著者
砺波 謙吏
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.665-668, 2015-08

今号では,27年度の牛肉輸出振興の取り組み予定とともに,牛肉以外の輸出準備分科会(豚肉,鶏肉,鶏卵,牛乳・乳製品)の取り組み状況を紹介する。牛肉輸出の現状と課題(牛肉輸出促進部会の取り組み) (1) 牛肉輸出の現状 牛肉輸出については,平成26年の輸出量が1251t,輸出金額が約82億円となり,過去最高を記録した(金額ベースの対前年比42%増)。主な輸出先国は,香港が約20億円(385t),アメリカが約12億円(153t),シンガポールが約7億円(123t)となっている。次いでマカオ,タイ,EUと続く。EUにあっては,約4億円(45t)に留まったが,昨年6月中旬に初めて輸出されることとなり,約半年の実績値であること,文化と歴史のある28ヵ国が構成国であることを考えると,まだまだ輸出拡大する余地があるといえよう。昨年に過去最大の輸出を記録した牛肉であるが,この成果は各事業者や産地の生産者が取り組んできた牛肉輸出振興のための長年のさまざまな苦労と努力が実を結んだ結果であり,そのための輸出環境整備や施策を講じた農林水産省や厚生労働省など関係機関の支援があってのものであったといえよう。
著者
中田 嘉子
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.269-276, 2010-02

パラグアイは南半球、南米大陸中央南部に位置し、東から北東をブラジル、北西から西をボリビア、南西から南をアルゼンチンに囲まれている内陸国で、面積は日本の約1.1倍の40万km2である。気候は亜熱帯から温帯に属し、夏は40℃を超える暑さが続くが、短い冬には気温が一桁にまで下がり、霜が降りる。主要産業は農業で、中でも大豆は世界4位の輸出量を誇っている。他にも綿花や小麦、米、広大な土地を生かした牧畜業も盛んである。
著者
阿部 亮
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.277-280, 2010-02

飼料構造論。飼料米。日本は「瑞穂の国」である。瑞穂とは、みずみずしい稲の穂を表現する言葉であり、日本の美称として、「瑞穂の国」という冠を頭上に載せてきた。瑞穂の国の歴史は、米をめぐるさまざまな社会の出来事の系譜でもある。五公五民という米で支払う重税の負荷と農民の呻吟、田畑永代売買の禁令、飢餓と打ち壊し、米価暴騰と買い占め、そして打ち壊し、第二次世界大戦後の食糧難等々、米は日本人の生活の中で重たい地位を占め、白米は、日本の長い歴史の中では、神聖な存在ですらあった。「米を家畜(畜生)に、とんでもない、罷り成らぬ」という心情は、つい、この前まではあった。しかし今、米(稲)と畜産の連携が、「瑞穂の国」の新たな形として推進され始めている。
著者
大成 清
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.448-452, 2011-04

豚の脂肪除去体組織中の鉄含量(ppm)をみると、新生子豚は29しかない。この量は子猫の53%、子兎の21%、人の子供の31%といった具合に非常に少ない。新生子豚はこのように少ないが、成熟豚になると90にも違し、上記動物中では最も多く含むことになる。ちなみに、成熟動物の鉄含量(ppm) は猫60、兎も60、人は74である。新生子と成熟動物の鉄含最比をみると、豚は3.1倍、猫は1.1倍、兎は0.4倍、人は0.8倍となっている。兎と人は減少し、猫は変らずといったところだが、豚は土を食べる動物だけに、物凄く増加するのである。新生子豚はもともと鉄の保有量が少ないうえ、豚乳中の鉄分も少なく、しかも発育も急だし、成豚の鉄保有量も多いので、貧血は起こるべくして起こるわけである。ここで改めて、貧血とは何かということを取りまとめてみたい。幼豚の場合、 血液中のヘモグロビン(g/100ml)は正常時は12、貧血時は5、ヘマトクリット(血液中の赤血球、 %)は35:17、赤血球数(100万/1立方mm)は5:3、赤血球の大きさ(立方ミクロン)は70:55、赤血球のヘモグロビン濃度(%)は35:30となっている。最後は貧血の対策とは何かということだが、幼豚期の鉄剤注射と、それ以後における鉄剤の飼料添加ということになる。
著者
波岡 茂郎
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.21, no.10, pp.1357-1358, 1967-10
著者
四野見 悠喜男
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.73-79, 2010-01

住民主体の農村開発と農民グループの育成。ボリビア国は南米大陸の中央部に位置する内陸国で、国土面積は日本の約3倍(110万km2)、人口は983万人である。一人当たりGNIは1,260米ドル、人間開発指数は0.695で南米では最も貧しい国である。ボリビアの農業農村分野におけるこれまでのわが国の援助はJICA個別専門家の派遣、開発調査、無償資金協力、技術協力(プロ技)、本邦研修等を通じて行われ、ボリビアの農業分野の発展とそれを担う人材の育成に大きな貢献をしてきている。援助の重点は主として低地湿潤地帯に注がれてきていたが、それはこの地域が国内の農業先進地域であることに加え、サンファンおよびオキナワという日本人移住地があることが大きな要因となっている。技術協力分野ではボリビアにおける農業技術開発・普及の拠点となっているボリビア農業総合試験場への専門家派遣から始まり、熱帯農業研究センターへの専門家派遣、プロ技「小規模農家向け稲種子普及改善計画」が実施され、国立家畜改良センターへの専門家派遣、プロ技「家畜繁殖改善計画」および「肉用牛改善計画」などが実施されてきている。これらの技術協力はいわゆるセンター方式技術協力と呼ばれていたもので、ボリビア側の技術者に対して日本の優れた技術を移転し、それを通じてボリビアの将来の農業発展に貢献しようとするものであり、これらの技術協力を通じたボリビア側の技術力向上への我が国の貢献は高く評価されているということができる。
著者
堀野 眞一
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.23-28, 2013-01

東日本大震災で起きた東京電力福島第一原発の事故は東北から関東にかけた広い範囲に放射能汚染をもたらした。放射能の直接的な作用が,人体に及ぼすのと同様の影響を野生ニホンジカ(以下,シカ)にも及ぼすことは,疑う余地が無い。しかし,それを実際に検出することは容易でなく,長期的な調査研究が必要になると思われる。一方,人間活動,とくに狩猟活動,の変化を介した放射能汚染の間接的な影響は既に出始めている。そのようなことがなぜ起こるのかを理解するとともに,今後の推移を予想するためには,人間とシカの関係について現状と背景を知っておく必要がある。
著者
藤本 儀一
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.675-681, 2008-06

アメリカの遺伝学者、バンフレックは、乳牛における能力の遺伝について、雌よりも雄の優位性をうたっている。したがって、各酪農家の対応も、この雄の優位性のもとに行われている。本稿では、個々の酪農家の有する乳牛の系統への高能力雌牛の導入に際し、最も確実かつ有効であるのは、『高能力雌牛が屠場に行く時に、この雌牛の卵巣卵を摘出し、この卵胞を熟成し、それに高能力雄牛精液を、体外授精させ、この受精卵を雌牛に移植することである』と述べた。幸い、わが国の卵巣卵移植技術は、すでに数十年前に、農水省畜試の杉江佶博士が、世界にさきがけて行なわれ、画期的成果として評価されていた。ついで、京大教授、のち近畿大教授の入谷明博士とその一統による、屠場卵巣卵移植が公表された。この技術を用いて、国あるいは各道・都・府・県の畜産試験場が中心となって、各酪農家の雌牛に適用すれば、わが国の酪農の未来は明るくなる。現在残っている少数の精鋭酪農家が、飼養する乳牛も、いまより数段レベルをあげられ、外圧にも耐えられる経営が可能である。
著者
大成 清
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.547-552, 2013-05

アメリカのDDGS産業の経過をみると,最初に行われたのは湿式法によるエタノール製造である。自動車のガソリンに一部混入するようになってから乾式法による製造が拡大した。この製造法から副次的に排出されるDDGSは,ゴールデンDDGSとして,旧式法とは一線を画すようになった。これでかなり製品の品質は安定するとともに,一段と向上したわけだが,依然として品質は不安定であった。このため,更なる品質の向上を目指して採られた手段は,DDGSのSつまりソリュブルをDDGSから除去するということである。DDGに液状かつ低品質のソリュブルを吸着さすと,その後乾燥に更なる加熱を要し,リジンの品質低下や,全般的な消化率の低下を招くというのである。この結果,DDGSではなく,DDGが一部上市されるようになってきた。これで一応の終結をみたかに思えたが,実はそうではなかった。今度はアミノ酸バランスの一層の改善と,含有カロリーの向上を目指して,エタノールの発酵工程に入る前に,原料トウモロコシの脱外皮,脱胚芽を行い,CP41%という高蛋白質DDGを生産するわけである。以上のようにアメリカのDDGならびにDDGS産業は,品質の向上を求めてどこまでも発展してきた。アメリカを始め,いろいろな国ではバイオエタノールの生産に鎬を削っているが,これとは別に,今アメリカではシェール・オイル(chale oil)の生産が話題になっている。油母頁岩(オイル・シェール)というのがある。アメリカの内陸各地で石油を含んだ岩石が探査され,すでに採油も始まっているという。これが実用化すれば燃料革命が起るわけで,食糧用穀類からエタノールを製造するという,迂遠な道を辿らなくても済むことになる。オイル・シェールは油母(ゆも)頁岩,瀝青ケツ岩とも呼ばれ,北アメリカ,オーストラリア,スコットランドや,中国東北部(旧満州国)に古くから産出していた。中国東北部にあったのは,満鉄撫順炭鉱で,満鉄にはかつて筆者も勤務していたことがあり,郷愁の地である。撫順炭鉱(東西47km,南北4km,埋蔵量10億トン,従業員3万2千人)は,有名な露天掘りの炭鉱で,石炭層の上層に頁岩が厚く覆われていた。しかし頁岩中の油分は微量で,レトルト中で乾留した場合の収油率は,平均約5.5%といわれ,当時の技術レベルでは実用化は無理とされていた。アメリカでは地中深くから,オイルだけを採取する新技術を開発(ノースダコタ州,バッケン油田)したようで,一挙に注目を浴びている昨今である。
著者
冨田 健太郎
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.1337-1341, 2008-12

わが国の食農教育の一教材としての熱帯アメリカ農牧情報の活用。「食文化(それの基礎)」、「飽食」および「崩食」の現状を考える。また、筆者の中学時代の話を出して恐縮するが、担任の先生の言葉を思い出したので簡単に記してみたい。その先生は担当が理科であったが、非常に厳しい方であった。理科の授業か道徳であったか定かではないが、その先生の奥様も同じ理科の先生であったという。その奥様は、冬場に買い物でトマトを買ってきたという。それを見た担任は、「なぜ、冬場にトマトを買ってくるんだ!」とその奥様を叱責したという。その理由はこうである。「トマトは夏場に食べるものであって、冬場はもちろん温室栽培だから、別ないい方をすると、石油を食っているのと同じだ!」というのがその先生の言い分だったのである。つまり、「トマトは夏場に食べるからこそ、トマトとしての価値がある」というのである。当初は、すごく理屈っぽい先生だという印象があったが、「食農教育」の中で、必要な言葉(名言)だと思うようになってきたのである。
著者
柳 京煕
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.413-417, 2009-04

2001年5月に、「食品循環資源の再利用等の促進に関する法律」が施行され、食品から由来する廃棄物(以下「食品循環資源」に称する)の飼料・肥料化などの有効な再利用に向けての法制度が整備された。一方、2007年12月に改正された「食品リサイクル法」では、食品循環資源の再生利用に当っては飼料化を優先することを明確に打ち出す一方、廃棄物処理法の特例措置として一般廃棄物の収集・運搬の許可を不要にするなど、政策的なバックアップを鮮明にしていることからも一層の拡大が期待されている。こうした中で、新たな切り札として脚光を浴びているのが、エコフィードである。それは最近高騰しつつある穀物類の価格によってエコフィードが導入される社会的与件が成熟しているといえる。本稿では食品関連事業(主に大手コンビニエンスストア)から発生する食品循環資源からエコフィード生産に取り組んでいる事例を紹介し、飼料化に伴う問題と課題について迫ることにしたい。
著者
野上 ふさ子
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.159-164, 2008-01

日本では戦後に急速に集約的工業畜産が導入された。集約畜産の実態は、一般の国民がそれを知る機会がほとんどないままに、急速に拡大してきたために、畜産の現状と一般の国民の意識の乖離が甚だしい状態になっている。それに加えて、80年代からは畜産製品の輸入が急増しているため、ますます畜産の現場は一般の消費者の意識からほど遠いものとなっている。近年、海外では、世界に広がる家畜伝染病の脅威に対抗するためには家畜の健康と福祉の促進が必要だという認識が広がり、OIE(国際獣疫事務局、世界動物保健機関)が主導して家畜福祉への取り組みが開始されてきた。OIEは世界169カ国の政府行政機関が加盟する国際機関であり、他の国際機関と同様に、NGO(非政府団体)のオブザーバー参加を促している。また、EU(ヨーロッパ連合)では、有機畜産・環境保全型農業の政策の一つとして、家畜福祉を導入しており、ここでも動物福祉団体が積極的に政策に関与している。
著者
木村 一榮
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.9-13, 2009-01

わが国の農業就業人口、基幹的農業従事者ともに高齢化が加速する中、農業の持続的発展を維持するためには、将来の農業の担い手となり得る青年農業者の育成確保が重要な課題となっている。このため、国および都道府県、関係団体等において必要な諸施策が講ぜられている。このような状況の中、農業大学校は、将来の農業・農村を担うべき人材の育成を行うため、高校卒業者等の入校者を対象に、実践的な研修教育を通じて、農業生産・経営に関する高度な知識・技術および農業が抱える諸課題に柔軟に対応できる能力の付与等において、それぞれの地域で青年農業者教育の中核的機関として役割を果たしている。農業大学校は、農業に関する普及事業を定めた農業改良助長法に基づき協同農業普及事業の一環として、設置運営されている農業者研修教育施設である。農業大学校はこの施設の通称であり、現在、道府県に42校整備され研修教育が展開されている。また、独立行政法人や民間の教育団体においても農業・農村の人材育成の目的から、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構農業者大学校、鯉淵学園農業栄養専門学校、八ヶ岳中央農業実践大学校、日本農業実践学園、中国四国酪農大学校等5校設置されており、併せて47校が設置運営されている。最近における道府県農業大学校の入校者、卒業者の状況は表1のとおり、少子化等の社会情勢の中で全体的な入校者の減少傾向、卒業者の就農過程の多様化等の状況がみられる中、効率的かつ安定的農業経営を担うべき青年農業者を育成するため、各農業大学校は、地域の特色を生かした研修教育により、意欲ある優れた担い手を多数育成、輩出する等地域農業の発展に大きく貢献している。
著者
中井 裕 砺波 謙吏 大村 道明 大串 由紀江
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.332-338, 2014-03

東日本大震災(以下,「大震災」)の発生は,岩手県,宮城県,福島県を中心に畜舎等の損壊や家畜の死亡・廃用といった直接的な被害をもたらした。こうした直接的な被害が報告される一方で,電気・水道等の供給停止,飼料工場の被災,交通網の遮断や燃料不足等が,家畜の生産・飼養管理や物流等に影響をおよぼし,生産物の廃棄や資質低下,資材の入手先や販売先の確保に困難を極めるといった二次的影響・被害ももたらした。さらに,東京電力福島第一原子力発電所の事故は,稲ワラや堆肥,圃場を放射能汚染し,出荷遅延,汚染堆肥の除去・保管等を余儀なくされ,風評被害による畜産物消費の低迷を惹起(じゃっき)した。このように,大震災の発生に伴う畜産経営への被害・影響については広範であったが,一方で個々の畜産経営が受けた影響は,同じ地域であっても地理的条件,周辺の社会インフラ寸断状況により異なるものであった。再生・復興の取り組みはまだまだ道半ばであり,避難している者,原発事故による影響がまだまだ残る地域もあるが,被災地で畜産経営を取り巻いてどのようなことが起き,生産活動継続でどのように苦労したかを横断的に整理し,記録等にとどめておくことは,被災地の着実な復興の歩みの上で,また今後のわが国の畜産経営の維持・安定的な発展に重要なことである。
著者
岡野 邦宏
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.747-750, 2013-07

秋田県八郎潟残存湖(以下,八郎湖)は秋田県西部,男鹿半島の根本に位置し,八郎潟調整池,東部承水路,西部承水路を合せた湛水面積は48.3km2となっている。かつては琵琶湖に次いで日本第二位の面積(220km2)であったが,1957年に着工した八郎潟干拓事業により約17,000haの干拓地が造成され現在の形となった。防潮水門の設置により汽水湖から淡水湖に変わった八郎湖の水質は,湛水面積の減少,人口増加,農地造成などにより悪化の一途を辿り,1977年の事業竣工から24年後の2001年に全国ワースト5位(COD濃度)となっている。2006年には,アオコ(藍藻類の大量増殖)により近隣地域で取水制限も行われ,水質もワースト3位となった。このような現状を鑑みて,2007年12月に湖沼水質保全特別措置法(湖沼法)の指定を受け,全国で11番目の指定湖沼となった。翌年2008年度より「八郎湖に係る湖沼水質保全計画(第一期)」が策定され,悪化した水質の改善が進められている。一方で,秋田県をはじめとする農山村地域を多く持つ地域では生活排水処理において各戸での合併浄化槽に加えて,比較的小規模な集合処理施設である農業集落排水施設が大きな役割を担っている。実際に,秋田県では全体計画処理人口の13.8%(2012年現在)がこうした農業集落排水施設によって生活排水処理が行われている。八郎湖流域では,前述の八郎湖に係る湖沼水質保全計画(第一期)に基づき,農業集落排水施設の高度処理化や広域下水道への接続が進められている。しかしながら,高度処理化されていない施設は水域の富栄養化の一因となる可能性があることから,既設施設の高度処理化は重要な課題といえる。また,農業集落排水施設のような比較的小規模な施設には広域下水道処理施設とは違い,低コストかつ持続可能な高度処理技術が求められる。本稿では,11番目の指定湖沼となった八郎湖の汚濁状況をアオコ問題を中心に解説するとともに,農業集落排水の高度処理技術について植生浄化法の1つであるバイオジオフィルター(Bio-Geofilter)水路を用いた技術について紹介する。
著者
中洞 正 赤崎 勇次
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.1205-1209, 2013-12

第一義に,日本において乳類を販売するにあたり一定の菌数を超える大腸菌及び一般細菌が検出された製品は販売してはならない規定がある。この規定をクリアするためには製造現場に,製品中の大腸菌及び一般細菌の陰・陽性を知り得る技術が必要となる。生産された乳製品は例外なくこの検査の対象となり,細菌検査を通過した物のみが出荷販売が可能となる。これは昭和26年12月27日に施行された「乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)」による取り決めである。菌検査は菌数をコロニー(斑点)の数により判定し,陰・陽性が判断される。乳製品の場合,大腸菌は1コロニー以上,一般細菌は5万以上で陽性の判定となり陰性以外は再検査をかけ再判定する。再検査の段階で陽性結果が出た場合において,販売不可の製品となる。これを怠った場合,または何らかの事象により一定の菌数を超えた製品が市場に流れた場合,販売責任者は回収の義務が課せられる。場合によっては,営業停止という重い罰を与えられることもある。このことから,検査は製造の末端工程ではあるが販売においては第一に重要な必須事項であることは言うまでもない。また乳自体の検査(比重・糖度・酸度・クリームライン・アルコール凝集など)も行うため,適正な検査を行えるか否かによって製品の安心・安全が保たれるのと同時に,品質保持の役割を担っているのが製品検査といえよう。検査においては製造現場に検査専用の部屋があること,必要機材があることが求められる。検査員は特に資格(公的には食品衛生資格者というものもある)は必要としない。各細菌の検査方法に則って行い,製品が生産されるごとに一定量のサンプルを採取して調べる。
著者
稲垣 純一
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.616-618, 2009-06

今号の口絵で紹介されている安藤養鶏は、山梨県上野原市の市街地より旧甲州街道に沿った芦垣集落に位置している。平成17年に、旧上野原町と旧秋山村が合併して市政化された上野原市は、山梨県の最東端であるが首都圏中心部から約60〜70km圏に位置していることもあって、東京都への通勤者が就業者全体の25.5%、通学でみても全体の27.1%が、東京都へ通学しているため、JR上野原駅は県庁所在地の甲府駅に次いで第2位の利用者数となっている。市内の養鶏農家が1戸のみという環境下で、飼養羽数5,000羽という小規模経営ながらも、市場出荷をせずに全量を直販している安藤養鶏は、平成6年に飼養羽数を1/3へ縮小することによって現在の経営を確立している。近隣に相談できる同業者がいないながらも、この大きな転換に至った経緯とその後の経営展開について記すこととする。
著者
眞田 誠 坂本 恭一
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.111-114, 2009-01

愛媛県立農業大学校の歴史は、明治43年に愛媛県立農事試験場に農業見習生制度を設置したことに始まりました。大正4年に愛媛県立農業技術員養成所と改称し、その後、時代の変遷に伴い、愛媛県高等農業講習所と名称を変更、また果樹、蚕業、畜産の各試験場にも同様の施設を併設し、技術者の養成にあたってきました。昭和46年に時代の進展に即応して農業指導者等の養成を一元化するため、講習所等を廃止し、農業大学校として新たに発足しました。昭和48年には、環境のよい愛媛県中部の松山市下伊台町へ新築移転し、教育や研修の体制強化を図りました。この後、国の要領改正や制度改正に伴う学科等の改変を行い、時代に対応した専門教育への体制を整えてきました。平成17、18年度には大学校の大幅な改革を行い、専修学校へ移行し、教授・助教授を配置するなど指導体制を拡充するとともに、従来の養成部門を自営農業者の育成だけでなく、地域農業および農村を担う幅広い人材を養成する総合農学科に再編するとともに、改良普及員の養成を目的とした専攻科を廃止し、高度な農業経営者や地域農業のリーダーを養成するアグリビジネス科を設置し、現在に至っています。