著者
笹川 智子 金井 嘉宏 陳 峻斐 嶋田 洋徳 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.285-295, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、児童期の行動抑制(behavioralinhibition:BI)傾向を測定するRetrospectiveSelf-ReportofInhibition(RSRI;Reznicketal.,1992)の日本語版を作成し、標準化することであった。都市部近郊に住む546名の大学生と38名の社会不安障害患者を対象に、自己記入式の質問紙調査を実施した。探索的因子分析の結果、原版と同様の2因子構造(「対人場面における行動抑制」と「非対人場面における行動抑制」)が確認された。また、内的整合性(α=.84)や再テスト信頼性(r=.87)の値も十分に高いことが示された。不安障害やうつ病の既往歴をもつと回答した調査対象者では有意に高いRSRI得点が報告され、児童期の行動抑制の自己評定と親評定は、中程度の相関関係にあった。このことから、RSRI日本語版は十分な信頼性と妥当性を有することが明らかにされた。
著者
藤原 慎太郎
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.293-303, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
12
被引用文献数
2

本研究では、自動車ディーラーで働いていた吃音症状がある男性に対してアクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)を実施した効果について検討した。実施した介入は、吃音の回数を減らすことを目標とするのではなく、ACTの構成要素である価値に沿った行動活性化を中心に生活の質(QOL)を改善することを目標とした。対象者のQOLの評価のため、対象者が好んでいた余暇活動など対象者の価値に基づいた行動が生起した回数を記録した。結果的に、介入前はほとんど見られなかった余暇活動が増加し、また直接の介入対象ではなかったものの主観的な吃音の回数も減少し、これらの効果は3カ月後のフォローアップまで維持されていた。本研究では吃音者のQOL改善にACTが有用で、また介入の直接の目標ではないが吃音の減少に役立つ可能性が示された。
著者
野中 俊介 境 泉洋
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.179-191, 2015-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、物質乱用者やひきこもり状態にある人のconcerned significant others(CSO)を対象としたCommunity Reinforcement and Family Training(CRAFT)による効果をメタ分析によって検討することであった。物質乱用者のCSOを対象とした8本の効果研究および、ひきこもり状態にある人のCSOを対象とした2本の効果研究を用いて、CRAFTによる効果を検討した結果、受療に至った割合は物質乱用ケースで64.9%、ひきこもりケースでは30.8%であった。ただし、ひきこもりケースでは、社会参加に至ったケースを含めた割合は61.5%であった。さらに、CSOの心理的機能の改善、関係性の改善のいずれにおいても、物質乱用ケース、ひきこもりケースともに一定の有効性が示された。これらの結果を踏まえ、CRAFTによる効果と今後の研究に関する課題について考察が加えられた。
著者
金井 嘉宏 笹川 智子 陳 峻雲 嶋田 洋徳 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.97-110, 2007-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、他者のあいまいな行動に対する解釈バイアスの観点から社会不安障害と対人恐怖症を比較することであった。実験参加者を抽出するために、592名の大学生が他者からの否定的評価に対する社会的不安測定尺度(FNE)と対人恐怖症尺度(TKS)に回答することを求められた。カットオフ得点を満たした大学生40名が解釈バイアスについて調べるためのスピーチ課題を行った。FNE得点とTKS得点が高い群は14名、 FNE得点は高いがTKS得点が低い群は7名、 FNE得点は低いがTKS得点が高い群は3名、FNE得点とTKS得点が低い群は13名であった。スピーチ課題中、聞き手は予備調査によって抽出されたあいまいな行動を行った。その結果、社会不安障害傾向と対人恐怖症傾向がともに高い者は低い者に比べて、あいまいな行動を否定的に解釈していたが、社会不安障害と対人恐怖症に違いはみられなかった。
著者
道城 裕貴 原 説子 山本 千秋 田中 善大 江口 博美 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.175-186, 2008-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
3

本研究の目的は、(1)発達障害児に模擬授業場面において個別およびグループトレーニングを行い、小学校で必要な行動を身につけさせること、(2)母親へのチェックリストにより教室場面での般化を確認することであった。対象児は、広汎性発達障害と診断された就学前の6歳2か月の女子1名であった。トレーナーおよびアシスタントは大学院生であった。模擬授業場面は、大学内に設置した小学校の教室場面と類似した環境であった。標的行動は、予備観察から「手を挙げて発表する」などの34の授業準備行動を選択した。個別トレーニングは1対1、グループトレーニングは1対2以上で行い、(1)個別トレーニング、(2)グループトレーニングという順で導入した。トレーニングでは、課題分析、モデリングやプロンプトなどの行動的技法を用いた。フォローアップでは、参加児が就学後に母親のチェックリストの記入により教室内における般化を検討した。結果として、大学の模擬授業場面において、発達障害児はさまざまな授業準備行動を身につけ、教室場面においても般化を確認することができた。
著者
佐藤 寛 高橋 史 松尾 雅 境泉 洋 嶋田 洋徳 陳峻 〓 貝谷 久宣 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.15-30, 2006-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究では、問題解決能力を測定する尺度であるSocial Problem-Solving Inventory-Revised(SPSI-R)日本語版を作成し、信頼性と妥当性の検討を行った。一般対象者(大学生863名、平均年齢20.6±2.8歳:成人210名、平均年齢43.4±14.1歳)のデータについて確認的因子分析を行った結果、SPSI-R日本語版は原版と同様に「ポジティブな問題志向」「ネガティブな問題志向」「合理的問題解決」「衝動的/不注意型問題解決」「回避型問題解決」の5因子構造であることが示された。また、SPSI-R日本語版には十分な内的整合性と併存的妥当性、および中程度の再検査安定性が認められた。さらに、臨床対象者(46名、平均年齢35.1±9.4歳)は一般対象者に比べてポジティブな問題志向が低く、ネガティブな問題志向が高く、全般的な問題解決能力が低い傾向にあることが示唆された。
著者
土井 理美 横光 健吾 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.45-55, 2014-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
4

本研究の目的は、Acceptance and Commitment Therapy(Hayes et al.,1999)の文脈で用いられる「価値」の概念を多面的に測定することが可能であるPersonal Values Questionnaire II(PVQ-II;Blackledge et al.,2010)の因子構造、内的整合性、妥当性を検討し、PVQ-IIがより活用されるよう精緻化を行うことであった。大学生、大学院生、一般成人388名を対象に項目分析、探索的因子分析を実施した結果、1項目が削除され、PVQ-IIは8項目3因子構造であることが示された。また内的整合性、妥当性ともに十分な値が示された。そして、413名を対象に確認的因子分析を実施した。その結果、第1因子と第3因子の相関を仮定した3因子構造モデルの適合度は十分な値を示していた。その結果、PVQ-IIの標準化に関するデータを追加し、わが国でもPVQ-IIの利用が可能であることが明らかとなった。今後は、PVQ-IIをわが国においても普及させていくために、わが国におけるPVQ-IIの特異性を明らかにしていく必要がある。
著者
若林 上総 加藤 哲文
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.71-82, 2012-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
3

本研究では発達障害のある高校生、および学級に在籍するその他の生徒によるグループ学習場面に介入し、課題達成行動の生起に対する非依存型、および相互依存型集団随伴性が与える影響、ならびに集団随伴性が仲間間の相互交渉へ与える影響について検討した。また、介入前後には介入実行者である教師の介入受容性(treatmentacceptability)を測定し、その変化も検証した。結果として、非依存型、および相互依存型集団随伴性の適用は、発達障害のある高校生を含めた学級全体の課題達成行動の生起に影響を与え、教師も高い介入受容性を示すことが明らかとなった。一方で、発達障害のある生徒とその仲間間の相互交渉に与えた影響は明らかにされず、ネガティブな副次的作用としてサボタージュ行動が生じることも明らかとなった。以上のことから、有効かつポジティブな副次的作用を発現する集団随伴性に必要な手続き上の課題を議論した。
著者
前田 基成 坂野 雄二 東條 光彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.158-170, 1987-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は,治療セッショソをおって継時的に評定されたセルフ・エフィカシーの変動と,視線恐怖反応の消去にともなう行動変容との関係を明らかにし,知覚されたセルフ・エフィカシーが行動変容の先行要因としてどのように機能しているかを明らかにすることである。学校場面において,極度の視線恐怖反応を示す14歳の少年に対し,系統的脱感作法を適用した。約10ヵ月にわたる治療的介入は,主観的・認知的(SUD,セルフ・エフィカシー),心理生理的(心拍数),行動的(日常生活における恐怖をともなわない行動遂行,行動の自己評定)測度のいずれにおいても顕著な改善をもたらした。各治療セッショソ後に実施された次セッショソまでの1週間を見通したセルフ・エフィカシーの評定と,1週間後に確認された行動変容の関係を詳細に分析したところ,セルフ・エフィカシーの変動が恐怖反応の消去と密接に関係していることが明らかにされた。すなわち,クライエソトがセルフ・エフィカシーを強く認知すればするほど,視線恐怖時の不安反応は弱くなることが観察された。同時に,その逆の現象も認められた。その結果,知覚されたセルフ・エフィカシーが,行動変容の先行要因として機能していることが示唆された。
著者
菊田 和代 三田村 仰 武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.331-343, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
10

本事例では、うつ病と診断され、社会人になってから30年間にわたって抑うつ感や不安感を抱えてきた男性に、臨床心理士がアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を行った。男性は特に出勤のしづらさを訴え、認知行動療法(CBT)を受けることを希望していた。男性の不安・抑うつ症状は軽度残存しており、自分の能力に関する思考や不安を一時的に回避するための行動が日常的に用いられていた。男性は、自身の業務上のパフォーマンスや他者評価をさほど偏りなく認識していたが、それらの認識は男性の行動に影響を与えておらず、活動内容が固定されていた。セラピストはACTの初心者であり、本事例の中でクライエントとともにACTの実際をさらに学ぶことができたので、それを報告し考察する。
著者
石川 信一 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.125-136, 2004-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本論文の目的は、児童期の不安障害のレビューを行い、児童における不安障害に対する認知行動療法の効果について検討を行うことであった。第1に、児童期の不安障害は、全般性不安障害/過剰不安障害、社会恐怖、分離不安障害、パニック障害、特定の恐怖症、強迫性障害の6つに分類されることが示された。第2に、児童期の不安障害の有病率は10%弱であること、不安障害の各症状は併発率が高いことが示された。第3に、不安症状をもつ児童は学校や他の社会的状況において不適応を示すこと、不安障害を示す成人の多くは児童期から不安症状をもつことがわかった。不安障害の児童に対する認知行動療法の展望の結果、個別介入、集団介入、早期介入、両親を含めた介入の効果が無作為化比較試験によって証明された。最後に、本邦において、効果的な治療法を構築するために、不安障害の児童に対する治療法の研究が必要であることが指摘された。
著者
谷 晋二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.147-158, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
12
被引用文献数
3

本研究はACTに基づく心理教育を先延ばし行動を持つ大学生に対して実施した症例報告である。成果の検討のために、先延ばししている課題の遂行状況の自己記録、GPS、AAQ-II、FFMQが用いられた。ACTの心理教育は、先延ばし行動の機能の分析と体験の回避についての学習、体験の回避を促進している言語的な関係からの脱フュージョン、体験の回避に変わる代替行動としてのマインドフルネス・エクササイズの実施、価値の明確化と価値に基づく行動の実施という四つのステップで提供された。学習会修了後、先延ばししていた課題が継続して遂行され、GPSの得点(pre: 55, post: 39, −6 points)、AAQ-II(pre: 29, post: 24, −5 points)、FFMQの得点の変化(pre: 127, post: 156, +27 points)が見られた。これらの結果について関係フレーム理論から分析を行い、先延ばし行動を持つ大学生へのACTの適用が有効であることが考えられた。初年次教育やキャリア教育への適用の可能性について議論を行った。
著者
増田 智美 長江 信和 根建 金男
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.123-135, 2002-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、大学生の怒りに対する認知行動療法(CBT)、すなわちISST(inductive social skills training)の効果と同時に、個人差である怒りの表出傾向が介入効果に相違をもたらすかどうかを検討した。被験者は、怒りの特性が高く、かつ怒りの表出傾向の高い者(AO高者)と怒りの抑制傾向の高い者(AI高者)の計42名であった。 AO高者とAI高者それぞれを、 CBT群と統制(Ctrl)群に割り当て、2つのCBT群には、怒りの行動的反応を標的とするCBTを4週間実施した。その結果、 Ctrl群と比較して、CBT群では、介入直後の怒りの特性だけでなく、敵意や不安においても有意な低減がみられ、その効果は3か月後のフォローアップ時でも維持されていた。また、表出傾向別にみると、怒りの表出傾向が高い被験者のほうが低い被験者よりも効果が著しかった。怒りを表出する傾向の高い被験者には、行動的反応を標的としたCBTが有効であることが判明した。 CBTを施す際に、怒りの表出傾向まで考慮することの意義が示唆された。
著者
石川 信一 美和 健太郎 笹川 智子 佐藤 寛 岡安 孝弘 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.17-31, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、日本語版Social Phobia and Anxiety Inventory for Children(SPAI-C;Beidel et al.,1995)を開発することであった。本研究の対象者は小学生859名(男子434名、女子425名)であった。因子分析の結果、SPAI-Cは「対人交流場面」「パフォーマンス」「身体症状」の3因子構造であることがわかった。再検査信頼性、およびCronbachのα係数から、本尺度は十分な信頼i生をもつことがわかった。妥当性分析の結果、本尺度はスペンス児童用不安尺度(Spence,1997)と日本語版State-TraitAnxietyInventoryforChildren(曽我,1983)と中程度の正の相関関係にあることがわかった。多変量分散分析の結果、女子が男子よりも社会不安の症状を多く報告することが明らかにされた。最後に、日本の児童の社会不安症状の特徴とSPAI-Cの有用性について議論がなされた。
著者
三原 博光
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.133-143, 2003-09-30 (Released:2019-04-06)

本論文の目的は、高齢者に行動変容アプローチを適用し、その方法の効果を検証することにある。そこで、在宅で生活する高齢者の被害妄想的表現が問題行動として取り上げられ、治療介入が行われた。その結果、8か月間、治療介入が実地された。面接場面においては一時的に被害妄想的表現が減少したが、治療介入の効果が維持されず、被害妄想的表現が再び増加した。高齢でしかも痴呆性が伴う高齢者の場合、行動変容アプローチの適用も困難になることが本ケースを通して示された。
著者
Keiko OTAKE Satoshi SHIMAI
出版者
Japanese Association for Behavioral and Cognitive Therapies( JABCT )
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.25-36, 2003-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、中学生を対象に喫煙獲得ステージに基づいた予防的介入研究、すなわち、中学生が喫煙行動を獲得する前に防止するための働きかけを行い、6か月後の追跡調査からその介入効果について検討することであった。対象者は、合計288名(男子131名、女子157名)の中学生であり、質問内容は、現在の喫煙ステージ、喫煙に関する知識とスキルであった。本喫煙防止教育プログラムでは、4つの喫煙獲得ステージ(喫煙無関心期、喫煙関心期、喫煙準備期、喫煙実行期)の特徴を生かして喫煙獲得ステージごとに行動目標を設定し、独自に開発したリーフレットと携帯用カードを用いて教育を行った。その際、対象者の知識を高めるだけではなく、ロールプレイを通して行動的、認知的スキルを高めることをめざした。介入から6か月後の追跡調査の結果から、ベースライン調査時期に比べて喫煙無関心期の人数が有意に増加し、一方、喫煙関心期と喫煙実行期の人数が減少していることが明らかにされた。また、喫煙に関する知識やスキル得点が介入後に増加していることが示された。これらの結果から、本研究で行った喫煙獲得行動におけるステージに基づいた介入研究は、中学生の喫煙行動の進行を防止する教育として非常に効果的であり、特に、喫煙関心期と喫煙実行期の行動変容が顕著にみとめられたと考えられた。
著者
大久保 賢一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.137-146, 2017-05-31 (Released:2017-10-30)
参考文献数
14

本研究においては外出恐怖を示し不登校状態にあった自閉症スペクトラム障害のある高校生を対象として、外出行動の増加と範囲の拡大、そして外出に伴う不安や恐怖の低減を目的とした「現実場面において嫌悪状況に段階的に接近させていく手続き」(段階的プログラム)を適用した。段階的プログラムは、母親の協力を得ながら、ホームワーク形式で実施された。さらに、在籍していた高校の中退に伴い、進路選択に関するガイダンスなども併せて行うことにより再就学を支援した。その結果、標的とした場所への外出が可能となり、外出に伴う不安や恐怖はほぼ消失した。また、その成果はほかの場所へも般化した。再就学した高校への登校行動は2年間維持しており、問題の再発は約3年間にわたってみられなかった。最後に本事例に関する成果と課題について考察を行った。