著者
早川 弘輝 末永 昌宏 飛永 純一 武内 有城 内村 正史 野村 尚弘 飯田 俊雄
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.1331-1335, 2001 (Released:2011-06-08)
参考文献数
20
被引用文献数
1

症例は41歳の女性. 手術歴はない. 平成3年と5年に下腹部痛で当院を受診. 平成11年11月7日夕方突然間欠的な右季肋部痛が出現, 次第に増強して当院内科を受診した. 右上腹部に強い圧痛を認め腸音は亢進していたが, 反跳痛や筋性防御はなく, 白血球数, CRP値も正常であった. 腹部X線写真, およびCTで肝前面の横隔膜下に鏡面像を伴った小腸の拡張を認めた. 嘔吐も出現し, イレウスの診断で経鼻胃管を挿入し内科入院したが, 鎮痛剤投与でも腹痛は続き外科紹介. 腹部は鼓張し腸音は金属音で内ヘルニアを疑い緊急手術を施行. 肝と腹壁の間にviolin string状の索状物を伴った著明な線維性癒着を認め, その間に小腸が入り込んでいた. 小腸を引き出し線維性癒着を切除してイレウス解除できた. 子宮附属器に軽度の炎症像を認め, 術後の採血でクラミジアIgA抗体は1.38, IgG抗体は5.41と陽性でクラミジア感染による肝周囲炎が原因のイレウスと考え報告した.
著者
那須 啓一 志田 大 松岡 勇二郎 谷澤 徹 松永 裕樹 真栄城 剛 宮本 幸雄 井上 暁 梅北 信孝
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.1485-1492, 2011-11-01 (Released:2011-11-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1 2

S状結腸癌の術前検査にて偶発的に発見され,癌手術に際して同時切除した仙骨前面の骨髄脂肪腫の症例を経験した.症例は70歳の男性で,S状結腸癌の術前検査の腹部CTにて第3から第5仙椎前面に内部不均一に淡い造影効果を示す径4cmの腫瘤が見られた.MRIでは脂肪成分の含有を認め辺縁も一部不整であったことから,脂肪肉腫の術前診断にて,S状結腸癌の手術にあわせて同時に切除した.仙骨前面腫瘤は径4cm大の被膜形成の明瞭な充実性腫瘤で仙骨前面に比較的強固に付着していたが浸潤はなかった.組織学的には成熟脂肪組織の増生とその中に混在する三系統(赤血球,白血球,血小板)の造血細胞からなる骨髄組織が見られ,悪性所見はなく骨髄脂肪腫と診断した.骨髄脂肪腫は,主として副腎に発生する比較的まれな軟部組織由来の良性腫瘍であり,副腎以外の部位に発生する骨髄脂肪腫は極めて少ないことから,画像診断も含めて文献的考察を加え報告する.
著者
松田 常美 竹村 茂一 大場 一輝 上西 崇弘 小川 雅生 市川 剛 高台 真太郎 新川 寛二 田中 宏 久保 正二
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.141-146, 2009-02-01 (Released:2011-12-23)
参考文献数
12

はじめに:肝切除施行例における腹腔ドレーンの管理法について検討した.対象と方法:肝切除術中に閉鎖式ドレーンが留置された104例を術後4日目以内腹腔ドレーン抜去72例(短期間留置群)と術後5日目以降抜去32例(長期間留置群)に分類し,ドレーン留置期間延長の要因や術後合併症の観点から肝切除術における適切な腹腔ドレーン抜去時期について検討した.なお,腹腔ドレーンは胆汁混入がみられない(総ビリルビン値5 mg/dL未満)場合,抜去した.結果:腹腔ドレーン長期間留置に関わる因子は,単変量解析によると腫瘍径(大型腫瘍),1区域以上切除,手術時間,術中出血量,術後4日目のドレーン排液量(200 mL以上)で,多変量解析によると手術時間,術中出血量およびドレーン排液量が独立因子であった.胆汁漏は短期間留置群の2例にみられ,そのうち1例に腹腔内感染が発症した.創感染は両群のそれぞれ1例に,難治性胸腹水は短期間留置群の2例にみられたが,両群のそれら術後合併症の頻度に差はみられなかった.まとめ:肝切除例において,手術時間,術中出血量および術後4日目のドレーン排液量が腹腔ドレーン長期留置に関わる独立した因子であった.胆汁混入がみられない場合,腹腔ドレーンの術後4日目以内抜去は妥当であると考えられた.
著者
中島 康雄 指山 浩志 松尾 恵五 浜畑 幸弘
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.152-157, 2017-02-01 (Released:2017-02-21)
参考文献数
19
被引用文献数
1

超音波検査にて診断しえた,異物による肛門周囲膿瘍を3例経験した.2例は内外肛門括約筋間に異物が穿通し肛門周囲膿瘍を形成していた.1例は坐骨直腸窩に異物が穿通し直腸周囲膿瘍を形成していた.内外肛門括約筋間に異物が穿通した2症例は肛門管と肛門皮膚に交通を認め痔瘻様の所見を呈したため,異物除去に加え痔瘻根治術を行った.異物が坐骨直腸窩に穿通していた1例は異物除去およびドレナージのみを行った.それぞれ,術後の経過は良好にて治癒した.肛門異物による肛門周囲膿瘍の報告はまれである.報告されているほとんどの症例は消化管穿孔あるいは穿通が原因であると診断されている.しかし,内外肛門括約筋間に異物が穿通した場合,痔瘻と同様の1次口を認める症例がある.その場合,痔瘻根治術も考慮する必要があり術前診断が重要であると考えられたので報告する.
著者
原 鐵洋 二宮 基樹 土井 寛文 久原 佑太 木建 薫 豊田 和宏 小林 弘典 橋本 泰司 坂下 吉弘 宮本 勝也 嶋本 文雄
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-7, 2020-01-01 (Released:2020-01-31)
参考文献数
13

ニボルマブ投与により原発巣が著明に縮小し,10か月後に著効を認めたStage IV胃癌を経験した.症例は80歳の女性で,進行胃癌の診断で当院へ紹介された.No. 11リンパ節,大動脈周囲リンパ節の腫大を認め,Stage IV胃癌と診断した.一次治療でS-1とoxaliplatinの併用療法,二次治療でramucirumabとpaclitaxelの併用療法を施行したが有害事象と病状進行のため中止し,三次治療としてニボルマブを開始した.6コース投与後に原発巣が縮小した一方でNo. 11リンパ節は増大傾向を示したが,QOLの著しい改善を認め継続したところ,19コース投与後に著明な縮小を認めた.30コース投与後に原発巣は瘢痕化し,No. 11リンパ節はさらなる縮小を認めた.ニボルマブ投与により画像上増悪傾向を示しても全身状態,治療経過を考慮し継続することで遅発性に効果を認める例があることが示された.
著者
渡辺 和宏 舟山 裕士 福島 浩平 柴田 近 高橋 賢一 上野 達也 長尾 宗紀 羽根田 祥 松野 正紀 佐々木 巌
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.517-521, 2004 (Released:2011-06-08)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

術前診断が可能であった右傍十二指腸ヘルニアを経験したので報告する. 症例は71 歳の男性で, 突然の右側腹部痛で発症した. 小腸造影にて, 口側, 肛門側での狭窄を伴う, 空腸係蹄の集塊像を右側腹部に認めた. 上腹部CTにて, 右側腹部で被膜に包まれ嚢状塊となった拡張した小腸を認め, 上腸間膜動静脈の腹側を扇状構造の腸間膜が走行していた. 右傍十二指腸ヘルニアの診断にて, 発症から14日後, 開腹手術となった. 開腹所見にて下結腸間膜窩に発生した右傍十二指腸ヘルニアと診断され, 嵌入した腸管を還納した後ヘルニア門を閉鎖した. 腸間膜側壁窩に発生する一般的な傍十二指腸ヘルニアでは, ヘルニア嚢は上腸間膜動静脈の背側を走行するが, 自験例では上腸間膜動静脈とは独立した位置関係であった. 下結腸間膜窩をヘルニア門とするヘルニアは我々が検索した限りでは報告がなく, 極めてまれな症例であると考えられた.
著者
福井 淳一 井上 健太郎 向出 裕美 尾崎 岳 道浦 拓 徳原 克治 岩本 慈能 坂井田 紀子 植村 芳子 權 雅憲
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.223-229, 2014-04-01 (Released:2014-04-12)
参考文献数
10

症例は65歳の女性で,下血を主訴に前医受診し高度貧血を認めた.上部・下部内視鏡にても原因不明の消化管出血に対し,造影CTを施行し小腸に強い造影効果を伴う腫瘤を認めた.当院にて小腸カプセル内視鏡およびダブルバルーン小腸内視鏡を施行し,下部空腸に20 mm大のびらん・delleを伴う粘膜下腫瘍様の腫瘤を認めた.消化管出血を伴う空腸gastrointestinal stromal tumorと診断し腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査所見および免疫組織化学検査所見では中間悪性型の小腸glomus腫瘍であった.消化管原発glomus腫瘍は比較的まれで,そのほとんどが胃原発である.小腸glomus腫瘍は本邦では報告がなく英文報告でも2例しか報告されていない,極めてまれな疾患である.
著者
稲垣 大輔 長谷川 慎一 吉田 達也 大佛 智彦 米山 克也 笠原 彰夫 山本 裕司
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.141-147, 2010-02-01 (Released:2011-12-27)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

はじめに:高齢者大腸癌症例の術後合併症のリスク因子を検討して,手術リスク評価法であるEstimation of Physiologic Ability and Surgical Stress(以下,E-PASS)の高齢者大腸癌に対する有用性の評価を行う.方法:2002年から2007年まで,当院において原発巣を切除した大腸癌の75歳以上82症例の臨床病理組織学的因子と術後合併症を検討した.E-PASSの術前リスクスコア(PRS),手術侵襲スコア(SSS),総合リスクスコア(CRS)を算出し,術後合併症とE-PASSとの関連を検討した.結果:術後合併症は36症例(43.9%)に発生した.合併症非発生群(A群)と発生群(B群)に分類した.PRS, SSS, CRSはすべてB群において有意に高値で,またB群にはCRS 0.5以上の症例が有意に多かった.腸管穿孔,低栄養,PS 2または3, ASA分類3または4の症例はB群に有意に多く認めた.多変量解析の結果,CRS 0.5以上が術後合併症発生に関する独立したリスク因子として選択された.考察:E-PASSは高齢者大腸癌症例に対するリスク評価法として有用であると考えられた.
著者
塚本 賢治 弘中 武 園山 輝久 野中 雅彦 牧野 弘之 岡 隆宏 鴻巣 寛 山谷 和則
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.19, no.11, pp.2215-2221, 1986 (Released:2011-03-02)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

肝切除後の形態的, 機能的肝再生を知る目的で, 肝切除23例を対象とし, Computed tomography (以下CTと略す) を用い肝体積を経時的に反復測定し, 経時的に行った肝機能検査と比較検討した.非硬変大量切除例においては肝体積の回復は復元率平均82%, 機能的にもほぼ術前値に復した.中少量切除例において, 非硬変例は体積の有意な回復は示さなかったが, 機能的には術前値に復した.しかし, 硬変例では有意な体積の回復があるにもかかわらず, 機能的には術前値に復さず, 硬変中少量切除例は形態的には再生しても機能的な再生は不良であった.
著者
安西 春幸 高木 国失 太田 博俊 大橋 一郎 高橋 知之 中島 聰聰
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, pp.2094-2098, 1988 (Released:2011-08-23)
参考文献数
19
被引用文献数
5 4

未分化型腺癌の組織型を示す隆起型早期胃癌は少く, 単発早期胃癌手術症例1, 150例中10例であった. 性別, 占居部位, 深達度は分化型腺癌の隆起型に比較し, 明らかな差はないが, 平均年齢でやや若い傾向にあった.組織学的に隆起形態を3型に分類した. A: 表層粘膜の癌発育によるもの一6例8B: 表層粘膜のみならず, 粘膜下層への癌浸潤を認めるもの-3例. C: 粘膜層より, 粘膜下層での癌浸潤が著明であるもの-1例. Aはsignet-ring cell carcinoma (sig), Bはpoorly differentiateded enocarcinoma (por), Cはmuconodular adenocarcinoma (muc) がそれぞれ多い傾向にあった. 予後は隆起型分化型腺癌同様, 良好であった.
著者
石村 美樹 真鍋 邦彦 田口 和典 田村 元 大村 孝志 内野 純一
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.8, pp.2129-2133, 1990

胆石症を併存したDubin-Johnson症候群 (以下D-J症候群) の1手術例を報告する.症例は35歳の男性で黄疸, 右季肋部痛を主訴とし, 点滴静注胆嚢・胆管造影法で, 結石の有無は不明であったが, 超音波検査で胆嚢内に音響陰影を伴った結石エコーが描出された.摘出胆嚢内には, コレステロール含量98%以上の327個のコレステロール胆石があった.術後肝機能検査所見は術前とほとんど変わりなく, 術後3日では血清総ビリルビン5D6mg/dl, 直接型ビリルビソ4.0mg/dlと最高値を示したが, 経過は良好で, 術後11日で退院した.1988年までの胆石症を併存したD-J症候群の本邦報告例は本症例を含めて24例であった.D-J症候群を併存しない胆石症手術例の年齢分布と比較して, 報告された24例中では10代, 20代の若年者に胆石の併存が多かった.D-J症候群の患者が腹痛を訴えた時は, 胆石症の併存も考慮して超音波検査を第一に行うことが必要である.
著者
岡田 倫明 清地 秀典 永岡 智之 中川 祐輔 山内 達雄 石田 直樹 今井 良典 中村 太郎 岡田 憲三 梶原 伸介
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.350-356, 2015-04-01 (Released:2015-04-17)
参考文献数
19
被引用文献数
2

症例は20歳の男性で,抗生剤抵抗性の発熱,咽頭痛,激しい乾性咳が2週間継続し,突然の左側腹部痛を主訴に当院救急受診した.採血にて肝機能異常,リンパ球優位の白血球上昇,異型リンパ球の出現,EBV-VCA-IgM抗体の陽性,EBNA抗体陰性を認めた.また,CTにて脾腫,脾損傷,腹腔内出血を認めた.Epstein-Barr virus感染による伝染性単核球症(infectious mononucleosis;以下,IMと略記)からの脾腫に伴う脾破裂と診断し緊急手術を行った.腹腔内に500 mlの出血を認め,脾腫,被膜損傷を伴っていた.術後IMに非典型的な,咳嗽が続き,マイコプラズマ抗体が入院時の8倍の上昇を認めた.マイコプラズマ肺炎の合併による咳嗽からの腹圧の上昇が脾破裂の誘因と考えられた.IMによる脾破裂はまれであり,マイコプラズマ肺炎の合併から脾破裂に到った報告例はなく,非常に貴重な症例と考えられた.
著者
古川 聖太郎 楢崎 肇 中山 智英 市村 龍之助 岡村 圭祐 藤田 美芳 森田 高行 平野 聡
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.608-616, 2016-07-01 (Released:2016-07-23)
参考文献数
36
被引用文献数
1

症例は消化管ポリポーシスの家族歴のない54歳の女性で,36歳時の上部消化管内視鏡検査で初めて胃ポリープを指摘された.それ以降,胃十二指腸ポリープが出現,増大した.徐々に貧血と低蛋白血症が進行し,薬物療法が奏効せず,54歳時に手術が必要と判断した.病変は噴門部から十二指腸下行脚まで連続して存在し,空腸以下に病変を認めないため,胃全摘,十二指腸球部切除術を施行した.摘出標本では大小多数のポリープが集簇し,組織学的にCronkhite-Canada型と診断した.十二指腸に小ポリープが遺残したが,速やかに症状は改善し,術後3年6か月現在,症状は再燃していない.一般に薬物療法によるポリポーシスの根治は困難で,有症状例には外科手術が有効な症例もある.ポリープに悪性所見を認めない場合,全ての粗大ポリープを含む可及的小範囲の切除とし,術後は症状再燃に注意し,厳重経過観察することも選択肢の一つとなりうる.
著者
小泉 範明 國場 幸均 村山 康利 栗生 宜明 中西 正芳 阪倉 長平 大辻 英吾
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.1632-1638, 2011-12-01 (Released:2011-12-20)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

症例は52歳の男性で,他院でStage IIの直腸癌に対して低位前方切除術を施行されている.術後1年4か月で血清CEA値の上昇を認め,腹部CTおよびMRIで吻合部周囲に多発する嚢胞性腫瘤を指摘された.大腸内視鏡検査では吻合部の口側に粘膜下腫瘍様の隆起性病変として認められた.FDG-PETでは同部に一致してFDGの集積を伴っていたため局所再発と診断され,当科に紹介となり手術を施行した.病理組織学的検査では悪性所見を認めず,最終的にimplantation cystと診断した.本症は消化管吻合に伴って生じるまれな合併症であるが,いまだ広く認識されておらず,確定診断に苦慮することも多い.器械吻合の普及に伴って増加しており,再発との鑑別に際して念頭に置くべきである.血清CEA値の上昇やFDG-PETで集積を認めた報告は過去になく,本例はまれな1例であると考えられたので,文献的考察を交えて報告する.
著者
森本 大樹 川崎 健太郎 高瀬 至郎 神垣 隆 生田 肇 黒田 大介 黒田 嘉和
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.39, no.10, pp.1617-1622, 2006 (Released:2011-06-08)
参考文献数
40
被引用文献数
5 5

症例は51歳の女性で, 右下腹部痛を主訴に当科を受診した. 右下腹部に圧痛を認めたが, 腹膜刺激症状は認めなかった. 血液検査では軽度の炎症所見を認めるのみであったが, 腹部超音波検査で右下腹部に腫大した虫垂と思われる所見を認めたため, 急性虫垂炎と診断し緊急手術目的にて同日入院となった. 開腹すると, バウヒン弁よりやや肛門側の上行結腸の腸間膜対側にピンホール様の孔と膿瘍を認め, その腸間膜側は穿通して間膜内に膿瘍形成をしていた. 腸管内腔に細い棒状の異物を触知したため異物誤飲による消化管穿孔と診断し, 回盲部切除術, 腹腔洗浄ドレナージを行った. 異物は爪楊枝であった. 急性腹症の診察においては, 異物誤飲の可能性を念頭におく必要があると思われた.
著者
丸山 智宏 須田 和敬 大竹 雅広
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-7, 2016-01-01 (Released:2016-01-30)
参考文献数
23

目的:前立腺全摘術後の合併症として,鼠径ヘルニアを発症することが知られており,前立腺全摘術の実施件数が増加していることを考慮すると,看過できない合併症の一つといえる.本研究では,前立腺全摘術後に発症した鼠径ヘルニアの臨床的特徴と適切な手術術式について検討した.方法:2003年から2014年までに初回根治手術を施行した成人男性鼠径ヘルニア611例673病変を,前立腺全摘術の既往のある群(既往群,36例47病変)と既往のない群(対照群,575例626病変)に分けて比較検討した.結果:期間内に前立腺全摘術が施行された251例のうち,術後の鼠径ヘルニアは36例(14%)に発症した.前立腺全摘術の術式別の発症率は,後腹膜鏡下前立腺全摘術で17%,ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術で9%であった.鼠径ヘルニアの両側発症は既往群で11例(30%),対照群で51例(9%)であった.既往群の鼠径ヘルニアは全47病変が外鼠径ヘルニアであった.既往群で鼠径ヘルニアの手術術式としてmesh plug法を44病変(94%)に施行し,術後漿液腫を1例に認めたが,再発症例は認めなかった.結語:前立腺全摘術後の鼠径ヘルニアは,両側発症が多く,全例が外鼠径ヘルニアであった.前立腺全摘術後の鼠径ヘルニアに対するmesh plug法は妥当な術式と考えられる.
著者
大塚 敏広 河崎 秀樹 鷹村 和人 吉田 金広 篠原 永光 久山 寿子
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.1517-1522, 2009

症例は72歳の女性で,2007年11月CTで骨盤内腫瘤を指摘され,当院紹介された.腹部CTで骨盤内に5.0×8.0 cm大の造影される腫瘤を認めた.腫瘍の灌流静脈は上腸間膜静脈であった.回腸gastrointestinal stromal tumorの診断で開腹手術を施行した.回腸末端から約20 cm口側の回腸に腫瘍を認めた.腫瘍を含む回腸を切除した.切除標本では,腫瘍は大きさ9.0×7.0×6.0 cm大で,割面は白色から淡黄白色で一部に壊死や出血を認めた.病理組織学的検査では,腫瘍は主に回腸漿膜から壁外に増殖していた.硝子化した膠原線維バンドを伴い,粘液性間質の中に紡錘形細胞が不規則に増生していた.樹枝状に分岐する血管が認められ,血管周皮腫様構造も認められた.免疫組織化学染色検査ではvimentin,CD34,CD99,bcl-2が陽性で,<i>c-kit</i>は陰性でsolitary fibrous tumor(以下,SFT)と診断された.術後経過良好であった.まれな回腸原発のSFTの1例を経験したので報告する.
著者
小原 尚 小金井 一隆 辰巳 健志 二木 了 黒木 博介 山田 恭子 荒井 勝彦 杉田 昭 福島 恒男
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.245-252, 2018-03-01 (Released:2018-03-28)
参考文献数
32

30歳未満で難治性直腸肛門病変に対して直腸切断術を施行したクローン病17例の臨床経過と予後を検討した.適応となった病態はのべ症例数で,直腸肛門狭窄12例,難治性痔瘻9例,直腸瘻4例,直腸膣瘻2例,骨盤内膿瘍2例,直腸尿道瘻1例,直腸周囲膿瘍1例,aggressive ulceration 1例,痔瘻癌1例であった.これらの病変により,全例,日常生活や就労・就学に支障を来していた.術後は前述の症状は全例で改善し,術前から未就労であった2例は未就労のままであったが,15例(88%)が就労,就学が可能となった.術後合併症は14例(82%)に認め,のべ症例数で人工肛門関連合併症8例,正中創SSI 5例,会陰創治癒遅延3例,性機能障害(術直後)2例,癒着性イレウス2例であった.クローン病の難治性直腸肛門病変に対する直腸切断術は術後合併症があるものの,自覚症状の改善とQOLの向上に有効であり,若年者に対しても考慮すべき治療の選択肢と考えられた.
著者
大谷 吉秀 桜井 嘉彦 五十嵐 直喜 横山 剛義 木全 大 亀山 香織 久保田 哲朗 熊井 浩一郎 北島 政樹
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.990-994, 1998 (Released:2011-08-23)
参考文献数
26

消化器癌の進展過程でのマトリックス分解酵素 (matrix metalloproteinase: MMP) による細胞外マトリックス (extracellular matrix: ECM) 破壊における間葉系細胞の役割について検討した.1型, III型コラーゲンを分解するMMP-1は癌先進部組織で高い酵素活性を示した.MMP-1産生細胞の同定を目的にin situ hybridizationを行った結果, 癌巣周囲の線維芽細胞や顆粒球にMMP-1mRNAの発現を認めた.ヒト胃粘膜由来線維芽細胞の培養液にヒト胃癌細胞株MKN-74の培養上清を添加すると, 単独培養に比べ高いMMP-1産生を認めた (p<0.05).また, ヒト胃癌細胞株TMK-1の腹腔内投与によるヌードマウス腹膜播種モデルでは, 癌細胞を線維芽細胞の培養上清とともに投与することで結節数の有意な増加を認めた (p<0.01).以上より, 消化器癌によるECM破壌に間葉系細胞が重要な役割を演じていることが確認された.
著者
松林 潤 平良 薫 余語 覚匡 鬼頭 祥悟 浦 克明 豊田 英治 大江 秀明 川島 和彦 石上 俊一 土井 隆一郎
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.328-336, 2015-04-01 (Released:2015-04-17)
参考文献数
37

症例は62歳の男性で,健康診断にて胆道系酵素上昇を指摘され,当院を受診した.画像検査で肝左葉に直径3 cmの腫瘤性病変と,その近傍に拡張した肝内胆管を認めた.胆汁細胞診はclass IIであったが,多数の肝吸虫の虫卵が証明された.本患者にはフナの生食の嗜好歴があった.Praziquantelを内服後,肝吸虫症に合併した肝内胆管癌と考え,肝左葉切除術を施行した.病理組織学的検査は低分化型腺癌であった.腺癌周囲にはリンパ球浸潤や線維化が生じており,慢性胆管炎後の変化が見られた.胆管内には結石などその他の慢性炎症の原因となるものはなく,本症例は肝吸虫症による慢性炎症が胆管癌発生に関与したと考えられた.淡水魚の生食歴などがあれば,糞便検査や十二指腸液検査などを行い,肝吸虫や虫卵を認めた場合は,駆虫するとともに胆管癌合併の可能性を考慮する必要がある.