著者
藤井 弘毅 山川 政明 澤田 嘉昭 牧野 司
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.27-36, 2002-04-15
被引用文献数
2

シロクローバ混播,年間5-6回の多回刈り処理を加えた条件下で,チモシーおよびメドウフェスクの乾物収量,草種構成割合の季節的推移を調査した。また,その草種間差異と単播条件下における草種の刈取り時の生育段階,分げつ数,平均1茎重,畦幅(株の広がり),草丈伸長速度,乾物重増加速度(CGR),および基底部の乾物重(刈株重),非構造性炭水化物(NSC)および窒素の含有率および含有量の推移との関連性を検討した。なお,用いた品種はチモシー「ホクシュウ」,メドウフェスク「トモサカエ」,シロクローバ「ラモーナ」であった。また単播区では手取り除草を実施した。その結果,単播条件下では4年目まで欠株は発生せず,刈取り時の1m^2当たりの総分げつ数も2,000本前後の値を下回ることはなかった。一方混播条件下では,単播条件下に比較して,メドウフェスク区よりもチモシー区において,チモシーの乾物収量の減少割合が大きく,とくに3年目の7月(本研究では4番草)以降,その傾向が顕著になった。このことは,混播条件下では,チモシーおよびメドウフェスクの草丈のような上方向への伸長生長よりも,被度が著しく低下したことに起因していた。この被度低下の車種間差異は,刈取りの影響によるよりも,主としてシロクローバに対する競争力の差異を反映したものと考えられた。シロクローバ混播条件下におけるチモシーおよびメドウフェスクの乾物収量および構成割合の季節的推移にみられた草種間差異は,株の広がり,草丈伸長速度,CGR,刈株重,NSC並びに窒素の含有率や含有量よりも,分げつの再生の態勢の草種間差異との関連性が高いことが示唆された。すなわち,4番草(7-8月に生育した)の再生に影響を及ぼしたと思われる3番草(6-7月に生育した)の刈取り時の節間伸長茎率は,チモシーの方がメドフェスクよりも高い値を示し,一方では,刈取り後,再生可能な栄養生長茎の数はチモシーの方が少なく,その1茎重もメドウフェスクに比較して小さいことから,刈取り後は再生力が劣り,シロクローバに対する競争力が劣ったと考えられた。このことから,当該時期における分げつ数の確保が,その後の生産量を決定する要因の一つとして重要であることが示唆された。
著者
小路 敦 須山 哲男 佐々木 寛幸
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.88-91, 1999-04-30
被引用文献数
6

野草地景観を経済的に評価するため, 環境などの公共財を経済的に評価するのにもっとも適しているとされるCVMを適用した。評価対象は, 野草地景観の衰退が著しい島根県三瓶山の野草地とした。アンケート調査は, 雄大な野草地景観が見渡せる西の原駐車場付近において行い, WTPのほか, 被験者の属性や意識についても問い, これらを変数としてWTPの中央値・平均値を推定した。ロジスティック回帰分析の結果, 一人あたりの年間WTPは, 中央値で3,674円, 平均値で6,497円と算出された。無雪期間の年間来訪者数627,500人を掛け合わせ, 年間中央値で約23億円, 平均値で約40億7千万円の価値が三瓶山の野草地には潜在すると算出された。
著者
川鍋 祐夫 押田 敏雄 祝 廷成 白 暁坤 〓 玉龍
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.93-100, 1993-06-25
被引用文献数
4

中国東北部などに分布する羊草草地は,かつて家畜に良質の飼草を供給したが,不合理な利用のためアルカリ化による退化が著しいといわれる。その実態を把握し,退化とアルカリ化の関係を明らかにするため,黒龍江省の安達および大慶において植生と土壌の調査を行った。採草地は退化が明瞭でなかったが,放牧地は退化しており,裸地の割合は退化が軽い場合では27-33%,酷い場合では47-78%であった。退化した草地の草種組成は,羊草などアルカリ耐性の弱い種が減り,Chloris virgataなどの一年生や,Polygonum sibiricumなど強アルカリ耐性の種が侵入していた。裸地は植被地より低い所にでき,土壌のpH,電気伝導度,硬度が高く,塩類集積によるアルカリ化や物理性の悪化がもっとも進んでいた。裸地の周辺に同心円状または帯状に異なる植生が配列するのが観察され,微地形が関係した土壌アルカリの微妙な傾度が,種のアルカリ耐性の強弱と対応して植生型の分布に影響していると考えられた。これらの結果から,植生の荒廃と土壌の物理・化学性の悪化が相伴って草地生態系の退化を引き起こしていると考えられた。
著者
三股 正年 高野 信雄 山下 良弘 宮下 昭光
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.187-197, 1967-02

1)蹄耕法による草地造成の適用性を明らかにするため,長草型野草地で慣行機械処理による造成草地と対比しながら3カ年試験を行なった。2)造成時における播種牧草の定着数は蹄耕区では114本/m^2(イネ科草78,マメ科草36)であったが,ストッキングを行なわない場合には51本/m^2と1/2以下であった。デスクハローにより播種床を造成した地表処理区は242本/m^2であった。3)蹄耕区,地表処理区ともに初年目2回,2年目5回,3年目6回草生に応じて利用率65%程度の放牧を行なった。これらの結果は2年目の第1回の放牧時には蹄耕区83.7%の牧草率(マメ科草率54.3%)を示して良好な草生となり,地表処理区とほぼ同様な良好な草地造成が達成された。4)3カ年間の牧養力では,自然区はha当り採食利用草量36.6トンで693頭の放牧がなされた。蹄耕区は107.5トンの利用草量で1,642頭,地表処理区で117.4トンの草量と1,817頭の放牧ができた。5)刈取り法による3カ年平均の1日1頭(体重500kg換算)の採食栄養量は自然区でDM 12.4,DCP 1.56,TDN 8.41各kgであり,蹄耕区ではDM 9.2,DCP 1.91,TDN 6.97各kgであった。地表処理区ではDM 7.6,DCP 1.89,TDN 6.06kgであった。6)蹄耕法による草地造成は,火入れ後に燐酸を主体とする施肥と地表播種を行ない,ha当り延70頭(体重500kg換算牛)のストッキングによって牧草種子の土壌への密着を図る。その後は草生に応じた放牧利用によって良好な草地の造成が可能であることが立証された。7)蹄耕造成法において,今後はストッキングの時期,ストッキング後の第1回放牧のタイミング,ストッキングの強さ,施肥量などについて検討する必要がある。
著者
山本 嘉人 斎藤 吉満 桐田 博光 林 治雄 西村 格
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.307-314, 1997-01-31
被引用文献数
12 1

関東に位置するススキ型草地に火入れ,刈取り,放牧あるいはこれらの組み合わせ等の異なる人為圧を加え続けた。20年間にわたる定置枠の植生調査のデータから,草種ごとの拡張積算優占度を算出し,主成分分析によって人為条件の差異に応じた植生遷移の方向を表現することを試みた。第1および第2主成分と主要な群落構成種25種との相関関係から,第1主成分はススキ,シバで代表される放牧圧の有無に関わる成分,いいかえれば放牧による偏向遷移を表すと考えられた。縦軸の第2主成分は高木とつる植物で代表される人為的撹乱の有無にかかわる成分,いいかえれば進行遷移を表すと考えられた。これら2つの主成分を軸として,各処理区,各年次の群落のデータをプロットした結果,散布図上で,7処理区の群落データ群は処理開始後の年次経過とともに分離する傾向を示し,処理に応じた遷移の方向を示した。
著者
早川 康夫
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.337-342, 1991-12-26
被引用文献数
3

公共草地などにおける育成牛は輪換放牧を基準に牧草の草丈20-30cmで利用させよと指導されている。しかし馬はこの草丈の牧草を食べようとしない。日本の軽種育成牧場の放牧地の大半は草丈5-10cmで固定放牧される。その理由を馬の採食行動から考察した。
著者
永西 修 寺田 文典 石川 哲也
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.599-603, 2002-02-15
被引用文献数
3

実験1ではアミロース含有率が異なる3品種(コシヒカリ, ミルキークイーン, コシヒカリ糯の玄米について, 実験2では窒素の施用水準を変えて栽培した2品種(アケノホシ, 夕カナリ)の玄米について, 飼料成分とナイロンバック法で第一胃内消化性を比較検討した。実験1で供試した玄米の飼料成分には品種間で明瞭な違いはなかったものの, 乾物(DM), 粗タンパク質(CP)およびデンブンの第一胃内での有効分解率(ED)はアミロース含有率が低い品種で高かった。また, 実験2では窒素の施用量の増加により玄米のCP含有率は増加するとともに, CP中の結合性タンパク質比率は低くなった。DM, CPおよびデンプンのEDは施肥条件による明瞭な違いは認められなかったものの, いずれのEDもタカナリがアケノホシよりも有意に低かった。以上のことから, 玄米の第一胃内DM, CPおよびデンプンの消化性はCP含有率よりもアミロース含有率に影響を受けると考えられた。
著者
森田 脩 岩渕 慶 後藤 正和 江原 宏
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.429-436, 1995-01-31
被引用文献数
1

表面播種されたマメ科牧草の発芽種子が主根を土壌中に進入させ,定着に成功する過程を明らかにする目的で,播種箱に充填した水田黄色土壌(含水率20%)の表面に7草種を播き,25℃,相対湿度約100%の定温器内で発芽過程を5日間調査して,マメ科牧草の発芽行動に及ぼす根毛の固着の影響並びに固着と主根の形態的形質との関係について検討した。1.土壌表面におけるマメ科牧草種子の発芽過程をみると,最初に主根が発芽孔付近から出現し,地表面を這いながら伸長を続け,順次発生する根毛が表面に固着した後,先端が土壌中に進入を始めた。2.マメ科牧草の主根は,出現してから先端が土壌中に進入するまでの間に,根毛帯が表面に固着する程度(固着度)によって,次の3種類のいずれかの行動を示した。I:根毛帯の大部分が土壌表面に固着して,主根が表面に密着している芽生え(以後,全固着型と略記)。II:根毛帯は部分的に固着して主根の一部が表面から浮き上がっている芽生え(部分固着型と略記)。III.根毛帯は全く固着せず,主根全体が浮き上がっている芽生え(無固着型と略記)。3.3種類の発芽行動のうち,シロクローバ,バーズフットトレフォイルは全固着型が,アルサイクローバ,アカクローバ,クリムソンクローバ,アルファルファは部分固着型が,そして,コモンベッチは無固着型の割合がそれぞれ多く,草種によって特徴が見られた。4.全固着型の割合は,主根の根毛長/根径比と有意な正の相関関係があり(r=0.873,p<0.05),根径に比べ根毛が相対的に長い草種が高かった。各草種とも,全固着型は部分固着型に比べて,根毛の固着面積が有意に大きかった。5.以上から,表面播種されたマメ科牧草の主根根毛の固着は,定着の前提となる土壌中への主根の進入を助ける働きのあることが示唆された。
著者
山田 敏彦
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.263-269, 2009-10-15

地球温暖化への対策や化石燃料の枯渇問題などから、サスティナブルな低炭素社会構築を目指し、持続再生可能なエネルギー生産のシステム開発が各方面で注目されている。アメリカ合衆国オバマ大統領のグリーン・ニューディール政策をはじめ、各国でその取り組みが開始されている。植物バイオマス資源からバイオ燃料、特にバイオエタノールを製造する技術もその一つである。アメリカ合衆国ではトウモロコシ子実からバイオエタノールを製造するためのプラント建設が、2000年以降急激に拡大し、2007年には25百万kLのエタノールが生産されている。食糧との競合を避ける意味で、セルロース系バイオマス資源が、将来の原料として、にわかに注目を浴びることになった。セルロース系バイオマスには、作物残渣である稲わら、麦わらやトウモロコシ・ストーバー(茎・葉)および木本植物の早生樹(ヤナギ、アカシア、ユーカリなど)があるが、ここでは草本系植物として、イネ科草類、特に、ススキ属植物について言及する。ここでは主に欧米におけるススキ属研究を紹介しながら、バイオ燃料のフィードストック用エネルギー作物としてのススキ属への期待について触れたい。
著者
沢井 晃 近藤 恒夫 荒 智
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.175-179, 1983-07-28

フェノール酸による繊維のエステル化と,酵素による分解率とのあいだの関係を調べた。オーチャードグラスの中性デタージェント繊維(NDF)・酸性デタージェント繊維(ADF),濾紙,以上3種の繊維をフェルラ酸(FA)・p-クマル酸(PCA)でエステル化し,セルラーゼで分解した。分解率はエステル化に伴って直線的に低下した。エステル化したFA・PCAの含有率に対する繊維の分解率の回帰係数は,-6.7% NDF/% FA,-4.0% NDF/% ,-13.1% ADF/% FAまたはPCA,-9.4%濾紙/%FAまたはPCAであった。NDFのほうがADFよりも,臭化アセチル可溶リグニンを多く含み,酵素による分解率が低かったことから,酸可溶リグニンも酵素による繊維の分解を阻害することを示唆した。
著者
澤井 晃 山口 秀和 内山 和宏
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.122-127, 1995-07-30

アカクローバへ栄養繁殖形質を導入して永続性の向上を図るため,T. mediumとアカクローバとの雑種胚をコルヒチンを含む培地で培養した。再生した21個体のうち,1個体が染色体数が倍化した複倍数体であった。この複倍数体を柱頭親としてアカクローバと戻交雑を行い,胚培養により植物体を育成した。戻交雑第2代の花粉稔性は2.3-36.8%で,アカクローバの授粉により完熟種子(戻交雑第3代)が得られた。戻交雑第1代の半数が根茎を有し,そのほかの個体は直立型の根茎が地中に埋没する冠根部を形成した。したがって,この稔性のある戻交雑後代はアカクローバの永続性向上に有用な素材である。
著者
菅野 勉 MACEDO Manuel C. Bono Jose A.
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-8, 1999-04-30
被引用文献数
4

Brachiaria decumbens品種Basilisk及びBrachiaria brizantha品種Maranduのリン施用に対する生育反応を比較するためにブラジルマットグロッソドスル州カンポグランジの温室においてポット試験を行った。オキシソルを充〓したポットに0, 25, 50及び200kg/haのリンを施用し, 上記2種の幼苗を移植した。33, 62, 103及び132日の育成後, 生育調査を行い収量生長速度(CGR), 純同化率(NAR)等を推定するとともに, 132日目の植物体及びポット残土のリン含有量を測定し, 施用リンの利用効率(乾物生産g/施用Pg), 施用リンの吸収率(吸収Pg/施用Pg), 吸収リンの利用効率(乾物生産g/吸収Pg), 根のリン吸収効率(吸収Pg/根重g)等を推定した。リン施用量の増加に伴いBD及びBBの葉面積が増加し, その結果, CGR及び植物体乾物重が増加した。リン施用がNARに及ぼす影響は葉面積に及ぼす影響に比較して小さかった。BBのNARは生育初期においてBDよりも有意に高かった。しかしながら, BBは, 生育後半において土壌中にリンが十分残存するにもかかわらず, NARを顕著に減少させた。このことから, BBはBDに比較してより早い時期に利用される必要があること, 及びP以外の成分の追肥が必要であることが示唆された。一方, BDは施用リンの吸収率, 根のリン吸収効率がすべてのリン施用区においてBBより高く, こうした吸収特性がBDの優れた低肥沃土壌耐性に関連しているものと考えられた。
著者
須藤 賢司 落合 一彦 池田 哲也
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.386-392, 2001-10-15
被引用文献数
8

メドウフェスク(Mf)を搾乳牛の集約放牧用草種として評価するため, Mf草地とペレニアルライグラス(Pr)草地の産乳性を比較した。両草地に春分娩牛を各4頭ずつ昼間放牧し, 夜間放牧地と組み合わせて, 5年間にわたり毎年約180日間昼夜放牧した(Mf区, Pr区)。その結果, 両区牛群の日乳量, 乳成分, ボディコンディションスコア, 血液成分および放牧依存率には大差がなかった。また, 両区におけるha当たり産乳量はともにFCMで8, 500kgに達し, Mf草地にはPr草地と同時の産乳性があることが明らかとなった。一方, 試験1年目を除く放牧期間中の飼料自給率は, 両区ともに60%以上を示し, 集約放牧の効果と考えられた。
著者
大竹 茂登 田中 弘敬 宝示戸 貞雄
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.241-246, 0000

オーチャードグラスの育種における早期検定の可能性についての知見を得るため,産地および採種年次を異にするオーチャードグラス4群8品種系統を1967年5月と8月の2回にわたり播種し,それぞれ短日区(自然日長8時間),長日区(自然日長8時間に補助光朝夕4時間ずつを加え計16時間)および対照区について幼苗期の形質発現の調査を行なった。1.幼苗期においても日長効果は大きくあらわれ,長日では葉が伸長するが,出葉間隔および分げつ出現間隔は長くなり,したがって葉数,分げつ数が少なくなった。短日ではその逆であった。しかし地中海産のPortugal2倍体だけはこの傾向がむしろ逆で,短日でもよく伸長する品種である。2.幼苗期の調査項目としては,葉長(または草丈),総葉数,総分げつ数が調査が容易な点からも適当と考えられる。葉幅も日長の影響は少ないが,品種間差は明らかであり,重要である。3.採種年次の古い種子では生育がおとる例が見られ,あらかじめ種子の活力の検査が必要と認められる。4.以上の結果を総括して考えると,幼苗期に一定時間の日長条件を与えることは,品種間差の検出を容易にし,試験の再現性もあるようなので,早期検定の条件として利用できそうである。
著者
佐藤 庚
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.311-318, 1980-01-31

暖地型・寒地型それぞれ4草種を供試して5段階の温度(昼温15°〜35°,夜温はそれぞれの昼温より5°低い)と2段階の日長(SD:9時間日長,LD:14時間日長,何れも自然光)を組み合わせたファイトトロンで栽培し,草種ごとにそれぞれ同一の生育ステージに達した時にサンプルして生育状況と窒素,炭水化物含量を比較した。1.寒地型の出葉は比較的低温で早く,暖地型では高温ほど早かった。草丈は暖地型では25/20°で最高,寒地型では低温ほど高く,いずれも長日の方が高い。茎数はいずれも低温ほど多いが,分げつ速度は寒地型では低温ほど大きく暖地型では低温ほど小さい。低温下では長日より短日の方が多い傾向があった。2.暖地型の相対生長率RGRは寒地型のほぼ2倍であった。暖地型のRGRは高温ほど大きく(JMのみは25/20°で最大),寒地型では低温ほど(TFのみは昼温20〜25°で最大)大きかった。長日下のRGRは短日下のそれより大きい。RGRは相対葉面積生長率RLGR,純同化率NARと有意の正相関を示した。暖地型のRGRが寒地型のそれより大きかったのは主にNARが大きいからであった。長日のRGRが短日のRGRより大きいのは,RLGR,NAR両者が大きいからであったが,ことに後者の影響が大きい。3.1日当り窒素蓄積量は暖地型のPM,SGでは低温ほど減少し,JM,RGでは中間温度で最大であった。寒地型では一般に低温ほど蓄積が多かった。単位蓄積窒素量あたりの乾物生産量,TAC蓄積量は,暖地型は寒地型より,長日は短日よりそれぞれ大きかった。4.暖地型の中ではJM,寒地型の中ではTFがそれぞれ他の草種とやや異なり,前者はやや低温で,後者はやや高温で生長がよかった。
著者
山本 泰也 水谷 将也 乾 清人 浦川 修司 平岡 啓司 後藤 正和
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.12-18, 2008-04-15
被引用文献数
4

イネホールクロップサイレージ(イネWCS)と併給する粗飼料をアルファルファ乾草またはチモシー乾草とする2種類の混合飼料(TMR,以下前者をアルファルファTMR区,後者をチモシーTMR区とする)を調製し,イネWCSと併給する粗飼料の飼料特性の違いが未消化子実排泄や乳生産に及ぼす影響を比較検討した。この場合,乾物混合割合はイネwcs,アルファルファ乾草およびチモシー乾草ともに20%とした。乾乳牛でのチモシー乾草の消化管通過速度はアルファルファ乾草のそれより遅く,チモシーTMR区の粗飼料価指数(RVI)はアルファルファTMR区のそれよりも高い傾向があった。その結果,チモシーTMR区の子実排泄率はアルファルファTMR区より低くなる傾向があり,供給粗飼料の違いが牛の咀嚼行動および子実消化性に影響を及ぼすことが示唆された。泌乳牛では両TMR区とも十分な乾物摂取量を維持でき,乳生産も差はなかったことから併給粗飼料の違いによる影響は認められなかった。
著者
安江 多輔 川瀬 康夫
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.34-41, 1975-04-25

栽培ヒエの青刈利用を目的として,その基礎的資料を得るために,白ヒエ及び赤ヒエを用いて種々の環境条件下における発芽と初期生育について実験を行った。1.ヒエの発芽適温は35℃,最高温度は40〜45℃の間にあり,最低温度は10℃以下である。15℃では約4日で発芽するから,日平均気温が15℃に達する頃から播種が可能である。2.中茎の伸長が著しく,覆土10cmで約70%,15cmでも約30%が出芽する。したがって土壌表面の乾燥が著しい場合には,浅播きよりも5〜6cmの深播きの方が出芽率が高い。3.土壌水分がpF4.2(供試土壌の含水比約15%)では出芽しなかったが,pF4.1(含水比約16%)で出芽し,pF3.8(含水比約22%)では出芽はやや遅れるが,出芽率には殆んど影響しなかった。4.水深5〜15cmの水中では発芽率は殆んど低下しないが,幼植物の生育は劣った。水中における幼植物の生育は過酸化水素の添加(100ppm)により良好となった。5.地下水位が5cmのような過湿土壌でも発芽率90%,定着率100%であり,播種後30日目の草丈及び乾物重は地下水位15cm区において最高であり,耐湿性が優れている。
著者
眞田 康治 田村 健一 山田 敏彦
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.80-85, 2011-07-15

秋季生長に優れる寒地向きオーチャードグラス品種を育成するために,越冬性の異なる4品種を用いて,秋季の休眠性と耐凍性の変化に及ぼす日長の影響を明らかにした。秋季の生長量は,「アキミドリ」が多く「北海28号」が少なかった。低温・24時日長条件下における耐凍性の増大と休眠の深まりは,「北海28号」は低温・自然短日々長下より約2週遅れたが,「アキミドリ」は11月17日までは日長間の差異が小さかった。「北海28号」の秋季休眠と低温馴化は短日に反応して促進されるが,「アキミドリ」は11月上旬までは日長感応性が低いことが明らかとなった。寒地向き品種の秋季生長改良のためには,生育停止までの生長を増やし,11月上旬までの日長感応性を低めて,それ以降速やかに耐凍性を高めるように育種する必要があることが示された。
著者
曹 力曼 後藤 正和 大島 光昭
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.583-587, 2002-02-15
被引用文献数
5

アルファルファ(Medicago sativa L., 品種 : ディピー)6番草(1996年10月17日刈取り)と1番草(1997年4月14日刈取り)のサイレージ発酵特性を, 無予乾ならびに予乾処理によって水分含量をそれぞれ80%, 74%, 69%, 64%と83%, 71%, 64%, 52%に調整し, 無添加(対照区, C)区, 牧草付着乳酸菌培養液(FJLB)添加区, シュクロース(S)添加区, 牧草付着乳酸菌培養液+シュクロース(FJLB+S)添加区の4処理間で比較検討した。アルファルファに付着する乳酸菌数は6番草と1番草との間で有意な差は認められなかったが, 6番草のほうが有意にサイレージ発酵品質に優れていた(P<0.05)。とくに, 乾物含量29%よりも小さい場合の無添加サイレージでは, 乳酸含量, 酢酸含量, 乳酸/酢酸比が高く, 一方, 全窒素中のアンモニア態窒素含量は低く, したがってサイレージpH値も低くなった。FJLB添加は, 6番草の2種類の高水分サイレージを除くすべてのサイレージにおいて, 有意に(P<0.05)乳酸発酵を促進するのが観察された。また, 酢酸含量やアンモニア濃度の著しい減少に示されるように, FJLB添加や予乾による酪酸発酵の抑制効果は6番草よりも1番草において顕著であった。6番草のサイレージ品質は, FJLBやSの単独添加処理よりもFJLBとSの複合処理による改善効果が著しいことが観察された。以上の結果に基づいて, FJLB添加によるアルファルファサイレージの発酵品質の改善効果ならびにその刈取り番草による差異について論議する。