がなされ,本邦での発売元は同薬剤を,糖尿病患者やその既往歴のある患者への投与を禁忌とした。【症例2】79歳男性, 意識障害を主訴に来院。高血圧,慢性腎臓病,糖尿病で降圧剤,Vildagliptinを内服。来院時の意識はJCS3-R,簡易血糖測定で34 mg/dl,Whipple3徴を満たしたため低血糖性昏睡と診断。DPP-4阻害薬は作用機序から血糖依存性に作用するため低血糖発作のリスクは低いとされるが,本症例の如く単独でも低血糖となり得る。【考察】症例1では医師側の認識不足が,症例2では稀な副作用が,重篤な病態を起こした。開発現場と臨床現場それぞれで情報を密にやりとりすることが必要であり,非臨床/臨床治験の結果を紐解く作業が臨床現場にも求められる。
著者
宇田 一成 樋口 仁美 土井 悠子 今井 則夫 原 智美 杉山 大揮 米良 幸典
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.P-246, 2016

【目的】<br>中期皮膚発がん性試験は投与局所(皮膚)における発がん性評価を目的とし、従来の長期発がん性試験と比べ、使用動物の削減(Reduction)、大幅な試験期間の短縮などのメリットがある。近年では従来医薬品の塗布剤や貼付剤への剤型変更、新製剤または効能追加などによる製品寿命(LCM)の延長戦略により、投与局所(皮膚)の発がん性評価が可能な中期皮膚発がん性試験が用いられている。<br>昨年、中期皮膚発がん性試験で用いるICR系マウスのIGS(International Genetic Standard)生産システムへの移行に伴い、同試験において使用している非IGSマウスとの皮膚腫瘤発生に対する感受性の影響について発表した(第42回日本毒性学会学術年会)。今回は雌雄のIGSマウスを用いて皮膚腫瘤発生に対する雌雄差について検討した。<br>【方法】<br>動物は7週齢の雌雄IGSマウス(Crl:CD1(ICR);日本チャールス・リバー株式会社)を用い、全動物の背部被毛を約2×4 cmの広さで剪毛した後、イニシエーション処置として7,12-Dimethylbenz[<i>a</i>]anthracene(DMBA)を100 µg/100 µLの用量で単回経皮投与した。<br>その1週後より、雌雄各20匹に陽性対照物質である12-<i>O</i>-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA) を4 µg/200 µLの用量で週2回、19週間経皮投与した(TPA投与群)。また、イニシエーション処置1週間後より雌雄各20匹にアセトンを19週間反復経皮投与する群を設けた(陰性対照群)。<br>投与期間中は発生した皮膚腫瘤を経時的にカウントし、各群における腫瘤発生率及び平均腫瘤発生個数を算出した。<br>【結果・まとめ】<br>TPA投与群では、雌雄共に実験7週時より腫瘤の発生がみられ、発生率は実験18週時に100%に達し、腫瘤の発生時期並びに発生率に違いはみられなかった。また、投与終了時におけるマウス1匹当たりの平均腫瘤発生個数は雄で20.0個、雌で18.8個であった。なお、陰性対照群に腫瘤の発生はみられなかった。<br> 現在、背部皮膚に発生した腫瘤の病理組織学的検査を進めており、その結果とあわせてIGSマウスの皮膚腫瘤発生に対する雌雄差について報告する。
著者
本田 大士 トーンクヴィスト マルゲリータ 西山 直宏 笠松 俊夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

化学物質とヘモグロビン(Hb)との結合体,Hbアダクトは化学物質の暴露マーカーとして広く活用されており,グリシドール(G)はN-(2,3-dihydroxy-propyl)valine (diHOPrVal)として,Hbアダクトを形成する。今回我々は,G暴露評価指標としてのdiHOPrValの有用性を確認するため,用量相関性,生体内安定性,<I>in vivo</I> dose (AUC)予測性について解析を実施した。まず,用量相関性を確認するため,異なる用量のGをSDラットに単回経口投与し(0-75 mg/kg),投与1日後にdiHOPrValをGC-MS/MSを用いて定量した。diHOPrVal形成量とG投与量の間には,高い相関性が認められた(R<sup>2</sup> = 0.943)。次に,生体内安定性を確認するため,一定用量(12.5 mg/kg)のGをラットに単回経口投与し,投与後10-40日におけるdiHOPrVal量を定量することで,Hbアダクトの消失挙動を解析した。一次消失を仮定したとき,消失速度定数(<i>k<sub>el</sub></i>)は0.000623となり,diHOPrValは赤血球寿命に従って,ほぼ直線的に減少することが示唆され,生体内で安定に維持されると考えられた。最後に,GのHbへの反応性を,ラットおよびヒトの血液を用いて,<I>in vitro</I>条件で解析した結果,二次反応速度定数(<i>k<sub>val</sub></i>)はラットで6.7,ヒトで5.6 pmol/g-globin per &mu;M・hと見積もられ,有意差は認められなかった。さらに,得られた<i>k<sub>val</sub></i>を用いて,Gをラットに単回経口投与したトキシコキネティクス試験のAUCを予測したところ,予測値は実測値に近い値を示した。以上の検討から,diHOPrValは用量相関性に優れた安定な指標であり,AUC予測にも活用可能なことから,Gの生体内暴露評価に有用であると考えられた。
著者
広瀬 明彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.S21-5, 2017

発がん性物質の定量的なリスク評価においては、リスク算定の対象となる腫瘍の発現メカニズムが遺伝毒性、特に遺伝子の変異に基づくものであるかどうかでそのアプローチが異なる。発癌のメカニズムが、プローモーション作用に基づく場合や、細胞傷害を起因とした組織の再生過程で誘発される場合、変異原性の伴わない染色体異常に基づくと考えられる場合では、NOAEL等のPODに不確実係数を適用してTDIを算定している。一方、変異原性が明らかな場合は、数理モデルを用いたユニットリスク、最近ではベンチマークドース(BMDL)からの直性外挿に基づく計算した10<sup>-5</sup>から10<sup>-6</sup>リスクに相当する値を基準値や管理のための参照値として設定する手法を採用する。しかし、この変異原性の有無を科学的に明らかにすることは困難であることが多い。このような場合に、同じ発がん性が疑われる物質の評価でも、管理機関やリスク評価を審議する委員会等の科学的なポリシーの違いが反映され、異なった評価結果がもたらされることがある。さらに、選択するモデルの違いによる算定結果が、低用量まで外挿する場合に比べて小さくなる利点を持つと考えられているベンチマークドース法においても、実際のリスク評価に採用するモデルの選択により数倍から10倍近くの違いをもたらすことことがあり、例えば、数理モデルの選択基準の違いが反映された結果、同じ発がん性物質のリスク評価が国際的な評価機関の間でも大きな隔たりが示されることがある。本発表では、変異原性の有無の違いに基づく閾値の有無が行政的な発がん性評価の結果に違いをもたらした事例や、同じ閾値なしとして評価したにもかかわらずベンチマークドース法の数理モデル選択の違いにより、異なったPODが算定された事例を紹介することにより、行政的な観点における発がん性物質のリスク評価にたいする閾値の有無の判断が与えるインパクトについて考えてみたい。
著者
中田 北斗 中山 翔太 水川 葉月 池中 良徳 石井 千尋 Yared B. YOHANNES 今内 覚 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.P-187, 2014

ケニア共和国の首都ナイロビ市内の大規模ゴミ集積場・ダンドラ地域は、世界第二位の巨大・高密度スラム街であり、地域内の子供の半数はWHO基準(100 μg/kg)以上の血中Pb濃度であることが報告されているが、家畜の汚染や生体への曝露源に関する報告はない。本研究では、ダンドラおよび対照区として同国・ナクル地域に生息するヤギ、ヒツジ、ブタおよびウシの血中金属類(10元素)濃度およびPb安定同位体比をICP-MSにより、PCBsおよび有機塩素系農薬(OCPs)濃度をGC-MSとGC-ECDにより測定した。<br> その結果、全てのサンプルでCr, Mn, Ni, Cu, Zn, As, Mo, Agの高濃度蓄積は認められず、PCBsおよびOCPsは検出限界以下であった。Pb濃度はナクルに比べてダンドラで高い蓄積傾向を示し、ヤギおよびヒツジでは有意差が認められた。ブタの平均Pb濃度はダンドラ(2600 μg/kg, dry wt:dw)がナクル(73 μg/kg, dw)の約35倍の高値を示した。ダンドラのウシからは、ヘム合成に関与するアミノレブリン酸脱水酵素活性が低下するとされる値(100μg/kg)と同程度のPb濃度(91 μg/kg以上)が検出され、血液毒性等の中毒症状の蔓延が示唆された。Cd濃度の地域差および種差は認められなかったが、総じて高値(570±460 ng/kg, dw)を示し、ウシの摂食によるヒトのCd曝露が示唆された。Pb安定同位体比は地域および動物種により異なる傾向を示し、地域内に複数の曝露源があること、動物種により主要な曝露源が異なることが示唆された。<br> 本研究より、両地域に生息する家畜には高濃度のPb, Cdが蓄積し、特にPb汚染はダンドラで深刻なレベルであり、その曝露源が複数存在することが示唆された。家畜と生活環境を共にするヒトへの同様の汚染も強く示唆された。
著者
小島 肇
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

創薬の開発段階において,in vitro試験によるスクリーニングの必要性が増している。作用機構に立脚した試験法は,低コストかつ短期間に薬効や毒性を評価できると期待できる。さらに,iPS細胞の利用においても,再生医療よりも創薬開発が容易との意見もあり,その開発には社会的な追い風も吹いていると想像できる。本シンポジムでは,そのような最先端の創薬スクリーニング試験法をご紹介頂くことになった。 試験法については,その方法が一企業・一国・一地域での認知ではなく,世界的に受け入れられる方法として位置づけられることが重要であるとの見解がある。確かに行政的な受入れに必要なガイドラインではそうかもしれないが,ある企業がスクリーニングに用いるものにそれが当てはまるとは思えない。行政的な受けがなされるまでには,バリデーションが必要であり,それを当てはめようとするとバリデーションラグにより,in vitro試験の垣根が高くなり過ぎる。 ただし,in vitro試験の利用をむやみに増やせばよい訳ではなく,科学的な裏付けもなく,再現性が乏しい方法は相応しくない。できれば,in vitro試験の導入にあたっては,同業他社との共同研究を通して,プロトコルが開発者の思い込みで作られていないか,施設間の再現性は良いか,予測性も十分かを確認しておくことをお薦めする。In vitro試験は使い方により,その高い偽陽性率から誤って有用な候補物質を脱落させてしまうか,または,高い偽陰性率から重大な安全性上の懸念を見落とす可能性を持っている。これを十分に念頭において利用すべきと考えている。
著者
三森 国敏
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.S8-3, 2012

新しい医薬品のがん原性試験ガイドラインがICHで1997年に策定され、ラットの2年間がん原性試験に加えて遺伝子改変(Tg)マウスを用いた短期がん原性試験からもがん原性が評価できるようになった。一方、そのガイドラインの策定から約15年が経過し、Tgマウスの欠点も明らかとなり、また、2年間のがん原性試験においても種々の問題が派生してきている。例えば、rasH2マウスやp53 ヘテロ欠損マウスは遺伝毒性発がん物質に感受性が高いが、一部のin vitro遺伝毒性試験で陽性で、Tgマウスでの短期がん原性試験で陰性の場合、長期がん原性試験が必ずしも陰性となる保証はないとの指摘がなされている。また、従来の遺伝毒性試験が陰性で、長期がん原性試験が陽性であった医薬品の場合は、ビッグブルーマウスの遺伝子突然変異試験のように、in vivo遺伝毒性試験を追加してその作用が遺伝毒性によって生じたものかを明確にせざるを得ない場合もある。一方、追加in vivo遺伝毒性試験で陰性であった場合は、その発癌促進作用の機序解明が必要となるが、必ずしもその機序を解明するための動物モデルが開発されておらず、さらなる機序解明ができない場合もある。最近gptデルタラットが開発され、一つの試験系で同一臓器での遺伝子変異と発がんとの関連性を明確にすることができる。この試験系では、従来のような遺伝毒性とがん原性試験を別々に実施することはなくなり、今後の遺伝毒性発がん物質を検出できる試験系として有用であると思われる。 反復投与毒性試験から発がんの懸念がない場合は、ラットの長期がん原性試験を省略できるとの新しいガイドラインがICHから提案されているが、上記のように、がん原性を評価する試験系においても種々の問題点が派生してきており、医薬品開発の迅速化を求めるために本来のリスク評価が疎かになるようなことは絶対に避けるべきである。
著者
CHOI Kyungho KYONG Yeon Young PARK Jeng Tak
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.P-233, 2016

Benzodiazepines are frequently prescribed for many diseases and are also most commonly involved in drug overdose. Although most benzodiazepine overdoses are known to be safe and nonfatal without co-ingestions, morbidity or mortality after benzodiazepine overdose is closely related with the duration of unconsciousness or depth of compromised airway. Proper use of flumazenil, a potent antidote of benzodiazepine, seems to accelerate the recovery from the toxicity after benzodiazepine overdose. However, careful attention and repetitive evaluations before and after flumazenil administration may be needed in benzodiazepine overdose because resedation occurs in approximately 30% of total flumazenil-treated cases, which suggests that the risk of aspiration or incidental death after flumazenil administration might be significant without careful monitoring. A 67-year-old woman came to our hospital unconscious 19.5 hours after clonazepam overdose, due to delayed detection. The chest x-ray showed focal segmental atelectasis on the left lung field. Before flumazenil administration, we examined the patient’s airway and assessed the presence of contraindications for flumazenil administration. Next, we briefly evaluated the Ramsay sedation scales (RSSs) and Richmond agitation–sedation scales (RASSs) using, in order, a loud voice, a light glabellar tap, and physical stimuli. Her initial RSS and RASS were 5 and −4, respectively. The RSSs and RASSs were repetitively evaluated before and after flumazenil administration. In conclusion, we successfully managed the comatose patient after clonazepam overdose using sedation score–based applications of flumazenil. Therefore, we suggest that repetitive evaluations conducted before and after the use of flumazenil may be needed in cases of benzodiazepine overdose.
著者
池田 正明 熊谷 恵 中島 芳浩
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.S13-2, 2017

概日リズムは、地球が24時間で自転しながら太陽の周りを回ることにより地球上に起こる明暗の光環境リズムを、地球上の生物が体内に取り込む形で形成されたと考えられている。地球上の生物は、生体内に概日リズムシステムを獲得したことにより、24時間周期の明暗変化を予測して体内を変化させ、恒常性の維持や環境適応を有利にしていったと考えられている。概日リズムが遺伝子レベルで制御されていることは、1971年にベンザーらがショウジョウバエからリズム変異体<i>period</i>を発見したことを端緒に、これが1984年の<i>period</i>遺伝子の発見へつながり、1997年の<i>Clock, Bmal1, Per</i>などの哺乳類の時計遺伝子の発見、1998年のCLOCK/BMAL1/PER時計遺伝子群の転写翻訳によるフィードバック機構からなるコアフィードバックループの同定へと続き、20世紀末に明らかにされた。コア時計遺伝子であるCLOCK/BMAL1/PERは転写因子として機能しているが、これらの分子にはPASドメインというドメイン構造があり、PASドメインは転写因子間の相互作用のインターフェースとして機能している。CLOCK/BMAL1はこのPASドメインを介してヘテロダイマーを形成し、<i>Per, Cry</i>時計遺伝子のプロモーターにあるE-boxに結合してこれらの遺伝子の転写を促進、産生された産物はCLOCK/BMAL1の転写促進活性を抑制することによって約24時間のリズムを形成している。時計遺伝子は概日リズムの発振という機能を生体内の殆どの細胞で発現することに加えて、CLOCK/BMALが、時計制御遺伝子(<b>clock controlled genes</b> (CGG))を直接転写制御することにより、生体内の代謝リズム発現を起こし、生体内の恒常性維持に働いている。本シンポジウムでは概日リズムの分子機構を概説するとともに、毒物代謝との接点についても論考したい。
著者
富田 貴文 岡村 早雄 今野 芳浩
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-14, 2015

【目的】薬剤性肝障害(Drug-Induced Liver Injury: DILI)は、医薬品の開発中止や販売中止の主要な原因の1つである。医薬品の研究開発において化合物のDILIリスクを早期に予測することは、研究開発の成功率を上げるために重要である。DILIリスク予測評価系として、ヒト初代培養肝細胞及びHepG2細胞を用いた肝細胞毒性試験が多く報告されている。しかしながら、ヒト初代培養肝細胞ではドナー差や安定した供給面、HepG2細胞では肝機能の保持に問題がある。一方、ヒト肝腫瘍由来細胞株HepaRGはヒト肝細胞様形態や各種機能を保持していることから薬物動態及び毒性研究に有用と考えられる。我々は第40及び41回日本毒性学会学術年会において、HepaRG細胞を使用してDILI陽性化合物の毒性評価について報告した。今回、DILI陽性及び陰性化合物を追加評価し、HepaRG細胞のDILIリスク予測評価系としての有用性を検討した。<br>【方法】試験物質として、DILI陽性17化合物及びDILI陰性15化合物を使用した。処理濃度は、ヒト臨床Cmaxの100倍を最高濃度に設定した。HepaRG細胞に試験物質を24時間処理後、主要なDILI機序を反映する6種類のパラメータ(細胞生存率、グルタチオン量、Caspase 3/7活性、脂肪蓄積量、LDH漏出量、アルブミン分泌量)について測定した。各パラメータの最適なカットオフ値は、receiver operating characteristic curveを使用して決定した。さらに、DILIの予測性を評価するために、感度及び特異度を算出した。<br>【結果及び考察】DILIの予測性は、Cmaxの100倍では感度67%及び特異度73%、Cmaxの25倍では感度41%及び特異度87%であった。また、Cmaxの25倍でパラメータの変動が認められた化合物の70%は、DILI高リスク化合物であった。さらに、構造類似薬において、DILI高リスク化合物は低リスク化合物と比較して強い毒性を示した。以上より、HepaRG細胞は医薬品の研究開発においてDILIリスク予測評価系として有用と考えられた。
著者
筧 麻友 中山 翔太 水川 葉月 池中 良徳 渡邊 研右 坂本 健太郎 和田 昭彦 服部 薫 田辺 信介 野見山 桂 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.P-78, 2014

【目的】グルクロン酸抱合酵素(UGT)は、生体外異物代謝の第Ⅱ相抱合反応を担い、各動物の化学物質感受性決定に関与することが報告されている。食肉目ネコ亜目(Feliformia)では環境化学物質や薬物等の代謝に関与するUGT1A6の偽遺伝子化が報告されており、この偽遺伝子化に伴いアセトアミノフェン等の薬物の毒性作用が強いことが知られている。一方、食肉目に属する鰭脚類(Pinnipedia)では、環境化学物質の高濃度蓄積が報告されているが、感受性に関与するUGTについての研究はほとんど行われていない。そこで、鰭脚類を中心とした食肉目において、肝臓でのUGT活性の測定と系統解析を行った。<br>【方法】食肉目に属するネコ(<i>Felis catus</i>)、イヌ(<i>Canis familiaris</i>)、鰭脚類であるトド(<i>Eumetopias jubatus</i>)、キタオットセイ(<i>Callorhinus ursinus</i>)、カスピカイアザラシ(<i>Phoca caspica</i>)及び対照としてラット(<i>Rattus norvegicus</i>)の肝臓ミクロソームを作成し、1-ヒドロキシピレン(UGT1A6、UGT1A7、UGT1A9)、アセトアミノフェン(UGT1A1、UGT1A6、UGT1A9)、セロトニン(UGT1A6)を基質としてUGT活性を測定した。また、NCBIのデータベースからUGT1A領域の系統解析およびシンテニー解析を行った。<br>【結果及び考察】1-ヒドロキシピレン、アセトアミノフェン、セロトニンに対するUGT抱合活性を測定した結果、ラットに比べ食肉目では極めて低い活性を示した。また、系統解析及びシンテニー解析より、解析した全ての食肉目において、UGT1A分子種は特徴的な2遺伝子であるUSP40 とMROH2の間に保存されていることが明らかになった。さらに、食肉目は齧歯目に比べUGT1A領域が短く、UGT1A分子種数が少ないことが確認された。以上の結果から、鰭脚類を含めた食肉目はUGTによる異物代謝能が低く、環境化学物質に対する感受性が高い可能性が考えられた。
著者
小島 肇
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.S12-1, 2012

製薬業界において、医薬品の探索試験としてのin vitro試験の活用が増えつつある。これらの試験法を用い、多くの創薬候補物質のスクリーニングを進めることは、新規医薬品の開発を短期かつ安価に促すことになり、国際的な新薬開発競争が激化する昨今、極めて有用であると思われる。この試験法にはもちろんin vitro毒性試験も該当する。市場から撤退を余儀なくされる医薬品のほとんどが動物実験では検出できなかったものや、個人差の大きい副作用によるものであることもあり、ヒト細胞を用いた探索毒性試験に掛ける期待は大きい。 これら試験は探索毒性試験法であることもあり、行政的な公定化はもちろん不要であり、JaCVAM(日本動物実験代替法評価センター)の出番はない。しかし、新規に開発された技術やキットを利用する場合は、専門家による第三者評価が十分になされていないこともあり、科学的妥当性はあるのか、偽陽性の判断で有用な候補物質を見殺しにすることはないのか、偽陰性の判断で余分な追加実験を科すことにならなかいという利用者の不安を払拭できないことも確かである。このような試験法を導入する場合、学会や業界などにおける有志の協力を得て、共同研究を行うことにより、試験法の意義やプロトコルを見直すことが無難である。これにより、試験法が揉まれ、より有用性の高い試験法に磨かれていくと感じている。 このような試験法の開発に、協力者を呼び掛け、少ないながらも金銭的な支援をする、バリデーションのノウハウを用いて技術的な協力をすることも、国立医薬品食品衛生研究所にある新規試験法評価室の使命でもあると考えている。
著者
篠原 一之
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.S6-4, 2012

最近、自閉症や注意欠陥障害などの発達障害が増加していることや、疾患とは診断されない、衝動的暴力、ひきこもり等の思春期問題行動が増加していることから、対人関係の問題と化学物質の関連性が指摘されている。 しかし、対人関係能力の定量的評価法が確立されていないため、それら対人関係の病態・病因は明らかにされていない。つまり、これまでの対人関係能力の評価は、医師の問診・行動観察による診断や心理アンケートによる調査であり、定性的評価の域を出ず、定量的評価が行われてこなかったのである。 そこで、我々はPCベースの思春期以降の対人関係能力評価法を確立し、検証を行ってきた。①情動認知能力評価課題(モーフィングテクニックを用いて情動表出強度を変え、表情や音声から相手の情動を読み取る能力を測定)を用いて、思春期生徒の表情と音声による情動認知能力とダイオキシン受容体(AhR)遺伝子多型が相関していることを明らかにした。また同じ課題を用いて、自閉症群と健常群を比較したところ、自閉症群は音声による情動認知能力は低下するが、表情による情動認知能力はあまり低下してないことも示した。その他、②衝動性評価課題、③不安、孤独感、ネガティブ感情評価課題を用いて、それら項目と化学物質の影響を受けうるホルモンの濃度との相関等を見いだしている。 一方、化学物質の脳への毒性作用は、胎児期に起こると考えられているので、直接的に「化学物質の母体血中濃度や新生児体血中濃度」と「児の対人関係行動」の相関を調べるためには、乳幼児の対人関係能力を調べなければならない。我々は、乳幼児期の対人関係行動の定量評価を行うための手法(④共感性、⑤衝動性)を開発し(PC上のプログラムを用い、画像や音に対する乳児の反応を記録)、現在、コホート集団における母と子のPCB類濃度と乳児期の対人関係行動能力との因果関係について検討している。
著者
BAKER Gizelle ZULOETA A. GONZALEZ BENZIMRA M. VALLELIAN J.F. SANDALIC L. PICAVET P. BOURDONNAYE G. DE LA LÜDICKE F.
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.O-53, 2016

Tobacco harm reduction is a public health strategy to lower the health risks to individual tobacco users and benefit the health of the population as a whole. Philip Morris International is developing a portfolio of products, including iQOS with the potential to reduce the risks of diseases associated with smoking conventional cigarettes. <br><br>PMI has conducted a series of clinical studies in Japan to assess the nicotine pharmacokinetic profile and reductions in exposure to harmful and potentially harmful constituents (HPHCs). Now that has been launched in Japan, PMI is starting a Post-Market Program in Japan including an observational cohort study, the “LYFE” Study (April 2016).<br><br>The LYFE Study will enroll 2000 iQOS users, 2000 CC smokers and 760 never-smokers over a period of 4 years in equally distributed annual waves and will follow participants for up to 5 years. The study is designed to assess how consumers use of tobacco and nicotine products (including iQOS) change over time, the patterns of product use and behavioral trajectories of smoking. Participants will complete questionnaires at enrollment and then at up to 13 time-points over the follow-up period. <br><br>In addition a Clinical Sub-Study will enroll 2280 participants, 760 iQOS consumers, matched 1:1 with CC smokers and never-smokers. Participants in the Clinical Sub-Study will have 2 clinical site visits (at 1 and 3 years) to perform physical exams and collect biological samples to assess population-level differences in biomarkers of exposure and clinical risk endpoints.
著者
星野 裕紀子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.S3-3, 2016

平成25年6月に閣議決定された日本再興戦略において国民の健康長寿の延伸がテーマの一つとして示された。これを受けて、健康・医療戦略(平成25年6月14日内閣官房長官・厚生労働大臣・関係大臣申合せ、平成27年7月閣議決定)ではその具体策としてPMDA自らが臨床データ等を活用して解析や研究を推進すべき旨が述べられている。このような状況の下、PMDAでは平成25年9月に次世代審査・相談体制準備室を設置し、電子データを利用した審査のパイロット(臨床試験成績に限る)を開始すると共に関連通知等の整備を経て、本年10月より、医薬品の承認申請時には原則として臨床試験成績については電子データの提出が求められることとなった。この電子データはCDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)の規格(以下、「CDISC標準」)への準拠が求められており、標準化された電子データの利用による審査の効率化や高度化、Modeling & Simulationを活用した品目横断的な検討等により、患者数が少なくデータの集積が困難な希少疾病医薬品等の開発促進が期待されている。<br>一方、将来的には、非臨床試験成績に関しても承認申請時にPMDAへの電子データ提出を求める方向であり、具体的な検討を開始したところである。検討に際しては、国内での臨床試験電子データの受入れ状況や、既にNDA申請等に際してCDISC標準に準拠した電子データの提出を非臨床試験に関しても義務化することを決定している米国の状況等に留意しつつ、その活用方針について議論する必要がある。<br>本講演では前述の点を踏まえ、日本における非臨床申請電子データの利用とその展望について述べたい。
著者
市原 学 小林 隆弘 藤谷 雄二 尾村 誠一 市原 佐保子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

ナノテクノロジーは,並行して発展してきた分子生物学との融合を通じ新しい学術分野と革新的な技術を生み出すことが期待されている。ナノテクノロジー全体の中で,工業ナノマテリアルはその第一段階を形成するものである。一方,工業ナノマテリアルの健康,環境への影響,安全性についての研究は十分とは言えない。なかでもヒト健康へのリスク評価は優先順位の高い課題である。暴露評価はハザード評価と統合され,リスクを評価するために用いられる。工業ナノマテリアルに暴露された労働者を対象とした疫学コホート研究を立ち上げる構想が国際的にも議論されているが,その基盤としても暴露評価は重要な課題となっている。暴露評価におけるナノマテリアルに特異的な問題の一つは用量計測基準として何を選ぶかということである。この問題に関して国際的なコンセンサスはまだ得られていない。ナノマテリアルの個数,表面積が生体分子との反応性に貢献していると考えられていることから,従来の重量濃度に基づく計測基準が,ナノマテリアルの暴露を定義する上で十分かどうか疑問がある。走査式モビリティーパーティクルサイザー(SMPS)によりナノ領域を含む粒子を分級し連続的にモニターすることが可能であるが,高価で可動性に問題があり,労働現場でより簡易にナノ粒子を測定する機器の開発の必要性が唱えられてきた。米国国立労働安全衛生研究所は凝集粒子カウンター(CPC)と光散乱粒子計測装置(OPC)の併用を提案している。また,比較的安価で小型化されたSMPS,あるいは新しい小型計測機器も開発されている。長期の累積的な暴露の評価には多くの困難が伴う場合があることも指摘しなければならない。生体試料を用いた内部暴露評価のためにバイオロジカルモニタリング法の開発も求められ,そのためには様々な分野の研究者の共同が必要である。
著者
佐々木 大祐 関 二郎 宮前 陽一 黄 基旭 永沼 章 神吉 将之 西原 久美子 平本 昌志 由利 正利 梅野 仁美 森口 聡 見鳥 光 廣田 里香
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.P-17, 2012

腎乳頭部壊死(RPN; Renal Papillary Necrosis)は糖尿病や,鎮痛剤・抗癌剤等の服用等によって生じる腎障害の一つであり,薬剤の開発や臨床的使用に支障を来すことがある。しかしこれまでヒトにおいてRPNの発生初期から鋭敏に変動するバイオマーカー(BM)は知られていない。そこで我々は,トキシコプロテオミクス(TPx)及びトキシコゲノミクス(TGx)の技術を利用してRPNを検出するための新規BMを探索した。<br> 2-bromoethylamine hydrobromideによるRPNモデルラットを作製し,その尿をTPx解析に,剖検後摘出した片腎の乳頭部をTGx解析に用いた。もう一方の片腎では病理組織学的検査を実施し,各BM候補と比較検証した。更に腎臓内障害特異性確認のため,puromycinやcisplatin等で糸球体或いは近位尿細管を障害させたモデルラットでの結果と比較した。<br> RPNモデルラットのTPx解析の結果,急性期炎症性蛋白質を複数含む計94種の蛋白BM候補が得られた。TGx解析の結果,アポトーシスシグナルやIL-1シグナルの活性化,酸化ストレスの亢進等をうかがわせる遺伝子群の変化が認められた。特にfibrinogenとC3はTPx解析及びTGx解析から共に検出されたため,これらはRPNと関連した着目すべきBMと考えられた。しかし障害部位特異性検討の結果,尿中のfibrinogenとC3は近位尿細管障害でも増加することが判明した。よって,fibrinogen及びC3はRPNを検出することは可能であるもののRPN特異的ではなく,近位尿細管の障害をも検出するBMであり,これら急性期炎症性蛋白質の増加は腎臓内障害部位における炎症関連シグナルの活性化に起因するものと考えられた。<br> 現在,RPNを特異的かつ鋭敏に検出するBMを残りの92候補から見出すべく,各候補に対する検討を実施中である。