著者
新井 万里 水野 慎大 南木 康作 長沼 誠 金井 隆典
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.289a-289a, 2015

ヒト腸管には多種多様な腸内細菌が生息し,生体の恒常性維持に重要な役割を担っている.次世代シークエンサーを用いた解析により,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)・過敏性腸症候群などの腸管疾患のみならず,生活習慣病・自閉症など様々な疾患で,腸内細菌叢の構成の異常(dysbiosis)が示されている.特にIBDでは腸内細菌叢の深い関与が明らかになっており,プロバイオティクス投与による腸内細菌叢の制御メカニズムも科学的に解明されつつある.我々のグループでも,プロバイオティクスとして知られるクロストリジウム・ブチリカムが,マクロファージ・樹状細胞を介して腸管炎症を抑制する機序を明らかにした.さらに,ヒト由来の複数種のクロストリジウム属細菌が制御性T細胞を誘導して腸炎を抑制することも報告されており,複数菌種の投与がより効率よくdysbiosisを改善すると考えられている.これらの流れを受けて健常人の糞便を投与する糞便微生物移植(Fecal micro: FMT)が脚光を浴びている.難治性クロストリジウム・ディフィシル感染症に対するランダム化比較試験でFMTが著しい再発抑制効果を示したことも相まって,IBDにおけるFMTの有効性が検討されている.これまで評価は二分されており,我々のグループは本邦初となるIBDに対するFMTを開始した.新たな治療戦略につながる可能性も含め,腸内細菌とIBDの関係性およびFMTの現状を報告する.
著者
大村 浩一郎 山本 奈つき 寺尾 知可史 中嶋 蘭 井村 嘉孝 吉藤 元 湯川 尚一郎 橋本 求 藤井 隆夫 松田 文彦 三森 経世
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.310a-310a, 2012

Myelin basic protein(MBP)は神経ミエリン鞘を形成する主要なタンパクであるが,関節リウマチ(RA)において,myelin basic proteinに対する自己抗体が高率に認められることを我々は以前報告した(PLoS One 2011; 6: e20457).ヒト脳由来抽出タンパクを抗原として用いた場合,抗MBP抗体はRAの約65%に認められ,特異度は膠原病患者を対照として83%であり,またその対応抗原は主にMBPタンパク自身ではなく,シトルリン化MBPに対する抗体であることも明らかにした.一方,MBPは神経系に発現するclassic MBPと神経系のみならず血球系にも発現するGolli-MBPのアイソフォームがあり,それぞれにまたいくつかのアイソフォームが存在する.RAで認められる抗MBP抗体の対応抗原がclassic MBPなのかGolli-MBPなのかは不明であったことから,classic MBPおよびGolli-MBPのrecombinantタンパクを作成しin vitroでシトルリン化し,ELISAで抗MBP抗体を検出したところ,その感度,特異度に差は認められなかった.現在Golli-MBPのアミノ酸配列(304アミノ酸)を15種類の25アミノ酸ペプチドでカバーし,それぞれのペプチドをシトルリン化して抗原とし,12人の抗MBP抗体陽性RA患者血清を用いてELISAにてエピトープマッピングを行っている.<br>
著者
今留 謙一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.433-441, 2013 (Released:2013-12-31)
参考文献数
13

Epstein-Barr virus (EBV)はヒトヘルペスウイルスに属する腫瘍原性ウイルスとして1964年に世界で初めて報告されたウイルスである.しかし,世界の90%の成人が既に感染しており,死ぬまで何の疾患も引き起こさない場合がほとんどである.EBV感染細胞は多岐にわたり,B, T, NK細胞のいわゆるリンパ球系と上皮細胞系においてEBV感染が報告されている(Figure 1).EBV感染症の治療法・治療薬の研究はほとんどなされてこなかった.これはEBV感染モデル動物が存在していなかったことが大きな原因と言える.EBVはマウス・ラットなどの小動物には感染せず,霊長類にはわずかに感染するもののEBVに類似のサルヘルペスウイルスが既に感染していることで個別の解析が困難であることと高価なため研究に使用することが困難であった.適当なモデル動物が無かったためin vivoでの薬剤評価や感染実験ができず,感染直後のEBV特異的宿主免疫応答,EBV遺伝子発現,感染細胞動態などの研究の進展はゆるやかであった.今回我々はNOGマウスを使用しEBVがT/NK細胞感染モデルを作製し病態解明を試みた.その結果,モデルマウスはサイトカイン,感染細胞増殖,臓器への感染細胞浸潤など様々な患者病態を反映し再現していることが示された.また,これまでEBV感染T/NK細胞は白血病やリンパ腫の細胞と同様に腫瘍細胞であると考えられてきたが,このモデルマウスでの解析の結果感染初期は典型的な腫瘍細胞ではないことが明らかとなった.さらに,その応用として新規治療薬の評価,マイナー分画感染に対する感染細胞同定を紹介する.
著者
和田 琢 秋山 雄次 横田 和浩 佐藤 浩二郎 舟久保 ゆう 三村 俊英
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.433-438, 2012 (Released:2012-10-31)
参考文献数
22
被引用文献数
6 28

アバタセプト(ABT)を投与後に肺間質影の増悪がみられた関節リウマチ(RA)の1例について報告する.55歳時にRAおよび間質性肺炎を発症した.間質性肺炎は副腎皮質ステロイド大量療法で改善した.RAは多種の疾患修飾性抗リウマチ薬およびインフリキシマブに対して抵抗性であった.タクロリムス(TAC)が有効であったが難治性の掻痒感と下痢のため中止となった.2ヶ月後,関節炎が増悪したためABTの国内第III相試験に参加した.ABT投与2日目から白色痰が出現.痰培養は陰性であり投与13日後に胸部CTを施行した.2ヶ月前に比して間質影の増悪がみられたため,臨床試験は中止された.関節炎に対しABT投与27日後にプレドニゾロンを2 mg/日から10 mg/日に増量した.ABT投与44日後に胸部CTを再検した結果,間質影は改善傾向を示した.本例の発症機序については,ABTによる間質性肺炎の増悪以外に,TAC中止による間質性肺炎の増悪,RA増悪による間質性肺炎の悪化,ウイルス感染の関与なども考えられた.新規抗リウマチ生物学的製剤であるABT投与後に間質性肺炎が増悪した症例は未だ報告されておらず,これが最初の症例報告である.ABTと間質性肺炎増悪の因果関係は不明であり,このような症例の蓄積が必要であると考える.
著者
瀬理 祐 庄田 宏文 松本 功 住田 孝之 藤尾 圭志 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.154-159, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
39
被引用文献数
2

関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)は全身の慢性,破壊性の多関節炎を主症状とする代表的な自己免疫疾患である.病態形成において様々な遺伝,環境因子の関与が示唆されているが,依然として詳細な機序は不明である.最近,RAの疾患感受性遺伝子として約100種類が報告されたが,Peptidylarginine deiminase type4(PADI4)はRAのgenome-wide association studyによってnon-MHC遺伝子のRA感受性遺伝子として本邦より初めて報告され,様々な疾患の遺伝学的解析と併せてRAとの特異的な関連が示唆されている.現在,PADI4はアジア人や欧米人の一部でもRAとの関連が示され,アジア人ではanti citrullinated peptide antibody(ACPA)の有無に関わらず骨破壊の危険因子となることも報告された.PADI4遺伝子はシトルリン化による翻訳後修飾能を有するPAD4蛋白をコードする.PADI4は骨髄球,顆粒球といった血球系細胞で特異的に発現している.PADI4のRA感受性ハプロタイプではmRNAの安定性が増すことでPAD4蛋白が増加することが示唆されている.従来,RAにおけるACPAの特異性から,PAD4蛋白の増加に伴うシトルリン化蛋白の過剰産生とACPAの誘導といった仮説が注目されてきた.しかし,PADI4は核内移行シグナルを有することで様々な遺伝子発現の制御やneutrophil extracellular trapsの形成に関与し,RAの病態形成において多彩な役割を担う可能性が示唆される.本項ではPADI4の機能とRAにおける役割のまとめ,考察を行う.
著者
保田 尚孝
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.209-216, 2013 (Released:2013-08-31)
参考文献数
32
被引用文献数
1 3

破骨細胞分化因子RANKLの発見から15年が経過し,破骨細胞分化メカニズムの解明が飛躍的に進んだ.この発見は抗体医薬である完全ヒトRANKL中和抗体(デノスマブ)の開発につながり,2010年頃から欧米を始め,多くの国で骨粗鬆症治療薬および癌骨転移による骨病変の治療薬として臨床応用されている.日本では,2012年から癌骨転移による骨病変の治療薬として臨床応用されているが,本年3月に骨粗鬆症治療薬としても承認された.破骨細胞分化に必須の絶対的因子であるRANKLを標的にした抗体医薬の切れ味は強力であり,多くの患者にとって福音となろう.本稿ではRANKLの発見により,解明された破骨細胞分化メカニズムを紹介し,抗RANKL抗体による強力な骨量増加をマウスモデルにより解説する.RANKL中和抗体を投与するとわずか数日後には破骨細胞が激減し,骨吸収が抑制されることにより,骨量が増加する.この抗RANKL抗体により,破骨細胞を不活性化し,骨量を簡単に増加させることが可能となった.
著者
溝口 史高 上阪 等
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.69-74, 2012 (Released:2012-02-28)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

近年様々な生理的・病的状態におけるmicroRNAの役割が明らかになってきている.特に免疫におけるmicroRNAの役割については詳細な検討が進められている.関節リウマチにおけるmicroRNAの報告は,免疫系における役割が報告されていたmiR-146とmiR-155が炎症性滑膜組織に発現することが報告されて以降,様々なmicroRNAの発現が病態に関与する可能性が報告されてきている.関節リウマチにおけるmicroRNAの役割についてはまだその一部が明らかとなったにすぎないが,今後さらに詳細な検討がなされることにより,新たな治療標的やバイオマーカーとしての役割が明らかとなることが期待される.
著者
福島 聡 尹 浩信 西村 泰治 千住 覚
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.113-120, 2011 (Released:2011-06-30)
参考文献数
14

iPS細胞作製法の開発により,任意個体の体細胞から多能性幹細胞を作製することが可能となった.iPS細胞は各種の再生医療のための細胞ソースとしてのみならず,細胞治療に用いる樹状細胞(DC)を作製するための材料としても有用であると考えられる.多能性幹細胞は,無限増殖能を有し,遺伝子導入も容易であり,より強力な効果を有するDCを無限にin vitroで作成し治療に用いることができるようになる可能性を秘めている.これまでに行われてきた多能性幹細胞由来DCを用いたがん免疫療法の研究を概説し,今後の展望を述べる.
著者
菱川 恭子 岩井 一宏
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.372-380, 2005 (Released:2005-12-31)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

鉄は赤血球のみならず生体の全ての細胞に必須な微量金属であると同時に,フリーラジカルの産生源となり,毒性を有するためにその代謝は厳密に制御されている.近年,鉄代謝制御機構研究は急速な進展を見せ,鉄貯蔵量に応じて,鉄吸収を制御するホルモンであるヘプシジンが同定され,ヘプシジンが慢性炎症時の鉄不応性貧血に関与する事が示されるなど新たな展開を見せている.また,これまで明らかでなかった鉄と感染防御の関連なども明らかになり,我々は従来想像していなかった細菌感染防御機構を備えていることが明らかになってきた.本稿で近年急速に理解が進んだ生体レベルでの鉄恒常性維持機構を中心に,筆者らの研究も含め鉄代謝研究の現状を概説し,今後の展望についても簡単に述べてみたい.