- 著者
-
阿部 亮吾
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, pp.128, 2004
I はじめに<br> 日本における外国人労働者の歴史上,1980年代以降のアジアからの移住労働者,いわゆるアジア系ニューカマーの増加は,どの研究分野においても一つの大きな現象として認識されてきた.しかしながら,特に地理学ではかれらを視野におさめた研究が,管見の限りいまだ数少ない.もちろん,そのなかでもアジア系ニューカマーを代表する存在として語られてきたフィリピン人女性エンターテイナーへの視座も欠いたままとなっている.<br>本国フィリピンでダンサー/シンガーとしての資格を取得し興行ビザを有して来日するエンターテイナーたちの多くは,通称フィリピン・パブと呼ばれる風俗営業店にて就労する.フィリピン・パブとは,エンターテイナーが歌やダンスといったショーの主役として演出される店舗のことであり,顧客のたいていは日本人男性であるような,さまざまに差異化された空間である.このエンターテイナーと夜の盛り場のもつイメージが強烈なインパクトをもっていたがゆえに,彼女らが1980年代以降のニューカマーを代表する存在として認識されてきたとも考えられるが,エンターテイナーの来日は2000年代に入っても減ずることなくむしろよりシステム化されたかたちでとり行われ,全国諸都市の夜の盛り場における重要な主体となりつづけている.<br> 本発表では,こういったフィリピン・パブにおいて,特にエンターテイナーをとりまく重要な社会関係の構成主体とみなすことのできるパブ顧客が,彼女たちをどのように眼差しているのかを主題としてとりあげたい.<br>II 研究の資料<br> 本発表では,検索エンジンYahoo!Japanに「フィリピン・パブ」で検索をかけて得られた4つのフィリピン・パブ総合情報webサイト,フィリピン・パブやエンターテイナーについて著された出版物などから,パブ顧客のエンターテイナーに対する言説を拾い出すこととする.こういったメディアを通じた言説は,パブ顧客によるエンターテイナーへの眼差しを形成する重要な要素となっていると考えられる.<br>III エンターテイナーの表象<br> パブ顧客の言説は,大きくはエンターテイナーの「性格」と「身体」に関するものに分けられた.それら言説資料の整理から,エンターテイナーの表象にはいくつかの傾向が指摘できる.「性格」については,感情的な人々,ホスピタリティ精神の持ち主,日本人(女性)へのノスタルジー的存在,純粋さとしたたかさの二面性,また「身体」については,セクシーでナイスバディであると同時に「エキゾチック」なものとして,エンターテイナーが表象されていることが分かった.<br>IV 今後の課題<br> こういったエンターテイナーの表象が,より広くはパブ顧客の言説に限定されない,日本におけるフィリピン人女性像の系譜のなかにどのように位置づけられるのか,またそれらがフィリピンと日本のあいだの社会・文化・政治・経済的関係とどのようなつながりがあるのかといった議論に関しては,今後の研究の課題である.<br>