1 0 0 0 OA SERMの分子医学

著者
浦野 友彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.147-151, 2006-03-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
18

古くより更年期障害ならびに閉経後骨粗鬆症に対してエストロゲン補充療法が用いられてきた.しかし, 大規模臨床試験であるWHI試験において乳癌ならびに虚血性心疾患ならびに脳卒中が指摘されたため, この治療法が用いられることは少なくなった. 一方, 皮肉なことにWHI試験ではエストロゲンによる明らかな骨折予防効果が認められ, エストロゲンシグナルの骨における活性化は骨粗鬆症において重要であることが再確認された. 近年, エストロゲン様作用を臓器特異的に有するSERMが開発され, その一つであるラロキシフェンが臨床の現場で用いられるようになった. 大規模試験であるMORE試験でもラロキシフェンの骨粗鬆症に対する効果は認められ, 有害事象も少ないことから骨粗鬆症におけるあらたなホルモン補充療法として注目されている. さらに近年, 分子生物学的アプローチによりSERMによる組織特異的分子作用機構が急速に解明されつつある. 今後, さらなる検討により骨粗鬆症のみならず閉経後女性の広範囲の疾患改善さらには抗老化作用を視野にいれたホルモン補充療法としてSERMが用いられることが期待される.
著者
坂井 誠 濱松 晶彦 久保木 謙二 蔵本 築 黒澤 晋一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.447-455, 1994-06-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

心房細動による塞栓症の一次予防の観点から老年者心房細動40例 (固定性33例, 発作性7例, 平均年齢76歳, 基礎疾患: 弁膜症15例, 非弁膜症25例) を対象に経食道心エコー (TEE) 法による心房内血栓の検出と凝固線溶分子マーカーの動態, 血栓のワーファリン溶解効果について検討した. 凝固線溶分子マーカーとして以下の9項目を測定した. FDP-E, Thrombin-ATIII複合体 (TAT), Plasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1), α2PI複合体 (PIC), D-dimer, t-PA, free tPA, tPA・PAI-1複合体, Prothrombin fragment 1+2. また, 動脈硬化性疾患を有しない洞調律21例 (平均年齢75歳) を対照として同様にこれらのマーカーを測定した.TEEにて左房内血栓は心房細動例中14例, 35% (心耳内8例, 心房内6例) に認められ, 弁膜症 (57% vs 27%), 心房内モヤモヤエコー (79% vs 42%) を血栓を認めない例に比し高頻度に有した. 左房径, 左室収縮能と血栓の有無には関連がなかった. 心房内および大動脈壁在血栓 (6例) を有する例は対照群に比しFDP-E, D-dimer, PICの有意の上昇を認め, マーカー9項目中4項目以上の異常を有する頻度が高かった. マーカーからみた心房内と大動脈血栓に対する sensitivity 90%, specificity 65%, predictive accuracy 72%. 左房内に大血栓を有する6例中4例ではワーファリン投与後, 血栓の消失と凝固線溶分子マーカーの正常化を認めたが, 血栓非溶解例でも凝固線溶分子マーカーは低下した. 血栓非溶解例のワーファリン投与前のtPA, PAI-1, tPA・PAI-1複合体値は溶解例に比べ高かった.以上より, 心房内血栓例は凝固線溶分子マーカーの異常を有し, TEEによる心房内および大動脈壁在血栓の検出と凝固線溶分子マーカー測定の組合わせは心房細動例における塞栓症発現ならびに血栓のワーファリン溶解効果を早期にスクリーニングしうる可能性がある.
著者
大屋 友紀子 中村 眞須美 田畑 絵美 森園 亮 森 祥子 木室 ゆかり 堀川 悦夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.308-314, 2008 (Released:2008-07-14)
参考文献数
30
被引用文献数
12 11

目的:地域在住高齢者を対象とし,転倒,つまずき,ふらつきの既往の有無と下肢筋力測定を含む各種の易転倒性検査との関連性を分析することにより,易転倒性の新たな指標を模索し,より効果的な転倒予防の対策を検討する.方法:被験者は地域在住高齢者102名で,問診に加え,転倒リスクを評価する5つのパフォーマンステストを実施した.さらに,膝伸展筋力を測定し,時系列解析,周波数解析を行った.結果:転倒の既往を有する者(転倒群)は,非転倒群に比してつまずき(p<0.001),ふらつき(p=0.002)の既往歴がそれぞれ有意に多かった.周波数解析の結果では,転倒群では非転倒群に比して,有意に中心周波数が低く(p=0.025),より高周波成分が少ない波形(p=0.035)を示していた.また,時系列データの解析結果から,転倒群は非転倒群よりも最大筋力に至るピーク潜時が長かった.結論:転倒群は非転倒群に比して,膝伸展筋力のピークまでにより多くの時間を要し,筋力の発生の過程が緩やかであった.この結果は,転倒群は障害物回避行動などで転倒リスクが高いことを示しており,地域在住高齢者に対する新たな易転倒性の指標として有効と考えられる.転倒の予防対策として,最大筋力とともに筋の反応速度を高める運動が有用であることが示唆された.
著者
津端 由佳里
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.457-463, 2022-10-25 (Released:2022-12-06)
参考文献数
13

我が国は超高齢化社会となり,がん治療担当医は高齢がん患者の治療に直面する頻度が急増している.高齢がん患者に対する治療方針の検討に際しては,1)機能評価(Geriatric assessment;GA)の実施による患者の能力・脆弱性と介入の必要性の評価,2)予定している治療のリスク評価,3)1)と2)の結果に応じて標準治療をmodifyする必要性の判断,の3つのステップがある.現時点で日本のがん診療においては最初のステップである高齢がん患者の脆弱性のスクリーニングおよびGAの実施も残念なことにまだ一般的ではない.しかしながら,GAを実施することでPSのみでは評価のできない問題点の抽出が可能であり,GAツールの普及とGA結果に基づいた介入方法の実装への取り組みが国内でも始動したところである.GAの実施とその結果に基づく介入は,患者と医療者のコミュニケーションを円滑にし,無益な有害事象を減少させるというGAの有用性に関するエビデンスもそろい始めており,患者個々を多面的に評価したうえで,GA結果を踏まえた治療方針の検討と,介入可能な要素に関して積極的に介入しつつがん診療を行っていくことが高齢者のがん診療では世界的にも標準化されつつある.今後GAの応用がさらに普及し,すべての高齢がん患者にGAを実施しその結果から有害事象や予後予測を行い個々の状態に合わせた治療内容の提示とサポート体制を提供することで,高齢がん患者の個別化医療がさらに推進されることを期待したい.
著者
久保田 一雄 田村 耕成 武 仁 倉林 均 白倉 卓夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.23-29, 1997-01-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
23
被引用文献数
8 7

平成元年1月から同7年6月までの6年6カ月間に当院に入院した急性心筋梗塞患者31例 (旅行者15例, 草津在住者16例) 及び脳梗塞患者40例 (旅行者15例, 草津在住者25例) について, その発症における温泉浴の関与を検討した. 発症前24時間以内に温泉浴を行った急性心筋梗塞患者15例 (旅行者9例, 草津在住者6例) 中12例 (旅行者6例, 草津在住者6例) は温泉浴開始後3時間以内の発症, その内8例 (旅行者4例, 草津在住者4例) は1時間以内の発症であった. また, 発症前24時間以内に温泉浴を行った脳梗塞患者27例 (旅行者11例, 草津在住者16例) 中15例 (旅行者9例, 草津在住者6例) は温泉浴開始後3時間以内の発症, その内10例 (旅行者6例, 草津在住者4例) は1時間以内の発症であった. なお, 入浴中の発症は急性心筋梗塞2例 (旅行者1例, 草津在住者1例), 脳梗塞2例 (旅行者1例, 草津在住者1例) であった. 急性心筋梗塞の時刻別発症頻度と温泉浴開始後発症までの時間には旅行者と草津在住者で大きな差異は見られなかった. 脳梗塞の時刻別発症頻度は旅行者で6時から12時まで, 草津在住者で18時から24時までの時間帯でやや少ない傾向が認められ, 温泉浴開始後発症までの時間は草津在住者で3時間以上が多かった. ほとんどの症例で1~4の危険因子 (高血圧症, 高脂血症, 高尿酸血症, 糖尿病, 喫煙, その他の既往疾患) が認められたが, 旅行者と草津在住者, 温泉浴の有無の比較では明らかな差異は見られなかった. 温泉浴開始後短時間内にこれら血栓性疾患が発症する要因として, 血圧, 心拍数, 血液粘度, 線溶活性並びに血小板機能などの一過性の変化が推定される. また, 私達は既に20時の温泉浴が夜間の血圧をより低下させ, さらに翌早朝の血液粘度の上昇をより急激にすることを報告したが, 真夜中や午前中の発症にはそのような機序の関与も考えられる.
著者
荒井 由美子 田宮 菜奈子 矢野 栄二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.497-503, 2003-09-25 (Released:2011-02-24)
参考文献数
23
被引用文献数
96 101

要介護高齢者を介護する者の介護負担を客観的に測定することは極めて重要である. 本研究の目的は, 我が国で頻用されている Zarit 介護負担尺度日本語版 (J-ZBI) の短縮版を作成することである.鹿児島県肝属郡内の6町の在宅要介護高齢者1,713名を対象に, 訪問調査を実施した. この1,713名のうち, 同居家族が主介護者であった735名に対しては, 訪問時に主介護者の性, 年齢, 介護負担 (J-ZBI) に関する調査も行った.短縮版の項目の選定にあたっては, 因子分析 (最尤法, Varimax 回転) を行った. 因子分析の結果, 固有値1以上の因子が4つ抽出された. 固有値の大きさと原版の因子構造を参考に, 第一因子 (Personal strain), 第二因子 (Role strain) から, 因子負荷量の高い項目を, それぞれ5項目, 3項目を選択し, J-ZBI短縮版 (J-ZBI_8) とした. J-ZBI_8の内的整合性を確認するために, Cronbach's αを計算したところ, 0.89であり, 下位尺度 Personal strain, Role strain それぞれの Cronbach's αの値は0.87, 0.82であった. また, J-ZBI_8の併存的妥当性を検討するために, J-ZBI_8とJ-ZBIおよび項目22との相関を検討したところ, それぞれr=0.93, 0.68であった (共に, p<0.001). さらに構成概念妥当性を検討すべく, 介護で困っていると答えた介護者のJ-ZBI_8得点と困っていないと答えた介護者とのJ-ZBI得点を t-test により, 比較したところ前者が9.31点 (SD=7.19), 後者が3.45点 (SD=4.57) であり有意差がみられた(p<0.001).J-ZBIの短縮版, J-ZBI_8の信頼性, 妥当性は原版と同様高いものであり, 充分に実用に耐えうるものと確認された.
著者
武久 洋三 大和 薫 荒尾 徳三 武久 敬洋
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.347-359, 2022-07-25 (Released:2022-09-07)
参考文献数
28

目的:慢性期病院において2010年と2020年の入退院先の変化を調査すること,および年齢,性別,入院時血液生化学検査値について生存期間への予後不良因子を明らかにすること.方法:対象は2010年と2020年の各年に慢性期病院12病院に新規に入院した症例とした.評価項目は年齢,性別,入院元,入院90日後の転帰と退院先,生存期間,入院時の血液生化学検査6項目(ヘモグロビン,アルブミン,総コレステロール,血糖,尿素窒素,ナトリウム).入退院先情報は2010年と2020年の10年間の変化を調査した.生存期間解析は,年齢,性別,6項目の入院時血液生化学検査値を使用して入院後の生存期間を解析した.結果:8,007例の新規入院症例を解析した.入院元の調査では,慢性期病院において2010年から10年間の経過で急性期病院からの入院は増加し,介護系施設からの入院は減少した.同様に入院90日後の転帰では,自宅退院と在宅系施設への退院は増加し,介護系施設への退院と死亡率は低下した.生存期間解析では,多変量解析において高年齢,男性,アルブミン低値,総コレステロール高値,尿素窒素高値,ナトリウム低値が予後不良因子であった.一貫して予後不良因子であった5変数(年齢,性別,アルブミン,尿素窒素,ナトリウム)でスコア化した生存期間解析では,5変数のスコアが生存期間に対して用量依存的に強く相関することが示された.結論:本研究において,慢性期病院の入退院先情報の調査を行った.慢性期病院において入院時の高年齢,男性,尿素窒素高値,ナトリウム低値,アルブミン低値は強力な予後不良因子であることが示され,入院後に水分電解質状態および栄養状態の改善を図ることの重要性が示唆された.
著者
杉森 宏 森 興太 矢坂 正弘 岡田 靖
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.305-311, 2022-07-25 (Released:2022-09-07)
参考文献数
14

高齢者では転倒・転落による死亡者数は不慮の事故の中で最も多い.抗血栓療法は循環器疾患をそしてそれに伴う転倒も予防するが,同時に出血を宿命的に合併する.転倒は患者側の原因と環境原因が重なって起こることを認識してリスクを評価し,転倒リスクに関連する薬剤の処方などを抑制する.また適応があるなら新規経口抗凝固薬などより安全な薬剤を処方し,極端に虚弱な患者には抗血栓療法を控えることも考慮するなど総合的な対応が重要である.
著者
黒尾 誠
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.674-681, 2006-11-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
24

クロトー遺伝子は老化類似の表現型を呈する突然変異マウスの原因遺伝子として同定された. クロトー遺伝子は分子量約130kDの一回膜貫通蛋白をコードし, 主に腎臓の遠位曲尿細管と脳の脈絡叢に発現している. クロトー遺伝子欠損マウスは成長障害, 活動性の低下, 不妊, 胸腺・皮膚・骨格筋の萎縮, 動脈硬化, 肺気腫, 異所性石灰化, 骨粗鬆症など, 全身に多彩な老化類似の病態を発症して早期に死亡する. 逆にクロトー遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウスでは寿命が延長する. すなわち, クロトー遺伝子は老化抑制遺伝子として機能している可能性がある. クロトー過剰発現マウスは軽度のインスリン抵抗性と酸化ストレスに対する耐性を示す. これらは種を超えて保存されてきた長生きのメカニズムであり, クロトーによる寿命延長のメカニズムに関与している可能性が考えられた. 最近, FGF23欠損マウスがクロトー欠損マウスと良く似た多彩な老化類似の表現型を呈することが報告された. このことは, FGF23とクロトーが同じシグナル伝達系を使っている可能性を示唆する. FGF23は線維芽細胞成長因子 (FGF) ファミリーに属するホルモンで, 腎近位尿細管に作用してリンの再吸収を抑制する. 実際, クロトー欠損マウスもFGF23欠損マウスと同様, 高リン血症を呈する. 我々は, クロトー蛋白がFGF受容体と結合してFGF23に対する co-receptor として機能することを明らかにした. さらに, FGF23欠損マウスとクロトー欠損マウスに認められる老化類似の表現型の多くが, 高ビタミンD血症を是正することで改善することも報告された. これらのことは, クロトー蛋白が, インスリンシグナルや酸化ストレスの制御ばかりでなく, FGFシグナルやリン, ビタミンD代謝の調節を介して個体老化を制御するという新しい概念を提示している.
著者
阿部 紀之 井手 一茂 渡邉 良太 辻 大士 斉藤 雅茂 近藤 克則
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.24-35, 2021-01-25 (Released:2021-02-25)
参考文献数
49
被引用文献数
1

目的:社会的フレイルはリスク因子として重要だが,評価法が統一されていない.本研究の目的は専門家の評価による内容的妥当性のある社会的フレイルの要素を明らかにすることである.方法:PubMedで検索し入手した社会的フレイル関連26論文から抽出した要素のうち,7名中5名以上の評価者が4条件(負のアウトカム予知因子,可逆性,加齢変化,客観性)を満たすと評価した要素を抽出し分類した.結果:4条件を満たす要素は経済的状況(①経済的困難),居住形態(②独居),社会的サポート(③生活サポート者の有無,④社会的サポート授受),社会的ネットワーク(⑤誰かと話す機会,⑥友人に会いに行く,⑦家族や近隣者との接触),社会的活動・参加(⑧外出頻度,⑨社会交流,⑩社会活動,⑪社会との接触)の5分類11要素が抽出された.結論:先行研究で用いられている社会的フレイル22要素のうち,内容的妥当性が示唆された要素は11要素であった.
著者
葛谷 雅文 山本 孝之 葛谷 文男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.499-503, 1991-07-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
14
被引用文献数
6 6

鏡に写したごとく, 左右逆転して文字が書かれる鏡像書字は, 脳の器質的障害の後にさまざまな頻度で出現すると言われている. しかしその出現機構, 責任病巣は現在のところ不明である. 今回, 老年者113名に書字検査を施行し, 鏡像書字の出現程度により, 高度, 中等度, 軽度, 正常の4群に分類し, 各群の出現率並びに脳血管障害, 脳障害部位との関係, また知的機能レベルとの関係につき検討した. 右手書字での鏡像書字発現は一例もみられなかった. 左手書字可能例は93名で, 鏡像書字発現程度は, 正常: 34.4%, 軽度: 24.7%, 中等度20.4%, 高度: 20.4%であった. 特に右片麻痺例と, 書字訓練を受けていない失語症例において高率に鏡像書字を認めた. 単純頭部CTで脳血管障害を確認できた症例64名の鏡像書字発現程度は, 正常: 32.8%, 軽度: 20.3%, 中等度: 26.6%, 高度: 20.3%であった. CTで正常と診断された6名においては, 正常: 33.3%, 軽度: 66.6%であり, 中等度および高度はなく, 鏡像書字と脳血管障害との関連性が強く示唆された. 障害部位では両側半球障害, また左半球障害に高い出現率をみとめたが, 右半球障害例にもかなりの頻度で鏡像書字を認めており, 単一の損傷部位または片半球のみにその責任病巣を求めるのは困難であった. 長谷川式知的機能診査スケールは, 正常: 28.5±3.6, 軽度: 25.2±6.9, 中等度: 22.2±6.7, 高度: 23.1±6.1で, 中等度と高度出現例では, 正常例に比較し有意に知的機能レベルの低下を認めた. また長谷川式スケール20点以下の痴呆例では, 94.9%に鏡像書字を認め, 鏡像書字出現と知的機能障害との密接な関係が示唆された.
著者
島田 千穂 高橋 龍太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.221-226, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

高齢者終末期ケアでは,一律に治癒を目標にすることはできず,より安楽にすること,本人や家族の希望に沿うことが求められる.多元的な価値観が必要となり,多職種間で関わる意義を生かすため,ケア目標を共有し,目標に沿って役割を果たすことになる.医師の役割も,医療的なアセスメントと医療提供,家族の意向確認,家族への説明など多岐にわたる.終末期ケアは,地域や施設の多職種連携が試されるケアであるともいえる.
著者
鳥越 俊宏 福原 徹
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.374-382, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
13

目的:脳卒中では,その治療法の進歩により救命できる症例が増加しているが重篤な後遺症が残存することも多い.この際,患者の意識障害のため,治療方針の判断は患者親族に委ねられることがほとんどであるが,出血性脳卒中の場合,血腫摘出術により救命が期待できる場合でも,残存する後遺症のため,外科的治療の選択を躊躇される場合もある.また多くの場合緊急の決定を要するため,親族の心理的負担は非常に大きい.親族への看護ケアにあたり,この判断に影響を与える因子を理解することは重要と考え,以下の研究を行った.方法:当院へ入院した出血性脳卒中患者の親族30名に,アンケート調査により,程度の異なる後遺症が残ると説明された場合を想定して,それぞれの場合での外科的治療の希望を回答して頂き,統計学的に分析した.結果:後遺症の程度が悪化すると,外科的治療の希望が減少したが,親族の判断に独立して影響を与える因子は「自分自身の場合の希望」であった.また同様のアンケートを脳神経系病棟勤務の看護師18名へも行い比較したところ,看護師は認知能が保たれる場合は外科的治療を希望する傾向が強かった.結論:重篤な後遺症を残す可能性のある場合の治療選択は,通常は患者の意思によって決定されるが,脳卒中の場合は意識障害のため,既に患者には治療を選択する判断能力がない場合が多い.この際に本人が事前に意思表示をしておくことが重要であるが,ほとんどの場合親族が決定せざるを得なくなっている.この治療選択を緊急に行って頂く場合も多いが,その状況でも,患者の意思を推察しての判断を促すこと,また,期待できる回復の程度について丁寧な説明を心がけることが必要である.看護師として,親族が後悔のないような判断ができるように最善の配慮をすることが望まれる.
著者
松本 俊一 山田 正信
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.147-157, 2022-04-25 (Released:2022-06-02)
参考文献数
11

甲状腺は甲状腺ホルモン(TH)を分泌し,体内の蛋白,脂質,糖代謝それぞれの分解と合成といった,相反する代謝に作用し生体の恒常性を維持している重要な臓器である.甲状腺疾患には大きく「甲状腺機能異常」と「甲状腺腫瘍」がある.また高齢者ではポリファーマシーとなることも多いため「薬剤性甲状腺障害」も考慮する必要がある.近年,甲状腺疾患領域は新しい治療方針や取り扱い方法なども増え日々進歩している.
著者
新井 武志 大渕 修一 小島 基永 松本 侑子 稲葉 康子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.781-788, 2006-11-25 (Released:2011-02-24)
参考文献数
29
被引用文献数
24 20

目的: 本研究は, 地域在住高齢者の介入前の身体機能レベルと運動介入による身体機能改善効果との関係を明らかにすることを目的とした. 方法: 対象は東京都内の7つの自治体の地域在住高齢者276名 (平均年齢75.3±6.5歳) であった. 個別評価に基づいて高負荷筋力増強トレーニングとバランストレーニング等を組み合わせた包括的な運動トレーニングを3ヵ月間行った. 運動介入の前後に最大歩行速度, Timed Up and Go, 開眼・閉眼片足立ち時間, ファンクショナルリーチ, 筋力, 長座位体前屈などの身体機能測定を行い, 各体力要素の改善効果と初期の身体機能レベルとの関係を検討した. 結果: 対象者の運動介入前の平均最大歩行速度は85.8±30.6m/分と虚弱な対象であったが, トレーニングの脱落率は8.0%と低値であった. トレーニング後, 閉眼片足立ちを除き, すべての身体機能において有意な改善を認めた (P<.01). 最大歩行速度の変化量以外, 身体機能の変化量・変化率は, 初期の身体機能レベルと負の相関を示した(|r|=.20~.59, P<.01). また, 重回帰分析の結果, 各身体機能の変化量を説明する変数として複数の身体機能要素が抽出された. 結論: 虚弱高齢者を含んだ対象への運動介入の結果, 身体機能レベルが低い者ほど, 身体機能改善効果が高いことが示された. 適切な対象を選択することがトレーニングの効果を高める重要な点であることが示唆される. トレーニングの対象をより明確にして介入を加える, いわゆるハイリスクアプローチが有効であると考えることができる.
著者
庹 進梅 樺山 舞 黄 雅 赤木 優也 呉代 華容 清重 映里 畑中 裕美 橋本 澄代 菊池 健 神出 計
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.459-469, 2021-07-25 (Released:2021-09-06)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

目的:“いきいき百歳体操”は住民への介護予防の取り組みの一つとして,全国で広く実施されている体操である.本研究では,身体機能への効果についての検証を行うことを目的とし,合わせて主観的健康感への影響,社会活動との関連についても検討することとした.方法:本研究は,2015年10月~2019年6月の期間に,大阪府能勢町において,介護予防事業として実施されている,いきいき百歳体操に参加した町民を対象とした.初回から半年ごとに体力測定,基本チェックリスト,いきいき百歳体操支援アンケートを実施しており,体力測定については初回と1年後のデータを比較した.体力測定項目は,5 m間最大歩行,Time Up and Go Test,5回立ち上がり時間,握力である.対象者におけるフレイル状態有無は基本チェックリストを用いて判定した.性別,フレイル有無別に体力測定結果を比較した.結果:本研究期間にいきいき百歳体操に一度でも参加し,調査を行えたのは1,028人であった.女性が766人(74.5%)と多く,平均年齢は72.6±8.0歳,506人(49.2%)が前期高齢者であった.データの揃っている464名において,体力測定での測定値の変化について,初回と1年後を比較したところ,4項目すべてで有意な改善を認めた.主観的健康感が良いと回答した者は,初回の29.1%から半年後には45.4%に増えていた.毎月1回以上参加している社会活動については,半年後,1年後に,老人クラブ,ボランティア活動など一部の社会活動への参加割合が増加していた.結論:いきいき百歳体操は地域在住高齢者の身体機能を維持・改善させることが示唆された.加えて,体操参加により,主観的健康感が高まり,社会活動も活発化する可能性があり,特に高齢化の進む地域や自治体において推奨される介護予防事業であると考えられた.
著者
府川 則子 湯村 和子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.352-357, 2018-07-25 (Released:2018-08-18)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

CKDは透析予備軍であり,腎保護効果を期待し,高齢患者においても,0.8 g/kg・標準体重/日を目安にたんぱく質摂取制限が推奨されている.しかし,高齢CKD患者では,食事全体量が少なくなり,摂取エネルギー量が低下,体蛋白異化により低栄養が進行する場合も散見する.高齢CKD患者においては,CKDステージ4~5であっても十分な余命が見込まれる場合においてのみ,現状のBMIを維持すべき十分なエネルギー量を確保した上で,たんぱく質の摂取量を考慮する必要がある.