著者
新川 弘樹 井上 孝志 藤田 尚久 野尻 亨 古谷 嘉隆 黒田 敏彦 仲 秀司 安原 洋 和田 信昭
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.59-63, 2001
被引用文献数
3

V-P (脳室・腹腔) しゃんとの腹腔側ちゅーぶが直腸に穿通し, 肛門より脱出した稀有な1例を経験したので報告する. 症例は74歳の男性. 他院で脳内出血後の正常圧水頭症に対し, V-Pしゃんとを施行された. 10か月後, 髄膜炎で当院脳外科に入院, 抗生物質投与により軽快していた. 入院3か月後, 肛門よりしゃんとちゅーぶが脱出しているのを発見され, 当科紹介となった. 腹部には圧痛, 腹膜刺激症状を認めず, 白血球数6,400/mm<SUP>3</SUP>, CRP1.9mg/dlと炎症反応は軽度で, がすとろぐらふぃん <SUP>&reg;</SUP>による注腸造影X線検査で造影剤の漏出は認めなかった. 大腸内視鏡検査ではちゅーぶは肛門縁から10cmの直腸右側壁を穿通していた. 腹膜炎所見がないことから, 経肛門的にちゅーぶを抜去した. 1週間後の注腸検査で造影剤の漏出がないことを確認し, 経口摂取を再開した. V-Pしゃんとちゅーぶの消化管穿通はまれであるが, 注意すべき合併症の1つと考えられた.
著者
尾原 伸作 内本 和晃 小山 文一 中川 正 中村 信治 植田 剛 錦織 直人 藤井 久男 堤 雅弘 中島 祥介
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.156-162, 2014-02-01 (Released:2014-02-11)
参考文献数
20

非神経線維腫症I型の患者において,骨盤神経叢由来と考えられた悪性末梢神経鞘腫(malignant peripheral nerve sheath tumor;以下,MPNSTと略記)の1例を経験したので報告する.MPNSTの好発部位は四肢近位部,体幹,頸部とされている.また,MPNSTの約半数は神経線維腫症I型に合併するといわれる.症例は58歳の女性で,当院初診5か月前より肛門痛,左下肢の疼痛が出現した.各種画像検査の結果,骨盤内の直腸左壁に約10 cm大の腫瘍を認めた.骨盤内原発の神経原性腫瘍を疑い,腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は骨盤底の後腹膜腔で直腸左側にあり,左骨盤神経叢と固着していた.病理組織学的検査所見では,紡錐形の腫瘍細胞の束状増殖があり,多核な腫瘍細胞もみられた.各種免疫組織染色検査でneurofilamentのみ陽性であった.核分裂像が400倍で1視野当たり7 cells認められ,左骨盤神経叢由来のMPNSTと診断した.術後約6年3か月経過した現在も無再発生存中である.
著者
豊坂 昭弘 村田 尚之 三嶋 康裕 安藤 達也 大室 儁 関 保二 金廣 裕道
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.417-423, 2009-04-01 (Released:2011-12-23)
参考文献数
28

日本で受けた男性性転換手術後に晩期合併症として超高位の直腸膣瘻を経験し局所的に閉鎖しえたので報告する.患者は33歳で,7年前に男性から女性への性転換手術を受けた.3年前から人工膣から出血,排便をみている.注腸および内視鏡検査で,直腸S状部の超高位の直腸と人工膣が大きな瘻孔を形成していた.まず人工肛門を造設し,2か月後経仙骨的経路で手術を施行し癒着に難渋したが瘻孔を閉鎖した.術後は順調に経過し,2か月後人工肛門を閉鎖した.現在術後1年3月経過し再発はなく,美容的にも満足している.術後は再発の恐れから膣は使用されていない.本例は解剖学的に通常では発生しえない直腸S状部の超高位の直腸膣瘻であり,このような超高位の直腸S状部の直腸膣瘻の報告は内外とも見られず,局所的手術で修復した報告も見られないので報告した.本例での瘻孔の原因は人工膣内へ狭窄防止用ステントの使用による圧迫壊死であった.
著者
井上 隆 青松 幸雄 小林 経宏 田仲 徹行 桑田 博文 中島 祥介
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.41, no.8, pp.1604-1609, 2008 (Released:2011-06-08)
参考文献数
17

症例は55歳の女性で, 近医にて腹部エコー検査, CTを施行され, 肝外側区域の嚢胞性腫瘤病変と診断された. 精査加療目的に当科紹介受診した. CT, MRIにて膵体部より頭側腹側に突出する2房性嚢胞性腫瘤を認めた. 膵粘液性嚢胞腫瘍の術前診断にて開腹した. 術中所見, 術中超音波検査にて悪性所見を認めず, 膵腫瘍摘出術・周囲のリンパ節pick upを施行した. 病理組織学的検査所見にて繊維化を伴った膵実質より連続する嚢胞を認めた. 嚢胞上皮下に乾酪壊死を伴った類上皮細胞からなる肉芽腫およびラングハンス巨細胞を認め, 孤立性膵結核と診断した. 摘出したリンパ節も同様の所見であった. 術後に抗結核剤の4剤併用療法を2か月間施行後, 2剤併用療法を1年間施行し, 現在再発は認めていない. 今回, 孤立性膵結核の1切除例を経験したので, 文献的考察を加え報告する.
著者
京兼 隆典 弥政 晋輔 澤崎 直規 東島 由一郎 後藤 秀成 大城 泰平 渡邉 博行 田中 征洋 高木 健裕 松田 眞佐男
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.622-631, 2009-06-01 (Released:2011-12-23)
参考文献数
19
被引用文献数
2 6

はじめに:消化管穿孔症例の初診時CT所見につき検討し,穿孔部位の診断,治療法の選択において参考となる所見の抽出を試みたので報告する.方法:2000年1月から2008年1月までに当院で経験した消化管穿孔症例180例を対象とし,CT所見と穿孔部位,治療法をretrospectiveに検討した.CT所見は客観性と普遍性を重視し,評価しやすい所見として腸管外free air(以下,FA)と腹水貯留に着目した.結果:FAの検出率は上部,小腸,大腸それぞれ97.0,56.0,78.6%であった.十二指腸水平部下縁より頭側のFAは,上部,小腸,大腸それぞれ97.0,52.0,66.1%で,上部で有意に検出率が高く,尾側のFAは18.2,24.0,58.9%で,大腸で有意に検出率が高かった.尾側で前腹壁腹膜から離れた深部に存在するFAは,上部,小腸,大腸それぞれ1.0,16.0,51.8%で,尾側深部FA所見で大腸穿孔と診断した場合の感度と特異度はそれぞれ51.8%,96.0%であった.腹水の所見は,貯留の程度,部位ともに穿孔部位を判定する手がかりとはならなかったが,上部穿孔の保存的治療成功群では,肝表面腹水5 mm以下かつ尾側腹水少量以下で,24時間後のCTで腹水の増量はなかった.考察:CTにおけるFAの存在部位は穿孔部位の予測に,腹水の量と経時的変化は上部消化管穿孔の保存的治療の適応を決定するうえで有用であり,CTは消化管穿孔の治療戦略を立てるうえで有用であると考えられた.
著者
三輪 恕昭 小野 二三雄 折田 薫三
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.13, no.7, pp.868-873, 1980 (Released:2011-03-02)
参考文献数
30

大腸癌例にlevamisole (LMS) を1日150mg, 連続3日間投与, 後11日休薬のスケジュールを手術3日前より1ヵ月以上可能な限り継続し, 術後6ヵ月以上の経過の判明した44例の生存率を, 対照群90例の値と比較検討した.LMSの生存率上昇効果はStage I~IV例でみられず, 最も進行したStage V例でみられた.またその効果は, 腫瘍占居部位が腹膜翻転部より口側の大腸である時, 腫瘍の拡がりが大腸管周の1/2未満である時, 腫瘍の深達度が漿膜面に及ばない時にみられた.LMSの大腸癌例への抗腫瘍効果をみた報告は, 本報告が2例目であり, 他臓器癌例へのLMSの効果と関連づけて若干の文献的考案を行った.
著者
問山 裕二 荒木 俊光 吉山 繁幸 坂本 直子 三木 誓雄 楠 正人
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.10, pp.1431-1435, 2003 (Released:2011-06-08)
参考文献数
14
被引用文献数
1

今回我々は遅発性膿瘍およびapical bridge, blind loopによる回腸嚢の形態的問題が原因と考えられた2次性回腸嚢炎に対してsalvage operationを施行し, 良好に経過をした1例を経験したので報告する.患者は20歳の女性. 潰瘍性大腸炎2期分割手術の1期目手術後約3か月目に突然の粘血便を認めた. 回腸嚢の形態的問題およびperipouch abscessに起因する2次性回腸嚢炎と判断し, 残存直腸切除, 回腸嚢部分切除, 回腸嚢再建, 回腸嚢肛門吻合, 回腸人工肛門造設術を施行した. 術後回腸嚢の炎症は軽快し, 肛門機能低下も認めない. 現在は回腸人工肛門閉鎖術を終了し, 外来で経過観察中であるが回腸嚢炎は認めない.
著者
白石 好 森 俊治 磯部 潔 中山 隆盛
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.488-492, 2003 (Released:2011-06-08)
参考文献数
27
被引用文献数
1

非常にまれであるハンドル外傷による胃破裂とIIIa型膵損傷を合併した1例を経験し, 胃切除と膵胃吻合による尾側膵温存術式にて救命しえたので報告する. 患者は64歳の男性で, 交通事故による腹部打撲と吐血を主訴に救急搬送された. 腹部CTでFree Air, 腹腔内出血を認めたため胃破裂疑いで緊急手術となった. 手術所見は胃前壁の体下部から幽門前庭にかけて約7cmの破裂創と胃角部小彎に出血性潰瘍を認めた. また, 上腸間膜静脈右縁にて膵の完全断裂を認めた. 出血は胃潰瘍によるものと判断した. 止血のために胃切除施行し膵温存のため膵尾側の膵胃吻合を施行した. 急性期の経過は順調であったが, 軽度の膵液瘻を認めた. 退院6か月経過後でも血糖値, 膵外分泌機能には異常を認めなかった. 自験例と文献的考察から消化管破裂や大量出血を合併した症例では, 膵温存術式として膵胃吻合は適した再建法であると考えられた.
著者
齋藤 克憲 橋田 秀明 岩代 望 大原 正範 石坂 昌則 近藤 哲 加藤 紘之
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.12, pp.1829-1833, 2004 (Released:2011-06-08)
参考文献数
24

今回我々はIIc型早期胃癌と診断され, 病理組織所見にて直下にアニサキスによる好酸球性肉芽腫を認めた1例を経験したので報告する. 症例は77歳の男性. 20年来の胃潰瘍の診断にてH2-blocker, 消化性潰瘍治療薬を内服していた. 平成14年9月, 定期検診目的の胃内視鏡検査にて胃体下部大彎側にIIc+III型病変を指摘, 組織生検にてgroup Vと診断され, 深達度がsm以上の可能性があるとして外科紹介, 幽門側胃切除術を施行した. 腫瘍は0.8×0.8cmのIIc型乳頭腺癌で深達度sm1, またそのほぼ直下の固有筋層内に好酸球性肉芽腫を認め, この中心部にアニサキス虫体を認めた. 連続切片からアニサキスはIIc部分から刺入したと思われた. アニサキスが癌や潰瘍など粘膜の脆弱部から胃壁内に進入する可能性はすでに指摘されているが, 本症例のごとく慢性化した場合, 虫体が鏡視下に視認出来ないため好酸球肉芽腫を癌の一部と誤認する可能性があり, 診断上注意が必要である.
著者
香川 哲也 小林 達則 上山 聰 岡林 弘樹 末光 一三 荻野 哲也
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.365-373, 2015-04-01 (Released:2015-04-17)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

症例は63歳の女性で,来院2時間前に軽度の間歇的腹痛を自覚した.同日排便がなかったことから便秘と判断し,浣腸薬を使用したところ,症状が増悪したため当院救急外来を受診した.理学的所見は乏しかったが,経過観察目的で同日入院した.発症9時間後,腹痛が増悪して持続痛となり,11時間後には意識レベルの低下と頻脈,頻呼吸が出現した.腹部単純造影CTにて,腸管気腫および門脈ガス血症を伴う,全結腸の高度拡張を認めた.S状結腸には4 cm大の便塊が認められ,宿便による閉塞性大腸炎,敗血症性ショックの診断にて緊急手術を行った.便塊による閉塞部から近位側の全結腸が壊死に陥っていたため,結腸亜全摘術および回腸人工肛門造設術を施行した.昇圧剤持続投与,エンドトキシン吸着療法などの集学的治療により救命しえた.宿便による閉塞性大腸炎の本邦報告例は,自験例を含めて13例のみと極めてまれであるため報告する.
著者
谷村 弘
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.859-868, 1985 (Released:2012-02-15)
参考文献数
34
被引用文献数
3

新しいコレステロール石形成食を案出し, 実験的混合石形成に成功した. 肝のコレステロール合成律速酵素の測定によっても, また臨床例における栄養調査でも食餌性因子が主たる成因であることを確認した. さらにヒト胆汁組成にも日内リズムがあることを見出し, 夜間の胆汁組成を重視すべきことを指摘した.肝内結石の化学的組成分析から, かなりのコレステロールを含むものが存在することを見出した.ビリルビン石症例におけるグリシン抱合型胆汁酸の減少と胆汁中Ca++のイオン化抑制, 遊離型ビリルビンの存在および先の混合石形成食の組成と併せ考え, ビリルビン石もまた食餌が成因に関与している可能性を指摘した.
著者
庭本 博文 大橋 秀一 岡本 英三
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.203-213, 1993 (Released:2011-06-08)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

重症慢性便秘患者20例の切除結腸を用いて, 壁内神経細胞の計測と平滑筋の収縮能を検討した.画像解折装置を用いて計測した結腸1周当たりの神経細胞数は, 便秘群では154±32個と, 排便障害のない早期大腸癌患者10例の対照群の274±67個に比べ有意の減少, 核面積は便秘群では102.8±30.6μ2と, 対照群62.0±19.6μ2に比べ有意の増加 (大型化) を示した.新鮮結腸筋組織のmuscarinic acetylcholinereceptorの [3H] QNBに対する特異的結合量は, 便秘群では447.0±79.6fmole/mg proteinと対照群の291.6±31.2f mole/mg proteinに比べ有意の増加を示した.さらに, muscarinic agonistであるoxotremorineに対する結腸筋条片の用量反応曲線において, 便秘群は対照群より著明な左方移動を示し, Cannonのdenervation supersensitivityの存在を示唆した.以上より重症便秘腸管の平滑筋は収縮能を保持しているが, コリン作動性の興奮性ニューロンの減少およびそれによる相対的抑制ニューロンの優位が慢性便秘の病態に深く関与していると推論された.
著者
末永 昌宏 国場 良和 田中 穣 飛永 純一 山中 秀高 初野 剛 内村 正史
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.29, no.10, pp.1987-1991, 1996 (Released:2011-08-23)
参考文献数
4
被引用文献数
1

癌と免疫と地域医療を掲げ1985年に設立された当院は, 患者に正確な情報を伝え十分に理解を得た後に検査, 治療を行う-インフォームド・コンセント (IC)-が正しい医療のあり方とし, 87年IC委員会を発足し日本的土壌や当院にあったICを求めた. 医療は患者自身の意思, 選択が基本とし, 90年から入院患者と家族に医療に関しての考え方を調査した. 癌患者に対する手術, 化学療法などの治療法とその治療効果, 危険性, 副作用の説明に関して癌の告知は大きく関係するため家族や院内フォロー体制を整え, 患者の意思に従って告知を進めた. 消化器癌手術患者527名中82%が告知を希望し, 74%に告知した. 90年には52%の告知率が95年には88%となった. 生存者に対するアンケート調査では大部分の患者が当院での告知に対して満足の回答をした. 結語: 患者の意思を尊重し, フォロー体制を整えた上での癌の告知は日本的土壌の中でも進めうる.
著者
森脇 義弘 鈴木 範行 杉山 貢
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.147-153, 2009-02-01 (Released:2011-12-23)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

はじめに:肝,脾,腸間膜損傷で出血性ショック合併の腹部外傷では,蘇生的緊急開腹術など外科手技の適応と緊急輸血の適応判断を迫られる.異型輸血を含む危険を内在する未交差赤血球製剤(uncrossmatched-red cell concentrate;以下,UCM RCC)緊急輸血の安全性と問題点を考案する.方法:過去5年間で,O型Rh+UCM RCCを含むUCM RCC緊急輸血を実施した腹部外傷を対象にUCM RCC輸血の実態と輸血関連インシデント・アクシデント回避の成否を検討した.結果:UCM RCC輸血は33例に54回,388単位実施され,準備UCM RCCは426単位で使用率は91.1%であった.出血源は肝臓13例,脾臓8例,腸間膜17例で,輸血前平均収縮期血圧は62.5 mmHg,脈拍数117回/分,ショック指数(脈拍数/収縮期血圧)1.97,base excessは−12.7 mEq/l,7日生存例は48.5%であった.血液型判定(blood typing test;以下,BTT)未判定でのO型UCM RCC輸血は17例(21回,168単位),うち非O型への輸血は11例(14回,120単位)であった.1回のBTT後のO型UCM RCC輸血は8例(12回,96単位),うち非O型への輸血は4例(7回,54単位)で,1回のBTTでの非O型症例への未確認同型UCM RCC輸血は15例(20回,120単位)であった.O型UCM RCC輸血全体に年度別増減はなかったが,1回のBTTでの非O型への未確認同型UCM RCC輸血は減少した.ABO型不適合輸血,輸血に関わるインシデントはなかった.考察:UCM RCC輸血では,院内マニュアルを整備したうえでのO型UCM RCCの使用は安全と考えられた.
著者
田中 圭 大塚 将之 清水 宏明 吉留 博之 加藤 厚 古川 勝規 吉富 秀幸 岸本 充 中谷 行雄 宮崎 勝
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.11-17, 2014-01-01 (Released:2014-01-21)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

症例は61歳の女性で,嘔気を主訴に近医を受診した.上部消化管内視鏡で十二指腸第2部に潰瘍性病変を認め,生検で低分化腺癌と診断された.CTで門脈前後区域枝分岐部に接する造影効果の乏しい腫瘤を認め,十二指腸癌,肝転移の診断で全身化学療法が提案された.本人・家族がセカンドオピニオンを希望され,2病院を受診したのち症状出現から4か月後に当院紹介となった.精査で十二指腸癌,および肝炎症性偽腫瘍などを含めた肝腫瘤の診断にて膵頭十二指腸切除術,拡大肝後区域切除術を施行した.病理組織学的検査で十二指腸および肝臓ともに癌は認めず,壊死巣を伴う肉芽腫を認めた.壊死巣では術前に十二指腸生検で見られた癌細胞に類似する壊死細胞が認められ,免疫組織学的に壊死細胞はcytokeratin陽性であった.以上から,十二指腸癌および肝転移が自然消失したものと考えられた.十二指腸癌の自然消失の報告はなく,文献的考察を加えて報告する.
著者
田嶋 哲也 春木 茂男 小貫 琢哉 稲垣 雅春 有田 カイダ 薄井 信介 伊東 浩次 松本 日洋 滝口 典聡
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.806-814, 2018-12-01 (Released:2018-12-29)
参考文献数
19

横隔膜損傷の治療においては,胸腹部外傷であることを念頭に置いた治療戦略が必要である.当院で経験した左外傷性横隔膜損傷9例と報告例50例の検討から,特に手術アプローチに関して考察する.手術アプローチは,開腹先行46例(2例に開胸追加),開胸先行11例(6例に開腹追加),開胸開腹同時2例であった.予後は合併損傷に影響され,開腹先行で40例生存,6例死亡,開胸先行で6例生存,5例死亡,開胸開腹同時は2例生存であった.循環動態の安定した左横隔膜損傷では手術アプローチを考慮する余地があるが,腹腔内臓器損傷への迅速な対応が予後に影響する可能性もあるため,開腹先行アプローチが推奨される.体位は胸腹部ともにアプローチ可能な右半側臥位が有用であり,開腹+胸腔鏡観察は合理的なアプローチの一つである.
著者
吉田 卓弘 梅本 淳 山井 礼道 清家 純一 本田 純子 丹黒 章 島田 光生 米田 亜樹子
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.1576-1581, 2007 (Released:2011-06-08)
参考文献数
37
被引用文献数
6 8

非常にまれな胃異所性膵から発生した腺癌の1例を報告する. 症例は64歳の男性で, 胸膜炎の経過観察中に, 胸部CTにて胃幽門部大彎側に径3.0cmの腫瘤を偶然に指摘された. 上部消化管内視鏡検査, 超音波内視鏡検査を施行したところ, 幽門前庭部になだらかな隆起性病変を認め, 筋層を主座とする粘膜下腫瘍を認めた. Retrospectiveには2年前のCTでも存在しており, 腫瘍径にほとんど変化を認めなかった. しかし, 幽門狭窄症状を来したため, 胃gastrointestinal stromal tumorの術前診断のもと腹腔鏡下幽門部分切除術を施行した. 腫瘍の一部を術中迅速診断に提出したところ, 胃異所性膵と考えられた. 永久標本では粘膜下層から漿膜下にかけて腫瘍が存在し, 一部に腺癌への移行像を認め, 異所性膵から発生した高分化型腺癌と診断された. 粘膜下腫瘍の治療においては, 悪性腫瘍が併存する可能性も念頭におく必要がある.
著者
植田 隆太 今 裕史 和久井 洋佑 阪田 敏聖 蔵谷 大輔 武田 圭佐 小池 雅彦 鈴木 昭
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.985-991, 2020-12-01 (Released:2020-12-26)
参考文献数
16
被引用文献数
2 3

症例は63歳の男性で,糖尿病性腎症による末期腎不全で血液透析を19年間施行し,高カリウム血症のためポリスチレンスルホン酸カルシウム(calcium polystyrene sulfonate;以下,CPSと略記 商品名:カリメート散)を内服していた.進行する貧血と黒色便に対する精査で下行結腸癌の診断となり,腹腔鏡下結腸部分切除術(下行結腸),D3郭清を施行した.術後経過は良好で第11病日に退院したが,その後も貧血の進行と血便を認めたため,第43病日に下部消化管内視鏡検査を施行した.吻合部に全周性の出血する潰瘍を認め,その他に縦走潰瘍を1か所認めた.潰瘍からの生検では,潰瘍底に好塩基性多菱形の沈着物を認め,CPSの関与が疑われた.そのためCPSの内服を中止したところ,貧血の進行は止まり,その後の下部消化管内視鏡検査でも潰瘍は改善していた.それ以降3年間,癌および潰瘍の再発なく生存中である.