著者
松本 功
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.365-371, 2005 (Released:2005-12-31)
参考文献数
26

関節リウマチ(RA)は世界で有病率約1%と頻度の高い自己免疫疾患であるが,病因については不明な点が多い.昨今B細胞表面抗原に対する抗体である抗CD20抗体がRAにも効果が強いことが証明され,自己抗体やB細胞の重要性が示唆されている.RAでは30年以上前よりリウマトイド因子(RF)を自己抗体のマーカーとしてとらえてきが,その病原性については明らかでなく,病勢を反映しないことも臨床上しばし見かける.抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体は多くの症例に認められ注目を集めているが,その他にも抗glucose-6-phosphate isomerase (GPI)抗体,抗カルパスタチン抗体,可溶型gp130に対する抗体,II型コラーゲンに対する抗体などがRA患者血清に同定されている.今回の総説ではRAにおける上記自己抗体の病原性と産生機構に焦点をあて,特にそれらを考える上で重要な自己反応性T細胞,免疫複合体やFcガンマ受容体(FcγR)などについて,主にヒトの解析から判明してきた最近の知見を含めて述べさせていただく.
著者
菅谷 誠
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.91-98, 2011 (Released:2011-05-31)
参考文献数
38
被引用文献数
2 2

ケモカインとその受容体は,特定の臓器や細胞集団に発現する.皮膚のリンパ腫は腫瘍細胞が皮膚という特定の臓器に限局することから,ケモカインがその病態に関与していることが考えられる.皮膚のリンパ腫の代表的な疾患である菌状息肉症・セザリー症候群において,CCL17,CCL27,CCL11,CCL26などのケモカインが病態に関与していることを,これまで我々は報告してきた.これらは皮膚病変部で発現しているだけでなく,血清中でも正常人と比べて上昇しており,病勢マーカーとして有用である.またCXCL9,CXCL10は表皮向性,CCL21はリンパ節への浸潤,CXCL12は腫瘍細胞のCD26発現低下と関係していることが知られている.さらにCXCL13は皮膚へのB細胞の浸潤,CCR3はCD30陽性リンパ増殖症との関与が考えられている.CCR4を治療のターゲットとした抗体療法が,CCR4陽性T細胞リンパ腫とアレルギー性疾患に対して開発されつつあり,今後もケモカインと受容体に関する研究よってリンパ腫の分類や病態解明,新しい治療の開発が進むことが期待される.
著者
天野 浩文
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-7, 2011 (Released:2011-03-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

全身性エリテマトーデス(SLE)をはじめとする全身性の自己免疫疾患では,IgGクラスの自己抗体の産生及び免疫複合体形成に伴う組織障害がその病態形成に重要である.IgG型Fcγレセプター(FcγR)は,IgGのFc部分を認識し,沈着する免疫複合体に対する免疫応答にとって重要な役割を担っている.さらにFcγRは,抗原と複合体を形成したIgGと結合したのち,活性型FcγRと抑制型FcγRであるFcγRIIBとがバランスを取りながら免疫応答を調節している.BXSBマウスで生じる末梢血での単球増加とともにSLE様の自己免疫疾患の発現は,これらの正と負のFcRに依存している.またヒトSLEにおいても,FcγRIIBの発現の低下がメモリーB細胞で報告され,さらに遺伝子多型とコピー数多型の関連についても多くの報告がある.今後はこれらの活性型や抑制型のFcγRをターゲットとした自己免疫疾患の新規治療の開発が望まれる.
著者
中村 雅一 千原 典夫 山村 隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.277, 2014 (Released:2014-10-07)

自己免疫疾患におけるプラズマブラスト(PB)は自己抗体,あるいはサイトカイン産生により病態形成に寄与すると考えられる.実際に,全身性エリテマトーデスなどいくつかの自己免疫疾患では,末梢血PBの増減と病勢との関連が報告されている.また,PBはCD20の発現を欠くためRituximabの標的外であり,関節リウマチや特発性血栓性紫斑病などにおける同薬抵抗性例の存在は,自己免疫疾患におけるB細胞除去治療の標的としてのPBの重要性を示唆する.  私達は,中枢神経系の自己免疫疾患である視神経脊髄炎(NMO),及び多発性硬化症(MS)の臨床検体を用いてPBと病態との関連を検討してきた.NMOでは,CD138+ PBがCXCR3介在性に中枢神経系に浸潤し,IL-6依存性の生存,及び自己抗体産生により病態形成に寄与することを明らかにするとともに,Tocilizumab治療の有効性を確認した.また,古くから自己抗体介在性亜群の存在が指摘されるMSにおいても,一部の患者で末梢血IL-6依存性PBの増加を認め,これらの患者は既存治療抵抗性であることを見出した.従って,MSにおいてもPBは有力な治療標的になる可能性があり,MSにおけるPB研究は,これまでのランダム化比較試験結果に基づく画一的な治療薬選択から病態に応じたテーラーメイド治療への発展の契機となることが期待される.
著者
日高 利彦 針谷 正祥 鈴木 王洋 石塚 俊晶 原 まさ子 川越 光博 中村 治雄
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.203-210, 1991-04-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
22

症例: 27歳,女性.昭和63年9月,紫斑,多関節痛,咳嗽が出現した.平成元年3月症状増悪し,当科に入院となった.入院時,低酸素血症,顕微鏡的血尿,低色素性貧血,高γ-グロブリン血症,低補体価,免疫複合体高値,胸部X線上,両下肺野の網状影を示した.肺機能検査にて閉塞性換気障害,肺拡散能力障害,腎生検にて糸球体への補体,免疫グロブリンの沈着を認めた.また,皮膚生検にてleukocytoclastic vasculitisの所見を得た.過敏性血管炎と診断し,プレドニゾロン60mg/dayの投与を開始したが,肺出血を合併したため,急速な免疫複合体除去を目的として免疫吸着療法を行った.その後,血中免疫複合体の低下と諸症状の改善を認めた.本症のような,免疫複合体高値かつ多臓器障害を伴う過敏性血管炎に対し,免疫吸着療法は有効な補助療法と考えられた.
著者
川名 敬
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.251, 2015

子宮頸癌は30歳代に罹患ピークがあり,年間約7000人が発症し,約3000人が死亡する癌である.ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因であることは周知であり,HPVを標的とした癌免疫療法が期待されてきた.20年以上の開発の歴史の中で製剤化されたものはない.我々は,粘膜免疫を誘導する免疫療法を開発し,子宮頸癌前癌病変(CIN3)を対象とした臨床試験を実施した.HPV癌蛋白質E7を表出した乳酸菌をCIN3患者に経口投与し,HPV特異的細胞性免疫を腸管粘膜に誘導し,腸管粘膜由来のintegrin beta7陽性リンパ球を子宮頸部病変に見出した.そのうち,HPVE7特異的IFNgamma産生リンパ球の子宮頸部粘膜の集積と臨床的病変退縮は相関した.この臨床試験のデータをもとに,E7表出乳酸菌を改良し,現在第二世代乳酸菌ワクチンを製剤化している.一方,integrin beta7陽性リンパ球が子宮頸部粘膜上皮にホーミングし,かつ集積することがCIN3病変を排除することに寄与することを見出したので,細胞療法として,これらの細胞に山中因子を導入するT-iPS技術を応用することをめざしている.本講演では,これまでの粘膜免疫を介した新しい免疫療法の臨床成果と今後の新技術(特に再生医療)との複合について紹介したい.
著者
久松 理一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.246, 2015

ヒトの腸内には100種類以上,100兆個以上といわれる腸内細菌が存在し,絶妙なバランス(synbiosis)を保ちながら共存している.衛生仮説を裏付けるように日本でも社会環境の変化とともにIBD患者が急増している.IBDの疾患感受性遺伝子は欧米人を中心にすでに100以上同定されているが,人種によって差があることもわかっており日本人では関与が確認されたものは比較して少ない.日本人における戦後のIBD患者の急増を疾患感受性遺伝子で説明することはできず,環境因子の変化がもたらした腸内細菌叢のdysbiosisが患者急増の原因として注目されている.宿主側であるIBD患者の腸管免疫細胞では腸内細菌への免疫応答が過剰になっており,特にクローン病においては腸管マクロファージの腸内細菌刺激に対する過剰なTNFα,IL-23産生が病態に関与していることが明らかとなっている.いっぽう,腸内細菌叢側の因子としてIBD患者ではdysbiosisが認められること,特に潰瘍性大腸炎患者においてはTreg誘導能をもつClostridium cluster XIVaが減少していることも明らかとなっている.宿主側の過剰な応答を制御する治療としては抗TNFα抗体製剤をはじめとする分子標的治療の開発が進んでおり,いっぽう腸内細菌のdysbiosisをも根本から是正するというストラテジーとしてfecal microbiota transplantation(FMT)の試みが注目されている.
著者
岩田 慈 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.398-402, 2015 (Released:2016-01-04)
参考文献数
25
被引用文献数
1

自己免疫疾患病態においてB細胞は病態形成に極めて重要な役割を担うが,その機能発現にはT細胞との相互作用が極めて重要である.著者らは,ヒト末梢血B細胞を用いたin vitro実験により,BCR/CD40/TLR/サイトカイン(IL-4, IL-21)刺激は,Syk, Btk, JAKなどのチロシンキナーゼを介したシグナルの活性化により,サイトカイン産生,分化誘導・クラススイッチに重要なgene network,抗体産生などを多様に制御していることを明らかにした.またRA,SLE患者末梢血B細胞のSyk, Btkのリン酸化は,健常人に比し有意に亢進しており,特にRA患者においては,ACPA強陽性例において有意に亢進していた.T細胞選択的共刺激調節剤,CTLA-Igアバタセプトの投与により,RA患者末梢血CD4陽性T細胞中のTfhの割合は有意に減少し,さらにB細胞のSykのリン酸化も有意に抑制された.これらの結果より,B細胞,B-T細胞の相互作用を標的とした生物学的製剤,さらにSyk, Btk, JAKなどのチロシンキナーゼを標的とした阻害剤は自己免疫疾患の制御に有用である可能性が示唆された.本編では,RAやSLEを中心に,B細胞,B-T細胞相互作用を標的とした生物学的製剤やSyk, Btk, JAK阻害剤の最近の知見についても概説する.
著者
考藤 達哉 榊原 充 竹原 徹郎
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.301, 2013

&emsp;樹状細胞(DC)を用いた癌ワクチン療法は消化器癌でも効果が期待されているが,既報の臨床効果は充分でない.これはDCの誘導法が検証されておらず,その抗腫瘍活性が低いことが一因である.そこで我々は遊走能・NK活性能・抗原特異的CTL誘導能に優れた新規DC(OPA-DC)を開発し,有効性と安全性の評価を目的とする大腸癌に対するOPA-DCワクチンの臨床試験を行った.<br> 【方法】CEA陽性かつHLA-A2402陽性Stage-IV大腸癌患者10例を対象とした.単球をIL4/GMCSF存在下で3日間培養した後,OK432,PGE1,IFN&alpha;で刺激してOPA-DCを得た.HLA-A24拘束性CEAペプチドを抗原として添加した.これを計4回鼠径部リンパ節近傍に皮下注射し,臨床効果と免疫学的効果を評価した.<br> 【結果】10例中2例は原疾患悪化で脱落したが,投与完遂8例では重度の有害事象は認められなかった.8例中6例でNK細胞の頻度上昇を認めた.またNK細胞傷害活性の上昇を認めた2例でCEA抑制効果が得られた.うち1例でRECIST基準でのSDが得られ,同症例ではCEA特異的CTL頻度が上昇した.しかし誘導されたCTLは,大半がセントラルメモリー細胞(Tcm)であった.有効例では開始前の転移巣が他に比して小さかった.<br> 【結論】OPA-DCは安全に投与可能である.NK細胞刺激能が高く,CEA抑制や腫瘍抑制効果に寄与したと考えられる.一方,誘導されたCTLはエフェクター作用の低いTcmであり,これが充分な臨床効果が得られない一因と考えられた.更に臨床効果を高めるためには,早い段階での投与や免疫抑制因子の制御などの工夫が必要と考えられた.<br>
著者
尾崎 承一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.696-698, 1994-12-31 (Released:2009-02-13)
参考文献数
7
著者
赤真 秀人
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.464-475, 2011 (Released:2011-12-31)
参考文献数
85
被引用文献数
1 2

Henchが関節リウマチ(RA)患者に初めてステロイド(コルチゾン)を試用したのは1948年であった.諸刃の剣であるステロイドの歴史を繙くと,21世紀のリウマチ医も改めて学ぶべき点が少なくない.本稿では基礎研究からは,脂肪組織などの細胞内でコルチゾン(不活性型)からコルチゾール(活性型)への変換を促進する11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 1について簡潔に概説する.さらにステロイドのnon-genomic作用機構とメチルプレドニゾロンパルス療法との関係も推察する.臨床面では,わが国の大規模コホート研究と生物学的製剤の全例調査で得られる実地臨床データを利用して,ステロイドの使用実態を紹介する.近年,日本でも各種生物学的製剤が続々と登場している.ステロイド併用率・投与量の変遷を追跡すること,RA低用量ステロイド療法におけるeffectivenessの詳細を明確化すること,などは今後の課題といえる.いくつかの用語の定義や解説も加え,ステロイドに関する話題を提供する.
著者
水品 研之介 小倉 剛久 亀田 秀人
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.328b, 2015 (Released:2015-10-25)

関節リウマチ(RA)の治療にメソトレキセート(MTX),生物学的製剤が導入されている中で生じるニューモシスチス肺炎(PCP)は,急激な経過をとり重症の呼吸不全を呈することが知られている.RAのような,非ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症例で生じるPCPでの肺障害は主に宿主の免疫応答によって生じることが知られている.サラゾスルファピリジン(SASP)はRAの治療に用いられる薬剤だが,非HIVモデルのマウスのPCPにおいて,SASPの投与が,肺における免疫応答を減弱させたり,マクロファージの貪食を促進させ,PCPの重症度を改善させた報告がある.しかし,実臨床の現場でSASPとPCPの発症について検討された報告は未だに無い.そこで,MTX内服中のRA患者がSASPを内服することにより,PCPの発症を抑制できるかどうかを検討した.【方法】対象は2005年1月から2013年10月までに当院にて加療されたRA患者とした.MTXを内服している対象患者合計210人が抽出され,SASP併用のない群と,SASP併用のある群に分け,両群間においてPCP発症率に差があるか統計学的に検討した.【結果】SASP(−)群では149例中10例にPCPの発症が認められたのに対し,SASP(+)群でのPCP発症はなく,両群間には有意な差が認められた(P = 0.0386).【結論】SASPの内服はRA患者においてPCP発症抑制効果があることが示唆された.今後,更なる大きなコホートやRCTによる検証が望まれる.
著者
楠原 浩一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.401-407, 2011 (Released:2011-10-31)
参考文献数
28
被引用文献数
3 3

PFAPA症候群(periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and adenitis syndrome)は,アフタ性口内炎,咽頭炎/扁桃炎,頸部リンパ節炎を主な随伴症状とする3~6日程度の発熱発作を比較的規則的に繰り返すことを特徴とする,非遺伝性の自己炎症疾患である.わが国では周期性発熱症候群の中で最も高頻度であると考えられている.本症には明らかな遺伝性はみとめられず,原因となる遺伝子も同定されていないが,何らかの遺伝的要因が発症に関与している可能性がある.鑑別診断として遺伝性周期性発熱症候群と周期性好中球減少症が重要である.病因はいまだ不明であるが,最近の研究結果から,環境因子により補体系とIL-1β/IL-18の活性化が誘発されて,同時にTh1ケモカインの誘導とそれに引き続く活性化T細胞の末梢組織への集積がおこっていることが推定されている.また,IP-10/CXCL10は他の周期性発熱症候群との鑑別に有用なバイオマーカーである可能性がある.治療法はまだ確立していないが,これまで不明であった病因,病態の解明が進んでおり,それに基づいて治療法の見直しや新規治療法の開発が進められていくものと考えられる.
著者
川村 肇 武田 昭 権田 信之 隅谷 護人 押味 和夫 狩野 庄吾 高久 史麿 酒井 秀明
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.159-165, 1980
被引用文献数
1

食道狭窄を合併し, 10年の長い経過後に腎症状を呈したWegener肉芽腫症の1例.<br>39才の女性. 10年の経過中,関節痛,紅斑,遊走性肺陰影,鼻汁,口咽頭びらん,鞍鼻,嚥下困難が出現し,第7頸椎の高さに限局性食道狭窄を認めた.入院中尿蛋白・顆粒円柱出現と腎機能低下がみられ, cyclophosphamide大量投与により軽快した.<br>本例の食道狭窄は, Wegener肉芽腫症の活動期に発症しており,他の誘因もないのでWegener肉芽腫症によるものと考えられる. Wegener肉芽腫症の食道狭窄合併例の報告はないが,食道に円周性びらんを呈し,組織学的に血管炎を認めた剖検報告例があり,本症も血管炎によるびらん形成後の瘢痕化による食道狭窄と考えられる.<br>また本例は10年間限局型Wegener肉芽腫症として経過した後でも古典的Wegener肉芽腫症にみられるような糸球体腎炎を呈する可能性があることを示唆している.
著者
中田 光 竹内 志穂 橋本 淳史
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.277b, 2017 (Released:2017-11-25)

前世紀末,我々は,特発性肺胞蛋白症の血液及び肺に大量のGM-CSF自己抗体が存在することを発見した(J. Exp. Med, 1999).GM-CSFあるいは受容体欠損マウスが同症を発症することから,同抗体が本症の病因であると唱えた(N. Engl. J. Med, 2003).その後,米国で患者自己抗体をサルに投与した疾患モデルができ,仮説が証明された.その後の検討で,本GM-CSF自己抗体は,GM-CSFに対して非常に強い親和性をもつこと,また,エピトープはGM-CSF分子の複数箇所にまたがり,ポリクローナル抗体であることが分かった.この抗体の多様性の起源として,1)複数のgermline alleleをもつnaiive B cellに由来するという考え方と,2)リンパ濾胞における体細胞超変異に由来するという考え方がある.そのどちらが正しいのかを明らかにするため,自己抗体陽性B細胞の軽鎖/重鎖可変部配列を次世代シークエンスと情報処理技術により大規模解析した.これにより,本症の発症機序解明に寄与したい.
著者
山下 尚志 高橋 岳浩 遠山 哲夫 谷口 隆志 吉崎 歩 Trojanowska Maria 佐藤 伸一 浅野 善英 赤股 要 宮川 卓也 平林 恵 中村 洸樹 三浦 俊介 三枝 良輔 市村 洋平
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.381b, 2016

<p>  全身性強皮症は免疫異常,血管障害,線維化を主要3病態とする原因不明の膠原病である.本症の病態理解・治療開発が遅れている理由の一つとして,その病態を忠実に再現した動物モデルが存在しなかったことが挙げられるが,最近我々は転写因子Fli1の恒常的発現低下により線維芽細胞,血管内皮細胞,マクロファージにおいて強皮症特有の形質が誘導できることを示し,さらに血管内皮細胞特異的<i>Fli1</i>欠失(<i>Fli1</i> ECKO)マウスでは強皮症の血管障害に特徴的な血管の構造異常と機能異常が再現できることを明らかにした.強皮症の血管障害に対しては肺動脈性肺高血圧症治療薬が有用であり,特にボセンタン(エンドセリン受容体拮抗薬)は皮膚潰瘍の新規発症を予防する効果が2つの良質な臨床試験により証明されている.また,明確なエビデンスはないが,bFGF製剤は強皮症に伴う難治性皮膚潰瘍の治療に有用であり,実臨床において広く使用されている.しかしながら,これらの薬剤が強皮症の血管障害に及ぼす影響とその分子メカニズムは未だ不明な点が多い.そこで今回我々は,<i>Fli1</i> ECKOマウスの創傷治癒異常の分子メカニズム,およびボセンタンとbFGFがその異常に及ぼす影響について検討した.一連の研究結果により,<i>Fli1</i> ECKOマウスにおける創傷治癒異常の分子メカニズム,およびボセンタンとbFGFがFli1欠失血管内皮細胞の動態に及ぼす影響が明らかとなったので,その詳細を報告する.</p>
著者
中川 育磨 村上 正晃
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.160-168, 2017 (Released:2017-07-26)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

脳や脊髄など中枢神経系の血管は,血液脳関門という特殊な構造を形成することで,血管系から中枢神経系への病原体や化学物質,免疫細胞の侵入を防ぎ中枢神経系の恒常性を極めて高度に維持している.しかしながら,中枢神経系においても病原体や免疫細胞の侵入に伴う疾患が実際に存在し,それはすなわち血液脳関門の破綻に伴う侵入口(ゲート)が形成されていることを意味する.近年までこのゲート形成の分子機構はほとんど明らかになっていなかった.著者らは,中枢神経系の難病疾患である多発性硬化症のマウスモデルを用いて,血液脳関門におけるゲートの形成部位と形成機構,及びその分子基盤として局所においてNF-κB経路とSTAT経路の同時活性化により炎症を誘導・維持する機構である「炎症回路」を明らかにした.
著者
柳井 亮二 武田 篤信 吉村 武 園田 康平
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.74-82, 2014
被引用文献数
2

ぶどう膜炎とは,狭義には「ぶどう膜組織の炎症」であるが,臨床的には「眼内の全ての炎症」を指す.ぶどう膜炎は単一の疾患概念ではなく,自己免疫疾患,感染症,造血器悪性腫瘍など多種多様な原因や背景をもとに発症する.ぶどう膜炎の多くは再発する可能性のある慢性病であり,姑息的に眼炎症をコントロールするだけでなく,長期的観点から患者の視機能の維持を考える必要がある.Behçét病は,放置すれば中途失明に至る重篤な全身疾患である.コルヒチン・シクロスポリンを中心とした従来の治療法に抵抗性の患者が多く,視機能予後の悪いぶどう膜炎の代表格であった.しかしながら,2007年から始まった生物学的製剤である抗TNF-α療法はBehçét病の治療に大きな変革をもたらしている.眼発作回数が激減したことで,患者が失明の恐怖から解放されたと言っても過言ではない.現在,Behçét病以外のぶどう膜炎では生物学的製剤の使用が認められていない.しかし,遷延化したVogt-小柳-原田病やサルコイドーシスの患者では副腎皮質ステロイドでの治療が難しく,新たな治療が求められている.本稿ではぶどう膜炎の病態について概説し,生物学的製剤を用いた新規治療についての現況を報告する.
著者
小西 舞 小荒田 秀一 山口 健 田代 知子 副島 幸子 末松 梨絵 井上 久子 多田 芳史 大田 明英 長澤 浩平
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.154-161, 2011 (Released:2011-06-30)
参考文献数
17
被引用文献数
8 12

症例は67歳女性.主訴は頭痛,四肢の小結節・紅斑.近医にて慢性腎不全・高脂血症を治療中であったが,インフルエンザワクチン接種を行った.接種2週間後,微熱,頭痛が出現し,CRP高値,MPO-ANCA陽性,腎機能障害,側頭部の圧痛,四肢の紅斑を指摘され,紹介受診となった.紅斑の組織像で動脈周囲に炎症細胞浸潤,フィブリノイド壊死を認め,側頭動脈の組織では炎症細胞浸潤と巨細胞を伴う血管炎を認めた.CTで両肺に多発する斑状影を認め,肺胞出血または間質性肺炎と考えられた.顕微鏡的多発血管炎(mPA)と側頭動脈炎(GCA)の合併と診断し,副腎ステロイドによる治療を開始した.CRP, MPO-ANCAの陰性化を認め,腎機能も改善した.その後,日和見感染症を併発し死亡され剖検がなされた.剖検では,半月対形成性糸球体病変が証明された.本例はインフルエンザ・ワクチン接種を契機として2つの血管炎が同時に発症しており,組織学的に巨細胞性血管炎と微小血管炎が証明された世界初の報告である.血管炎症候群に共通する発症機序を示唆する貴重な症例と考えられた.