著者
二木 立
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.54-57, 2012 (Released:2012-03-29)
参考文献数
6

2006年に介護予防(新予防給付)が導入されて以降5年間に発表された厚生労働省・政府の諸資料,国内外の実証研究を用いて,5つの柱立てで費用抑制効果の有無を中心にして,介護予防の効果と問題点を再検証した.第1に,私が2006年に行った介護予防の文献レビューの概要を紹介した.次に,保健医療サービスの経済評価の留意点・常識を5つ述べた.第3に,2006年以降に発表された介護予防の経済効果についての日本語文献を検討した.第4に,さまざまな介護予防のうち,国際的にもっとも活発に行われている転倒予防を中心にして,英語文献レビューの検討を行った.第5に,厚生労働省・政府の介護予防の費用抑制効果試算が5年間で大幅に減額されていることを示した.その結果,介護予防事業が始まってから5年経つにもかかわらず,それの介護費用削減効果は国内的にも,国際的にも,まだ実証されていないことを明らかにした.
著者
小沢 利男 半田 昇 氏井 重幸 岸城 幸雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.513-521, 1979-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1

体重身長指数は身長との相関が少なく, 体重と相関が大であることを要する. この点について四つの指数I1=W/H (比体重, Wは体重, Hは身長), I2=W/H2 (Body Mass Index, BMI) PI=H/3√W (Ponderal Index), BK=W/(H-100)×0.9 (Broca-桂の指数) を検討した. 対象は10歳代から70歳代に及ぶ健常男子6,272名, 女子7,230名, 計13,502名である. その結果男女各年代層を通じてBMIが身長との相関が最も小さく, 体重との相関は比体重についで大であった. 又20歳代を対象として5cm毎に区分した各身長に対する各指数の変化をみると, BMIが最も一定した値を示した. 加齢に伴うBMIの変化をヒストグラムからみると, 男子では30歳代で20歳代より右に偏るが, その後60歳代に至るまでほぼ同じ分布を示した. 女子では20歳代から加齢と共に漸次右方に偏る傾向がみられた. 血圧との関係ではBMIの高いものに高血圧の出現頻度が高く, 特に男子でこの傾向が顕著であった. 男子における喫煙量とBMIとの間には一定の関係がみられなかった.
著者
柴 隆広 沢谷 洋平 広瀬 環 石坂 正大 久保 晃 浦野 友彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.149-154, 2020-04-25 (Released:2020-05-29)
参考文献数
21
被引用文献数
1

目的:通所リハビリテーション利用者のサルコペニアの有病率を明らかにする.また,サルコペニアとなりうる危険因子を明らかにする.対象:当事業所の利用者104名を対象(男性56名,女性48名,平均年齢78.6±7.7歳)とした.方法:サルコペニアの診断はAWGSの診断アルゴリズムを基準に分類した.サルコペニアの危険因子の調査では①脳血管疾患,②高血圧,③呼吸器疾患,④循環器疾患,⑤整形疾患,⑥骨折,⑦がん,⑧難病,⑨糖尿病,⑩過去1年間の転倒歴の10項目を調査した.結果:有病率はサルコペニア51.9%であった.サルコペニアの危険因子として「がん」「転倒歴」の項目に有意差が認められた.結語:要支援・要介護高齢者(特にがん,転倒歴を有する者)はサルコペニアのリスクが非常に高く,早期からの介入が望まれる.
著者
和泉 賢一 村上 一雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.79-84, 2009 (Released:2009-02-25)
参考文献数
15

症例は72歳男性.2型糖尿病と胃癌の診断にて治療中.胃癌は末期の状態であったが,化学療法を受けながら外来で治療されていた.糖尿病は,インスリンにて治療していたが,食事量が低下しており,次第に全身状態が悪化し意識レベルも低下してきたため(JCS I-3),平成18年11月入院となった.入院時血液検査にて,白血球11,070 /μlでありHb 10.2 g/dlと貧血を認めた.BUN 64.1 mg/dl,Cr 2.23 mg/dlと腎不全も認めていた.Na 142 mEq/l,K 4.5 mEq/l,Cl 94 mEq/l,血糖830 mg/dl,血清浸透圧は計算値353 mOsm/l,実測値で360 mOsm/lであった.血液ガスでは,4 L/分の酸素投与下にてpH 7.368,pCO2 58.6 mmHg,pO2 70.5 mmHg,HCO3 33.0 mmol/lであり,炭酸ガスが蓄積していた.anion gapは15 mEq/l,CRP 16.78 mg/dlであった.入院時の血清ケトン体は総ケトン体5,490 μmol/l(正常参考値<131 μmol/l),3ヒドロキシ酪酸3,420 μmol/l(正常参考値<85 μmol/l)と高ケトン血症であった.以上より,高ケトン血症を伴う高浸透圧高血糖症候群と判断した.生理食塩水とインスリン投与,電解質の補正などによる治療により,血糖と浸透圧は低下し意識状態も改善した. 高浸透圧高血糖症候群は総ケトン体0.5∼2 mM程度のケトーシスを伴うことがあるとされている1)が,老年期の5 mMを超える高ケトン血症を伴う本症例のような報告は殆どない.報告は少ないが,実際にはケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群を合併する症例が認められることも多い.また,高齢者糖尿病では自覚症状が乏しいため,高度の代謝状態での悪化でも見過ごされ易い.そして,水·電解質の失調を来し比較的容易に高浸透圧高血糖症候群やケトーシスなどに至る例がある2). そのため,高齢化が進む現在,老年者の病態の多様性が非常に重要であり,このような症例を注意深く検討することが必要と考える.
著者
蟹江 治郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.489-491, 2008 (Released:2008-12-05)
参考文献数
23
被引用文献数
3 1
著者
髙木 美紀 中埜 粛 大塚 寿子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.190-199, 2022-04-25 (Released:2022-06-02)
参考文献数
22

目的:インスリン療法中の患者を特定施設入居者生活介護対象軽費老人ホームで受け入れる際の問題点を明らかにする.方法:特定施設入居者生活介護対象軽費老人ホームで初めてインスリン療法中の糖尿病患者を受け入れる際に職員の糖尿病に対する意識アンケートを行った.患者受け入れ後,回答を参考に職員対象糖尿病教室を開催するなど現場の要望に応じた受け入れ体制の整備を行った.6カ月後にアンケートを実施し受け入れに対する職員の意識を再度確認した.結果:受け入れ前の初回アンケートで看護師は受け入れに消極的,介護士は積極的であった.患者は入居後低血糖や虚血性心疾患を疑わせる多様な訴えを頻発し対応に難渋した.患者の快適な生活を実現するために職員の糖尿病知識教育が必要と考えられたため介護士対象に糖尿病専門医による糖尿病教室を行ったところ,徐々に適切な生活介護が可能となり施設内の医療介護連携体制が整えられた.入居6カ月後に行ったアンケートでは,介護士の根拠なき過度な楽観的意見は減少したが,看護師は受け入れに消極的で介護士が積極的であるという傾向は初回同様に認められた.結論:介護施設のインスリン療法中患者受け入れに対する看護師と介護士の認識の差異が明らかになった.患者が安心して施設生活を送れる支援を実現するためにはこの差異を埋め,患者の安全を確保する必要がある.本症例では糖尿病専門医による介護士対象の医学知識教育がある程度有効であったが,依然として両者の認識の差異は大きかった.対策として,介護施設での糖尿病教育制度を設けること,教育を受けた介護士の血糖測定を可能にすること,各施設で対応可能な治療方針の患者を適正に選定すること,入居後の医師による医療指示を単純化すること,施設内コミュニケーションを促進してよりよい医療介護連携体制を構築することを提案する.
著者
会田 薫子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.71-74, 2012 (Released:2012-03-29)
参考文献数
10
被引用文献数
3 4

高齢化が進んだ我が国では,終末期医療に関する諸問題が深刻さを増しており,特に,認知症が高度に進行した段階での経口摂取困難に対する人工的水分・栄養補給法(AHN:artificial hydration and nutrition)の是非については,我が国の文化的な背景や死生観が色濃く反映していると考えられ,先進諸外国の先行知見に学ぶだけでは適切な対応をとることは困難である.そこで,我が国における対策を検討するため,同課題に関する医師の臨床実践と意識を探る量的調査を行った.2010年10月~11月に,日本老年医学会の医師会員全員(n=4,506)に対して郵送無記名自記式質問紙調査を実施した.有効回答率は34.7%.分析の結果,当該課題に関して深く迷い悩む医師の姿が明らかになった.AHN導入の方針決定の際に,困難を感じなかったという回答者は6%だけであり,AHNを差し控えることにも施行することにも倫理的な問題があると感じている医師や,AHN導入の判断基準が不明確と考える医師が半数近くいることが示された.また,法的な問題への懸念が対応を一層困難にしていることが示された.アルツハイマー型認知症末期の仮想症例について,胃ろうあるいは経鼻チューブによる経管栄養法の導入を選択した医師は3分の1であったが,医療者と患者家族が十分話し合った結果であれば,末梢点滴を行いながら看取ることは可能な選択肢であると考えている医師は全体の約9割に上ることが示された.
著者
鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.177-180, 2005-03-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
6
被引用文献数
13 16
著者
小林 祥泰 山口 修平 山下 一也 小出 博巳 卜蔵 浩和 土谷 治久 飯島 献一 今岡 かおる
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.22-26, 1996-01-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

社会的活動性と脳の老化の関係を明らかにする目的で, 社会的環境の異なる地域在住健常高齢者61名 (老人ホーム在住高齢者21名 (平均77.6歳), 地域在住老人会員40名 (平均76.7歳) を対象に, 老研式活動能力指標, 岡部式簡易知的尺度, Kohs' Block Design Test, Zung's self-rating Depression Scale (SDS), up & go 時間, 局所脳血流, 頭部MRI検査を施行し両群間の比較を行った. 結果: 高血圧などの脳卒中の危険因子については両群間に有意差を認めず, 脳MRI所見でも潜在性脳梗塞, 白質障害, 脳萎縮共に両群間で差を認めなかった. 全脳平均脳血流量も両群間で有意差を認めなかったが, 老研式活動能力指標では老人会群で有意に活動性が高かった. 岡部スコアおよび Kohs' IQは老人会群で有意に高値であった. また, SDSスコアが老人ホーム群で有意に高値であり, うつ状態の傾向にあることが示された. 運動能力に関する指標である up & go 時間は, 老人会群で有意に短かった. 結論: 脳卒中などの脳疾患既往のない健常高齢者において, 脳卒中の危険因子やMRI上の潜在性動脈硬化性脳病変に差がない場合, 社会的環境, ライフスタイルの差が脳の老化に対して大きな影響を与えていることが示唆された.
著者
武井 卓
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.338-344, 2018-07-25 (Released:2018-08-18)
参考文献数
11
被引用文献数
1

加齢により腎の形態は縮小し,機能は低下する.形態変化の原因は動脈硬化性変化,アポトーシスなどによる老性萎縮で,それに伴い機能の低下が生じるが,体液組成や循環動態の変化も影響する.腎機能を正確に把握するためには糸球体濾過量を実測することが必要であるが日常臨床では煩雑なためクレアチニンによる推定糸球体濾過量(eGFR)(mL/min/1.73 m2)を指標としている.しかし高齢者では筋肉量が低下し体格が小さくなり過大評価となるため体表面積補正を行わない値やシスタチンCを用いたeGFRが推奨されている.腎予備力が低下しており,水分や薬剤の影響を受けやすく注意が必要である.水分過多の場合,尿濃縮力の低下から夜尿症を引き起こしやすく,水分摂取不足の場合,容易に脱水を生じ熱中症となる危険性がある.
著者
栗田 明 品川 直介 小谷 英太郎 岩原 真一郎 高瀬 凡平 草間 芳樹 新 博次
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.336-343, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

目的:2年前の本誌に我々の超高齢者の看取りケアについて報告した.時間の経過とともに症例も増加しているので,その後の経緯と常勤医の立場から特養における医師の役割について私見を述べる.対象および方法:平成20年2月1日から平成23年6月下旬までの間に看取りケアを実施した7例(101.5±4歳,女)と当施設に入所中に病院に入院加療を要請した98歳未満の130例(87±6.5歳,男/女:42/88)及び同時期に入院加療を要請した98歳以上の12例(101.8±7歳,男/女:2/10)である.結果:看取りケアを実施した7例中4例は480±297日で死亡した.現在3例に看取りケアを実施中である(805±662日).入院加療を依頼し当施設へ帰所出来た症例は93例(71.5%,86.7±10歳,男/女:27/66)で,死亡退所例は37例(28.5%,86.4±11歳,男/女:15/22)であった.生存退所例は誤嚥性肺炎についで消化器疾患が多かったが,死亡退所例は誤嚥性肺炎についで心不全が多かった(p<0.05).98歳以上で看取りケアにエントリーしない症例は15例で,12例は入院加療が必要になった.死亡退所例は9例(75%)で,98歳未満の入院症例に比べて多かった.103歳の左乳がん例に摘出術を行い成功し3日後に退院出来た.しかし看取りケア開始90日後に死亡した.当施設の入院加療しない入所者の死亡率は15.3%で全国平均の37.2%に比べて低かった(p<0.01).総括:特養で看取りケアをスムースに行うには病診連携と職員の日頃からの医学的な知識の蓄積が重要である.特養に勤務する医師はこれらの諸点に留意しながら職員の研修や指導を行いながら終末期ケアに取り組むことが肝要である.
著者
成瀬 信子 小川 安朗 藤田 拓男 折茂 肇 大畑 雅洋 岡野 一年 吉川 政己
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.5, no.6, pp.487-490, 1968-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10

2才から91才にいたる81人の健康男子の毛髪を5才ごとに区切り, 各群5人を選び, 1人5本の試料について, 洗浄後, 蒸留水で十分湿潤し, テンシロンIII型万能引張り試験器で切断荷重, 切断伸長率, 切断仕事量および立ち上りのヤング率を測定した. 毛髪の直径は60~140μの間に分布し, 15才前後をピークとして, 以後加齢とともに漸減の傾向を示し, 二次曲線, または, 15才ごろまでは上昇以後下降する2本の直線の合成として表現される. 年齢と切断荷重, 年齢と切断仕事量の推移もほぼ同様である. これに反し, ヤング率は, 20才ごろまでは減少し, 以後加齢とともに徐々に上昇する二次曲線への回帰が統計的に有意である. 加齢の指標の一つとして, 毛髪の物理的性状の研究は有用である.
著者
長永 真明 大西 丈二 梅垣 宏行 葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.321-326, 2020-07-25 (Released:2020-09-04)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

IgG4関連疾患は高齢男性に多く,自己免疫異常や血中IgG4高値に加え,全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変などを認める原因不明の疾患である.IgG4関連疾患ではしばしばリンパ節腫大を伴うが,臨床的に悪性リンパ腫との鑑別が求められる.今回我々はIgG4関連疾患に悪性リンパ腫を合併した超高齢者の症例を経験したので報告する.症例は85歳男性.X-6年に自己免疫性膵炎を指摘されていた.X-1年10月にIgG4関連下垂体炎と診断され,続発性副腎不全に対する補充療法としてヒドロコルチゾンが開始となった.X年2月に中枢性尿崩症を併発したためデスモプレシンが追加となった.X年11月発熱に加え,弾性硬で可動性のある圧痛のない全身性リンパ節腫脹を認めたため入院となった.入院後右腋窩リンパ節生検を施行し,病理所見よりびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断した.年齢やPerformance Statusなどを考慮した結果,積極的治療は行わず,症状緩和目的でのステロイド投与の方針となり,入院55日目転院となった.悪性リンパ腫とIgG4関連リンパ節症との鑑別は臨床経過,病理所見,血中IgG4値などの検査データ,他臓器病変の有無などを元に総合的に判断する必要がある.今までのIgG4関連疾患に悪性リンパ腫を合併した症例は概ね60~70歳台であり,本症例の85歳での報告は最高齢である.しかしIgG4関連疾患,悪性リンパ腫共に高齢者に多い疾患であり,一般内科医や老年内科医として知識を深めておく必要があると考えられる.
著者
野原 幹司
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-10, 2023-01-25 (Released:2023-03-08)
参考文献数
17
被引用文献数
1

これまでの摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)は,主に脳卒中回復期を対象に機能回復を目指した嚥下訓練が行われてきた.しかし,認知症は進行性疾患であるため機能回復を目指すのは難しく,指示が通らないため訓練の適応も困難である.したがって,認知症高齢者の嚥下リハは,今ある機能を生かした食支援の考え方が重要となる.認知症高齢者の食支援を行っていくにあたりポイントとなるのは認知症を一括りにせず,原因疾患に基づいたケアを心がけることである.アルツハイマー型認知症は食行動の障害が主であり,食べない,食事を途中でやめてしまう,といった症状がみられる.肺炎の原因となるような誤嚥がみられるようになるのは重度に進行してからである.レビー小体型認知症は,他の認知症と比べて比較的早期から身体機能の障害がみられ,誤嚥も早期からみられる.誤嚥したものを喀出する力も弱く誤嚥性肺炎のリスクが高い認知症である.抗精神病薬による薬剤性嚥下障害が多いのも大きな特徴である.血管性認知症は多彩な症状を示すが,最も多いとされる皮質下血管性認知症においては,大脳基底核が障害されるため錐体外路症状を呈し,レビー小体型認知症と似た嚥下障害を示す.麻痺などの身体症状が軽度であっても誤嚥がみられるため臨床経過に注意を要する.前頭側頭型認知症は前頭葉症状のため,嗜好の変化,過食といった症状が目立つが,その症状改善のために介入を試みてもうまくいかないことが多い.窒息や重度誤嚥がないのであれば介入せずに症状を受け入れた方がよい.認知症の原因疾患に基づいた食支援を提供するには,医師による認知症の原因疾患の診断が重要である.加えて,医師が他職種や患者家族に原因疾患ごとの特徴や食支援のポイントを説明できるようになるとケアの質は格段に上がる.認知症高齢者の嚥下障害臨床において医師の果たす役割は大きい.
著者
馬渕 宏
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.188-192, 1993-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
2
著者
蔵本 築 桑子 賢司 松下 哲 三船 順一郎 坂井 誠 岩崎 勤 賀来 俊 峰 雅宣 村上 元孝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.267-273, 1978-05-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
16
被引用文献数
5

脳出血, 脳梗塞に伴う心電図変化の成因を検討する目的で, 発作前1カ月内及び発作後の心電図, 臨床検査成績が得られ, 剖検上確認された老年者脳出血18例, 脳梗塞29例について, 発作前後の心電図, 臨床検査成績, 血圧の変化, 剖検による冠狭窄度, 脳病変の部位, 大きさ等を対比検討した.発作前後の心電図変化は脳出血88.9%, 脳梗塞89.7%に認められST, T変化がそれぞれ61.1%, 69.0%と高頻度に見られ, 高度な虚血性変化は脳梗塞で多く見られた. 不整脈は脳出血55.6%, 脳梗塞41.4%に見られ, 発作時の心房細動出現は脳梗塞にのみ10.3%に見られた. 期外収縮は脳出血に多く上室性22.1%, 心室性11.1%, 脳梗塞ではそれぞれ10.3%, 3.4%であった.脳卒中発作前後のヘマトクリット上昇は脳梗塞で大きい傾向があり, 虚血性ST, T変化を示した群では脳出血2.44±0.57, 脳梗塞6.04±1.74の上昇を示し, 著明なヘマトクリットの上昇による冠微小循環の障害が虚血性ST, T変化を斉すことを示唆した.脳卒中発作時の収縮期血圧上昇は脳出血では52.5±8.9mmHgで心電図変化の程度に拘らず200mmHg以上の高値を示したが脳梗塞では8.7±10.4とその変動は僅かで血圧上昇が心電図変化の原因とはいえなかった.冠動脈狭窄の程度は脳出血, 脳梗塞共各心電図変化群の間に狭窄指数の差が見られず, 虚血性心電図変化が太い冠動脈の狭窄によるものではないことを示した. 一方心筋梗塞の合併は脳出血5.6%に比し脳梗塞で50.0%と有意に高頻度であった.脳病変の部位, 大きさでは外側型脳出血に虚血性ST, T変化の多い傾向が見られたが, 脳梗塞では中大脳動脈領域の梗塞に於ても心電図変化に一定の傾向はなく, 部位による特徴は認められなかった. また両群共病巣の大きさと心電図変化には一定の傾向は見られなかった.脳出血, 脳梗塞の虚血性心電図変化は病巣の部位, 大きさ, 冠硬化, 血圧上昇等とは関連が認められず, ヘマトクリット上昇による冠微小循環の障害がその一因と考えられた.
著者
鈴川 芽久美 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 渡辺 修一郎 鈴木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.334-340, 2009 (Released:2009-08-28)
参考文献数
28
被引用文献数
20 16

目的:要介護認定を受けた高齢者を対象として転倒と骨折の発生状況を調査し性·年齢·要介護認定状況(以下,介護度)による影響を検討する.方法:対象は通所介護施設を利用する65歳以上の高齢者8,335名(平均年齢82.2±7.4歳)であった.施設の担当職員が,介護度,過去1年間における転倒の有無,転倒による骨折の有無,骨折部位などの項目について聞き取り調査を実施した.なお認知機能障害により,回答の信頼性が低いと調査者が判断した場合には,家族から転倒や骨折状況を聴取した.また施設利用中の転倒については,その状況を自由記載にて担当職員が回答した.分析は転倒と骨折の発生頻度を性,年齢(前期/後期),介護度(軽度要介護群;要支援1∼要介護2/重度要介護群;要介護3∼5)別に算出し,χ2乗検定にて群間比較した.施設利用中の転倒については,場所,状況,動作,直接原因を集計し軽度と重度要介護群の群間差をχ2乗検定にて比較した.結果:過去1年間の転倒率は,女性(24.6%)よりも男性(26.8%)が有意に高かった.軽·重度要介護群における転倒率の比較では,女性においてのみ重度(26.4%)と比べて軽度(23.4%)要介護群の転倒率が有意に低かった.一方で転倒者のうち骨折した者の割合は,男性(4.5%)よりも女性(12.2%)の方が有意に高かった.骨折の有無を従属変数とし,性,年齢,介護度を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析では,男性に比べると女性の方が2.5倍骨折する危険性が高かった.また施設利用中の転倒については重度要介護群ではトイレ時,軽度要介護群では体操·レクリェーション時,立位時の転倒が有意に多かった.結論:転倒率は女性の方が低く,それは軽度要介護群の転倒率の低さが影響していることが示唆された.一方骨折においては年齢や介護度の影響よりも,性別(女性)の影響が大きいことが示唆された.
著者
斉藤 竜平 赤尾 浩慶 かせ野 健一 野村 祐介 北山 道彦 津川 博一 梶波 康二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.541-544, 2009 (Released:2010-02-08)
参考文献数
9
被引用文献数
3 3

症例は80歳女性.慢性心房細動にて,2003年5月よりワルファリン投与開始.2.0 mg/日でPT-INR:1.6∼2.2で安定していた.最終のPT-INRは2008年5月26日の1.58であった.同年5月末より全身倦怠感,食欲低下を認めたが,近医にて明らかな異常を認めず自宅療養にて経過観察していたところ,血尿を認めたため,6月4日当科外来を受診.PT-INR 12.88と著明な延長を認め,ワルファリン内服を中止のうえ,入院となった.入院時貧血と尿路感染症(E. coli)および低アルブミン血症(Alb:2.2 g/dl)以外には異常は認めなかった.PT-INRの正常化により血尿は消失し,抗生剤治療で尿路感染症の改善を認めた.その後,全身倦怠感の消失とともに食事摂取量は増加し,低アルブミン血症も改善した.最終的に従来と同様の2.0 mg/日内服にて,PT-INR 1.8程度で安定した.本症例は内服コンプライアンスに問題はなく,経過中にワルファリン作用を増強させる薬物の併用,肝·腎障害,悪性腫瘍,甲状腺機能異常は認めなかった.尿路感染症による急性炎症反応と食欲低下によって引き起こされた低アルブミン血症が遊離ワルファリン濃度を上昇させたことが高度のPT-INR延長に関与したと考えられた.一般に,高齢者は体内薬物動態(吸収,分布,肝臓での代謝,VitK依存性凝固因子合成能,腎排泄)の低下に加え,感染や脱水等急激な体内環境変化への反応性が減衰しており,ワルファリン投与に際して注意深いモニタリングが必要であることが示唆された.
著者
渡辺 美鈴 渡辺 丈眞 松浦 尊麿 河村 圭子 河野 公一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.99-105, 2005-01-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
18
被引用文献数
20 17

自立生活の在宅高齢者において, 外出頻度から判定した閉じこもりが要介護に移行するか, また低水準の社会交流がより強く要介護状態の発生を増幅するのかを明らかにするために, 閉じこもりおよびその状態像から要介護の発生状況を検討した.平成12年10月に兵庫県五色町の65歳以上の自立生活の在宅高齢者を対象 (2,046人) に閉じこもりに関する質問紙調査を行った. その後平成15年3月末日まで追跡し (追跡期間: 30カ月), 要介護移行について調査した. 閉じこもりの判定には外出頻度を用い, 1週間に1回程度以下の外出しかしない者を「閉じこもり」とし, 外出介助と社会交流を組み合わせた閉じこもり状態像をIからIVに分類した.「閉じこもりI」は一人で外出困難かつ社会交流はある,「閉じこもりII」は一人で外出困難かつ社会交流はない,「閉じこもりIII」は一人で外出可能かつ社会交流はある,「閉じこもりIV」は一人で外出可能かつ社会交流はないとした.本地域において, 自立生活の在宅高齢者の閉じこもり率は7.5%, 30カ月追跡後の要介護移行率は12.7%であった. 閉じこもりの約半数は閉じこもりIIIであった. 閉じこもり群は非閉じこもり群に比べて有意に高い要介護移行率を示した. 年齢別にみた見た場合, 85歳未満の高齢者においては, 閉じこもり群からの要介護移行率は非閉じこもり群に比べて有意に高率であったが, 85歳以上では, 両者の間に有意差を認めなかった. 閉じこもりの状態像別では非閉じこもり群と比較してどの群も高い要介護移行率を示した. 社会交流のない群はある群と比べて (IIとI, IVとIII), 要介護移行率が高い傾向を示した.以上の結果から85歳未満の自立生活の在宅高齢者においては, 閉じこもりが要介護移行のリスク因子になる. 要介護のリスクファクターとしての閉じこもりの判定には外出頻度・「週に1回程度以下」を使用するのが有用である. さらに閉じこもり状態像において, 社会交流のないことは要介護移行により強く関連することが認められた.
著者
髙瀬 義昌 奥山 かおり 野澤 宗央 水上 勝義
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.675-678, 2018-10-25 (Released:2018-12-11)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

地域包括支援センターからの連絡で訪問診療を開始し治療に結びついた超高齢発症の遅発パラフレニーの症例を経験した.症例は94歳,女性.被害妄想や幻聴を呈した.近隣と騒音を巡ったトラブルや食思不振などがあり治療が必要だったが,外来受診の拒否が強く自力での通院が困難であったため,訪問診療が開始された.オランザピン2.5 mg/日を使用し改善を認めた.在宅医療では限られた資源と診療時間の中で,より精緻な鑑別診断と治療のアプローチが必要となる.高齢者に幻覚・妄想などの精神症状が出現することは臨床的にはよく知られているが,在宅医療現場では患者・家族やそれに関わる多職種にはよく知られておらず,見過ごされたまま対応に苦慮しているケースも少なくないと考えられる.今後更なる高齢化に伴い,在宅医療でも高齢者の精神疾患に対応しなければならない状況が増加すると推測される.超高齢社会の日本において,地域で高齢発症の遅発パラフレニーをいかに理解し継続支援していくのか,在宅医療・介護の推進にあたっての喫緊の検討課題であると考える.