著者
小林 秀嗣 内野 滋彦 遠藤 新大 岩井 健一 齋藤 敬太 讃井 將満 瀧浪 將典
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.609-615, 2012

【目的】急性肺傷害に対するシベレスタット投与は,欧米での研究で長期予後の悪化が示された。当施設は2007年より使用を原則中止し,今回この治療方針の変更が敗血症性急性肺傷害の予後に影響していないかを検証した。【方法】2007年1月前後21カ月間に,敗血症性急性肺傷害の診断で24時間以内に人工呼吸を要した成人ICU症例を前期群64例,後期群36例で比較した。【結果】両群の患者背景に差はなかった。シベレスタットは前期群54例(84.4%),後期群4例(11.1%)に使用された。28日ventilator free days,ICU滞在および入院期間,院内死亡率に有意差はなかったが,人工呼吸期間は後期群で有意に短かった。院内死亡率に対する多変量解析では,前期群に比べ後期群のodds ratioが0.269(<I>P</I>=0.028)であった。【結論】シベレスタット使用中止で敗血症性急性肺傷害の予後は悪化しなかった。
著者
大網 毅彦 中西 加寿也 大島 拓 奥 怜子
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.409-413, 2012-07-01 (Released:2013-01-16)
参考文献数
15

溶連菌感染の関与が示唆された中毒性表皮壊死症の1例を報告する。【症例】症例は38歳,男性。入院2日前から全身に皮疹を認め,近医からの投薬を受けていたが,皮疹に加え眼球口唇の発赤が出現し,当院受診となった。皮膚所見と病理所見からStevens-Johnson症候群と診断し,ステロイドパルス療法を開始した。入院3日目に皮疹が全身に拡大したため,中毒性表皮壊死症への進展と考えて,全身管理目的にICU入室となった。血漿交換に加え,免疫グロブリンと皮膚細菌培養で検出した溶連菌に対する抗菌薬投与を開始した。3日間連日の血漿交換により皮疹の拡大は一時的に抑えられたが,再び進行したためさらに3回追加施行し,以後,皮膚所見の順調な改善が得られた。【考察】本症例は薬剤の関与が否定的な中毒性表皮壊死症であり,溶連菌感染の関与が示唆された稀な1例と推察される。
著者
小川 寛恭 横田 治 関 啓輔 小倉 真治 前川 信博
出版者
日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.439-442, 2004-10-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
10

74歳女性。肺炎で加療中,全身に薬疹が出現し,これが急速に表皮剥離性病変となった。表皮剥離性病変は全体表面積の約70%に及び中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis, TEN)と診断された。第8病日に敗血症性ショックとなり,一時循環動態は安定したが,第13病日に再度敗血症性ショックとなり第20病日に死亡した。血液細菌培養検査・便細菌培養検査の結果から,敗血症の原因としてbacterial translocation (BT)が示唆された。TENは長期完全静脈栄養法や抗菌スペクトルが広い抗菌薬の投与が必要になる場合が多いことと,腸管粘膜障害を起こすことからBTを起こしやすい病態と考えられる。また,TENの致死的合併症のほとんどは敗血症であり,敗血症の原因の1つとしてBTが挙げられる。この敗血症を予防するためにselective decontamination of the digestive tractによる積極的予防策が必要であると思われた。
著者
鈴木 光洋 横田 泰佑 五明 佐也香 佐伯 辰彦 上笹貫 俊郎 速水 宏樹 杉木 大輔 池上 敬一
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.324-327, 2016-05-01 (Released:2016-05-02)
参考文献数
8

64歳,女性。既往歴:気管支拡張症。突然大量に喀血し,当センターへ搬送された。気管挿管を施行し,気管支鏡を施行,来院時喀血は止まっており経過観察とした。第3病日大量に喀血し酸素化不良となり,veno venous extracorporeal membrane oxygenation(VV-ECMO)を開始した。血管造影検査にて右気管支動脈より出血を認め,中心循環系血管内塞栓促進用補綴材(セレスキュー®,アステラス製薬)による血管塞栓術にて止血を行った。酸素化は改善せず,気道内よりoozingを認めた。このためECMO施行中の抗凝固療法には強い制限があった。気道内には血餅が充満しており,気管支鏡にて慎重に血餅除去を行いながら人工呼吸管理を行った。徐々に肺の含気が得られ第15病日よりhigh frequency oscillatory ventilation(HFOV)を開始した。第32病日にECMOから離脱した。第95病日にリハビリテーション目的に転院となった。本症例では出血のリスクが高く,ECMO施行中の抗凝固薬使用には強い制限があった。しかし,血栓性の合併症は回路の交換1回のみであり,安全にECMOから離脱することができた。
著者
嶋津 岳士
出版者
日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.102-105, 2006-04-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
7
著者
西山 友貴 藤原 康嗣
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.163-166, 2016-03-01 (Released:2016-03-18)
参考文献数
19

カルベジロールとプロパフェノンの過量摂取によると考えられる心停止蘇生症例を経験した。80歳の女性が心停止で搬送された。高血圧,発作性心房細動,アルツハイマー型認知症の既往を有していた。胸骨圧迫,アドレナリン投与,人工呼吸で心拍再開したが,高度徐脈(10~20 /min)となり,アドレナリン持続投与を必要とし,一時的ペーシングを開始したが頻回に機能不全を生じた。約10時間後に徐脈は改善(70 /min)し,アドレナリン,ペーシングは不要となった。後にカルベジロール,オルメサルタン,アゼルニジピン,プロパフェノンを過量摂取したことが判明した。後日薬物血中濃度が判明したが,プロパフェノンとその代謝産物が高濃度であった。心停止,高度徐脈,ペーシング不全の原因は,カルベジロール,プロパフェノンの過量摂取と考えられた。高齢者ではプロパフェノン中毒が生じやすく心停止に至る危険性が大きい。
著者
又吉 康俊
出版者
日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.188-190, 2005-07-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
14
著者
村田 雄哉 松宮 直樹 荒木 祐一 吉田 美伽 尾西 恵美菜 関谷 芳明 山田 均
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.536-539, 2015-11-01 (Released:2015-11-06)
参考文献数
14
被引用文献数
1

16歳,男性が縊頸による心肺停止後に自己心拍再開し搬送された。心停止から自己心拍再開までの時間は短くとも18分であり,来院時のGCSは3点であった。入院後,低体温療法を施行し,その後も継続する薬剤抵抗性の高熱と意識障害に対して第49病日よりアマンタジンを投与し,解熱と意識状態の改善が得られた。リハビリテーションを経て,入院後4ヵ月で神経学的に回復し歩行退院した。縊頸による心停止・心拍再開後で予後不良と考えられた症例が,歩行退院という良好な転帰をたどった。
著者
萩原 信太郎 上野 剛 濱崎 順一郎 山口 俊一郎 有村 敏明
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.35-38, 2016-01-01 (Released:2016-01-08)
参考文献数
14

症例は80歳,男性。倦怠感を主訴に近医受診し,血清Na 114 mmol/lと低Na血症を認めた。意識障害および呼吸不全が出現したため当院紹介となり,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion, SIADH)の診断でバソプレシン2受容体拮抗薬トルバプタンを開始した。6時間ごとに評価を行い,血清Na 4~10 mmol/l/dayで上昇し,第5病日には意識障害も改善した。トルバプタンの内服を継続し,3ヶ月以上の経過で重篤な副作用なく,Na値も安定して経過した。トルバプタンは自由水の排泄を増加させて低Na血症を改善するため,従来の治療に比べ患者負担が少なく,SIADHの原疾患治療中および緩和ケア期の対症療法として有用な可能性がある。
著者
和田 剛志 澤村 淳 菅野 正寛 平安山 直美 久保田 信彦 星野 弘勝 早川 峰司 丸藤 哲
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.191-195, 2010-04-01 (Released:2010-10-30)
参考文献数
13

甲状腺クリーゼと診断した4例を経験した。1例は来院前に心肺停止となり,蘇生後低酸素脳症により不幸な転帰となったが,他3例は迅速な診断と治療により良好な経過をたどった。4例すべてに心不全徴候を認めたが,甲状腺治療薬が心不全や全身状態を悪化させる可能性があるため,治療に際しては十分な循環動態の監視が必要と考えられた。また,外傷後の異常な頻脈と発熱持続を認める場合,甲状腺機能評価を視野に入れた治療が必要と考えられた。
著者
日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.329-334, 2013-04-01 (Released:2013-05-14)
参考文献数
2
被引用文献数
2 6

日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会は,日本集中治療医学会認定集中治療専門医研修施設に重症敗血症および敗血症性ショックに罹患した患者の登録を依頼し,第1回Sepsis Registry調査として,2007年10月1日より12月31日までの調査期間に47施設からのエントリーを得た。登録症例総数は305例であり,そのうち基本情報の整った解析可能な症例で,重症敗血症および敗血症性ショックと評価できた266例を抽出した。登録症例として,内科領域より66例,外科領域より58例,救急領域として142例がエントリーされ,平均年齢は67歳,男女比率は170例/96例だった。主な感染部位は,腹腔内感染症が85例,カテーテルを含む血流感染症が42例,尿路感染症が22例,軟部組織感染症が27例だった。重症敗血症および敗血症性ショックを惹起した起炎菌は上位から,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌41例,Esherichia coli 36例,Klebsiella pneumoniae 28例,Pseudomonas aeruginosa 28例,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌24例であり,初期起炎菌としての真菌検出例はCandida albicans 4例とCandida non-albicans 6例だった。ICU入室日のAcute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIスコアとSequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア(平均±標準偏差)は20.3±9.9と8.5±4.7であり,急性期disseminated intravascular coagulation(DIC)診断基準に準じたDICを126例(47.4%)に認め,このICU死亡率は77例(61.1%)だった。敗血症性ショック145例(54.5%)のうち,early goal-directed therapy(EGDT)が施行されたものは42.1%だったが,ICU死亡率は非EGDT達成群の42.9%に比較してEGDT達成群で26.2%と有意に低かった。また,経腸栄養の併用は101例(38%)に認められ,APACHEIIスコアは非経腸栄養群の19.5±4.7と経腸栄養群の21.8±9.9に差を認めなかったが,経腸栄養によりICU死亡率が35.1%から23.7%へ,院内死亡率が43.0%から28.7%へ有意に低下していた。今回解析された266例の重症敗血症および敗血症性ショック全体の治療成績は,ICU死亡率30.8%,28日死亡率36.4%,院内死亡率37.6%だった。以上のように,第1回Sepsis Registry調査では,重症敗血症および敗血症性ショックにおける経腸栄養,および敗血症性ショックにおけるEGDT施行と生命予後改善の関連が示唆された。
著者
櫻井 聖大 山田 周 北田 真己 橋本 聡 橋本 章子 木村 文彦 原田 正公 高橋 毅
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.635-638, 2014-11-01 (Released:2014-11-14)
参考文献数
9
被引用文献数
3

臭化ジスチグミン(ウブレチド®,鳥居薬品)は排尿困難に使用されるコリンエステラーゼ阻害薬である。重篤な副作用としてコリン作動性クリーゼを起こすことが報告され,その使用量は制限されるようになった。ただ,その後もコリン作動性クリーゼの報告は散見される。我々は,重症肺炎とそれに伴う麻痺性イレウスからショックに至った症例を経験した。当初は敗血症性ショックを疑ったが,臭化ジスチグミンを内服していたことと,コリンエステラーゼ活性の著明な低下を伴っていたことから,コリン作動性クリーゼによるショックが考えられた。臭化ジスチグミンはその大半が便中に排泄されることから,麻痺性イレウスのように消化管蠕動が低下している場合には血中濃度が上昇し,コリン作動性クリーゼを起こす可能性があり注意が必要と思われた。
著者
安田 治正 三嶋 正芳 米本 俊良 奥山 裕司
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.327-332, 2010-07-01 (Released:2011-01-25)
参考文献数
14
被引用文献数
4 1

症例は61歳,男性。心筋梗塞に伴う左室自由壁破裂にて修復術を施行,術後心房細動となった。電気的除細動にて回復後,洞調律維持を期してピルジカイニド150 mg·day−1が投与されていた。術後第47病日,高K血症に対し透析を予定したが,心室頻拍を呈しICU再入室となった。高K血症の心室頻拍への関与は否定できず,直ちに持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration, CHDF)を開始した。血清K値は12時間で正常域に復したが,多形性心室頻拍が持続していたため,ピルジカイニドによる催不整脈作用を疑った。不整脈出現中,血中ピルジカイニド濃度は終始高値(最低4.62 μg·ml−1,有効治療域0.2~0.9 μg·ml−1)であった。CHDF開始後36時間で洞調律に復帰した。この時,血中ピルジカイニド濃度は3.36 μg·ml−1と,なお高値であった。CHDFによるピルジカイニドの除去効果は不十分と考えられたが,血中濃度の低下に伴い洞調律復帰が得られた。ピルジカイニド中毒による不整脈の治療に際し,可及的速やかに血中濃度を下げることが有効であり,CHDFの有用性が示された。
著者
鈴木 聡 森松 博史 江木 盛時 清水 一好 松崎 孝 佐藤 哲文 片山 浩 森田 潔
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.215-220, 2011-04-01 (Released:2011-10-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

術後の発作性心房細動の発生は,ICUや病院滞在日数,医療費の増加につながることが報告されており,その管理は重要である。我々は,食道癌術後に難治性の発作性心房細動を合併し,短時間作用型β1選択的遮断薬である塩酸ランジオロールを使用した7例を経験した。症例は51~87歳で,いずれも男性であった。複数の抗不整脈薬が無効であり,塩酸ランジオロール投与を開始した。初期の急速投与は行わず,4.3~33.5μg/kg/minと低用量の範囲で開始し,投与前と投与1時間後の心拍数は平均153[140, 167][95%信頼区間] /minから101[88, 116] /min(P<0.0001)と有意な低下を認めた。平均血圧は88[78, 94] mmHgから82[74, 89] mmHg(P=0.37)と有意な変化を認めず,重症な低血圧に陥る症例もなかった。6例では投与開始24時間以内に洞調律に回復した。複数の抗不整脈薬に抵抗性の食道癌術後発作性心房細動に対する低用量の塩酸ランジオロール投与は,大きな血圧の低下なく心拍数の安定をもたらした。