著者
竹田 晋也
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
no.128, pp.8-13, 1995-11
参考文献数
12
被引用文献数
1

地域住民による森林の利用と管理の実態を,タイ東北部ヤソトン県の水田水稲作を主とする低地の村で調べた。束北部ではこれまで村落単位の資源管理組織が発達していないと言われてきたが,調査地区では村落郡単位で森林・公共地が管理されていた。1989年の天然林伐採の全面停止以降,住民主体の森林管理が模索されているタイでは,タンボン行政区をその担い手として位置づけ,制度的な枠組みとして「コミュニティーフォレストリー法」と「タンボン評議会の法人化」が検討されている。今後,森林再生が,地域住民の主体的な取り組みの結果として実現してゆくのか,あるいは経済成長に伴って生活・生業の森林への依存が稀薄になり,その結果として森林が主に自然力によって再生していくのかは,今の時点ではわからないが,経済成長の著しいタイにおいては後者の可能性がかなり高いと思われる。
著者
枚田 邦宏
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.1996, no.129, pp.159-164, 1996
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究では,森林所有者にかわって森林を管理する地域組織として森林組合を想定し,現状の取り組み状況,問題点を明らかにすることを目的とする。森林管理に関する森林組合の事業には,森林経営信託事業と森林経営受託事業がある。全国で森林経営信託事業に取り組んでいるのは2組合,森林経営受託事業に取り組んでいるのは19組合のみで一般化していない。森林経営信託事業の対象となっている所は,不在村森林所有地であり,森林組合が不在村森林所有者を把握することができていること,契約を締結し公社造林を導入することによって森林組合が森林造成事業を拡大できることが,森林経営信託事業を進める要因となっている。また,森林経営受託事業は,当初,農林金融公庫からの憤り入れのために導入されたものであり,現在継続しているものは,森林経営受託事業だけでなく,施業受託を同時に契約しているものである。今後,森林経営信託事業を進めるためには,事業実行面の公的資金の援助が欠かせない。森林経営受託事業の場合には,土地境界の管理レベルの受託は森林組合の経営面からも困難なのが現状であり,低価格で管理できるしくみを作るか,地域単位に育林,間伐事業などを結びつけ事業化していくことが必要である。
著者
ジョーンズ トマス エドワード 八巻 一成
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.1-11, 2015-11

The national parks of England and Wales seek to provide public access and conservation concurrently despite being largely composed of 'protected landscapes' that consist largely of private land situated in upland areas. This paper employs secondary sources to review evolving access and conservation mechanisms in the parks through five pivotal policies driven by changes in visitor demand. Despite pre-war conflict, such as at Kinder Scout in 1932, conservationists' alliance with the access movement in the aftermath of WWII facilitated the National Parks and Access to the Countryside Act (NPAC, 1945). However, a right to roam' across upland and uncultivated areas was not granted, while conservation was undermined by institutional divisions. An administrative framework emerged gradually via the Countryside (1968); Wildlife and Countryside (1981); and Environment (1995) Acts, before the Countryside and Public Rights of Way Act (2000) did eventually extend access across upland areas, albeit with numerous caveats. Aside from national park administration, the twin mechanisms of access and conservation have also been shaped by the diversification of visitor demand, as epitomised by the ongoing debate over 'quiet enjoyment.' This paper thus offers a holistic, retrospective baseline for research into the future policy direction of upland areas which remains unresolved.
著者
早尻 正宏
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.51-59, 2011
参考文献数
6

本稿では,鳥取県智頭町を事例に,林業技能者養成をめぐる地域的取り組みの展開過程を整理し,その到達点と課題を明らかにした。智頭町では1991年,町や森林組合などの出資により,林業技能者養成を目的とした第3セクターが設立された。しかし,労働力需要の減退もあって,第3セクターで技能習得した人が町内の他事業体に移籍するという当初の設立目的は実現困難となっていた。こうした雇用なき職業訓練の現状を解決するため,住民が町の課題を話し合い予算折衝まで行う町独自の住民自治組織において,雇用創出と職業訓練をセットした林業振興策が提起されるなど,同町における林業技能者養成は新しい段階を迎えつつあった。
著者
藤原 敬大
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.63-74, 2016-03

チークは,最も経済的価値が高い熱帯広葉樹の1つであり,その材質は,高密度,高い耐朽性や寸法安定性,装飾性によって特徴付けられる。インドネシアは,チークの世界三大生産地の1つであるが,主要な生産者であった林業公社によるジャワの国有林での生産量が減少している。一方で拡大する私有林が,新たなチーク材供給源として期待されている。本稿は文献調査を通じて,(1)国有林と私有林の特徴や現状について整理し,(2)新たなチーク材の供給源としての私有林の可能性ついて検討し,(3)チーク材の安定供給に向けて国有林と私有林が取り組むべき課題について提示した。伝統的な国有林管理は,功利主義と科学林業で特徴付けられる。一方で一般的な私有林管理では,共同管理のための森林計画や管理組織が存在せず,また樹木は地域住民の生活の必要に応じて伐採される。国有林と私有林の管理の実態は大きく異なり,それゆえ生産されるチーク材の材質にも大きな差がある。チーク材の安定供給のためには,国有林では地域住民と協働して長期間安定的にチーク林を管理していくこと,私有林ではチーク材の「質」と「量」の課題に取り組むことが必要である。
著者
柿澤 宏昭
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.12-20, 2007-11-01
被引用文献数
2

本論文では,北海道十勝地方を対象として,地域材による住宅建築をめぐる協働関係形成の現状と課題について分析を行った。十勝地方においては川下を中心に工務店・設計事務所,製材業,行政の協働によりカラマツ材の住宅建築への利用が進んでいる。協働関係を形成するにあたって工務店・設計事務所が牽引車としての役割を果たしたこと,工務店・設計業者の働きかけに長期的観点から製材業が応えて住宅部材供給体制を整備したこと,行政がソフト事業によって側面支援を行ったことが重要な役割を果たした。協働関係形成の結果,カラマツ住宅建築戸数が増大するとともに,カラマツ住宅建築を進めるための民間団体も結成された。一方で,人的資源の不足から民間団体が十分に機能していない,森林所有や森林組合などが取り組みに参加していないということが課題として指摘できる。
著者
増村 恵奈 重松 彰 佐藤 宣子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.51-60, 2011-11-01

林地所有者の高齢化や林業経営意欲の減退により相続や売却希望者の増加が予測され,それに起因して所有者の不在村化や森林管理水準の低下等の問題が懸念されている。本論文の目的は,戦後の新興林業地であり,素材生産量が近年拡大している大分県佐伯市を事例として,(1)森林組合員アンケートを用いて林地所有の履歴別に伐採活動と林地の売却意向を考察すること,(2)佐伯市旧宇目町を対象とした土地登記済通知書の分析により林地所有権の移動を定量的に把握することである。その結果,(1)現世代で林地を購入した所有者は他よりも主伐と林地売却の意向が高く,林地所有の履歴が今後の森林管理水準の差に影響することが示唆された。林地売却については現世代購入所有者の23.3%が今後5年間の売却意向を示した。(2)旧宇目町では1999年から2008年までの10年間の合計で1,454件,私有林面積の19.0%にあたる2,554.4haの林地所有権の移動を確認した。対象期間の林地所有権の移動を売買と相続に分けて集計した結果,件数はそれぞれ全体の49.1%と36.2%であり,平均移動面積はそれぞれ1.0haと3.1haであった。
著者
大田 伊久雄
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
no.127, pp.137-142, 1995-03
被引用文献数
1

米国連邦有林は森林資源の保護および国民のニーズに応じた利用という精神のもとに,農務省森林局によって管理されてきた。そこからの木材販売においては地元企業を優先し伐採収入の25%を地元の郡へ供与するなど地域経済の発展に大きく貢献してきたし,また第二次世界大戦後の急激な木材需要の増大に対応した増産をするなど国家的見地からも重要な役割を果たしてきた。しかし,1960年頃からの自然保護運動の高まりとともに大面積皆伐などへの批判が強まり,いくつもの法整備を経て連邦有林の森林管理規定は修正変更を繰り返してきている。本論文は,こうした認識を踏まえて米国連邦有林における木材生産活動の制度的変遷をたどるとともに,現行の木材販売の基礎である立木評価システムの分析を通してその問題点と妥当性について考察を行ったものである。また,1980年代に全米各地で大きな問題となったBelow-cost timber salesについてもその発生要因および議論の焦点を示し,森林局が連邦有林管理上の一つの大きな目的である木材生産にどのような姿勢で取り組んでいるかを分析した。
著者
笹田 敬太郎 佐藤 宣子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.1-9, 2013-11

近年大規模災害が発生する中で,過疎・高齢化が進む山村において,いかに地域の安全を守るかが課題となっている。消防団は山村の地域防災の中核に位置付けられ,団員は職業を持ちながら,平時の訓練,有事の際の消火,災害復旧,住民の避難誘導などを担っている。本研究では山村における消防団の実態と課題を明らかにするため,九州山村の3地域を対象に行政資料の収集と団員へのアンケートを実施し,職業別に活動参加実態を考察した。その結果,団員の不足や高齢化の下で,役場職員やOB団員に活動の依存度が高まる傾向を把握した。農林業従事者の団員の比率は35%以下であるが,土建業従事者と共に災害時の出動回数が多かった。地域別にみると,近隣都市への通勤圏にある球磨村では職種や勤務地が多様化し,加入率が他よりも低かった。奥地山村である諸塚村では,出動の中心が役場勤務の団員へと移行し,自治公民館単位に消防団OBからなる消防支援隊が組織されていた。そして広域合併市の五家荘地域では,土建業,林業に従事する団員を中心に住民一体となって活動を実施しているが,行方不明者の捜索への出動が増加し,消防団員の負担が大きいなどの特徴が明らかとなった。
著者
田中 亘
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.29-38, 2004-07-01
被引用文献数
1

本研究では,林業体験活動の一つである京都府林業労働支援センター主催の「グリーンスカウト」事業参加者を対象に聴き取り調査,および就職までの追跡調査を行った。その結果から,彼ら林業就業希望者の属性および意識,林業へ参入できた者と参人できなかった者との差異について明らかにした。グリーンスカウト参加者の特徴として以下の点が挙げられる。(1)近畿圏の都市部出身で,20代前半は学生もしくはアルバイト,20代後半から30代は転職希望である。(2)自然(山)や環境への関心から林業への就業を希望し,その職場環境を評価する。(3)できれば都市からの便が良いところに就職したいとの意向を持ち,若干住居に不安を感じている。(4)年齢が上がるほど転職へのハードルの高さも自覚している。本事例における採用の決め手は,第一に地元の出身であるか否か,第二に意志の強さであった。事前体験制度は,就業希望者の思い描いていた林業と実際の林業とのミスマッチを埋める役割を果たしていた。しかし同時に,就業を果たせなかった多数にとってはそれが志望変更のきっかけとしても機能していた。
著者
竹本 豊
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.1-12, 2010-07-01

1985年,林野庁は公共事業予算への厳しいマイナスシーリングに対し,自由裁量の効く自主財源を確保するため,水源税の創設を目指した。結果的には廃案となったが,その決定過程で,林野庁技術官僚は関係団体や族議員を積極的に活用し,水源税創設に向けて自律的に活動した。水源税構想廃案の決定過程からは,林野庁技術官僚のプロフェショナル・ネットワークと鉄の三角同盟の一端が解明できた。プロフェショナル・ネットワークは天下りによる強い人的ネットワークをその資源とし,林野庁技術官僚と日本林業協会を中心とした関係団体で構成され,その外延部は各団体の地方組織にまで及んでいた。利権をめぐる政官業の共生関係を示す鉄の三角同盟は,林野庁技術官僚と自民党林政調査会を中心とした農林3部会,日本林業協会を中心とした関係団体で構成され,プロフェショナル・ネットワークがその一辺に組み込まれていた。予算編成過程における林野庁技術官僚は単なる専門領域のスペシャリストではなく,プロフェショナル・ネットワークと鉄の三角同盟を動員して政策実現を目指す,政治的資質を備えた官僚といえる。
著者
石崎 涼子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.29-39, 2010-03-01
被引用文献数
3

本稿は,政策設計に焦点をあて,現在の森林・林業政策に機能不全をもたらす要因とその改革方向を検討することで,公共政策を通じた森林管理の課題について論じるものである。検討の結果,(1)現在の森林・林業政策が抱える機能不全を打開するには,戦略的な視点をもった政策設計が求められること,(2)私有林においては,基本的に民間の主体的な判断が重視される必要があること,(3)森林・林業に関わる知識や知見,技術などの情報的な基盤の整備や強化が民間の意思決定を支援するうえで重要となること,(4)競争力の強化を目指す施策は経営主体への側面的な支援を主とし,公益確保を目指した施策は実効性のある監視体制の構築が必要であるとともに,所有者等の自発的な参画を重視した政策手段の活用も有効と考えられることを指摘した。こうした視点で構築された制度・政策的な森林管理においては,現場に密着しながらも充分な専門的知見を有するフォレスターを核とした地域森林管理の果たす役割が大きいと考えられる。
著者
古川 泰
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.39-52, 2004-03-01
被引用文献数
4

地球環境時代にはいり,地方自治体から環境を強く意識した林政(森林・林業施策)が打ち出されてきている。本稿では高知県で導入された森林環境税と高知県梼原町で展開されている環境型森林・林業振興策を事例に,これら施策の成立と展開過程で住民参加がどのように行われているかを検証した。県レベルでは住民の参加はアンケート等の行政側の意見聴取という形で行われ新税推進の力となったこと,税制度設計,新税の使途についても影響力があったと言えること。梼原町の事例では住民自治組織を基礎とした意見聴取過程や施策実施における住民の直接的参加が追求され,効果が上がっていることが確認された。今後,地方自治体林政において環境面がより重視される方向に進んでゆく中で,行政もふくめた林業関係者は住民,市民をともに考えるパートナーとして受け入れることが必要である。
著者
高橋 卓也
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.19-28, 2005-11-01
被引用文献数
2

2000年の地方分権一括法の施行と時期を同じくして,地方森林税(または森林環境税,水源税)の導入が各都道府県で検討されている。地方森林税導入の動きは2つの点から興味深い。1)どのような要因によって地方森林税は各都道府県で現実化しているのだろうか。2)各都道府県別に意思決定がなされる結果,多様な林政の展開の端緒となる可能性があるのではないか。現状では政策決定の全過程(政策過程)を全都道府県について観察することは実質的に不可能であるため,本報告では政策決定の初期段階である地方森林税の政策課題設定(アジェンダ・セッティング)について分析し,以上2つの問いに答える第一歩とする。具体的には,地方森林税が各都道府県で政策課題となった時期と各都道府県の政治経済的な変数の関係をイベントヒストリー分析(生存時間分析)により統計的に検討する。分析のための作業仮説としてKingdonの提唱した「政策の窓」論を使用した。分析の結果,渇水の危険度,私有林の保育水準,都道府県林業費の支出水準,財政力の変化を示す変数と地方森林税検討開始時期との間に統計的に有意な関係が見出された。
著者
泉 英二
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.11-18, 1998-10-01
被引用文献数
1

日本の戦後システムが大転換期を迎える中で,林政も大きく転換しようとしている。その中でも注目されるのが,森林法等の改正案で浮上してきた「市町村の役割強化」の考え方である。そこで,まずこのような考え方が登場してきた背景について,多面的に検討した。続いて,戦後市町村林政の展開過程を諸文献をもとに検討し,その上で当時の課題を紙野に依拠して明らかにした。次に,愛媛県における市町村の林務執行体制を検討し,現状の林政への対応で精一杯であることを明らかにした。続いて,愛媛県庁の林務執行体制と予算等の現状を検討した。次に,国の「行政改革」の内容を官民役割分担,地方分権等を中心に検討し,その上で,最近の「林政改革」の内容を明らかし,市町村への権限委讓とすると,かなりドラスティックであると評価した。しかも,現状の市町村の体制では具体化は無理とした。最後に,今後の市町村林政への期待として,人員・組織の強化を前提として,(1)市町村独自の「林業振興計画」の策定,(2)市町村による管内森林・林地の公有化と公的管理の強化,(3)市町村合併による「流域林業」政策の実現,等を述べた。
著者
藤原 千尋
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.13-18, 2000-12-05 (Released:2017-08-28)
参考文献数
7
被引用文献数
4

岩手県遠野市では毎年クマ被害が発生し,被害地住民にとって深刻な問題となっている。被害地住民の被害に対する認識や農業経営形態などにより被害問題の形態が変わることから,被害問題は加害動物と共に被害地住民の認識・行動が形作っていると言える。そこで本論では被害地住民の側からクマ被害の実態把握を行うことを目的とし,AとB,2つの集落に対して聞き取り調査を行った。その結果,B集落で遠野市による電気牧柵の補助制度が導入されない理由として,成功例を身近に見ておらず失敗例が共通認識化されていることが考えられた。従って,今後の対策としては,電柵導入が効果的と思われるが導入されていない集落に対して,モデル事業を行うこが挙げられる。また人身事故が過去に生じたB集落では,クマに対する認識が強く否定的になり,クマを残す合意形成が難しくなっていることが明らかになった。このことから,クマを対象とした場合,一見「クマと共存している」と思われる集落も,一回の人身事故でクマ否定派に変化することが考えられ,人身事故対策が非常に重要であると言える。
著者
花本 沙希 立花 敏
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.49-58, 2016 (Released:2017-10-10)
参考文献数
20

国産材利用の拡大に向けて木造住宅をどのような消費者が選択するかを改めて把握する必要がある。大手住宅メーカーも木造住宅商品を扱うが,未だに木造住宅の供給には中小工務店が重要な位置を占める。本研究では,1980年頃より産直住宅供給業に取り組む中規模工務店を対象に聞き取り調査とアンケート調査を行い,産直住宅を選択した消費者の属性と拘りを明らかにすることを目的にした。方法としては,岐阜県加子母のN工務店で2007~2014年に木造住宅を新築した消費者61名からのアンケート調査結果をもとに,クラメールの連関係数を用いた相関分析と重回帰分析を用いて消費者の地域による差および住宅価格と消費者属性の差を分析した。アンケート調査結果として,①中部地域では土地所有があり世帯年収が高くない層による選択が多い,②関西地域では土地購入が多く平均的な広さの住宅を選択する,③関東地域では世帯年収の高い50歳代が多く高価な住宅を選択する傾向がある,④住宅については複数の拘りがあるが,住宅メーカーについての拘りは少ないことがわかった。重回帰分析からは⑤世帯年収1,500万円以上の消費者は建築する住宅価格が高くなることが明らかになった。
著者
大塚 生美 立花 敏 餅田 治之
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.41-50, 2008-07-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
9
被引用文献数
2

1980年代半ば以降アメリカでは,年金基金や職員組合の退職金基金などの巨大投資ファンドを背景とした林地投資経営組織(TIMO)や,不動産投資信託(REIT)等によって林産会社の社有林が買収され,これまで見られなかった新たな大規模森林所有が形成されている。この林業を巡るアメリカの新たな動きは,アメリカ固有の特徴的な動きであるというばかりでなく,林業経営の世界史的な流れの中で捉えるべき育林経営の新たな段階の到来を示唆しているのではないかと我々は考えている。本稿では,それを明らかにするため,(1)アメリカにおける大規模育林経営の収益性,(2)林地評価額の上昇による林地売却の有利性,(3)不動産投資信託に対する税の優遇措置,の3つの課題を考察した。その結果,育林経営の内部収益率は概ね6%であることから,米国債や銀行利回りより高いリターンが期待できること,林産会社の所有林は,長い間産業備林として所有されていたため,今日の実勢価格はそれよりはるかに高く,林地評価額の上昇がもたらした林地売却に有利性があること,REITの経営によって得られた収益に対しては,二重課税を回避するため支払配当控除ができる税の優遇措置があることがわかった。