著者
矢守 隆夫
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug delivery system (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.385-393, 2003-07-10
被引用文献数
1

ヒト癌細胞数十系を一括して扱い(一括された癌細胞株を癌細胞パネルとよぶ), 多数の抗がん剤に対する感受性を調ベデータベース化することによって, 抗がん剤の分子薬理に関するさまざまな有用な情報が得られることが, 近年, 米国国立研究所および筆者らの研究でわかってきた. 癌細胞パネル法は, ウェットな系(生物学的実験)とドライな系(情報学)が効率的に結合したユニークなシステムで, その特徴は, テスト化合物の作用メカニズムを予測できる点にある. 筆者らは, このシステムを種々の分子標的スクリーニング系とカップルさせて抗がん剤探索に利用してきた. 本法により, 新規マイナーグルーブバインダーMS-247が見いだされた. MS-247物は, トポイソメラーゼIおよびIIを阻害し, ヌードマウスに移植したヒト癌ゼノグラフトに対して強力な抗癌活性を示した. また, テロメラーゼ阻害物質を探索する目的で, データベースをCOMPARE解析でマイニングし候補化合物を抽出し, 実験的にそれらの活性を検証した結果, 新規テロメラーゼ阻害物質FJ5002を見いだされた. 一方, 抗がん剤感受性を決定する遺伝子ならびに新たな創薬ターゲットを探索するため, 癌細胞パネルの各癌細胞での遺伝子発現をcDNAマイクロアレー法により調べた. 癌細胞パネルについて抗がん剤感受性データと遺伝子発現データの両者を統合した筆者らのデータベースは, 抗がん剤探索と癌の個別化治療への一つの基盤を提供するものと期待される.
著者
渕上 由貴 川上 茂
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.66-68, 2017-01-25 (Released:2017-04-25)
参考文献数
7
著者
津本 浩平
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.412-423, 2013-11-25 (Released:2014-03-01)
参考文献数
47

抗体はその高い抗原特異性、親和性から、治療薬、診断薬に用いられており、各分野で抗体開発が盛んに行われている。抗体配列遺伝子が手に入れば、我々は、その抗体が持つ機能を認識素子として利用し、さまざまな改変抗体を構築することができるようになっている。しかしながら、抗体がどのように抗原に対して高い特異性・親和性を創出するかについて、構造的に、またエネルギー的に理解されるようになったのはごく最近のことである。本稿では、抗原抗体相互作用を生物物理学的にどのように性格づけするかについて、まず、代表的な解析方法についてまとめ、つづいて抗体が標的分子をどのように認識し、高親和性を創出しているかについて述べる。
著者
河野 健司
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.644-653, 2008 (Released:2009-02-13)
参考文献数
51

リポソームのDDSとしての有用性を高めるためには,リポソームに新しい機能を与え,しかも,高いパフォーマンスを実現することが重要である.高分子化学からのリポソームへのアプローチは,リポソームの高機能化・高性能化を実現するためのすぐれた手法であり,これまでに高分子の導入によってさまざまな高機能リポソームが構築されてきた.本稿では,筆者らが展開してきた温度応答性高分子やpH応答性高分子の導入による機能性リポソームの構築を中心に,リポソームの機能化・高性能化における高分子化学からのアプローチの有用性について述べる.
著者
吉川 広之 村西 昌三
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.159-164, 1991-05-10 (Released:2009-02-23)
参考文献数
26

Blood is known to be the main transport route of most drugs because of the much greater flow rate of the blood stream than that of the lymphatics. The lymphatic transport of drugs, however, is noteworthy, because the lymphatic route is important for many chemicals ; namely as an essential route for nutrient lipids and a route to avoid the first pass effect of the liver for drugs which are absorbed from the gastrointestinal tract and the necessity to deliver anticancer agents into the lymphatic system of patients suffering from the cancer. It follows that in tumor metastasis, the lymphatic pathway is a major route and a lymphotropic transport of antitumor drugs is to be of great significance for cancer chemotherapy. In this paper, fundamentals of lymphatic transport of chemicals, development of lymphotropic drug delivery systems and their application to therapy are described.
著者
清水 太郎 石田 竜弘
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.300-307, 2016-07-25 (Released:2016-12-25)
参考文献数
47
被引用文献数
2

PEG(poly(ethylene glycol))修飾は、バイオ医薬品の生体内安定性を向上させる最も標準的な方法である。しかし、PEG修飾体投与後にPEGに特異的な抗体(抗PEG抗体)が誘導され、繰り返し投与時のPEG修飾体の血中滞留性を著しく低下させることが明らかになっている。これまでに、実験動物だけでなく、ヒトにおいても抗PEG抗体の誘導が確認されている。また、さまざまなPEG修飾体投与によって、さまざまな特性を持った抗PEG抗体が誘導されることも明らかになっている。PEG修飾技術による治療効果の向上を損なわないためにも、抗PEG免疫応答の正しい理解と抑制法の開発は非常に重要である。本稿では、抗PEG抗体の特性・評価・抑制法について概説する。
著者
鷲山 幸信
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.102-113, 2020-03-25 (Released:2020-06-25)
参考文献数
34

標的アイソトープ治療とは、放射線を放出するRIをペイロードとし抗体やペプチドに標識し、標的に運んだ後アイソトープから放出されるエネルギー(放射線)を標的組織に照射して治療を行う方法である。飛程が短く単位距離あたりのエネルギーが高いα線は種々の放射線の中でも治療効果が高く、臨床応用が期待されている。そのためには、アルファ放射体の持続可能な供給はもとより、実際の治療においてもアルファ放射体の物理化学的特性を理解し制御することが重要である。
著者
亀井 敬泰 武田 真莉子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.360-367, 2019-11-25 (Released:2020-02-25)
参考文献数
37

末梢から脳への薬物輸送は血液脳関門により著しく制限されている。したがって認知症等の中枢疾患治療薬を開発するためには、脳への輸送障壁を突破する薬物送達法を構築しなければならない。そこで筆者らは、インスリンおよびGLP-1受容体作動薬等のペプチド薬物を新たな認知症治療候補薬物として用い、経鼻投与を介してそれら薬物を脳内に直接送達することを試みた。ペプチド薬物を細胞膜透過ペプチドと混合し経鼻投与することにより、鼻腔から脳への薬物輸送効率は飛躍的に増大した。さらに、本投与手法を介して脳に移行した薬物が、老化促進型認知症モデルマウスの認知機能障害を改善させることを明らかにした。本稿では、これらの研究成果を紹介する。
著者
菊池 寛
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.297-304, 2017-09-25 (Released:2017-12-25)
参考文献数
11

アカデミア発の新規技術を企業化・実用化する際に立ちはだかる「死の谷」に虹の架け橋を築くためには、「(技術の)独自性、革新性、妥当性」、「(データの)再現性、信頼性」、「(海外含む)特許戦略(知的財産の確保)」、「資金調達」、「組織的支援」、「オープンイノベーション・研究ネットワーク(人脈)の活用」がキーポイントとして浮かび上がる。これらの1つでも欠如する場合には実用化は困難であると思われる。日本DDS学会は学問的にも組織的にもいろいろな領域をまたいだ団体でもあるので、ぜひ、本学会の「研究ネットワーク(人脈)」も活用していただきたい。
著者
中山 正道
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.627-636, 2008 (Released:2009-02-13)
参考文献数
35
被引用文献数
6 5

温度応答性高分子はある温度を境に,水に対する溶解性を変化させる刺激応答型の高分子である.このようなモジュレーション分子を材料表面や蛋白質などの生理活性物質に導入することによって,新しいインテリジェント機能を有する材料を構築することが可能となる.本稿では,ドラッグデリバリーシステムにおける温度応答性高分子材料について,種々の温度応答性高分子の特性を解説するとともに,温度変化で薬物放出を制御するゲルや,固形がんへの薬物ターゲティングを目的としたナノサイズの薬物キャリアについて概説する.
著者
村上 晋 堀本 泰介 河岡 義裕
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.616-626, 2009 (Released:2010-02-16)
参考文献数
65

インフルエンザウイルスのリバースジェネティクスの確立により,ウイルス蛋白質を任意に改変した変異ウイルスの作製が可能になった.そういった変異ウイルスは,現在のインフルエンザの基礎研究において欠かすことのできない有用なツールとして活用されている.また,応用面においても,現在備蓄が進んでいるH5N1プレパンデミックワクチンには本法を用いて作製された弱毒変異ウイルスが用いられている.今後,変異ウイルス作製技術は,インフルエンザの次世代ワクチンの開発にも大いに貢献することが期待される.一方,リバースジェネティクスを用いた外来性エピトープや外来性遺伝子を発現する組換えインフルエンザウイルスの構築により,効果的な免疫応答を惹起する多価ワクチンや遺伝子治療用デリバリーベクターへの応用が考えられている.現時点では,組換えウイルスの安定性,発現性,増殖性などの問題点を改善する必要性が指摘されているものの,インフルエンザウイルスベクターの持つ数多くの利点を活かすべく実用化を目指したさまざまなアプローチが展開されている.
著者
羽賀 智宏 齋藤 智久
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.189-196, 2013-07-25 (Released:2013-10-25)
参考文献数
30

インターフェロン (IFN) αは、C型肝炎、B型肝炎などのウイルスを除去する作用があるが、消失半減期が短いことから週3回の注射が必要であった。そこで IFN α へのポリエチレングリコール (PEG) 付加による、消失半減期の長い製剤の開発が試みられた。ペグインターフェロン アルファ―2a (ペガシス®)は、従来型 IFNα―2a に40kDの分枝型 PEG で化学修飾することにより、血中薬物消失時間を延長し、生体内IFN活性を長時間持続させ、従来の週3回投与から週1回投与を可能にした製剤である。またこのことにより、C型慢性肝炎及びB型慢性肝炎患者に対する治療成績が向上した。
著者
福森 史郎 辻 泰弘
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.18-25, 2018-01-25 (Released:2018-04-25)
参考文献数
27

抗菌薬の多くは注射薬により投与されている。しかし、注射薬は速やかに効果が出現する半面、急激な血中濃度の上昇により副作用が出たり、痛みを伴ったりするため、患者にとって最適の投与形態ではない。したがって、注射による投薬を経口に変更することによって、患者の負担を軽減することができる。内服DDS製剤の技術には、プロドラッグ化および分解酵素阻害剤の併用による薬物吸収改善技術と、徐放化システムおよび放出制御システムを用いた薬物放出制御技術が重要な項目となる。本稿では、バカンピシリンやアジスロマイシンなど感染症領域において実際に使用されている内服DDS製剤の特徴および現況について概説する。
著者
松尾 一彦 岡田 直貴 中川 晋作
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.8-14, 2010 (Released:2010-04-28)
参考文献数
16

皮膚の免疫機能を最大限に利用した経皮ワクチンは,注射に代わる簡便で安価かつ非侵襲的な新規ワクチン手法として期待されている.経皮ワクチンにおいては,抗原を表皮組織に存在する抗原提示細胞へと送達する基盤技術の確立が必須であり,その研究開発が精力的に行われている.本稿では,近年の経皮ワクチンデリバリー技術の研究動向についての解説を交えながら,筆者らが独自に開発した親水性ゲルパッチを用いた経皮ワクチンの研究成果について紹介する.
著者
藤堂 浩明 杉林 堅次
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.452-459, 2005-07-10 (Released:2008-12-09)
参考文献数
31
被引用文献数
2 2

薬物の皮膚適用は, 肝初回通過効果を回避でき, 長期連続投与が可能であるなどの理由から, 全身治療を目的とした薬物投与法として注目されている. しかしながら, 多くの薬物において皮膚透過性はきわめて低いという問題点があり, 実用化には吸収促進法の利用が不可欠である. 現在までに確立されている吸収促進法は, 大きく物理学的促進法と化学的方法の二つがあげられる. これらの技術の進歩により, 従来型低分子有機化合物のみならず, ペプチド, 蛋白質, 核酸医薬品などの高分子量物質に対しても経皮薬物送達システムの適用が可能になりつつある.
著者
橘 敬祐 近藤 昌夫
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.20-26, 2020-01-25 (Released:2020-04-25)
参考文献数
63

イツの哲学者ヘーゲルは、事物の螺旋的発展の法則を提唱している。これは、事物の発展はあたかも螺旋階段を昇るように進むという法則であり、技術の進歩に伴い、古く懐かしいものが新たな価値等を伴って再び現れてくることを意味している。さて、単細胞生物から多細胞生物への進化の過程において、生物は生体内外を隔てるバリアとして上皮を獲得してきた。上皮は化学物質、細菌、ウイルス等の生体外異物の生体内侵入を防ぐこと等で恒常性維持に深く関わっている。当然のことながら、上皮は薬の吸収障壁となるため、古くから上皮バリア制御は薬物吸収促進の基本戦略となっている。実際、すでに半世紀以上前には、キレート剤によるヘパリンの粘膜吸収促進の報告がなされ、上皮バリア制御による吸収促進のコンセプトは提起されていた。1982年になると上皮バリアの脂質ミセル説が提唱され、中鎖脂肪酸等を用いた吸収促進技術の開発につながっている。その後、1993年のオクルディンの発見に端を発した上皮バリアの生物学の急速な進展に伴い上皮バリアの分子基盤が詳らかにされ、今まさに吸収促進技術が螺旋的発展を遂げつつある。本稿では、上皮バリアの生物学の発展に伴う吸収促進技術の螺旋的発展を概説し、バイオ医薬のDDS技術としての現状と課題を議論したい。
著者
亀井 敬泰 森下 真莉子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.392-402, 2010 (Released:2010-11-05)
参考文献数
23

蛋白質やペプチドなどのバイオ薬物は,消化管粘膜における透過性の低さや不安定性の問題から注射剤による投与方法に制限されている.そこで筆者らは,cell-penetrating peptides(CPPs)と総称される細胞膜透過ペプチドを利用し,これらバイオ薬物の経口製剤化の実現に向けた研究を行っている.本稿では,まずCPPsを利用した近年のDDS研究動向をアップデートし,その後,蛋白質・ペプチドの消化管吸収改善におけるCPPsの応用性について筆者らの検討結果を紹介する.さらに,鼻粘膜吸収への応用性や吸収改善メカニズムについて展開し,バイオ薬物の非侵襲的投与経路におけるバイオアベイラビリティ改善ツールとしてのCPPsの有用性について示したい.