著者
田宮 菜奈子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.274-277, 2008 (Released:2008-07-14)
参考文献数
6
被引用文献数
3 4
著者
原 修一 三浦 宏子 山﨑 きよ子 森崎 直子 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.391-398, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
22

目的:介護施設に入所する高齢者を対象とした横断研究により,健康関連QOLと音響学的分析による音声機能との関連性を明らかにした.方法:対象は,介護老人施設に入所する高齢者61名,平均年齢82.1±8.3歳である.質問紙による健康関連QOLの調査を,SF-8 Health Survey(SF-8)日本語版を用いて実施した.音声機能は,ソリッドステートレコーダーに録音した音声を,音響分析ソフトを用いて,基本周期変動指数(Pitch Period Perturbation Quotient:PPQ),振幅変動指数(Amplitude Perturbation Quotient:APQ)および,雑音成分の指標であるNoise-to-Harmonic Ratio(NHR)を算出し,健康関連QOLとの関連性を分析した.結果:SF-8の全体的健康感(GH)の得点が25%tile値未満の値を示した者(低下群)はPPQ・APQ・NHR全てにおいて,25%tile値以上の者(維持群)と比較して有意に高い値を認めた.また,活力(VT)においても,低下群は全ての音響分析の項目において,維持群と比較して有意に高い値を認めた.また,身体的サマリースコア(PCS)においても,低下群は維持群と比較して音響分析の測定項目全てにおいて,有意に高い値を認めた.年齢を共変量とした共分散分析による検討では,GHの低下はPPQ,APQ,NHR各値の増加と有意な関連性を認めた.また,VTの低下はAPQ値の増加との有意な関連性を,PCSの低下はAPQとNHR各値の増加との有意な関連性を認めた.結論:介護施設入所高齢者において,音響学的に分析された音声の音響学的要因は,身体的健康状態に関連したQOLスコアと有意な関連性を示した.音声の音響分析によるPPQ,APQ,NHRは,高齢者の健康調査とその経過を追跡する上で,一つの評価指標になりうる可能性がある.
著者
枝広 あや子 平野 浩彦 山田 律子 千葉 由美 渡邊 裕
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.651-660, 2013 (Released:2014-03-13)
参考文献数
30
被引用文献数
4 11

目的:認知症高齢者では,食事の自立が低下することにより,食事量の減少,低栄養,脱水および免疫機能の低下,さらなる認知機能の低下や,誤嚥性肺炎および死亡率の上昇が起こることが知られている.しかし認知症高齢者の食行動障害の病態および重症度別把握は不十分であり,介護現場では食事の自立支援に苦慮している現状がある.そこで本研究は,認知症高齢者の多数を占めるアルツハイマー病(以下AD)と血管性認知症(以下VaD)を対象に,認知症の重症度別に食事に関する行動障害を比較分析することで,ADとVaDにおける食行動の特徴を明らかにすることを目的とした.方法:対象者は,施設入所の認知症高齢者計233名(AD150名,VaD83名)とした.対象者に対し食行動調査と認知機能検査,神経学的検査,生活機能調査,栄養学的調査(MNA-SF)を行い,AD,VaDの2群について食行動について詳細な検討を行った.結果:食事に関連した行動障害は重度認知症の者ほど増加する傾向がみられた.一方,「リンシング・ガーグリング困難」「嚥下障害の徴候」の認知症重症度別の出現頻度は,ADとVaDで違いがあった.軽度認知症ではVaDはADに比較して食事に関連した行動障害の出現頻度が高かった.ADでは食事開始困難や注意維持困難,巧緻性の低下等の認知機能障害の影響が大きい項目の出現が重度認知症において顕著にみられた.一方VaDの食事に関連した行動障害と嚥下障害は,認知症の重症度との関連は認めらず,軽度認知症でも神経脱落症状に起因した嚥下障害が認められた.結論:ADとVaDはどちらも認知症でありながら,食事に関連した行動障害の出現頻度が大きく異なっていた.認知症背景疾患や重症度による相違点を考慮した効果的な支援の確立が望まれる.
著者
葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.659-661, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
5
被引用文献数
3 1
著者
井門 ゆかり
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.356-363, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
20
被引用文献数
3

目的:簡便に認知機能低下の疑いのある患者を発見するためのスクリーニング検査(Imon Cognitive Impairment Screening Test:ICIS)を開発し,信頼性・妥当性を検討した.方法:検査は対面式で所要時間約3分,時間の見当識(年月日・曜日,各1点,計4点),3単語の遅延再生(各1点,計3点),柔軟性(語の流暢性)として,「か」で始まる言葉を1分間で出来るだけたくさん言う(2語以下0点,3~5語1点,6~9語2点,10語以上3点),構成失行の評価として,「指でキツネ・ハトの模倣」(キツネ左右各0.5点,ハトは迷わずできたもの1点,試行錯誤してできたもの0.5点,できないもの0点)を入れ,12点満点とした.対象は,健常高齢者(C群)30例,軽度認知障害患者(MCI群)34例,認知症患者(認知症群)76例(軽度51例,中等度18例,高度7例).結果:ICISの平均は,C群10.5点,MCI群8.3点,軽度認知症群5.5点,中等度認知症群3.0点,高度認知症群0.7点で,各群間で有意差を認めた.認知症群+MCI群を疾患群とし,ICIS 9点以下を検査陽性とすると,感度0.94,特異度0.93,正確度0.94,陽性尤度比14.0,陰性尤度比0.07であった.ICISとMMSEの得点には,有意な相関を認めた(r=0.82,p<0.0001).結論:ICIS 9点以下では,他覚的認知機能の低下があり,認知症精査に進む簡便な目安になると思われる.
著者
横内 正利
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.9, pp.725-727, 2000-09-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
9
被引用文献数
1
著者
広田 千賀 渡辺 美鈴 谷本 芳美 河野 令 樋口 由美 河野 公一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.647-654, 2008 (Released:2009-01-29)
参考文献数
25
被引用文献数
6 21

目的:Trail Making Test(以下TMT)は,欧米において遂行機能の指標として研究されてきた.しかし,日本においてTMTに関する研究は少ない.本研究では地域在住高齢者の健康づくり支援を目指して,TMTの特徴と身体機能との関連を明らかにし,TMTの有用性について検討することを目的とした.方法:大都市近郊T市に在住している65歳以上の高齢者175人(男57人,女118人)を対象とした.TMTと8項目の身体機能を測定した.身体機能は介護予防項目として通常歩行,Timed Up & Go test(以下TUG),開眼片足立ち,握力の4項目,移動·歩行機能項目として最大歩行,課題付加TUG,階段昇降,障害物歩行の4項目である.TMTの評価には⊿TMTを用い,身体機能との関連は性と年齢を共変量とした多項ロジスティック回帰分析を行った.結果:⊿TMTの中央値は男性58.61秒,女性65.67秒で,男女とも年齢群間に有意な差を認め,特に80歳以上が高値であった.性差は観察されなかった.身体計測項目と⊿TMTとの関連について,⊿TMTの不良なものはTUGと握力の成績が有意に低かった.移動·歩行機能項目では,⊿TMTの不良なものは,最大歩行,課題付加TUG,階段昇降,障害物歩行の成績が有意に低かった.また,最大歩行の「中間/高い」比較でも,⊿TMTの不良なものは有意に成績が低かった.結論:TMTはより認知の必要な複雑な歩行機能と関連したことから,高齢期の健康づくりにおける遂行機能の評価指標としての有用性が示唆される.
著者
宮岸 隆司 東 琢哉 赤石 康弘 荒井 政義 峯廻 攻守
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.219-223, 2007 (Released:2007-05-24)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

目的 高齢者において終末期における治療と人工栄養に関する実態調査を実施し,栄養摂取方法選択ガイドライン作成の基礎資料とする.方法 対象は西円山病院(918床)における,2004年4月から2005年3月の死亡症例である.入院時の状況,経口摂取困難に至った原因と経過,終末期医療に対する意向,実際に選択された栄養摂取方法と平均余命について後ろ向き調査を行った.結果 155例(男性66例,女性89例)の死亡症例があり,死亡時平均年齢は86.2±9.0歳であった.うち95例で,肺炎などの感染症を契機に経口摂取が困難となり,栄養摂取方法が検討された.95例中,人工栄養は63例で選択され,経管栄養選択症例16例,経管栄養から中心静脈栄養に変更した症例14例,中心静脈栄養選択症例33例.人工栄養非選択症例は32例であった.死亡時の栄養摂取方法と平均余命の比較では,経管栄養選択症例;827±576日,中心静脈栄養選択症例(経管栄養から中心静脈栄養に変更した症例および中心静脈栄養のみの症例);196±231日,人工栄養非選択症例(末梢静脈栄養);60±40日であった.結論 今回の調査では,人工栄養導入後の平均余命は経管栄養にて有意に長かった.当院では経管栄養にて発熱が続く症例や消化管の機能不全が疑われる症例では中心静脈栄養に変更することが多いため,経管栄養の平均余命が長かったものと考えられる.32例では,人工栄養が選択されなかった.終末期高齢者の医療については,家族の意向が大きく影響し,多くは「患者の負担とならない治療」を希望するが,人工栄養導入をとっても結論はさまざまである.治療方針の決定に際して高齢や認知症という理由で医療行為が差し控えられることなく,初期より患者本人の意向を尊重できる体制を整える必要がある.終末期への移行の目安として,経口摂取困難を取り上げることの妥当性が示唆された.
著者
山本 幹枝 和田 健二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.547-552, 2018-10-25 (Released:2018-12-11)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

わが国のみならず世界的に認知症者数が増加し,社会経済的な問題となっている.2015年の全世界認知症者数は4,680万人と推定され,2050年には1億3,150万人にのぼることが予測されている.欧州や北米では認知症有病率は低下しているものの,アジアやアフリカなど特に低中所得国での増加が顕著である.わが国では,2012年時点での65歳以上高齢者における認知症有病率は15%(462万人)と推計されている.とくに80歳以降に多く人口の高齢化や生存率の改善を反映していると考えられる.超高齢化社会においては認知症の診断が難しい場合も多く,繰り返し正確な疫学調査が必要である.また,認知症による社会的負担の軽減のためにも,治療法や予防法の確立に向けて世界的に一層の取り組みが進むことが期待される.
著者
池田 夢子 及川 欧 村岡 法彦 塚田 鉄平 才田 良幸 呂 隆徳 大田 哲生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.184-190, 2023-04-25 (Released:2023-05-23)
参考文献数
17

今回,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:以下COPD)があり,新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)罹患を契機に長期人工呼吸器管理となった80代の患者に対するリハビリテーション(以下リハビリ)について報告する.患者は人工呼吸器管理のため26日間の長期臥床となり著明な筋力低下をきたし,日常生活動作(activities of daily living:以下ADL)は全介助となった.人工呼吸器からの離脱と廃用症候群の進行予防を目的としてリハビリを開始した.リハビリ内容としては,離床,基本動作練習,関節可動域運動,筋力トレーニングを実施した.24日間のリハビリの結果,人工呼吸器から離脱し,下肢筋力は徒手筋力検査(manual muscle testing:以下MMT)にて4相当と改善,歩行器歩行が可能なレベルまでADLの改善が得られた.1年後の調査において,ADLは自立し,仕事復帰を果たしたことを確認した.
著者
出口 晃 川口 恵生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.148-149, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
3

在宅以外で行われている経管栄養の実態を知るため,特養,老健,介護療養型医療施設(介護型),医療型療養病床(医療型)入所者を対象とし,経管栄養患者数と胃瘻造設後の年数を2006年,11年,16年に調べた.経管栄養者の割合は,介護型・医療型で21.9~44.4%であり,特養・老健の4.4~11.7%よりも高かった.造設3年,5年以上経過者は最近5年間で17.4%,18.1%増えていた.経管栄養開始後長期間経過した者の受け皿である療養病床の代替が必要である.
著者
大西 俊一郎 小林 一貴 横手 幸太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.417-426, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
41

高齢者においても,総コレステロール(TC),Non HDLコレステロール(Non-HDL-C),LDLコレステロール(LDL-C)値が高くなれば,冠動脈疾患の発症は増加する.一方で,高齢者における脂質異常症と脳卒中,認知症発症,ADLとの関係は明らかとは言えない.このように高齢者の脂質異常症の病態は成人(65歳未満)と類似点が多く,基本的には同様に扱う.続発性脂質異常症を鑑別したうえで,日本動脈硬化学会の定める基準を用いてリスクに応じた治療目標を設定し,食事療法と運動療法を基本として治療する.また,高齢者には身体機能や合併症など種々の多様性があり,治療においては高齢者特有の病態への配慮が必要である.食事療法では極度のカロリー制限は避け,重度の腎機能障害がなければ筋肉量維持の観点からたんぱく質の摂取を積極的に勧める.運動療法では有酸素運動と,可能であればレジスタンス運動を併用するが,高齢者は運動器・呼吸器・循環器などの障害を有していることも多く,個々人に合った運動メニューを考慮する.薬物療法としては二次予防および前期高齢者(65歳以上75歳未満)の一次予防においてスタチンの有用性が示されている.2019年にはエゼチミブ単剤投与による後期高齢者(75歳以上)の一次予防効果が本邦より報告され,今後のガイドラインへの反映が期待される.
著者
磯部 秀樹 高須 直樹 水谷 雅臣 木村 理
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.599-605, 2007 (Released:2007-11-30)
参考文献数
15
被引用文献数
6 5

目的:がん罹患率のなかで大腸癌が増加しているが,高齢者に対する手術や化学療法も増加してきている.高齢者に対する外科治療の問題点を明らかにすべく,近年の高齢者大腸癌の特徴を調べた.方法:1990年から2004年までの15年間に手術を施行した80歳以上の高齢者大腸癌67例(男性38例,女性29例)について,70歳∼74歳の大腸癌症例130例を対照とし,臨床病理学的特徴,手術術式,術前の併存基礎疾患,術後合併症,化学療法,術後生存率に関して検討した.結果:大腸癌の進行度としては80歳以上群でDukes Bが多く,70∼74歳群でDukes Aが多かった.結腸癌では2群間に手術術式による差はなかったが,直腸癌においては,80歳以上群にハルトマン手術と経肛門的局所切除が多かった.リンパ節郭清では結腸癌においては有意差をみとめなかったが,80歳以上群の直腸癌において郭清度が低く,直腸癌において2群間に有意差を認めた.根治度には有意差はなかった.術前併存基礎疾患は80歳以上群で76%に認められ,循環器疾患が多く,次いで呼吸器疾患,脳梗塞後遺症,老人性認知症が続いた.80歳以上の51%に術後合併症が認められ,70∼74歳群と比べ術後せん妄が多かったが他の合併症に差はなかった.80歳以上群に術死は認めなかった.結論:高齢者においても全身状態に応じた手術を行うことにより,合併症の発症を抑えQOLを損なうことなく安全な手術を行うことができると考えられた.
著者
大野 一将 小原 聡将 竹下 実希 井上 慎一郎 水川 真二郎 長谷川 浩 神﨑 恒一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.179-185, 2017-04-25 (Released:2017-06-07)
参考文献数
24
被引用文献数
4 3

症例は86歳男性,ADLは自立しており,70歳で遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:以下HHT)と診断された.以来当科外来に通院していたが,今回初発の意識障害を来し,当院に緊急入院となった.受診時に羽ばたき振戦を認め,血清アンモニア値は128 μg/dlと高値であり,肝性脳症と診断した.精査のため血管造影を行ったところ,肝内びまん性門脈肝静脈シャントを認め,それに伴った肝性脳症と診断した.HHTの本態は,血管構築の異常による末梢血管拡張やシャント血管の形成が特徴であり,さらに年齢を重ねるごとにシャント量が増加する.そのため,高齢になると肝内びまん性門脈肝静脈シャントをも形成し,ごく稀に肝性脳症を来たすことがある.近年,本疾患の管理の質が向上しHHT患者は高齢化してきている.今後肝性脳症をきたすHHT患者が増加すると予想されるため貴重な症例と考え,ここに報告する.
著者
吉村 芳弘
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.214-230, 2023-07-25 (Released:2023-09-21)
参考文献数
82

高齢者の栄養状態と健康リスクについての知見は時代とともに変化しており,複数の慢性疾患を抱えた高齢の低栄養患者を診療する機会が増えている.低栄養はマラスムスやクワシオコルだけでなく,疾患に伴う全身炎症の存在も原因となる.低栄養は健康リスクを高める要因として重要であり,高齢者は低栄養に関連した複数の病態を抱えている.入院高齢患者の低栄養は免疫能の低下,感染症,創傷治癒遅延,サルコペニア,フレイル,悪液質,入院,施設入所,日常生活動作の低下,生命予後の悪化など,さまざまな健康関連アウトカムに影響を及ぼす.低栄養は医療経済にも影響を与えており,入院期間の延長や合併症のマネジメントのための費用が増加するだけでなく,健康寿命の短縮や医療サービスの集中的な利用も引き起こす.そのため,低栄養の予防や治療は個々の患者だけでなく医療制度全体にとっても重要な課題である.低栄養の診断は栄養評価のプロセスに組み込まれており,スクリーニングツールや統一診断基準を使用して行われる.また,フレイルやサルコペニアといった身体的脆弱性にも注目が集まっており,muscle healthを通したこれらの状態の同定と管理も重要である.栄養療法は低栄養やフレイル,サルコペニアの予防・治療に有効であり,特にたんぱく質の摂取が重要であるとされている.栄養介入のみならず,運動介入や口腔管理,薬剤管理などの総合的なアプローチが重要であるとされている.リハビリテーション栄養の考え方も重要であり,全人的評価と栄養評価を組み合わせることで高齢者の機能・活動・参加,QOLの向上につながる.総じて,高齢者の栄養状態と健康リスクに対する理解が進んでおり,総合的なアプローチを取ることで高齢者の健康寿命の延伸につながる可能性がある.医療の考え方も変化しており,「治す」だけでなく「ケア」に重点を置くことが求められている.