著者
村田 翔太郎 若田 浩志 村川 孝次 今井 奨 庄田 健二 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.28-35, 2019-03-31 (Released:2020-04-03)
参考文献数
15

拡大鏡を使用して音読することで仮名非語音読課題の成績が向上し, 文章一般も読みやすいと実感できた音韻失読 2 例を報告し, 仮名非語音読障害の機序および拡大鏡を使用して音読する介入効果について考察した。通常の音読と拡大鏡を使用した仮名非語音読課題の成績を比較した結果, 2 例ともに拡大鏡を使用して音読することで成績が有意に向上した。この結果が得られた機序として, 拡大鏡を使用して音読することで 1 文字ずつ拾い上げながら読もうとする心的構えが生じ, その効果によって, 2 例に存在する音韻表象の脆弱化, 系列化処理やモニタリング機能の障害をある程度代償し, 仮名非語音読における読み誤りを減らすことができたと考えられた。音韻失読例が拡大鏡を使用して音読することにより, 仮名非語のみではなく膠着語である日本語の文章一般の読み誤りも減らす効果が期待できると考えられた。
著者
唐澤 健太 春原 則子 森田 秋子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.242-249, 2015-06-30 (Released:2016-07-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

仮名一文字や仮名単語の音読は比較的良好だが, 仮名非語の音読に著明な障害を示す音韻失読の 1 例を経験した。単語音読では同音擬似語効果を認め,転置非語において語彙化錯読を多く認めた。音韻操作課題ではすべての検査において成績の低下を認め, 特に単語の逆唱のような音韻操作に負荷がかかる課題で誤りが多くみられた。また, 単純動作を指示された通りに素早く繰り返す課題では, 異なる順序に誤る傾向を認めた。訓練として, 文字を使用しない音韻操作課題と順序情報処理課題を約 3 週間実施した。 その結果, この間音読訓練はまったく実施しなかったにもかかわらず非同音非語の音読が有意に改善し, 音韻操作課題,順序情報処理課題ともに成績が向上した。本例における非語音読の改善は, 音韻操作と順序情報処理のいずれか, あるいは双方へのアプローチによる可能性が大きいと考えられた。
著者
辰巳 寛 佐藤 正之 前島 伸一郎 山本 正彦 波多野 和夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.243-252, 2017-09-30 (Released:2018-10-01)
参考文献数
108

19 世紀フランスの外科医 Paul Broca (1824 ~1880) による Leborgne とLelong の臨床神経病理学的報告は, 今日の「失語症学aphasiology」あるいは「言語の神経心理学 neuropsychology of language」の誕生に大きく貢献した。前頭回の一つ (おそらく第三) , une circonvolution frontale (probablement la troisième) を「構音言語の座 le siège de langage articulé」として推究した Broca は, その領域の部分的損傷により惹起する特異な話し言葉の喪失 perte de la parole をaphémie と名付けた。 Broca の aphémie は, Armand Trousseau (1801 ~1867) によるaphasie/aphasia (失語症) への呼称変更を経て, Carl Wernicke (1848 ~1905) による感覚失語sensorische Aphasie, および伝導失語 Leitungsaphsie の記載, その後の Ludwig Lichtheim (1845 ~1928) の失語図式 Wernicke-Lichtheimʼs AphasieScheme (1884) による古典的失語論の萌芽とともに, 当初 Broca が提唱した言語病理像とは些か様相の異なる「皮質性運動失語 kortikale motorische Aphasie」として位置付けられ, 以後広く認知されるに至った。 Broca の独創的研究から派生した失語学的問題の幾つかは, 現代に至っても決定的解答は得られておらず, 失語症研究の最重要テーマとして存在し続けている。
著者
森田 秋子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.287-291, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
3

多職種連携を進めるために, 高次脳機能障害に関わる専門職は適切な情報を発信する役目を持つ。 情報はしばしば特徴的な個別症状の説明に重きが置かれることが多いが, むしろ「患者は何ができ何ができないか, どこまでわかっているか」につながる総合的な重症度を示す, 全般的認知機能に関する情報の重要性が高い。認知関連行動アセスメント ( Cognitive-related Behavioral Assessment: CBA) (森田ら 2014) は, 行動観察をもとに全般的認知機能を評価する評価表であり, わかりやすい概念や用語を用い, 専門知識のない職種でも評価や議論に参加しやすい利点を持つ。そのため職種を越えた障害像の共有につながり, 多職種連携のツールとなる可能性がある。   コミュニケーションを専門とする言語聴覚士は, 高次脳機能障害のリハビリテーションに, 会話を活用できる可能性がある。会話による自己の行動や思考を言語化する過程が, 患者の自己意識への働きかけとなり, 病識向上などへの効果が期待される。
著者
菊池 大一
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.319-327, 2011

解離性健忘は, 脳の器質的損傷ではなく, 精神的ストレス・外傷を契機として発症し, 自伝的記憶を想起することが持続してできない状態をいい, 心因性あるいは機能性健忘とも呼ばれる。解離性健忘は従来, 精神医学的な視点から論じられてきたが, 近年は神経科学的なアプローチがなされ, とくに機能画像を用いた研究により脳の水準での機能異常が示されるようになってきた。解離性健忘の脳内機序として, 前頭葉の遂行機能システムの活動による内側側頭葉の記憶システムの抑制という説, 自伝的記憶の想起の始動に関わる右半球の前頭-側頭領域の機能的離断という説があり, 最近の研究からはそれぞれを支持する結果がともに得られている。本稿では解離性健忘の神経基盤について, 機能画像研究の結果を中心に最近の神経科学的知見をまとめ, 神経学的な視点から概説し考察する。
著者
渕 雅子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.189-195, 2019-06-30 (Released:2020-07-06)
参考文献数
25

半側空間無視は右半球障害に頻繁にみられる高次脳機能障害の 1 つである。片側空間の物や人に気づかない症状の総称であり, その病態は多岐にわたり, 日常生活への影響も広範で多大である。しかし, その発生機序は十分に解明されているとはいいがたい。半側空間無視の原点として報告されてきた論文を紹介しながら, 半側空間無視とは何かを概観し, そのリハビリテーションについては, これまで報告されてきた内容を原点と変遷とに整理して紹介する。さらに, 半側空間無視のリハビリテーションのトピックについては, 脳卒中治療ガイドライン 2015 から引用し概要を紹介するとともに, その中でも成果が熱心に報告されているプリズム順応, 反復経頭蓋磁気刺激の紹介と, ミラーセラピーの治療経験についての私見を紹介する。
著者
山下 円香 田原 旭 武内 康浩 片倉 律子 種村 留美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.363-371, 2014-09-30 (Released:2015-10-01)
参考文献数
20

左角回の陳旧性梗塞に加え新たに生じた右中心後回から上頭頂小葉の一部に及ぶ梗塞により失計算を呈した 1 症例を報告した。患者は当初 Gerstmann 症候群を呈したが, 構成失書と失計算以外の症状は早期に消褪した。Calculation process は発症後1 ヵ月, arithmetical fact の再生は 4 ヵ月までに回復したが, transcoding の障害のうちsyntactic error としての「0」の位どりの障害は 22 ヵ月後も残存した。構成失書は発症後 4 ヵ月までに大幅に回復した。本例の失計算の病態とその回復過程を working memory のサブシステムの観点から検討し, 右中心後回の損傷に関連したvisuo-spatial sketch pad の機能低下による心内表象の形成・操作障害, および, 同損傷による対側の機能解離 (diaschisis) と陳旧性の左角回損傷に関連した一過性の phonological loop の機能低下による音韻処理障害や言語性短期記憶障害が失計算をもたらしたものと考察した。
著者
吉村 政樹 内山 良則 岩井 謙育
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.320-327, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
19

脳器質性病変によって生じた盲視野内幻視症例は, 開眼時に幻視を見ることが多い。われわれは髄膜腫術後に閉眼時にのみ幻視を見た 2 例を経験したので報告する。   症例 1 : 64 歳女性, 5 年前から特定の頭位によって生じる複視を自覚していた。左側頭頭頂部円蓋部髄膜腫を摘出してから, さまざまな有形性幻視が閉眼時にのみ見えるようになった。症状は術後 3 日間のみで消失した。複視は術後消失した。術後 MRI で脳損傷を認めず, 術 1 ヵ月後の 99mTc-ECD SPECT では腫瘍摘出部に血流低下のみ認めた。症例 2 : 66 歳女性, 無症候性の右頭頂部傍矢状洞部髄膜腫に対する摘出術が行われ, 術後から辺縁部分が点滅し内部が緑色のL 字のような形状の物体が閉眼時に無数に見えるようになり, 徐々に黒く, 丸くなって術 4 日目に消失した。術後 MRI で脳損傷なく, 術後 9 日目の 123I-IMP SPECT では両側楔部に血流増加を認めた。2 症例ともに意識清明で視野欠損はなく, せん妄や痙攣発作も認めず, 神経心理学的所見に異常を認めなかった。   幻視の発生機序に関して, 文献上脳血流変化が関与していることが示唆されている。腫瘍摘出後には時にぜいたく灌流が生じるため, これがいずれかの視覚関連領域に生じた場合に幻視が出現する可能性がある。盲視野内幻視と異なり, 閉眼時に幻視として現れる機序としては, 閉眼による外的刺激入力の遮断が関与している可能性がある。
著者
松田 実
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.139-147, 2007 (Released:2008-07-01)
参考文献数
22
被引用文献数
5 4

純粋語唖10 症例の病巣検討,および前方病巣をもつその他の失語症例の症状と病巣との対応から,失構音の責任病巣は中心前回のなかでも上下方向では中部から下部にかけて,前後方向では中心前回の後方部であると推測された。島やBroca 領域は失構音とは無関係であった。Broca 領域損傷の言語症状は軽症ではあるが,病初期には全例が無言あるいは寡黙になることが重要な所見である。超皮質性運動失語では文の構成障害や自由発話での語や呼び出し·選択の障害があり,こうした障害はBroca 失語においても認められる。したがって,非流暢性発話の要因を失構音や発話衝動の低下のみに求めるのは単純化のしすぎであり,重要な病態機序を見逃す原因になることを指摘した。
著者
山口 修平 小野田 慶一
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.9-16, 2014-03-31 (Released:2015-04-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

安静時機能的MRI (rs-fMRI) は脳全体の機能的結合性を簡便かつ鋭敏に解析できる方法として注目されている。被験者の負担が低く,短時間で測定が可能であり,認知症を始めとする精神神経障害を有する患者での測定に適している。安静時に最も強い機能的結合を示す神経ネットワークにデフォルトモードネットワーク(DMN) がある。DMN に含まれる部位はアルツハイマー型認知症でアミロイド沈着が出現する部位に一致し,認知機能障害の出現する前の段階からその結合性が低下することが明らかとなっており,早期診断に利用が可能である。また前頭側頭型認知症など他の認知症疾患の鑑別にも有用である。最近,グラフ理論を用いたネットワーク解析も有用性が明らかとなっている。今後,解析法の標準化,簡便化を行うことで rs-fMRI の臨床応用が進展し,認知症の早期診断に貢献することが期待される。
著者
二村 美也子 古場 伊津子 前澤 聡 藤井 正純 若林 俊彦
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.356-362, 2015-09-30 (Released:2017-01-03)
参考文献数
17
被引用文献数
1

【はじめに】多言語話者で言語共通領域と特異領域の存在が知られているが, その関係について見解は一定ではない。【症例】再発左前頭葉腫瘍を有する48 歳男性。母語はポルトガル語で第二言語は日本語。成人以降日本に移住・日本語獲得し, 以後日本語を主に使用。覚醒下開頭腫瘍摘出術を施行。術中マッピングでは左下前頭回三角部で, 両言語で喚語困難を呈した (共通領域) 。また左中前頭回では, ポルトガル語のみ喚語困難や音の歪みがみられた (母語特異領域) 。【考察, 結論】本症例の特記すべき所見は, 共通領域と特異領域両者を認め, かつ中前頭回に母語特異領域を認め, 第二言語より母語で機能野の広がりが大きい点である。多言語話者の言語領域については, 母語・獲得時期・習熟度の他に, 環境下の使用頻度についてもその構成に影響を与える可能性があり, 多様と考えられる。機能温存目的のマッピングの際は, 各々の言語で評価する必要がある。
著者
大賀 優 須田 真紀 坂居 隆
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.399-407, 2009-12-31 (Released:2011-01-05)
参考文献数
23

近年Mariën ら (2004) は脳血管障害に起因する成人右利き交叉性失語において通常失語と異なるいくつかの特徴が存在することを主張している。本研究では,彼らの基準である (1) 右利き,(2) 病変が右大脳半球に限局,(3) 小児期の脳損傷なし,(4) 左利きの家族歴なし,(5) 十分な言語検査の遂行評価あり,を満たす当施設6 症例に対し,疾患・年齢・性別・失語型・解剖学的相関 (鏡像型/異常型)・重症度・音声─書字言語乖離・機能予後・言語以外の認知障害の有無,を調査分析した。その結果,(1) 非流暢な失語が多いわけではない,(2) 通常失語でいわれる臨床型─年齢との相関は明らかでない,(3) 機能予後は必ずしも良好ではない,(4) 随伴症状として左半側無視が多い,等の点は彼らの主張する特徴と一致する反面,(5) 男性が圧倒的に多いわけではなく,(6) 発語失行が少ない,等異なる点もみられた。彼らの主張の妥当性に関しては,その分析手法も含め今後さらなる症例の蓄積検討が待たれる。
著者
李 多晛 澤田 陽一 中村 光 徳地 亮 藤本 憲正
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.421-427, 2013

普通名詞,固有名詞,動詞の3 種の言語流暢性課題を若年群と高齢群に実施し,品詞と加齢の影響を調べた。対象は健常の若年者(18 歳~ 23 歳)と高齢者(65 歳~ 79 歳),それぞれ35 名である。被検者には,60 秒間に以下の範疇に属する単語をできるだけ多く表出するよう求めた。(1)普通名詞:「動物」「野菜」,(2)固有名詞:「会社の名前」「有名人の名前」,(3)動詞:「人がすること」。その結果,高齢群は若年群に比べて,正反応数が有意に少なく,誤反応数が有意に多かった。動詞は普通名詞に比べて,正反応数が有意に少なかった。また,普通名詞,固有名詞に比べ動詞では,加齢による正反応数の減少と誤反応数の増加が有意であった。動詞において加齢による成績低下が強くみられたのは,高齢者における遂行機能の低下を反映したものだと考えた。
著者
小森 憲治郎 豊田 泰孝 清水 秀明 森 崇明
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.311-318, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
14
被引用文献数
1

意味性認知症 (semantic dementia: SD) の 54 歳男性の 10 年に及ぶ外来通院時の観察について報告した。初診時, 進行する言語理解障害により業務に支障をきたすようになったという病識を伴い単独で受診した。退職後は農業と言語訓練の自習課題に対する固執性が強まり, 実りの悪い野菜を大量に作る, コピー用紙備蓄のため会社のコピー機を独占するなど行動化が顕著となった。発話は次第に抑揚が乏しくなり, 通院時に行う月間報告などの決まりごと以外の自発話は著しく減少した。5 年目に視空間認知機能はよく保たれていたが, 日常物品を正しく認識し, 適切に使用することが困難となった。7 年目にはどの質問に対しても「分からない」という反応に終始するようになり, 心理検査が実施できなくなった。発話面ではプロソディー障害, 発語失行など非流暢性失語の要素が現れ, 語間代から「と, と, と, と」という同語反復の出現を経て 11 年目には無言状態となった。自習課題を通した読み書きの習慣と特有の報告スタイルは, 口頭言語能力の低下を越えて, 外来通院の期間中概ね維持・継続された。これらの習慣は通所介護サービス利用時や在宅での活動維持の一助となった可能性がある。SD の特性を理解したケアが求められる。
著者
山岸 敬
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.11-19, 2008-03-31 (Released:2009-04-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

ミトコンドリア脳筋症後に重度のブローカ失語・発語失行を呈した中学生に対し,全体構造法の考え方を参考に言語訓練を施行した。本例は構音・喚語不能から日常会話可能へと,約2 年以上に亘り持続的・飛躍的な改善を示し,本疾患・若年の失語症例に対する長期アプローチの必要性が示唆された。またその改善過程から,喚語機能形成,発語失行の構音再構築,日常会話への般化について全体構造法の主張をふまえ考察した。
著者
橋本 竜作 岩田 みちる 下條 暁司 柳生 一自 室橋 春光
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.432-439, 2016-09-30 (Released:2017-10-05)
参考文献数
30

症例は 11 歳 5ヵ月の女児。主訴は漢字の学習障害であった。本例は口頭および文字言語の習得を阻害する要因 (知的発達障害や感覚障害) はなかった。検査の結果, 音読速度は遅く, 漢字の書字困難を示した。さらに絵の叙述において困難が認められた。新しく作成した構文検査を本例に行い, 生活年齢対照群および語い年齢対照群の成績と比較した。結果, 本例は格助詞の使用に特異的な困難を示し, その他の群で困難は認められなかった。誤答から, 本例は動作主が明確な能動文では, 動作主に「ガ格」を付与し, 動作主が理解しづらい使役文や受動文では基本語順文の格配列順序 (ガ格-ニ格-ヲ格) に従って格助詞を付与していた可能性が示唆された。本例を通じて, 学習障害の背景として口頭言語の障害の存在を検討する視点の必要性と, そのための検査を提案した。
著者
横張 琴子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.314-320, 2017-09-30 (Released:2018-10-01)
参考文献数
8

脳卒中後の重い障害を残したまま訓練終了となり, その後適切な支援を得られず, 重篤な失意や抑うつ状態の生活を余儀なくされている慢性期重度失語症者とそのご家族は今なお少なくない。そうした方々への支援を目的として, グループ訓練, 自主グループ, 友の会, 作品展などを開催し, 家族を含む仲間づくり, 家庭学習, コミュニケーション活動, 書・画制作などの指導と支援を継続してきた。その中で殆ど全ての失語症者に言語を含む各種機能の改善と, 家族ともどもの心理や生活の著明な活性化が認められた。本稿では, 実施した主な支援の内容と方法, およびこれらの支援を 10 ~20 年継続した 3 症例についての経過を報告し, さらに参加家族らの手記を通し, 「回復困難」とされることの多い慢性期重度失語症者らに内蔵されている大きな再生力の存在と, それをみつけ育てる適切な長期支援の有用性を述べた。
著者
大石 如香 今村 徹 丸田 忠雄 鈴木 匡子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.476-483, 2016-12-31 (Released:2018-01-05)
参考文献数
23

左被殻出血後に慢性期まで記号素性錯語を呈した流暢性失語例において, 記号素性錯語の特徴について検討した。症例は 64 歳右利き女性で, 意識障害はなく, 非言語的な認知機能は保たれていた。自発話や呼称において豊富な錯語を示し, 特に呼称における記号素性錯語が特徴的だった。記号素性錯語は発症 1 年後にも認められ, 保続型と非保続型に分類できた。保続型はすでに表出された記号素やその意味的関連語を含む記号素性錯語で, 目標語を含まないものが多かった。一方, 非保続型は目標語や目標語の意味的関連語を含む記号素性錯語が多かった。経時的には保続型記号素性錯語が徐々に減少していく傾向があった。本例にみられた記号素性錯語は, 意味や運動など種々のレベルでの保続や, 目標語に関連して活性化された語の抑制障害など多様な機序により生じていることが示唆された。記号素性錯語の出現には左基底核損傷が関与している可能性があると考えられた。
著者
矢野 啓明 高橋 伸佳 斯波 純子 旭 俊臣
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.312-319, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
9

FAST (Functional Assessment Staging) 6 および 7 に相当する重度認知症患者を対象とした, 新たな簡易心理評価スケール (Psychological Assessment Scale by Facial Expression for DementedPeople-Interview version : PAFED-I) を作成し, その信頼性と妥当性について検討した。PAFED─I は, 視線の変化に関する 18 項目 (視線得点) と表情の変化に関する 12 項目 (表情得点) から成り, 検者が個別に面接を行い, 各項目を評価した。FAST 6 の患者群では, 視線得点, 表情得点ともに高い内的整合性と評定者間一致率を示し, 信頼性は十分と考えられた。また, 標準意欲評価法 (CAS) との有意な相関がみられた。FAST 7 の患者群では, 視線得点で十分な信頼性と CAS との有意な相関がみられた。PAFED-I は, 重度認知症患者の意欲・自発性を評価する簡易スケールとして有用と考えられた。
著者
原田 浩美 能登谷 晶子 四十住 縁
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.408-415, 2006 (Released:2008-01-04)
参考文献数
7
被引用文献数
1

重度運動性失語症を呈した若年発症例に言語訓練を実施し,発症から 11 年 10 ヵ月の経過を追跡することができた。発症 41 日目からの訓練内容および経過を示し,標準失語症検査 (以下 SLTA) 成績によって言語機能成績の推移を評価した。その結果,発症 5 年を過ぎた時点でも訓練効果が認められることがわかった。また,SLTA 成績の経過から,回復は長期にわたることと言語機能により回復の推移と時期が異なることが示された。そのことから,失語症の訓練効果は発症後短期間にのみ見られるものではなく,失語症に対する長期的なアプローチが重要であることが示唆された。