著者
小関 純一 高橋 達児
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.308-316, 1975-12-25

寒地型牧草6草種を6年間にわたって,一応放牧条件を想定した刈取管理のもとで多・少肥の2段階の施肥処理を設けて栽培した。その結果について草生の変化を,主として夏がれ現象の点から解析し,つぎの知見が得られた。1)夏期前回再生期間中の平均気温上昇および梅雨期雨量の増大と夏がれ発生との間に密接な関係が認められた。2)多肥区の場合に各草種とも,上記の関係はとくに明らかであり,これら二つの要因の影響の度合は,オーチャードグラス>ペレニアルライグラス>レッドトップ>トールフエスク>ケンタッキーブルーグラスの順に小さくなった。少肥区では,夏がれに弱いペレニァルライグラスとオーチャードグラスのみ同様な関係はみられたが,その影響度合は多肥区に比して,著しく小さかった。3)これら気温と雨量の各要因別の影響度合はそれぞれ草種により異なる。たとえば,ペレニァルライグラスは両者とも大きく影響するが,レッドトップは気温により大きい影響をうけ,雨量の多少はあまり関係しない。4)以上のように,従来から夏がれ発生の原因として挙げられていた気温,干ばつ,病虫害などに,本邦においてはモンスーン地帯の特徴である梅雨の影響を加える必要が認められた。
著者
渡辺 潔 高橋 佳孝
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.291-296, 1981-10-30
被引用文献数
1

刈取りの早晩が牧草無機成分の含有率と吸収量に及ぼす影響を明らかにするため,オーチャードグラスの2,3番草の再生に伴う無機成分含有率の推移を,追肥量を変えて週1回の間隔で各8週間追跡調査した。2番草と3番草への追肥量は,それぞれ多肥区ではN 0.8,P_2O_5 0.4,K_2O 0.7kg/a,中,少肥区ではその1/2と1/4にした。無機成分含有率は,刈取り追肥後の経時的変動が大きいが,3番草のP含有率を例外にすれば,追肥量による差は比較的小さく再生に伴って各区ともほぼ平行に変化した。すなわち,2,3番草のN,K,Mg含有率と2番草のP含有率は刈取追肥後1〜2週で高くその後は徐々に低下して約6週で最低になり,2,3番草のCa含有率は3〜4週で高い中高の推移になったが,3番草のP含有率だけは追肥量により異なる推移を示した。再生に伴う無機成分含有率の変化は,N(1.6〜5.1%)で大きく,K(2.2〜4.2%)でやや大きく,P(0.38〜0.51%)Ca(0.34〜0.47%)で小さく,Mg(0.23〜0.28%)でとくに小さくなった(数値は2番草と中肥区の例)。枯死部では,生体部より,N,P,K含有率は低いがCa含有率は高く,Mg含有率も高い場合が多くなった。生体部のN吸収量は平均生産力(乾物収量/再生期間)最大期すなわち刈取追肥後4〜5週で最大になり,生体部のP,K,Ca,Mg吸収量は約6週で最大になった。生体部のN含有率がほぼ最低になる刈取追肥後6週では平均生産力最大期に比較し,乾物収量は多いがN含有率が低いのでN吸収量はほとんど変らず,Nの乾物生産効率(乾物収量/N吸収量)は大巾に高まった。したがって,過繁茂になりにくい少,中肥条件では,平均生産力よりNの乾物生産効率を重視し,刈取追肥後約6週で刈り取るのが適切と考えられる。
著者
山下 雅幸 阿部 純 島本 義也
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.459-468, 1993-03-31
被引用文献数
2

ペレニアルライグラスの2倍体品種の遺伝的分化を明かにするために,8アイソザイム遺伝子座(Aco1,Aco2,Aph1,Got3,Pgi2,Pgm1,Poxおよび6Pgd1)の対立遺伝子頻度の変異を解析した。ペレニアルライグラスにおける8アイソザイム遺伝子座の遺伝子多様度は81%が品種内,19%が品種間であることが示された。いくつかの遺伝子座において,対立遺伝子頻度が育成国を異にする品種群の間で異なり,これらの品種群の間に遺伝的分化が生じていることが示唆された。さらに,対立遺伝子頻度に基づいて主成分分析を行った結果,オランダ,ドイツおよびU.S.A.で育成された品種の散布図に特徴が観察された。オランダ,ドイツおよびデンマークの品種群は互いに遺伝的距離が近く,1つのクラスターを形成した。U.S.A.の品種群は異なるクラスターを形成したが,これら2つのクラスターの遺伝的距離は近かった。オセアニアで育成された品種群は,ヨーロッパ諸国の品種群から遺伝的距離が最も遠かった。
著者
川鍋 祐夫 Neal-Smith Cedric A.
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.216-221, 1979-10-31
被引用文献数
2

東アフリカの1,170mから2,270mまで異なる標高の地域に起源をもつローズグラスの四品種と,南アフリカに原産した市販種とを,15/10から36/31℃まで五段階の昼/夜温で三週間処理して生育量を調査し,RGR,NAR,LWRを求め,品種間比較を行った。各品種はほぼ同じような温度生育関係を示し次のように結論された。生育の最低温度は15/10℃とみられ,これより27/22℃ぐらいまで温度が高まれば高まるほど旺盛な生育をする。生育適温は27/22℃またはこれより高い所にあり,36/31℃では乾物生産量は最大であったが,ほふく茎の発生などには高過ぎる温度である。高標高地起源のNzoiaおよびMassaba,ならびにPioneerは,低標高地起源のSerereおよびMpwapwaより15/10℃の低温における生育が優れ,NAR,出葉数などが大であり低温適応性を有するものと認められた。この結果から原産地の気象条件と品種の温度反応との間には,密接な関係があると指摘された。
著者
杉信 賢一 鈴木 信治 小松 敏憲
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.300-308, 1989-03-31
被引用文献数
3

採種栽培時におけるイタリアンライグラスの耐倒伏性を高めるため,この選抜に必要な個体レベルでの耐倒伏性と,関連形質の変異及び相互関係を明らかにしようとした。耐倒伏性が強く直立型のワセアオバと,耐倒伏性が弱くて中間型のワセヒカリの2品種を供試し,検討を行った。1981年8月下旬に播種,10月中旬に圃場に個体植えした材料について,翌年,耐倒伏性,種子収量及び関連形質の調査を行った。両品種とも出穂始めころから倒伏が始まり,登熟が進むにしたがい倒伏が著しくなったが,常にワセアオバがワセヒカリより倒伏の程度が低かった。一方,種子収量はワセヒカリがワセアオバより42.5%高かった。ワセアオバでは耐倒伏性の優れた個体は,出穂日が晩く,出穂から開花までの日数が少なく,草型は直立型で,最上位節間が長く,最太節間径が太く,茎数,二次分げつ茎数・穂数及び頴果数が少なくて,曲げ抵抗が強い傾向が認められた。ワセヒカリで耐倒伏性の優れた個体は,葉の下垂度が大きく,最太節間径が太く,茎数及び二次分げつ茎数とも少なく,穂重/稈重比が小さく,1穂当たりの小穂数が多く,穂重及び1穂当たりの種子重が重い傾向が認められた。ワセヒカリで種子収量の優れた個体は,穂数は多いが,二次分げつ茎数が少なく,穂重/稈重比が大きく,1穂当たりの種子重が重い傾向が認められた。耐倒伏性と重相関の高い形質として,ワセアオバでは最上位節間長,出穂時の草丈,出穂日,草型及び曲げ抵抗の5形質が選択され,ワセヒカリでは曲げ抵抗,出穂時の草丈,最上位節間長,二次分げつ茎数,最太節間径,穂重/稈重比及び葉長の7形質が選択された。種子収量と重相関の高い形質として,両品種とも1穂当たりの種子重と穂数が選択され,これに加えて,ワセヒカリでは,出穂時の草丈,主茎分枝数,最上位節間長及び主茎節数が選択された。耐倒伏性と種子収量との複合形質と関連の強い形質として,両品種とも耐倒伏性及び種子収量自体が選択され,これに加えて,ワセアオバで小穂数,最上位節間長,葉型,出穂日及び上第二位節間長,ワセヒカリで二次分げつ茎数が選択された。以上の結果から,採種栽培において高種子重を保ちつつ耐倒伏性を高めるには,1穂当たりの種子重を高めるとともに,これを支える茎基部の節間径を太くして,曲げ抵抗力の大きい強健な茎を持つ植物を選抜することが有効と結論された。
著者
田村 良文 石田 良作 星野 正生
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-9, 1981-04-30

本研究では秋季自然条件下に生長した栄養生長期のイタリアンライグラスにおける非構造性炭水化物(NSC)の含有率およびそれに関連する特性の品種,あるいは個体間差異を究明し,育種への基礎的な資料を提供することを目的とし,本報では4倍体イタリアンライグラス28品種を用い,品種間差異を検討した。1)茎のNSC含有率については,Lolium multiflorumがL. westerwoldicumに比較して,また,L. multiflorumの中ではヨーロッパ原産の品種が日本およびウルグアイ原産の品種に比較して,あるいは晩生が早生に比較して高い値を示す傾向が認められた。また,この傾向は11月21日に比較して,より低温,低日射量条件であった12月12日においてより顕著であった。2)茎と葉身のNSC含有率間には高い有意な正の相関が認められた。3)アルコール溶性区分法により分画された単・少糖類およびフラクトサンのいずれの含有率にも明確な品種間差異が認められた。4)NSC含有率の品種間差異は主としてフラクトサン含有率の,とくに80%および70%エタノールにより抽出される相対的に低分子のフラクトサン含有率の品種間差異に起因しており,単・少糖類含有率の品種間差異とは明確な関係を示さなかった。5)草種あるいは原産地により分別された各品種群内では,NSC含有率が高いほどフラクトサンの平均的な重合度も高い傾向を示すものと推察された。6)NSC含有率と茎の乾物率間には,全品種を込みにした条件下で,極めて高い有意な相関が認められた。茎の乾物率はNSC含有率の品種間相対差を表わす指標になりうるものと考えられる。
著者
斎藤 道雄
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, 1967-05
著者
楊 中〓 菅原 和夫 伊藤 厳 丸山 純孝 福永 和男
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.102-108, 1987-07-31

待機利用条件下におけるオーチャードグラスの種子登熟歩合と自然落下率の変化および春の刈取りが種子生産に及ぼす影響を検討するため,帯広と川渡において実験を行った.主要な結果は以下のとおりである.1)出穂開始の約70日後に約50%の種子が自然落下し,この時点ではすでに種子の大部分が発芽能力を有していた.したがって,利用の待機期間をこの時期までとしれば,確実に自然落下種子量を確保することができるものと考えられる.2)5月28日から6月10日(出穂開始日)までに帯広で行った刈取り実験では,早い時期の低刈りおよびやや遅い時期の高刈り処理によって,出穂茎の形成がある程度促進され,出穂1週間前までの刈取り処理のほとんどが種子の生産に大きな影響を及ぼさないことが認められた.しかし,出穂の3日前以降の刈取り処理におけるオーチャードグラスの出穂率,種子の千粒重および発芽率は著しく低下した.3)オーチャードグラスの春の刈取りによる地上部除去量と幼穂の被害率との間にS字曲線を示す関係が認められた.地上部除去量が40cm以上になると,幼穂の被害率が急激に増加した.したがって,春の利用量がこれ以下であれば,種子生産に及ぼす影響がほとんどないものと考えられる.4)帯広と川渡のいずれにおいても出穂の10日前までの刈取り処理では,オーチャードグラスの出穂に及ぼす被害はほとんど認められなかった.以上の結果から,オーチャードグラスの春における利用は,適切であれば,種子生産に及ぼす影響がほとんどないことが明らかになった.自然下種による植生回復を効率よく行うための種子量を確保するためには,出穂の10日前から70日後までの休牧期間が必要である.
著者
土田 茂一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.170-173, 1966-11-30

青刈類の省力・多収をはかり圃場の合理的利用の面から青刈トウモロコシとニューソルゴーの混播を取り上げ,とくに初回刈りの時期と生草収量の関係を検討し1た。1.混播はそれぞれの単播に比較して概して多収となり,青刈トウモロコシを2回作付した合計収量に対して約3.0%,ニューソルゴー単播に対して約20.0%の増収となった。2.初回の生草量は青刈トウモロコシが主で,刈取りが遅くなるにしたがって増加の傾向を示したが,7月下旬以後は停滞した。そしてこのことが混播の生草収量に関係深いことを認めた。3.混植中のニューソルゴーは生育が劣り,混植期間が長くても生草量の増加は少ない。初回刈り後のニューソルゴーは,初回の刈取りが遅くなるほど少なく,とくに7月下旬以降に刈った場合は再生がいちじるしく劣るようであった。再生に最もよい初回刈りの時期は7月上旬であり,刈取ごとの収量も平均していた。4.混播の総生草収量は6月24日刈りが少ない以外,各区間に大差はなかった。しかし7月下旬以降の初回刈りでは,青刈トウモロコシの硬化が進むため青刈り給与の利用率は低下する。したがって青刈りの場合は生草量および利用の面やニューソルゴーの再生などからみて7月上旬頃の初回刈りがよく,サイレージ材料としては7月下旬に初回刈りし,ニューソルゴーは1回,刈りするのが適当と考える。
著者
山名 伸樹 亀井 雅浩 平田 晃 竹内 愛国 広兼 信夫
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.30-37, 1998-04-30
被引用文献数
3

収量が低下した草地の収量回復や草種構成の改善などの作業を省力的かつ低コストに行うため, ロータリ耕転装置をベースにして細幅作溝を行い, シードペレットあるいは種子, の追播, 施肥, 鎮圧を1行程で行うペレット種子用と通常の種子用作溝型簡易草地更新機を開発した。 ペレット用更新機は, 作業幅2.2mで, ホッパ容量, 機体質量等の改善点はあるが, 良好な作業精度は確保できた。また, 作溝条数8条, 作業幅2.16mで作溝部を2枚の直刃とL刃で構成した種子用の更新機(2号機)での更新作業は, 植生改善, 草地の収量増に効果的であることが実証できた。なお, 種子用2号機の適応トラクタの大きさは44kW以上と判断された。
著者
鈴木 信治 稲波 進 桜井 康雄
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.33-41, 1969-04-20
被引用文献数
6

アルファルファの60品種について,'65年と'66年に生育特性を検討し,品種を5群に群別した。その群別経過と各群品種の生育特性は次の通りであった。1.春の草丈伸長経過,草勢,刈取り後の再生,秋の草丈,草勢など14項目の調査形質にそれぞれ著しい品種間差異が認められ,各間の相関も高かった。2.群別の指標としてこれら形質を用い,その分級基準にしたがって区分し,最終的に群別指数を算出した。群別はこの群別指数によって行なった。3.I群品種は直立型で萠芽が早く,秋おそくまで生育し,夏の再生もよい。すなわち環境条件に鈍感な特性をもち極暖地適応品種と推定された。II群はI群ほど極端ではなく暖地適応品種と推定,III群は中間地に適応し,IV群はやや寒地型である。V群は葡伏型で萠芽,再生とも緩慢で刈取り利用期間も短く,環境に敏感に反応する寒地適応品種群と考えられる。4.以上の群別により品種の特性比較が容易になり,従来より幅広く,かつ系統的に暖地適応品種を知り得た。
著者
新発田 修治 嶋田 徹
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.102-108, 1986-07-31
被引用文献数
5

世界各地から収集したオーチャードグラスの27品種について,秋季の炭水化物含有率,耐凍性,および雪腐大粒菌核病抵抗性を調査し,これら3形質相互の関連について検討した。初秋に播種した幼植物の越冬前における耐凍性は品種によって異なり,1月の平均気温が低い育成地の品種ほど耐凍性が大きかった(r=-0.707)。幼植物の炭水化物含有率は,いずれの品種も還元糖(RS)<非還元糖(NS)<全糖(TS)<フクトサン(FS)<水溶性炭水化物(WSC:TS+FS)の順に高かった。RSを除くこれら画分と耐凍性との間には有意な正の相関々係があり,とくにWSC含有率との間に最も高い相関係数(r=+0.673)が得られた。また,各画分と乾物率との間にも有意な正の相関々係があり,特にWSC含有率と乾物率との間に最も高い相関係数(r=+0.710)が得られ,乾物率からWSC含有率を推定しうることが示された。17品種の雪腐大粒菌核病の被害率を消雪期に調査する方法で雪腐大粒菌核病抵抗性を検定したところ,北欧産,北米産および北海道産の品種の抵抗性が高かった。耐凍性が高い品種ほど被害率が低かった(r=-0.617)。またNS,TS,FS,WSC(r=-0.657)含有率が高い品種ほど被害率が低かった。これらの結果から,土壌凍結地帯で,冬枯れ抵抗性品種を育成する際には,選抜の指標としてWSC含有率が一つの目安となり,その推定法として乾物率が有効であることが示唆された。
著者
阿部 二朗 松本 直幸
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.152-158, 1981-07-30
被引用文献数
4

雪腐小粒菌核病(Typhula ishikariensis,T. incarnata)に対するオーチャードグラスの抵抗性検定法を確立すると共に,品種間変異を明らかにし,越冬性との関連を考察した。幼苗検定法:10週間温室で育てた幼苗をハードニング(3℃・8時間日長・14日間)した後に,雪腐病菌のinoculumを0.05-0.1g/cm^2の密度で人工接種した。接種した植物をT. ishikariensisについては65日間,T. incarnataに対しては80日間戸外の雪中に埋めた。雪中から堀出された植物は地上部を刈取った後に,1ヵ月間温室で再生育させた後に生存率を調査した。雪腐病抵抗性と越冬性:厳寒でかつ積雪量に富む地帯の品種であるLeikund,Tammisto,Kayは,抵抗性と越冬性共に優れていた。しかし,T. incarnata抵抗性においては南欧産品種の中には抵抗性が優れた品種(Dora,Montpellier)もあり,越冬性やT. ishikariensis抵抗性との間の相関を低下せしめた。しかし,全体としてはTyphula属による雪腐病に対する抵抗性は,越冬性との間には高い相関が示され,札幌におけるオーチャードグラスの越冬に雪腐病が最も大きな影響を及ぼしていると見られる。
著者
西田 智子 原島 徳一 北原 徳久 柴田 昇平 北川 美弥 山本 嘉人
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.555-562, 2004-02-15
被引用文献数
1

永年草地の多年生雑草であるワルナスビについて,その播種時期とワルナスビの播種当年4月に播種したオーチャードグラスとの競合が出芽および生育に及ぼす影響について調査した。プラスティックコンテナを使い,ワルナスビ種子を4-8月までほぼ1ヶ月おきに裸地条件(裸地区)とオーチャードグラスとの競合がある条件(OG区)で播種した。裸地区では,7月播種区を除いて80%以上の出芽率であった。一方OG区では,5月播種区までは45%以上の出芽率となったが,それ以降はほとんど出芽しなかった。播種翌年の5月末における萌芽数は,裸地条件4-6月播種区では,播種当年に出芽した個体のほぼ全部が萌芽したと考えられたが,OG区ではほとんど萌芽しなかった。播種当年9月および翌年5月におけるワルナスビの生育は播種月が早いほど優っており,裸地区ではそれが顕著であった。OG区の生育は裸地区に比較して非常に少なく,生育量の傾向は播種翌年の5月における萌芽数の傾向と良く一致した。以上の結果から,OGが繁茂した草地でのワルナスビ実生の定着は困難なものと推察された。
著者
青田 精一 渡辺 好昭 石田 良作
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.52-58, 1985-04-30

低湿重粘土転換畑における飼料作物の地下部生育の年次変化及び種間差と土層酸化の関係について4カ年検討した。試験は長大作物(トウモロコシ,ソルガム),暖地型牧草(ローズグラス,グリーンパニック)と,参考に大豆の5種を供試して,当地の標準耕種法で栽培した。播種は5月中旬,刈取時期はトウモロコシ黄熟期,ソルガム出穂期に2回,暖地型牧草は3回,大豆は成熟期で,根系及び土壌調査は10月上旬一斉に行った。地上部収量は長大作物が勝ったが,根重は長大作物より暖地型牧草が多かった。各作物を通じ,転換1年目は根の上層分布割合は高く,最長根も非常に浅いなど,根の伸長阻害がみられた。転換後の経過年次とともに根は深部に伸長し,根圏の拡大がみられるが,その過程は急には進まなかった。作土下の伸長根の分布をみると,ソルガムは転換2年目,暖地型牧草は3年目で,前作物の水稲根跡の空隙を通過して深部に満遍なく伸長する根がみられるが,トウモロコシと大豆では伸長根の大部分が亀裂中に分布するなど種間差が明らかであった。最長根は4ヵ年を通じ,ソルガム>暖地型牧草>トウモロコシ>大豆の順に深く伸長した。また土層の酸化は最長根長に全く一致する形で進み,土層酸化に及ぼす伸長根の影響が推察された。しかし,亀裂の深さは大豆で最も進み,土層の乾燥過程は種間差が明瞭であった。作物の蒸散による土中からの吸水をpFの推移からみると,下層ではソルガムが供試作物中最も多かった。一方裸地区のpFは作付区に比して著しく低く,植生による土層からの吸水が確認された。
著者
澤田 均
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.370-375, 1991-01-31

本研究は,ペレニアルライグラスの空中分げつの発生と,その潜在的な散布距離を明らかにすることを目的とした。牛と羊をそれぞれ集約的に放牧管理している草地を調査対象として,1988年と1989年の11月にペレニアルライグラスの空中分げつを調べた。空中分げつは両年とも頻繁に観察された。栄養繁殖体(空中分げつ)をもつ親分げつは,通常,その先端部にただ1個の栄養繁殖体を出現させた。栄養繁殖体の潜在的な散布距離は平均4.5-4.8cm(1988年),3.6-4.2cm(1989年)と短いが,最大値はそれぞれ15.0cm,15.5cmにも達した。栄養繁殖体の密度は空間的に著しく異なり,1988年は0.0-34.4/m^2,1989年は0.0-57.8/m^2であった。空中分げつによる栄養繁殖は,調査したペレニアルライグラス個体群の大きさを維持する上で,意義のあるものと考えられた。
著者
細川 吉晴
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.226-233, 1988-10-31
被引用文献数
1

草丈の異なる条件下で育成牛群に対する牧柵の隔障機能を検討した。試験は草丈60〜70cm,30〜40cmおよび20〜30cmの3時期に240m^2の試験区内に平均体高110cmの育成雌子牛24頭を夕刻から翌朝までの15時間放牧し,採食跡の平面,立面的分布と架線弛みを測定した。牧柵構造は有刺鉄線4段張り,架線間隔および柵柱間隔をそれぞれ3水準とした。その結果,草丈の高い時期には牧柵構造の違いが顕著で,架線高さが30,55,80,120cmの柵柱間隔4mの牧柵や架線高さが30,50,75,110cmの柵柱間隔4mおよび5mの牧柵では,牛群の柵外への採食行動は規制され,架線高さ30〜80cm間を狭めた効果を認めた。柵外への採食行動は柵柱間隔が広いほど柵外80〜100cmまで行われた。一方.草丈が40cm以下の植生条件では牧柵構造の違いによる牛群の採食行動の差異は認められなかったが,採食跡は柵外80cm付近まで認められた。放牧試験中の牛群の脱柵はなく,成牛に適用した牧柵構造は育成牛群にも適用できるが,草丈が低い場合に30〜80cm間の架線の隔障効果は明らかでなかった。また,既報の成牛での試験結果から,柵外の採食跡が牧柵ラインから離れているほど架線の弛みの大きくなることが想定されたが,両者の間に相関はなく,牛群れの体高が成牛よりも15〜16cm低かったことから,育成牛群はいろいろな高さの架線の間から柵外へ任意に採食したものと考えられた。
著者
細川 吉晴
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.409-414, 1988-03-20
被引用文献数
2

放牧牛の頭出し行動を規制する牧柵構造を把握するために,柵柱間隔4,5および6mで架線高さ30〜80cmの間隔を狭めた有刺鉄線4段張り牧柵に,日本短角種と黒毛和種の各々成雌牛2頭ずつを供試して試験を行った。なお,架線の高さは慣行型が地上30,30,30,30cmで,試作I型が30,25,25,40cmで,試作II型が30,20,25,35cmである。放牧牛の架線間からの頭出し回数は,柵柱間隔が短くなるほど少なくなり,試作I・II型が慣行型よりも少なくなり,30〜80cmの架線間隔を狭めた効果がみられた。架線張力の低下は頭出し回数が少なくなるほど小さくなり,試作II型が最も小さかった。架線間からの最長頭出し時間は,日本短角種が30〜80cm間に1頭・試験当たり約20秒以内であり,黒毛和種が0〜50cm間に約10秒以内で,試作II型の柵柱間隔4mの場合はほかの牧柵と比べて最も短かかった。また,有刺鉄線4段張り牧柵では,隔障機能の指標として積算頭出し時間(試験時間180秒間)を検討した結果,この数値の上限値が90秒の柵柱間隔4mの試作II型が最も脱柵を規制する構造であると思われた。