- 著者
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三村 將
- 出版者
- 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
- 雑誌
- 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
- 巻号頁・発行日
- vol.36, no.3, pp.368-375, 2016-09-30 (Released:2017-10-05)
- 参考文献数
- 24
前頭側頭葉変性症, 特に行動異常型前頭側頭型認知症 behavioral variant frontotemporal dementia (bvFTD) においては, 一般に多彩な人格変化や常同行為, 固執傾向, 情動障害, 行動異常や精神症状を呈する。bvFTD の鑑別にあたっては, 当然ながら他の一次性認知症性疾患や, 他の器質疾患をきちんと除外していく必要があるが, 日常診療においてbvFTD と鑑別を要する頻度が高いのはむしろ精神疾患である。 もともとbvFTD では, 発動性低下と生気感情の喪失が人格変化の前景に立つ場合, うつ病との鑑別が難しいことはよく知られていた。特に, うつ病の類縁疾患のなかで, 遅発緊張病は初老期以降にうつ状態や意欲低下で発症し, その後, 緊張病性興奮や昏迷, さらに著しい拒絶症やステレオタイプ, 対人接触障害を認めるために, bvFTD と誤診されることが多い。また, bvFTD を疑わせる社会的逸脱行動や精神症状が, 実は双極性障害の躁状態に起因していることもあるし, 統合失調症や強迫性障害もしばしば bvFTD と症候学的に鑑別対象となる。 近年, bvFTD との鑑別で注目に値する病態は発達障害圏である。「成人の発達障害」の重要性はすでに共通認識となっているが, ここで問題にするのは「初老期以降の発達障害」である。これらの症例では, 画像上 bvFTD を疑わせる所見はなく, 生活歴でもともと発達障害傾向を有していた人が, 高齢になって, おそらくは加齢による脱抑制が関与して行動異常や固執傾向が顕在化したものと考えられる。一方, 最近は発達障害と bvFTD の遺伝的, 生物学的共通性にも関心がもたれている。