著者
藤田 雄司 森 文樹 河野 和明 藤原 敏典 吉岡 嘉明 田村 陽一 江里 健輔
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.2063-2066, 1993-08-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
10

炎症性腹部大動脈瘤の発生頻度は腹部大動脈瘤の約20%前後であることが報告されてから,最近急速に注目されている.今回われわれは炎症性腹部大動脈瘤の1例を経験したので,最近の治療法をふまえて報告する.症例は62歳の女性で,夜間の発作性腹痛・腰痛を主訴とした.血圧は正常で,貧血や炎症所見あるいは,尿路系障害もなかった.腹部エコー及びCTでは,腎動脈分岐部直下に最大横径4cm, 縦径8.5cmの紡錘状動脈瘤を認めた.動脈壁は約1cmとマントル状に肥厚し,壁内には石灰化があった.瘤壁は約1cm厚に肥厚,線維化しており,内膜には中等度の動脈硬化性変化が認められるに過ぎなかった.径18mmY型Dacron人工血管にて置換術を行った.組織学的には,炎症性腹部大動脈瘤であった.本症は破裂しにくいと言われているが,症状を伴う場合には積極的に手術をすべきである.
著者
蜂須賀 康己 三好 明文 福原 稔之 小林 展章
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.985-989, 1997-05-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
14

高校の野球部の練習中に行われた,発声訓練が誘因となって発症したと思われる特発性縦隔気腫の1例を経験した.症例は15歳の男子高校生.両頸部違和感と咽頭痛を主訴に来院した.胸部X線単純写真および胸部CTにて典型的な縦隔気腫を呈し,保存的治療にて約10日で軽快した.特発性縦隔気腫は若年男性に好発する比較的稀な疾患で予後良好とされている.最近6年間における38例について,本疾患の臨床像を検討した.胸痛や呼吸困難を訴え,皮下気腫を認め,発症時に胸腔内圧が上昇するような誘因がある場合は本症を疑う必要がある.
著者
中川 国利 桃野 哲
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.2708-2711, 1990-12-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
8

成人の腸重積症は稀であるが,われわれは腸重積症を来した回腸悪性リンパ腫の1切除例を経験したので報告する. 症例は26歳の男性で,5ヵ月前より心窩部痛があった.来院時嘔気もあり,腹部単純X線写真にて小腸にガス像を認めた.また右側腹部に小児手拳大の腫瘤を触知した.腫瘤はCT検査や超音波検査では同心円状の所見を呈し,注腸造影や大腸内視鏡検査では回腸腫瘍を先進部とした腸重積を認めた.開腹術を施行したところ,Bauhin弁より22cm口側の回腸に3.0×3.0×2.5cmの腫瘍を認め,それを先進部とした回腸回腸,さらに回腸結腸の二重性腸重積を来していた.また周囲リンパ節に転移を認めたため結腸右半切除を行い,さらに化学療法を術後に行った.組織学的にはdiffuse, large cell型の悪性リンパ腫で,術後4年8ヵ月を経た現在再発は認めていない.
著者
佐藤 徹 松峯 敬夫 西田 広一郎 松尾 聰 福留 厚
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.2478-2482, 1990-11-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
8

Peutz-Jeghers症候群の重要な合併症として腸重積があるが,今回われわれは腸重積を繰返し,4回目の開腹術を施行した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する. 症例は39歳男性で15歳時にPeutz-Jephers症候群と診断されて以来,計3回の開腹術の既往があった,今回イレウスの診断にて転院となり精査にて腸重積を疑い緊急手術を施行したところ,小腸ポリープを先進部とした腸重積に加えて軸方向360度の捻転を認め,絞扼性イレウスと診断,90cmの小腸切除術を施行した.他に十二指腸水平脚に巨大なPolypを認めたが,術後内視鏡的にポリペクトミー施行し,経過良好である.PeutzJeghers症候群は本症例の如く腸重積を繰返す場合がある.特に,多次手術例ではその術前診断に苦慮することがあり,定期的なfollow upと適確かつ迅速な手術適応の判断が必要である.
著者
下松谷 匠 増田 靖彦 谷川 允彦 谷口 哲郎 奈良 雅文 村岡 隆介
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.2366-2370, 1995-11-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
9

ヘルペス脳炎の治療中大量出血,穿孔をきたし,手術にて救命しえた幼児の十二指腸潰瘍症例を経験した.症例は1歳3カ月の女児で,嘔吐を主訴に近医受診し,意識障害を認めたため本院紹介入院となった.意識は深昏睡に陥り,ヘルペス脳炎と診断し, dex-amethasone, acyclovirの投与を開始した.治療開始後大量のタール便を認めたため内視鏡検査を行ったところ,十二指腸からの出血で凝血塊が幽門輪より胃内へ膨隆していた.保存的治療にもかかわらず出血が持続したため緊急手術を行った.十二指腸球部から下行脚にかけての前壁に径約2cmの穿孔を認め,凝血塊などにより覆われていた.胃半切術を行い,再建法はビルロートII法に準じて行ったが,十二指腸断端は閉鎖できず,空腸を十二指腸断端に吻合した.術後経過は良好で3カ月後退院した.
著者
市倉 隆 福留 厚 松峯 敬夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.610-615, 1984-05-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
20

われわれは最近,膵炎に起因すると思われる脾静脈血栓症を伴ったDouble pylorusの1手術例を経験したので報告した. 症例は41歳の男性で,長年の飲酒歴を有する. 28歳頃より左季肋部から背部の疼痛をくり返し,昭和57年5月9日,下血および心窩部痛を主訴に当院内科に入院した.胃X線検査,胃内視鏡検査,選択的腹腔動脈造影など諸検査の結果,脾静脈血栓症による左側門脈圧亢進症,糖尿病,難治性胃潰瘍, Double pylorusの診断にいたり,胃潰瘍に対する内科的治療が無効のため,昭和57年9月8日開腹手術を施行した.手術所見では術前診断に加えて慢性膵炎の所見を認めた.脾剔を行い,また胃切除に際し,冠状静脈を損傷したため胃全剔を施行した.切除胃の病理組織学的検索によると, Pseudopylorusの部位では粘膜筋板の消失,筋層の断裂,円形細胞浸潤,強い浮腫と線維化がみられ,幽門前部の潰瘍が十二指腸球部に穿通してDouble pylorusが形成されたと考えられた. 本症例では, 1) 膵炎, 2) 膵炎由来の脾静脈血栓症による左側門脈圧亢進症, 3) 膵炎由来と思われる糖尿病,の3者が胃潰瘍の発生,増悪,難治性に重要な影響をおよぼしたと推測され,この因果関係を中心に若干の考察を加えた.
著者
宮田 哲郎 松峯 敬夫 石田 孝雄 福留 厚 袖山 元秀 小山 広人
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.1087-1091, 1983-08-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
18

総胆管良性狭窄の治療は手術療法が中心となっているが,胆道系の手術と炎症をくり返している症例や,状態の悪い症例では手術的に狭窄を解除することはかなりの危険を伴なうことになる.我々は胆嚢摘出術後,総胆管狭窄をきたし化膿性胆管炎と総胆管結石とをくり返した症例に対し,減黄のためのPTCD瘻孔を拡張し胆道ファイバーで截石後,小児用挿管チューブでブジーを行ない狭窄部を拡張した.この方法は治療期間が長くなるという問題点があるが,手術療法に比較し侵襲が少なく安全であると思われる.
著者
吉永 圭吾 小山 広人 松尾 聡 福留 厚 松峯 敬夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.1232-1236, 1983-10-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
18

脾嚢胞は比較的稀な疾患とされているが,著者らは最近,上腹部腫瘤を主訴とした68歳女性の巨大仮性脾嚢胞を経験した.重量は5,100gあり,その内容は黄色透明で,血清とほぼ同一の成分であった.従来本疾患は,特有な症状や検査所見に乏しい為,術前診断が困難とされてきたが,超音波検査及びCTスキャンにより容易に脾嚢胞と診断しえた.脾嚢胞は病理組織学的に真性,仮性に大別されるが,著者らが集計した自験例を含む236例では真性119例,仮性105例,分類不明12例となり,真性嚢胞がやや多かった.脾嚢胞は女性にやや多くみられ, 10歳台, 20歳台にピークがある.超音波, CTスキャン,血管造影などの検査により,以前ほど診断は困難でなくなってきている.治療は一般に脾摘出術が行われており,その手術成績,予後は共におおむね良好である.
著者
山下 晃徳 吉本 賢隆 岩瀬 拓士 渡辺 進 霞 富士雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.2726-2731, 1994-11-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
18
被引用文献数
5 4

われわれは嚢胞内乳癌の臨床病理学的特徴をあきらかにする目的で,嚢胞内乳癌と嚢胞内乳頭腫の鑑別診断の可能性,嚢胞内乳癌の嚢胞周囲の乳管内進展を含めた病理組織学的特徴について検討した. 嚢胞内乳癌と嚢胞内乳頭腫との鑑別の可能性は,嚢胞内乳癌31例,嚢胞内乳頭腫23例を年齢,腫瘍径,超音波像などについて比較してみた.嚢胞内乳癌の乳管内進展については, 5mm幅の全割病理組織切片を作成して,癌の広がりをマッピングした. 嚢胞内乳癌は嚢胞内乳頭腫に比べ高齢者に多く, 60歳以上の嚢胞内腫瘍は癌である場合が多かった.また超音波像での両者の鑑別には,嚢胞内の腫瘤の辺縁の形状が大切で,辺縁の不整なものは癌に多いことが分かった. また嚢胞内乳癌は非浸潤癌が多く,腋窩リンパ節への転移も少ないが,乳管内の進展についてみると,約4割の症例が嚢胞壁より2cm以上乳管内を進展していた.
著者
井田 勝也 神谷 隆 石原 康守 大貫 義則
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.155-158, 1996-01-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
14

鈍的外傷により破裂した肝血管腫の稀有な1例を経験したので報告する.42歳男性で,ソフトボールのプレー中に,他人の肘が右季肋部に当たりショック状態となり来院.画像診断で腹腔内出血と肝右葉の損傷を認め,造影CTで同部位は強く濃染された.肝損傷による出血性ショックの診断で開腹し6,000ccの出血を認めた.肝右葉切除を行い,救命することが出来た. 切除肝の病理診断は海綿状血管腫の外傷性破裂で,摘出標本上の大きさは2×3cmであった.外傷性破裂,自然破裂例共に報告例は5cm以上の巨大肝血管腫がほとんどであり,自験例のような小さな血管腫の破裂は稀である.また,肝外傷においては,並存肝疾患の可能性も念頭におき,診断,治療に当たらなくてはならない.
著者
麦谷 達郎 谷口 弘穀 高田 敦 増山 守 田中 宏樹 小山 拡史 保島 匡和 高橋 俊雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.1295-1301, 1996-06-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
21

肝切除術71例を対象に自己血輸血法の有用性を検討した.貯血式自己血輸血を44例に施行した.術前貯血量は, rh-エリスロポェチン併用群で550g(平均値)とrh-エリスロポエチン非併用群より有意(p<0.05)に多く,採血後のHct値の低下はrh-エリスロポエチン非併用群と同程度に留まった.術中輸血法に関しrh-エリスロポエチン非併用自己血, rh-エリスロポエチン併用自己血,同種血,無輸血に分類し,術後の変化を検討した.術後Hct値は,同種輸血群で回復遅延を認め,第14病日に29.4%と他の3群より低値であった.術後総ビリルビン値,血中肝逸脱酵素は,同種輸血群で第1病日に他の3群に比し有意な上昇を認めた.自己血輸血の2群は無輸血群と同様の経過を示し,総ビリルビン値の上昇も1.20と軽度で,肝切除術には同種輸血は避け,自己血輪血が望ましいと考えられた.また,術前貧血の無い場合,術前貯血量800g, 術中出血量1,500g以下が同種輸血なしに自己血輪血のみで行える指標になると考えられた.
著者
西村 元一 二宮 致 橋本 之方 鎌田 徹 米村 豊
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.951-955, 1993-04-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
15

メネトリエ病の報告例は増加しているが,まだ治療法および癌との関連性に関しては一定の見解が得られていない.われわれは保存的治療で効果が得られず,胃全摘術を施行したメネトリエ病の1例を経験したので,増殖帯の検討も含めて報告した. 症例は34歳男性.低蛋白血症を合併したメネトリエ病の診断で抗プラスミン剤,H2-プロッカーを投与したが無効であったため,胃全摘術を施行した.術後経過は良好で低蛋白血症は認めていない.また切除標本では増殖帯を検討したところ,増殖帯の拡大は認められたが,増殖細胞の密度や分布の異常は認められなかった. 今後,さらに癌化の可能性を探索することが治療法を選択する上での課題と思われた.
著者
阿部 元 沖野 功次 迫 裕孝 柴田 純祐 小玉 正智 中根 佳宏
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.1100-1103, 1992-05-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
20

甲状腺好酸性細胞腫は,好酸性顆粒を多数含む特徴的な細胞からなる腫瘍で,比較的稀な疾患である.著者らは5例の甲状腺好酸性細胞腫を経験したので,臨床的検討を加えた.発症頻度は甲状腺腫瘍初回手術症例の2.4%にみられ,全例女性であった.年齢は38歳から66歳の平均53.8歳であった.症状は前頸部腫瘤のみで,圧迫症状などは認めなかった.甲状腺機能は全例正常であり,頸部軟線撮影,超音波検査,シンチグラムでは特徴的な所見を認めず,良性,悪性の鑑別は困難であった.腫瘍核出術のみは2例,葉切除術が3例に施行された.良性,悪性の鑑別は細胞形態からでは困難であり,被膜浸潤,脈管侵襲の有無で判断した結果,良性が4例,悪性は1例であった.全例とも術後経過良好で,再発を認めていない.
著者
八木田 旭邦 立川 勲
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.446-450, 1987-04-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
20

Behçet病は,病因不明の難治性の疾患である. Behçet病の副症状の1つである腸型Behçetは,神経型あるいは血管型と同様にBehçet病の死因の大部分を占めている. 今回, Behçet病33例のHuman leukocyte Antigen (HLA)の特異性を検討し,更に,腸型Behçet 19例と腸炎を合併しない非腸型Behçet 14例とのHLAの相異を検討した.また,潰瘍性大腸炎170例およびクローン病47例のInflammatory bowel diseaseのHLAと腸型Behçetのそれと比較した. Behçet病ではA31, B51, DR4と有意の相関が見出された.腸炎の有無による検討で,腸型Behçetは非腸型Behçetに比べA31, DRw8, DRw52が有意に低下していたが, DR4とB51は両者で健常者310例に比較して有意に高率であった.腸型BehçetのHLAはB51とDR4に相関し,潰瘍性大腸炎はA24, Bw52, DR2, DQw1と相関し,クローン病は, A31, Bw61, DR4, DRw53, DQw3と相関し,それぞれの特異性が見出された.
著者
芳野 裕明 山下 隆史 田中 俊司 金 義哲 藤本 泰久 宋 星胎 紙野 建人 梅山 馨
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1471-1476, 1985

胆嚢癌は一般に進行癌でみつかることも多く,予後不良症例が多いことから,早期診断の必要性が強調されている.最近,超音波検査が有用であった早期胆嚢癌2例を経験したので報告する.<br> 症例1は, 76歳の女性, 10年前より胆石を指摘されており,主訴は右季肋部痛.超音波検査で,肝内部エコーより軽度エコーレベルの低い腫瘤が,胆嚢底部で不整形に突出し,頸部では内腔に充満したように認められ,悪性腫瘍が疑われた. ERCPにて,胆管膵管合流異常は認めなかった.摘出標本では,胆嚢頸部から底部に散在性に多発した乳頭状腫瘤を認め,混合石10個が存在した.病理組織学的には,高分化型腺癌で一部筋層まで浸潤を認めたが,リンパ節転移はなかった.<br> 症例2は, 35歳の男性,主訴は右季肋部痛.超音波検査で,胆嚢内によく動く結石数個と頸部に体位変換にて動かない2×1.5cm大のやや不整形の腫瘤エコーを認めた.腫瘤の内部エコーは,比較的均一であるがややhyperechoicで, acoustic shadowは認めなかった.腫瘤の大きさや,不整形であることより,腫瘍を疑った. DICでは,胆嚢内に結石と頸部に不明瞭ながら隆起性病変を認めるも,質的診断はなしえなかった.摘出標本では,頸部に乳頭型の腫瘤と混合石1個,ビ系石5個を認め,病理組織学的には , papillotubular adenocarcinomaで,粘膜内に限局していた.リンパ節転移も認めなかった.<br> 早期胆嚢癌の定義はいまだ一定の見解はないが,胆嚢の解剖学的特性や予後より,筋層までにとどまるものを早期癌としている報告が多い.今回の2症例も,早期胆嚢癌と考えられたので,診断ことに超音波検査の有用性,ならびに治療についても若干の文献的考察を加え報告した.
著者
天野 定雄 黒須 康彦 中山 寿之 三宅 洋 松田 健 遠藤 潔 上田 仁 森田 建 佐藤 公望
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.2313-2320, 1991-10-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
13

最近9年間に経験した鼡径部ヘルニア821例について統計的観察を行い,また施行された手術術式,術後合併症,術後再発,術後愁訴などについて検討した.ヘルニア種別頻度では外鼡径ヘルニアが76.1%,内鼡径ヘルニアが13.6%,大腿ヘルニアが8.2%,内外鼡径ヘルニアが1.9%であった.手術術式は外鼡径ヘルニアではMarcy法,内鼡径ヘルニア,大腿ヘルニア,内外鼡径ヘルニアではMcVay法が最も多く行われていた.術後合併症は3.7%に認められ,血腫形成が最も多かった.再発率は全体で3.1%であった.内鼡径ヘルニア型再発と大腿ヘルニア型再発が主であり,これらの症例の中には全身の併存疾患を有していたものが多かった.術式別愁訴に関してはMcVay法で程度は軽いものの牽引痛の頻度が著しく高かった.再発や愁訴を減少させるためには,ヘルニアの基本的な理解と確実な手術手技が重要と思われた.
著者
田中 良太 吉田 治 松田 実 福島 久喜 花岡 建夫 呉屋 朝幸 関 恒明
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.1222-1225, 1997-06-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
15

注入法による豊胸術後乳癌の1例を経験したので報告する.症例は52歳女性, 23年前に注入法による両側豊胸術を受けた.左乳房および左腋窩部腫瘤を触知し増大してきたため当院外来を受診した.造影MRIにて左乳房に腫瘤像が描出され,腫瘤辺縁に輪状濃染像が認められたため乳癌を疑った.腫瘤摘出生検を施行し病理学的に浸潤癌との診断が得られたので定型的乳房切除術を施行した.組織学的には充実腺管癌,鎖骨下リンパ節転移陽性と診断された. 造影MRIが注入異物と乳癌との識別に有用であった.
著者
岩瀬 和裕 竹中 博昭 阪口 勝彦 大畑 俊裕 石坂 透 高垣 元秀 大嶋 仙哉
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.907-910, 1993-04-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
9

持続的気腹時間が70分を越える気腹圧12mmHgでの腹腔鏡下胆嚢摘出術の3例において,腎機能を経時的に測定した.血漿中ヒト心房性利尿ホルモン濃度,血漿中レニン活性,血漿中アンギオテンシンII濃度,自由水クリアランス,ナトリウム排泄分画ならびにカリウム排泄分画は一定の変動を示さなかった.チオ硫酸ナトリウムクリアランスは気腹中にやや低下する傾向が認められた.パラアミノ馬尿酸クリアランスは気腹開始後に漸減し,気腹中は気腹開始前ならびに気腹終了後に比して低値を示した.気腹圧12mmHgといえども,長時間の持続的気腹においては有効腎血漿流量の低下により一時的に尿量が低下する可能性が示唆された.
著者
石川 正美 太田 宏 高原 信敏 大野 昭二 三浦 則正 稲垣 嘉胤 渋沢 三喜 石井 淳一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.331-336, 1984-03-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
19

1982年1月から10月までの10ヵ月間に, 6例の大腸穿孔による,汎発性糞便性腹膜炎を経験したので報告する.同期間における当病院の大腸手術例は68例で,大腸穿孔が占める割合は8.8%であった. 手術はexteriorizationおよびHartmann法を症例によって使いわけ,腹腔ドレナージの他に,術中に腹膜潅流用チェーブを挿入して,術後間歇的腹腔内洗浄を行った.術後合併症のうち,創〓開に対して縫合創に全層マットレス減張縫合を加えて良好な結果を得,未然に防止可能と考えられた.術後endotoxin shockから離脱した後に,心筋梗塞を合併して死亡した症例を経験し,初期shockから回復した後も,発生し得る2次的合併症に対する厳重な観察が必要と考えられた. 汎発性糞便性腹膜炎において,白血球数は比較的早期から低下することが示唆され,発症より14時間を経た症例は全例がshockを発生し, 16時間を経た症例の転帰は極めて不良であった.全体の死亡率は50%であったが, shock合併例の死亡率は75%と高値を示し,発症から手術までの時間に大きく左右されることが示唆された.