著者
大坪 陽子 原井 宏明 稲垣 幸司 瀬在 泉
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.99-106, 2016-01-31 (Released:2019-04-27)

背景:動機づけ面接(Motivational Interviewing:MI)は依存症に対する行動療法の効果研究から生じた面接スタイルで、種々の領域で行動変容を促す有用性が実証されている。MIの効果研究に用いられるMIスキルの評価尺度として動機づけ面接治療整合性尺度(MITI)がある。目的:MITI日本語版の使用にあたり重点的に評定者トレーニングを必要とする項目を明らかにする。方法:カウンセリング場面10例を6名の評定者が1時間の評価練習の後、MITIに基づいて独立に評価した。評定者間信頼性係数として級内相関係数を求めた。結果:評定者間信頼性係数は総合評価0.72、行動カウント0.59だった。考察:行動カウント項目(特に「MI一致」「閉じた質問」)で評価が大きくばらついた。結論:動機づけ面接の基礎トレーニングを修了した臨床家がMITIを用いて面接を評価する際、総合評価部分は1時間程度の評価練習で評定者間信頼性を担保できた。一方、行動カウント部分の評価練習はより多くの時間を割く必要があった。
著者
坂野 雄二 東條 光彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.73-82, 1986-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
70

本研究の目的は,日常生活のさまざまな状況における個人の一般性セルフ・エフィカシーの強さを測定する尺度を作成し,その信頼性と妥当性について検証することである。知覚されたセルフ・エフィカシーの強さを表わしていると思われる項目の選択と,それらの因子分析の結果にもとついて,16項目から成る「一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)」が作成された。 再検査法,折半法,平行検査法等による検討の結果,GSESは内的整合性も高く,信頼性,妥当性も十分に高いことが示された。また,抑うつ状態にある患者と,中程度ないしは高程度のセルフ・エフィカシーを示す健常者との聞でGSES得点の比較を行ったところ,抑うつ状態にある者は,そうでない者に比べて得点が有意に低いという結果が示された。その結果,GSESは弁別力という点でも妥当性は高く,臨床的応用あるいは研究への応用に十分に耐えうることが示唆された。
著者
勝倉 りえこ 伊藤 義徳 根建 金男 金築 優
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.41-52, 2009-01-31

メタ認知的気づきとは、否定的な感情や思考を自己の実体や世界の直接的な反映としてではなく、過ぎ行く心的な出来事として経験するプロセスであり、反復性うつ病の脆弱性の改善との関連が指摘されている。本研究では、認知プロセスを変容させると考えられるマインドフルネストレーニングの中核的技法である坐禅の訓練が、大学生の抑うつ傾向およびメタ認知的気づきに及ぼす影響について検討する。結果として、坐禅訓練が大学生の抑うつ傾向と反すう的思考スタイルを減弱し、またその効果はメタ認知的気づきの獲得を媒介して発揮されている可能性が示唆された。今後は、本研究で得られた予備的知見を、臨床群においても検証することが望まれる。
著者
池田 浩之 森下 祐子 茂木 省太 中井 嘉子 井澤 信三
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.47-56, 2012-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

精神障害者への就労支援は近年注目されつつあるが、その就職状況の実態は依然厳しく、支援プログラムや支援システムも確立されていない現状にある。特に、実践は進みつつあるものの、就労支援プログラムの効果については検証されていないといった課題がある。本研究は、就労移行支援施設に通う精神障害および発達障害者6名を対象に、SSTと心理教育を中心とする認知行動療法に基づいたプログラムを実施し、プログラムの効果を測定することを目的に行った。結果、精神的健康度に改善がみられたほか、自己効力感においても得点の上昇がみられたことからプログラムの有効性が示唆された。一方、障害種別によって効果の現れ方に違いがみられ、障害に対応したプログラムの作成の必要性が示唆された。また、本プログラムはパッケージ化されたものであるため影響要因の特定は定かではないことから、今後プログラム内容の精選や順序効果の確認などが課題として残された
著者
三浦 正江 上里 一郎
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.49-59, 2003-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
9

本研究の目的は、中学生を対象にストレスマネジメントプログラムを実施し、その効果を検討することであった。プログラムは、心理的ストレスのメカニズムの理解、およびリラクセーション技法の習得から構成された。プログラムの効果判定のために、実施前後にストレス反応、認知的評価、およびコーピングの査定を行った。その結果、おもに以下のことが示唆された。プログラムの実施によって、(a)高いストレス反応が低減する、(b)低いコントロール感は高まり、高い影響性評価は低減する、(c)コーピングをあまり行わなかった生徒のコーピングの頻度が増加する。
著者
宮崎 哲治 中川 彰子 青木 省三
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.57-66, 2014-01-31 (Released:2019-04-06)

妊娠中の強迫性障害に対し、薬物療法は行わず曝露反応妨害法を中心とする行動療法のみで奏効した患者を経験したので、若干の考察を加え報告する。患者は28歳女性。結婚後、トイレを汚したのではないか、自分が歩いた所は汚れてしまったのではないかという強迫観念が生じ、夫や実母に何度も汚くないとの保証を要求するようになった。妊娠後さらに強迫症状は悪化した。妊娠28週でA精神科診療所を初診したが、トイレに行った際には、除菌シートで足やトイレの床を拭き、トイレでの行動を克明にメモし、携帯電話のカメラで自分の行動などを撮影し確認していた。また、汚れやばい菌をまき散らしてしまうという強迫観念のため料理などの家事もできない状態であった。曝露反応妨害法を中心とする行動療法を開始したところ、強迫症状は徐々に改善していった。出産後は家事も育児も本人が行えるようになり、約半年後の受診時にも強迫症状は認めなかった。
著者
西村 勇人
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.257-265, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
11

近年、不登校の治療において機能分析に基づくアセスメントと介入が注目を浴びており、Kearneyらは不登校行動を四つの機能に大別している。本稿で報告する2事例は、不登校行動がもつ機能に注目してアセスメントを行った結果、否定的感情を喚起する学校関連刺激からの回避、社会的・評価的状況からの回避という機能を共通して持っていると想定された。これに対して共通してエクスポージャーやSSTを行い、事例1に対しては認知的介入も行った結果、学校に対する不安感が減少し、再登校が可能になった。同じ機能をもつ2事例の比較を通して、エクスポージャーやSSTの有用性についてや、どのような事例の差異に注目して技法を選択・運用していくかについて、考察を加えた。
著者
渡邊 亮士 岩本 隆茂
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.59-69, 2005-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、抑うつ傾向による随伴性認知の違いに関する知見の検討であった。実験に先立ち、393名の健常の大学生に対し、抑うつ傾向についてスクリーニングを行い、低抑うつ群、高抑うつ群として各24名ずつ選出した。実験では、被験者の行動(ボタン押しの有無)と、その行動を受けて示される結果(ライト点灯の有無)との随伴性について、被験者に評定させる課題が用いられた。おもな結果は以下の通りで、抑うつリアリズム理論や統制の錯覚現象は、非随伴事態で限局的にみられるものであるということが判明した。(1)評定の難易度が高い非随伴事態において、低抑うつ者は高抑うつ者に比べ、随伴性評定が不正確である度合いが有意に大きかった。(2)評定の難易度が低い非随伴事態において、随伴性評定の正確さに、両群の有意差はみられなかった。(3)低抑うつ者は、高抑うつ者と比較して、ベースラインの情報をそれほど重要視していなかった。
著者
首藤 祐介 山本 竜也 坂井 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.137-147, 2015-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

行動活性化療法は生活の中で強化される経験を増やす行動を活性化することを目的とした、抑うつのための構造化された短期療法である。本事例においては、大うつ病性障害により休職に至った29歳の男性に対して活動スケジュールと回避行動への介入を中心とした14回のセッションと2回のフォローアップ(1回45分)を実施した。その結果、活動が増加するとともに、Self-rating Depression Scale(SDS)の得点が65点から37点に減少していた。1年後もSDSの得点が37点であり、長期間効果が維持されることが明らかになった。このことから、行動活性化療法は回避行動や反すう、生活習慣の乱れによって抑うつ状態にあるクライアントに効果が期待でき、復職支援にも有効であると考えらえる。
著者
山本 竜也 首藤 祐介 坂井 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.247-256, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
20

本研究では、Reward Probability Index (RPI)日本語版を作成し、その信頼性・妥当性を検討した。研究協力者は、大学生392名(男性199名、女性191名、不明2名、平均年齢=19.61)であった。探索的因子分析の結果、RPI日本語版は、「報酬量」、「環境的抑制」、「報酬獲得スキル」の3因子、原版より1項目を削除した19項目から構成される尺度となった。RPI日本語版の内的一貫性(Cronbach’s α=.86)、および、再検査信頼性(級内相関係数=.88)は十分にあった。仮説検定では、RPI日本語版とBehavioral Activation for Depression Scale–Short FormやEnvironmental Reward Observation Scale、Beck Depression Inventory、Center for Epidemiologic Studies Depression Scaleとの相関係数は、仮説を満たしており、構成概念妥当性が確認された。したがって、RPI日本語版は報酬知覚を測定する尺度として、有用であると考えられた。
著者
田中 善大
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.71-81, 2017-01-31 (Released:2017-10-11)
参考文献数
13

指導的立場の保育士17名を対象にABC観察記録を含む応用行動分析の研修プログラムを実施し、指導的立場の保育士に対する直接の効果と指導を受ける立場の保育士(担当保育士)および対象園児に対する波及的な効果を調べた。参加者に対する効果を検討するために、参加者を対象とした質問紙調査を実施した。担当保育士および対象園児に対する波及効果を検討するために、担当保育士に対する質問紙調査と、対象園児に対する担当保育士の標的行動の記録を用いた分析を行った。その結果、参加者については、研修後に適切行動への言語称賛に関する助言が増加した。担当保育士については、その多くが、標的行動の記録およびABC観察記録を実施し、記録の有効性を高く評価した。対象園児の標的行動については、不適切行動よりも適切行動でより大きな改善が見られた。
著者
伊藤 義徳 金築 優 根建 金男
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.97-108, 2001-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、認知心理学において注目されている自動的処理と統制的処理という概念が、認知行動療法(CBT)に及ぼした影響について展望するとともに、この概念を積極的に取り入れることが、さらなる臨床心理学の発展に寄与する可能性について考察を行った。自動的処理と統制的処理は、人の認知過程において、意識しないままに行えてしまう活動と、子細に注意を払いながら行う活動があるという事実に着目した理論である。感情の喚起により統制的処理が阻害され、相対的に自動的処理が優位になるという相互の関係性があり、特に感情情報に対する処理過程は、感情障害のメカニズムを説明するモデルにおいて重要な役割を担っている。また、処理の二過程理論は認知・社会心理学の幅広い分野で応用されており、臨床領域においても、さまざまな応用が可能であると考える。こうした他分野の知見を積極的に臨床活動に応用してゆくことが、認知臨床心理学の役割であると考える。
著者
相川 裕子 土屋 利紀 原田 一道 高山 巌
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-11, 1996-03-31 (Released:2019-04-06)

通院中の緑内障,高眼圧症患者の心理的,身体的特徴を面接,タイプA行動質問紙法で捉えた。その結果,18人の緑内障患者のタイプA行動の平均得点は22人の健常者の平均得点に比べて有意に高かった。緑内障患者は心理的緊張が強く,身体的にも過緊張状態がみられた。そこで,心身の緊張を緩和させるために,ATを中心とする心理的アプローチを試み,症状がどのように変化したか検討した。ATを習得した患者全員の症状が緩和し,ATの実施によって,眼圧不安定だった緑内障,高眼圧患者8例中6例において,統計的に有意な眼圧下降が認められた。これらの結果から,緑内障患者は,交感神経系が充進状態にあることが推測され,ATを中心とした心理的アプローチが,一部の患者の症状緩和に有効であることが確かめられた。
著者
木村 諭史 市井 雅哉 坂井 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.133-142, 2011-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、質問紙調査法により、外傷体験を有する大学生191名を対象に、外傷体験想起時の対処方略の柔軟性が外傷性ストレス反応に及ぼす影響について検討した。対処方略の柔軟性の定義は加藤(2001b)に従い、"失敗した対処方略の使用を断念すること"(基準G)、"新たな対処方略を使用すること"(基準N)の二つを基準とした。分析対象者を二つの基準に従って分類した結果、G-N群は41名、G-noN群は36名、noG-N群は49名、noG-noN群は65名であった。基準G(2)×基準N(2)の2要因共分散分析を行った結果、基準G×基準Nの交互作用がみられた。単純主効果を検討した結果、新たな対処方略を使用した場合、それまで用いていた対処方略を放棄した者は放棄しなかった者に比べて回避症状得点が有意に高い一方で、新たな対処方略を使用しなかった場合、それまで用いていた対処方略を放棄した者は放棄しなかった者に比べて回避症状得点が有意に低かった。以上のことから、本研究では、対処方略の柔軟i生に富むことが外傷性ストレス反応の悪化につながる可能性が示唆された。
著者
園山 繁樹
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.55-66, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

学校に関連する場面で複数の嫌悪的体験をしたことを契機に登校拒否を示した小学2年生女児1名を対象に、母親を不安拮抗刺激とした段階的再登校法を中心とした介入を行い、その効果を検討した。本児の場合、登校拒否の契機として、友人の転校、不審者との接触、雨中での重い荷物を持っての下校など複数の嫌悪的体験が推測された。具体的な介入としては、母親面接、母親が付き添っての登下校と段階的な授業参加、授業参加記録表の活用、小学校の不登校検討委員会との協議などを行った。その結果、約1年間の介入によって、本児一人での登下校および全授業参加が可能となり、登校拒否行動はみられなくなった。4年間のフォローアップにおいても特別な問題はなく、病欠も含め欠席は1日もなかった。複数の嫌悪的体験が契機となった登校拒否について、持続的な不安反応に留意した段階的な再登校支援の必要性が示唆された。
著者
高橋 稔 武藤 崇 多田 昌代 杉山 雅彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.35-46, 2002-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究では、Hayes, Bissett et al。(1999)と同様に、コールド・プレッサー課題の耐性時間の増大に必要なrationale(講義とエクササイズ)の条件について検討することを目的とした。被験者28名を無作為に3群に分け、異なるrationaleを実施し、その効果を比較検討した。その群とは、1)A-A群(Acceptance and Commitment Therapy(以下、 ACTとする)の講義とacceptanceに関するエクササイズ)、2)A-F群(ACTの講義と思考抑制の逆効果に関するエクササイズ(FEARエクササイズ))、3)プラシボ群であった。その結果、ポストテストにおいてA-A群、A-F群ではACTに関する理解度が有意に増加した。また、コールド・プレッサー課題の耐久時間はA-A群のみが有意に増加した。これより、コールド・プレッサー課題の耐性時間を増大するためには、ACTに関する知識だけではなく、acceptanceに関するエクササイズが必要であることが示唆された。最後に、本研究の手続きに関する応用可能性と今後の課題が議論された。