著者
八重樫 泰法 中島 章恵 細井 信之 福田 春彦 佐瀬 正博
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.33, no.9, pp.1648-1651, 2000 (Released:2011-06-08)
参考文献数
9
被引用文献数
1 2

液体窒素の飲用による胃破裂報告は, 本邦における第1例目と考えられる.症例は17歳の男性. 高校学園祭の化学部の催しで, 液体窒素にジュースを混じて約30ml飲用した.飲用直後より激烈な腹痛が発症し, 当院救急外来に搬送された. 来院時, 著しい腹部膨満および筋性防御を認め, 腹部単純X 線で腹腔の約1/2を占める遊離ガスを認めた. CT検査で腹腔内の多量の遊離ガス, 後腹膜腔の遊離ガスおよび縦隔内の遊離ガスを認めた. 内視鏡検査では, 胃体部小彎側に縦走潰瘍を認めた. 緊急手術では, 胃体上部小彎に3cmの縦走する穿孔を認め, この部を縫合閉鎖した.術後経過は良好であり, 第26病日に軽快退院した. 液体窒素の飲用傷害について, 搬送時には凍傷を考慮したが, 実際は揮発窒素ガス産生による胃破裂が主であった.
著者
白井 芳則 更科 広実 斉藤 典男 布村 正夫 奥井 勝二
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.840-845, 1991 (Released:2011-08-23)
参考文献数
14

69歳以下の男性直腸癌治癒切除例のうち, 骨盤内自律神経を温存しえて再発や転移を認めない症例を対象に, アンケート調査および術前, 術後の性機能検査を行い, 術後の性機能障害について検討した.手術時の平均年齢は55.9歳, アンケート調査時は平均57.7歳であった.アンケート調査結果より, 骨盤内自律神経をすべて温存した群 (全温存群) では勃起障害7.1%, 射精障害21.4%であったのに対し, 下腹神経を損傷し骨盤神経叢を温存した群 (部分温存群) では勃起障害26.3%, 射精障害100%であった.術式別では低位前方切除例および側方郭清非施行例に性機能障害が少なかった.性機能検査結果より, 勃起障害は切手法, AVSS負荷試験で確認されたが, 全温存群においても術後に精液量の減少を認めた.また陰茎の流入動脈系に異常を認めた症例はなく下垂体, 性腺機能にも大きな変動はみられなかった.
著者
山田 一隆 丹羽 清志 鮫島 隆志 春山 勝郎 桂 禎紀 長谷 茂也 石沢 隆 島津 久明
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.2777-2782, 1990 (Released:2011-06-08)
参考文献数
12

直腸癌の術後排尿・性機能障害とストーマ障害についてアンケート調査を行い, 回答を得られた73例の成績を分析した.排尿困難と残尿感は肛門括約筋温存術式より直腸切断術後に多く発生し, 腸骨動脈領域郭清例での発生率はそれぞれ38%, 34%であり, 非郭清例の8%, 8%に比べ高頻度にみられたが, 自律神経温存手術では認められなかった.また, 男性に比べ女性で排尿障害の出現率が低い傾向が認められた.性機能障害は前方切除術よりも直腸切断術および貫通・重積術式で多く認められた.男性の人工肛門造設例での性生活障害の出現率は87%であり, 非造設例の44%に比べ多く, また女性の症例でも同様の結果が得られ, 心因性の障害の関与が推測された.年齢層別では高齢者ほど性機能障害の出現が高頻度に認められた.ストーマ障害では, 位置異常の訴えは3%と少なく, 周囲皮膚障害は24%と比較的高率に認められた.
著者
織畑 道宏 加戸 秀一 竹内 弘久 畑 真 森脇 稔 掛川 暉夫
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.439-444, 2001 (Released:2011-06-08)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

目的: 大量経口投与されたビタミンB12は濃度勾配により吸収され, 内因子を必要としない. 胃切および胃全摘症例についてメコバラミン (メチコバール) の経口投与の有効性を検討した. 方法: 幽門側胃切除B-I法11例, 胃全摘R-Y 8例にメコバラミン1日量1.5mgを分3で4週間経口投与し, 血清ビタミンB12濃度を測定した. 成績: 投与前, 2および4週目の血清ビタミンB12濃度は胃切例で, 412±33,581±62および701±94pg/ml, 胃全摘例で312±40,440±34および469±30pg/mlと増加した. 胃切例ではビタミンB12の投与前値と増加量に有意な正の相関を認め, 逆に胃全摘例では負の相関の傾向を認めその増加に上限が示唆された. 結論: 常用量のメコバラミン経口投与は, 胃切例や胃全摘例で吸収され, ビタミンB12の補給に外来で容易に管理できる有効な方法である.
著者
釜田 茂幸 清家 和裕 亀高 尚 牧野 裕庸 小山 隆史 安野 憲一 宮崎 勝
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.691-695, 2009-06-01 (Released:2011-12-23)
参考文献数
17

Stage I大腸癌根治切除4年後に孤立性仙骨転移を来したまれな症例を経験した.症例は75歳の男性で,平成13年7月に近医でS状結腸癌のためS状結腸切除術を施行され,病理組織学的検査では高分化型管状腺癌,mp,n0,ly0,v0,Stage Iと診断された.平成18年5月,肛門痛の増強のため当科外来を受診した.仙骨に孤立性腫瘍を認め,他に明らかな原発巣はなかった.生検の結果,大腸癌孤立性仙骨転移と診断した.化学放射線療法では無効であったため,腫瘍のfeeding arteryから動注化学療法(以下,TAIC)を13クール施行した.臨床的に明らかな腫瘍径の変化や腫瘍マーカーの降下はなかった.多発肺転移が出現したため全身化学療法へと変更したが,術後6年8か月目に死亡した.大腸癌骨転移に対しては手術だけでなく,化学放射線療法,TAICなども含めた集学的治療が必要となる場合がある.まれな転移を示した本症例に対し,文献的考察を加えて報告する.
著者
渡邉 雄介 中原 千尋 河田 純 大薗 慶吾 鈴木 宏往 宮竹 英志 井上 政昭 石光 寿幸 吉田 順一 篠原 正博
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.759-768, 2013-10-01 (Released:2013-10-11)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

症例は86歳の男性で,上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)血栓症に対する血栓溶解療法・抗凝固療法を誘引として発症したコレステロール塞栓症(cholesterol crystal embolization;以下,CCEと略記)による腸閉塞に対し,単孔式腹腔鏡下手術(single incision laparoscopic surgery;以下,SILSと略記)を施行した.CCEによる腸閉塞はまれであり,これに対し単孔式を含めた腹腔鏡下手術を施行した報告はない.本症例に対しSILSを安全に施行するうえで,術前の閉塞部位の同定とイレウス管による腸管の減圧などが有効であった.今後,インターベンション治療や抗凝固療法の増加に伴いCCEの罹患数は増加するものと考えられ,一般消化器外科医もこの疾患の存在を認識することが重要である.また,本症例のようにCCEはSMA血栓症などの致死的な疾患を背景として発症する可能性のある疾患であり,外科的治療を考える際には低侵襲な単孔式を含めた腹腔鏡下手術も治療選択肢としてあげられると考えられた.
著者
藤林 勢世 深田 真宏 村瀬 勝俊 久野 真史 東 敏弥 田中 善宏 奥村 直樹 高橋 孝夫 松橋 延壽
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.496-503, 2023-09-01 (Released:2023-09-28)
参考文献数
22

症例は66歳の男性で,膵尾部の神経内分泌腫瘍に対して腹腔鏡下膵尾部切除術を施行した.術後2日目に突然の背部痛が出現し,緊急造影CTにて右前腎傍腔の血腫と前下膵十二指腸動脈瘤を認めた.術前には認めなかった腹腔動脈起始部狭窄(celiac axis stenosis;以下,CASと略記)が出現しており原因と考えられた.腹部血管造影下に上腸間膜動脈からアプローチをして前膵十二指腸動脈に対して選択的にコイル塞栓術を施行した.再出血なく術後33日目に退院となった.術後3か月の造影CTではCASは消失しており急性正中弓状靭帯症候群(acute median arcuate ligament syndrome;以下,AMALSと略記)の発症が疑われた.今回,我々は腹腔鏡下膵尾部切除術後にAMALSが原因と考えられるCASにより前膵十二指腸動脈瘤破裂の1例を経験したため報告する.
著者
佐藤 太一 山田 一隆 緒方 俊二 辻 順行 岩本 一亜 佐伯 泰愼 田中 正文 福永 光子 野口 忠昭
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.579-587, 2016-07-01 (Released:2016-07-23)
参考文献数
35
被引用文献数
1 2

目的:痔瘻癌の臨床病理学的検討を行った.方法:1997年から2014年までに経験した痔瘻癌25例の臨床病理学的特徴と治療成績を検討した.結果:平均年齢は58歳(34~82歳),男性23例,女性2例であった.痔瘻癌の診断までの痔瘻罹病期間は中央値12年(1~50年)で,7例がクローン病合併例であった.確定診断に至った方法は,腰椎麻酔下生検が14例,内視鏡下生検が6例,局麻下生検が3例,細胞診が1例,開腹手術中の迅速組織診が1例であった.確定診断までの検査回数は平均2回(1~4回),診断までに要した検体数は平均7個であった.14例に腹会陰式直腸切断術,10例に骨盤内臓全摘術,1例にハルトマン手術が行われた.組織型は粘液癌が68%,リンパ節転移陽性症例が40%,4例に鼠径リンパ節転移を認めた.全25例における5年生存率は45.8%であった.根治度別にみると,根治度AB症例は根治度C症例と比べて有意に予後良好であった(P<0.0001).クローン病合併の有無で痔瘻癌を2群に分けて臨床病理学的因子を比較したが,クローン病合併例は癌診断年齢が有意に若いこと以外,2群間で有意差を認めなかった.結語:長期の難治性痔瘻症例は臨床症状の変化,悪化に着目し,痔瘻癌が疑われた場合は,積極的に生検組織診断を繰り返し行うことが重要である.切除可能な症例に対しては完全切除を目指した積極的な拡大手術が望まれる.
著者
伊藤 栄作 大平 寛典 斉藤 庸博 柳 舜仁 筒井 信浩 吉田 昌 柳澤 暁 山内 栄五郎 鈴木 裕
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.850-856, 2016-09-01 (Released:2016-09-22)
参考文献数
19
被引用文献数
1 3

症例は53歳の女性で,胃癌に対して腹腔鏡補助下胃全摘術を施行した.再建は機能的端々吻合によるRoux-en Y再建を行った.術後,食道空腸吻合部の屈曲による通過障害を発症し,内視鏡的な処置を繰り返し行ったが改善を認めず,術後1年の時点で磁石圧迫吻合術(山内法)を施行した.術後経過は良好で食事摂取可能となった.自験例での通過障害の原因としては,吻合部が縦隔内へ引き込まれたこと,盲端のステープルが挙上空腸へ癒着したこと,術後に食道が短縮したことなどが考えられた.山内法は磁石を用い管腔臓器を吸着し,挟まれた組織の壊死をじゃっ起し瘻孔を形成する治療法である.自験例は食道空腸吻合部が縦隔内に近い位置に存在するため再吻合術は困難が予想された.屈曲部に対する吻合を行う場合は吻合すべき腸管同士は近接しており,山内法による空腸-空腸吻合術は良い適応と考えられた.
著者
丸山 博行 小泉 大 高橋 大二郎 太白 健一 村橋 賢 清水 徹一郎 遠藤 和洋 藤原 岳人 佐田 尚宏 安田 是和
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.250-257, 2016-03-01 (Released:2016-03-18)
参考文献数
26
被引用文献数
3

症例1は76歳の男性で,突然の下腹部痛と嘔気を主訴に救急搬送された.CTで右下腹部に腸管壁の造影不良な拡張した小腸ループと右陰囊水腫を認め,絞扼性イレウス・右陰囊水腫と診断し,緊急手術を行った.ヘルニア囊は腹膜前腔に存在し右内鼠径輪で小腸が絞扼され鼠径ヘルニア偽還納と診断した.小腸部分切除とヘルニア門縫縮を行った.症例2は60歳の男性で,午前8時頃より腹痛,嘔吐があり,右鼠径部膨隆を自己還納したが症状軽快せず,午後4時救急搬送された.CTで右下腹部,鼠径部近傍に小腸ループを認め,右鼠径ヘルニア偽還納と診断し緊急手術を行った.右内鼠径輪で小腸が絞扼され,ヘルニア囊は腹膜前腔に存在し鼠径ヘルニア偽還納と診断した.小腸を腹腔内に引き出し腹膜前腔にメッシュを留置しヘルニア修復を行った.鼠径部ヘルニア偽還納本邦報告例19例に自験例を含め報告する.
著者
柏原 元 田尻 孝 中村 慶春 宮下 正夫 内田 英二 笠井 源吾
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.198-201, 2004 (Released:2011-06-08)
参考文献数
17

水棲動物エイによる刺傷は, その鋭利な刺棘と刺毒による著しい局所の損傷と炎症などが特徴である. 今回我々は, 腹部エイ刺傷により腸管脱出を来した極めてまれな症例を経験したので報告する. 症例は39歳の男性で, 船上での仕事中, 巨大エイの毒棘により右鼠径部を刺傷したため, 救急車で当院に搬送された. 来院時, 腹腔外へ脱出した腸管が認められたため緊急手術となった. 脱出した腸管を還納し, 刺創部をデブリードマンした後40℃以上の温生食で十分に洗浄し, 腹壁を縫合閉鎖した. タンパク毒であるエイ毒には温浴が有効であり, 治療として先行される. この症例では腸管脱出に対する処置を先行せざるをえなかったが, 術中高温生食による十分な洗浄などが毒素に対しても有効であったと考えられた.
著者
永吉 絹子 植木 隆 真鍋 達也 遠藤 翔 永井 俊太郎 梁井 公輔 持留 直希 平橋 美奈子 小田 義直 中村 雅史
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.762-771, 2016-08-01 (Released:2016-08-18)
参考文献数
19
被引用文献数
3

今回,我々は腸管子宮内膜症に対し,腹腔鏡手術を施行した5例を経験したので,報告する.症例は20~40歳代の未産婦の女性で,4例は繰り返す腹痛と腸閉塞症状の検査により腸管子宮内膜症が疑われ,1例は原因不明の消化管穿孔の診断で,腹腔鏡補助下に腸管切除が行われた.3例は回腸に,2例は直腸に狭窄病変を認めた.病理組織学的検査より,全例で腸管子宮内膜症と診断された.いずれも術後経過は良好で退院し,現在のところ再発の所見は認められていない.低侵襲性に優れた腹腔鏡手術は,腸管子宮内膜症に対し術後の早期回復と早期退院に有用で,拡大視効果により子宮・付属器が温存でき安全に手術を行える可能性が示唆された.
著者
加藤 恭郎 渡辺 孝 前田 哲生 垣本 佳士
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.745-751, 2011-06-01 (Released:2011-06-21)
参考文献数
12

わが国においてスターチ腹膜炎についての認識は低く,パウダーフリーの手術用手袋の普及も進んでいない.今回,虫垂切除後にスターチ腹膜炎を発症し,その後の経過を長期に観察しえた1例を経験したので報告する.症例は16歳女性で,1994年,虫垂炎に対し虫垂切除を行った.術後9日目から小腸通過障害をおこし,12日目に腹腔鏡下癒着剥離術を行った.黄色混濁腹水と腹膜小結節を認めた.腹水の培養は陰性であった.術後発熱と高い炎症反応が続いた.CTで腹水の貯留と腸間膜の肥厚を認めた.手袋のパウダーでの皮内反応が陽性であった.スターチ腹膜炎と判断しステロイド投与を行ったところ炎症反応は低下し,腹水も消失した.その後も小腸通過障害,複数回の腹痛があったがいずれも保存的に軽快した.スターチ腹膜炎が長期にわたり患者のQOLを悪化させた可能性があった.今後パウダーフリーの手術用手袋を普及させる必要があると思われた.
著者
金丸 理人 小泉 大 志村 国彦 笹沼 英紀 俵藤 正信 佐田 尚宏 安田 是和
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.487-493, 2013-07-01 (Released:2013-07-10)
参考文献数
18

症例は70歳の男性で,2008年9月,近医での血液検査にて肝機能障害を指摘され,精査目的に当科紹介受診し,膵管内乳頭粘液性腫瘍intraductal papillary-mucinous neoplasm(IPMN)と診断された.2009年6月,脾温存膵体尾部切除術(spleen-preserving distal pancreatectomy;SPDP)を施行した.術後第25病日に,ドレーンからの出血を認め,膵液瘻による胃十二指腸動脈瘤の破裂を認め,血管塞栓術を行い,術後第66病日で退院した.2009年11月(術後5か月),腹部CTを施行したところ,胃静脈瘤が描出された.上部消化管内視鏡検査でも穹隆部に孤立性の胃静脈瘤(Lg-cf,F2,Cb,RC(–))を確認できた.SPDP術後に脾静脈が閉塞し,孤立性胃静脈瘤が発生した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
著者
石林 健一 崎村 祐介 俵 広樹 林 憲吾 加藤 嘉一郎 辻 敏克 山本 大輔 北村 祥貴 角谷 慎一 伴登 宏行
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.217-224, 2022-03-01 (Released:2022-03-31)
参考文献数
25

症例は45歳の女性で,20年前にくも膜下出血による水頭症に対して脳室腹腔シャント(ventriculoperitoneal shunt;以下,VPSと略記)挿入術が施行された.意識障害があり当院を受診し頭部CTで脳室拡大を認め,脳室ドレナージが施行された.VPSの閉塞が疑われ施行した全身CTでVPSチューブが上行結腸を穿通しており,治療目的に当科紹介となった.開腹するとチューブ状の繊維性被膜が上行結腸に付着しており,繊維性被膜を全周性に剥離するとVPSチューブが同定できた.VPSチューブを結紮,離断し,腸管に穿通しているカテーテルは抵抗なく抜去できた.腸管の瘻孔は縫合閉鎖した.VPSチューブ腹側端は髄液漏出を確認し,繊維性被膜内から出さずに閉腹した.術後第9病日に脳室ドレーン感染からの髄膜炎を来し,VPSチューブの全抜去を施行した.まれなVPSの消化管穿通の1例を経験したので報告する.
著者
新川 弘樹 井上 孝志 藤田 尚久 野尻 亨 古谷 嘉隆 黒田 敏彦 仲 秀司 安原 洋 和田 信昭
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.59-63, 2001 (Released:2011-06-08)
参考文献数
18
被引用文献数
3 3

V-P (脳室・腹腔) しゃんとの腹腔側ちゅーぶが直腸に穿通し, 肛門より脱出した稀有な1例を経験したので報告する. 症例は74歳の男性. 他院で脳内出血後の正常圧水頭症に対し, V-Pしゃんとを施行された. 10か月後, 髄膜炎で当院脳外科に入院, 抗生物質投与により軽快していた. 入院3か月後, 肛門よりしゃんとちゅーぶが脱出しているのを発見され, 当科紹介となった. 腹部には圧痛, 腹膜刺激症状を認めず, 白血球数6,400/mm3, CRP1.9mg/dlと炎症反応は軽度で, がすとろぐらふぃん ®による注腸造影X線検査で造影剤の漏出は認めなかった. 大腸内視鏡検査ではちゅーぶは肛門縁から10cmの直腸右側壁を穿通していた. 腹膜炎所見がないことから, 経肛門的にちゅーぶを抜去した. 1週間後の注腸検査で造影剤の漏出がないことを確認し, 経口摂取を再開した. V-Pしゃんとちゅーぶの消化管穿通はまれであるが, 注意すべき合併症の1つと考えられた.
著者
国末 浩範 市原 周治 野村 修一 野上 智弘 森 秀暁 大谷 裕 石堂 展宏 太田 徹哉 臼井 由行 田中 信一郎
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.118-121, 2009-01-01 (Released:2011-12-23)
参考文献数
10
被引用文献数
1

症例は96歳の女性で,既往歴として平成19年2月に心嚢液貯留に対し,心嚢—腹腔開窓術を施行されていた.平成19年7月初旬,急に激しい腹痛が出現し,当院を紹介され受診した.腹部は軟らかいが,腹部全体に圧痛を認めた.腹部CTにて心嚢内に腸管が嵌頓するように入り込んでおり,心嚢—腹腔開窓孔による心嚢内ヘルニア嵌頓を疑い開腹術を施行した.開腹所見ではトライツから370 cmの小腸が約30 cm心嚢—腹腔開窓孔から心嚢内に入り込み絞扼され腸管が壊死していた.開窓孔を広げ腸管を腹腔に戻し,小腸部分切除を施行した.また,開窓孔は肝円索にて緩めに覆い閉鎖した.術後の経過は良好で第24病日に退院した.心嚢—腹腔開窓孔による心嚢内ヘルニア嵌屯はまれであるので報告する.
著者
大西 啓祐 佐井 康真 浜田 和也 佐藤 多未笑 相磯 崇 高須 直樹 二瓶 義博 五十嵐 幸夫 長谷川 繁生
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.33-40, 2022-01-01 (Released:2022-01-28)
参考文献数
32

症例は16歳の男性で,3年以上にわたり小児科で嘔吐症として保存的治療を受けていたが改善せず当科に紹介となった.大動脈と上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)間のなす角度は13°,距離も5.6 mmと狭小化しておりSMA症候群と判断した.当科でも保存的治療を継続したが,改善が得られずやむをえず外科治療を行う方針となった.さまざまな治療法の報告があるが,若年でもあり整容性と最大限の治療効果を期待して,腹腔鏡下にダブルトラクト法による再建する手術を施行した.吻合は2か所となり手術時間は205分とやや長めながら,完全腹腔鏡視下に施行可能であった.経過は良好で術後10日目に退院となった.当手術法は生理的経路の確保と十二指腸転位術の双方のメリットを生かせると思われ,治療法の選択肢の一つになりうると考えられた.