著者
奥田 哲矢
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.290-295, 2020-06-01 (Released:2020-06-01)

Webサービスの安心・安全を支える裏方として,本稿では通信技術,特にSSL/TLSの概説を行う。SSL/TLSは,顔の見えないインターネット上で,通信相手の認証,通信の機密性と完全性を提供する。安全性の豊富な研究に基づく最新版TLS1.3の完成と,常時SSL化/完全HTTPS化の普及により,通信の安全性の観点では,これらは成熟した技術群と見える。それでは,なぜ,世の中からフィッシング被害は無くならないのだろう。実は,SSL/TLSをさらに下支えする,PKI(公開鍵基盤)という技術的,社会的な仕組みが存在し,今まさに,PKIが提供する価値に変革が求められているのである。本稿では,SSL/TLSとPKIに関する歴史と仕組みを概説し,今まさに起こりつつある変化についても紹介する。
著者
駒田 陽子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.352-357, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)

質の良い十分な睡眠を毎日規則的にとることは,ウェルビーイングにとって欠かせないが,日本人の多くが睡眠負債の状態である。さらに睡眠負債を解消するために休日に朝寝坊をすることは,社会的ジェットラグを引き起こす。COVID-19感染拡大防止のために各国で実施された社会的な行動制限によって,睡眠やウェルビーイングに変化が生じた。行動制限中,平均睡眠時間は15分増加し,社会的ジェットラグは29分減少した。全般的な幸福感は半数の人が悪化し,幸福感が悪化した群では有意に光曝露量の減少幅が大きかった。ウェルビーイングのためには,スリープマネジメントによって良い睡眠を確保することが重要である。本稿ではいくつかのポイント(生体リズムを整える,昼間の活動,眠る前のリラックスと眠りへの準備,眠りへのこだわり,眠る環境)を概説した。
著者
黒沢 俊典
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.133-140, 2022-04-01 (Released:2022-04-01)

医中誌Webは,国内の医学論文を網羅的に検索することができる二次資料データベースである。国内発行の医学・歯学・薬学・看護学及び関連分野の定期刊行物約7,800誌から,約1,500万件の論文を収録しており,教育機関・病院・企業など様々な場面で幅広く利用されている。膨大なデータの中から必要とする論文を効率的に探し出すためには,医学用語シソーラスや副標目などを活用した検索が有用である。また,研究デザインタグ(メタアナリシス,ランダム化比較試験など)を使用してエビデンスレベルの高い論文に絞り込むことが可能である。本稿では,医中誌Webの概要とその検索方法や一般の方への情報提供などについて紹介する。
著者
酒井 美里
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.274-280, 2023-07-01 (Released:2023-07-01)

特許情報データベースにおいては,2000年代の概念検索ブームから沈静化の時代を経て,近年は再びAI技術応用の検討が盛んになっている。現在は特に特許分類や化合物インデックスの自動付与といった分類付与の領域で実用化が進み,各国特許庁での導入例も増えている。また,データベース検索における類似文書検索や,検索結果表示における可視化・クラスタリング等も一般的なものとなりつつある。その一方,公報査読を効率化する技術は模索されているとみられるものの,分類付与や類似文書検索と比べると,実用化は端緒についたばかり,と言えよう。本項では,特許調査業務における「調査の目的と公報の読み方の関係」や「現在表面化している公報査読上の問題点」に着目した。また,公報査読上の問題点はAI技術を応用する事で改善される可能性があるのか,といった点について考察を行った。
著者
佐藤 正樹 加藤 治 堀江 隆 川村 剛 真銅 解子 高橋 昭公 芳賀 みのり
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集 第9回情報プロフェッショナルシンポジウム
巻号頁・発行日
pp.25-30, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
6

2000 年代に入り、日本の企業による論文発表数が減っているといわれている。文部科学省科学技術政策研究所での研究でも、国内企業の論文発表件数は減少していると発表されている。しかしこれまで、日本国内で発表されている論文数の分析や、その結果と国内特許を合わせた分析は、ほとんど実施されていない。そのため JST と INFOSTA では、国内資料も含めた、電機系と化学系企業の論文発表および特許出願の状況調査を試みた。まず JDream II と PATOLIS を使用して、電機系と化学系企業の論文発表、特許出願状況を調査した。また、企業が投稿した論文誌等の科学技術資料の種類も調査した。科学技術資料は、分野、査読の有無、業界での注目度により分類できるため、企業が多く投稿する資料を分析した。さらに、今回調査した結果を基に、論文件数および特許出願数と社会情勢の比較等、調査した企業研究開発の状況を考察した。今後、他業種の企業の論文発表数調査や、企業内部の技術分野別の動向等、調査していきたい。
著者
宮入 暢子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.529-534, 2019-11-01 (Released:2019-11-01)

学術情報の電子化と標準化が進む一方,その流通量の増加とコンテンツの多様化は,データの構造化と横断的な分析をますます困難なものにしている。近年,自然言語処理や機械学習アルゴリズムの実装や,メタデータ取得の自動化によってこれらの課題を克服しようとする学術データベースが相次いでリリースされている。本稿ではそうした新世代のデータベースのいくつかを概観し,それらが成立した背景要因として,機械可読識別子の普及やオープンなコンテンツの拡大,人工知能の学術情報サービスへの応用などについて検討するとともに,それらが今後の学術情報流通に与える影響について展望する。
著者
三沢 岳志 今井 雅子 井本 美子 前田 耕一 矢部 悟
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.74-79, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)

本研究は自転車部品業界で世界トップ企業のS社を選び,その知的財産戦略を明らかにすることを目的にした。S社は自転車部品業界で世界的に圧倒的なシェアを持つことと,自転車部品の組み合わせであるコンポーネントは独自のものを提供しながら,その外部インターフェースは公開されていることから「自転車界のインテル」と言われている。しかし調査するとビジネスモデルも知財戦略もインテル社とは異なる。また,自転車業界がEバイクに急速に移行する中,S社は後発でありながら,Eバイクのコンポーネントでも一定のシェアを確保している。そこでS社の自転車部品におけるトップシェア獲得と,Eバイク市場への参入における知財戦略の研究を行った。
著者
豊田 恭子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.104-109, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)

1941年に開館したフランクリン・D・ルーズベルト大統領図書館以来続いてきたアメリカの大統領図書館制度が終わろうとしている。2025年に開館予定のオバマ大統領センター(OPC)では,国立公文書記録管理局(National Archives and Records Administration: NARA)が管理する大統領図書館を持たず,オバマ財団が独自に運営するミュージアムのみが置かれ,オバマ大統領のアーカイブについては,すべて電子化され,NARAのデータセンターから配信されることになっている。しかしそれは,現在NARAが抱えている問題を何ら解決することにはならず,アメリカの民主主義を支えてきた大統領図書館制度も壊すことになりかねない。
著者
山本 順一
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.78-83, 2016-02-01 (Released:2016-04-01)

本稿は,OCLCの「世界図書館統計」やアメリカ連邦政府の労働統計局の統計,そして博物館・図書館サービス機構(Institute of Museum and Library Services)の『アメリカの公共図書館調査 2012会計年度』とピュー調査研究センター(Pew Research Center)が2013年に公表した『デジタル時代における図書館サービス』等を用いてアメリカ公共図書館の実態を数値で明らかにしつつ,21世紀の専門職ライブラリアンに求められる知識とスキルを確認しようとし,日本の公共図書館界の現実と重ね合わせ,「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成24年12月19日文部科学省告示第172号)が提示する基本的方向性と一致することを確認しながら,日本にはアメリカのような(専門職)ライブラリアンの知識とスキルを育て,専門職を活かす社会の仕組みが十分には整っていないことを指摘し,このままでは日本の公共図書館総体の近未来が決して明るいものではないことを述べた。
著者
新 出
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.187-191, 2020-04-01 (Released:2020-04-01)

中小規模の公共図書館では,図書館業務に必要なプログラムや新たなWebサービスを開発するための予算確保が困難なことが多く,図書館員がプログラミングスキルを身につけることで業務の効率化やサービスの向上を図ることができる。一方,プログラミングスキルを持った職員の組織的育成は困難な場合も多く,作成したプログラムのメンテナンス等が属人的となりがちな限界もある。実際に作成したプログラムを解説しながら,初歩的なプログラミングの効用について説明する。
著者
林 隆之
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.158-163, 2017-04-01 (Released:2017-04-03)

研究評価は,過去には研究者個人の研究業績や研究プロジェクトをピア(同分野の専門家)が科学的知識の妥当性から評価することが中心であった。しかし,研究活動自体が多様化するとともに,機関や組織による研究マネジメントの重要性が増し,研究成果による社会・経済的効果も期待されるようになる中で,研究評価の対象は拡大し,評価指標は多様化している。本稿では,研究評価の現状を概観することを目的に,研究評価の種類,大学等の機関の研究評価が導入された政策的背景,研究評価の方法の考え方,指標の多様性の必要性,インパクト評価の導入と課題,研究マネジメントへの活用について説明する。
著者
加藤 俊徳
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.505-510, 2020-10-01 (Released:2020-10-01)

カスタマーハラスメントは,これまで,顧客からのセクシュアルハラスメントに主な焦点が当てられていた。近年,情報産業の発達に伴い,不特定多数の顧客から情報サービス従事者(接客・営業担当者を含む)へのハラスメントが問題となっている。本稿では,カスタマーハラスメントを起こしやすいカスタマーの脳について,1)睡眠,運動,食生活などの生活習慣,2)注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害などの発達障害,認知症やうつ病など脳機能に問題のある疾患,3)8つの脳番地の機能がそれぞれ低下または未熟である場合,の3つの観点から概観した。加えて,カスタマーハラスメントを予防するために必要な課題を述べた。
著者
酒井 美里
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.7, pp.355-359, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)

本稿では,海外代理人の意見やテストコレクション評価の現状,また特許管理業務への導入例などを通して「AI(人工知能)系調査ツールとの付き合い方」を考察する。海外特許庁では,審査引例調査へのAI導入が積極的に検討され始めている。一方,無効資料調査などの場面では「どんな手段で調査をするかは依頼者の責任」という考え方もあり,AIは補助手段に留まる傾向が強い。今後,私たちサーチャーはAI系調査ツールとどのように付き合っていくべきなのだろうか。本稿では導入に対する費用対効果や,海外でのAI系調査ツール評価に関する話題,音楽配信サービス用のレコメンドAIなどの例を通して,AI系調査ツールについて考える「視点」を提案する。
著者
徳原 直子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.88-94, 2022-03-01 (Released:2022-03-01)

最初に,平成30年の著作権法改正により新たに設けられた「柔軟な権利制限規定」について概説する。その上で,国立国会図書館が取り組んでいる当該規定に関連するものとして,デジタル化資料(画像)のテキスト化事業及びそのテキストデータを活用した本文検索サービス,並びにデジタル化資料の閲覧・検索機能の利便性向上のためのAI(機械学習)を用いたサービス開発について,平成30年の著作権法改正による影響を考察しつつ紹介する。
著者
宮原 志津子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.192-197, 2022-06-01 (Released:2022-06-01)

本稿は,図書館情報専門職の資格について,国内外の動向を明らかにすることが目的である。かつては,専門職として働くためには資格を所有することが要件となっていたが,今日では学位や資格の質保証の証明が必要となっている。学位・資格に対する質保証制度を検討するために,海外のLIS専門職資格を「教育資格」「職業資格」の2種類に分けて比較する。教育資格の例としてアメリカ,職業資格としての例としてフィリピンを対象とし,LIS専門職の質保証ツールとしての両者の特色を整理した上で,日本の司書資格が,教育資格としても職業資格としても,質保証が十分おこなわれていないことを明らかにする。