著者
三浦 勝 森 隆太郎 高橋 徹也 小尾 芳郎 山中 研 阿部 哲夫 小林 大輔 中村 恭一
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.159-164, 2004
被引用文献数
2

内分泌細胞癌は悪性カルチノイド腫瘍ともいわれ, 従来の古典的カルチノイドとは区別されている. 今回, まれな十二指腸Vater乳頭部原発の内分泌細胞癌を経験したので報告する. 症例は66歳の女性で, 発熱, 腹痛を主訴に来院し, 血中アミラーゼ高値および肝機能異常を認めた. CT膵頭部に腫瘤形成を呈し, 上部消化管内視鏡ではVater乳頭部に, 中心に陥凹を有する隆起性病変を認め, 生検でVater乳頭部未分化癌または内分泌細胞癌の診断にて, 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した. 術後病理学的にグリメリウス染色およびクロモグラニン染色陽性で, 内分泌細胞癌と診断した.術後早期にリンパ節再発, 肝転移を認め, 術後75病日に死亡した. Vater乳頭部原発の内分泌細胞癌は会議録を含め本邦報告17例とまれであるが, 予後は極めて不良とされている. 本症例も腫瘍部でのKi-67染色が約50%陽性と, 高頻度の細胞増殖を認め, 内分泌細胞癌の悪性度を裏付ける症例であった.
著者
田山 雅雄 角村 純一 中川 公彦 高橋 英治 河村 純 森友 猛
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.909-913, 1990

症例は30歳男性で, 右季肋部痛と肝機能障害にて入院.Endoscopic retrograde cholangio-pancreaticography (以下ERCP) にて膵上縁で総胆管に2cmの長さの平滑な圧迫狭窄を認め, この部分に腹部X線やcomputed tomography (以下CT) で石灰化した小腫瘤を認めた.頸部リンパ腺結核の既往があり, ツベルクリン反応が強陽性であることから胆道周囲のリンパ節結核による総胆管狭窄と診断した.開腹所見では径2cm大の腫大したリンパ節を膵上縁の総胆管周囲に2個認め, これを切除した後Hegar拡張器にて総胆管狭窄を解除し, T-tubeを留置した.術後一過性の肝機能障害を認めたが46日目に退院した.結核性リンパ節炎による総胆管狭窄はきわめてまれで, 本邦において8例, 国外でも散発的に数例の手術報告例があるにすぎない.本邦例8例では手術は自験例のようにリンパ節摘出以外に, 3例に総胆管空腸吻合術が施行されており, すべて良好な経過を得ているようである.
著者
松浦 記大 藤谷 和正 中塚 梨絵 宮崎 進 團野 克樹 小森 孝通 本告 正明 柏崎 正樹 岩瀬 和裕
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.406-414, 2018-06-01 (Released:2018-06-29)
参考文献数
38
被引用文献数
2 3

2次性大動脈十二指腸瘻(secondary aortoduodenal fistula;以下,sADFと略記)はまれな疾患ではあるが,診断に難渋し致死的な転機をたどることも多い.今回,我々はsADFの3症例を経験し,診断・治療・術後成績の三つの観点から検討を行った.2症例は吐・下血の原因としてのsADFの診断に難渋し,全症例でsADFに対する治療介入を行い一旦は救命できたもののうち2症例は術後感染症により致死的な転帰をたどった.人工血管置換術後の消化管出血を見た場合,sADFを鑑別疾患として挙げ,感度・特異度とも高いとされているCTを早期に行うことが重要である.また,sADFが疑われた場合,感染のコントロール,すなわち人工血管除去を念頭に遅滞のない手術を考慮することが重要である.
著者
石山 哲 鶴田 耕二 武市 智志 高橋 慶一 森 雅江 今村 顕史 菅沼 明彦 味澤 篤 根岸 昌功
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.135-140, 2008
被引用文献数
5

症例は37歳同性愛の男性で, 2002年3月下旬, 腹痛, 下痢を主訴に前医を受診, 小潰瘍を主体とした非特異的大腸炎と多発性肝膿瘍を認め, 赤痢アメーバ症が臨床的に強く疑われ, メトロニダゾールにて治療されていた. Human immunodeficiency virus (以下, HIV) 抗体陽性が判明したため, 4月初旬当院感染症科緊急入院, CD4陽性リンパ球数が224/ulとHIVによる低免疫状態が疑われた. 入院翌日, 右下腹部痛の急性増悪あり緊急CTにて遊離ガス像と多量の腹水を認めアメーバ性大腸炎の穿孔と診断し緊急手術を施行した. 穿孔部位は盲腸で, 穿孔部を利用した人工肛門造設術を施行した. 肝膿瘍は保存的に治療し, 1年後に人工肛門を閉鎖した.近年アメーバ性大腸炎, HIV感染とも増加傾向にあり, これらを念頭においた早期診断および治療が劇症化の阻止と救命に重要であると考えられた
著者
木村 泰生 藤田 博文 山川 純一 瀧口 豪介 丸山 翔子 高井 亮 荻野 和功 小川 博
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.146-153, 2018

<p>症例は33歳の女性で,2年前に下行結腸癌による大腸イレウスに対して自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent;SEMS)留置後に,腹腔鏡下左半結腸切除術を施行した.その際の病理組織学的所見は,中分化型腺癌,深達度SS,n0,ly1,v1,stage IIの診断であった.術後2年目にCEAの上昇およびCTで下腹部に約3 cmの腫瘤性病変を認め,FDG-PETでも同部のみに集積を認めたことから孤立性再発病変と判断し,腹腔鏡下に腫瘤摘出術を施行した.術中所見では腫瘤は大網内に約3 cmの孤立性の腫瘤として認め,その他に明らかな播種および転移病変は認めなかった.病理組織学的所見では,下行結腸癌の血行性大網転移と診断された.結腸癌の孤立性大網転移はまれな再発形式で,これまでに報告例はない.本症例は近年増加傾向である金属ステント留置後の手術症例(外科手術前の処置bridge to surgery;BTS)であり,ステント留置と大網再発の因果関係は不明であるが,大腸ステント留置症例における長期的な予後は不明な点も多いため今後も症例の蓄積が必要である.</p>
著者
奥川 郁 土屋 邦之 石原 陽介 中野 且敬 秋岡 清一 大坂 芳夫 高橋 滋 迫 裕孝
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.861-867, 2011-07-01 (Released:2011-07-23)
参考文献数
7

ポリカルボフィルカルシウム製剤服用後にイレウスにて開腹術を行った67歳の女性の症例について報告する.右卵巣嚢腫で手術既往があった.下痢のため近医よりポリカルボフィルカルシウム製剤を7日分処方された.服用12日目に腹部膨満と嘔吐が出現し,当院救急受診,入院となった.CTにて小腸の拡張と,小腸内に結腸内便様の内容物を認めた.イレウス管を挿入し保存的に経過を見たが,症状の増悪を見たため入院4日後に開腹した.癒着解除だけでは,腸内容を送り出せなかったため,小腸壁を切開し内容物を排出した.腹腔内の癒着のために腸管内容排出遅延が生じ,そのために服用していたポリカルボフィルカルシウム製剤が過度に膨潤,硬化した.このことによって,開腹術が必要となったと考えられた.この症例について,文献的考察を加えて報告する.
著者
勝又 健太 榎本 武治 大坪 毅人 樋渡 正樹 塚本 芳嗣 亀井 奈津子 嶋田 仁 小林 慎二郎 芦川 和広 民上 真也
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.481-486, 2020-06-01 (Released:2020-06-30)
参考文献数
16

症例は84歳の男性で,食後の腹痛を主訴に当院を受診した.既往として6年前に胃癌で幽門側胃切除術,Roux-en-Y再建,1年前に胆囊結石,総胆管結石,傍乳頭十二指腸憩室症候群で胆囊摘出術,胆管十二指腸吻合術を施行されていた.腹部MRIで輸入脚内に低信号の構造物を認め,結石の嵌頓による輸入脚症候群と診断し,緊急手術を施行した.上腹部正中切開で開腹,Treitz靱帯より5 cm肛門側の空腸に結石を触知した.空腸の一部に切開を加え摘出,単純縫合で閉鎖した.術後23日目に軽快退院した.摘出された結石はステアリン酸カルシウムが主成分であった.ステアリン酸カルシウムは胆囊結石のうち,ビリルビンカルシウム石に比較的多く含有されるほか,服用薬で酸化マグネシウムに含有されていた.本例は胃石を核として周囲にステアリン酸カルシウムが沈着したものと考えられた.胃石由来のステアリン酸カルシウム腸石による輸入脚症候群は非常にまれな疾患であるので報告する.
著者
橋本 泰司 坂下 吉弘 高村 通生 岩子 寛 渡谷 祐介 繁本 憲文 金 啓志
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.225-230, 2005 (Released:2011-06-08)
参考文献数
17
被引用文献数
7 2

門脈ガス血症はまれな病態で, 開腹術を要する予後不良な徴候と考えられてきた. 我々はそれぞれ手術と保存的治療を行った腸管虚血を伴わない2症例を経験した.症例1 は78歳の男性で, 腹痛を主訴に受診し, 来院後下血を認めた. 腹部CTで小腸の拡張と回盲部の著明な壁肥厚, 門脈ガスを認めた. 腸管虚血を伴うイレウスを疑い, 緊急手術を施行した. 術中所見は, 腸管には虚血性変化を認めず, 試験開腹で終了した. 術後の下部消化管内視鏡検査で, 回盲部に多発性潰瘍を認めた. 症例2は95歳の女性で, 排便時に突然下腹部痛が出現した. 腹部CTで門脈ガスと上行結腸の著明な拡張を認めた. 発症46時間後の腹部CTでは門脈ガスは消失し, 保存的治療で回復した. 本症の存在自体は必ずしも重篤な病態を意味せず, 保存的治療でも改善する場合があることを考慮し, 治療方針の決定にはその成因を十分に考察することが重要である.
著者
武藤 純 調 憲 間野 洋平 本村 貴志 武石 一樹 戸島 剛男 内山 秀昭 武冨 紹信 前原 喜彦
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.985-990, 2011-08-01 (Released:2011-08-23)
参考文献数
12

症例は30代女性で,健診時,腹部超音波検査にて肝外側区域に限局する胆管拡張を指摘されたが充実成分を伴わず経過観察されていた.1年後,胆管拡張は左葉全域から総胆管におよび外側区域内に5cm大の充実性病変が認められた.精査の結果,粘液産生性胆管腫瘍(Intraductal papillary neoplasm of the bile duct;以下,IPN-Bと略記)と診断し,肝拡大左葉・尾状葉切除術,胆道再建を行った.腫瘍は外側区域を中心とする最大径5.5cmの多房性嚢胞性腫瘤で,病理組織学的にムチン産生性のIntrductal papillary adenocarcinomaであった.切除後11か月が経過した現在,再発なく経過している.IPN-Bの自然経過についてはいまだ不明な点が多く,本症例のように経過を観察しえた症例はまれである.若干の文献的考察を加え,報告する.
著者
林 裕樹 金城 達也 西垣 大志 宮城 良浩 中川 裕 高槻 光寿
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.293-301, 2021

<p>症例は26歳の女性で,妊娠を契機に径10 cm大の骨盤内腫瘍を指摘され,試験腹腔鏡検査にて後腹膜腫瘍の診断となった.囊胞成分のほかに充実成分を伴っており悪性疾患の可能性が示唆され,加療目的で当院紹介となった.腹部造影CTおよびMRIにて仙骨前面に多房性囊胞性腫瘍を認め,腫瘍背側には造影効果を有する小結節が存在した.腫瘍摘出術を施行し,病理組織学的診断では後腹膜成熟囊胞性奇形腫であり,小結節は神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;以下,NETと略記)の診断であった.術後経過は良好で術後7日目に退院となった.成人発症の後腹膜成熟囊胞性奇形腫はまれな疾患であり,年齢とともに悪性化の頻度が高くなるとされている.悪性化すると予後不良であるため,早期手術が推奨されている.今回,我々は極めてまれなNETを併存した成人後腹膜成熟囊胞性奇形腫の1例を経験したので報告する.</p>
著者
松川 啓義 八木 孝仁 貞森 裕 松田 浩明 篠浦 先 楳田 祐三 成島 道樹 岩本 高行 佐藤 太祐 田中 紀章
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.1915-1920, 2007 (Released:2011-06-08)
参考文献数
18
被引用文献数
3 5

内臓逆位症は合併奇形が多く, かつ内臓逆位による診断治療の困難性が診療上問題である.完全内臓逆位症, Kartagener症候群に合併した肝腫瘍に肝拡大後区域切除を安全に施行した1例を経験した. 症例はKartagener症候群 (気管支拡張症, 副鼻腔炎, 右胸心) の55歳の女性で, 腹部臓器も逆位の完全内臓逆位症で, 肝後区域中心に13cm径の血管性腫瘍を認めた. 内臓奇形・変異としては肝部下大静脈欠損・奇静脈連結・上大静脈還流, 肝静脈右房還流, 右腎静脈半奇静脈還流, 多脾, 膵体尾部欠損, 腸回転異常がみられた. 術中所見では肝部下大静脈欠損により解剖学的肝右葉は後腹膜に固定されず, 解剖学的右三角間膜から後腹膜無漿膜野はほとんどみられなかった. 完全内臓逆位症に対する肝切除も, 左右鏡像関係, 腹部臓器・脈管の変異を念頭におき, 解剖学的構造を同定認識し手術操作を行うことで通常の肝切除例と同等な切除手術が可能であった.
著者
樋口 亮太 土屋 博紀 安田 秀喜 幸田 圭史 鈴木 正人 山崎 将人 手塚 徹 小杉 千弘 平野 敦史 植村 修一郎
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.647-653, 2010
被引用文献数
2

近年,画像診断の進歩により膵腫瘍が偶然に発見される機会が増加している.今回,我々は術前診断しえたものの嚢胞成分の悪性を否定できず縮小手術を行った膵内副脾の1例を経験したので報告する.症例は55歳の女性で,急性虫垂炎のため行った腹部CTで膵尾部に径約3 cm大のcysticな領域を伴う充実性腫瘤を認めた.EUSで腫瘤の充実性領域は脾臓と同程度のエコー像を呈し膵内副脾を疑った.腫瘤はSPIO MRIで脾と同様の信号低下を,99mTc-スズコロイドシンチグラフィーで集積増加を示した.膵内副脾と診断したが,cysticな成分もあり悪性が完全に否定できないことを説明したところ,外科治療を希望され手術となった.膵尾部背側に3 cm大の軟らかい赤褐色腫瘍を認め,脾温存膵尾部切除術を行い術中ゲフリールにて膵内副脾を確認した.経過は良好で術後16日目に退院した.術前診断しえた膵内副脾の報告は少なく貴重な症例と思われ若干の文献学的考察を加え報告する.
著者
向川 智英 渡辺 明彦 西口 由希子 中谷 充宏 松阪 正訓 高 済峯 石川 博文
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.337-343, 2014-06-01 (Released:2014-06-07)
参考文献数
15

症例は36歳の女性で,左下腹部腫瘤を主訴に当院を受診し,骨盤MRIで後腹膜腫瘍と診断された.SCC抗原が4.7 ng/mlと高値であったが,膀胱,尿管,子宮,卵巣に異常を認めなかった.手術所見で腫瘍は小骨盤腔左側を占居する囊胞性腫瘤で,一部に充実成分が存在し左内腸骨動静脈と左閉鎖神経を巻き込んでいたが,これらを温存して腫瘤を摘出した.充実成分は左閉鎖リンパ節の集塊で,左総腸骨,左外腸骨動脈沿いにもリンパ節腫大を認めたため左側方リンパ節郭清を行った.囊胞性腫瘤の病理組織学的診断は扁平上皮癌で,郭清したリンパ節も全て同じ組織型と診断された.囊胞性腫瘤を含め全てが転移で原発巣が潜在している可能性を考慮し,FDG-PETによる全身検索を行ったが明らかな原発巣を指摘できなかった.したがって,本症例は後腹膜の囊胞性腫瘤を原発巣としリンパ節転移を伴った扁平上皮癌と考えられた.
著者
岩永 彩子 爲廣 一仁 松浦 泰雄 木村 芳三 檜垣 浩一 猿渡 彰洋 廣方 玄太郎 青柳 武史 谷口 雅彦 緒方 俊郎
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.345-357, 2019-07-01 (Released:2019-07-31)
参考文献数
102
被引用文献数
3

目的:Segmental arterial mediolysis(以下,SAMと略記)の治療選択肢は多様化してきており,治療法の変遷と選択について検討した.方法:当院12例;2008年から2015年までにSAMと診断された症例について集計を行った.本邦症例報告100例;2004年から2016年までに医学中央雑誌に掲載された症例の検討を行った.結果:当院12例;年齢は中央値69(47~92)歳,男女比は6:6であった.主病変血管は肝動脈,胃大網動脈が3例ずつであった.単発10例,多発2例であった.治療法はTAE 8例,手術2例,治療不能1例,経過観察1例であった.在院日数は中央値23(10~165)日であった.在院死は2例で,退院後他病死が2例であった.8例は健在で1例に8か月後に他部位に再発を認めた.本邦症例報告100例;年齢中央値57(32~88)歳,男女比7:3であった.病変血管は,中結腸動脈が最も多かった.治療方法の内訳は手術52例,TAE 38例,経過観察10例であった.治療方法の時代変遷は2011年以降TAEと手術はほぼ同等になっていた.これらの比較検討では,non-responder,動脈瘤径が大きなものが有意に手術を,膵十二指腸動脈の病変は有意にTAEが選択されていた.再発,在院日数に有意差はなかった.結語:SAMの治療は,患者の全身状態と病変部位,病態を把握し,個々の症例に応じた適切な治療法を選択,施行することが重要であると考えられた.
著者
白井 邦博 丹正 勝久 篠原 克浩 小倉 真治
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-11, 2008 (Released:2011-06-08)
参考文献数
35
被引用文献数
4 4

はじめに: 重症急性膵炎に対する膵局所動注療法; continuous regional arterial infusion(以下, CRAI)において, meropenem投与(以下, MP群)とimipenem投与(以下, IP群)で前向き無作為比較試験を行い, meropenemの有効性について検討した. 対象と方法: 対象は30症例で, 入院時にMP群(n=16)またはIP群(n=14)に無作為に割り付けた. 特殊治療は, 持続血液ろ過透析, 選択的消化管内殺菌法と経空腸的栄養療法を行った. 検討項目として, CRAI開始時期と施行期間, 動注部位, 特殊治療施行率, また厚労省重症度スコアとAPACHE IIスコア, SOFAスコア, CRP値を入院時と2週間後で比較した. 感染症と膵炎関連合併症や感染性膵壊死の発症率, 手術施行率, 死亡率, 感染部位, 起炎菌について検討した.結果: 年齢, 男女比, 成因, CRAI開始時期と施行期間, 動注部位, 特殊治療施行率は差がなかった. 各スコアとCRP値は, 入院時と2週間後で差はなかった. 感染症発症率はMP群37.5%, IP群42.9%と差はなく, 膵炎関連合併症発症率, 感染性膵壊死発症率, 手術施行率, 死亡率も有意差はなかった. 感染部位は喀痰とカテーテルが多く, 起炎菌に差はなかったが, 耐性菌や複数菌感染を認めた. まとめ: 重症急性膵炎の感染予防として, 発症72時間以内のmeropenemを用いたCRAIは, imipenemと同等の効果を認めた.
著者
竹井 健 錦織 直人 小山 文一 中村 信治 浅田 秀夫 畠山 金太 大林 千穂 西久保 敏也 藤井 久男 中島 祥介
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.342-349, 2016-04-01 (Released:2016-04-19)
参考文献数
16

Muir-Torre症候群は脂腺腫瘍と内臓悪性腫瘍を併発する遺伝性疾患で,Lynch症候群の一亜型と考えられている.症例は61歳の男性で,既往歴は36歳,38歳,46歳,56歳時に大腸癌,50歳時に胃癌があり,家族歴は父と叔父に大腸癌と多数の発癌患者を認め,Lynch症候群を疑い経過観察していた.61歳時に背部に1 cm大の出血を伴う結節が出現し,局所切除術施行し,病理組織学的検査にて脂腺癌と診断した.内臓悪性腫瘍の既往と脂腺癌の併発よりMuir-Torre症候群と診断した.診断後にも計5回の脂腺腫瘍と計2回の大腸癌の発生を認めたが,早期に加療し現在無再発生存中である.また,遺伝学的検査を行いMLH1の病的変異を認めLynch症候群と診断した.Lynch症候群はMuir-Torre症候群を呈することがあり,内臓悪性腫瘍だけでなく皮膚腫瘍も念頭に体表観察を行うことも重要と考えた.
著者
赤丸 祐介 弓場 健義 山崎 芳郎 籾山 卓哉 伊藤 章 春日井 務 吉田 康之
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.221-226, 2007 (Released:2011-06-08)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

症例は62歳の男性で, 1970年(27歳時), 粘血便で発症し, 全大腸炎型の潰瘍性大腸炎と診断された. 再燃緩解型でサラゾピリン, プレドニン内服などの加療を受けていたが, 1998年以降は無治療であった. 2004年11月, 貧血の精査目的で当院を受診, 大腸内視鏡検査にて, 緩解期の潰瘍性大腸炎に合併した盲腸癌の診断を得た. 2005年2月, 結腸右半切除, D3郭清術を施行した. 摘出標本では盲腸腫瘍に加えて, 虫垂にも粘液産生を伴う腫瘍性病変を認めた. 両者はそれぞれ独立して腫瘍を形成し, 正常粘膜を介さず隣接して存在した. 病理組織学的検索では盲腸高分化腺癌と虫垂粘液嚢胞腺癌との異なる組織型の癌が, 混ざり合うことなく, 明瞭な境界を伴い相接しており衝突癌と診断した. 大腸における衝突腫瘍の報告は少なく, また自験例のような盲腸と虫垂から発生した悪性腫瘍同士の衝突の報告例はなく, 極めてまれな症例と考えられ, 若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
清島 亮 小柳 和夫 中川 基人 永瀬 剛司 岡林 剛史 田渕 悟 小澤 壯治 金井 歳雄
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.990-995, 2010-09-01 (Released:2011-12-27)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

食道癌根治術後の難治性頻脈性不整脈は頻度の高い合併症の一つである.我々は食道癌術後上室性頻脈性不整脈に対して短時間作用型β1選択的遮断薬(塩酸ランジオロール)を投与し有効に作用した5症例を経験した.いずれも術前の心電図や心臓超音波検査で異常は認めなかった.頻脈性不整脈は術後2ないし3日目に発生した.塩酸ランジオロール投与は2例目まではジギタリス製剤もしくは塩酸ベラパミル投与の無効症例に,その後の3例は第1選択として使用した.投与開始量は,1例目は20 μg/kg/分,2例目からは2 μg/kg/分で,適宜増減した.脈拍数はいずれの症例も塩酸ランジオロール開始数分後に減少し,投与中に収縮期血圧は低下しなかった.塩酸ランジオロールは半減期が短く調節性に優れており,食道癌術後の頻脈性不整脈に対しても有用であると考えられた.

1 0 0 0 OA 胆嚢結核の1例

著者
吉武 明弘 金井 歳雄 高林 司 中川 基人 川野 幸夫 向山 小百合 鳥海 史樹
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.9, pp.1415-1418, 2001 (Released:2011-06-08)
参考文献数
9

症例は73歳の男性. 主訴は右季肋部痛. 画像検査で胆嚢底部の著しい拡張と胆嚢結石を認めたため, 開腹手術となった. 術中所見では, 胆嚢体部のくびれと底部の著しい拡張と腹壁への浸潤を認めたため, 腹直筋の合併切除を伴う胆嚢摘出術を施行した. 底部の内溶液は米のとぎ汁状で, 培養検査で結核菌が証明された. 術後1年間の抗結核剤の投与を行った. 本症はきわめてまれであるが, 結核を疑うことが診断に結びついた.