著者
塩﨑 竜吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-244_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】 非特異的腰痛に対する理学療法として主たる疼痛部位である体幹のみへの治療では改善が得られないことを経験する.これは運動連鎖の視点から,腰痛の一原因が姿勢・アライメント異常に起因していることが考えられる.そこで,本研究の目的は,非特異的腰痛の一要因として後足部アライメントの変化が歩行中の筋活動に及ぼす影響について運動学的・筋電図学的側面から検討することである.【方法】 対象は九州看護福祉大学に在籍する過去2年間整形外科疾患,中枢神経疾患,呼吸・循環器疾患で加療中でない健常男性20名(平均年齢22.30±4.38歳,平均身長171.40±3.28cm,平均体重63.28±6.14kg)とした.課題動作は制限歩行とし,裸足での歩行(以下,裸足歩行)と外側ソールウェッジ(足長:15cm,幅:7cm,高さ:15mm)を右足底に装着し歩行(以下,インソール歩行)とした.歩行の条件は,速度1.0m/sec,歩隔12cm,歩幅70cm,足角15°と規定し,右下肢の1歩行周期を100%に正規化した.計測は三次元動作解析装置Vicon-MX-T40S(Vicon Motion Systems社製)を用い,サンプリング周波数は100Hzとした.マーカーは下腿中央と踵骨隆起を含め計35個を貼付し,Leg Heel Angle(以下,LHA)の角度変化を計測した.また筋活動の計測には表面筋電図計Telemyo DTS(Noraxon社製)を用いた.被検筋は左右の内外腹斜筋・最長筋・腸肋筋・多裂筋とした.筋活動は積分処理し最大筋活動に対する相対値(%IEMG)とした。解析区間は歩行周期0%-15%とし,区間内の運動学的・%IEMG変化量を算出した.統計学的処理は対応のあるt検定を用いて有意水準は5%とした.【結果】 裸足歩行のLHA変化量は1.27±3.06°で,インソール歩行の2.29±3.16°と比較し,有意差が認められた.裸足歩行の%IEMG変化量は,左最長筋(7.24±3.38%),右最長筋(4.39±2.67%),右多裂筋(7.46±2.79%)で,インソール歩行の左最長筋(8.56±3.74%),右最長筋(5.23±3.18%),右多裂筋(9.21±4.40%)と比較し,有意差が認められた.【結論(考察も含む)】 本研究では,裸足歩行とインソール歩行の比較においてLHAの角度変化,左右最長筋・右多裂筋・右内腹斜筋・左右外腹斜筋の筋活動量に統計学的有意差を認めた.森井らは荷重時の足部を含めた下肢アライメント変化の影響が日常的に加わることで筋活動のアンバランスを引き起こし,疲労性腰痛や腰痛悪化の要因に成り得ると述べている.このことから,LHAの変化が下肢アライメントを変化させ,上行性運動連鎖により骨盤に付着している筋活動に影響したと考えられる.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は九州看護福祉大学倫理委員会の承認(承認番号:27-027)を得て,被検者には研究の目的および方法を十分に説明し,研究に参加することに対する同意を得て実施した.
著者
宮川 良博 森 拓也 川原 勲 國安 弘基
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A-83_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【背景・目的】 近年、中鎖脂肪酸はその摂取による内臓脂肪の蓄積抑制効果、担癌体での抗腫瘍効果が報告され注目を集めている。中鎖脂肪酸は、カルニチン・シャトル非依存性にミトコンドリア外膜を通過するため、長鎖脂肪酸と比較し急速に代謝される。この特徴から中鎖脂肪酸は豊富なミトコンドリアを有し、ATP産生を行っている心筋に対して強く作用することが考えられる。そこで今回、中鎖脂肪酸の経口摂取が心筋に及ぼす影響を検討した。 【方法】 生後5週齢のBALB/c雄性マウスを用い、標準餌CE-2に中鎖脂肪酸であるラウリン酸を重量比で2%、5%、10%添加した餌を用意しControlを含め4群で比較検討した。安楽死まで1〜2日毎に体重、食餌摂取量を測定、安楽死後に心臓を摘出し重量を測定し、組織学的検討を行なった。組織学的検討では、ヘマトキシリン・エオジン染色により組織の形態、細胞面積の測定を行い、また抗8-OHdG抗体、抗4-HNE抗体により免疫染色を行い酸化ストレスの程度を評価した。測定結果について対応のないt検定により統計解析を行い、有意水準はp<0.05とした。 【結果】 10%群は実験開始より著明な体重減少を認め、5日目にmoribundとなり安楽死した。その他の群については5%群は13日目、2%群、control群は15日目に安楽死した。摂取カロリーに群間差を認めなかったが、体重、心臓重量は5%、10%群でcontrol群と比較し有意に減少した。心臓の組織学的検討では、10%群において心筋細胞の萎縮、酸化ストレスの増大を認めた。 【考察および結論】本実験により、過剰な中鎖脂肪酸の摂取は心筋細胞の萎縮、酸化ストレスの増大を招くことが示唆された。ミトコンドリアへの負荷が増大することにより機能障害が起こり、結果として酸化ストレスの発生が亢進し心筋細胞の萎縮を誘導した可能性が考えられる。今後ミトコンドリア機能について解析を進め、その機序を明らかにする必要がある。 【倫理的配慮,説明と同意】本実験は、奈良県立医科大学動物実験委員会の承認を得た(承認番号:12023)。
著者
松本 伸一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-243_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】 肩関節疾患において、夜間痛は頻繁に遭遇する臨床所見である。三笠らは6~7割にみられるとしており、夜間痛による睡眠障害をきたすことは、患者QOLを低下させると考えられる。また、睡眠障害は慢性疼痛のリスクを高める要因とされており、局所の炎症が減退したのちも、痛覚過敏や患側の不活動を惹起することで治療の妨げになる恐れがある。 檜森らは、夜間痛による中途覚醒を伴う患者において睡眠の質・量ともに低下していることを示唆しているが、中途覚醒が臨床症状へ及ぼす影響については言及していない。また、対象となっている例は手術適応となる腱板断裂損傷例が主であり、肩関節周囲炎患者の臨床像との違いが考えられる。 そこで今回、肩関節周囲炎患者において夜間による中途覚醒の有無が、疼痛・睡眠・精神情緒面に与える影響を調査することを目的とした。【方法】 対象は2017年4月~2018年5月の間に当整形外科クリニックで肩関節周囲炎の診断により理学療法が処方された52症例のうち、両側肩関節周囲炎6例を除外した46例46肩を対象とし(年齢54.4±10.6歳、男性14名、女性32名)、夜間痛による中途覚醒の有無2群に分類した。 測定項目は,精神情緒面としてHospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS,不安尺度:HADS-A,抑うつ尺度:HADS-D),安静時・動作時・夜間それぞれの疼痛の強度と睡眠の熟睡阻害感をVisual Analog Scale(以下VAS)を用いて測定した。熟睡阻害度は十分睡眠がとれていると感じる場合は0,全く睡眠がとれないと感じる場合は100とした。Mann-Whitney U検定と対応のないt検定を用いて,2群間の比較を行った。【結果】 覚醒なし群18名、覚醒あり群28名であった。 覚醒なし群HADS-A:4.0±3.0点、HADS-D:7.1±3.7点、安静時痛VAS:7.11±11.2㎜、動作時痛VAS:65.6±15.6㎜、夜間痛VAS:24.7±25.6㎜、熟睡阻害度VAS:12.0±15.9㎜。 覚醒あり群HADS-A:6.0±3.7点、HADS-D:6.5±3.7点、安静時痛VAS:13.3±19.4㎜、動作時痛VAS:68.5±24.5㎜、夜間痛VAS:43.9±29.8点、熟睡阻害度VAS:35.7±27.0㎜となった。 HADS-A、夜間痛VAS、熟睡阻害度VASにて2群間に統計学的有意差がみられた。【結論】 肩関節周囲炎患者の初回理学療法評価時において、夜間痛による中途覚醒がある例では、不安傾向が高く、夜間痛が強く、熟睡が妨げられていることが示唆された。 Chulらは肩痛が持続することで睡眠障害・不安・抑うつ傾向が高まることを、Poulらは睡眠障害と慢性疼痛の関連を報告している。このことから、疼痛に晒される期間や、睡眠障害が持続することは痛覚過敏や不活動性、機能障害の悪化など、慢性疼痛へ移行するリスクを高めると考えられる。早期から夜間痛による覚醒の有無を聴取し、ポジショニング指導や疼痛管理などの対応を検討していく重要性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に則った文書および口頭にて対象者に対して説明を行い、書面にて同意を得た。
著者
宮川 良博 森 拓也 後藤 桂 川原 勲 國安 弘基
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-148_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【背景・目的】 近年, 中鎖脂肪酸はその摂取による内臓脂肪の蓄積抑制効果, 担癌体での抗腫瘍効果が報告され注目を集めている. 今回, 中鎖脂肪酸の骨格筋に対する影響を細胞培養実験, 動物実験により検討した.【方法】 実験には中鎖脂肪酸であるラウリン酸 (LAA) を使用した. 初めにマウス骨格筋細胞株であるC2C12筋芽細胞を用い, コントロール (Con) 群, LAA低負荷 (Low) 群, LAA中等度負荷 (Med) 群, LAA高負荷 (High) 群に分け, 10%FBS混合培養液にそれぞれLAAを添加し48時間培養した. その後, MTS assayにより増殖能を, mitogreen染色によりミトコンドリア量を評価した. また, C2C12筋芽細胞を筋管細胞へ分化させ, 同様の4群にて48時間培養しミトコンドリア量の変化を評価した. 次に動物実験としてBALB/c雄性マウスを用い, 標準餌CE-2にLAAを重量比で2%, 5%, 10%添加した餌を用意しControl (Con) 群を含め4群で比較検討した. 実験期間は15日とし1〜2日毎に体重, 食餌摂取量を測定, 犠死後に大腿四頭筋を摘出し重量を測定した. 摘出した大腿四頭筋はペレット化したのちタンパク質を抽出し, LETM1抗体, MYL1抗体, 抗4-HNE抗体を用いウェスタンブロット法にてミトコンドリア量, ミオシン軽鎖の発現量, 酸化ストレスの蓄積量を比較した.【結果】 C2C12筋芽細胞の増殖能はCon群と比較しLow群で増加, High群で低下した. 筋芽細胞におけるミトコンドリア量はLow群で増加, Med群, High群で低下し, 筋管細胞ではHigh群で低下が認められた. 動物実験では, 10%群は実験開始より著明な体重減少を認め, 5日目に瀕死となり安楽殺した. その他の群については5%群は13日目, 2%群, control群は15日目に安楽殺した. 摂取カロリーに群間差を認めなかったが, 体重は5%群, 10%群で, 大腿四頭筋重量は10%群でCon群と比較し減少した.タンパク質定量解析では2%群にて酸化ストレスの蓄積量の減少, ミトコンドリア量の増加, 10%群にてミトコンドリア量, ミオシン軽鎖の発現量の減少が確認された.【考察および結論】 本実験により, 低濃度の中鎖脂肪酸は骨格筋の成長を促進し, 高濃度ではミトコンドリアの減少, 骨格筋の萎縮を招く可能性が示唆された. 中鎖脂肪酸は細胞膜, ミトコンドリア膜を通過する際に輸送体を必要としないため, 長鎖脂肪酸と比較し急速に代謝される. そのため低負荷ではミトコンドリアのターンオーバーを促進し代謝を活性化, 高負荷では過負荷となりミトコンドリアの機能障害を誘発した可能性がある. 今後その機序について詳細に解析し, 臨床への応用の可能性を検討する.【倫理的配慮,説明と同意】本実験は, 奈良県立医科大学動物実験委員会の承認を得た.
著者
齊藤 明 岡田 恭司 佐藤 大道 柴田 和幸 鎌田 哲彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F-45, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】 成長期野球肘内側障害における脊柱アライメントを評価し,本症との関係を明らかにすることである。【方法】 野球肘内側障害患者50名(野球肘群)と健常小学生100名(対照群)を対象に,Spinal Mouseを用いて自然立位およびwind up phaseを模した片脚立位での胸椎後弯角,腰椎前弯角,仙骨傾斜角,脊柱傾斜角を計測し,それぞれの変化量(片脚立位-立位)も算出し2群間で比較した。また脊柱アライメントと肩関節外旋,内旋可動域(90°外転位),および肩甲骨アライメント(脊柱-肩甲棘内側縁,壁-肩峰前縁の距離)との関連を検討した。【倫理的配慮】 秋田大学医学部倫理委員会(承認番号1036)の承認を得てから実施し,対象者および保護者には事前に研究目的や方法について十分に説明し書面にて同意を得た。【結果】 自然立位における脊柱の各角度は2群間で有意差を認めなかった。片脚立位では野球肘群が対照群に比べ有意に胸椎後弯角が大きく(P=0.016),脊柱傾斜角は後方傾斜していた(P=0.046)。またこれらの変化量も同様の結果であった(それぞれP=0.035,0.020)。しかし,脊柱アライメントと肩関節可動域および肩甲骨アライメントとの間には有意な相関関係は認められなかった。【考察】 成長期野球肘内側障害では,片脚立位において胸椎が後弯し,体幹も後方傾斜することが明らかとなった。このことが投球フォームへ影響を与え,本症の発症につながる可能性がある。
著者
宮田 信彦 小串 直也 中岡 伶弥 中川 佳久 羽崎 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-53_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】頸長筋(以下:LC)は頸椎椎体の前・側面を走行する頸部屈曲筋として知られ,頸椎の過度な前弯を防ぐ働きがあるとされている。Jullらが頭頸部屈曲テスト(以下:CCFT)を報告して以来,CCFTはLCの評価,治療として広く用いられている。CCFTは従来,背臥位にて行われる方法であるが,日常生活において,ヒトは重力に抗して頭頸部を正中位に保持し,立位もしくは座位をとることが多い。そこで我々は座位にてCCFTを行わせ,LC筋厚が安静時よりも有意に増大することを報告した。しかし,背臥位と座位のCCFTを直接比較はしていない。そこで本研究は,CCFTを背臥位・座位の2条件で実施し,姿勢の違いが LC筋厚に及ぼす影響を確認することを目的とした。【方法】対象は頸部に既往のない健常男子大学生とし,背臥位群9名,座位群16名とした。測定肢位はそれぞれ,膝を屈曲した背臥位,壁面に肩甲骨,仙骨後面が接した椅座位とした。頭部位置は背臥位で床と平行,座位で壁面と平行とした。後頭隆起下の頸部背側にスタビライザー(chattanooga 社製)を置いた。強度はスタビライザーの圧センサーの目盛りが指し示す22~28mmHgの範囲を2mmHgずつ,それぞれ10秒間保持させた。その間のLC,頸椎椎体前面,総頸動脈,胸鎖乳突筋を超音波画像診断装置(日立メディコ社製)にて描出した。プローブ(10MHz,リニア型)は甲状軟骨より 2cm 右・外・下方かつ水平面上で内側に20°傾けた位置とし,頸部長軸と平行にあてた。測定によって得られた画像から画像解析ソフト Image J を用い,LC筋厚を測定した。その後,安静時のLC筋厚を基準としたCCFT時のLC筋厚の増減を安静時比として表した。統計学的手法は,姿勢と強度の2要因における対応のない二元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定にて,背臥位と座位のLC筋厚の安静時比を比較した。【結果】LC筋厚の平均値は安静時(背臥位1.14±0.11cm,座位0.82±0.16cm)となった。安静時比はそれぞれ22mmHg時(背臥位112.8±9.6%,座位113.4±10.8%),24mmHg時(背臥位111.3±9.5%,座位115.7±13.2%),26mmHg時(背臥位117.2±12.0%,座位115.2±13.1%),28mmHg時(背臥位120.8±13.2%,座位113.4±11.9%)となった。二元配置分散分析の結果,姿勢,強度を要因としたLC筋厚の安静時比に有意な主効果および交互作用は認めなかった。【結論(考察も含む)】我々は先行研究においてLC筋厚が座位でのCCFTによって安静時よりも有意に増大したことを報告している。また,一瀬らはLC筋厚が背臥位でのCCFTによって安静時よりも有意に増大したことを報告している。今回の結果で背臥位,座位といった姿勢の違いがLC筋厚の安静時比に有意な影響を与えなかったことから,座位のCCFTにおいても背臥位と同様の効果が期待できると考える。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は大阪電気通信大学における生体を対象とする研究および教育に関する倫理委員会の承認を受けた研究の一部であり,被験者の同意のもと実施した(承認番号:生倫認14-007号)。また被験者には研究中であっても不利益を受けることなく,同意を撤回することができることを説明した。情報の安全管理は個人情報や測定データは匿名化し,被験者の同意なく第三者提供しないよう研究従事者すべてに周知徹底した。
著者
駒村 智史 梅原 潤 宮腰 晃輔 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-107_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】肩甲骨は、投球動作を行う上で重要な役割を担っている。投球動作時の肩関節最大外旋位(MER)では肩や肘の関節にかかる力が大きくなるとされており、その力を軽減させるためにも、MERにおける肩甲骨運動は重要である。野球選手の肩関節機能において、安静時の肩甲骨肢位の評価や、肩関節90°外転位(肩2nd)での外旋可動域の評価は一般的に用いられているが、それらの肢位における肩甲骨の角度と、実際の投球時の肩甲骨角度との関連を明らかにしたものはない。本研究の目的は、安静時および肩2nd外旋時の肩甲骨角度と投球動作のMERにおける肩甲骨角度との関連を明らかにすることとした。【方法】大学生野球選手21名を対象とした(年齢20.7±0.9歳、身長169.8±6.2cm、体重65.6±9.7kg)。安静時および肩2nd外旋時、投球動作時の肩甲骨角度を計測した。肩甲骨角度は、6自由度電磁気式動作解析装置(Liberty;Polhemus社製)を使用し、肩甲骨の外旋、上方回旋、後傾の各角度を計測した。安静時の計測は、座位にて上肢下垂位で5秒間姿勢保持した。肩2nd外旋時の計測は、肩90°外転位にて他動的に外旋し、伸張感が疼痛に変わる直前の強度で5秒間静止した。安静時、肩2nd外旋時ともに、解析には中間の3秒間の平均値を使用した。投球動作時の肩甲骨角度の計測については、全力投球を行い、投球中に上腕骨が最大外旋位となった時点をMERと定義し、MERでの肩甲骨角度を用いた。投球動作は3回行い、MERでの肩甲骨角度の3回の平均値を解析に使用した。統計解析には、Peasonの相関分析を用いて、肩甲骨外旋、上方回旋、後傾それぞれについて、安静時の肩甲骨角度とMERでの肩甲骨角度との相関および肩2nd外旋時の肩甲骨角度とMERでの肩甲骨角度との相関を分析した。有意水準は5%未満とした。【結果】安静時とMERでの肩甲骨角度の相関は、上方回旋(r=0.632, p=0.002)、後傾(r=0.670, p=0.001)はそれぞれ有意な相関がみられた。肩甲骨外旋角度については有意な相関がみられなかった(p=0.907)。また、肩2nd外旋時とMERでの肩甲骨角度の相関は、外旋(r=0.543, p=0.011)、上方回旋(r=0.894, p=0.000)、後傾(r=0.718, p=0.000)全てに有意な相関がみられた。【考察】MERにおける肩甲骨角度は、安静時の肩甲骨外旋角度を除き、安静時および肩2nd外旋時の肩甲骨角度と関連があることが明らかとなった。安静時の肩甲骨外旋角度に相関がみられなかった原因として、肩甲骨外旋角度は上肢の挙上面の影響を受けやすく、MERの上肢挙上面が安静肢位の肩甲骨面と異なると考えられる。本研究の結果から、MERでの肩甲骨角度は、肩2nd外旋時の肩甲骨角度とより強い関連があり、MERにおける肩甲骨角度の評価には肩2nd外旋肢位での肩甲骨角度の評価がより有効である可能性が示唆された。【結論】安静時および肩2nd外旋時の肩甲骨角度と投球動作時のMERにおける肩甲骨角度に相関がみられることが明らかとなった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、本学の医の倫理委員会の承認(C1247-1)を得て実施した。対象者には紙面および口頭にて研究の趣旨を説明し、同意を得た。
著者
村上 智明 原 賢治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-159_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【症例紹介】 超音波画像診断装置(以下、エコー)で評価し、膝蓋下脂肪体(以下、IFP)硬化と内側膝蓋支帯縦走線維の炎症がみられた症例に理学療法を実施した。IFP動態の改善に伴い、内側膝蓋支帯縦走線維の疼痛が軽快したので報告する。症例は51歳女性、ジャザサイズ中のサイドステップで右膝内側と膝蓋下の痛みが強くなった。歩行及び階段昇降で疼痛が増悪し受診した。変形性膝関節症(以下、膝OA)とHoffa病の診断で内服薬や貼付剤で経過観察したが奏効せず、理学療法を開始した。膝痛が良くなったらジャザサイズをしたいとの希望であった。【評価とリーズニング】 レントゲンは正面像で初期の膝OAが認められ、側面像でHaglund impression-、Insall-salvati ratioは1.16と正常範囲であった。整形外科的テストはHoffa sign、ストロークテストが陽性、Patellar glide testで内外側とも1/4未満のHypomobileと評価した。圧痛は膝前内側と膝蓋下にあり、エコーで特に内側広筋(以下、VM)収縮時に内側膝蓋支帯縦走線維移行部の低エコー像がみられた。膝蓋下は膝蓋骨尖、脛骨粗面中央をメルクマールとし、膝蓋腱中央部を長軸で観察すると、IFP近位部に軽度高エコー像、膝蓋靭帯と大腿軟骨面間に狭小化を認めた。また、IFPが関節裂隙側から前方に広がる動態は観察できなかった。関節可動域(右/左)は膝伸展-10°/5°、屈曲90°/140°で疼痛はそれぞれ右膝蓋下、右膝前内側部に出現した。徒手筋力検査は膝関節伸展、屈曲、股関節伸展、足関節底屈を測定し、すべて4/5、特に右膝伸展45°保持では内側広筋斜走線維(以下、VMO)の萎縮が観察できた。大腿周径は膝蓋骨上縁が36.5㎝/37.0㎝、上縁5㎝が38.0㎝/39.5㎝であった。初期評価時に疼痛と関節可動域制限があったが、同日に関節可動域の改善を得て他にも実施可能なテストを行った。Ober test+/-、Elys test+/+(臀踵間距離4横指/1横指)、またクラークサインとJ-Signが陰性であることやQアングル増大と膝蓋骨位置の1横指低位を確認した。スクワット、フロントランジ、サイドランジのスポーツ基本動作は患側にknee in toe outと疼痛増悪を認めた。 評価の結果、異常な動的アライメントによる大腿四頭筋の連続的で強い収縮の繰り返しがIFPの炎症と線維化を起こし癒着に至った。さらに大腿筋膜張筋、腸脛靭帯、外側広筋、中間広筋、外側膝蓋支帯などの外側支持組織の硬さが膝蓋骨可動性を低下させた。このことから膝蓋骨運動の異常、膝蓋大腿関節の圧力や内側膝蓋支帯縦走線維の伸張ストレス増大が起こり、炎症を生じVMOの萎縮に繋がったと推察した。しかし、以前から基本的な問題として動的アライメント不良、タイトネス、筋力低下等があった可能性は否定できない。【介入内容と結果】 NRS5/10以上の時期は基本的に安静で膝蓋骨運動の改善を目的としIFPmobilizationを遠位、深部に施行した。他にも徒手的介入や膝蓋上嚢周辺の動きを促す為に軽い大腿四頭筋setting(以下、Q-setting)を用いた。理学療法開始から8日(5回目)でIFP痛は消失、膝前内側部痛はNRS2/10以下と改善を示した。さらにIFPの前方移動を促す目的で膝蓋骨に操作を加えたQ-settingやIFPへ超音波治療、スポーツ基本動作の修正を開始した。16日(8回目)で一部IFPの動態改善を確認した。Patellar glide testは内外側ともに1/2 程度、膝痛消失、タイトネスは改善して歩行及び階段昇降が可能となった。しかし、IFPの軽度高エコー像、大腿四頭筋筋力低下は残存した。スポーツ基本動作の改善を確認し、ジャザサイズを開始しても疼痛が出現しないため理学療法を終了した。【結論】 IFPの炎症、結合織性肥大があれば、膝蓋腱から大腿軟骨面間は広がると考えたが、本症例は線維化と狭小化を認めた。これらはmobilizationや超音波治療で改善できなかったがIFP深部、遠位に動きを出すことでIFP痛は軽快した。IFP痛の改善と同時期に膝前内側の炎症、疼痛も緩和したことからIFPの動態改善を促すことが膝蓋骨運動の改善に効果的かつ膝前部のメカニカルストレス緩和に有効であった推察した。【倫理的配慮,説明と同意】 症例報告を行うにあたりご本人に口頭で確認、不利益を被ることはないことを説明し回答をもって同意を得た。開示すべき企業・団体はない。
著者
吉川 優樹 池田 俊史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-62_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】 側腹筋の評価として超音波診断装置を使用した研究が散見され、その信頼性の高さや筋活動評価として妥当性が報告されている。しかし、骨盤の傾斜角度の違いによる側腹筋の動態についての報告は少ない。本研究は安静時から収縮時にみられる内腹斜筋・腹横筋の筋厚および筋厚変化率と骨盤傾斜角度との関連について明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人17名(男性13名、女性4名、平均年齢26.5±3.6歳)とした。測定肢位は端坐位にて骨盤中間位と骨盤後傾位とした。骨盤の角度は、上前腸骨棘(ASIS)と上後腸骨棘(PSIS)を結ぶ線と水平面の角度を東大式ゴニオメーターで測定し、骨盤中間位を前傾10°、骨盤後傾位を後傾15°と設定した。検査中は骨盤の角度が変わらないよう後方から骨盤を把持し固定した。各肢位で安静吸気終息時(以下、安静時)および腹部引き込み運動時(以下、ドローイン時)の内腹斜筋・腹横筋を、超音波診断装置(フクダ電子 UF-760AG)で測定し左右の平均値を筋厚とした。測定部位は前腋窩線上における肋骨下縁と腸骨稜の中央部とし、安静時とドローイン時の筋厚と筋厚変化率(ドローイン時筋厚-安静時筋厚/安静時筋厚×100)を比較検討した。【結果】 筋厚について内腹斜筋では安静時(中間位6.8±1.4mm,後傾位8.1±1.6mm)、ドローイン時(中間位11.0±2.4,後傾位12.1±2.6mm)ともに後傾位で有意に大きかったが、腹横筋では安静時(中間位2.9±0.6mm,後傾位3.3±0.6mm)とドローイン時(中間位6.1±1.2mm,後傾位6.2±1.7mm)で有意差はなかった。筋厚変化率では内腹斜筋(中間位63.5±26.1%,後傾位51.2±29.7%)、腹横筋(中間位111.1±36.1%,後傾位91.9±50.1%)ともに中間位で有意に大きかった。【結論(考察も含む)】 筋厚の比較では内腹斜筋の安静時、ドローイン時ともに骨盤後傾位で有意に大きかったが、腹横筋では有意差がなかった。筋厚変化率の比較では、内腹斜筋・腹横筋ともに骨盤中間位で有意に大きかった。腹横筋の筋線維は水平方向に走行しているのに対し、内腹斜筋は筋線維が斜めに走行しているため、骨盤後傾により筋が弛み筋厚が大きくなった可能性がある。一方、骨盤中間位では内腹斜筋が静止長となり筋厚変化率が大きかったと考えられる。腹横筋においても付着部である腹直筋鞘に適度な緊張が得られること、腹横筋と協同的に作用する骨盤底筋群が収縮しやすい肢位であることから、骨盤後傾位と比べ筋厚変化率が大きくなったと考えられる。【倫理的配慮,説明と同意】 研究の目的と方法、研究上の不利益、プライバシー保護などについて説明し承諾を得た。
著者
吉田 怜 冨田 和秀 野崎 貴宏 河村 健太 門間 正彦 大瀬 寛高
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-126_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】肋間筋は胸郭の拡張, 縮小に関わり, 呼吸運動において重要な役割を果たしている. その働きは胸郭の部位により異なることが基礎実験で報告されているが (Le Bars, 1984), ヒト肋間筋の呼吸運動としての働きは十分に解明されていない. また, 先行研究では肋間筋活動を針筋電図により評価されているが, 気胸のリスクを有するため臨床的評価として容易に使用しづらい. 近年, 超音波画像検査における筋収縮を評価する報告が散見されており(Hodges PW 2003, Kian-Bostanabad S 2017), 侵襲を伴わないため理学療法の評価にも用いられている. 本研究の目的は超音波画像検査を用いて, 吸気時の肋間筋の筋厚を計測することで呼吸運動時におけるヒト肋間筋の筋収縮を分析することとした.【方法】対象は, 喫煙歴のない健常成人男性7名 (平均年齢23.7 ± 2.4 歳) とした. 実験方法は被験者に仰臥位を取らせ, 安静呼気と吸気抵抗負荷課題による最大努力吸気を行わせ, 超音波画像検査を用いて肋間筋の筋厚を計測した. 測定部位は胸郭右側の前面・側面・後面の肋間とした. 前面部は第1-6肋間で, 胸骨右縁から外側2.5-3.0㎝, 側面部は第3, 6, 9肋間で, 腋窩前縁から上前腸骨棘を結ぶ線上, 後面部は第3, 6, 9肋間で胸椎棘突起から外側5.0 – 6.0㎝で測定した.安静呼気時と最大努力吸気時の筋厚の変化をWilcoxonの符号付き順位検定を行った. 解析にはIBM SPSS Statistics Ver. 22.0を用い, 有意水準は5 %とした.【結果】安静呼気時/最大努力吸気時の筋厚の中央値 (25%値: 75%値) (mm) は前面部肋間で, 第1肋間: 2.10 (1.20: 2.60)/2.60 (2.00: 3.70), 第2肋間: 2.50 (1.60: 2.60)/3.10 (2.50: 3.60), 第3肋間: 2.20 (1.50: 3.40)/3.10 (2.20: 3.80), 第4肋間: 2.70 (2.20: 3.20)/3.20 (2.80: 3.40), 第5肋間: 1.80 (1.60: 3.20)/2.60 (2.30: 3.30), 第6肋間: 2.30 (2.00: 3.00)/2.90 (2.00: 3.00)であり, 第1, 2, 3, 4肋間で有意差を認めた. 側面部肋間と後面部肋間では有意差を認めなかった.【考察】努力性吸気課題条件下での超音波画像検査によるヒト肋間筋収縮評価は, 前面部肋間の第1, 2, 3, 4肋間で安静呼気時に比べ, 有意な筋厚増加を認めた. 前面部肋間筋である傍胸骨肋間筋は吸息性筋活動を有することが報告されており (De Troyer, 1998), 本結果も同部位において肋間筋厚の増大を示すことから先行研究と同様に吸息性活動を示す所見と考えられた. 一方, 動物実験では側面部肋間, 後面部肋間で吸息性筋活動を認めているのに対し, 本結果では側面部肋間と後面部肋間での吸気性筋収縮に伴う肋間筋厚の増大を捉えることができなかった.【結論】ヒト肋間筋収縮は, 超音波画像検査を用いて評価することが可能であった. 努力性吸気に伴う肋間筋厚の増大を前面部肋間筋で確認することができた.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得た. 本研究の実施にあたり, 被験者へは実験内容を十分に説明し, 研究参加は自由意志に基づいて行った. また研究への参加を拒否された場合でも不利益が生じないことを説明し, 研究の途中であっても断る権利を保障した.
著者
河井 祐介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-62_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】 股関節唇損傷患者について問題となるFAI(femoroacetabular impingement以下FAI)では股関節屈曲内旋または屈曲外旋でのインピンジメントによる疼痛が引き起こされる。治療としては保存療法および手術療法が選択される。とくに保存療法では股関節周囲筋の筋力や体幹筋力トレーニング、股関節可動域訓練などが行われている。現在体幹トレーニングについて有用性は示されているが、質量ともにどの程度行えばどの程度の効果が得られるのか述べられている報告はない。今回股関節唇損傷患者においてFront plank(以下プランク)による体幹トレーニングを実施し、その量的評価と股関節スコアを比較しその関係について比較検討した。【方法】 当院を受診し股関節唇損傷と診断された患者12名(男性1名、女性11名、年齢45.3±10.4歳)の体幹筋力評価としてプランクの持続時間を初診時測定し、同時に股関節機能評価としてJOAとharrisのスコアを評価した。またプランク60秒達成時にも同様にJOAとharrisのスコアを評価した。プランクの持続時間とJOAとharrisのスコアについてそれぞれ統計処理としてspearmanの相関分析を行った。またプランクの持続時間が59秒以下の群と60秒可能な群間でJOAとharrisのスコアそれぞれにおいて対応のないT検定を用いて比較した。【結果】 体幹筋力としてのプランクの持続時間と股関節機能評価としてのJOAとharrisのスコアとは正の相関関係が認められた(p<0.05)。またプランクの持続時間が59秒以下の群と60秒可能な群との間にはJOAとharrisのスコアに有意差が認められた。(JOAスコア 0-59秒以下の群:71.6±12.6 60秒可能な群:90.5±11.4 harrisスコア0-59秒以下の群:65.8±12.2 60秒可能な群:82.6±9.3)。つまりプランク持続時間が60秒可能な群の股関節機能評価スコアは59秒以下の群よりも高い傾向にあることが示された。【考察】体幹筋、特に腹筋の機能としては骨盤の後傾作用と安定化機能があり、骨盤後傾によりFAIによる疼痛を回避した姿勢が取れることと、体幹固定作用により十分な下肢筋力の発揮が可能になると考えられる。また、筋持久性に関して、有酸素性にエネルギー代謝が行われる1分以上の持久力が腹筋には必要と考えられる。そのために、プランクを1分保持を達成できる患者の股関節機能評価のスコアが高くなったと考えられる。【結論】股関節唇損傷患者において体幹筋力の改善は股関節機能の改善に寄与する可能性があり、なおかつ量的にはプランク1分以上可能な体幹筋力が有効である可能性がある。【倫理的配慮,説明と同意】京都下鴨病院倫理委員会の承認を得た。
著者
緒方 政寿 鈴木 裕也 野口 裕貴 山守 健太 有働 大樹 栗原 和也 十時 浩二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-238_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】股関節は、下肢と体幹をつなぎとめ身体を安定させるのに重要な関節であり、その安定性に関与しているのが股関節外転筋である。臨床において股関節外転筋の筋力低下が生じると、起立動作や歩行、階段昇降などの動作が不安定となるため、筋の特異性からも荷重位での強化練習が必要と推測される。しかし、股関節外転筋強化に関するシステマティックレビューは筆者が知る限り、Paul Macadam (2015)の一遍のみで、動作速度を規定し比較した研究はない。そこで今回、CKC動作における動作速度を規定した股関節外転筋の活動を検討し、効果的な運動方法を明らかにする。【方法】対象は健常男性10例とした。被検筋は右側の大殿筋上部(G-max)、中殿筋(G-med)、大腿筋膜張筋(TFL)とした。北九州地区6病院の理学療法士に臨床で行う荷重位での股関節外転筋運動種目の事前調査を行い、上位種目の中からスクワット、段差昇降、ブリッジ、サイドステップ、フロントランジ、ラテラルステップアップダウンの6つを課題種目とした。各動作は1回を2秒で5回連続して施行し、動作時表面筋電図を計測した。解析には5回のうち間3回の計測データを用いた。筋電図解析方法は徒手筋力検査法の手技に従い、5秒間の最大随意等尺性収縮時における筋活動を測定し、0.5秒毎に移動平均を行い、最大値を最大収縮値(MVC)とした。各動作の筋活動を各筋に0.1秒毎の2乗平均平方根にて平滑化を行い、MVCで正規化(%MVC)した。3試行の最大値の平均を算出し、3筋における各動作種目別の最大筋活動を求めた。統計解析は、フリードマン検定を行い、多重比較検定にはSteel-Dwass検定を用いて各筋の%MVCを比較検討し、有意水準はP<0.05とした。【結果】G-maxの筋活動は、筋活動の高い順にフロントランジ65.9%、サイドステップ53.7%、ラテラルステップアップダウン42.2%、段差昇降35.3%、ブリッジ21.4%、スクワット14.7%で、フロントランジはスクワットとブリッジと比べ優位に高い筋活動を示した(p<0.05) 。G-medはサイドステップ76.6%、ラテラルステップアップダウン64.8%、フロントランジ59.1%、段差昇降49.4%、ブリッジ30.3%、スクワット19.0%で、サイドステップはスクワットとブリッジと比べ有意に高い筋活動を示した(p<0.05)。TFLはサイドステップ118.5%、ラテラルステップアップダウン56.8%、フロントランジ48.6%、段差昇降43.8%、ブリッジ43.1%スクワット10.7%で、サイドステップがラテラルステップアップダウン以外と比べ有意に筋活動が高かった(p<0.05)。【結論(考察も含む)】今回、事前調査の中から選定した6つのCKC動作ではG-maxの強化はフロントランジを、G-medとTFLの強化はサイドステップを、3筋総合ではサイドステップを第一選択とすることが推奨された。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、当院の理事会及び、製鉄記念八幡病院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号17-11)。対象者には文書及び口頭で本研究の主旨及び目的を説明し、書面にて同意を得た。
著者
簗瀬 康 中尾 彩佳 本村 芳樹 梅原 潤 駒村 智史 宮腰 晃輔 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-99_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】単一筋の伸縮によって周囲の筋膜が引き伸ばされ、隣接している筋が変形すること(筋膜張力伝達)が先行研究で報告されている。単に筋の走行を考慮すると、大腿四頭筋を構成する筋のうち、二関節筋である大腿直筋は股関節伸展かつ膝関節屈曲により伸張される。一方で、単関節筋である内側広筋や外側広筋は膝関節屈曲により伸張され、股関節肢位の影響は受けない。しかし、筋膜張力伝達の観点から考えると、大腿直筋が伸張される股関節肢位では内側広筋や外側広筋も同様に伸張される可能性がある。本研究の目的は、股関節肢位の違いが内側広筋と外側広筋の伸張の程度に与える影響を検証することとした。【方法】健常男性14名を対象とし、次の4種類の股関節肢位をランダムに行った:股関節90度屈曲位(屈曲条件)、股関節5度伸展位(伸展条件)、股関節5度伸展位かつ10度内転位(伸展内転条件)、股関節5度伸展位かつ40度外転位(伸展外転条件)。各肢位とも背臥位かつ膝関節90度屈曲位で実施した。これら4肢位および安静位で、超音波診断装置せん断波エラストグラフィ機能を用いて内側広筋と外側広筋、大腿直筋の弾性率を測定した。弾性率は高値であるほど筋が硬いことを示し、筋伸張位ほど高値となることが先行研究により示されている。各筋の弾性率について、肢位間の比較のために反復測定一元配置分散分析を行い、事後検定としてBonferroni法による多重比較を行った。有意水準は0.05とした。【結果】反復測定一元配置分散分析の結果、内側広筋と外側広筋、大腿直筋の全てにおいて主効果を認めた。各筋とも、伸展・伸展内転・伸展外転条件が安静・屈曲条件より有意に高値を示し、さらに伸展・伸展内転条件が伸展外転条件より有意に高値を示した。【考察】内側広筋と外側広筋は膝関節伸展の単関節筋であるが、股関節伸展位、あるいは股関節伸展内転位でより伸張された。これらの肢位で大腿直筋が伸張されたことにより、大腿直筋に付着する筋膜が移動し、大腿直筋に隣接している内側広筋と外側広筋も同様に伸張されたと考えられる。また、股関節伸展外転位では各筋とも、股関節伸展位や股関節伸展内転位に比べて伸張されなかった。大腿直筋は股関節外転モーメントアームを持つため、股関節外転位では短縮位になったと考えられる。さらに大腿直筋が短縮位となったことで大腿四頭筋間の筋膜による機械的相互作用が生じにくくなり、内側広筋と外側広筋は十分な伸張が得られなかったと考える。【結論】大腿直筋の伸張位である股関節伸展位、または股関節伸展かつ内転位において、膝関節伸展の単関節筋である内側広筋・外側広筋も同様に伸張されることが明らかになった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学における医の倫理委員会の承認を得た後に実施した。ヘルシンキ宣言に基づいて、被験者には実験の内容について十分に説明し、書面にて同意を得た上で研究を実施した。
著者
水島 健太郎 久須美 雄矢 水池 千尋 立原 久義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-152_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】足関節外果骨折の術後は,創部周囲の腫脹・癒着により足関節の背屈制限が生じやすい.近年,超音波エコー(US)の普及により,運動時の軟部組織の動態を確認できるようになってきた.しかし,足関節外果骨折術後の足部周囲の軟部組織がどれくらい硬くなるのかは十分報告されていない.そこで今回,足関節外果骨折術後の足部周囲の軟部組織の柔軟性をUSを用いて測定したので報告する.【方法】対象は,足関節外果骨折術後9例(男性4例,女性5例,平均年齢60.9歳)とし,健側と患側の足部周囲軟部組織の組織弾性を,US(AIXPLORER,コニカミノルタ社製)のShear Wave Elastography用いて評価した.腹臥位足関節中間位で,Kager’s fat pad(KFP),長母趾屈筋(FHL),ヒラメ筋(SU),短腓骨筋(PB)の各筋を10回測定し,その平均値を算出した.また,ゴニオメーターを用いて足関節背屈ROMを測定した.検討項目は,各筋の組織弾性を健側と患側で比較検討した.また,各筋の組織弾性と足関節背屈ROMの相関を求めた.なお検査測定は,十分練習を行った同一者が施行した.統計処理は対応のあるt検定,ウィルコクソン検定,ピアソン相関係数を用い,有意水準を5%未満とした.【結果】KFP組織弾性(健側:患側)は,2.01 m/s :2.83 m/s,FHL組織弾性は,2.92 m/s:3.42 m/s,SU組織弾性は,2.89 m/s:4.02 m/s,PB組織弾性は,3.08 m/s:4.33 m/sであり,全ての筋において,患側が健側に比べ有意に高値を示した(p<0.05).また,足関節背屈ROMとの相関は,KFP組織弾性と-0.61(p<0.01),FHL組織弾性と-0.56(p<0.05), SU組織弾性と-0.53(p<0.05)の負の相関が認められた.【結論】今回の結果より,足部周囲の軟部組織弾性は,健側と比べて患側が有意に高値を示し,KFP,FHL,SU組織弾性と足関節背屈ROMに負の相関があることが明らかとなった.これは,これらの筋の柔軟性低下に伴い背屈ROMが制限されることを示唆している.今後は,各筋の柔軟性改善操作にて背屈ROM が改善するかを調査し運動療法として確立していきたい.【倫理的配慮,説明と同意】大久保病院倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを説明し,同意を得ることができた場合のみ対象として計測を行った.
著者
吉池 史雄 前野 佑輝 齋藤 佑磨 真水 鉄也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-152_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに,目的】我々は先行研究(2016)において,距骨下関節の回外誘導により,立位姿勢における体幹の同側への回旋運動の増加が生じることを報告した.また,同様に先行研究(2017)では,回内誘導により立位姿勢における体幹の同側回旋運動の抑制が生じることを報告した.この事から距骨下関節の肢位変化は,近位だけではなく,より上位関節へ影響を与える事が可能であると分かった.今回の研究では,筋電計を用いて歩行における距骨下関節の肢位変化が,上位関節である股関節に対し,同関節筋である大殿筋の活動にどのような影響を及ぼすか検証した.【方法】対象は整形外科的疾患の既往が無い健常成人男性11名(年齢27.2±3.4歳,身長173.4±2.6cm,体重68.4±2.1kg)とした.課題は快適速度での歩行を行い,被験者の右踵骨部に対し10mm×30mm×3mmのパッドを内側及び外側に貼付し距骨下関節を回内誘導(以下回内群)及び回外誘導(以下回外群)とした.また,Gait Judge System(パシフィックサプライ社製)を用い,右大殿筋部に表面筋電図を貼付し歩行時の筋活動を計測した.表面筋電波形の計測は,歩行が定常化した後の連続3歩行周期を抽出した.得られたデータは20〜250Hz のバンドパスフィルターで処理した後,RMS波形に変換した.サンプリング周波数は1000Hzとした.また,筋電図と同期して撮影したデジタルビデオを照合し,右Initial Contact~Terminal stanceの立脚期を抽出し,測定筋の筋電図積分値を算出した.得られたデータは3歩行周期の平均値を出し,回内群と回外群にて比較した.統計処理は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】立脚相における大殿筋の活動は回内群で7.42±4.22μV,回外群では6.07±3.19μVとなり,回内群の方が大殿筋の活動が優位に増加した.(p<0.05)【結論】距骨下関節の回内誘導により,立脚期における大殿筋の筋活動が増加した. 先行研究より,上行性運動連鎖の観点から距骨下関節の回内誘導により荷重下では右下腿の内旋が促され,続いて大腿の内旋が生じる.また,骨盤も大腿内旋により左回旋方向へ誘導される.その際に,骨盤-大腿の回旋をコントロールする為に大殿筋の大腿外旋の作用により,遠心性活動が要求された事で筋活動が高まったと考えられた.また,距骨下関節の回内により距舟関節と踵立方関節は平行した位置関係を取り,横足根関節の可動性が増加し足部全体の剛性低下が生じる.足部の剛性低下により立脚期における前方推進力は低下し,立脚相前半相が延長される.大殿筋は立脚相前半にかけて強く働くことから,立脚相前半の延長により大殿筋の活動が要求されたと考えられた.【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を書面にて説明し,同意書にて参加の同意を得た.また本研究は当院での倫理委員会の承認の下実施した
著者
平田 明日香 磯田 真理 中村 太志 監崎 誠一 西川 正治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-180_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【症例紹介】40歳代,女性.疾患名は変形性腰椎症,左股関節インピンジメント症候群.重いものを持ち上げようとして左鼠径部痛が生じた.左荷重応答期から立脚中期にかけて左鼠径部痛あり.【評価とリーズニング】立位時体幹前屈30度,後屈10度,左回旋15度で左股関節前面に鋭痛あり.体幹前屈で最も疼痛が生じた(NRS8).ワンガーフィンガーテストを実施すると左鼠径部中央付近を示した.前方インピンジメントテスト左陽性.MMT(右/左):股関節屈曲5/4,伸展5/4,外転5/4,内転5/4,外旋5/4,内旋5/4,屈曲外転外旋5/4,屈曲位外転5/4.関節可動域(右/左,単位;°):股関節屈曲125/125,伸展10/10,外転50/50,内転15/10,外旋45/50,内旋45/35.体幹前屈では,仙骨がニューテーションするため腸骨が仙骨に対し後傾し,股関節屈曲するため腸骨が大腿骨頭に対し前傾する.体幹前屈時,腸骨が大腿骨頭上を前傾し股関節が屈曲するためには,副運動の内旋が必要になる.関節可動域検査より左股関節内旋が制限されていることから,体幹前屈時の大腿骨頭の後方滑りが制限された状態で股関節屈曲が生じていたと考えた.従って体幹前屈時の左股関節内旋制限により大腿骨頭が後方へ滑らず,その状態で股関節屈曲を行うため,大腿骨頭が前方偏移し股関節唇のインピンジメントによる疼痛が生じていたと考えた.【介入内容および結果】運動器超音波検査の結果,①左股関節唇に損傷は認められなかった,②左股関節屈曲時腸腰筋の滑走不全を認めた,③左股関節屈曲大腿直筋の筋厚が厚くなるのを認めた,④左股関節伸展位で大腿骨頭が臼蓋に対し前方へ偏移していたことを認めた. 左腸骨後傾誘導テーピングで疼痛が軽減した(NRS4).左腸骨後傾誘導で疼痛が軽減したことから,体幹前屈時の左腸骨は仙骨に対し後傾できず,大腿骨頭に対し前傾し過ぎていた.腸腰筋の作用は腰椎前弯,腸骨前傾である.また腸腰筋は大腿骨頭の前方を走行することから, 大腿骨頭前方安定性に寄与する.評価結果より左腸腰筋の筋力低下,運動器超音波検査より滑走不全を認めたことより,腰椎前弯による仙骨ニューテーション,大腿骨頭上の左腸骨前傾に作用できず,左大腿直筋が優位に働いたと考えた.また左腸腰筋筋力低下により大腿骨頭が前方偏移してたこと,左股関節内旋制限により大腿骨頭が後方へ滑らないことにより大腿骨頭が前方偏移し,その状態で股関節屈曲を行うため,大腿直筋の起始部に伸張ストレスとインピンジメントが生じ左鼠径部痛が生じていた.左腸腰筋の収縮運動,股関節回旋・腸骨モビライゼーションを実施し,体幹前屈動作時・左荷重応答期から立脚中期にかけての左鼠径部痛は軽減し(NRS2),歩行時痛も改善したため1診目は終了した.2診目の左鼠径部痛はNRS2であり,治療後はNRS1,歩行時痛は消失した.【結論】左腸骨後傾誘導で疼痛が消失したことから,体幹前屈時の左腸骨は仙骨に対し腸骨前傾・大腿骨頭に対し後傾していた.左腸腰筋の筋力低下,滑走不全により大腿骨頭上腸骨前傾,腰椎前弯による仙骨ニューテーションに作用できず,左大腿直筋が優位に働いたため起始部に疼痛が生じ左鼠径部痛が生じていた.左股関節内旋制限,左腸腰筋の筋力低下,滑走不全の状態で日常生活を送ることにより,大腿骨頭の不安定性を助長させる可能性がある.その結果経年変化により変形性股関節症を発症することも考えられるため,インピンジメント症候群の原因を追求し,改善することが重要であると考えた.【倫理的配慮,説明と同意】被験者に対して事前に研究趣旨について十分に説明した後,同意を得て実施した.
著者
村川 佳太 上原 光司 重留 美咲 米田 哲也 欅 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-92_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】 近年、介護予防分野や老年医学分野では「フレイル」が注目されている。フレイルは大きく3つに分類され、身体的フレイル、精神・心理的フレイル、社会的フレイルがある。フレイルの原因とされている老化は氷山の一角に過ぎず、その背景に潜む因子との関係を明らかにすることが、介護予防対策を進めるうえで重要となる。フレイルの第一段階とされているのが、社会的孤立などの社会的フレイルであり、今回、当院初期もの忘れ外来における社会的孤立の発現率、社会的孤立者の歩行能力について検討する。 【方法】 2012 年7 月から2016年6月の間に、当院初期もの忘れ外来を初回受診された187名(男性79名、平均年齢77.4歳±5.3)。社会的孤立を日本語版LSNS-6にて評価し、12点未満を孤立群、12点以上を非孤立群とした。評価項目は性別、年齢、世帯、BMI、転倒歴、運動習慣、診断名、10m歩行、TUG、MMSE、LSAとし比較。さらに、目的変数を孤立群、非孤立群とした単変量ロジスティック回帰分析を行い、p<0.1であった、運動習慣、10m歩行、TUG、LSAを説明変数として多変量解析を実施した。なお、10m歩行、TUG、LSAにおいては中央値で2値に分類した。 【結果】 社会孤立発現率は32%(60/187)であった。なお、診断時、正常加齢とされた者の孤立者は0%であり、統計解析の対象からは除外した。孤立群と非孤立群の2群比較では10m歩行(p<0.005)、TUG(p<0.05)、LSA(p<0.005)、運動習慣(p<0.005)となった。ロジスティック回帰分析では、性別と年齢を調節因子とした結果、10m歩行6.5秒以上(OR:3.24、95%CI1.25-8.38、p<0.05)、運動習慣なし(OR:2.12、95%CI1.04-4.34、p<0.05)となった。 【結論】 社会的孤立、活動範囲の狭小化、身体機能低下が負の連鎖となる可能性が考えられた。反対に活動範囲を維持、拡大することが、社会的孤立や身体機能低下を予防する一つの手段になることが示唆された。このような社会的背景を考慮した場合、臨床での介入のみでは限界があり、地域をも巻き込んでの包括的にアプローチしていく必要がある。多職種や地域と連携し、予防の視点を患者、家族へ伝えていくことが今後一層重要になってくると考える。 【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、各対象者には本研究の施行及び目的を説明し、研究参加への同意を得た。なお、本研究は社会医療法人愛仁会高槻病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2016-36)。
著者
中山 陽平 喜多 一馬 小島 一範
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D-39, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】日本は2040 年までに医療福祉職の人材が200 万人超の増加が必要と経済財政諮問会議で発表された。その中で,数だけでなく質の確保が急務とされている。そして,質の確保のためには思いやりを持つ重要性が示唆されており(福間2012),これからの医療福祉職には思いやりを育む教育や環境の整備が課題になる。これは在宅分野の理学療法士でも同様である。しかし,思いやりの育み方については,教育関連における報告は多いが(山村2012,三浦2013),医療福祉職における報告は見当たらない。他方,思いやりは様々な人間関係の中で育まれるものであり(植村1999),職員と上司の関係性はその一つとして重要と考えられる。本研究の目的は,職員が上司から感じている思いやりと,職員が利用者に意識している思いやりとの関係性を明らかにすることである。【方法】対象は,本法人のうちデイサービス(3 施設)と老人ホーム,居宅介護支援事業所のいずれかに所属する職員33 名(男性7 名,女性26 名,年齢47+12.4 歳)とした。なお,職員の職種は,ヘルパー,介護福祉士,看護師,柔道整復師,理学療法士であった。対象者には,紙面によるアンケート調査を実施した。アンケート項目は,上司から感じている思いやりについて「上司はあなたが困っている状況を話すと理解してくれる」など4 つの設問を設定した。利用者に意識している思いやりについては「あなたは利用者が困っている状況を理解しようと意識している」など4 つの設問を設定した。各設問に対し,①そう思う(1 点)から,⑤そう思わない(5 点)の5 件法にて回答を得ることとした。分析方法は,回答を点数化し,上司からの思いやりの合計点と利用者への思いやりの合計点との関連を,スピアマンの順位相関係数を用いて検討した。【倫理】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の趣旨,目的,内容,方法などの説明を行い,対象者の同意を得た上で実施した。なお,対象者の個人情報が特定されぬよう,アンケートの回答は無記名にする等の配慮を行った。【結果】上司からの思いやりの合計点の中央値は6(5 ‒ 8),利用者への思いやりの合計点の中央値は6(5 ‒ 7)であった。スピアマンの相関係数が中等度の正の相関(r = 0.478, p < 0.05)を認めた。【考察】結果より,職員が上司から感じている思いやりと,職員が利用者に意識している思いやりには,関係性があることが示唆された。これは,思いやりを感じる力と思いやりを持つ力は共感する能力に起因して生じた可能性がある。上司からの思いやりを感じるには,前提条件として,上司が思いやりを持っていることに対する共感が必要となる。また,他者への思いやりは共感から生じるものであり(満野ら2010),利用者への思いやりも共感をもつことが前提となる。つまり,2 つの質問の性質は両方とも他者への共感に基づくものであったといえる。よって,思いやりを感じる力を育むことは,他者に思いやりを持つ力を育むことと同意となる。思いやりは後天的な遺伝的要因以外の部分のほうが影響するといった報告がある(Varun Warrier 2018)。また,米グーグル社は2012 年から始めた研究(プロジェクトアリストテレス)でも思いやりに近似する心理的安全性がサービスの質を向上させると結論づけ,その形成に効果が証明されているマインドフルネスなど内観的プログラムを開始している。このような報告を応用し,在宅分野の理学療法士を含む医療福祉職における思いやりを育む教育を実践し,その効果を検証することが今後の課題である。【結論】職員が上司から感じている思いやりと,職員が利用者に意識している思いやりには,関係性を認めた。
著者
内田 学 山口 育子 月岡 鈴奈
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-107_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】パーキンソン病(Parkinson disease:以下PD)は中脳黒質のドパミン作動性有色素神経細胞が脱落し,線条体でのドパミン消失によって安静時振戦・筋固縮・無動・姿勢反射障害等の症状が現れる.PD患者の嚥下障害は予後に関係する重要な因子であり,経過中90〜100%に出現し死因の25%は肺炎で,肺炎の発症のリスク因子として誤嚥は重要である.PD患者の嚥下障害に対する治療法としては薬物療法が選択され,L-dopaなどが代表的に用いられている.治療効果として口腔期の異常は改善させるが食物移送に関与する咽頭期の異常に対して効果が不十分である.間接的介入として摂食・嚥下リハビリテーションが併用されているが代表的な治療法はShaker exerciseである.この介入効果は舌骨上筋に対する筋力増強が目的であり主として顎二腹筋などの筋萎縮に対して実施される.PD患者の嚥下障害はドパミン欠乏による咽頭や喉頭筋群の固縮によって咀嚼や嚥下,喉頭蓋の閉鎖不全が起こるにも関わらず嚥下筋の筋力を焦点にした介入が実施されている.我々は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会にて舌骨下筋に対する超音波療法(Ultra sound:以下US)が嚥下クリアランスを改善させることを報告した.その検討は温熱効果の介入効果のみであることから,プラセボ群との対比を用いることでUSの効果を明確にすることを本研究の目的とした.【方法】対象は, PDと診断され日常的に嚥下障害を呈している者19名とした.Head dropping testが陽性を示し頸部筋の固縮を認め嚥下障害の指標となる相対的喉頭位置が49%以上であることを統制条件とした.乱数表を用いてUS介入群10名、プラセボ群9名をそれぞれ割り付けた。US介入群は甲状舌骨筋を対象筋としてUSを実施した.出力周波数は3MHZ,照射時間率は,照射時間/(照射時間+休止時間)で設定し50%,BNRは3.5±30%,治療頻度は3回/週×2セット(合計6回)とし10分間実施した.プラセボ群はUSの出力をOFFにした状態で同一筋に対して同条件下の時間頻度で回転法を実施した.測定項目としては,嚥下機能を評価するために改訂水飲みテスト(modified water swallow test : 以下MWST),相対的喉頭位置,嚥下時における嚥下関連筋の表面筋電図(振幅,活動時間),食事摂取時に出現する顕性誤嚥の回数を測定した.両群共に全ての測定を介入前に実施し,2週間の介入後に再測定を実施した.統計的手法としては,群内におけるMWST,相対的喉頭位置,筋電図学的解析,顕性誤嚥回数の介入前後の差についてMann-Whitney's U testを実施した.【結果】US群では,MWST,嚥下筋活動の振幅,活動時間,相対的喉頭位置,誤嚥回数が介入後に有意な改善を認めた.一方でプラセボ群では全ての項目に統計学的な差は認めなかった。【結論】PDの誤嚥に対するUSは,固縮による異常な筋緊張を抑制し咽頭部における活動性をより改善させた.プラセボ群では変化を認めないことから,舌骨下筋に対するUSは誤嚥の予防効果として有効であることが示された。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は東京医療学院大学研究倫理委員会の承認(17‐37H)を得たのちに実施した.すべての対象者には視覚材料を用いて研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た後に測定および介入を実施した.
著者
浮橋 明洋 田中 創 西上 智彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-23_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【背景】変形性関節症(膝OA)において,neglect-like症候群,身体イメージの異常,固有受容感覚の低下などの身体知覚異常が認められることがある.The Fremantle Knee Awareness Questionnaire(FreKAQ)は,膝OA患者における9項目から構成される膝の身体知覚異常の評価であり,一元性,信頼性や再現性が認められている.また,FreKAQスコアは疼痛や能力障害と関係があることが明らかになっている.しかし,どの項目がFreKAQにおける特性を適切に反映しているかは明らかではない.本研究の目的は項目反応理論(Item Response Theory:IRT)を用い,FreKAQの識別力の高い項目を明らかにすることである.【方法】本研究は膝OA患者303例(男性66例,女性237例,69.1±9.9歳)を対象とし,IRTにおける段階反応モデルによって,FreKAQにおける識別力及び項目反応カテゴリ特性曲線を推定した.識別力は0.65以下がlow,0.65-1.34がmoderate,1.35-1.69がhigh,1.7以上がvery highとした.項目反応カテゴリ特性曲線は各カテゴリの反応段階のカーブがピークを表出しているか検討した.統計解析はMplus 8を用いて行った.【結果(考察も含む)】FreKAQのすべての項目においてmoderateからvery highの識別力が認められた.特に項目5(日常生活(家事や仕事など)をしている時に,自分の膝がどのような姿勢になっているか正確に分からない)と,項目6(自分の膝の輪郭を正確にイメージすることができない)は,高い識別力であった(それぞれ2.00,1.70).項目9(私の膝は右側と左側で感じ方が違う(一方が重たく感じたり,太く感じる))の識別力は,他の項目と比較して相対的に低かった(0.83).項目反応カテゴリ特性曲線において,項目5,6については反応段階のカーブがピークを表出しているが,一方で,項目9ではピークを表出されることなく,次の反応段階の確率曲線にとってかわっていた.FreKAQにおいて,特に重要となる項目は5と6であることが認められた.項目5は固有受容感覚の低下,項目6は身体イメージの異常にそれぞれ関与する項目であり,これらの項目の改善を目的とした理学療法がFreKAQスコアを減少し,さらに,疼痛の軽減や能力障害の改善に有効である可能性がある.【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,すべての対象者には本研究の研究内容,リスク,参加の自由などを十分に説明した上で書面による同意を得た.また,本研究は九州医療整形外科・内科 リハビリテーションクリニック倫理委員会の承認を得た上で実施した.