著者
島本 美保子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.3-11, 2011-03-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
11
被引用文献数
3

木材貿易の問題についてのマクロ的な理論分析は林産物の多くを海外に依存している日本の森林・林業政策を考える上で不可欠である。本稿では,まず木材貿易が貿易当事国国内の森林の持続可能性に与える影響について筆者が行ってきた理論的分析をデータと重ね合わせてみることにより,世界の森林資源と木材貿易の関係についての大まかなイメージをつかむ。次に貿易による資源配分や所得分配の変化についてストルパー=サミュエルソンの定理を用いて理論的に解説し,各種データによって日本における輸入代替産業である林業を含む農林水産部門と輸出産業である工業部門の明治期以降の変化を説明する。日本経済は諸外国に比べて貿易への依存度が低く,また着実な経済成長によって,2000年前後までは賃金水準も上昇しつづけたため,第一次産業への負の分配効果は規模的縮小に留まった。しかし近年雇用吸収力は限界に達しており,ストルパー=サミュエルソン定理による説明どおり,貿易自由化,資本移動による分配変化が起こっていることがわかる。そして現在の日本の産業構造の中で,林業を含む第一次産業をどう考えるべきなのか,についての示唆を与える。
著者
尾分 達也 山田 咲月 藤原 敬大 佐藤 宣子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.17-25, 2022 (Released:2022-08-19)
参考文献数
14

林業は労働者千人当たりの年間死傷者数が,全産業の中で最も高い産業であり,その労働災害対策は,労働災害の発生の抑制だけではなく,発生時に負傷者の重症化を防ぐことが求められる。本研究は,徳島県庁林業戦略課と林業労働災害防止協会徳島県支部,徳島県南部の林業事業体,並びに消防署へ林業労働災害対策の取組みについて聞き取り調査を行い,労働災害発生時の連絡体制および負傷者の移送体制について明らかにした。緊急を要する労働災害が発生した場合,現場作業者は事業体を介さず消防署へ直接連絡を取っており,消防署と円滑に連絡を取るための通信インフラや事業体内での連絡体制の整備の重要性が明らかになった。また負傷者を早急に搬送するためには,通報する作業員が救急処置や状況を消防署へ説明するための当事者意識教育やマニュアルの整備,作業地の位置情報を消防署と事前に共有するなど緊急車両やヘリが現場へ迅速に到着できる体制づくりが求められていた。それゆえ,労働災害発生時の緊急合流地点を事業体と消防署の間で共有し,事業体は現場や状況が変わる度にミーティングなどで作業員へ安全の意識付けを行うことが課題として示唆された。
著者
能登 淳子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.111-116, 1999-03-20 (Released:2017-08-28)
参考文献数
5

本論文は,これまで用材生産を中心に捉えられてきた林野利用の歴史に対して,それ以前の多様な利用,なかでも長年にわたって山村農民の食料生産を支えてきた焼畑耕作について,その存在形態と衰退の過程を主に土地利用の面から捉えようとしたものである。岩手県北上山地で行われていた焼畑耕作は,自給用の作物生産を主目的としながら,燃材の確保,養蚕のための山桑の栽培やそのほかの商品生産を支えるなど,多様な形態で農家の生活に重層的に関わっていた。しかし,第二次世界大戦後の開田の進展,あるいは畑作への商品作物への導入や雇用労働などの新たな現金収入の増加によって焼畑は放棄されていき,最終的には本来的な自給用作物生産という役割は薄れ,それ以外の2次的な役割が大きな位置を占めた。
著者
田中 求
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.13-24, 2014-07-01 (Released:2017-08-28)
被引用文献数
2

コウゾやミツマタなどの国産和紙原料が激減する中で,それを用いた本来の「和紙」そのものも消えつつある。本稿では和紙原料の主要産地であった山村の動態から,和紙原料生産の現状と問題点を明らかにする。対象地域は高知県いの町柳野地区である。柳野地区の和紙原料生産は,生業と作業形態,買い取り価格が変化する中で衰退していた。ミツマタは焼畑で栽培されてきたが,植林によりほぼ消滅した。コウゾも家屋の周囲などでのみ栽培されているに過ぎない。雇用労働への収入源の転換で栽培者が減る中で,作業は労働交換ではなく雇用労働に変わり,コウゾの収入源としての魅力は薄れていった。さらには,台風による被害で輸入コウゾが増加する一方,高齢化で十分な管理が行えないコウゾが増え,買い取り価格は下がり,イノシシのコウゾ食害は農家の栽培意欲を削いだ。そして,土佐コウゾが売りさばけずに余る,という状況に至っていたのである。柳野での和紙原料生産は消滅の危機にあるといえよう。
著者
安髙 志穂
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.9-18, 2019 (Released:2019-11-07)
参考文献数
34
被引用文献数
1

本研究では,2003年度から2017年度までの47都道府県議会の会議録から議員の花粉症対策に係る発言を抽出し,発言内容に応じて,①森林・林業対策,②医療対策,③環境対策,④その他対策に係る発言に分類した上で分析した。その結果,①花粉症対策に係る発言件数が多い議会もあれば,発言がなされていない議会もあり,議論の程度は議会により様々であること,②関東周辺の議会において花粉症対策に係る発言件数が多いこと,③一年度当たり平均では全議会の約2割の議会において花粉症対策に係る発言がなされていること,④花粉症対策に係る発言の中で森林・林業対策に係る発言が最も多く6割を占めること,⑤森林・林業対策に係る発言の中では花粉症対策苗木に係る内容の発言が最も多く,花粉症対策苗木による植替えについて多くの議員が関心を持っていることが明らかになった。
著者
安髙 志穂
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.49-59, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
49

本研究では,1947年の第1回国会以降の国会会議録から国会議員の花粉症対策に係る発言を抽出した上で,①森林・林業関係の対策,②医療関係の対策,③環境関係の対策,④その他花粉症対策に係る発言に分類し,これらの発言件数,森林・林業関係の対策に係る発言内容及びその変遷について分析した。これらの国会における議論の動向から,①花粉症対策に係る発言件数の中で森林・林業関係の対策に係る発言件数の割合が最も多く,近年ではその傾向が高まっていること,②1986年,国会議員が初めて森林・林業関係の対策に係る発言をし,以降30年以上にわたり関心や期待を寄せ続けていること,③森林・林業関係の対策に係る発言内容は,2004年度頃から個別の対策の効果や目標の設定方法等に踏み込んだ内容に深化し,これが当該対策の加速的な推進の一因となったと考えられることが明らかになった。
著者
竹本 太郎
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.16-30, 2021 (Released:2021-09-30)
参考文献数
96

森林官という個人の視点から,組織やネットワーク,移動の実態を明らかにする研究が環境史分野で注目を浴びている。本稿では,日本帝国を対象として,本国と植民地における森林管理を比較するため,齋藤音作という森林官の前半期の足跡として,日本統治初期の台湾と,森林法施行後の山梨県における経験をみた。台湾では,原住民教育に従事し,玉山東峰への登頂やヒノキ属の発見に貢献するが,阿里山森林の調査中に事件を起こして帰国した。山梨では,入会御料地を保安林に編入するため,御料局に対して正確な調査に基づく実態を突きつけたが,地元住民に対しては無理のない資源利用の提案をした。齋藤音作は,森林管理に必要な学知を有することに加えて,現場の課題に対して柔軟に対応できる「ジェネラリスト森林官」であった。初期の日本帝国にとって,現場の森林官は,既存の学知に「現場知」をフィードバックしてくれる修正者であったといえる。
著者
枚田 邦宏
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.27-35, 2013 (Released:2017-08-28)
参考文献数
11

本論文では,第1に,林業の担い手の変化と現在,林業生産におけるフォレスター等の人材育成の必要性とその意味について,第2に,森林・林業再生プランにおける林業の現状認識と人材育成の議論の内容の検討を行い具体化の問題点について,第三に,日本型フォレスター育成の内容と具体化への問題点について検討した。その結果,明らかになったのは以下の問題点である。森林経営の担い手が決められなく,また,担い手と考えられていた森林組合には問題がある。森林・林業再生プランにおいて分散的な森林所有の問題に応えることなく,技術者の育成を解決策としている。地域の全体像を描けるフォレスターを育成する准フォレスター研修がはじまったが,研修には多くの問題点があることが明らかになった。
著者
長澤 博 宮林 茂幸 五十嵐 健蔵
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.1-10, 2004-07-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
20
被引用文献数
4

本稿では,バブル経済崩壊以降の構造不況下におけるリゾート開発問題の実態を解明することを目的としている。この1990年以降のリゾート開発問題とは,リゾート開発跡地における総花的な開発資本による「林地投機」の動向にほかならない。そこで,福島県会津フレッシュリゾート構想地域の市町村を対象に,林地取引に関する調査を実施した。その結果,開発資本による林地取引は,まず第一に,バブル経済全盛期(1986〜1991年)にかけて取引量が多くなり,県外者への転売が多い傾向にあった。第二には,観光資源が豊富な磐梯山周辺地域で,投機効率の高い可能性を持つ林地が取引対象になっていた。第三には,猪苗代町・北塩原村では小規模の「別荘地等」,磐梯町・河東町・会津若松市では大規模の「レジャー施設等」「資産保有」目的で林地取引を行う傾向にあった。第四には,財政規模の大きい会津若松市では「資産保有」型の林地取引が非常に多くなり,開発利益を期待した「林地投機」が実施されていた。第五には,バブル経済崩壊後,林地価格の下落により「不良債権化」した投機対象林分では,開発資本による森林の放置と管理放棄が拡大しており,森林荒廃の一要因を形成していることが明らかとなった。
著者
谷 彌兵衛
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.1-8, 2001-07-16

17世紀のはじめ,大坂市場に登場した吉野材は他と差別化された内実をもち,とりわけ小径木の洗丸太が著名な産物であった。18世紀になると,上方の酒を入れる樽丸生産が盛んになり,以後,杉檜丸太と樽丸に特化されていった。吉野材は主として吉野川・紀ノ川を利用して和歌山へ流送され,和坂の材木問屋を通して販売された。それを安全かつ円滑に進めるために,吉野川が開削され,材木の輸送方法や流通・販売機構が整備された。材木の伐出し・販売=材木業に携わったのが材木商人で,その組織が材木方(同業組合)であった。材木の伐出しから販売までの過程の成否が材木商人の命運を決した。材木商人は,奥郷(山元)の商人と口郷(中流域)の商人に大別される。奥郷の商人は,百姓身分の商人で,重立商人・中位商人・小前商人の3階層から成っていた。このうち中位商人が中核的な役割を演じた。しかし,奥郷材木商人の経営は不安定で,一部を除き資本蓄積をなし得なかった。
著者
八巻 一成
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.1-10, 2010-11-01

欧州の自然公園管理における協働の実態を明らかにするため,本研究ではイギリス,ドイツ,イタリアの事例をもとに,公園の管理運営組織レベルにおける地域の関係主体の関与のあり方について考察を行った。ドイツの国立公園は,実質的な最上位レベルの行政主体である州の関与が強く,下位レベルの行政主体の関与が弱い。イギリスの国立公園,特別自然景勝地域では,国から準基礎自治体として最小の行政単位に位置づけられるパリッシュまで幅広いレベルでの関係主体の関与がみられる。イタリアの国立公園でも,国から最小の基礎自治体であるコムーネまで関与しており,多様な行政レベルの関与がみられる。一方,ドイツの自然公園の管理運営は郡とゲマインデによって構成される組織,イタリアの地域自然公園では州やコムーネを中心とする組織によって行われており,上記のものと比べてより地域に密着した制度となっている。
著者
皆上 伸 柴崎 茂光 愛甲 哲也 柘植 隆宏 庄子 康 八巻 一成 山本 清龍
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.10-20, 2013 (Released:2017-08-28)
被引用文献数
2

本論文では,十和田八幡平国立公園の奥入瀬渓流を対象として,リスクマネジメントの現状と問題点を明らかにした。2009年10月にアンケート調査を行い,渓流内の事故について,責任の所在に対する利用者の意向や個人属性を明らかにした上で,利用者を4群に分類した。9割弱の利用者が,歩道の安全性向上を目途とした整備を望んでいる一方で,渓流内の事故を自己責任と考える利用者も少数存在した。次に公的機関に聞き取り調査を実施し,リスクマネジメントの現状を整理した。歩道については,2003年の渓流落枝事故以降,倒木や落枝などのリスクを把握するための点検の強化や,施設賠償責任保険への加入などの改善策が実施されていた。しかし,歩道の未設置区間の存在や,曖昧な管理域などのリスクが依然残っている。組織横断的な機関を設置し,協働型の解決策をはかることも考慮する時期にきている。
著者
平野 悠一郎
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.53-64, 2004-03-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
25
被引用文献数
5

本稿は,中華入民共和国期の中国において,人間と森林との関係を規定する基本法が,どのような特徴を有しつつ推移してきたのかを明らかにすることを目的としている。1963年に公布された森林保護条例を起源とし,現行の中華人民共和国森林法に至る森林関連の基本法は,国土の森林を維持・拡大するために,基層社会の森林を利用する諸活動を規制・管理するという性格を一貫して有していた。1984年森林法では,緑化を公民の義務とすることが明記され,そのための活動に人々を動員するという性格が強められた。それは,産業振興法としての林業基本法が,森林の公益的機能の重視を含めた包括的な森林・林業基本法へと変容していく,同時期の日本の推移とは明らかに異なるものであった。そのような特徴と推移は,森林の過少状況,森林破壊の加速,社会主義統治といった,中国の森林関連の法令をめぐる社会背景に基づいていた。
著者
栗山 浩一
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.28-39, 2016

森林など自然資源に対する市民の要求が利用価値から非利用価値まで拡大したことで,森林の環境サービスの受益者は地域住民だけではなく一般市民にまで広がっている。本研究は,林業経済学分野における市民参加研究を展望するとともに,市民参加や受益者負担の事例を見ることで,自然資源管理に一般市民の意見を反映するための課題を明らかにする。市民参加に関しては,世界遺産に指定されている知床と富士山における訪問者管理を検討し,一般市民の意見を適切に管理計画に反映することの重要性を示した。受益者負担については,滋賀県造林公社の下流費用負担と神奈川県の水源環境保全税を市民の観点から分析し,一般市民の森林に対する要求の変化に対応可能な柔軟な費用負担制度が必要であることを示した。これまでの森林政策では消費者や市民などの需要サイドよりも林業関係者などの供給サイドが優先されていたが,今後は市民の視点から森林政策を評価することが必要である。
著者
志賀 薫 増田 美砂 御田 成顕
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.1-13, 2012
参考文献数
47

本研究では,ジャワの林業公社が2001年に導入したPHBM(住民共同森林管理)の地域開発および森林保全に対する効果を明らかにした。PHBMはLMDH(森林村住民組織)が割当林班の保全を行う対価として,林業公社側は収益の分配を行うという互恵的関係を基軸に,割当林班のもたらす収入機会を排他的に利用する権利を認めるという点において,それ以前の地域対策と異なっていた。しかし,中ジャワ州プマラン県P村の事例では,LMDHの執行委員のみが運営に関与し,収益の分配をはじめ,様々な特権を得ていた。また,PHBM実施後,統計上は管区内の盗伐は収束したが,PHBMに対するP村住民の認知度が低かったことやLMDHの活動開始時期,盗伐の収束はPHBMの効果によるとは断定し難く,チーク林資源の減少も影響していたと考えられた。PHBMは,運用段階において問題が多く,LMDHの運営の在り方を改めて検討する必要がある。
著者
比屋根 哲 佐藤 晴美 青井 俊樹
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.17-24, 2001
参考文献数
12

本研究は,苫小牧演習林における1980年代以降の演習林の市民への開放の取り組みについて,演習林利用者や一般市民へのアンケート調査ならびに聞き取り調査をもとにして,市民の演習林に対する認知度や演習林の市民開放の取り組みに対する意識や要望について把握し,今後の演習林の課題等について検討したものである。検討の結果,苫小牧演習林は市民の認知度が極めて高く,市民は演習林の市民開放の取り組みを好意的に受けとめていることがわかった。また,演習林利用者のマナーが次第に向上し,演習林職員との触れ合いが利用者のゴミ拾いの活動等に結びつく事例も認められた。これらのことから,一般市民への森林の開放は,森林管理を考える上でプラスの側面が十分に期待でき,その際には森林管理者との交流が重要であると考えられた。
著者
張 玉鈞
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.19-26, 2003-07-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本論では,中国における国有林場再編の過程を国有林場系譜の自然保護区をとりあげ,経営対策の一環として観光事業を推進している松山自然保護区(旧松山林場)を事例にその現状を分析した。経済体制改革後,国有林場は「国有民営」および「分類経営」による再編の時代を迎えた。各経営体に市場原理の導入が図られ,また,一部の国有林場は生態公益林型林場の経営に組み入れられて,さらにその一部は自然保護区といった別の機構への移行が実行されることになっている。この国有林場系譜の自然保護区(自然保護区管理処)では,経営的自立の1つの手段として観光事業が行われて,多くの観光客を受け入れる一方,自然生態系保護と地域振興が同時に追求されている。前進的な過程にあるが,問題点も多い。
著者
泉 桂子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.20-28, 2010-11-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
50

1兆円超の累積債務を抱える全国の林業(造林)公社について,既往の研究文献により以下2点を明らかにした。第1に公社債務問題は研究史上,1980年から言及され,1985年には公社ビジネスモデルそのものの欠陥が指摘されたが,債務問題に対しては対処療法が示されたに過ぎなかった。1992年以降公社研究は下火となり,公社解散が現実となるが,解散によってその債務問題が解決したとはいえない。研究史上農林漁業金融公庫の貸し手責任が明言されたことは成果であった。第2に,設立当時,公社には1.拡大造林の推進,2.地域振興,3.森林所有と森林経営の分離,4.農林漁業金融公庫の資金活用の4つの役割が期待された。これらの役割は1970年代前半〜1990年半ばに終了した。役割の終了にもかかわらず債務問題を抱えなおも公社が存続し得たのは,公社形態を取ったことによる信用膨張,事業と経営の分離,無責任体制に一因がある。
著者
戴 玉才
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
no.127, pp.185-190, 1995-03
被引用文献数
2

中国の国有林地域は,従来から社会的・経済的諸条件によって人口が希薄であった。国有林は主に「組織移民」,「官民協力移民」,「復員対策移民」という政策によって人口の多い黄河,長江下流域からの未婚中壮年農民や解放軍の除隊兵士を主体に移民させることによって森林開発に必要な労働者を求めた。国有林企業を中心とする地域の社会基盤の整備と移民労働者とその家族の定住によって辺鄙な奥地に地域社会が形成された。国有林地域への大規模な移民は,10年間ほど続けられたが,1960年代にはほぼ停止された。しかし少数の移民は1970年代後半まで続けられた。1980年代に入り,国有林労働者は,ようやく地域内の高校,中学卒業生やUターンして戻った大学,専門学校卒業生および復員兵士で地域内供給できるようになり,移民政策は完全に終止符を打った。国有林経営が単なる森林開発から林産物生産以外に係わる多角経営に取り組むにつれて,移民労働者の就業は森林開発の一極集中から離脱し,森林経営,木材加工,一般的産業及び社会部門へと分流し,多元的就業構造が形成されている。