著者
大堀 久 津田 喬子
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.7-13, 1997

星状神経節ブロック(SGB)後の1回換気量減少の機序を明らかにする目的で,SGB療法中の患者を対象にSGB前,後の二酸化炭素(CO<sub>2</sub>)換気応答をReadの再呼吸法を応用して解析した.対照群として健常者に,生理食塩水の星状神経節部注入を行ない同様の検討をした.終末呼気CO<sub>2</sub>分圧を横軸に,1回換気量あるいは分時換気量を縦軸にとり,比較したところ,局麻薬によるSGB後には傾きが減少した.しかし生理食塩水の注入では一定の傾向を認めなかった.SGBはCO<sub>2</sub>換気応答を抑制し,それが安静時1回換気量,分時換気量,SpO<sub>2</sub>の減少の一因である可能性が示唆された.
著者
中塚 秀輝 佐藤 健治
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.836-846, 2008-09-12 (Released:2008-10-17)
参考文献数
26

ロクロニウムは効果発現が速いことを特徴とするステロイド系の中時間作用性筋弛緩薬であり, 筋弛緩効果からの回復を考えるときには, 揮発性吸入麻酔薬など筋弛緩薬の効果を増強する因子の影響を考慮する必要がある. 抗コリンエステラーゼ薬により筋弛緩作用の拮抗が可能であるが, 筋弛緩からの必要十分な回復の判断は難しく, 拮抗薬の投与時期とその副作用には注意が必要であり, 筋弛緩モニターによる管理を要する. スガマデクスはロクロニウムを直接包接することで筋弛緩作用を拮抗する直接的筋弛緩拮抗薬である. 臨床試験では深い筋弛緩状態からの迅速な拮抗も可能であり, 重篤な副作用もみられていない. 臨床使用可能になれば, 術中・術後の患者の安全性に寄与すると考えられ, 今後の発展が期待される.
著者
中江 裕里 高橋 俊彦 宮部 雅幸 並木 昭義
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.189-192, 1993-03-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
15

軽度の耳下腺腫脹と著明な血清アミラーゼ値の上昇により術後耳下腺炎と診断された症例を経験した.耳下腺の腫脹は手術後1日目から6日間持続したが,炎症症状を欠き,局部の冷却湿布と通常の上腹部手術術後管理に準じた抗生剤および輸液管理により軽快した.耳下腺腫脹の原因としては手術中のバツキングによる腹圧上昇,気管内チューブによる咽頭反射の亢進による唾液腺の静脈うっ血に起因する耳下腺管の閉塞が考えられた.術後耳下腺炎はまれな合併症であるが,日常の麻酔管理における操作が原因となりうることを常に銘記すべきと思われた.
著者
中川 博美 佐和 貞治
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.148-155, 2017-03-15 (Released:2017-04-21)
参考文献数
19

透析患者において,術前摂取水分・電解質の安全域の狭さと胃内容排出遅延の可能性に留意し,術前経口補水療法(以下,ORT)の安全性と有用性を検討した.透析患者の一般予定手術症例200例を対象とし,ORT群と輸液群で麻酔導入前の血清電解質・血糖値,水分負荷指標として手術後の体重増加率を比較した.また,胃幽門部断面積と胃液量から麻酔導入時の胃内容を評価した.ORT群では摂取した水分量,電解質と糖は輸液群より多かったが,電解質異常や高血糖症を呈した症例数は輸液群より有意に少なかった.体重増加率と胃内容量は両群間で差がなかった.透析患者でも術前ORTは安全で有効な体液管理法である.
著者
高橋 敬蔵 坂本 勇人 高橋 俊一 奥富 信博 山中 郁男
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.130-138, 1982

Pancuronium およびその生体内代謝産物は Spectrofluorimetric metbod によれば overall として測定される. また Pancuronium は蛋白結合, 脂肪溶解により不活性化される. したがって血中 Pancuronium の濃度そのものが効果を示すと解釈することは困難である. 著者らはマグヌス法において蛙腹直筋の Acetylcholine による収縮に及ぼす血清量 (蛋白量) ならびに Pancuronium の影響を検討した結果, 血清蛋白量の増加に伴って Pancuronium の不活性化が著しく, 蛋白濃度が1.4g/dl以上では72%以上の抑制がみられた. 成人に4mgの Pancuronium Bromide を bolus に静脈内投与後5分に0.48, 30分0.4, 60分0.3 (&mu;g/ml) に相当する生物学的活性濃度を認めた.
著者
増井 健一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.410-414, 2018-05-15 (Released:2018-06-23)

2016年はAlphaGo(Google DeepMind)がプロの高段囲碁棋士に勝利したニュースや公道での車の自動運転実験のニュースなど,自ら学習する人工知能のニュースが多い1年であった.麻酔の分野で人工知能に関連することというと「自動麻酔」が思い浮かぶ.現状でも麻酔薬の設定濃度が維持される自動システムが存在する.全身麻酔薬の効果を一定に維持するように薬剤投与を行う「自動麻酔」システムには,精度を保った脳波モニタリングと連続した実測濃度測定が必要となる.コンピュータのアシストによる麻酔管理は,麻酔科医の欠点を補い医療の質を向上させると考えられる.
著者
古志 貴和
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.275-281, 2017-03-15 (Released:2017-04-21)
参考文献数
7
被引用文献数
2

椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの腰椎変性疾患や慢性痛に対して,腰椎手術はあらゆる年齢層に対して広く行われている.適切な診断,手術治療により症状が軽減するものが大部分を占める一方で,術後経過の芳しくない脊椎手術後痛症候群(failed back surgery syndrome:FBSS)が存在する.FBSSの原因は多岐にわたり,医療者の努力で防ぐことができるものとできないもの,さらには原因のわからないものが混在する.今回,FBSSに関し,自験例に文献的考察を加え,その原因と対策について検討を行った.
著者
白石 義人
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.341-345, 2018-05-15 (Released:2018-06-23)

日本における薬物依存や乱用による事件が社会的問題となっている中で,われわれ医療者(麻酔科医)は患者を薬物依存に陥らせないようにすべきことはもちろんである.しかし自分自身が薬物依存に陥ってしまうことは,医療者の社会的信用を失墜し,医療倫理にも反する.残念ながら日本においては処罰(刑事罰,行政処分)という概念が先行して,薬物依存に対する予防・啓発活動,治療システムの構築,さらには社会復帰という各段階を支援し実施する体制は現状では極めて貧弱であると言わざるを得ない.日本における薬物依存の現状や医療者の薬物依存に対する日本麻酔科学会のこれまでの取り組みを概説する.今後とも医療者の薬物依存の存在と危険性を医療者の共通認識とするために継続的に情報を発信していきたい.
著者
山田 博胤 玉井 利奈
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.001-007, 2012 (Released:2012-02-16)
参考文献数
9

手術患者の安全を確保することは,麻酔科医の最重要任務である.周術期におけるイベントを予知,そして予防すること,イベントが起きた際には適切に対処することが望まれる.この命題を完遂するにあたり,心エコー検査により得られる情報は非常に有用である.しかし,循環器内科医あるいは検査技師が施行した経胸壁心エコー検査(TTE)の報告書を読むことはしても,自らTTEを行う麻酔科医はまだ少数である.麻酔科医が術前に行うべきTTEは,循環器内科で行うfull studyとは異なるfocused studyである.一般的には,(1)左室収縮能,(2)大動脈弁狭窄の有無,程度,(3)右室負荷(肺高血圧)の有無,程度,(4)下大静脈の径と呼吸性変動の有無(静脈環流量の推定),(5)心不全(左室拡張不全)の有無,(6)心膜液貯留の有無およびその程度,の情報が取得できれば,周術期のリスクマネジメントに非常に有用である.
著者
北條 美能留 石井 浩二 原 哲也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.355-360, 2017-05-15 (Released:2017-06-17)
参考文献数
7

がん疼痛の薬物療法における非オピオイド鎮痛薬の役割は重要である.非オピオイド鎮痛薬の使用によりオピオイドの副作用軽減が可能になることもある.非オピオイド鎮痛薬は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とアセトアミノフェンに大別される.NSAIDsはその作用機序の特徴から消化管障害,腎機能障害,血小板障害などのリスクがある.近年,さらに心血管系のリスクも存在することが明らかになった.一方,アセトアミノフェンは肝機能障害に関して注意が必要である.本稿ではがん疼痛治療に際し,非オピオイド鎮痛薬選択に関して注意すべき点を中心に概説する.

1 0 0 0 OA 痛みの評価法

著者
濱口 眞輔
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.560-569, 2011 (Released:2011-08-15)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

痛みの評価は診断と治療効果の判定に不可欠であり,科学的信頼性と妥当性を有する方法が理想的である.また,患者が痛みを複数の医師に同様に伝えられ,医師も主観によらずに患者の状態を把握できる方法でなくてはならない.評価法としては言語や数字,視覚スケールによるものが簡便であり.疼痛外来などで頻用されている.そのほかには痛覚伝導系刺激やサーモグラフィなどの機器を用いた評価法,画像診断による評価法がある.痛みは患者の持つ内的経験であるため主観的評価となりやすく,外部からの客観的評価は非常に困難である.したがって,主観的評価法と客観的評価法を正しく理解して施行し,機器による評価では機器の特性を十分に理解して施行する必要がある.
著者
中山 雄二朗 小寺 厚志 宮崎 直樹 上妻 精二 瀧 賢一郎 大島 秀男
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.223-231, 2012 (Released:2012-04-25)
参考文献数
13

われわれは,過去5年間にArtzの基準で重度熱傷と分類され,熊本医療センターで手術が施行された46症例を対象として,在院死亡の予測因子を検討した.各因子の予測の精度はReceiver Operating Characteristic曲線下面積(AUC)で検討した.在院死亡は12例で在院死亡率は約26%であった.AUCは熱傷指数で0.88,熱傷予後指数で0.85,総熱傷面積で0.84,受診時の白血球数で0.84と,それぞれ高値を示した.白血球数は一般的かつ簡単に測定される検査値であるが,算出が複雑な熱傷予後指数や総熱傷面積と同程度に,重度熱傷患者の在院死亡の予測に有用な因子である可能性が示唆された.

1 0 0 0 OA 脳神経蘇生

著者
黒田 泰弘
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.364-372, 2018-05-15 (Released:2018-06-23)

てんかん重積状態,特に非痙攣性てんかん重積状態において,てんかん発作の管理,持続脳波モニタリングが重要である.脳梗塞超急性期における血栓溶解療法のtime windowが発症後4.5時間まで延長された.脳梗塞超急性期において,条件を満たした場合に,rt-PA投与に加えてステント型血栓回収機器を用いた再開通療法が勧められる.一過性神経発作(TNA)例においては椎骨脳底動脈系脳梗塞の発症リスクに注意する.敗血症関連脳症は,感染による全身性反応の結果として生じたびまん性脳機能障害で,昏睡もしくはせん妄を呈する.重症熱中症では,呼吸・循環を含む全身管理とともに体内冷却を併用し,ICU管理を行うことが望ましい.
著者
中馬 理一郎 星野 裕子 田中 修 尾原 秀史 岩井 誠三
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌
巻号頁・発行日
vol.8, no.6, pp.502-508, 1988

腎不全患者におけるベクロニウム (Vb) の神経筋遮断効果と薬動力学について, 10人の慢性人工透析患者を対象として検討した. 麻酔はGOFで行ない, Vbを0.08mg/kg1回静注し, 5人の患者は血中濃度を high performance liquid chromatography により測定し, 残り5人の患者は神経筋遮断効果をABM<sup>&reg;</sup>を用いて判定した. T<sub>1/2</sub>(&beta;)は15.3&plusmn;1.0分, クリアランスは3.0&plusmn;0.7m<i>l</i>/kg/minで, 正常腎機能患者における矢島18), 青木23)らの報告と同じ傾向を示した. 作用発現時間2.61&plusmn;0.63分, 回復時間16.6&plusmn;2.4分, 持続時間54.1&plusmn;18.7分で正常人と有意差はなかった. 蓄積効果についてはさらに検討が必要であるが, Vbは腎不全患者にも安全に使用できると思われた.
著者
丸山 一男
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.392-399, 1999-07-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
9
著者
水谷 仁 青野 麻由 渡部 愛子 三宅 絵里 佐伯 茂 小川 節郎
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.87-89, 2010-01-15 (Released:2010-02-19)
参考文献数
3

血清コリンエステラーゼ (ChE) が異常に低値を示した症例の麻酔を経験した. 症例は, 74歳, 女性. 今回, 胆石症に対し開腹胆嚢摘出術が予定された. 手術・麻酔歴はなく, 既往として悪性貧血, 高血圧を指摘されていた. 近医での血液検査でChE値の異常低値が20年にわたり認められていたが, 自覚症状がないため経過観察とされていた. 麻酔は, 胸部硬膜外麻酔併用全身麻酔を選択し, 術中は脱分極性筋弛緩薬, エステル型局所麻酔薬を避け, ベクロニウム, メピバカインを使用し特に問題なく手術, 麻酔を終了した. 血清コリンエステラーゼは薬物代謝に関与しているので, 術中に使用する薬剤の選択には十分な注意が必要と考える.
著者
紺野 愼一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.703-708, 2013 (Released:2013-11-09)
参考文献数
22
被引用文献数
1

慢性痛には心理社会的因子が深く関与している.しかし,患者の心理的因子を評価するのは容易ではない.そこで,われわれは外来で施行可能な問診票BS-POP(Brief Scale for Psychiatric Problems in Orthopaedic Patients)(整形外科患者に対する精神医学的問題評価のための質問票)を作成した.BS-POPはすでに信頼性,構成概念妥当性,基準関連妥当性,再現性,および反応性が計量心理学的に検証されている.心理社会的因子を評価せずに手術等の侵襲的な治療を行うと,症状は回復せずにむしろ悪化することが少なくない.リエゾン治療の必要な慢性痛を呈する症例では,心理社会的側面の洞察と同時に,症例によっては脳機能を評価した上で治療を行う多面的アプローチが重要である.