著者
宮崎 雄生 新野 正明 深澤 俊行 高橋 恵理 野中 隆行 越智 龍太郎 南 尚哉 藤木 直人 土井 静樹 菊地 誠志
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.357a, 2014 (Released:2014-10-07)

【目的】Sirtuin-1(SIRT1)はヒストン脱アセチル酵素であり,神経保護や脂質代謝などへの関与が報告されている.本研究ではヒト単球のIL-10制御におけるSIRT1の役割を検討した.【方法】健常者末梢血から精製した単球を用いLPSまたはIFNβで刺激後にSIRT1遺伝子発現を定量した.健常者,無治療multiple sclerosis(MS)患者,IFNβ治療MS患者の単球におけるSIRT1発現を定量した.単球のIL-10産生に対するresveratrol(SIRT1活性化剤),EX527(同抑制剤)の作用を検討した.【結果】単球におけるSIRT1発現はLPSで低下した一方,IFNβで上昇した.単球におけるSIRT1発現に健常者と無治療MS患者間で差は確認できなかったが,IFNβ治療患者で無治療患者より高い傾向が見られた.ResveratrolはLPS刺激に対する単球のIL-10産生を増強した.IFNβは単球からのIL-10産生を増強したが,この作用はEX527によりキャンセルされた.【結論】SIRT1は単球のIL-10制御に関与しており,IFNβによるIL-10産生増強にも関与することが示唆された.SIRT1は神経変性疾患動物モデルにおいて神経保護作用が報告されており,神経と免疫双方が関与する疾患であるMSにとって有用な治療標的であると予想される.
著者
竹田 潔
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.309-317, 2005 (Released:2005-11-05)
参考文献数
30
被引用文献数
7 8

自然免疫系においてファミリーを形成するToll-like receptor (TLR)が病原体の構成成分を特異的に認識し,免疫応答の引き金を引くことが明らかになった.11種のTLRの各メンバーがそれぞれ異なる病原体構成成分を認識し,遺伝子発現を誘導する.TLRを介したシグナル伝達経路では,TIRドメインを有するアダプター群(MyD88, TRIF, TIRAP, TRAM)が重要な役割を担っていて,この使い分けによりTLRごとに異なる遺伝始発現が誘導される.そして,TLRを介した自然免疫系の活性化は,過剰になると,慢性炎症性腸疾患の発症につながることも明らかになった.そのため,自然免疫系の活性は様々なメカニズムで負に制御されている.その分子機構の一端として核に発現するIκB分子(Bcl-3, IκBNS)がTLRを介したサイトカイン産生を選択的に抑制していることが明らかになった.
著者
西山 理 東田 有智
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.139-144, 2017 (Released:2017-07-26)
参考文献数
15
被引用文献数
1

間質性肺炎のなかで,自己免疫疾患の診断基準は満たさないものの膠原病を思わせる症状を有している例,自己抗体が陽性となる例,さらには組織学的に自己免疫疾患を疑わせる所見を呈する例が存在する.こういった症例に対する名称がいくつか提案されてきた.Kinderらが提唱したUndifferentiated connective tissue disease(UCTD),Fischerらが提唱したLung dominant connective tissue disease(LD-CTD),Vijらが提唱したAutoimmune-featured interstitial lung disease(AIF-ILD)がそれにあたるが,これらを整理する意味で2015年にInterstitial pneumonia with autoimmune features(IPAF)という概念が報告された.自己免疫疾患の要素を有する間質性肺炎に関する調査や研究は今後IPAFの診断基準に基づいて行われていくと思われる.IPAFの基準で間質性肺炎を評価した報告はまだ少ないが,間質性肺炎の中でのIPAFの頻度は7.3%~34.1%と報告によって様々で,予後については未だ結論は出ていない.IPAFを一定の疾患群とするのか,または特発性間質性肺炎の範疇に含めておくのか,予後,自己免疫疾患の発症率,治療反応性などは未だ明らかになっておらず,今後前向きのコホート等で明らかにする必要があろう.さらに今後は,間質性肺炎診断時のMultidisciplinary discussion(MDD)への膠原病内科医の参画も望まれる.
著者
鈴木 厚 大曾根 康夫 美田 誠二 小花 光夫 松岡 康夫 入交 昭一郎
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.21-29, 1997-02-28 (Released:2009-02-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

膠原病,感染症,悪性腫瘍など様々な疾患が不明熱の原因として知られているが,不明熱の中には最後まで診断が不明のままである症例を経験することはけっして希ではない.不明熱における診断不明例,つまり様々な検査をおこなっても最終診断がつかない症例は不明熱患者全体の7~35%を占めるとされ,過去30年の医学の進歩にも関わらず減少していない.今回,われわれは1991年9月より3年間に当院内科に入院した4596例を調査し,ステロイド剤が著効を示した診断不明の不明熱例について検討した.まず4596例の中でPetersdorfの不明熱の定義を満たした症例は25例(0.5%)であった.この25例の中には膠原病6例,感染症5例,悪性新生物2例,その他2例が含まれており,最終診断不明例は10例であった. 10例にはウイルス感染を思わせる自然寛解例が3例,原因不明のまま死亡した例が1例含まれており,残り6例が診断に難渋しながら平均30.8病日目にステロイド剤を投与し発熱の改善を認めた診断不明の不明熱例(steroid responsive undiagnosed fever of unknown origin: SR-FUO)であった. SR-FUOは高熱とともに重症感を認めること,著明な炎症所見を示し各種検査にても原病不明であること,成人発症スチル病やリウマチ性多発筋痛症など既知の疾患を示唆する所見がないこと,発症年齢が58歳から77歳(平均67歳)と高齢であること,抗生剤,抗結核剤,抗真菌剤の投与にて改善がみられないこと,臨床的に非ステロイド性消炎鎮痛剤が無効であること,薬剤によるものを否定し得た症例であること,ステロイド剤の投与により自他覚所見の著明な改善を認めること,ステロイド剤の減量,中止により再発を認めず比較的予後良好であること,などの特徴を有していた.不明熱の診断には医師の診断能力に差があること,安易なステロイド剤の投与は診断をさらに困難にしてしまうこと,感染症が原因である場合症状の悪化をきたすことなどよりステロイド剤の投与は慎重でなければいけない.しかし,不明熱の診断および治療に難渋する症例の中には,既知の疾患では説明のつかないステロイドが著効を呈する疾患群SR-FUOがあると考えられた.
著者
田中 康博 瀬尾 龍太郎 永井 雄也 森 美奈子 戸上 勝仁 藤田 晴之 倉田 雅之 松下 章子 前田 明則 永井 謙一 小谷 宏行 高橋 隆幸
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.71-75, 2008 (Released:2008-03-01)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

症例は58歳の女性.31歳より全身性エリテマトーデス(SLE)および抗リン脂質抗体症候群(APS)のためprednisoloneとazathioprineを内服しSLEとAPSは安定していた.2004年10月,発熱を伴う感冒様症状が出現したので近医に入院.抗生剤は無効で血小板減少が出現したので,SLEの増悪との診断のもとステロイドパルス療法が施行された.しかし,汎血球減少へと進展したので当院へ転院となった.骨髄穿刺で血球貪食像が認められ,胸部CTで肺門部を中心とするスリガラス影が認められた.同日のcytomegalovirus (CMV) antigenemiaが陽性であった.以上より,CMV関連血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome ; HPS)およびCMV肺炎と診断.azathioprineを中止しprednisoloneを減量してgancyclovirを開始.これにより解熱し汎血球減少は改善した.現在,外来通院中でCMV感染の再発を認めていない.SLEなどの膠原病にCMV関連HPSを併発することは稀であるため報告する.
著者
針谷 正祥
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.379-388, 2004 (Released:2005-02-22)
参考文献数
48
被引用文献数
1

CD40およびCD154はそれぞれTNF受容体スーパーファミリー,TNFスーパーファミリーに属する分子であり,多くの研究結果が自己免疫疾患の病態形成におけるCD40-CD154相互作用の重要性を示している.CD154は主に活性化T細胞に発現し,B細胞のみならず幅広い細胞に発現するCD40と結合して,自己免疫疾患における抗原提示・トレランス・抗体産生・組織障害などに関与する可能性が示されている.膠原病の中では,特に全身性エリテマトーデス(SLE)あるいは関節リウマチ(RA)におけるCD40-CD154相互作用の研究が最も精力的に進められてきた.本稿では,SLE, RA,炎症性筋疾患,強皮症,抗リン脂質抗体症候群の病態形成におけるCD40-CD154相互作用の関与について基礎・臨床の両面からこれまでの報告を俯瞰すると共に,CD40-CD154阻害療法の臨床試験結果についても取り上げた.モデル動物でのCD40-CD154阻害療法は優れた治療効果を示し,新薬開発の標的分子として注目を集めている.しかし,現時点では有効性と安全性を両立するCD40-CD154阻害薬はいまだ開発されておらず,今後の研究の進展が強く期待される.
著者
増井 友里 浅野 善英 柴田 彩 門野 岳史 佐藤 伸一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.340a, 2012 (Released:2013-02-28)

全身性強皮症は皮膚および内臓諸臓器の線維化と血管障害を特徴とする全身性の自己免疫疾患である.その発症機序はいまだ不明であるが,炎症・自己免疫・血管障害など様々な要因により線維芽細胞が恒常的に活性化され,結果的に細胞外基質の過剰な沈着が生じると考えられている.その過程にはTGF-βをはじめとし,多くの炎症性サイトカインや成長因子が関与していることが明らかにされている.   ビスファチンは主に脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの一つで,内臓脂肪蓄積量と高度に相関し,内臓脂肪蓄積を基盤とした病態や脂肪細胞の分化・誘導に関与していると言われている.また,炎症・線維化・免疫調節への関与も報告されており,関節リウマチやベーチェット病,炎症性腸疾患などの炎症性自己免疫疾患での病態に関わることが示唆されている.   今回我々は全身性強皮症患者において血清ビスファチン濃度を測定し,臨床症状や検査データとの関連について検討を行った.さらにTHP-1細胞およびヒト皮膚線維芽細胞を用いてビスファチンが線維化の過程に及ぼす影響を検討し,全身性強皮症の線維化の病態におけるビスファチンの役割について考察した.
著者
関口 康宣 森 茂久 青木 和利 樋口 敬和 西田 淳二
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.461-466, 2007 (Released:2007-12-31)
参考文献数
13

患者は69歳の男性.1994年5月に右手関節痛が出現し関節リウマチ(以下RA)と診断され,金チオリンゴ酸ナトリウム(以下GST)が投与され関節痛は軽快した.2003年1月より多発関節痛が増悪したため,同年8月埼玉社会保険病院リウマチ膠原病内科受診となった.GSTを中止し,サラゾスルファピリジン(以下SASP)へ変更し,多発関節痛は軽快した.2005年3月より発熱,汎血球減少,肝機能障害が出現したため同科入院となった.SASPによる薬剤性の造血および肝機能障害を疑い,入院後はSASPを中止しプレドニゾロン(以下PSL)10mgへ変更した.その後も症状が継続するため骨髄検査を施行し,急性リンパ性白血病(以下ALL)(PreB, L2)と診断した.4月8日自治医科大学付属大宮医療センターへ転院となり,JALSG-ALL202-Oのプロトコールによる寛解導入療法を開始したが,嚥下困難,胆道系酵素の上昇を認めたため途中で中止した.その後完全寛解(以下CR)を確認したものの誤嚥性肺炎を度々繰り返し,胃癌の併発,経口摂取不能など全身状態不良のため化学療法の継続は不可能と判断し,対症療法のみ行った.9月28日埼玉社会保険病院リウマチ膠原病内科へ再転院となった.ALLはCRで,無治療にてRAの活動性も認めなかったが,肺炎のため2006年8月1日死亡した.
著者
保田 晋助
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.373-378, 2004 (Released:2005-02-22)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

抗リン脂質抗体症候群(Antiphospholipid syndrome ; APS)は,抗リン脂質抗体(Antiphospholipid antibodies ; aPL)が検出され,動静脈血栓症または妊娠合併症を生ずる疾患である.aPL の対応抗原として,β2-グリコプロテインI(β2-GPI)やプロトロンビンが挙げられ,特に抗β2-GPI抗体は病原性を有する自己抗体として研究されてきた.抗β2-GPI抗体が血栓症を引き起こす機序としては,1)自己抗体の存在によりβ2-GPIの陰性荷電リン脂質への結合性が高まり,β2-GPIのもつプロテインCに対する抑制作用が強調されること,2)β2-GPI-LDL複合体の内皮下マクロファージによる取り込みを促進し,動脈硬化を進展させること,3)血小板のApo-Eレセプターへの結合を介して血小板の粘着能を上昇させること4)内皮細胞や単球表面に結合し,p38 MAPキナーゼの系を介して組織因子を発現,局所を過凝固に導くことなどが報告されている.また,習慣流産の機序としては,胎盤梗塞のみならず補体系の活性化が報告された.これらの病態の解明が,新しい治療に繋がることが期待される.
著者
長谷川 稔
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.23-36, 2008 (Released:2008-03-01)
参考文献数
130
被引用文献数
2 2

全身性強皮症は,皮膚や内臓臓器の過剰な細胞外基質蛋白の沈着と血管障害により特徴づけられる自己免疫疾患である.その病態はいまだ不明であるが,ほとんどの症例がレイノー現象という虚血再還流による臨床症状で発症する.繰り返すレイノー現象による血管内皮細胞障害がトリガーとなって,組織への細胞浸潤,浸潤細胞からのサイトカイン産生が生じ,組織の線維化が生じる可能性が考えられる.これらの過程において,ケモカインは白血球の浸潤,活性化とそれに引き続く浸潤細胞と線維芽細胞との相互作用などを介して,重要な役割を果たしているものと考えられる.これまでに,強皮症やそのモデルマウスにおいて多様なケモカインの発現異常や病態への関与を示唆する知見がみられるが,中でもmonocyte chemoattractant protein-1 (MCP-1/CCL2)とその受容体であるCCR2の役割が重用視されている.本総説では,これまでに報告されている各種ケモカインの強皮症において想定される役割について概説する.
著者
竹島 雄介 岩崎 由希子 岡村 僚久 藤尾 圭志 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.12-20, 2017 (Released:2017-05-23)
参考文献数
64
被引用文献数
1 1

細胞の代謝制御の重要性は,癌細胞においてエネルギー産生を解糖系に依存する現象がWarburg効果として報告されたことに始まる.近年,免疫担当細胞における代謝の制御が細胞の分化や機能において鍵となるという知見が蓄積されつつあり,免疫担当細胞が休止状態から活性化状態に入る際には,酸化的リン酸化に依っていたエネルギー産生から,解糖系に依存したエネルギー産生へと大きな代謝状態の変化を要することが明らかとなっている.特にT細胞においては,ナイーブT細胞からエフェクターT細胞への分化過程における代謝制御の研究がより詳細に解明されており,免疫代謝の分野では最も研究が進んだ分野となっているが,B細胞や骨髄球系の細胞においても特徴的な代謝制御が明らかにされつつある.現在,全身性エリテマトーデスを始めとする自己免疫疾患において,免疫担当細胞における代謝変調は慢性的な免疫系の活性化の結果としてばかりでなく,疾患の引き金としても極めて重要であると考えられている.本稿では,全身性エリテマトーデスにおける代謝制御について,T細胞およびB細胞を中心に概説し,病態と如何に関わっているか,更には将来的な治療ターゲットの可能性について考察する.
著者
筋野 智久 金井 隆典
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.399-411, 2012 (Released:2012-10-31)
参考文献数
62
被引用文献数
1

潰瘍性大腸炎およびクローン病に代表される炎症性腸疾患は,近年までCD4+ Tリンパ球における‘Th1/Th2サイトカインバランス'仮説に基づいて疾患が考えられてきた.近年,炎症を抑制する能力を持つ制御性T細胞,Th17細胞集団が登場し,最近ではIBDやIBDモデルを含むさまざまなヒト免疫疾患および動物モデルにおいて制御性T細胞の異常やTh17細胞の増加こそが真の病因ではないかと議論が広まっている.これまで,T細胞は最終的なeffector細胞になるとほかの細胞には変化しないとされていたが,T細胞間でも環境により表現型が変わることがわかり可塑性(Plasticity)という概念が構築されつつある.腸内細菌を含めた周辺の環境によりT細胞が誘導され,それぞれT細胞同士も周囲の環境によりPhenotypeを変えていることが判明しつつある.このような状況の中,炎症性腸疾患の原因が一つの因子でなく,多因子であり,T細胞の関与も複雑であることが判明してきている.これまで得られた結果をもとに炎症性腸疾患におけるT細胞の病態への関与についてT細胞の分化を踏まえて検討する.
著者
渡辺 玲
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.505-512, 2016 (Released:2016-12-31)
参考文献数
69
被引用文献数
1 3

生体内のmemory T細胞分画に関して,近年一旦組織に移行した後循環に戻らずその組織に留まり続けるresident memory T細胞(TRM)の存在が明らかになり,研究が活発に進められている.TRMは細胞表面にCD69,CD103を発現し強いエフェクター機能を有する分画としての報告が多く,消化管,皮膚,呼吸器,生殖器上皮などバリア組織における異物侵入防御に働く他,脳神経系,腺組織,リンパ組織,肝臓,腎臓,膵臓,関節といった非バリア組織においても主にマウスモデルでその存在が報告され,慢性炎症性疾患,自己免疫疾患などにおける病態発現との関与も強く考えられるようになった.腫瘍免疫における役割も報告されつつある.本稿ではresident memory T細胞に関する現在までの知見をマウスとヒトの報告に分け,その構築,分布,疾患との関わりについて整理した.このT細胞分画の機能に関する理解を深める足がかりとしたい.
著者
伊藤 晴康 野田 健太郎 平井 健一郎 浮地 太郎 古谷 裕和 黒坂 大太郎
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.145-149, 2016
被引用文献数
20

症例は15歳の女性.20XX年8月と9月に2価Human papillomavirus(HPV)ワクチンの接種を行った.2回目の接種後から全身の疼痛,顔面の日光過敏と両側肘部に多発する紫斑を認めた.11月頃より持続する37℃台の発熱と全身倦怠が出現した.20XX+1年1月上旬には39℃以上の発熱と全身の疼痛に加えて関節痛が出現した為,精査目的に入院となった.入院後,Systemic Lupus International Collaborative Clinics(SLICC)2012の分類基準のうち,臨床的項目の頬部紅斑,光線過敏症,関節炎,リンパ球減少と免疫学的項目の抗核抗体陽性,抗ds-DNA抗体陽性,抗Sm抗体陽性を認め,SLEと分類した.その他,筋膜炎の合併を認めた.本症例を含め今までに報告されている症例を検討したところHPVワクチン摂取後にSLEを発症する症例は,自己免疫性疾患の既往歴や家族歴のある患者が多かった. また,SLEの症状は2回目の接種後に出現することが多かった.
著者
岡本 隆一 渡辺 守
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.522-527, 2016 (Released:2016-12-31)
参考文献数
36
被引用文献数
3 8

腸上皮は個体の内外を分け隔てる物理的な境界として存在するだけでなく,腸内細菌等が存在する体外の環境と免疫担当細胞等が存在する体内の環境を仲立ちし,機能的に調和を保つ重要な役割を担っている.このような腸上皮が炎症性疾患の発症・病態の形成に果たす役割の重要性が臨床・病態研究の両面において注目されている.例えば粘液を産生する機能を有する腸上皮細胞である杯細胞は潰瘍性大腸炎において「消失」することが知られているが,同細胞が粘液産生機能だけでなく多彩な免疫調節機能を有し,疾患の発症・進展を規定する重要な機能を内在していることが明らかとなっている.更に小腸に局在する腸上皮細胞であるパネート細胞は抗菌活性を有するペプチドを産生する機能が知られているが,複数のクローン病疾患感受性遺伝子により同細胞の機能・細胞死が制御されている可能性が示されている.従ってクローン病における「パネート細胞機能異常」は特定の病型において疾患発症・再燃の要因の一つとなっているものと考えられている.本稿では腸上皮の機能と炎症性腸疾患の病態に関する近年の知見について,概説したい.
著者
香月 有美子 鈴木 重明 高橋 勇人 佐藤 隆司 野川 茂 田中 耕太郎 鈴木 則宏 桑名 正隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.102-106, 2006 (Released:2006-04-30)
参考文献数
12
被引用文献数
6 6

Good症候群は胸腺腫に低γグロブリン血症を合併し,多彩な免疫不全状態を呈するまれな疾患である.我々はGood症候群に重症筋無力症(MG)を同時期に合併した症例を経験し,その免疫機能に関して評価した.症例は58才男性.四肢筋力低下,易疲労感のため受診し,抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性,胸腺腫からMGと診断.末梢血リンパ球数は正常であったが,著明な低γグロブリン血症(IgG 283 mg/dl, IgA 17 mg/dl, IgM 1 mg/dl)を認めた.拡大胸腺摘出術,副腎皮質ステロイド投与によりMGは寛解を維持しが,免疫グロブリンの定期的な補充にもかかわらず,呼吸器感染症やカンジダ症を繰り返した.経過中,副腎腫瘍,膵頭部癌と肝転移巣が判明し,細菌性肺炎により死亡した.免疫学的検討では,末梢血中のCD19+ B細胞が欠損していたが,各種マイトジェンに対するリンパ球増殖能は保たれていた.リコンビナントAChR蛋白により誘導されるT細胞増殖反応は低い抗原濃度でも観察され,MG患者に特徴的なパターンを示した.B細胞と結合する自己抗体を検出したが,本例では検出されなかった.Good症候群では免疫不全や自己免疫を含む多彩な免疫異常を呈することが示された.
著者
久野 春奈 小谷 卓矢 武内 徹 和倉 大輔 和倉 玲子 兪 明寿 槇野 茂樹 森脇 真一 花房 俊昭
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.520-525, 2012 (Released:2012-12-31)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

症例は72歳男性.2008年11月より両肩・手指の関節炎が出現.手指関節のレントゲン検査で,傍関節骨粗鬆,関節裂隙狭小化,骨末端の嚢胞性変化を認め,手指関節の造影MRI検査で,造影された滑膜の増殖と骨融解の所見を得たため関節リウマチと診断した.関節リウマチに対し,2008年12月よりMTX 4 mg/週による治療を開始し,2009年2月よりAdalimumab(ADA)40 mg/2週を導入したところ,関節炎の著明な改善を得た.以後,関節リウマチは臨床的寛解を維持していたが,2010年4月より両手掌,足趾,四肢,鼠径部に水疱と鱗屑を伴う比較的境界明瞭な紅斑が出現した.皮膚生検により乾癬様皮疹と診断し,ADAを中止したところ4ヶ月の経過で皮疹は改善した.抗TNF剤による乾癬様皮疹は稀であるが,注意するべき副作用であり,文献的考察を加え報告する.
著者
岡本 一男
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.361-366, 2017 (Released:2017-12-13)
参考文献数
19
被引用文献数
11

骨は運動器としてだけでなく,造血幹細胞や免疫前駆細胞の維持・分化増殖の場を提供する免疫組織としても重要な役割を果たす.また骨と免疫系はサイトカインや受容体などの多くの制御分子を共有しており,そのため様々な炎症疾患において骨組織に障害が波及する.その代表的な例が関節リウマチであり,Th17細胞による破骨細胞活性の亢進が関節リウマチにおける骨関節破壊の根幹を築いている.関節リウマチ研究の進展によりIL-17と骨の関係性がクローズアップされ,骨免疫学の推進力となった.さらに近年,IL-17による骨制御は予想以上に複雑であることが分かりつつある.強直性関節炎ではIL-17産生細胞が腱靭帯付着部の骨化誘導に関わり,また骨折治癒ではIL-17産生性γδT細胞が間葉系幹細胞に作用して骨再生を促す.免疫と骨の双方が絡む病態を理解するには,骨と免疫細胞の相互関係を包括して捉える視点が必要不可欠である.
著者
庄田 宏文 藤尾 圭志 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.46-50, 2012 (Released:2012-02-28)
参考文献数
15

Immunoglobulin Binding Protein (BiP)は熱ショック蛋白(HSP)70ファミリーに属するタンパク質で,生理的にはストレス応答蛋白として滑面小胞体に発現し,蛋白のfoldingを行うシャペロン蛋白である.BiPに対する自己免疫応答の報告は,関節リウマチ,全身性エリテマトーデスなどでみられ,主に血清抗BiP抗体が上昇するとの報告がある.我々のグループからは,新たにシトルリン化BiPに対する自己抗体が関節リウマチで出現することを報告した.抗シトルリン化蛋白抗体は関節リウマチの発症機序に密接な関与が推定されており,BiPに対する自己免疫応答の重要性が示唆される.また関節リウマチにおいては,BiPを認識するT細胞の報告もある.一方でBiPそのものには制御性活性があることが知られている.マウスモデルにおいてはBiPを認識するT細胞がIL-4, IL-10を産生し関節炎を抑制することや,BiPで刺激された樹状細胞は制御性活性を持つことが知られている.このようにBiPに対する免疫系の応答は多様であり,そのバランスが崩れることで自己免疫寛容が破綻することが,自己免疫疾患発症に繋がりうると考えられている.