著者
江里 俊樹 川畑 仁人 今村 充 神崎 健仁 赤平 理紗 道下 和也 土肥 眞 徳久 剛史 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.331a, 2013 (Released:2013-10-31)

抗核抗体は,全身性エリテマトーデスを始めとする種々の全身性自己免疫疾患の主要な特徴の一つであるが,その産生メカニズムは明らかではない.過去の報告によると,胸腺を欠いたヌードマウスでは抗核抗体産生とループス様の自己免疫が見られ,ヌードマウスにCD4+CD25−細胞を移入するモデルでは様々な自己抗体産生と臓器特異的自己免疫が見られる.我々はこれらのマウスモデルを用いて,lymphopenia-induced proliferation (LIP)を介した移入T細胞のfollicular helper T細胞(TFH)への分化,および腸内細菌の関与,という観点から抗核抗体産生について検討した.BALB/c野生型マウスからCD4+CD25−(conventional T)細胞を移入したBALB/cヌードマウスでは,IgG型抗核抗体を始めとする様々な自己抗体産生が早期に高率に見られた.移入されたconventional T細胞はLIPによってIL-21産生PD-1+TFH細胞へと分化し,germinal center形成と異常なB細胞応答を引き起こすことが観察された.さらに経口広域抗生剤投与によって腸内細菌を除去すると,LIPを介したTFH細胞分化の減少と,自己抗体産生の低下が見られた.腸内細菌が抗核抗体産生に重要な役割を果たしているという今回の新たな発見は,全身性自己免疫疾患の病態解明と新たな治療へつながる可能性がある.
著者
菅井 進
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-14, 1996-02-29 (Released:2009-02-13)
参考文献数
38
被引用文献数
5 5

全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチなどの全身性自己免疫疾患やSjögren症候群(SS)などの臓器特異的自己免疫疾患に悪性リンパ腫,特にB細胞性リンパ腫が多いことが注目されている. SSにおいてわれわれは種々の方法を組み合わせて検討したところ, 306例の患者の中に61例(20.0%)に単クローン性の非悪性リンパ増殖性病変(LPD)を認め,悪性リンパ腫13例,マクログロブリン血症2例を加えると76例(24.8%)にLPDがみられた.悪性化へ進展する要因として,リウマトイド因子遺伝子Vgなどの活性化やbcl-2プロト癌遺伝子の病変局所での活性化などが重要と考えられる.自己免疫疾患におけるLPDの好発は持続する病変局所での自己免疫反応によるリンパ球分裂がプロト癌遺伝子,癌抑制遺伝子などの種々の遺伝子の異常を引き起こし,これらが積み重なって多段階的に腫瘍化するものと考えられる.
著者
林 幼偉 三宅 幸子 山村 隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.146-153, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
44

免疫システムは複雑で様々な炎症性細胞や制御性細胞が存在してネットワークを形成している.自己免疫疾患は炎症性因子と制御性因子のバランスの破綻により発症するが,疾患ごとで異なるパターンで関与している.多くの自己免疫疾患が慢性に進行するが,そのメカニズムはまだ詳細が明らかになっていない.顕著な抗炎症作用を有する生物学的製剤は特異性が高く画期的だが,万能ではなく,治療手段によっては予想外の反応を示すこともあり,疾患活動性を完全に阻止するわけではない.また抗原特異的な治療は阻止効果が期待できる反面,自己免疫疾患は疾患ごとで抗原が多岐にわたり,汎用性に乏しい.さらに制御性細胞を利用する治療も有望だが,可塑性の点など未解決の部分がある.自己免疫疾患の一つである多発性硬化症(MS)は再発・寛解を繰り返しながらやがて進行するという特徴的な経過をとるが,その代表的モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の研究は,歴史を紐解くと免疫学の発展に深く関与していることが分かる.再発・寛解のメカニズムの解明を通じてMSのモデルとしてのみでなく,上記治療の補完として自己免疫疾患の治療手段の多様化を期待したい.
著者
牧野 聖也 狩野 宏 浅見 幸夫 伊藤 裕之 竹田 和由 奥村 康
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.350b, 2014

【目的】昨年本学会において,我々は<i>Lactobacillus delbrueckii</i> ssp. <i>bulgaricus</i> OLL1073R-1(1073R-1乳酸菌)で発酵したヨーグルトの摂取が男子大学生に対してインフルエンザワクチン接種後のワクチン株特異的抗体価の増強効果を発揮することを発表した.今回,より幅広い世代の男女に対して,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルト(1073R-1ヨーグルト)がインフルエンザワクチン増強効果を発揮するか否かを明らかにすることを目的に二重盲検並行群間比較試験を実施した.【方法】インフルエンザワクチン株に対する特異的抗体価が40倍未満の20歳以上60歳未満の男女62名(25-59歳;平均年齢43.7歳;男性25名,女性37名)を2群に分け,1073R-1ヨーグルト群には1073R-1乳酸菌で発酵したドリンクヨーグルト,プラセボ群には酸性乳飲料を1日1本(112ml),インフルエンザワクチンを接種する3週間前から接種6週間後まで摂取させた.摂取開始前,ワクチン接種時,接種3週間後,接種6週間後,接種12週間後に採血を行い,接種したワクチン株に特異的な抗体価をHI法で測定した.【成績】インフルエンザA型H1N1,B型に対する抗体価はワクチン接種後にプラセボ群に比べて1073R-1ヨーグルト群で有意に高い値で推移した.【結論】1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの摂取は,幅広い世代の男女に対してインフルエンザワクチン接種の効果を増強する可能性が示された.
著者
佐藤 ルブナ 佐藤 洋志 西脇 農真 横江 勇 鶴田 信慈 原岡 ひとみ
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.183-188, 2014

症例は44歳,女性.2012年11月初旬から発熱,咳嗽が増悪し,11月下旬に意識障害を契機に当院搬送となった.初診時Ⅰ型呼吸不全,ショックを呈しており,両側中下肺野の湿性ラ音,右不全片麻痺,頭頚部や四肢に多発する紅斑と紫斑が認められた.肝腎機能障害,炎症反応上昇,凝固線溶系の顕著な異常,脳梗塞,両肺下葉の浸潤影を認め,重症肺炎や劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)に伴う多臓器障害,播種性血管内凝固を疑い加療を開始.シプロフロキサシン,ドリペネム,トロンボモジュリン,アンチトロンビンIIIの投与に加え,メチルプレドニゾロンパルス療法を行った.抗菌薬投与により炎症反応の改善を認め,入院時の抗リン脂質抗体価が正常であったため,CAPSは否定的であると考えプレドニゾロン投与を中止した.しかし,第7病日の検査にて抗カルジオリピンIgM抗体価が上昇しており,その後の再検査で抗カルジオリピンβ2GPI抗体価の一過性の上昇を認めた.さらに,第8病日に凝固線溶系の改善に相応しない血小板減少,肺胞出血が出現.CAPSの診断のもと,メチルプレドニゾロンパルス療法を行った後,プレドニゾロン投与を継続.炎症反応,呼吸不全,血小板減少の改善を認め,第12病日に抜管した.
著者
遠藤 平仁
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.156-161, 2013 (Released:2013-06-30)
参考文献数
32
被引用文献数
2 2

体外からの細菌感染や外傷などによる急性炎症は早期に血管浸過性亢進と好中球を中心とする炎症細胞の浸潤が起こる.炎症により破壊された組織は正常の組織に修復される.急性炎症で好中球の浸潤がおこりその後マクロファージ,リンパ球の浸潤と異物の貪食除去の炎症収束,組織修復と生体反応は展開する.急性炎症は自己制御され収束(Resolution)し組織修復する.この転換期に脂質メデイエータのLipoxinやResolvinや抗炎症サイトカインIL-10やアデイポカインChemerinなど多くの因子が作用する.Lipoxinはリポキシゲナーゼ(LOX)により合成される.急性炎症の早期は5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)がロイコトリエンB4(LTB4)を合成し好中球の炎症部位に遊走させる.その後マクロファージの15-LOXや血小板の12-LOXが誘導され,5-LOX,と12-LOXまたは15-LOXの2つの酵素を介してLXA4またはLXB4が合成される.このLipoxinは強い抗炎症作用を有している.LXA4はG蛋白結合型受容体ALXに結合し好中球の遊走抑制,マクロファージの遊走活性化などを生じ炎症収束過程の早期に作用する.Chemerinは好中球からのプロテアーゼにより前駆蛋白より活性化されマクロファージ,樹状細胞遊走,抗炎症作用を起こす.またアセチルサリチル酸(アスピリン)の作用したシクロオキシゲナーゼ(COX2)はPGE2産生を抑制し,さらに5-LOXと共に15-epiLXA4を産生し強い抗炎症作用を示す.以上の炎症の収束(Resolution)は自然免疫と獲得免疫を繋ぐ能動的な過程であり新たな炎症治療の戦略の標的である.
著者
谷内江 昭宏
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.11-21, 2007 (Released:2007-03-02)
参考文献数
54
被引用文献数
7 8

ヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase ; HO)はヘム代謝に関わる酵素であると同時に,細胞を酸化ストレスによる傷害から守る細胞保護蛋白である.HOの内,誘導酵素であるHO-1を欠損する症例の病態解析により,このようなHOの働きが特定の細胞の保護にとどまらず,多様な組織や臓器における細胞保護に関与していることが示された.また,腎組織や腎由来細胞株を用いた検討では,HO-1蛋白が特定の細胞に局在していること,それらの細胞ではHO-1産生が特に重要な意味を持つことが示唆された.さらに末梢血単球を用いた解析では,特定の単球亜群で恒常的にHO-1蛋白が発現していること,これらの単球が急性炎症疾患で増加することが示され,単球/マクロファージによるHO-1産生が炎症制御に重要な役割を果たすことが明らかとされた.一方で,HO-1遺伝子導入により過剰にHO-1蛋白を発現させた場合には,むしろ細胞傷害を促進する可能性があることも示され,生体内ではHO-1産生の局在や量が巧妙に制御されていることが示唆された.最近の報告では,HO-1蛋白が制御性T細胞による免疫制御に深く関わっている可能性も示されており,HO-1産生の誘導を標的とした介入が多様な炎症性疾患に対する新たな治療戦略の一つとして期待される.
著者
岩渕 和也
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.317b, 2012

&nbsp;&nbsp;ベーチェット病は,医学文献としてはトルコのベーチェット博士の記述(1936年)を嚆矢とするが,疾患の特徴(アフタ・外陰部潰瘍・眼症状など)については既にヒポクラテス(紀元前5世紀)や張仲景(AD200年頃)の時代から記述があり,古くからヒトに関わりの深い疾患である(大野博士).未だに疾患発症に至る過程に不明の点も少なくないが,2010年には水木博士(横浜市大)・大野博士(北大)・猪子博士(東海大)のチームによるゲノムワイド相関解析により,HLA-B*51, A*26, IL-10, IL-23R/IL-12RB2,などの疾患感受性遺伝子が明らかにされ,また最近では何らかの自己炎症性症候群スペクトラムを有することも示唆され,大きく疾患理解が進んでいる.一方,マウスモデルについては,残念ながらベーチェット病の皮膚・眼症状,さらには特殊病型を再現するようなモデルは開発されていない.我々も,眼炎症を抗原(視細胞間レチノイド結合タンパク由来ペプチド)特異的に生じさせる実験的自己免疫性網膜ぶどう膜炎(EAU)をモデルに,眼炎症の病態理解とその実験的制御を試みているのみである.ただ,このように限界のあるモデルにおいても,ベーチェット病で見られると同様にTh17およびTh1が自己免疫病態に関わっていることが示されており,効用もまた存在している.本ワークショップでは,オステオポンチンやNKT細胞を標的とした,EAUの病態制御について紹介したい.<br>
著者
古江 増隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.268a, 2017 (Released:2017-11-25)

アトピー性皮膚炎は,慢性再発性の湿疹を主体とする疾患で,強い痒みを有するのが特徴です.特徴的な皮疹の分布,形態,経過を示せば,高IgE血症を伴わなくてもアトピー性皮膚炎と診断します.強い痒みは睡眠を妨げ,就学や就業や影響を与え,精神的社会的QOLは著しく障害されます.標準治療であるステロイド外用,タクロリムス外用,抗ヒスタミン剤内服は痒みを軽減しますが,患者の満足度を上げるには十分ではありませんでした.インターロイキン31(IL-31)が,マウス,イヌ,サル,ヒトで痒みを誘導することがわかり,IL-31 receptor(IL-31R)に対する抗体療法(nemolizumab)が注目され,臨床試験が行われ,有効であることが示されました.本講演では,IL-31の機能,前臨床試験そして臨床試験の成績について概説したいと思います.
著者
前田 裕弘 松田 光弘 森田 恵 正木 秀幸 白川 親 堀内 房成 小山 敦子 濱崎 浩之 藤本 卓也 入交 清博 堀内 篤
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.118-125, 1993-04-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
17

成人T細胞白血病(ATL)患者の血清を健常人の末梢血単核細胞(PBMC)に添加し,そのPBMCのCD 3抗原の発現を観察した. CD 3抗原の発現が低下している急性型ATL患者の血清を添加したときのみ健常人PBMCのCD 3抗原の発現が低下した.しかし, CD 3抗原の発現が正常の慢性型ATL血清では,この現象はみられなかった.同様の結果が細胞培養上清添加時にもみられた.細胞培養上清をSephacryl S-200を用いて分画し,健常人PBMCのCD 3抗原を低下させる活性を分子量40-60 kDの分画に認めた.各種抗サイトカイン抗体を用いた中和実験および各種サイトカイン添加実験より,この可溶性因子が既知のサイトカインとは異なる因子と考えられた.この因子が臨床的に急性型ATLに認められ,くすぶり型および慢性型ATLに認められないことより, crisisに関与している可能性も考えられた.
著者
井上 文彦 古川 裕夫 内野 治人
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.31-36, 1986-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
20

潰瘍性大腸炎患者大腸粘膜におけるラクトフェリンの分布を,螢光抗体法を用いて検討した.また,同時にペルオキシダーゼ染色を施行し,両者の分布を比較した.患者大腸粘膜の内視鏡的正常部では,ラクトフェリン陽性細胞とペルオキシダーゼ陽性細胞は,ともにほとんどみとめられず,内視鏡的境界部では,両者とも散在性にみられ,内視鏡的病変部では,両者とも多数みとめられた.正常対照者大腸粘膜では,両者ともほとんどみとめられなかった.また,ギムザ染色により,ペルオキシダーゼ陽性細胞は好中球であることが強く示唆された.静菌的,殺菌的作用を有する強力な鉄結合性蛋白の1つであるラクトフェリンは,主要な局所粘膜防御因子であるs-IgA系の減少した潰瘍性大腸炎大腸粘膜で,いわば代償的に出現,増加し,局所粘膜における感染防御機構の面において,何らかの意義を有するものと考えられた.
著者
金子 開知 川合 眞一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.138-148, 2011 (Released:2011-06-30)
参考文献数
54
被引用文献数
2 4

グルココルチコイド(ステロイド)誘発性骨粗鬆症(GIOP)の発症機序は,ステロイドの骨組織の局所に対する作用と,カルシウム代謝の変化による二次性副甲状腺機能亢進症や下垂体ホルモン分泌抑制を介した性ホルモン分泌の抑制などのステロイドが全身に作用を介した機序が考えられている.近年,骨組織への直接作用が特に骨形成への影響が注目されている.骨代謝マーカーにおいては,ステロイド投与早期より骨形成マーカーは低下する.一方で,骨吸収マーカーは増加傾向を示す.GIOPの治療に対して,各国でガイドラインが作成されているが,ビスホスホネート製剤はGIOPにおける骨折抑制効果が多くの臨床研究から明らかにされており治療の第一選択となっている.また,ヒト組み換え副甲状腺ホルモン剤であるテリパラチドは,GIOPにおける骨折のリスクが高い患者において使用を考慮すべき薬剤である.さらに,抗receptor activator for nuclear factor κB ligand抗体製剤であるデノスマブは閉経後骨粗鬆症においての有用性が報告されておりGIOPでの効果が今後期待される.
著者
門野 岳史
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.83-89, 2017 (Released:2017-06-12)
参考文献数
32
被引用文献数
1 36

抗PD-1抗体であるニボルマブおよびペンブロリズマブ,抗CTLA-4抗体であるイピリムマブを代表とする免疫チェックポイント阻害薬は悪性黒色腫,非小細胞肺癌,腎細胞癌,ホジキンリンパ腫といったがん治療に新たな光明をもたらした一方で,様々な臓器に対して免疫関連有害事象という独特な副作用をもたらす.なかでも,間質性肺疾患,大腸炎,甲状腺機能低下症,肝障害,発疹,白斑,下垂体炎,I型糖尿病,腎機能障害,重症筋無力症,末梢神経障害,筋炎,ぶどう膜炎などが代表的である.免疫関連有害事象の出現時期に関しては様々であるが,抗CTLA-4抗体であるイピリムマブに関しては皮膚粘膜障害が比較的早期に出現し,その後消化器症状が出現しやすい.ニボルマブの免疫有害事象は全体としておおよそ投与数ヶ月後に生じることが多いが,出現時期には大きなばらつきがある.免疫関連有害事象に対する治療は基本的にはアルゴリズムに則って行うが,速やかに専門医にコンサルトし,有害事象のグレードと原病の状態を鑑みながら方針を立てていく.免疫関連有害事象は様々な臓器に出現するが故に他科との連携が肝要であり,病院として関係する各科横断的な対策チームを築くことが重要である.
著者
齋藤 滋 島 友子 中島 彰俊
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.424-428, 2012 (Released:2012-10-31)
参考文献数
13
被引用文献数
1

Semiallograftである胎児を許容するために,妊娠時には父親抗原に対するトレランスが存在することが知られていたが,その詳細な免疫学的機構は明らかではなかった.最近の研究により,妊娠時には父親抗原特異的もしくは男性抗原であるHY抗原特異的制御性T細胞が増加していること,精漿のプライミングが父親抗原特異的制御性T細胞の誘導に重要であることが判明している.またヒトならびにマウスの流産や,ヒトでの妊娠高血圧腎症では末梢血ならびに,妊娠子宮での制御性T細胞の減少が報告されている.妊娠初期子宮内膜では,特殊なNK細胞がリンパ球の主要な成分(約80%)を占める.我々は,マウス妊娠子宮ではCD25+ NK細胞が増加すること,CD25+ NK細胞はIL-10やTGF-βを産生すること,本NK細胞は樹状細胞上のMHC class II抗原発現を抑制させ,細胞傷害性T細胞の誘導を抑制し,制御性NK細胞と呼べる性状を有することを見い出した.   このように妊娠初期において,制御性T細胞と制御性NK細胞は協同的に作用し,胎児を母体免疫系の攻撃から守っている.
著者
大坪 慶輔 金兼 弘和 小林 一郎 宮脇 利男
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.196-206, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
66
被引用文献数
5 4

免疫系には免疫抑制機能に特化した制御性T細胞(Treg)とよばれる少数のCD4+CD25+ T細胞サブセットが存在する.この細胞は,自己免疫やアレルギー,炎症といった過剰な免疫反応を抑制して免疫恒常性の維持において非常に重要な役割を果たしている.Tregのマスター遺伝子としてFOXP3遺伝子が機能するという発見により,Tregの生理的意義が明確に証明され,その発生・分化と抑制機能の分子メカニズムを解明するうえで重要な進歩がもたらされた.   このTregの欠損や機能低下によって生じる疾患がIPEX (immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, and X-linked)症候群である.この疾患は,I 型糖尿病や甲状腺機能低下症などの多発性内分泌異常,難治性下痢などを主症状とし,さらには自己免疫性と考えられる貧血,血小板減少,腎炎など多彩な症状を呈する.   現在まで報告されているIPEX症候群の臨床像,分子学的異常とヒトTreg細胞の機能に関して概説する.
著者
大木 伸司
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.103-113, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
36
被引用文献数
1

多発性硬化症(MS)の難治性病型である二次進行型MS(SPMS)の原因は不明であり,有効な治療法にも乏しいことから,早期の対策が望まれている.筆者等は,以前に再発寛解型MSに関わる病原性Th17細胞の制御分子であることを見出したNR4A2の遺伝子欠損マウスを作製し,同マウスを用いた実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を解析した.その結果,C57BL/6マウスにMOG35-55ペプチドを免疫して誘導するEAE病態の背後に,転写因子Eomesを発現するユニークなTh細胞が関与し,Th17細胞に依存しない後期病態が存在することを新たに見出した.興味深いことに,ヒト末梢血および髄液中のEomes陽性Th細胞の選択的な増加がSPMSのみで認められたことから,SPMSの病態形成過程にEomes陽性Th細胞が関与する可能性が示された.さらに病態形成機序の解析から,刺激を受けたEomes陽性Th細胞が産生するGranzyme Bが,(恐らく神経細胞が発現する)Par-1受容体に作用して後期病態を引き起こすことを明らかにした.神経変性をともなうSPMSの新規動物モデルを得て,同疾患の病態形成メカニズムの解明と治療法の開発が飛躍的に進むことが期待される.
著者
竹田 潔 前田 悠一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.256a-256a, 2017 (Released:2017-11-23)

近年,腸内細菌叢の割合の変化(dysbiosis)が様々な疾患で報告されるようになってきている.その中には,dysbiosisが疾患の原因になるものもあることが報告されている.関節リウマチ(RA)は,遺伝的素因だけでなく,様々な環境因子がその病態に関与していることが知られている.マウスモデルを用いた解析では,腸内細菌の無いgerm-freeマウスが関節炎を発症しないことから,腸内細菌の関節炎の病態への関与が示唆されている.我々は,腸内細菌叢のRAの病態への関与を解析した.発症初期のRA患者と健常人の腸内細菌叢を解析すると,一部のRA患者で健常人にはない,Prevotella copriが著明に増加している腸内細菌叢を有していた.RAで認められる腸内細菌叢の変化が,RAの結果なのか,原因となるのかを解析するために,関節炎を発症するSKGマウスを用いた.SKGマウスに抗生物質を経口投与し,腸内細菌叢を排除すると関節炎を発症しなくなることから,SKGマウスの関節炎の病態には腸内細菌が関与していることが示唆された.そこで,SKGマウスをgerm-free化し,健常人(HC)型,RA型の腸内細菌叢を定着させ,HC-SKGマウス,RA-SKGマウスを作成した.そして,RA-SKGマウスは,HC-SKGマウスに比べて重症の関節炎を発症した.この結果から,関節リウマチ患者で認められる腸内細菌叢の変化は,RAの発症に深く関わっていることが示唆された.
著者
坪井 洋人 飯塚 麻菜 浅島 弘充 住田 孝之
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.77-85, 2013 (Released:2013-04-28)
参考文献数
23
被引用文献数
3 4

シェーグレン症候群(SS)は唾液腺炎・涙腺炎を主体とし,様々な自己抗体の出現がみられる自己免疫疾患である.SSでは,種々の自己抗体が検出されるが,SSに特異的な病因抗体はいまだ同定されていない.外分泌腺に発現し,腺分泌に重要な役割を果たすM3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)に対する自己抗体(抗M3R抗体)は,SSにおいて病因となる自己抗体の有力な候補であると考えられ,近年注目されている.我々のグループの研究で,M3Rのすべての細胞外領域(N末端領域,第1,第2,第3細胞外ループ)に対して,抗M3R抗体の抗体価および陽性率は健常人と比較してSS患者で有意に高値であった.またSS患者において,抗M3R抗体はM3Rの細胞外領域に複数のエピトープを有することが明らかとなった.さらにヒト唾液腺(HSG)上皮細胞株を用いて,塩酸セビメリン刺激後の細胞内Ca濃度上昇に対する抗M3R抗体の影響を解析した.抗M3R抗体の細胞内Ca濃度上昇に対する影響は,抗M3R抗体のエピトープにより異なる可能性が示唆された.興味深いことに,M3R第2細胞外ループに対する抗M3R抗体陽性SS患者のIgGと,我々が作成したM3R第2細胞外ループに対するモノクローナル抗体は,ともにHSG細胞内Ca濃度上昇を抑制した.M3R第2細胞外ループに対する抗M3R抗体は,唾液分泌低下に関与する可能性が示唆された.   以上の結果より,抗M3R抗体は複数のエピトープを有し,唾液分泌への影響はエピトープにより異なる可能性が示された.抗M3R抗体はSSにおける病因抗体としての可能性のほか,診断マーカーや治療ターゲットとなる可能性も期待される.
著者
門野 岳史
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.242-248, 2010 (Released:2010-10-31)
参考文献数
44
被引用文献数
2 3

血球細胞はまず皮膚の血管内皮細胞によって捕獲(capture)され,血管に沿って転がり(rolling),固着する(firm adhesion).その後,血管内皮細胞を通り抜け(transmigration),血管外へと遊出し(diapedesis),皮膚へと浸潤する.これらの過程には様々な細胞接着分子が重要であり,例えばcaptureおよびrollingはセレクチンファミリーによって主に制御される.セレクチンファミリーはL-selectin, P-selectin, E-selectinよりなり,これらの分子の阻害により皮膚の炎症が減弱する.Firm adhesionにはインテグリンファミリーが重要であり,その主なものとしてβ2 integrinとそのリガンドであるICAM-1およびα4 integrinとそのリガンドであるVCAM-1がある.これらの分子の阻害によっても皮膚の炎症は減弱する.Transmigrationおよびdiapedesisに関与する分子に関しても,PECAM-1, CD99, JAMの阻害により皮膚の炎症が改善した報告がみられている.今後,これら様々な細胞接着因子を抑えることにより,皮膚の炎症を制御することが期待される.