著者
小川 秀幸 西尾 尚倫 音部 雄平 木村 鷹介 大路 駿介 山田 実
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.657-667, 2020-07-17 (Released:2020-08-28)
参考文献数
38

目的:回復期脳卒中患者におけるリハビリテーション治療満足度と関連する要因を検討すること.方法:研究デザインは横断研究とした.対象は回復期病棟にてリハビリテーション治療を実施した初回発症の脳卒中患者41名(50.5 ± 9.3歳,男性73.2%)とした.統計解析は,リハビリテーション治療満足度(CSSNS)を従属変数とし,満足度との関連が報告されている身体機能変化(SIAS-M gain),ADL改善度(M-FIM effectiveness),精神面(JSS-D),楽観性(LOT-R),サービス品質(SERVPERF)を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を用いて検討した.結果:リハビリテーション治療満足度は55.5 ± 8.3点であった.重回帰分析にてリハビリテーション治療満足度に関連する要因として,M-FIM effectiveness(標準化偏回帰係数β=0.48,p<0.01)とSERVPERF(標準化偏回帰係数β=0.48,p<0.01)が抽出された.結論:回復期脳卒中患者において,ADL能力を改善させることと,リハビリテーション治療のサービス品質向上に取り組むことが満足度を高める可能性が示唆された.
著者
井上 誠
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.11-18, 2021-01-18 (Released:2021-03-15)
参考文献数
36

嚥下運動誘発には脳幹延髄の神経回路を介する反射性のものと随意性嚥下を含む中枢性のものがある.前者の主たる受容野は,上喉頭神経で支配される下咽頭から上喉頭領域であり,多くの刺激やそれに応答する受容体が関連していると考えられている.その中で最もよく知られているのは,C線維や一部のAδ線維に発現する温度感受性受容体transient receptor potential(TRP)チャネルである.ことに温刺激受容体であるTRPV1や,冷刺激受容体であるTRPM8とTRPA1は,嚥下反射誘発・促進にかかわるという多くの臨床報告があるものの,その十分な根拠を示す基礎研究データは提供されていない.TRPチャネルはポリモーダル受容体である.TRPV1が温度のみならず酸やカプサイシンにも応答する性質を用いて,嚥下障害の臨床に用いられる炭酸水嚥下の末梢受容機構などの解明が行われ,acid sensing ion channel(ASIC)3などの関与が考えられている.機械刺激に関しては,上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)が候補受容体とされているが,全容解明には至っていない.
著者
近藤 克則
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.142-148, 2012-03-18 (Released:2012-03-28)
参考文献数
17
被引用文献数
13 8

The Japanese Association of Rehabilitation Medicine (JARM) is developing a Rehabilitation Patient Database (DB). The accumulated number of registered patients exceeded 10000 by March, 2011. The purposes of this article are to describe the process and procedures of secondary analysis and to consider potentials and limitations of the DB to promote the research activities of JARM members. JARM Members who submitted patient data or cooperate with JARM in the secondary analysis are regarded as eligible to use the combined data submitted by many hospitals. A suitable patient dataset should be derived from the DB including stroke, hip fracture, and spinal cord injury, and also patient data from the acute to recovery phase of rehabilitation. Additionally, before paper drafts can be submitted, a reviewing process is needed. The DB holds much potential, because the sample size is large and data were submitted from many hospitals. Since there are inherent limitations in all observational research, many issues such as endogeneities and confounders should be considered carefully to ensure high quality evidence is obtained with validity and reliability using the DB.
著者
武原 格 一杉 正仁 渡邉 修 林 泰史 米本 恭三 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.247-252, 2016-03-18 (Released:2016-04-13)
参考文献数
14
被引用文献数
11 8

はじめに:脳損傷者の自動車運転再開に必要な高次脳機能の基準値の妥当性を検証するために実態調査を施行した.方法:2008年11月~2011年11月までに東京都リハビリテーション病院に入院し運転を再開した脳損傷者を基準値群,2011年12月~2012年11月まで同院に入院し運転を再開した脳損傷者を検証群とした.検証群の高次脳機能検査結果より暫定基準値の妥当性を検討した.結果:基準値群は29名,検証群は13名であった.検証群のうち高次脳機能検査結果がすべて基準値内である脳損傷者は9名(69.2%)であった.暫定基準値を下回った高次脳機能検査項目は,1名はMMSEおよびTMT-A,1名はWMS-Rの視覚性再生および視覚性記憶範囲逆順序,2名はWMS-Rの図形の記憶であった.結論:机上検査結果は運転再開可否の目安となるが絶対的基準とは言えず,症例ごとに運転再開の安全性について検討すべきである.
著者
小山 照幸
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
pp.21063, (Released:2022-08-17)
参考文献数
11

目的:わが国は世界に先駆けて高齢者人口が増加している.それに伴い高齢患者も増加しており,リハビリテーション治療は重要である.リハビリテーション関連医療費も増加しているが,どのような年齢層にリハビリテーション治療が実施されているかについては知られていない.そこで今回,保険診療におけるリハビリテーション治療患者の年齢分布を調査したので報告する.調査方法:厚生労働省が公表しているNDBオープンデータから,各疾患別リハビリテーション料の「性年齢別算定単位数」について2014(平成26)~2019(平成31)年度の6年間の年次推移を検討した.結果:心大血管疾患リハビリテーション料は80歳代前半にピークがあり,それまでは男性が約2倍多かった.脳血管疾患等リハビリテーション料は80歳代前半にピークがあり,男性のピークは70歳代後半でそれ以下の年代では男性のほうが多かった.廃用症候群リハビリテーション料は80歳代後半にピークがあり,女性のほうが多かった.運動器リハビリテーション料の算定単位数が最も多く,80歳代前半にピークがあり,女性は男性の2.5倍実施されていた.呼吸器リハビリテーション料は80歳代後半にピークがあり,男性のほうが多かった.がん患者リハビリテーション料は70歳代後半にピークがあり,男性が女性の約2倍であった.結論:リハビリテーション治療実施患者の年齢のピークは80歳代であり,年々増加していた.
著者
石合 純夫
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.352-360, 2013 (Released:2013-06-04)
参考文献数
4

To provide legal advice on cognitive dysfunction, we should evaluate each plaintiff with brain injury from a neutral viewpoint. In the neuropsychological test batteries, not only the total score such as IQs of the WAIS-III or memory quotients of the WMS-R but also the scores of the subtests need to be surveyed to find out the precise nature of the cognitive dysfunction. Expert opinions are also required concerning the relationship between the cognitive dysfunction and the lesion site(s) in the brain as well as the activities of daily living and the instrumental activities of daily living. We, as experts in rehabilitation medicine, should prepare ourselves to provide excellent legal advice to ensure that judges reach a proper decision.
著者
川手 信行
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.490-493, 2017-07-18 (Released:2017-09-07)
参考文献数
11
被引用文献数
5 3

生活期リハビリテーションは医療機関から退院した後の在宅や施設において展開される.医療機関に入院している時間よりも長い場合が多いが,入院時と比べるとリハビリテーション専門職種の関与は,時間的にも人員的にも圧倒的に少ないのが現状である.限られた時間,限られた資源の中で,効果的な生活期リハビリテーションを行うために,患者の主体性を導き出すような具体的な目標を設定し,生活期の患者の活動性の向上を主眼に置いたプログラムを作製し,患者自らが主体性をもって行うように促していくことが必要である.また,リハビリテーション専門職と生活期を支える関連職種や地域行政を巻き込んだ総合的・包括的地域リハビリテーションの構築が必要である.
著者
鈴鴨 よしみ
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.429-432, 2017-06-16 (Released:2017-08-17)
参考文献数
7

ロービジョンとは視力を完全に失ってはいないが見えにくさのために生活上の不自由を生じる状態を指す.社会の高齢化に伴いロービジョン者が急増しているにもかかわらず,ロービジョンに対する一般的な理解は不足している.視覚機能の損失は,日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼすだけでなく,多くの場合心理的なダメージも大きい.本人のみならず家族の生活にも大きな影響を及ぼすことがある.適切な情報やケアを提供するシステムを構築し,ロービジョンの生活への影響を最小限にするリハビリテーションシステムが求められる.
著者
長谷 公隆 Munkhdelger Dorjravdan
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.114-120, 2021-02-18 (Released:2021-04-14)
参考文献数
13
被引用文献数
2

歩行分析には,二足歩行における病態を同定し,治療において重点化するべき問題を明確にする役割がある.観察による立脚期制御の歩行分析は,初期接地から荷重応答期・中期・後期の3相に分けて運動力学的な事象を考慮しながら評価する.定量的歩行分析は,3次元分析,床反力および筋電図計測を基本にして,臨床的ニーズに応じた計測システムを選択する.歩行推進力の指標には,立脚後期の床反力前後成分に加えて,爪先離地時の床反力作用点の位置を,股関節を中心とした角度として表す “trailing limb angle” が有用である.現代の歩行分析には,膨大な計測データから注目するべき指標を抽出するデータ・マイニングが含まれる.
著者
宮田 知恵子 藤原 俊之 補永 薫 辻 哲也 正門 由久 長谷 公隆 里宇 明元
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.301-307, 2008-05-18 (Released:2008-06-10)
参考文献数
17

上肢局所性ジストニア患者においては,大脳皮質興奮性の増大が認められ,皮質興奮性を低下させる低頻度反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が,症状の改善に有効であることが知られている.より簡便な経頭蓋直流電流刺激(tDCS)も皮質興奮性の修飾をもたらすことが報告されており,局所性ジストニアの治療に有効な可能性がある.さらに装具を用いた上肢運動の抑制により,局所性ジストニアが軽減することも報告されている.そこで,われわれは,上肢局所性ジストニアに対して,tDCSと装具の併用療法を施行した.Cathodal tDCSは刺激強度1 mA,刺激持続時間10 分間,1 日1 回,5 日間連続して施行し,その後,右母指と右示指の指節関節固定装具を装着させた.5 日間連続のtDCSの後には,書字動作時の長母指屈筋と第一背側骨間筋の過剰な筋活動が減少し,刺激間隔20 ms,100 msにおける相反性抑制ならびに皮質内抑制の出現を認めた.さらにスプリントの装着により,その効果は3 カ月後にも維持されていた.tDCSとスプリントの併用療法は,局所性ジストニアの治療に有効である可能性が示唆された.
著者
久永 欣哉 高橋 信雄
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.738-745, 2012-10-18 (Released:2012-10-25)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

Patients with Parkinson disease present with a variety of symptoms as well as the so-called 4 classic symptoms : tremor, muscle rigidity, akinesia, and postural instability. To treat this disease, the best combination of various antiparkinsonism drugs, deep brain stimulation, and rehabilitation should be determined and administered. Muscular training in rehabilitation for patients should place great importance on some especially vulnerable muscles including the truncal muscles, extensor muscles for hip and knee joints, and dorsiflexor muscles for ankle joints. Shifting the center of gravity and using rhythmic movements are important factors in getting the patient standing and walking. Training using visual and auditory cues and music is effective in Parkinson disease. Speech therapy using weighted noise is also available. In rehabilitation we have to pay attention to cognitive function and psychiatric symptoms in patients including depression, anhedonia, hallucination, delusion, dopamine dysregulation syndrome, and impulse control disorder. What priority should be set for rehabilitation differs according to the stages of disease. Utmost efforts must be made for patients in the advanced stage of Parkinson disease to prevent them from being bedridden, tube-fed, and demented. Medical staff must be creative in coming up with new ideas to assist such patients in sitting comfortably on chairs for long periods and in eating by mouth safely.
著者
里宇 文生 大野 祐介 岩下 航大 梅澤 慎吾 臼井 二美男
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.406-409, 2018-05-18 (Released:2018-06-14)
参考文献数
8

近年,下肢切断者が義足歩行を達成して日常生活へ復帰した後に,パラスポーツに参加する機会が増えている.下肢切断者のパラスポーツへの参加は,身体的効果,精神的効果が報告されており,医学的に有用である.下肢切断者が行うスポーツとしては,ウォーキングや登山,卓球,釣り,ゴルフ,自転車競技などの生活用義足を用いて行うスポーツに加え,専用の競技用義足を用いることで,陸上競技,バドミントン,テニス,スキー,スノーボード,サーフィン,スキューバダイビングなど,多くのパラスポーツを行うことが可能である.パラスポーツへの参加に関しては,費用や参加機会の点で課題が存在するが,医療者からの適切な情報提供が重要である.
著者
横山 光 中澤 公孝
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.128-134, 2021-02-18 (Released:2021-04-14)
参考文献数
18

健常者の正常歩行や神経疾患患者の異常歩行の背景にある神経機序の解明は病態理解や効果的なリハビリテーション医療へつながる.本稿では,正常・異常歩行の神経生理学的理解のためにわれわれが進めている筋電図や脳波を用いた研究を概説する.前半は筋シナジーや大脳皮質活動の歩行位相に応じた変調など各神経領域の活動について,後半は脳情報デコーディングによる筋制御様式の検討や大脳皮質と筋の結合性解析など領域間の関連性についての最新の知見を解説し,最後に当該分野における今後の展望を述べる.
著者
那須 識徳 山根 伸吾 小林 隆司
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
pp.21029, (Released:2022-05-16)
参考文献数
18
被引用文献数
1

目的:高齢になり運転などの移動手段を変更する必要がある場合に,個人の感情面や態度の準備状況を把握するための自記式質問紙としてAssessment of Readiness for Mobility Transition(ARMT)がある.本研究ではARMT日本語版(ARMT-J)の言語的妥当性を検証することを目的とした.方法:「尺度翻訳に関する基本指針」を参考にして「順翻訳,調整,逆翻訳,逆翻訳のレビュー,認知的デブリーフィング,認知的デブリーフィングのレビュー,校正,最終報告」を実施した.順翻訳と調整は国内の作業療法士3名が行い,逆翻訳は翻訳会社に依頼した.逆翻訳のレビューと認知的デブリーフィングのレビューは開発責任者に依頼し,認知的デブリーフィングは地域在住高齢者5名を対象に行った.結果:順翻訳では5項目,逆翻訳のレビューでは3項目で意見の相違が確認された.特に項目11の原文である「Moving to a retirement community is too restrictive for my desired mobility.」の中の「retirement community」は日本では普及しておらず,翻訳者間で日本語訳に相違を認めた.海外では「retirement community」は高齢者のための居住地域または建物と定義されており,翻訳にかかわった作業療法士3名と開発責任者にて協議のうえ,日本語訳は「高齢者のための住宅」とした.さらに,開発責任者に確認を行い,加齢のため移動手段を変更せざるを得ない場合,居住地域を変更する必要があるという意味が含まれているという補足文書をつけ,ARMT-Jを完成させた.結論:本研究ではARMT-Jの言語的妥当性を検討し,妥当と思われる日本語訳を作成した.