著者
田中 敏郎
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.291b, 2015

現在,関節リウマチ,若年性特発性関節炎,キャスルマン病に対する治療薬として承認されているヒト化抗IL-6受容体抗体トシリズマブは,他の様々な慢性に経過する免疫難病にも新たな治療薬となる可能性があり,臨床試験が進められている.また,最近,キメラ抗原受容体を用いたT細胞療法に合併するサイトカイン放出症候群にもトシリズマブが著効することが示され,IL-6阻害療法は,サイトカインストームを呈する急性全身性炎症反応に対しても新たな治療手段となる可能性がある.サイトカインストームには,サイトカイン放出症候群,敗血症ショック,全身性炎症反応症候群,血球貪食症候群やマクロファージ活性化症候群など含むが,特に敗血症ショックでは,病初期のサイトカインストームとその後の二次性の免疫不全状態により,予後が極めて悪く,しかし有効な免疫療法がないのが現状である.敗血症患者ではIL-6は著増し,IL-6の血管内皮細胞の活性化,心筋抑制や凝固カスケードの活性化等の多彩な作用,また,同様な病態を呈するサイトカイン放出症候群に対するトシリズマブの劇的な効果を見ると,IL-6阻害は敗血症に伴う多臓器不全に対して有効な治療法となる可能性がある.しかし,現在,トシリズマブは重篤な感染症を合併している患者には禁忌であり,どのように挑戦するのか,症例(報告)の解析,患者検体,動物モデルを用いた我々のアプローチを紹介したい.
著者
向井 正也
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.127-135, 2006 (Released:2006-07-01)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

全身性エリテマトーデス(SLE)ではアポトーシスが亢進しており,末梢血中でDNAとヒストンの複合体であるヌクレオゾームの過剰状態がある.このヌクレオゾームはその除去の低下ないしウイルス感染などによる修飾によって免疫原性を持ち,抗ヌクレオゾーム抗体が産生される.抗ヌクレオゾーム抗体は多くのSLEで陽性であり,診断マーカーとして重要であり疾患活動性のマーカーである可能性もある.ヌクレオゾームは抗ヌクレオゾーム抗体と免疫複合体を形成するが,ヌクレオゾームのヒストンには強い陽性荷電があり,腎糸球体基底膜のヘパラン硫酸の陰性荷電と結合し,抗ヌクレオゾーム抗体が腎基底膜に結合すると考えられる.これに補体が結合して,腎炎などの組織障害を呈すると考えられる.   ヌクレオゾームは免疫原として抗ヌクレオゾーム抗体ついで抗DNA抗体といった自己抗体の産生に関与して病因になるだけでなく,自己抗原としてその免疫複合体がイオン結合で組織に沈着して組織障害に関与するなど,SLEの病態にも深く関与していると考えられる.本稿ではSLEにおけるヌクレオゾームの役割について概説し,合わせてアポトーシスの発現部位についてリンパ球以外の臓器として肝臓の可能性についても述べる.
著者
南部 光彦 八田 和大
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.135-140, 2000-04-30 (Released:2009-02-13)
参考文献数
23

高IgM血症,血小板減少症,脾腫を有した1女児例を経験した.フローサイトメーターにて血小板表面にIgG抗体のみならずIgM抗体も検出された.また直接クームス試験は陽性であり,赤血球表面にもIgG抗体が認められた.摘脾により血小板数は正常化し,高IgM血症も改善した.唾液腺生検にて導管周囲にリンパ球の浸潤が確認され,シルマーテストでも軽度ながら涙液の分泌低下がみられ,シェーグレン症候群が潜在している可能性が示唆された.
著者
川杉 和夫
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.87-95, 2003-06-30 (Released:2009-02-13)
参考文献数
49
被引用文献数
1
著者
木村 公俊 北條 浩彦 福岡 聖之 佐藤 和貴郎 高橋 良輔 山村 隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.390a, 2016 (Released:2016-09-03)

エクソソーム(exosome)は細胞間情報伝達に関わる微小胞で,miRNA等を内包している.miRNAはT細胞分化を含めた免疫機構に深く関わっており,多発性硬化症(MS)等の自己免疫疾患においてexosomeの関与が推察される.本研究では,血漿中exosomeに含有されるmiRNAを解析し,健常人に比してMS患者において発現が亢進しているmiRNA 4種(miR-A, B, C, D)を同定した.また,T細胞にMS患者由来のexosomeを添加・培養すると,健常人由来のexosome群に比して制御性T細胞の頻度が低下した.制御性T細胞の頻度は,添加されたexosome中のmiR-Aの量と逆相関していた.また,T細胞へのmiR-Aの導入で,同様に制御性T細胞が減少した.さらに,naive CD4 T細胞から制御性T細胞への分化誘導時にも,miR-Aの導入で頻度が低下したことから,miR-Aは制御性T細胞の分化を阻害すると推察された.次に,制御性T細胞の減少に関与すると考えられる,miR-Aのターゲット遺伝子候補を検討し,miR-A導入によるprotein-Aの発現低下を確認した.また,protein-A発現をsiRNAで阻害すると,制御性T細胞が減少することを確認した.実際に,MS患者の末梢血CD4 T細胞において,protein-Aの発現低下を認めた.さらに,MS患者では制御性T細胞が減少しており,その頻度とnaive CD4 T細胞のprotein-Aの発現量に正の相関を認めた.本研究により,miRNAと制御性T細胞の分化抑制を介した,exosomeによる新たな疾患メカニズムが示唆された.
著者
冠木 智之 大宜見 力 田中 理砂 池松 かおり 城 宏輔 鍵本 聖一 大石 勉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.92-98, 2005 (Released:2005-04-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

生直後より頻回に感染を繰り返し,家族歴からも原発性免疫不全症を疑ったが,生後6ヵ月時に大腸内視鏡検査所見よりクローン病と診断した1男児例を経験した.本症例はステロイドを含む各種薬物治療に抵抗したため,抗TNF-α療法としてインフリキシマブ,サリドマイドによる治療を行った.インフリキシマブは皮疹出現のため,1クール3回の投与を終了できず,症状の若干の改善(PCDAI 47.5→30)を得ただけであった.一方サリドマイドは各症状(下痢,腹痛,発熱,瘻孔)の著しい改善(PCDAI 45→15)を認めた.副作用(浮腫,皮疹,末梢神経障害)のためサリドマイド投与は4.5ヵ月で中止したが,瘻孔閉鎖効果は長期持続した.出現した副作用は投与中止により漸次消退した.サリドマイドはその投与量については再考の必要があるが,通常の治療に抵抗性のクローン病患児に対して試みて良い治療法と考えられた.乳児クローン病は極めてまれであり,その診断治療に苦慮することが多い.その病態解明,治療の進歩には今後更に詳細なデータの蓄積が必要である.クローン病を含めた炎症性腸疾患は今後小児科領域でも増加することが予想され,嘔吐,下痢症といった消化器症状に加え,肛門周囲に裂創,膿瘍,瘻孔を認めた場合は,乳児であっても炎症性腸疾患を疑う必要があると考えられた.
著者
金澤 伸雄 有馬 和彦 井田 弘明 吉浦 孝一郎 古川 福実
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.388-400, 2011 (Released:2011-10-31)
参考文献数
44
被引用文献数
3 4

中條—西村症候群(ORPHA 2615, MIM 256040)は,幼小児期に凍瘡様皮疹で発症し,弛張熱や結節性紅斑様皮疹を伴いながら,次第に顔面・上肢を中心とした上半身のやせと拘縮を伴う長く節くれだった指趾が明らかになる特異な遺伝性炎症・消耗性疾患である.和歌山,大阪を中心とした関西と東北,関東地方に偏在し,30例近い報告がある.全国疫学調査で生存が確認された関西の10症例に加え,新規幼児例が和歌山で見出され,今後も増える可能性がある.長らく原因不明であったが,ホモ接合マッピングにより,免疫プロテアソームβ5iサブユニットをコードするPSMB8遺伝子のホモ変異が同定された.患者由来細胞,組織の検討により,本疾患ではプロテアソーム機能不全のためにユビキチン化,酸化蛋白質が蓄積することによって,p38 MAPK経路が過剰に活性化しIL-6が過剰に産生されることが示唆された.最近,欧米からもPSMB8遺伝子変異を伴う類症が報告され,遺伝性自己炎症疾患の新たなカテゴリーであるプロテアソーム不全症が世界に分布することが明らかになりつつある.
著者
宮前 多佳子 井崎 桜子 生田 孝一郎 横田 俊平 山中 寿
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.226-232, 2013 (Released:2013-08-31)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

Chédiak-Higashi症候群は原発性免疫不全症候群のひとつに分類され,わが国では約14例の報告があるに過ぎない.臨床的には易感染性,部分白子症(特異な白銀髪,虹彩色素の減少,乳白色で,紫外線により赤味を帯びる皮膚),出血傾向,進行性神経障害を特徴とするが,accelerated phaseと呼ばれる増悪期には,発熱,脾腫,骨髄抑制などを伴う血球貪食性リンパ組織球症を併発する.また,主に顆粒球系細胞に特徴的な巨大顆粒(ライソゾーム),細胞質封入体を認める.一方,本症候群でみられる血球貪食性リンパ組織球症は原発性血球貪食症候群の一つに分類される.診断には本症候群の存在と特徴的血液像を認識することが必要である.自験例は4ヵ月の男児.発熱,哺乳力低下,肛門周囲膿瘍,肝脾腫にて入院,当初は末梢血で異型リンパ球増多(後に本疾患特有の巨大顆粒を有するリンパ球と判明)が検出され,ウイルス関連血球貪食症候群が疑われた.しかし,ASTやLDHなど細胞傷害を示す細胞逸脱酵素の変動は軽微で,血管内皮障害と凝固線溶系の破綻も急速進行性ではなく,EBウイルスなど明らかな起因ウイルスは検出されなかった.末梢血スメアで細胞内巨大顆粒を検出し,特異な白銀髪,部分白子症と,HLH-2004改定案の診断基準に基づき,血球貪食性リンパ組織球症を呈したChédiak-Higashi症候群と診断した.骨髄移植により臨床症状と検査所見の改善を得た.
著者
中林 一彦 白澤 専二
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.66-72, 2010 (Released:2010-04-30)
参考文献数
27
被引用文献数
2 5

自己免疫性甲状腺疾患(AITD)は甲状腺機能亢進症であるバセドウ病と機能低下症である橋本病に代表される,最も頻度の高い自己免疫疾患の一つである.AITDは複数の遺伝要因と環境要因が相互作用し発症に至る多因子疾患であると考えられる.これまでに同定されたAITD関連遺伝子群は,①ヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域のHLA遺伝子,②MHC領域外の免疫関連遺伝子,③甲状腺特異的遺伝子,の三群に大別できる.ゲノム関連研究により主要なAITD関連遺伝子群を網羅的に同定することは,AITD発症機構の解明のための極めて有用な基盤情報となる.近年,複数の自己免疫疾患についてゲノムワイド関連研究が実施され,多数の疾患関連遺伝子多型が新規に同定されている.本稿では,バセドウ病を対象としたゲノムワイド解析の現状,ならびに筆者らが日本人AITD症例群を対象とした連鎖・関連解析により同定したAITD関連遺伝子ZFATの分子機能について概説する.
著者
鑑 慎司
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.13-19, 2011 (Released:2011-03-01)
参考文献数
70
被引用文献数
4 8

IL-23は樹状細胞などの抗原提示細胞が産生する.そしてIL-23はTh17細胞への分化を誘導し,Th17細胞の増殖,維持に必要である.Th17細胞は好中球を遊走するケモカイン,抗菌ペプチド,および他の炎症性サイトカインの発現を増強する.IL-23とTh17細胞が正常に機能する状態では宿主はカンジダ,黄色ブドウ球菌,溶連菌等の微生物を駆除できるが,Th17細胞が欠損した状態では易感染性となる.その一方で乾癬等の自己免疫疾患ではTh17細胞が過剰な状態になっていることが報告されている.また,様々な検体を用いた解析で,乾癬患者は健常人よりもこれらの微生物感染が多いことも報告されており,乾癬発病におけるスーパー抗原の関与も示唆されている.IL-23やTh17細胞の機能を理解することは,宿主の微生物に対する防御反応と乾癬などの自己免疫疾患をみるうえで重要な洞察をもたらし,感染症や自己免疫疾患の効果的な治療法の開発へとつながることが期待される.
著者
佐藤 功
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.302, 2016

<p>  製薬企業が直面している問題点として,新薬開発における成功確率の低さによる研究・開発費の高騰や,創薬難易度(対象疾患の希少化や標的分子の減少)の上昇による競争の激化があります.これらの問題を解決する一つの手段として,オープンイノベーションが提唱されています.これまでも,多くの製薬企業が,アカデミアやバイオベンチャーとの共同研究・開発を実施してきていますが,今後はますます活発になると予想されます.一方で,規制当局から創薬に求められる科学的レベルも向上しています.そのため,アカデミアとの連携にあたっても,新規分子や作用機序の発見だけでは,共同開発に踏み切れないことが多くあります.製薬企業が期待するのは,新規性・革新性,作用機序と有効性の関連性,プロダクトのプロファイル,知的財産の排他性,そして競合優位性です.医師主導治験を実施するにあたり,これらの点をご紹介したいと思います.</p>
著者
中根 俊成 樋口 理 向野 晃弘 前田 泰宏 松尾 秀徳
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.333a, 2014

【背景】抗ganglionicアセチルコリン受容体(gAChR)抗体は自己免疫性自律神経節障害(AAG)の病態において主たる役割を担っていると推測されている.我々は簡便,高感度,且つ定量性を備えた抗gAChR抗体測定系を確立し,2012年には全国からの抗体測定依頼を受ける態勢を整備した.【対象】全国の施設より送付された血清検体(自律神経障害を呈した248症例・331検体)を用いて抗gAChR抗体測定を行った.内訳はAAG(54例),AASN(23例)などであった.【方法】カイアシルシフェラーゼ免疫沈降(LIPS)を応用した検出法にて抗gAChR抗体(α3・β4サブユニット)測定を行い,臨床情報について解析した.【結果】全248症例のうち43症例で抗gAChRα3抗体が陽性であった(17.3%).43症例のうち12症例で抗gAChRβ4抗体が陽性であった.AAG/pandysautonomiaにおいて23/55例(41.8%)であり,抗体陽性症例の免疫治療内容について比較検討した.【考察】抗gAChR抗体陽性症例解析の基盤が整いつつあることを確認した.今後は中枢神経系に存在するnicotinic AChRを構成する他のサブユニットに対する抗体産生などを確認する必要がある.治療では複合的免疫治療が有効ではあるが,治療効果の症例間の差,同一症例においても治療反応性の良好な自律神経症状とそうでない自律神経症状が存在することなどが解決すべき問題である.
著者
清水 英樹 山田 明 吉澤 亮 福岡 利仁 平野 和彦 下山田 博明 今野 公士 駒形 嘉紀 要 伸也 有村 義宏
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.378a, 2012

[背景]近年IgG4関連疾患の診断基準が作成されているが,その病態,病像には不明の点も多い.<br> [目的と方法]2011年2月から2012年3月まで当科症例でIgG4高値を示した9症例を検討した.全例で口唇生検と障害臓器の組織生検を試み,臨床経過を腎症の有無・自己免疫疾患の有無に応じ比較検討した.<br> [結果]平均年齢68.1&plusmn;12.2歳(52-90),男女比は5:4.腎症ある症例は4例(うち2例は腎生検で診断)であった.ミクリッツ徴候を主体とした症例は3例(すべて女性)で,既存の自己免疫疾患合併症例は2例であった.9例ともに悪性腫瘍は除外され,8例でIgG4-RDと診断した(1例はRAと診断).IgG4-RDの診断には,口唇生検と涙腺生検を施行し,口唇生検の5/8例で,涙腺生検の2/2例でIgG4浸潤細胞を認めた.腎症のある症例は,多臓器障害を認め,抗核抗体高値と低補体血症とIgE高値を伴った.IgG4関連疾患否定のRA症例では,Th2サイトカインの上昇を認めなかった.全例で膵病変なく,IgG4関連疾患8例でステロイドに著効した.<br> [結論]IgG4関連疾患は症例ごとに多臓器障害を認めやすい.全身の臓器障害部位を評価の上,組織生検も施行すべきである.尿所見・CT所見から腎症を疑う際には,腎生検も考慮すべきである.<br>
著者
戸叶 嘉明
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.919-921, 1994-12-31 (Released:2009-02-13)
参考文献数
7
著者
向野 晃弘 樋口 理 中根 俊成 寶來 吉朗 中村 英樹 松尾 秀徳 川上 純
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.379a, 2013

【目的】シェーグレン症候群(SS)ではヒトムスカリン性アセチルコリン受容体M3(AChRM3)に対する自己抗体の関与が指摘されている.抗AChRM3抗体の検出は,細胞外領域に相当する合成ペプチドを用いたELISA法等が既に報告されている.今回,我々は複数貫通膜分子に対する抗体の検出に効果的であるカイアシルシフェラーゼ免疫沈降法(GLIP法)による抗AChRM3抗体測定系を評価した.【対象・方法】SS 37例,健常者39例を対象とし,GLIP法による測定を行った.全長ヒトAChRM3とカイアシルシフェラーゼ(GL)の融合組換えタンパク質をリポーターとしヒト血清(あるいは既製抗体)を反応させた後,プロテインGセファロースを用いて反応溶液中のIgGを回収した.免疫沈降物中のルシフェラーゼ活性の測定で,抗AChRM3抗体の有無を評価した.【結果】1.アミノ末端およびカルボキシル末端領域を標的とする2種類の既製抗AChRM3抗体でGLIP法を実施した結果,本法の抗AChRM3抗体検出における有効性を確認した.2.健常群血清を対象にGLIP法を実施し,カットオフをmean+3SDに設定した.3.SS 3例を抗体陽性と判定した.【結論】全長のヒトAChRM3を抗原に用いた新たな抗AChRM3抗体検出系を確立した.今後は各測定法によるvalidationを行うことを計画している.<br>
著者
中根 俊成 向野 晃弘 南 ひとみ 磯本 一 樋口 理 岡西 徹 村田 顕也 井戸 章雄 松尾 秀徳 中尾 一彦 安東 由喜雄
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.309c, 2017 (Released:2017-11-25)

【背景】Autoimmune gastrointestinal dysmotility(AGID)は2008年に米国より提唱された疾患概念であり,食道・胃の運動障害や慢性偽性腸閉塞(CIPO)の一部が相当する.抗自律神経節アセチルコリン受容体(gAChR)抗体による自己免疫性自律神経節障害(AAG)の限局型とも言われているが,臨床像および治療反応性に関する検討は世界的にも少なく,本邦における検討が急務である.【目的】本邦におけるAGIDの臨床像,治療反応性を明らかにする.【方法】1)抗gAChR抗体陽性AAG患者123症例における消化管運動障害(食道機能障害,胃不全麻痺,麻痺性イレウス)の頻度,臨床像,治療内容と反応性を調査する.2)新たにアカラシア28症例,CIPO14症例における抗gAChR抗体陽性頻度,臨床像を検討する.【結果】1)123症例のうち,上部消化管障害を48症例(39%),下部消化管障害を89症例(72%)に認め,そのうち食道機能障害6症例,胃不全麻痺1症例,麻痺性イレウス3症例を確認し,一部には免疫治療による改善症例が存在した.2)アカラシアでは6症例,CIPOでは7症例の抗体陽性者が存在し,自律神経障害(乾燥症状や膀胱機能障害など)の併存を確認した.【結論】AGIDは重度の消化管症状を呈するが,抗gAChR抗体陽性症例が存在し,それらでは自律神経障害の併存が確認された.AGIDがAAGの限局型に相当するか,さらなる集積と検討が必要であるが,免疫治療によって制御できる可能性が示された.
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.428-438, 2002-10-31 (Released:2009-02-13)
著者
善本 知広
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.344-344, 2016
被引用文献数
1

<p>  2016年は,石坂公成,照子博士によるIgE発見から50年目のアニバサリーイヤーにあたる.過去20年ほどの間にアレルギー研究は飛躍的に進展してきた.そこには免疫学の進歩が大きく貢献している.しかし,未だアレルギー発症機序には不明な点が多く,根本的な治療技術は確立されていない.その結果,国民の約40%がアレルギー性鼻炎の症状に悩み,食物アレルギーの児童が学校給食によって死に至る症例も後を絶たない.</p><p>  このような問題点が生じている理由として次の2つが考えられる.まず,アレルギー疾患の多様性・複雑性があげられる.アレルギー反応は抗原の種類や感作経路などによって多様な炎症像を呈する.2つめの理由として,動物モデルにおける知見とそれの患者への応用との間に大きな乖離が見られることがあげられる.モデルマウスを用いた研究成果は非常に有用であるが,マウスとヒトでの発症機序は必ずしも一致しない.そのため,マウスで得られた知見と患者で得られた情報とを相互にフィードバックしていくことが重要である.</p><p>  この様な問題点を克服すべくアレルギー研究は新たな展開を迎えている.本セミナーでは,「アレルゲン–IgE–マスト細胞–ヒスタミン」という従来からのアレルギー発症機序に加え,新たに登場した様々な細胞やサイトカインを紹介し,アレルギー疾患の多様性を解説する.さらに,アレルギー患者の病態を反映したモデルマウスを用いた研究成果を紹介したい.</p>
著者
窪田 規一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.296, 2016

<p>  移植医療の成功率を飛躍的に増大させたサイクロスポリンは通常のペプチドとは異なりD-アミノ酸やN-メチルアミノ酸が組み込まれた構造をもった特殊ペプチドであった.特殊ペプチドはその物理的特性から,多岐にわたるターゲットタンパクへのアクセスが可能であり,新しい創薬開発の可能性を示唆させるものであるが,今まで特殊ペプチドを体系的に創薬システムに組み込むことは困難であった.我々はフレキシザイム(Flexizyme)という人口リボザイムを開発する事により無細胞翻訳合成系による特殊ペプチドの大規模ライブラリー創製を可能とした.さらに独自のディスプレイシステムを組み合わせることにより世界で初めて,唯一の特殊ペプチド創薬開発プラットフォームシステム「PDPS(Peptide Discovery Platform System)」を完成させた.PDPSにより創出される特殊ペプチドは分子量1,500程度でありながら抗体に匹敵する特異性と結合力を持っており,細胞内を含めタンパク-タンパク相互作用(PPI)阻害剤などの機能を有することができる.今後,開発が進むことにより多くの次世代医薬品が提供できると確信している.本シンポジウムではPD-1/PDL-1特殊ペプチドなどの実例を踏まえ,特殊ペプチド創薬の可能性に関してその片鱗を紹介できればと考えている.</p>
著者
海田 賢一 楠 進
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.29-39, 2011 (Released:2011-03-01)
参考文献数
55
被引用文献数
2 2

ガングリオシドはシアル酸をもつ神経系に豊富なスフィンゴ糖脂質であり,細胞膜上でクラスターを形成しマイクロドメインを構成している.ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome, GBS)において抗ガングリオシド抗体は発症および神経症状を規定する因子として作用している.GM1, GD1a, GalNAc-GD1aに対する抗体は純粋運動GBSに相関し軸索障害優位の電気生理所見を示す.抗GM1抗体はRanvier絞輪軸索膜上でNaチャンネルクラスターを補体介在性に障害し,抗GD1a抗体,抗GQ1b抗体は補体介在性に運動神経遠位および終末部軸索を障害することが実験的に示されている.古典的経路優位の補体活性化が推測され,これらの障害は補体活性化阻害剤で抑制される.一部の抗ガングリオシド抗体は補体非介在性にCaチャンネル機能障害をきたす.近年2種の異なるガングリオシドからなるガングリオシド複合体(GSC)に対する抗体がGBSの一部に見いだされ,抗GD1a/GD1b抗体陽性GBSは重症度の高さと相関している.またGQ1bやGT1aに対する抗体が90%以上に認められるフィッシャー症候群でも,約半数ではGQ1bまたはGT1aを含むGSCにより特異性の高い抗体が陽性である.抗ガングリオシド抗体の標的部位への到達性,結合活性は標的部位の糖脂質環境が影響し,同抗体の病的作用の発現を規定する可能性がある.本稿では抗ガングリオシド抗体,抗GSC抗体の病的作用について最新の知見を概説した.