著者
平形 道人
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.444-454, 2007 (Released:2007-12-31)
参考文献数
65
被引用文献数
11 12

多発性筋炎/皮膚筋炎(polymyositis/dermatomyositis : PM/DM)は,筋力低下を主徴とする慢性炎症性疾患で,その臨床像は多彩である.本疾患においても他の膠原病と同様,種々の細胞成分に対する自己抗体が高率に検出される.特に,PM/DMに特異的に見出される自己抗体(myositis-specific autoantibodies ; MSAs)は,診断,病型の分類,予後の推定,治療法の決定など臨床的に有用である.さらに,かかる自己抗体が標的とする自己抗原が細胞内の重要な生物学的機能を持つ酵素や調節因子であることが同定され,自己抗体産生機序を考える上で重要な情報をもたらしている.とくに,PMに特異的な抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体や抗SRP抗体などが蛋白合成・翻訳と関連する細胞質蛋白を標的するのに対し,DMに特異的な抗Mi-2抗体や抗体p155抗体などが核内転写調節因子を標的とすることは,自己抗体と病態形成との関連を考える上で注目される.さらに,従来,自己抗体が稀とされてきた,amyopathic DMの抗CADM-140抗体や悪性腫瘍関連筋炎の抗p155抗体は早期診断・治療など臨床的に有用なばかりでなく,これらの疾患の病因追究に大きな手掛かりを与えるものと期待される.本稿ではPM/DMにおける自己抗体とその対応抗原や臨床的意義について,最近の知見を含め概説する.
著者
上松 一永
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.63-67, 2007 (Released:2007-04-30)
参考文献数
5
被引用文献数
3 2

感染や自己免疫に基づかない炎症を反復する疾患群,自己炎症疾患(autoinflammatory diseases)の存在が明らかになった.自己炎症疾患は,炎症を繰り返すものの,病原体,自己抗体,自己反応性T細胞は見出されない.炎症,自然免疫,細胞死の制御に関わる分子群の異常であり,確定診断がなされず治療に難渋することも多い.自己炎症疾患における個々の疾患は治療法が異なるため確定診断が重要である.自己炎症疾患は特徴的な臨床所見を呈するため,比較的診断は容易であり,さらに遺伝子解析による確定診断が可能である.原因不明の炎症があり改善しない場合は,本疾患群を常に念頭に入れて,炎症性疾患を鑑別する必要がある.
著者
田村 誠朗 北野 将康 東 幸太 壷井 和幸 安部 武生 荻田 千愛 横山 雄一 古川 哲也 吉川 卓宏 斎藤 篤史 西岡 亜紀 関口 昌弘 東 直人 角田 慎一郎 細野 祐司 中嶋 蘭 大村 浩一郎 松井 聖 三森 経世 佐野 統
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.450-455, 2017 (Released:2018-01-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

症例は65歳女性.X-17年に間質性肺炎合併多発性筋炎と診断されステロイド薬が開始.X-8年に関節リウマチを合併しタクロリムス(Tac)が併用となっていた.X年2月上旬から全身倦怠感と高血圧が出現,さらに血液検査で,血小板減少,溶血性貧血,破砕赤血球,LDH高値,高クレアチニン血症を認めたことから,血栓性微小血管障害症(TMA)と診断.TMAの原因としてcalcineurin inhibitor(CNI)腎症を疑い,Tacを中止し血漿交換を開始した.以降,破砕赤血球は消失し,血小板減少,溶血性貧血は改善したが,高血圧,腎機能低下が遷延したため腎生検を施行.その結果はTMAの病理組織像であった.ただしCNI腎症としてはTacの血中濃度は既存の報告と比較し低く,また薬剤中止後も腎機能低下が遷延していた点が非定型的であった.後に抗PL-7抗体が陽性であることが判明.本症例は強皮症の診断基準は満たさなかったが,同抗体陽性例では強皮症を合併したとする報告がある.すなわち潜在的な強皮症素因を背景にCNI腎症が重篤化した可能性が示唆された.抗PL-7抗体陽性の患者にTacを投与する際はTMAの発症に十分留意する必要がある.
著者
張 蘇平 平野 隆雄 村島 直哉 廣瀬 俊一 北川 龍一 奥村 康
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.300-306, 1991-06-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
10

肝硬変症患者血清中の免疫複合体(IC),とくにC3ネオアンチゲンに結合するC3b結合免疫複合体(C 3b-IC)とiC 3b/C 3dg結合免疫複合体(iC 3b/C 3dg-IC)の産生,およびそのクリアランスに重要な役割を担っている補体リセプター(CR 1), factor Iおよびfactor Hの動態について検討した.肝硬変症患者血漿中において,高率にC 3b-ICが検出されたがiC 3b/C 3dg-lcは正常人,慢性肝炎患者との間に有意な差は認めなかった.また,肝硬変患者において,補体リセプター(CR 1)と血漿factor Hは高値を示したが, factor I値はコントロール群と比較して低値を示した(p<0.01).このことは,肝硬変患者において免疫複合体(IC)の異常産生,そのクリアランスに重要な補体C3カスケードのメカニズムの異常の存在が推測された.すなわち, factor I値の低値による機能不全のためC 3b〓C 3dgへの変換が障害され,それを補うためCR 1, factor Hの産生充進として働いていることが推察される.このように肝硬変患者におけるC3カスケードの異常評価の検討をすすめることは,肝障害時における補体系動態の解析に重要であることが示唆された.
著者
新中 須亮 黒崎 知博
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.317, 2016 (Released:2016-09-03)

我々の体は,1度出会った細菌やウイルスなどの抗原に再び出会うと,1度目よりも大量の抗体を作り出して抗原を除去する.これは1度目の免疫反応で抗原を記憶したメモリーB細胞が誘導され,2度目の侵入時により素早く反応し,抗体産生細胞に分化するためである.ウイルス,ワクチンなどの抗原が人の体内に入ると2次リンパ組織の中で胚中心が形成される.メモリーB細胞が胚中心に存在する胚中心B細胞から誘導されてくることは知られていたが,その誘導の仕組みはわかっていなかった.そこで我々は新たなマウス作製や実験システムの構築を行いこの疑問の解決に取り組んだ.その結果,メモリーB細胞は親和性成熟が十分に起こる前の胚中心B細胞から誘導されやすいことが明らかとなった.さらに,親和性が低い胚中心細胞群で転写因子Bach2遺伝子の発現レベルが優位に高いことを見出し,メモリーB細胞の分化にはBach2遺伝子が高発現していることが重要であることを明らかにした.今回得られた結果は,メモリーB細胞は胚中心B細胞の中で高い親和性を獲得できた細胞から誘導されるという概念をくつがえす結果であった.この結果から,メモリー細胞は免疫抗原に近い構造を持つ抗原にもある程度反応できる広い反応領域を残している細胞であるという可能性が示唆された.つまり,メモリー細胞には,多少変異を起こした細菌・ウイルスが2度目に侵入してきても,ある程度対応できる能力があると予想された.
著者
岩田 慈 山岡 邦宏 新納 宏昭 中野 和久 Sheau-Pey WANG 齋藤 和義 赤司 浩一 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.56-61, 2012 (Released:2012-02-28)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

近年関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)をはじめとした自己免疫疾患に対し,生物学的製剤の高い有効性が報告されている.一方で,低分子化合物は経口投与可能であり,また廉価となる期待などから注目を集めている.Sykは72 kDaのチロシンキナーゼで,B,T細胞,肥満細胞,マクロファージ,好中球,滑膜線維芽細胞などの免疫や炎症に関与する公汎な細胞に発現している.SykはBCR,TCR,FcR,インテグリンなどITAM領域を含む多鎖免疫レセプターのシグナル伝達において重要な役割を担う.近年,Syk阻害剤(fostamatinib)のRAをはじめとした,気管支喘息,特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫やアレルギー病態に対する有効性が報告され,SLEモデルマウスにおいても皮膚症状,腎障害の進展抑制効果がみられているが,その作用機序は依然不詳である.我々は,ヒト末梢血B細胞において,Sykを介したBCRシグナルは,TLR9,TRAF-6のoptimalな発現誘導に極めて重要で,結果として,効率的なCD40,TLR9シグナル伝達が齎されることを明らかにした.以上より,Sykは自己免疫疾患のB細胞依存性病態において重要な役割を担う可能性が示唆された.本編では,RAやSLEを中心に,自己免疫疾患に対するSyk阻害剤のin vitro,in vivoにおける効果について概説する.
著者
鈴木 貴博 近藤 啓文 柏崎 禎夫
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.184-191, 1989-04-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
16
被引用文献数
3 3

膠原病としてRA 82例, PM-DM 35例, PSS 31例の合計148例,およびウイルスなどの感染症36例を対象とし,抗中間径フィラメント抗体として抗ビメンチン抗体と抗サイトケラチン抗体の各々を, western blotting法で測定することを試みた.前者の検出率は, RAでは24例29%, PM-DMでは19例54%, PSSでは12例39%,後者の検出率は, RAでは25例30%, PM-DMでは16例46%, PSSでは14例45%で,間接螢光抗体法による検出率と比較し高かった. 36例の感染症ではそれぞれ21例58%, 8例22%に検出された.免疫グロブリンクラスは両疾患ともIgG優位であった.本抗体陽性膠原病の臨床像を検討したところ,抗ビメンチン抗体単独陽性RAおよびPSSでは,肺線維症がそれぞれ50%, 83%と有意に高率に認められた.本抗体が膠原病およびウイルス,マイコプラズマ感染症の両者で検出され,正常人で認められなかったことは,膠原病と感染症との間に何らかの関連が存在するものと考えられた.
著者
渡辺 浩 落合 浩暢 児玉 栄一 鈴木 修三 武田 功 渡部 則也 小野 重明 海瀬 俊治 西間木 友衛 粕川 禮司
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.385-390, 1992-08-31 (Released:2009-01-22)
参考文献数
22

症例は37歳の女性. 1986年11月日光過敏,蝶形紅斑,抗核抗体陽性,抗DNA抗体陽性から全身面エリテマトーデスと診断され, prednisolone投与を受けた。1989年10月から両下肢脱力感出現し精査加療目的に同年12月当科入院した.抗核抗体2,560倍,抗cardiolipin抗体陽性で,頭部CT上多発性脳梗塞が認められ, PSL 40mg/日の投与を開始した.症状改善傾向にあるも患者は服薬を中止し, 1990年4月退院した.同年5月,両下肢の対麻痺,胸椎11番以下の全知覚障害と膀胱直腸障害が出現し再入院した. aCLは高力価であり,抗リン脂質抗体が強く関与した横断性脊髄障害を合併したものと考え,血漿交換療法,副腎皮質ステロイド剤パルス療法,大量γ-globulin療法,免疫抑制剤投与を行い, aCL価は低下したが,神経症状はほとんど改善しなかった.早期の治療が横断性脊髄障害の諸症状の改善に重要である.
著者
長沢 浩平 山内 保生 横田 英介 仁保 喜之
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.246-252, 1990-06-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
18

結核菌は宿主の免疫系に何らかの影響を及ぼしうることが知られている.そこで全身性自己免疫疾患の代表である全身性エリテマトーデス(SLE)の病態が,結核の罹患によって変化するか否かを検討した.昭和54年より同63年までの10年間に当科に入院したSLE患者213名のうち結核に罹患したのは5名(2.2%)であった.このうち3名は結核罹患により, SLEの病態に大きな変化はみられなかった(2名:不変, 1名:軽度悪化).これに対し,比較的重症の粟粒結核に罹患した2名のSLE患者では,結核発症3~6ヵ月の間に尿蛋白およびRA-Tの陰性化,抗核抗体および抗DNA抗体価の低下など明らかなSLEの改善がみられた.このSLEの軽快はSLEに対する治療や自然経過によるものではなく,結核罹患による影響と考えられた.このように,重症で全身に結核菌が播種されるような粟粒結核では, SLEの病態が改善することもありうることが示唆された.
著者
中澤 裕美子 前川 貴伸 小穴 慎二 石黒 精 太田 さやか 寺嶋 宙 柏井 洋文 久保田 雅也 堤 義之 中澤 温子 師田 信人 阪井 裕一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.175-179, 2013 (Released:2013-06-30)
参考文献数
10

多発性硬化症の診断は,病巣が単発性の場合,しばしば脳腫瘍や脳炎・脳症との鑑別が困難になる.今回われわれは延髄に2 cm大の腫瘤性病変を認め,当初脳幹部グリオーマが疑われたが,最終的に多発性硬化症の診断に至った11歳男児例を経験した.患児は下肢痛の出現後,約2週間の経過で四肢麻痺,意識障害,呼吸不全が進行した.急性の臨床経過がグリオーマの臨床経過と合致せず,診断が困難であったため,手術自体の危険性を説明の上,組織生検を施行した.組織像では明らかな腫瘍細胞を確認しなかったこと,及び症状が急性に進行していることから非腫瘍性疾患の可能性を考え,ステロイドパルス療法を施行したところ速やかに回復し,ほぼ障害を残さずに退院した.その後初発から9か月後に他の部位に再発し,臨床的に多発性硬化症の診断に至った.脳幹部の組織生検は容易ではないが,適切な治療法選択の上で極めて重要な役割を果たした.
著者
岡崎 貴裕 前田 聡彦 井上 誠 北薗 貴子 柴田 朋彦 尾崎 承一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.124-128, 2009 (Released:2009-04-30)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

移植後に発症する慢性移植片対宿主病の発現病態としては稀とされる多発性筋炎を経験した.症例は55歳,女性.T細胞リンパ腫にて実姉よりHLA一致,血液型一致の同種骨髄移植をうけた約2年後に,脱力感を主訴に近医を受診するも改善せず当院を紹介され入院した.筋力低下,筋痛,CPK値,炎症所見,筋電図より多発性筋炎と診断されたが,徒手筋力テストでの筋力低下は近位筋のみならず遠位にも及んでおり,定型的多発性筋炎の障害様式との相違がみられた.筋生検では筋萎縮や大小不同が見られたが細胞浸潤に極めて乏しい所見が得られた.治療は,プレドニゾロン(1 mg/kg/日)を開始するとともに速やかに自覚症状およびCPK値の改善を認め,原疾患である慢性移植片対宿主病に対してミゾリビン150 mg/日を追加投与することによりステロイドの漸減も可能となった.過去の報告では筋組織所見で強い細胞浸潤を認めるとした報告が多いが,慢性移植片対宿主病の病勢制御のための長期間の免疫抑制剤投与や,ステロイド治療が奏効している結果を考慮すると,細胞浸潤の有無は必ずしも筋炎の診断に決定的な根拠とはなり得ないことが示唆された.
著者
赤澤 晃 勝沼 俊雄 飯倉 洋治
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.322-328, 1988-08-31 (Released:2009-01-22)
参考文献数
10

トランスファー・ファクターの抗原特異的細胞性免疫能の転嫁作用と非特異的免疫賦活作用については多くの臨床報告があり,その有効性が認められている.その中で,気管支喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患にも有効例があることがわかってきた.今回われわれは,食餌アレルギーの関与する小児アトピー性皮膚炎児9名と反復性難治性口内炎患児2名に経口的にトランスファー・ファクターを投与したところ,アトピー性皮膚炎例では皮膚症状の著明な改善,特異的IgG抗体の低下,血清IgG, IgAグロブリンの増加と血清IgE-RISTの低下がみられた.反復性口内炎例では,投与開始後臨床症状の速やかな改善が認められた.厳密な対照をおいた検討成績ではないので確言はできないが,このことからトランスファー・ファクターが腸管リンパ組織系や口腔粘膜の炎症部位に直接作用する可能性を示唆するものと考えられた.
著者
木澤 敏毅 加藤 辰輔 重富 浩子 田中 藤樹 飯田 一樹 永井 和重 五十嵐 敬太 山本 雅樹 畠山 直樹 鈴木 信寛 堤 裕幸
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.150-155, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
13

約6カ月間にわたり移動性関節痛・骨痛,皮膚紅斑を呈し,血液検査ではCRP,赤沈値の持続的な上昇,軽度の貧血を認めた1女児例を経験した.当初は若年性特発性関節炎,慢性再発性多発骨髄炎を疑ったが,約6カ月後にLDH 573 U/mLと上昇し,また末梢血中に芽球が出現したため骨髄穿刺を行い急性リンパ性白血病と診断した.骨痛,関節痛を主訴とする慢性炎症性疾患には感染性骨髄炎,リウマチ性疾患,血液・悪性腫瘍,骨の自己炎症症候群(とくに慢性再発性多発骨髄炎)などが鑑別に挙げられるが,炎症所見の他には血液検査上の異常所見に乏しく,画像検査によっても一般小児科医にとって,診断の確定が困難な例が存在する.とくに小児白血病においては,画像検査を行い,特異な所見の検討を行った報告は少なく,また非特異的な画像所見を呈することも多く,鑑別に苦慮した.しかし今回の症例を通じて,小児放射線専門医によれば,早期の画像から白血病特有の所見が読み取れるとされ,画像を専門的に読影することが重要と思われた.また,小児の画像検査の蓄積により骨痛,関節痛を伴う急性リンパ性白血病の病態解明や早期診断につながることが期待された.
著者
本庶 佑
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.252, 2017 (Released:2017-11-23)

PD-1は,1992年に京大医学部の石田らによる偶然に発見された分子である.その後の1998年までの遺伝子欠失マウスを使った研究で免疫応答にブレーキをかける受容体であることが証明された.2000年には京大とGenetic Instituteとの共同研究でPD-1のリガンドも発見された.2002年岩井らはマウスモデルでPD-1とリガンドの会合を阻害し,免疫活性を増強することによって抗がん能力が著しく高まることを発見した.この知見をもとにヒト型PD-1抗体を作り,がん研究に応用することを提案し,2006年ヒト型PD-1抗体の作製が行われた.その後治験が進みPD-1抗体はメラノーマの治療薬として2014年6月にPMDAによって承認された.現在,世界中では200件近くのPD-1抗体による各種がん腫治療への治験が進行中であり,有効性が確認されつつある.PD-1が発見されてから20年以上の歳月を経て今日,がん治療のペニシリンとも称される新しい画期的な治療法として結実した.ペニシリンに続いて発見された多くの抗生物質により人類が感染症の脅威から解放されたように,今後はがん免疫療法が改良され,がんによる死を恐れなくてなくても済むようになるだろう.
著者
深沢 潔 安藤 弘 中山 孝一 高橋 比路美 新保 敏和
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.31-37, 1987-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
35

NK細胞は生体内で腫瘍細胞やウイルス感染細胞などの破壊に働くと考えられている.したがって, NK細胞も他のリンパ球サブセットと同様に生体内の免疫監視機構の制御を受けていると推察されるので, NK細胞への抑制因子の検討を行った.白血球混合培養(MLC, one-way)の上清中には種々のリンパ球活性に対する抑制因子が含まれているが,培養72時間のMLC上清にNK抑制活性が検出された.この抑制はMLCの反応細胞とautologousなNK細胞に対して,またはallogeneicなNK細胞に対しても同等な活性であった.泌尿器系癌患者から得たMLC上清を健康成人のNK細胞に加えてその影響をみたところ,前立腺癌(M0)と腎癌(M0, M1)でそのNK抑制活性が低下していた.一方,健康成人由来のMLC上清に対する癌患者NK細胞の感受性は膀胱癌,前立腺癌,腎癌のほぼ全例において欠如していた.
著者
近澤 宏明 西谷 皓次 橋本 浩三
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.57-63, 1998-02-28 (Released:2009-02-13)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

症例は46歳女性. 31歳時頃から両眼の異物感,口腔内乾燥感,レイノー現象,多発性関節痛を自覚していた.最近,起立・歩行時のふらつき,発汗異常,顔面や頚部に発作性の紅潮などが出現するため,精査加療目的にて入院となった.入院時検査にて,乾燥性角結膜炎,耳下腺造影にて末梢導管の消失,小唾液腺生検で導管周囲に単核細胞浸潤を認め,抗SS-A抗体が陽性であり,原発性シェーグレン症候群(SjS)と診断した.同時に,感覚優位の多発性単神経炎型の末梢神経障害,起立性低血圧, Adie瞳孔,発汗テストで脊髄髄節に一致する分節性の無汗領域を認めた.本例はSjSに末梢・自律神経障害を伴った稀な一例と考えられた.
著者
長谷川 明洋 中山 俊憲
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.189-195, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
11
被引用文献数
7 7

CD69分子はc-type lectinファミリーに属するII型の膜分子で,早期活性化マーカー分子としてリンパ球の活性化の指標として広く用いられている.機能の詳細はこれまであまり明らかにされていないが,炎症局所に浸潤する炎症細胞のほとんどがCD69を発現していることから,さまざまな炎症反応の誘導・維持に重要な役割を果たしていると考えられる.著者らはこれまでに生体内でのCD69分子の役割を解析する目的でCD69ノックアウトマウスを作製し,疾患との関わりの解析を進めてきた.その結果,CD69ノックアウトマウスでは関節炎やアレルギー性喘息が起きないことを見出した.アレルギー性喘息は抗CD69抗体の投与でも抑制され,治療効果が認められた.CD69分子はその他の炎症性疾患の発症にも関与している可能性が高く,難治性の炎症性疾患に対する新規治療法の開発において新しいターゲット分子になる可能性が示唆された.
著者
野間 剛
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.262-271, 2010 (Released:2010-10-31)
参考文献数
69
被引用文献数
11 11

炎症性疾患・アレルギー疾患の発症・病態形成には,組織に遊走する炎症細胞や組織居住細胞に作用する活性化T細胞が大きな役割をもつ.T細胞が産生するサイトカインはカスケードを形成しTh細胞パラダイムを展開する.   Th1, Th2細胞は相互に制御してバランスをとり生命の恒常性を保つが,Th2細胞優位のインバランスはマスト細胞による即時型アレルギー反応を誘導し,好酸球を中心とするアレルギー性炎症,気道過敏性,リモデリングを促進する.Th1細胞は遅延型過敏反応など,細胞性免疫反応を誘導する.また,アポトーシスを促進し上皮細胞の剥離やアトピー性皮膚炎の海綿状形成を誘導する.Th17細胞は,IL-17, IL-17F, IL-21, IL-22, IL-6, TNF-αを分泌して,Th1, Th2細胞とは対照的に,組織の炎症に関わり,自己免疫疾患など炎症性疾患を誘導する.これらの反応は,好中球増多を招来し,病原菌防御に効果がある.アレルギー疾患では気道炎症でみられる好中球浸潤に伴う炎症に関わる.一方,アレルギーのリモデリング進行には有利に働き,また,気管支肺胞液中のIL-5や気管支の好酸球増多を減弱し気道過敏性を抑制する.Treg細胞は,TGF-β, IL-10を分泌し樹状細胞やリンパ球系細胞を制御する.Th1, Th2, Th17, Treg細胞の分化経路には正の増幅機能が存在し,また,相互の調節機構が存在する.持続的なバランスにより疾患の発症・病態が決定される.
著者
戸田 佳孝 竹村 清介 森本 忠信 小川 亮恵
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.44-51, 1997-02-28 (Released:2009-02-13)
参考文献数
18
被引用文献数
3 4

慢性関節リウマチ(以下, RA)患者に対する経口II型コラーゲン(以下, C II)の効果をHLA-DRB 1*0405遺伝子を有する群(0405群)とそれを有しない群(非0405群)に分類して評価した. 38例のRA患者を1日32mgのC IIを含む鶏軟骨スープを3カ月間投与した群(C II群)と,プラセボスープを投与した群(placebo群)に分類した. 0405/C II群は11例, 0405/placebo群は11例,非0405/C II群は9例,非0405/placebo群は9例であった. C II群では, placebo群に比べて,有意に抗ヒトC II IgG抗体値が低下し(p<0.0001),抗ヒトC II IgA抗体値が有意に増加した(p=0.003).腫脹および疼痛関節数の変化は, 0405/C II群と0405/placebo群間(腫脹関節数p=0.03,疼痛p=0.03), 0405/C II群と非0405群/C II群間(腫脹p=0.006,疼痛p=0.01)に有意差があっため, HLA-DRB 1*0405遺伝子陽性の症例では経口C II療法が有効であると結論した.