著者
岩瀬 正典 平田 泰彦 石橋 大海 林田 一洋 永渕 正法 柏木 征三郎 大久保 英雄 松原 不二夫
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.25, no.8, pp.1053-1060, 1984

慢性肝炎を合併したDubin-Johnson症候群(DJS)の1例を報告する.本症例で興味ある点は,1)肝は肉眼的にほぼ正常の色調を呈した,2)胆汁酸負荷試験で再上昇現象を示したことである.症例は22歳の男性.2年前に急性肝炎(非B型)に罹患.トランスアミナーゼの中等度の上昇,直接型優位の高ビリルビン血症およびBSPの再上昇を認め,腹腔鏡検査で肝はほぼ正常の色調を呈した.組織像は慢性肝炎非活動型の所見であり,主に中心帯の肝細胞内に少量の色素顆粒を認めた.空腹時血清総胆汁酸は増加,ウルソデオキシコール酸500mgを経口負荷後,総胆汁酸濃度は30分で最高値をとった後低下し,90分より再上昇を示した.空腹時総胆汁酸の増加は合併している慢性肝炎の影響も考えられたが,再上昇現象はDJSの胆汁酸代謝異常によるものと考えられた.
著者
井戸 健一 関 秀一 酒井 秀朗 山中 桓夫 木村 健 河合 忠
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.18, no.7, pp.464-467, 1977-07-26 (Released:2009-07-09)
参考文献数
6
被引用文献数
1

肝疾患における自己抗体の検索を性別差の観点から行なった.対象は肝硬変60名,慢性肝炎33名,急性肝炎27名,脂肪肝9名の計129名.自己抗体は抗核抗体(蛍光抗体間接法),抗DNA抗体(赤血球間接凝集反応),リウマチ因子(血球凝集反応)を検索した.抗核抗体(P<0.05),抗DNA抗体(P<0.005),リウマチ因子ともに女性の陽性率が男性より高かった. さらに抗核抗体陽性者は全員HBs抗原(RIA)陰性であった.このような結果は“性”というgeneticな要因が病因論的に大きな役割をはたしている可能性を示唆するものと考えられた.
著者
山下 智省 鈴木 千衣子 谷川 幸治 坂井田 功 沖田 極
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.636-644, 1999-12-25 (Released:2010-02-22)
参考文献数
20
被引用文献数
6 6

肝硬変患者におけるグルコース利用能を評価する目的でグルコースを経口的あるいは経静脈的に投与した後のグルコース利用率と非蛋白呼吸商を間接カロリーメーターを用いて計測した. 経口的, 経静脈的投与のいずれにおいても対照に比し肝硬変患者ではグルコースの利用が遅延する傾向を認めた. 肝硬変患者を代償期群と非代償期群とに, あるいはChild分類別に分けた比較では肝硬変がより進展した群においてグルコース利用能は亢進していた. 経口的投与後のグルコース利用率はbody mass indexとの間に有意な負の相関を, クレアチニン身長係数比との間に有意な正の相関を認めたが, 血中アルブミン, コレステロール, プロトロンビン時間およびアンモニアとの間には相関を認めなかった. 肝硬変患者では進行例においても遅延しながらもグルコース利用能は亢進しており, このことは末梢組織でのグルコース利用の亢進を反映していると考えられる.
著者
中川 英刀
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.551-558, 2017-10-20 (Released:2017-11-08)
参考文献数
23

ゲノム解析技術の進歩によりがんの全ゲノム解読が可能となり,肝臓がんにおいては,平均1万カ所の変異があることが分かってきた.その中で,肝がんの発生と進展に関わるdriver変異としては,Wntシグナル,TP53,TERT,クロマチン調節因子の変異,そしてウイルスゲノムの組み込むなどが,高い頻度で起こっていることが明らかになった.また,変異の塩基置換パターンの解析により,アフラトキシンを始め様々な環境因子の曝露が肝がんの発生に関わっていることも明らかになりつつある.肝臓がんのゲノム異常ではActionabilityが少ないことから,ゲノム情報を用いた治療薬の選択を行うことは実現されていないが,今後,肝臓がんのゲノム情報と分子標的薬の効果などの臨床情報との関連解析がすすむことによって,既存の分子標的薬や化学療法の肝臓がんの適応拡大,およびその効果予測のバイオマーカーが同定でき,肝がんのPrecision Medicineの実践がすすんでいくものと期待される.
著者
白石 公彦 伊藤 博道 沢田 征洋 白地 孝 溝口 実 川野 芳郎 松本 博 安倍 弘彦 谷川 久一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.656-662, 1982-06-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
20

69歳男性,上腸間膜動脈血栓症のため広範囲小腸切除術を受け約6ヵ月後退院したが,術後9ヵ月を経過した時点で体重減少および全身倦怠感を主訴として当科入院となった.入院時軽度の黄疸および下肢の浮腫を認め,圧痛を有する軟らかな肝を右肋骨弓下一横指触知した.臨床検査より消化吸収障害を示唆する所見が得られ,肝生検にて著明な脂肪肝が認められ,またMallory体も散見された.患者は約2年6ヵ月前より断酒しており,低栄養により脂肪肝を来たしたと思われた.入院後も患者の栄養状態は徐々に悪化し,12ヵ月後に嚥下性肺炎のため死亡した.剖検肝組織に於ては肝生検時に比して脂肪変性は軽減し,Mallory体は増加して見られた.
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.41, no.supl3, pp.A494-A499, 2000-10-30 (Released:2010-11-29)
参考文献数
20
著者
杉本 勝俊 森安 史典 安藤 真弓 佐野 隆友 宮田 祐樹 平良 淳一 小林 功幸 今井 康晴 中村 郁夫
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.290-292, 2014-05-20 (Released:2014-05-30)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

We report a woman in her late 60s with hepatocellular carcinoma in whom the tumor was successfully treated by irreversible electroporation (IRE). Vascular-phase contrast-enhanced US (CEUS) with Sonazoid and dynamic CT at 1 day after treatment showed no tumor enhancement, but the safety margin of ablation appeared to be insufficient. On the other hand, in Kupffer-phase CEUS, the ablation zone showed a clear contrast defect with a sufficient ablation margin, indicating cell death of hepatocytes, cancer cells, and Kupffer cells in this area following IRE treatment. Very similar findings were observed in hepatobiliary-phase Gd-EOB-DTPA-enhanced MRI at 7 days after treatment. These results suggest that both Kupffer-phase CEUS and hepatobiliary-phase Gd-EOB-DTPA-enhanced MRI may be useful for assessing the ablation zone in patients who have undergone IRE.
著者
北原 拓也 久保 恭仁 吉澤 海 安部 宏 会澤 亮一 松岡 美佳 相澤 良夫 砂川 恵伸 高山 忠利 幕内 雅敏
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.229-237, 2009 (Released:2009-06-03)
参考文献数
14
被引用文献数
3 3

Peliosis hepatis(肝紫斑病)は,類洞の拡張と肝内に多発する血液の貯留腔を認めるまれな疾患で,WHOの肝腫瘍の組織学的分類では腫瘍類似病変に分類されている.本邦では腫瘍との鑑別に苦慮した症例の報告が散見されるが,肝全域にわたってPeliosis hepatisが発生,進展し,致命的な転帰となった症例は,過去にわずか1例が報告されているのみである.今回我々は,特徴ある組織学的所見を呈し,経過観察中に突然病態が悪化し急速に致命的な経過をたどった,肝全域にわたる特発性Peliosis hepatisの極めてまれな1例を経験したので報告する.
著者
土居 忠 田中 信悟 佐藤 康裕 太田 英敏 南 伸弥 藤見 章仁 蟹澤 祐司 田村 文人 平川 昌宏 小野 薫
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.501-507, 2010 (Released:2010-10-07)
参考文献数
19
被引用文献数
3 3

脂肪性肝疾患(FLD)の発生に及ぼすアルコール摂取の影響には不明な点が残されている.今回我々は2008年1月から12月までに腹部超音波検査を含む健康診断を受診した3185名を対象に脂肪肝の頻度に対するアルコール摂取の影響を多重ロジスティック回帰分析により解析した.内臓脂肪性肥満,空腹時高血糖,脂質異常症はいずれも脂肪肝頻度の増加と関連していた.1日アルコール摂取量20 g未満(少量飲酒群),20 g以上から40 g未満(軽度飲酒群)および40 g以上から60 g未満(中等度飲酒群)では脂肪肝のオッズ比は有意に低下した.男女別に飲酒の影響を検討したところ,男性では軽度飲酒群から中等度飲酒群におけるFLDの調整オッズ比は非飲酒群および1日アルコール摂取量60 g以上の多量飲酒群より低かった.一方,女性ではアルコール摂取の影響は明らかでなかった.以上の結果からFLDに及ぼす飲酒の影響には性差があり,男性では軽度ないし中等度までのアルコール摂取は過栄養性FLDの発生を抑制する可能性が示唆された.
著者
西原 利治 大西 三朗
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.541-545, 2003-11-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1
著者
西原 利治
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.82-86, 2004-02-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
18
被引用文献数
6 2
著者
川本 智章 井戸 健一 人見 規文 磯田 憲夫 大谷 雅彦 木村 健 望月 真 広田 紀男 近藤 雅雄
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.241-246, 1989-02-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
20
被引用文献数
2 3

症例は49歳,男性.昭和58年,肝機能障害を指摘された.昭和62年4月,当科を受診し,多発性の高エコー病変を指摘され入院.既往歴として25歳時,輸血歴がある.39歳より糖尿病を指摘され,Glibenclamideを内服している.飲酒歴はビール1本/日,30年間.入院時,皮膚症状はなく,軽度の肝機能障害を認めた.腹腔鏡検査では軽度の白色紋理と小陥凹を認め,多数の円形~地図状の暗紫青色病変がみられた.超音波腹腔鏡にて同病変は高エコーに描出された.紫外線照射により,生検標本の暗紫青色部に,淡い赤色蛍光がみられた.生検組織像はchronic persistent hepatitisであり,暗紫青色部には脂肪変性を認めた.ポルフィリン体の分析では,尿中ウロポルフィリン,及び7-カルボキシルポルフィリンの増加を認め,皮膚症状を欠く晩発性皮膚ポルフィリン症と診断された.本症例の確定診断には,腹腔鏡検査,及び超音波腹腔鏡画像誘導下の狙撃生検法が極めて有効であった.
著者
千住 猛士 増本 陽秀 小柳 年正 田尻 博敬 矢田 雅佳 本村 健太
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.417-424, 2012 (Released:2012-08-09)
参考文献数
18

肝細胞癌の肺転移巣が自然退縮した2例を報告する.症例1は65歳男性.肝細胞癌に対して肝動脈塞栓術(TACE)による治療を繰り返していたが,初発から1年7カ月後に多発肺転移が出現した.積極的治療を行わず経過観察したところ,2カ月後に肺転移巣はほぼ消失した.症例2は78歳女性.肝細胞癌に対する肝切除術後の多発再発に対してTACEによる治療を繰り返していたが,初発から5年後に多発肺転移が出現した.積極的治療を行わず経過観察したところ,6カ月後に肺転移巣は著明に退縮した.肺転移巣自然退縮の機序は不明であるが,症例1は飲酒喫煙を止め,NSAIDを頻回に服用しており,症例2は健康食品の核酸を摂取していた.