著者
清水 矩宏 田島 公一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.151-157, 1974-11-25

エゾノギシギシ(Rumex obtusifolius L.)の休眠性の確立と種子の含水率の関係を明らかにするため,種子形成過程の各時期に種子を脱粒し,風乾状態におき,その風乾過程での含水率と発芽習性の変化を検討した。また,完熟後も母体に着粒した状態で経過する種子についても同様に検討した。結果の概要は次の通りである。1)種子形成過程の第3期のはじめにあたる開花後30日目の種子は,脱粒時は,含水率が60.7%であり,光発芽も20℃および25℃ともに同程度で,光発芽可能温度域は広かった。しかし,以後の風乾過程の経過につれて,高温部の発芽のみ顕著に低下し,発芽温度域の縮少がみられ,休眠性の確立が認められた。2)同時に,この風乾過程において,20℃下での発芽速度が風乾時間の経過とともに速くなった。3)さらに,脱粒後の風乾過程のいかなる時期においても,暗黒中では発芽が見られず,光反応性に変化はなかった。4)開花後日数を異にする種子の脱粒後風乾過程での発芽習性の変化を検討した結果,種子形成過程の第2期末以降に達している種子は,上記1)と全く同様の傾向を示したが,第2期にあたる種子では,含水率が低下するにもかかわらず脱粒時に見られた25℃下での高発芽率が風乾過程においても消失しなかった。5)完熟後も母体に着粒した状態で後熟過程を経過する種子は,質,量ともに脱粒する種子と差異はなく,また時間の経過とともに高温部での光発芽が発現し,増大することが認められた。6)18℃下での発芽速度は,完熟後の比較的早い時期において,その速度が徐々にはやくなり定常状態になることが判明した。7)完熟後母体付着状態で経過する種子を強制的に脱粒して風乾状態においても,含水率および発芽習性に何ら大きな変化はみられなかった。
著者
奥 俊夫 前田 泰生 小林 尚
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.177-182, 1972-10-25

盛岡市下厨川において,ラジノクローバ単播,およびラジノクローバ・オーチャードグラス混播草地におけるウリハムシモドキの,越冬後の密度減少過程を5年間にわたって調査し,次の結果を得た。1.卵期から幼虫中期までに約70%の密度低下があり,4月末から5月前半にかけての降雨が皆無に近い年にはさらに密度が低下した。2.幼虫中期から成虫の羽化までの間には,普通には密度の変化がとぼしいが,大発生の翌年から単播区に黄きよう菌による死亡率が非常に高まり,その後しだいに寄生率が低下した。3.成虫期間中の密度低下のうち,もっとも顕著であったのは,大発生時の過密による移動であった。4.成虫に対するヤドリバエ一種の寄生率は成虫末期に高まったが,10数%をこえず,また中期以前の寄生率は非常に低かった。
著者
川鍋 祐夫 祝 廷成
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.91-99, 1991-04-30
被引用文献数
13

乾燥地に生成する草原は不適当な利用により砂漠化を招きやすいが,中国では草地など土地の不毛化を三化(退化,塩化,砂漠化)として警戒し,その対策を立てていて,生態学的な調査研究が多く行われている。中国東北部から内蒙古の半乾燥地帯に広く分布する羊草(シバムギモドキ,Aneurolepidium chinense)草原は良質の飼料を家畜に供給し,流通にも供する重要な草資源であるが,最近生産力の著しい低下が憂えられている。このため草地の永続的な利用を可能にする,保全を考慮した適正な利用方法,利用強度を探る第一歩として本研究を行なった。調査地は長春の北西約150kmにある吉林省,長れい種馬場の羊草草地で,やや湿潤な低平地に土壌的極相として成立し,排水良好な固定砂丘上には楡の林が成立している。多年にわたり無管理のまま採草,放牧が繰り返されてきて,過去40年間に生産力が半減したといわれている。この2,000haの草地のうちに,過去5年間利用を禁止した保護区,年1回刈取りする刈取り区,放牧地のうち羊草があり植生被度の高い放牧A区,羊草がなく裸地の多い放牧B区とを設けて,1985年,ライン法により植生を調査した。その結果,刈取り区は羊草が優占し,著しい植生の退化を起こしていないが,放牧区では撹乱が著しく,優良野草の羊草が減少し,耐アルカリ性の草や1年生の草が侵入していた。特に,放牧B区では羊草が消失して,草丈数cmのSuaeda glaucaが優占し,牧養力を殆ど失っていた。羊草の草勢が減退して消失し,アルカリ性土壌に適応するSuaeda glaucaにおきかわったのは,過放牧による土壌の劣化が関係しているとみられた。退化草地の復元と生産力の向上のため,耕起,粗耕,施肥,播種,潅漑等土壌改善を含む更新法が多く試験され,ある程度の効果を収めているが,牧養力に見合った放牧強度に調整すること,採草地と放牧地との輪換等,放牧システムの改善が基本になると考えられた。
著者
玉置 宏之 吉澤 晃 鳥越 昌隆 佐藤 公一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.130-135, 2002-06-15
被引用文献数
1

チモシー1番草の耐倒伏性の効果的な改良方法について知見を得るため,栄養系およびその後代系統の耐倒伏性の指標を調査した。後代系統の倒伏程度は6-10日間隔で3回調査されたが,その傾向は互いに異なっていた。またその親子相関は,耐倒伏性の指標を調査した時の生育ステージの親子間差が最も小さい場合に最も高かった。以上のことからチモシー1番草の耐倒伏性は,生育ステージごとに異なる要因によって支配されているため,その調査は各生育ステージごとに行われるべきであるが,それら個々の要因の狭義の遺伝率が高いため,1回の個体選抜でも相当程度の改良が期待できると考察された。
著者
玉置 宏之 吉澤 晃 鳥越 昌隆 佐藤 公一 下小路 英男
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.136-141, 2002-06-15
被引用文献数
1

採草用チモシーにおける1番刈後の競合力の効果的な改良方法を検討するため,同一の後代系統を単播条件とシロクローバとの競合条件の2つの試験に供試した。両試験および後代系統の親栄養系に対する調査から,2番草競合力は狭義の遺伝率の高い形質であること,3番草競合力は2番草ほど重要でないこと,および競合条件の試験を行わずに競合力を的確に推定することは困難であることが結論された。これらのことからチモシーの競合力は,それが競合条件下で検定されていれば,1回の個体選抜でも相当程度改良できると考えられた。
著者
足利 和紀 玉置 宏之 出口 健三郎 佐藤 公一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.19-23, 2008-04-15
被引用文献数
4

チモシー1番草における栄養価関連形質の広義および狭義の遺伝率を把握するため,15の栄養系とその後代系統を同年同一圃場で栽培し,近赤外分析法(NIRS)を用いて栄養価関連形質を推定した。その結果,栄養価に関する3指標(低消化性繊維(Ob)/細胞壁物質(OCW),0b含量および可溶性炭水化物(WSC)含量)は(1)狭義の遺伝率が高く,(2)指標相互間の遺伝相関は効率的な並行改良が可能である相関か,もしくは弱い相関で,(3)同一熟期内であり,収量性で選抜がなされた材料においては,乾物重とこれらの指標との遺伝相関は弱かった。したがって,これら3指標を用いた個体選抜で効率的な改良が可能であり,また指標相互間の並行改良および収量性と栄養価の並行改良は可能である,との結論に達した。
著者
玉置 宏之 吉澤 晃 藤井 弘毅 佐藤 公一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.52-54, 2004-04-15

チモシー種子収量性の効率的改良に供するための簡易検定法の開発を試みた。チモシーの種子収量は1穂種子重,さらには穂1cmあたり種子重(種子密度)と密接に関連しているため,少数の穂から実際に採種を行い,その1穂種子重や種子密度を調査する方法が簡易検定法として適当と考えた。この考えに基づき,圃場の株から引き抜かれた節間伸長茎を以後温室内で水栽培する方法の有効性について検討した。2002年5月に圃場から引き抜かれた節間伸長茎を温室内で採種時まで水栽培した結果,それらの1穂種子重と種子密度は,特に2000年の圃場試験の結果とよく一致したため,この方法はチモシー種子収量性の簡易検定法として有効であるとの結論に達した。
著者
玉置 宏之 吉澤 晃 藤井 弘毅 佐藤 公一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.47-51, 2004-04-15
被引用文献数
1

牧草の種子収量性は茎葉の収量性ほど考慮されないが,牧草品種の商業的な成功には種子収量性も重要な要素である。チモシー種子収量性の年次変動と狭義の遺伝率を調べるため,栄養系とその後代系統を採種試験に供試した。その結果,チモシーの種子収量性には(1)試験年次など,環境が変わることにより序列が大きく変化しうること,および(2)同一環境条件下で評価・推定される狭義の遺伝率が高いこと,という2つの特徴があり,したがってその効果的な改良のためには,1回の検定を基に選抜を行う場合は複数回の選抜が必要となり,また1回の個体選抜しか行わない場合は複数の環境条件下における検定が求められる,との結論に達した。
著者
山本 嘉人 斎藤 吉満 桐田 博充
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.124-129, 1997-07-30
参考文献数
21

施肥量が異なる2つの放牧草地内の禁牧区と刈取区において,内視鏡を用いて根の観察を行い,施肥および刈取が根の発生・消長の動態に及ぼす影響を明らかにした。禁牧区の根の伸長速度は,施肥量に関わらず4〜6月と10〜11月にピークをもつ2山型の季節変化を示した。刈取区の伸長速度は,4〜5月のピークの後,刈取2週間後に上昇する傾向がみられ,3〜4山型の季節変化を示した。刈取区の根の枯死速度は刈取後にやや上昇した。根の年回転率の垂直分布は,地表に近づくほど高くなる傾向がみられ,とくに多肥区において顕著であった。1986〜87年の全層の回転率は,少肥・禁牧区で0.88〜1.05/年,少肥・刈取区で0.80〜1.28/年,多肥・禁牧区で1.15〜1.36/年,多肥・刈取区で1.14〜1.57/年であり,多肥条件でやや高かった。
著者
早川 嘉彦 近藤 煕
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.264-270, 1987-12-31
被引用文献数
3

草地の低コスト更新法として,除草剤などで前植生を抑圧し,不耕起で追播する方法がある。本報告では,ケンタッキーブルーグラス,レッドトップ(以下それぞれKB,RTと略す。)などの地下茎イネ科草種優占草地を効果的に抑圧する処理法として,除草剤(パラコート液剤またはグリホサート液剤)または掃除刈り処理を行い,その後駆動ホイル式施肥播種機によりオーチャードグラス,メドウフエスクおよびラジノクローバ(以下それぞれOG,MFおよびLCと略す。)を播種した。なお,対照として反転耕起法による更新区を設けた。不耕起区の播種牧草の発芽はどの処理法でも良好であった。しかし,パラコートおよび掃除刈りによる地上部の一時的抑圧処理ではKB,RTの地下茎が生存し,それから再生するKB,RTとの競合の結果,播種牧草は定着できなかった。一方,グリホサート除草剤処理は地下茎も含め前植生を完全に枯殺し,反転耕起処理なみの高い抑圧効果を示した。しかし,グリホサート除草剤による全面枯殺後,本試験のように条間20cmで播種すると、畦間の裸地が播種牧草により完全に被覆されないため,生産性の低下や雑草侵入の原因となることが懸念される。今後,裸地の生成し難い適切な播種方法の検討が必要となろう。
著者
塚田 英晴 深澤 充 小迫 孝実 小針 大助 佐藤 衆介
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.166-169, 2009-07-15

飼料の国内自給率の向上や中山間地域の振興を図る一つの方策として、林地の畜産的利用が近年注目されている。一方、日本の森林は、多くの野生哺乳類の生息地として重要な役割を担っており、林地への放牧導入が林床植物の種構成や草冠構造への影響を通じて、野生哺乳類の生息環境の質や量にも変化をもたらすことも予想される。林地の野生哺乳類に対する牛による放牧の影響については報告例がほとんど認められないが、低木を含む放牧地での研究では、植生の被度、草高およびリターなどの減少を通じて小型哺乳類の個体数を減少させることが報告されている。また、牛以外の反芻動物による影響としては、シカ類の増加による森林植生の変化が、小型哺乳類相の貧弱化を招く可能性が英国の研究で指摘されている。したがって林地への牛の放牧導入を推進する上で、野生哺乳類と共存しうる林内放牧の適正水準に関する情報が重要となる。しかし、林内放牧が野生動物の生息に及ぼす影響に関する日本での研究報告はほとんどなされていない。本研究では、林地への乳牛の放牧を新たに導入した一農家の事例において、放牧が小型哺乳類に及ぼす影響に関し、捕獲数およびいくつかの環境指標をもとに評価したので報告する。
著者
福田 栄紀 須山 哲男 澁谷 幸憲 八木 隆徳 目黒 良平
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.132-140, 2009-07-15

放牧牛がチシマザサ(以下、ササとする)優占植生中のスギ稚樹の生残に及ぼす影響を調べた。放牧共用林野内のスギ人工林に隣接するブナ林の空隙地に、禁牧区と放牧区を設定し、両区で放牧牛がササの生育、およびスギ稚樹の光環境、生残と樹高伸長に及ぼす影響を5年間比較した。禁牧区では、ササの被度と高さは急増して相対光量子束密度は低下し、スギ稚樹の生存率は禁牧3年目で急減した。一方、放牧区では、ササは採食されて生育が抑制されたため、良好な光環境が維持され、スギ稚樹の生存率と樹高伸長量は相対的に高く保たれた。放牧牛によるスギ稚樹の採食は稀で、踏圧や排糞による影響も軽微であった。放牧牛はササに対しては撹乱要因として作用したが、スギ稚樹に対しては作用しなかったため、ササに対する選択的生物撹乱要因と言える。スギの更新の成否は、ササが同所的に分布するブナ林床では、放牧牛の採食圧に強く依存する。
著者
杉本 安寛 平田 昌彦 上野 昌彦
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.8-14, 0000
被引用文献数
5

バヒアグラス(Paspalum notatum)放牧草地におけるホルスタイン育成牛群の排泄行動を物質循環との関係から調査した。調査地は,宮崎県畜産試験場(西諸県郡高原町)内の草地約17.6aで,これに隣接して庇陰樹を囲んだ約60m^2の休息場を設けた。5月下旬より10月下旬まで8回,各回21-24頭の牛群を48時間あるいは72時間昼夜連続放牧し,5回次(7月26-29日),7回次(9月23-25日)および8回次(10月26-28日)について排糞,排尿,および採食行動を観察した。結果は以下の通りであった。1)5回次の気温は7時より18時まで27℃を越え,7回次も10-15時は27℃を越えたが,8回次は最高気温が約23℃であった。2)排糞回数(回/頭/日)は6.5-8.3回の範囲にあり,そのうち草地で排糞された比率は5,7および8回次が,それぞれ,73.9%,70.7%および88.6%であった。排尿回数(回/頭/日)は10.7-18.3回で,5回次が最も高く,次いで7回次が高かった。草地で排尿された比率は5回次と7回次が50%前後と低く,他方,8回次は87.9%と,高かった。3)糞は68-76%が日中に排泄され,尿は約80%が日中に排泄された。4)日中の温度が高い時期には,糞尿の草地への排泄比率が低下し,養分の再循環が妨げられることが示唆された。
著者
渋谷 功 山田 豊一 広田 秀憲 伊東 睦泰
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.259-269, 1979-01-31

1.本研究は,牧草群落における競争をある特定期間に限定するのではなく比較的長期にわたり年数回の剪葉を繰り返えしながら経時的にとらえることにより,群落構造変動のしくみとそれに果す競争の役割を解明しようと企画された。そのため,まずprimary canopyでの競争の初発とその自律的発現因子との関係をイタリアンライグラスを用いた5実験により調べ,ここに第1報とした。2.自律的誘発因子として種子の大小を取りあげた。大粒種子は小粒種子にくらべ胚乳のみでなく胚(幼芽,幼根)についても大きく,また離乳期間内の生長もよく,そのため出芽幼植物の生長にも勝った。出芽率は初めの1週間では小粒種子よりも大粒種子で明らかに高かったが,3週間にはその差は消えた。3.以上の結果をふまえて,大粒種子幼植物と小粒種子幼植物,あるいは早播幼植物と晩播幼植物をそれぞれ単播および混播したところ,LAIがおよそ1前後に達した頃より競争効果がみられ,小粒種子植物は大粒種子植物により,また晩播植物は早播植物により増数的形質について生長が抑圧された。早播植物は競争の結果,単播区の生長より勝ったが,大粒種子植物の場合そのような正の競争効果は明らかでなかった。4.本実験結果に既往の諸報告を加味して考えると,新播牧草のPrimary canopyにおいては,種間,種内を問わず,まず種子の大小や出芽の遅速により自律的に競争が生起するのは明らかである。
著者
飛佐 学 田尻 一裕 村上 研二 下條 雅敬 増田 泰久
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.149-157, 2003-06-15

ファジービーンの刈取り語の再生に関与する諸要因と再生機構との関係を明らかにするため,生育温度及び刈取り高さが再生過程における乾物生産,窒素固定能,貯蔵養分などの推移に及ぼす影響について検討した。野外で1/10,000aポットに栽培したファジービーンを播種後28日目に,昼夜温一定の20℃, 25℃および30℃の環境調節実験室に入れ,播種後47日目に地際から7.5cmまたは15cmの高さで刈取った。刈取り後全ての処理区で乾物重の一時的な減少がみられ,根の減少は13日目まで続いたが,その後増加した。刈取り後28日目における植物体乾物重は15cm刈区が7.5cm刈区より1%水準で有意に高く,15 cm刈区においては25℃および30℃区は20℃区より5%水準で有意に高かった。これは葉面積比が高かったことから,刈取り後の葉面積の展開速度の差によるものであった。全非構造性炭水化物(TNC)含有量,根粒重,窒素固定能についても刈取り直後に減少し,特に,7.5cm刈の全温度区と15cm刈30℃区で減少が著しかった。このことから,ファジービーンは高刈りをすれば刈取り後の貯蔵養分量が多く,再生速度も高く,また,生育適温とされる25-30℃では,貯蔵養分の消費は多いが,その後の再生は速いことが示された。
著者
高橋 均 飯田 克実 高橋 保夫
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.161-169, 1971-10-29

水田裏作にイタリアンライグラスを栽培する場合に,水稲収穫後の播種適期間が短かいので栽培面積を拡大することが困難である。そこで,イタリアンライグラスの省力播種法とくに不耕起まき栽培について検討した。1)イタリアンライグラスの発芽にとっては,耕起の有無・砕土程度の精粗にかかわらず地表面に播種したままの方が良く,覆土すると発芽率が低下した。すなわち,最も省力的な不耕起まきによって十分の発芽苗立を確保できるが,降雨が不十分で土壌水分含量が低い場合には不安定である。2)圃場の播種準備作業を省略して播種床の条件が悪いほどイタリアンライグラスの初期生育が不良であった。とくに不耕起まき栽培では耕起まき栽培に比べて初期生育が劣り,1番刈収量が明らかに低下し,2番刈でもやや減収した。3番草以降には耕起の有無の影響はみられなかった。3)不耕起の場合には土壌の固相割合が高くて気相割合が低く,硬度が高いことも減収の一因になっていると考えられるが,土壌中の可溶態N含量の低下がイタリアンライグラスの初期生育を抑え,1〜2番刈収量を低下させる大きい原因であると考えられる。4)土壌中の可溶態N含量の低下を補なうために晩秋に追肥を1回追加すると,1番刈収量は耕起した場合と同程度になった。すなわち,土壌中のN含量を高めてイタリアンライグラスの生育を維持するには,耕起作業を省略して晩秋の1回の追肥におき代えることが可能である。5)水分蒸発に伴なって土壌が収縮する際に生ずる亀裂から,雨水に肥料分が溶解して流亡することが,土壌中可溶態N含量の低下の大きい原因であると考えられる。したがって,この溶脱の程度は亀裂の発生に影響する土壌水分の減少程度・土性あるいは水稲の栽培法等により異なり,イタリアンライグラスの減収程度および追肥の効果もこれらの条件によって異なるものと考えられる。
著者
北村 征生 西村 修一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.53-58, 1980-04-30

暖地型マメ科7草種について,5段階の昼夜恒温条件(15,20,25,30,および35℃)の下で,乾物重,窒素固定能(アセチレン還元量)および根粒形成状態を比較し,それぞれの草種について,生育および窒素固定の適温域を探った。供試草種は,Styrosanthes humilis cv. Townsville(タウンズビルスタイロ),Trifolium semipilosum cv. Safari(サファリクローバ),Desmodium intortum cv. Greenleaf(グリーンリーフデズモデイウム),Marcroptilium atr opur pur eum cv. Siratro(サイラトロ),Lotononis bainesii cv. Miles(マイルズロトノニス),Clycine wightii cv. Cooper(クーパーグライシニ)およびLeucaena leucocephala(ギンネム)の7種である。結果:1)乾物収量について,暖地型マメ科草は20および30℃で最大値を示す2群に大別された。前者にはマイルズロトノニス,サファリクローバ,およびクーパーグライシニ,後者にはギンネム,サイラトロ,タウンズビルスタイロ,およびグリーンリーフデズモデイウムが属した。2)窒素固定能力に関しては,30,25,および20℃で最大値を示す3群に大別できた。30℃にはタウンズビルスタイロ,25℃にはグリーンリーフデズモデイウムとサイラトロ,20℃には残り4草種が属し,その適温域は乾物生産の場合よりも低く,狭かった。3)根粒の形成におよぼす温度の影響は,乾物の場合とほぼ同じ傾向を示したが,根粒の活力については,サファリクローバとマイルズロトノニスが20℃,残りの5草種が25℃で最大値を示す2群に大別できた。以上の結果を総合的に考察して,乾物生産と窒素固定の適温域の総合としての生育適温域について,暖地型マメ科草は高温および低温の2つの温域を生育適温域とする2群に大別することができるが,窒素固定よりも乾物生産の適温域の影響が大きいと結論された。
著者
渡辺 潔 野中(旧姓:尾形) 純子 雑賀 優
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.123-129, 1996-07-30
参考文献数
22
被引用文献数
7

放牧用草種の基礎資料を得るため,主要な寒地型イネ科牧草6草種を供試し,牧草消化率の季節的変化を模擬放牧条件下で5ヵ年にわたり調査した。各草種の消化率は早春で高く,節間伸長期に一時低下したり又は低下することなく夏に向かって低下し,秋には良く回復し,晩秋には高く推移した。5ヵ年を通じての推定乾物消化率の平均値はペレニアルライグラスで際立って高く77%,次いでオーチャードグラス70%,トールフェスク69%,レッドトップとレッドフェスク67%,ケンタッキーブルーグラスでは断然低く56%であった。ペレニアルライグラスは消化率と可消化乾物収量が最も高く,それらの季節的変化も比較的小さくなった。