著者
船山 道隆 前田 貴記 三村 將 加藤 元一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.40-48, 2009-03-31 (Released:2010-06-02)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

両側前頭葉損傷後,強制的に人物とりわけ人の眼を中心に凝視ないしは注視 (forced gazing) を続ける2 症例を報告した。この2 例では,人が視界に入れば必ず凝視ないしは注視が誘発され,人が視界から消えるまで持続した。すなわち,この行動は,外部環境刺激に対して戸惑うことなく駆動され継続した。  forced gazing は,能動性がほとんどみられない患者に出現する,外部の環境刺激に対して視線が自動的に反応する被影響性が亢進した現象と考えられ,また前頭葉の損傷による抑制障害のため頭頂葉の機能が解放された結果,これらの行為/行動が出現したと考えた。本2 症例は前頭眼野を含む広範な両側前頭葉損傷であった。本2 症例に随伴した把握現象や道具の強迫的使用から両側前頭葉内側面損傷がforced gazing の責任病巣の中で最も重要と考えられ,前頭眼野も責任病巣の1 つと考えられた。
著者
大石 如香 丹治 和世 斎藤 尚宏 鈴木 匡子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.370-378, 2015-09-30 (Released:2017-01-03)
参考文献数
17

左頭頂葉梗塞によって生じた非流暢な伝導失語例の発話の特徴について検討した。症例は 81 歳右利き男性, 発話障害と右手指脱力で発症した。接近行為を伴った頻発する音韻性錯語や重度の復唱障害といった伝導失語でみられる特徴的な症状を認めた一方で, 発話速度の低下やプロソディ異常といった伝導失語では通常認められない非流暢性発話を呈した。発話に現れる音の誤り方について分析を行ったところ, 課題によらず音の歪みがみられること, 音韻性錯語の出現率に呼称と復唱で差がないこと, 子音の誤りは置換が多く, 転置が少ないことが明らかとなり, 中心前回損傷でみられる発話特徴に近似していた。病巣は左縁上回から中心後回の皮質下に及んでおり, 中心後回と中心前回は密な機能連合があることから, 中心後回の皮質下の損傷が本例の非流暢な発話に関連していることが示唆された。
著者
西条 寿夫 小野 武年
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.281-288, 2014-09-30 (Released:2015-10-01)
参考文献数
20

霊長類を含めて脊椎動物は, 特定の視覚性物体 (天敵, 被捕食動物, 食物), 音 (鳴声), フェロモンなど, 生存に重要な特定刺激を, これまで一回も経験したことが無くても, 生後直後から学習無しに認知できる。これは, これら刺激の認知に関与する神経系が, 本能的認知機構として遺伝的に符号化されているからである。霊長類では, 網膜→上丘→視床枕→扁桃体 (あるいは連合野等) からなる膝状体外視覚系 (皮質下経路) が, 物体の本能的認知に関与し, サル視床枕や上丘には, 顔様パターンや霊長類の天敵であるヘビに応答するニューロンが存在する。これらニューロンの応答特性から, 膝状体外視覚系は顔や天敵の視覚情報を低解像度で処理して素早く検出することに関与していることが示唆された。以上から, 膝状体外視覚系が, 霊長類の脳の進化や乳児における脳発達に関与している可能性について述べる。
著者
佐藤 正之
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.227-236, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

前頭葉の機能解剖と前頭葉機能障害の自験例を呈示し, 前頭葉機能の測定に用いられる神経心理検査について frontal assessment battery (FAB) を中心に述べた。前頭葉は穹窿部, 眼窩面, 内側面に分けられ, それぞれの部位の障害により特徴的な症状を示す。いわゆる前頭葉機能検査には, Stroop test, 語想起, Trail Making Test, Wisconsin Card Sorting Test (WCST) , FAB などがあり, 脳賦活化実験により各々の検査の施行時に活性化する脳部位が調べられている。FAB は近年臨床場面で頻用されているが, FAB 低得点=前頭葉機能障害では必ずしもないことに注意しなければならない。
著者
三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.26-33, 2009-03-31 (Released:2010-06-02)
参考文献数
11
被引用文献数
5 1

脳損傷,特に前頭葉損傷患者が示す社会的能力の障害には,自分の言動を相手がどう思うかを理解できない「心の理論」(心的推測)の問題と,衝動コントロールの問題とが複合的に関与している。本稿では,衝動コントロールの問題への介入技法について,精神科的観点から整理を試みた。衝動コントロールが悪いと,脱抑制行動や対人関係トラブルが目立ったり,一方で思うようにいかないと激しい怒りの爆発( anger burst )が生じたりする。脱抑制に対しては,種々の向精神薬が奏効することがあるが,薬物療法の効果はまだ十分なエビデンスが得られていない。心理的介入については,精神科領域で広く用いられている認知行動療法は,前頭葉損傷患者が示す anger burst に対してもしばしば有用なアプローチとなる。原則として,患者の機能や気づきのレベルが低いほど行動的アプローチが中心となり,反対に機能や気づきのレベルが高いほど認知的アプローチの導入が可能となる。これらの具体的アプローチについて概説した。衝動の背景には動機を形成する快(報酬)─不快(罰)体験がある。本稿では,前頭葉損傷例に試みた予備的な長期報酬学習訓練について紹介した。衝動コントロール不良な前頭葉損傷患者がいかにして即時的報酬を抑えて,将来的・長期的な報酬を学習・強化できるかが今後の重要な研究ターゲットであろう。
著者
竹田 奈央子 渋谷 静英 塚本 能三 西川 隆 柏木 敏宏
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.304-311, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
20

症例は 83 歳, 右利き男性。視覚失認, 大脳性色覚障害, 失語症, 前向性健忘を呈した。MRI では左側の舌状回・紡錘状回を含む後頭葉から側頭葉内側下部に出血性梗塞, および左視床, 右後頭葉の内側下部に脳梗塞を認めた。一般的に, 視覚対象の認知は実物や写真より線画のほうが難しいと考えられている。しかし, 症例では線画に比べ実物や写真の認知が不良であった。症例の視覚認知機能をさらに検討した結果, 輪郭情報にもとづく対象の認知は比較的保たれていたが, 陰影や奥行きの情報を統合し, 立体感のある対象として認知することが困難であると考えられた。
著者
寺澤 悠理 梅田 聡 斎藤 文恵 加藤 元一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.349-358, 2010-06-30 (Released:2011-07-02)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

島皮質は,我々が感情を経験するために,自身の身体内部から生じる感覚と環境情報を統合する中心的な機能を担う部位として注目されている。本研究では,右島皮質に限局的な損傷を持ち基礎的な認知能力に問題のない症例 A を対象に,表情判断および,表している感情の強さの評価課題を実施した。島皮質が感情処理における身体反応の受容・調整とどのような関係にあるかを調べるために,課題実施中の皮膚コンダクタンス反応 (SCR) を記録した。喜びや中性表情の識別は正確であったが,怒りや嫌悪といったネガティブ表情については識別能力の低下が観察された。さらに,表情が表す感情の強さを低く評価する傾向にあった。一方,顔表情に対する SCR は健常群とほぼ同一であった。本研究の結果は,右島皮質が特殊な感情の認識にとどまらず,主観的に経験する感情の強さを調整し,感情の正確な識別に重要な役割を担っていることを示唆している。
著者
長濱 康弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.250-260, 2011-09-30 (Released:2012-10-13)
参考文献数
33

典型的なアルツハイマー病 (AD) は記憶障害で発症し, その後言語障害, 失行, 構成障害などが加わる経過をたどる。しかし実際は AD の臨床像は一様ではない。病理学的に AD であっても, 記憶以外の認知機能障害 (視空間機能, 言語, 遂行機能) が前景に立つ症候群が存在する。軽度認知障害 (MCI) においても同様で, 記憶障害を主体とする amnestic MCI の他に, 視空間障害や遂行機能障害を主体とする non-amnestic MCI が存在する。ゆえに AD, MCI を診療する時は幅広い認知機能を過不足なく評価する必要がある。     レビー小体型認知症 (DLB) では AD に比べて記憶障害が軽く, 注意・遂行機能障害と視空間障害が目立つ。AD が皮質型認知症であるのに対して, DLB は皮質下型と皮質型の特徴を併せ持つ皮質-皮質下型認知症である。たとえば時計描画のように簡易な検査でも AD と DLB の病態生理学的違いは反映される。AD では時計描画障害は側頭葉皮質機能不全による意味記憶障害に由来するのに対して, DLB では前頭葉-皮質下核回路機能不全による注意・覚醒調節障害や視空間注意障害に由来すると考えられる。このように, 認知症臨床では検査点数だけでなくその質的違いまで意識して患者と接することが重要である。
著者
上田 敬太
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.283-290, 2015-09-30 (Released:2016-10-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

社会認知障害は, 高次脳機能障害の定義の中で, 他の認知障害と並んで中心的な症状とされ, 近年改訂された DSM-5 の neurocognitive disorders の診断基準の中でも同様の扱いを受けている。社会認知障害を含めた認知機能の障害は, それぞれある一定の脳内基盤を持つと考えられ, 外傷性脳損傷でも, 損傷部位の特徴から, 出現する認知機能障害の特徴を理解しうると考えられる。本稿では, 外傷性脳損傷を局所脳損傷とびまん性軸索損傷の 2 型に分類した上で, それぞれの特徴的な脳損傷部位, およびそれを基盤として生じる認知機能障害について紹介した。特にアパシーについては, その定義, 神経基盤を含め詳述した。
著者
大槻 美佳
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.297-303, 2015-09-30 (Released:2016-10-01)
参考文献数
22
被引用文献数
1

進行性非流暢性失語 (PNFA/nfvPPA) 24 例を対象に, 神経学的所見, 神経心理学的所見, 画像所見, および経過を検討した。その結果, 少なくとも 3 群に分類された。(1) 前頭葉性失語型 (古典的失語症分類ではブローカ失語, 超皮質性運動失語に該当する言語症状を呈する群) , (2) 前部弁蓋部症候群型, (3) 純粋失構音型である。(1) は発症 3 ~5 年以内に, bvFTD と同様の精神症状や行動異常を呈した。(2) は発症早期に流涎や口部顔面失行を呈し, 1 ~3 年以内に嚥下障害を呈した。(3) は失構音のみ進行する場合, 失調症状を伴う場合, 発症から 2 ~5 年以内に, パーキンソニズムや中心回症状を呈し, CBS と診断されるに至った場合など, いくつかの亜型分類がさらに可能であった。これらの群は, 画像診断で明らかな所見が得られない時期でも, 初診時の症候学的検討で, 分類することが可能であると考えられた。
著者
田渕 肇
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.183-190, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
15

急性一過性の健忘を呈する患者のなかに, 健忘の原因がてんかん性の機序であるような, 一過性てんかん性健忘 (transient epileptic amnesia: TEA) と呼ばれる一群がいる。TEA の患者は, 典型的には発作時でも記憶以外の認知機能がほぼ保たれる。発作時を除けば, 記憶を含む認知機能検査の成績はあまり低下しない。一方で, TEA 患者には, てんかん発作に起因すると思われる, 発作間欠期に生じる特徴的な健忘症状もしばしば認められる。加速的長期健忘 (accelerated long-term forgetting) などと呼ばれる前向性健忘や, 主に自伝的記憶の障害で現れる遠隔記憶障害 (逆向性健忘) である。てんかん性健忘は認知症と誤診されることもあるが, 抗てんかん薬の治療により軽快する疾患であり, 鑑別は重要である。本稿ではてんかん性健忘と診断された症例を紹介し, 特徴的な健忘症状について述べる。
著者
北村 葉子 今村 徹 笠井 明美 岩橋 麻希
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.510-522, 2010-12-31 (Released:2012-01-05)
参考文献数
26

BPSD の評価として専門職が行う構造化インタビューにはさまざまなものがある。しかし直接観察法では確立されたものはない。妄想,幻覚など個別の BPSD ごとに下位項目を含んだ施設職員用の直接観察式評価法があれば,臨床上の有用性は高いと考えられる。認知症利用者を直接観察するさまざまな職種が BPSD を適切に評価できる手段を確立することを目的として,8 つの主項目と,その下位項目からなる質問紙 BPSD-AS の試案を作成し,信頼性と妥当性を検証した。BPSD-AS は,NPI などの既存の評価法の項目を参考とし,認知症を専門とする行動神経内科医 (behavioral neurologist),PT,OT,ST 各 1 名の意見を元に試案を作成し内容妥当性を確保した。デイサービスセンターを利用した在宅療養中の認知症利用者 31 名を対象に,デイサービスセンターの介護職 5 名,医療福祉職 5 名の 2 群,合計 10 名の評価者で直接観察を行った。検査者間信頼性については多くの項目で重症度,負担度ともに級内相関係数 ri=0.6 から 0.7 であった。妥当性についても多くの項目で有意な相関が得られ,BPSD-AS は一定の信頼性と妥当性を有していることが示された。
著者
七條 文雄
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.342-349, 2014

2010 年の iPad の登場以来, たくさんの App が開発されている。著者は, iPad を利用して, 高次脳機能障害の分野への様々な臨床応用を試みてきた。この論文では, 著者の経験から様々な iPad の活用法を紹介した。<br>  1. 病状説明にiPad を利用すると, 互いの顔を見ながらの会話が可能となる。<br>  2. 様々な動画の保存媒体として iPad を利用すると, モバイル型のビデオモニターとして, ベッドサイドで動画をみることが可能となる。<br>  3. データベース App として, FileMaker Go 13 を利用すると iPad でデータベースの操作が可能となる。<br>  4. その他の活用法の紹介。iPad は, Talking Aid, 失語症のスクリーニング器具, 失語症の訓練器具, 嚥下障害の説明器具, 角度測定器具, 半側空間無視のチェック器具などにも利用可能である。<br>  5. iTunes Store や Yahoo! JAPAN を利用した App の探索方法を紹介した。
著者
本田 慎一郎 鈴木 則夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.252-259, 2014-06-30 (Released:2015-07-02)
参考文献数
9

右中大脳動脈領域の梗塞による左半側の視空間無視,左半側身体失認は消失したが,左半側口腔内に特異的な症状が残存した症例について,口腔内に限局した左半側空間無視の可能性について検討した。    症例は64 歳女性右利き。左側口腔内において著明な要素的運動・知覚障害は認められないにもかかわらず,口腔内に挿入した模擬食塊の形状(球,三角錐,立方体)を識別させる物性認知検査を実施すると,口腔内左側においてのみ形状の認知ができないという異常を認めた。その際「左側では模擬食塊が消える」,「左側では模擬食塊が思い浮かばない」,「左側の口蓋の実がない」など特徴的な陳述が得られ,口腔内の描画検査でも異常を疑う所見が得られた。   本例の左半側口腔内に限局した症状は,その原因を各口腔器官の運動・知覚障害,触覚性失認に帰結できない。本例の症状について,口腔内を複数の口腔器官に包み込まれた空間ととらえ,この空間表象が障害された口腔内左半側空間無視として解釈を試みた。
著者
植田 恵 高山 豊
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.330-338, 2013

原発性進行性失語(primary progressive aphasia;PPA)の評価は,既存の言語機能検査を使用して行われているが,その適切な組合せ・実施手順の明確化,あるいは新たな評価法の開発が望まれる。近年,新たな PPA の国際臨床診断基準とともにタイプ診断のための発話/言語機能の課題が示された。そこで,我々はこの課題と本邦で使用されている検査との対応について,また過去の自験例に実施した検査について検討することを通じて,PPA の評価における課題を整理することを試みた。タイプ分類は既存の検査を組み合わせることで対応が可能であると考えられたが,この検査の組み合わせの妥当性については今後さらなる検討が必要である。他方,長期経過をみていく際に必要となる ADL(activities of daily living)等生活面の評価についても PPA 特有の問題が反映される評価法が開発されることが期待される。
著者
岩村 吉晃
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.253-260, 2006 (Released:2007-10-05)
参考文献数
44
被引用文献数
1 2 1

アクティヴタッチについて,その研究史と筆者が行った大脳メカニズムの研究をふりかえり,これに関連する最近のヒト体性感覚中枢の研究を紹介した。さらに触認識のしくみ追求の立場から,頭頂葉における体性感覚と視覚の統合に関する研究を概観するとともに,触認識中枢をめぐって後頭葉における視覚と体性感覚の相互作用について最近の知見を紹介した。
著者
福澤 一吉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.245-252, 2006 (Released:2007-10-05)
参考文献数
7
被引用文献数
1

一般に脳研究では神経細胞の働きや,脳損傷に由来する神経学的,または神経心理学的症状の記述,分析などのボトムアップ的なアプローチを取る。一方,脳の計算理論的アプローチでは脳が解こうとする問題は何か,それを解くにはどんな計算が必要か,その基本原理は何かをトップダウンに考える。脳が解く必要のある問題の 1 つは不良設定問題であり,到達運動のような単純な運動でも,ターゲットへ到達可能な無数の軌道から最適な軌道を 1 つ選択するための制約条件を決定しなくてはならない。たとえば,トルク変化最小モデルでは,到達運動では各関節に生じるトルクの時間変化の 2 乗の総和を運動軌道全体にわたり積分した値が最小となるような制約が腕にかけられているとしており,不良設定問題を解いている (川人 1996) 。本講演では運動の計算理論を背景に運動にまつわる神経心理学的症状 (失書症,失行症,視覚性失認の模写運動) の検討を試み,運動の計算理論と神経心理学の接点を模索した。