著者
杉崎 洋紀 井坂 奈央 増田 文子 志和 成紀
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.223-229, 2012 (Released:2013-08-15)
参考文献数
28

水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化による脳神経障害として, 耳鼻咽喉科領域ではRamsay Hunt症候群の顔面神経・内耳神経障害がよく知られているが, それらの障害を伴わない下位脳神経障害が報告されている。今回我々は水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化により舌咽・迷走神経麻痺を呈した1症例を経験したので報告する。症例は37歳の男性で, 咽頭痛と嗄声, 嚥下困難を主訴に当院を受診した。喉頭蓋左側と左被裂部に粘膜疹を認め, 軟口蓋左側の挙上障害と左声帯固定, 左側優位な咽頭反射の減弱を認めた。血液検査でVaricella-Zoster Virus IgM, Varicella-Zoster Virus IgG共に上昇を認めた。水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化に伴う舌咽・迷走神経麻痺と診断し, 抗ウイルス薬, ステロイド点滴治療を施行した。第11病日, 症状の改善を認め, 退院した。退院後2ヵ月で麻痺はほぼ消失した。現在退院後1年経過観察中だが症状の再発は認めていない。水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化に伴う舌咽・迷走神経麻痺では, 咽頭や喉頭に粘膜疹を認めないものの咽頭痛を伴うことがある。咽頭痛を伴う舌咽・迷走神経麻痺は, 粘膜疹を認めない場合でも, 原因として水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化を積極的に疑う必要がある。
著者
荒木 進 鈴木 衞
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.53, no.Supplement2, pp.s90-s96, 2010 (Released:2011-08-15)
参考文献数
6

花粉症などの季節性アレルギー性鼻炎に対して, ネブライザー療法は通常行われている。一方, 同時期のアレルギー性結膜炎やアレルギー性接触皮膚炎に対しての有効な局所療法はない。私たちは, 眼と顔面にも外来で治療ができる蒸気と薬液による顔スチームミストネブライザーを考案した。スギ花粉症患者には平成20年に38例に対して施行し, 不変: 改善の比は, 眼の痒み (1:3.7), 涙目 (1:3.1), 顔の乾燥感 (1:2.2) の順であった。イネ科花粉症患者には平成21年に3例に対して施行した。改善率は眼の痒みと涙目が100%, 顔の乾燥感が75%であった。超微粒子による蒸気の加温, 加湿効果と薬により, 花粉症患者の眼と顔面皮膚に対する外来治療ができると考えられた。
著者
間島 雄一
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.118-125, 2012 (Released:2013-04-15)
参考文献数
35

好中球を中心とする炎症による慢性鼻副鼻腔炎は副鼻腔自然口の閉鎖が主な成因である。好酸球性副鼻腔炎は気道全体にまたがる全身疾患が鼻・副鼻腔に出現していると考えるべきであろう。診断は「鼻副鼻腔炎と鼻茸についてのEuropean position paper」の慢性鼻副鼻腔炎の定義を参考にする。治療効果の判定は自覚症状, 他覚所見のsymptom scoreの改善度を組み合わせて評価する。治療効果の判定にはSNOT-20などの慢性鼻副鼻腔炎に特化したQOLの評価も欠かせない。小児における慢性鼻副鼻腔炎の病態は成人のそれとはかなり異なっているため, 同一の疾患として取り扱うべきではない。好中球を中心とした副鼻腔炎は患者が症状に悩み一定期間の保存的療法に効果がなければ鼻内副鼻腔手術を施行する。好酸球性副鼻腔炎は患者が鼻茸による鼻閉や粘膿性鼻漏に悩むようであれば手術療法を施行する。経口薬物療法とくにマクロライド療法, システイン製剤, ステロイド, ロイコトリエン受容体拮抗薬について効果と適応を示した。またエアロゾル療法の効果についても述べた。
著者
調所 広之 岡本 途也
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.491-493,430, 1974-08-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
3

The Foley balloon catheter is used for continuous evacuation of urine, yet this catheter has been found useful in various procedures in otolaryngology.The authors described the following 3 different uses of the catheter;1. For postnasal packing to control nasal bleeding:The catheter is introduced through the nasal passage, on the side where bleeding occurs, then the balloon is inflated when the end reaches the nasopharynx. Nasal bleeding can be controlled by packing against the inflated balloon without causing much discomfort to patients.2. To control postoperative bleeding from the maxillary sinus:The catheter is introduced into the maxillary sinus through the nasoantral window, then the balloon is inflated to compress the bleeding points within the sinus.3. For fixation, from underneath, of fractured maxilla or orbit:After reduction of the fractured maxilla or orbit, the catheter is introduced through the constructed nasoantral window and the balloon is inflated by injecting urographin and methylene blue to sustain and immobilized the repositioned farctured segments of the bones.
著者
石井 正則
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.419-420, 1984-08-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
1

Although the author reported a one-hand ligation method previously two disadvantages were noted later; firstly it required complicated manipulation, and secondly the thread would be prone to severing because of frequent tangling. The new method presented here using two hands is simple quick and secure, and can be used as easily as the conventional methods.
著者
中川 雅文 杉田 玄
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.150-162, 2008 (Released:2009-10-15)
参考文献数
6

デジタル信号処理 (Digital signal processing, DSP) 技術に助けられ補聴器は飛躍的に進歩し, 現在も革新的な変化を続けている。軽度難聴者への福音となったオープンフィッティングは, 従来解決が難しかった耳閉塞感などの愁訴がほとんどないなどの理由から適応が拡大される傾向にある。しかし, その特性に関する理解不足から来る不適切な処方やオープン対応式補聴器との混同などの問題も散見するようになっている。軽度難聴者へのオープンフィッティング式補聴器の適応と限界, 処方における具体的な指示事項の在り方, 装用後の適合評価の工夫など補聴器というハードウエアを軸とした補聴器フィッティングのあり方について記す。補聴器相談医として実務に就いている医師がこれらの最新の知見や知識を補足し実際の補聴器診療に役立ててもらえれば幸いである。
著者
玉置 尚司
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.163-168, 2008 (Released:2009-10-15)
参考文献数
22

ムンプスはパラミクソウィルス科に属するムンプスウィルスによって引き起こされる小児に好発する全身性急性感染症である。唾液腺の両側性の疼痛, 腫脹が主症状で, 小児では軽症に経過する疾患であるが, 年齢が高くなるほど症状が強く出やすい。中枢神経に親和性のあるウィルスで, 無菌性髄膜炎を伴いやすいが, 脳炎に陥り後遺症を残すような例は稀である。数パーセントの割合で一過性の難聴を来すといわれている。しかし, 重要なのは片側性の非可逆性の高度感音性難聴を残すことで, 従来考えられていたよりその頻度は高く, 3,500例に1例の割合で起こると推計されている。本来ワクチンで予防可能な疾患であるが, わが国では1990年前後にMMRワクチンの副反応による無菌性髄膜炎が頻発したという不幸な歴史があるため, ムンプスワクチンの接種率は低くその流行を阻止できていない。今後, より積極的な接種による集団免疫率の向上が望まれる。
著者
北村 正樹
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.308-311, 2003-08-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
7
著者
高雄 真人 牧野 邦彦 斎藤 幹 武木田 誠一 天津 睦郎
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.16-23, 2001-02-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
18

対側外耳道に陽圧 (200daPa), 陰圧 (-200daPa) の圧刺激を加え, 検耳で音響性アブミ骨筋反射と同様の下向きの波形を得た (30~33%) 。これは顔面神経麻痺耳で検出されず, アブミ骨筋反射と考えた。また対側圧刺激と同側音刺激を同時に負荷し, 音響性アブミ骨筋反射の振幅増大を95%に認めた。さらに一側聾例において聾耳に圧刺激を加えたところ9例中2例にアブミ骨筋反射が誘発され, 圧刺激によるアブミ骨筋反射の刺激部位として耳石器の可能性が考えられた。アブミ骨筋反射の作用機序として, 従来は中耳伝音インピーダンス増大による音の中耳から内耳への入力調節が考えられている。しかし高周波数音に対する非効率性や骨導経由の音刺激, 圧刺激などによるアブミ骨筋反射の存在を考慮すると, アブミ骨筋反射は内耳への直接作用説, すなわち, アブミ骨底板の外側偏位による内耳圧の変化が内耳インピーダンスを調節する可能性を提唱した。
著者
田中 大貴 森 恵莉 関根 瑠美 鄭 雅誠 鴻 信義 小島 博己
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.119-122, 2020-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
13

塩化亜鉛液を浸した綿棒で上咽頭を擦過する上咽頭擦過療法 (Epipharyngeal Abrasive Therapy: EAT) は, 組織の収斂・抗炎症作用を利用した上咽頭炎など初期の感冒症状に対して一部の施設にて行われている。 上咽頭擦過療法で稀に嗅覚障害を来すことがあるとされるが, 詳細な報告はない。 国外ではグルコン酸亜鉛液が初期の感冒に効果があるとされ市販されており, このグルコン酸亜鉛液による点鼻治療で嗅覚障害を来したという報告が散見する。 また硫化亜鉛や酸化亜鉛も動物実験で嗅覚障害を起こしたという報告がある。 今回, 塩化亜鉛液が原因と考えられる嗅覚障害の例を経験し, 塩化亜鉛も他の亜鉛化合物と同様に嗅覚障害を呈する可能性が考慮されたため, 文献的考察を加えて報告する。
著者
森 繁人 斎藤 等 木村 有一 高橋 昇 山田 武千代
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.38, no.Supplement3, pp.220-227, 1995-08-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
27

エリスロマイシンをはじめとするマクロライド系抗生剤が慢性副鼻腔炎に対して有効であることが報告されており, 抗菌作用以外の作用が示唆されているが, なお不明な点が多く残されている。今回われわれは, マクロライド系抗生剤の有効機序の一端を明らかにする目的で, 14員環のエリスロマイシン (EM), ロキシスロマイシン (RXM) および16員環のアセチルスピラマイシン (SPM) を, 培養鼻副鼻腔粘膜に作用させ, 繊毛運動に与える影響を電気光学的に検討した。その結果EMでは内服の際の組織移行濃度である0.002%(2.0×101mg/L) 以上で充進を認めた。0.05%(5.0×102mg/L) 以上の高濃度になると, はじめ亢進し, やがて障害されるという二面性を呈した。RXMでも組織移行濃度の0.0005%(5.0mg/L) 以上で作用直後から充進が認められ, EMよりも長時間賦活状態が持続する傾向を認めたが, 0.005%(5.0×101mg/L) になると充進傾向は減弱した。SPMではほとんど充進作用を認めなかった。以上の結果から, マクロライド系抗生剤の慢性副鼻腔炎に対する作用機序の一つとして, 繊毛運動賦活作用が想定された。また14員環マクロライドは16員環マクロライドよりも, RXMはEMよりも優れた繊毛運動活性化作用を有していると考えられた。
著者
石井 正則 八代 利伸 小林 毅 金田 健作 府川 和希子 森山 章
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.95-100, 1994-02-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
11

空酔いは, 訓練中の航空機搭乗員にとって症状が改善しない時には深刻な問題になる。それは本人だけでなく安全運航上においても解決すべき重要な課題である。各国の空軍では, コリオリ刺激による脱過敏 (desensitization) やバイオフィードバック療法によって70-84%のRehabilitation Rateが得られることを報告している。しかしそのためには特殊な装置や激しい加速度訓練が必要になる。そこで日常の生活の中で空酔いの対策になるプログラムを考案した。その内容は, 自律神経系を安定化し異なる加速度や重力方向の変化に対して適応できるように, ストレッチ体操, 水泳, 加速度変化の体験などをリハビリの中心とし, さらに自律神経調整作用のある薬剤や抗ヒスタミン剤を随時併用するものである。1987-1992年の5年間に11名の航空機搭乗員にこのプログラムを用いて空酔いに対する治療を行ったが, そのRehabilitation Rateは, 81.8%であり, 空酔いに対する有効な方法と考えられた。